[経団連] [意見書] [ 目次 ]

今後のメディア制度の課題(中間報告)

2001年9月13日
(社)経済団体連合会
  情報通信委員会
   通信・放送政策部会

(はじめに)

インターネットの爆発的な発展や放送のデジタル化、ITに係る技術革新等を背景に、従来の通信・放送といった枠にとらわれない電子メディアが出現しており、国民生活の向上、経済の活性化、新産業・新事業の創出、雇用機会の拡大等をもたらすと期待されている。しかし、新しいメディアが経済社会に定着し健全な成長を遂げていくためには、利用者満足度の高いメディアの自律的発展に向けてメディア事業の制約要因の除去など環境整備を行う必要がある。
そこで、経団連情報通信委員会通信・放送政策部会では、昨年7月、情報通信ワーキング・グループの下に、メディア政策研究会を設置し、インターネット、放送などの電子メディアについて、環境変化をふまえた今後の制度的枠組みのあり方を中心に検討を行ってきた。以下は、これまでの議論の結果を中間的に整理したものである。

I.メディアをめぐる環境変化

  1. デジタル化・ブロードバンド化の進展
  2. 通信ネットワークについては、かねてよりデジタル技術の高度利用が進展しているが、ここにきてADSL、ケーブル・インターネット等が普及しつつあり、また、FTTHの整備が推進されるなど、通信アクセス網のブロードバンド化が進展している。その結果、通信ネットワークを通じて、テレビ番組、映画、ゲーム、アニメーション、書籍をはじめ大容量の情報を円滑に伝送することが可能となりつつある。
    一方、放送分野においては、従来より広帯域情報伝送が行われてきたが、CSデジタル放送に加えて、昨年12月にBSデジタル放送が開始され、さらにケーブルテレビ、地上波放送もデジタル化に向けて対応が進みつつある。この結果、チャンネル数の増加とともに、データ放送による特定者への情報伝送、双方向的な情報伝送など通信的利用が可能となっている。さらに、東経110度CSデジタル放送を皮切りに、デジタル放送においては、新たにサーバ型放送も検討されている。また、デジタル放送とインターネット・プロトコルとの整合を図る動きも見られる。
    技術革新が従来の情報伝送上の制約を取り除く結果、双方向サービス、特定者を対象とした高付加価値サービス、パーソナルサービス、電子商取引への活用など、様々な新サービス、新事業の創出が模索されている。しかしながら、急速な変化の中で、どのような技術、メディアが市場に受け容れられ、どのような市場ニーズが顕在化するのか、など、先行き不透明な面もあるのが実情であり、変化への対応能力の強化や事業性の確保等が課題となっている。

  3. コンテンツの重要性の高まり
  4. 国民の価値観の多様化や生活様式等の多元化・個性化に伴い、多種多様なコンテンツが求められている。例えば、利用者は、報道、教養、学術、文化、芸術、スポーツ、娯楽など様々なコンテンツについて、総合性、専門性、迅速性、信頼性、付加価値などを含め、必要な時に必要なコンテンツを必要なだけ自ら選択して入手できることを求めている。一方、供給サイドについても、デジタル技術やネットワーク・端末に係る技術等の発展に伴って、通信、放送を問わず、コンテンツの多角的利用が可能となっている。また、完成コンテンツをそのまま利用するだけでなく、素材として見直し、伝送されるメディアや受信される端末の特性に合わせて加工する動きも見られる。今後は、国内のみならず、国際的利用を想定したコンテンツ作りやコンテンツ事業の海外展開も期待される。一方、暗号技術の発展により、特定の利用者だけがコンテンツを見られるようにすることが容易にできるようになっている。
    こうした中で、メディア事業の成否は、優れたコンテンツを利用者のニーズに合った形で提供できるかどうかにかかっているが、新しいメディアを中心に、質量両面でコンテンツの不足が問題視されるようになっている。一方、コンテンツのデジタル化に伴い、劣化のない複製、他への伝送が容易になり、不正コピーの懸念が高まりつつある。また、コンテンツの青少年への影響を懸念する声も強まっている。民間における自主的な取り組みが従来以上に求められている。

  5. 端末機器の進化
  6. 技術革新を背景に、端末機器の進化、多様化が進みつつある。テレビ放送の受信・録画ができるパソコン、テレビでインターネットに接続できるセット・トップ・ボックス、放送の受信が可能なモバイル端末の開発など、一つの端末で通信サービスと放送サービスの双方を利用できる端末の融合が進展している。また、冷蔵庫や電子レンジなどの白物家電等家電製品をネットワーク化する情報家電ネットワークへの取り組みも強化されている。ITS(Intelligent Transport System)との融合も注目されている。今後は、有線・無線、固定・移動体を問わず、機器同士がネットワークを介して接続され、利用者が、いつでも、どこでもネットワークを活用できる、ユビキタス・ネットワーク化が進んでいくものと予想されている。それに伴い、利用者は、通信、放送の枠を超えて多種多様なサービスを享受・活用することが可能となる。さらに、家庭において多数のコンテンツを自動蓄積できるホームサーバーを利用し、視聴するコンテンツを自ら編集・選択できるようになり、放送の概念に当てはまらない情報伝送形態が普及することも予想されている。
    簡単な操作で高齢者・障害者を含めて誰でも気軽に利用できる端末機器の開発も求められている。モバイル、情報家電を含め、端末分野は、わが国の国際競争力の強化の中心として大いに期待できるが、技術基準適合証明・認証の取得義務など、主要諸国には例のない公的負担の存在が懸念材料として指摘されている。

  7. プラットフォーム機能への期待
  8. プラットフォーム事業は、ユーザーとコンテンツ、サービスとの橋渡しを行っている。例えば、CSデジタル放送の世界では、番組の制作・編集を行う委託放送事業者のために、プラットフォーム事業者が広告宣伝、加入者管理、利用料金回収、経営戦略の策定支援等を行い、CSデジタル放送発展の原動力となってきた。今後、デジタル放送の本格化、ブロードバンド・ネットワークの一般家庭への普及、モバイル・インターネットの発展などを背景に、他の媒体でもプラットフォームの機能がより一層高まっていくと予想されている。現に、ネットワーク事業者やコンテンツ提供事業者等がプラットフォーム分野に参入する動きも強まっている。とくに、プラットフォーム事業分野において、ユーザーニーズに合ったコンテンツの品揃え、情報検索代行、各種代行サービス(課金、顧客管理、営業等)、コミュニケーションの場の提供、取引の場の提供(オークション等)などの機能を果たすことが期待されている。

II.環境変化への対応の方向性

  1. 電子メディアに関する制度変更のニーズ
  2. 情報技術(圧縮技術、スクランブル技術も含む)、伝送技術、情報家電技術などの技術革新や、インターネットの普及、アクセス回線の高速化と多様化、放送のデジタル化等を背景に、多種多様な利用者へのデジタル情報伝送サービスを行うことができる広帯域な伝送路のバリエーションが増大しつつある。この結果、

    1. 通信と放送による伝送路の共用
    2. 通信系サービスと放送系サービスの複合的、あるいは一体的な提供
    3. メディア間でのコンテンツの多角的利用
    4. 伝送路やサービス内容に応じた多様な端末でのサービスの利用
    5. ホームサーバーによる通信・放送の概念が当てはまらない情報伝送システムの実現
    が可能となり、通信あるいは放送という従来の業態を超えた事業体が、利用者に対し優れたサービスを提供し、放送・通信を包含したコンテンツやサービスの市場、雇用機会が拡大する可能性がある。
    そこで、事業者は、利用者の多様なニーズへの対応や、経営資源の有効活用、各種事業の相乗効果発揮などの観点から、旧来の通信と放送との垣根、あるいはネットワーク、プラットフォーム、コンテンツ、端末といった個別事業を越えた事業展開に積極的に取り組みつつある。各種メディアのシナジー効果を狙う総合メディア産業を指向する動きがみられ、また、収入構造も広告、視聴料、取引手数料、会費型収入などをサービスに応じて自由に組み合わせる動きが表面化している。広告に限定されず、企業の販売促進費、交際費に代替することを目指した事業を推進する取り組みも考えられている。
    この中で、従来の細分化したメディア毎の制度を維持し、運用していくなら、ビジネス・モデルの変化、多様化の動きが阻害され、新たな事業の発展が不可能になるおそれがある。例えば、放送に係るコンテンツ規制や周波数利用上の規制に伴う人的、時間的なコストは、機動性、迅速性が競われるネットビジネスにおいては事業展開の制約となるとともに、利用者の選択肢を狭めることになりかねない。これまでも、受信者が特定できる有料のスクランブル放送に関して、放送に準じた規制が行なわれてきたが、今後、通信や放送の枠にとらわれない新サービスに対して放送的な規制が課されると、新しいビジネスを創造する芽が摘み取られるおそれがある。また、経団連の2001年1月のアンケートによると、主要会員企業から、通信・放送の融合に係る制度的問題点として、表1のような指摘が寄せられている。
    欧米主要国では、日本と同様、放送と電気通信とを区別して規律してきた。しかし、最近、欧州においては、ソフトとハードとを分離し、ハードは電気通信として規律される方向に向かっている。一方、米国では、スクランブル化された有料情報伝送は通信とされている。インターネット放送については、米国では通信と位置付けられ、英国、フランスにおいては放送に分類されているものの、コンテンツへの規制は差し控えられている。
    わが国においても、技術の変化に対応して不断に制度を見直し、環境変化に対応できる仕組みとすべきである。その際、新たなメディアが登場するごとに個別に対応していく場合には、一般利用者がサービス毎に端末機器を揃えなければならないなどの結果を招き、新サービスの普及を妨げる恐れがある。したがって、電波監理を含む従来の電子メディア制度等を点検しつつ、メディアの事業のグランドデザインをふまえて、メディアへの行政関与の問題、電子メディアに関する制度的フレームワークを総合的に検討する必要がある。

    1. 通信・放送区分ガイドライン関連

      • 1997年12月策定の「通信衛星を利用した通信・放送の中間領域的な新たなサービスに係る通信と放送の区分に関するガイドライン」の類型で掲示されたもの以外の案件について、通信か放送かが、「整理」という名の下に、サービス提供の都度、事前に個別に行政の裁量で判断されている。
      • 解釈が不明瞭である。解釈論議に時間を要すれば、新たなビジネスモデルの検証が困難となり、新しいビジネス発展の芽が摘まれてしまう。放送扱いをしない類型について、ネガティブリスト化を図るべきである。
      • 紐帯関係等が「客観的にも認められるのか」という判断基準が曖昧。
      • 通信として位置付けられる伝送事項の範囲が狭すぎる。
      • 「今後新たな状況が生じた場合には、これを見直し、類型の追加などを行なう」としながら、具体的にどのように追加等が行なわれるのかが規定されていないし、追加も行われていない。そのため、通信か放送か、不明確のままになっているサービスが存在する(インターネットのマルチキャスト伝送(プル型)、政党本部から党員への情報の配信、宗教法人の本部から信者への情報の配信、クレジットカード会社からカード会員のみへの情報の配信、百貨店本部からカード会員のみへの情報の配信、レンタルビデオショップ本部からレンタルビデオ会員のみへの情報の配信など)。
      • 複数の資格者への情報配信が通信となるのか明確でない。例えば、複数種類の医療・介護・福祉関係の資格者向けに医療・介護の現場、技術、ノウハウ等に関する情報を配信する場合、患者等のプライバシー保護などを考えて通信サービスと位置付けることを明確にすべきである。
      • 特定資格者への情報提供に関して、映像情報の制作にあたっては非常にコストがかかるが、それを受信者の情報料抑制のために、どこまでスポンサードに係る広告を付加して流していいのか、明確でない。通信となる広告の範囲の制約を極力なくすべきである。
      • コンテンツの内容により現行の放送法における放送番組としても扱うことができず、かつ、送信者・受信者の紐帯関係の面から通信としても認められないケース、すなわち、通信・放送のどちらにも分類されず、コンテンツ配信を希望する者がネットワーク、プラットフォーム事業者のサービスを利用できない状況は排除されなければならない。

    2. 電波を用いた特定者配信サービス関連

      • 電波で特定会員限定の情報配信サービスを提供する場合、放送と判断されると、放送波の免許取得あるいは番組審議機関の設置義務等が課せられ、事業展開の足かせとなる。

    3. 放送波の利用関連

      • 特定企業の職員や特定資格者向けの情報配信は「通信」とされるが、通信となると、放送普及基本計画、放送用周波数使用計画等の状況によっては、放送波では行えない。加入者向けの有料衛星放送との差は微妙であり、通信・放送のどちらか自由でやれるようにすべき。
      • 委託放送事業者が現在使用している人工衛星、周波数及び伝送容量を引き続き電気通信役務利用放送事業者として放送に利用できるかが制度上明確になっていない。
      • 有料放送は加入申し込みを拒否できないとされていることから、特定の者に限定した情報配信はできない、と言われたことがある。
      • 放送事業者がデータ放送において、放送波でコンテンツ(例えば音楽)を受信端末に送り込み、受信者が、端末側の蓄積装置にメモリーされたコンテンツの一覧メニューを見て、欲しいコンテンツについてインターネット等を通じてカスタマーセンターから暗号鍵を入手し、該当コンテンツの暗号を解いてコンテンツを入手する、というビジネスモデルがむずかしい。

    4. VODの扱い関連

      • Video on Demand(VOD)は双方向サービスであることから、「放送」とは分類されない。一方で複数チャンネルをタイムシフトにより送信していくニアVODについては、1つ1つのチャンネルは「放送」であると区別され、不合理な面もある。

    5. 委託放送業務における放送事項関連

      • 委託放送業務の認定の際に指定された放送事項(番組ジャンル)を変更する際には、詳細な事業計画ならびに事業収支見積書を提出し、総務大臣の許可を得なければならない。
      • 手続が煩雑で時間がかかることから、放送事業の機動的展開の足かせとなっている。

    6. 通信サービス・放送サービスの総合提供

      • ケーブル・インターネットと有線放送をサービスする場合、同じ施設、設備を使用するにもかかわらず、電気通信事業法、有線テレビジョン放送法との2つの法律が適用され、許可手続き、会計報告の様式などが異なる。
      • ケーブルテレビにおいて、通信サービスと放送サービスの両方を提供している場合、地域によっては、両方利用している顧客への割引サービスが認められないケースがある。
      • 放送サービスを利用している顧客に対して、通信サービスも契約すると通信サービス料金を割り引くことができない。

  3. 今後のメディア制度に関する3原則
  4. 今後のメディア制度を考えるに当たっては、国民に密着した公共放送や基幹放送の位置付けを明確にしつつ、従来の通信と放送の領域にとらわれないサービスを促進し、且つ技術の進化に柔軟に対応ができる可能性を持つ仕組みや制度変更を行っていくことが必要である。即ち、いたずらに通信と放送の既存の業態を守るのではなく、技術の進化をふまえ、全体として「WIN-WIN」の関係を構築する視点が重要であり、以下の3つの原則に則って、メディアに関するグランド・デザインの下に、通信と放送とを総合的にとらえた法制度の体系を整備していくべきである。

    (1) 利用者満足度の尊重
    メディアに関する制度の再構築に当たっては、何よりも利用者利益の最大化が基本となるべきである。文化的発展への寄与や災害情報の提供などに向けて、国民があまねく利用できるメディアを確保するとともに、様々な新規ビジネスの発展を通じて多様な利用者のニーズを満たすことが不可欠である。利用者の価値観が多元化する中で、利用者利益を最大化するには、コンテンツ、サービスに関する多様な選択肢が保証されるとともに、その提供にふさわしい伝送路を確保することが重要である。これは、メディアの多様化、メディア間競争の激化等の変化に対応して事業者が生き残り成長していくためには、利用者から選択されなければならないことを意味する。したがって、事業者が技術や市場ニーズ等の動向に機動的に対応して、自由に創意工夫を凝らしたサービスを提供できる制度を構築することが不可欠である。

    (2) 新しい競争への対応
    従来の競争は、言わば市場シェアの取り合いの競争(within the market)に重点が置かれていた。しかし、今後は新しい市場を追求する競争、新市場を創出する競争(competition for new markets)の時代である。また、個別サービスよりは、コンテンツの品揃え、サービスの複合化・総合化を裏付けるシステムの競争(competition among systems)が重要となる。コンテンツの制作・提供だけでなく最終的な顧客管理までを統一的に運営できるようにするための垂直統合や事業提携をどう行うか、相互補完関係をどう作っていくかが事業成否の鍵を握っている。このため、新しい時代に合わせた制度の構築、政策運営に際しても、コンテンツ、プラットフォーム、インフラ等の自由な組み合わせ等が可能となるようにすることが重要である。事業者が技術変化、市場ニーズを睨みながら、事業構造、サービス内容、推進体制、他事業者との提携などのフォーメーションを、自己責任原則に基づいて、迅速かつ柔軟に変更できる制度が必要である。

    (3) メディア産業の活性化
    新市場を創造する新しい競争を促進するためには、メディア産業全体の活性化、経営基盤の強化に資する基盤整備の視点が重要である。民間活力が十分発揮されるよう、市場において自由かつ公正な競争が実現する環境を整える必要がある。特に、IT革命の中で不確実な市場ニーズを予測しリスクを冒して新規参入する事業者にとって、極力自由かつ機動的にビジネスをできる仕組みとすることが求められる。基本的情報を総合的に発信し国民生活に密着しているメディアを除き、一般の電子メディアについては、基本的には、従来の放送に課せられているコンテンツ規制を適用しないことが望まれる。また、政府による規制によって、無線を利用したサービス市場の拡大が阻害されないようにする必要がある。

III.メディアに関する基本的枠組みについて

  1. 情報伝送設備、コンテンツの自由な組み合わせの実現
  2. 国民における価値観とメディアへの期待は多様化、個性化してきている。その中で、国民生活にとって有意義な情報・コンテンツがメディアから提供されるためには、多くのメディアや多種多様の事業者が、公正な競争条件の下で、創意工夫を十分に発揮し、自由に情報伝送手段、コンテンツを組み合わせてサービス提供するとともにプラットフォームの構築、利用ができるようにする必要がある。
    そのため、自由で公正な競争という理念のもとで、情報伝送自体については通信・放送を共通の制度的枠組みとするとともに、基本情報を総合的に提供して大多数の国民の生活に密着している電子メディアに限って必要最小限のコンテンツ規律を求める、という考え方を基本にして、通信・放送に関する制度的枠組みを再構築することが望ましい。先般、通信・放送の融合の進展をふまえて現行CSデジタル放送、ケーブルテレビを対象にハード・ソフトの分離を図るべく、電気通信役務利用放送法が成立したことは一歩前進と評価できる。今後、こうした柔軟な考え方が他の放送分野に適用されることが期待される。
    また、新メディア発展のために各種の経営資源、ノウハウを結集させる観点から、周波数の割当という制約はあるものの、事業者の参入や事業内容等は原則自由とすべきである。公正競争条件を整備することにより、他分野での有力な経営資源等を有する事業者を含めて多種多様な事業者が自由な活動ができるようにすることが求められる。放送事業者に関するマスメディア集中排除原則については原則緩和し、メディア事業のノウハウや番組供給能力の高い事業者を活用する必要がある。その際、楽しみのための娯楽コンテンツと、中立公正さが要求される報道及び学術・文化・教養を目的としたコンテンツとは異なる扱いをすることも検討に値する。受信料制度で成立するNHKについては、その地位がメディア関連事業分野において濫用され、弊害が生ずることがないようにする必要がある。
    さらに、放送法上の放送普及基本計画は、放送の計画的な普及および健全な発達を図るため、総務大臣が定めることになっているが、通信・放送の融合やメディアの多様化が急速に進展し、政府があらゆる放送サービスの計画的普及や発達を図る段階は既に終焉している。新しい時代における放送普及基本計画のあり方について、技術革新や市場ニーズに合わせて通信・放送の枠を超えたサービスを機動的・弾力的に展開できるようにする観点から、抜本的に見直す必要がある。
    また、現在、通信・放送両方の事業を行う事業者は、通信法規、放送法規毎別々に会計報告書を作成して、提出しなければならず、事業者の負担となっているため、一本化できるようにすべきである。通信・放送サービスの複合割引は可能であるのに対し、放送サービス利用者が通信サービスにも加入する場合に通信サービス料金を割り引くことは認められていないが、事業者の自己責任に基づく経営努力を尊重する観点からの配慮が望まれる。

  3. コンテンツに関する民間の自律性の尊重
  4. コンテンツに関して重要なのは、情報の流通による社会的な弊害を防ぐことである。政府の役割については、国民の表現の自由を十分に踏まえた上で、民間の自主規律、利用者の能力強化とセットで考える必要がある。刑法、商法等の一般法の規制に抵触しない場合、政府によるコンテンツの内容に対するチェックは許されるべきでない。いわゆる「有害情報」、「個人の権利侵害」等の問題を含め、民間事業者の自己規律と社会的責任の遂行、社会的監視・評価、消費者の自己防衛を基本として対応するのが望ましい。その際、利用者の安全確保の手段を提供する観点から、利用者等が問題を感じた時の「駆け込み寺」、苦情処理を行なう仕組みの整備、的確な運用に引き続き努めることが重要である。同時に、フィルタリングソフトやチップなど、受信者側が、自己防衛手段として、受信情報を主体的に選択できる仕組み、不必要なコンテンツの受信を拒絶できる仕組みの実用化、導入・普及を図る必要がある。
    放送は、有限、希少な電波を使用して社会的に大きな影響力をもつことなどを理由に、放送法に基づき、番組準則(公安・良俗、政治的公平、報道の真実性、対立意見の多角的取り扱い)、番組審議機関設置義務などの規律がかけられてきた。また、過去新しい放送類似のメディアが登場する毎に法制度の適用が議論され、ケーブルテレビ、CS放送、データ放送には、従来からの放送法、電波法の考え方に基づき、メディア特性を加味しつつ規制が行なわれている。確かに、放送の中でも、(1)他のメディアに比べて、広くあまねく普及している伝送路を使用しており、誰もが最も容易にアクセスできることが可能、(2)それにより、基本的な情報を総合的に提供している、(3)国民が情報を同時に共有できる、(4)しかもそれを恒常的に行なっているメディアは基幹放送として、社会的影響力や文化的な役割は大きいと言えよう。現時点で基幹放送の条件を満たしている民間放送事業の典型例は地上放送である。しかし、広く一般大衆による受信を目的としないニッチな有料の情報伝送についても、社会的影響力が強いメディアと類似の規制がなされてきた結果、新産業・新事業創出の足枷となっているとの指摘もある。
    これまで放送への規制根拠として、稀少性が強く、情報を瞬時かつ広範に伝送できる電波を利用し、公衆によって直接受信されることを目的とする放送の社会的影響力が強いことが挙げられている。しかし、技術革新等により放送の多チャンネル化が実現し、また、光ファイバーや衛星通信等、広帯域伝送路が急速に発展しており、全体として、電波の稀少性による国民への影響力はかつてより薄れてきている。また、地上放送のような、基幹放送の社会的影響力は依然として強いものの、通信と放送の中間領域のメディアなど、その他の電子メディアについては、新聞・雑誌・書籍・映画・市販ビデオ等のメディアに比べて特段大きな社会的影響力を持っているとは必ずしも言えない。
    米国においては、マスメディア集中排除原則(地上放送における35%超世帯を対象とする放送局所有の禁止等)や子供向け番組に関する規制等があるものの、公平原則(相反する意見を公平に伝える義務)については、1987年に電波有限希少性低下の中で言論を萎縮させるものとして廃止されている。また、契約によるサービスは、一般大衆の直接受信を目的としたものでないため放送規制の対象とはせず、民間の自主的規律に委ねられている。
    わが国においても、基幹放送以外の電子メディアについては、新産業・新事業の創出や雇用機会の拡大の観点から、基幹放送に課せられているコンテンツ規制を適用しないことが望まれる。例えば、情報提供側が国民生活に密接な基本的情報を広く一般大衆を直接の対象に提供することは意図せず、情報の受信者側も自らの意思により有料契約をし、その責任を負うと認識・判断したことについて、刑法や商取引に関する法令の違反がない場合にも規制をすることは望ましくない。コンテンツの内容が暗号技術等によって秘匿され、有料の受信契約を結んだ特定の受信者しかわからない場合には、原則として通信扱いとすることが妥当である。さらに、基幹放送以外の放送についても、コンテンツ規制を緩和し、公序良俗、事実報道のみを義務付ける仕組みとすることが望ましい。番組基準の作成義務や番組審議機関設置義務が課されていない専門放送については、早急に、その範囲を拡大することが期待される。
    最近、政府において、通信・放送の区分の明確化等に向けた建設的な取り組みが進められているが、事業者が、政府に対して、通信か放送かの解釈を問い合わせなくても新サービスの事業化の検討をできるようにすることが望ましい。その意味で、97年12月に政府が策定した「通信衛星を利用した通信・放送の中間領域的な新たなサービスに係る通信と放送の区分に関するガイドライン」については、利用者が広く新サービスを機動的、弾力的に享受できるよう、放送扱いをしない類型について、ネガティブリスト化を図るべきである。

  5. 基幹放送たる地上放送の制度改革
  6. 民間地上放送は、電波を利用して自らの編集責任により直接一般大衆向けに、報道、文化、教養・教育、娯楽の全てに係る基本的情報を無料で送信している。ほぼ100%の国民に普及し誰もが手軽に享受している、現在の地上放送は基幹放送の典型例である。こうした地上放送は、民主的政治過程の基本的な構成要素であるとともに、現代社会の多元性と個人の自律性を支える基本的情報を提供している。当面、現行放送法にあるような番組の適正性の自主的確保を促す仕組みを続ける必要がある。同時に、地上放送事業の活性化を図る観点から、以下の規制改革に取り組む必要がある。

    (1) マスメディア集中排除原則
    メディアの多様化の中で、民間地上放送について、親局たる放送局を2局以上所有・支配しないこととしているマスメディア集中排除原則の意義は小さくなっている。また、デジタル化への新たな投資に対処するために、経営効率化やスケールメリットなどを目的とした連携・統廃合による経営資源の活用は自然な流れである。しかし、現行のマスメディア集中排除原則により、経営判断に基づく選択の幅が狭められ、経営資源の活用が十分できない面がある。双方向メディアの発達等、メディアが多様化する中でのマスメディアの機能及び位置付けを再確認しつつ、将来の受委託的な運用も含めて、民間の創意工夫の最大限発揮を通じて、健全な市場競争および利用者のメリットにつながる方向での規制改革が考慮されるべきである。

    (2) 地域免許制度
    地上放送は、その存立基盤である地域に密着性を求める観点から、原則県単位の免許とされてきた。今後も重要性の高いローカル情報サービスを充実していく上でも事業者の経営基盤強化が必要である。したがって、放送ネットワークの効率的構築・運用、制作力向上、コスト削減等のため、事業者自らの選択により地域間の事業者、近隣地域の放送局との連携、統廃合が柔軟に行えるよう、県単位の地域免許制度の見直しの検討が期待される。

    (3) あまねく受信できるように努力する義務
    地上放送は過去40年以上にわたり「あまねく普及」の努力をしてきた。しかし、国策として2011年までにデジタル化を実施するに際しては、民間事業者が自らの経営責任のみであまねく受信を図ることは困難と考えられる。デジタル化により、電波の反射等による難視(ゴースト)は大幅に軽減されると想定されるが、地上波により電波遮蔽や辺地難視を解消するためには新たな置局が必要となる。民間の地上放送事業者ができる限り受信者の獲得を図ることは当然であるが、事業者による経営努力を超える地域へのサービスについては、新たな公共政策が期待される。また、政府のe−Japan戦略との連携を視野に入れる必要がある。国民の情報アクセス手段は多様化しており、地上波だけでなく、FTTH、ケーブルテレビなどの他の手段も活用して、あまねく受信できるような仕組みとすることも検討に値する。

    (4) 外資規制
    現在、放送用電波免許については、外国人の議決権比率が20%を超える場合には付与されず、免許期間中に20%を超過した場合には免許が取り消されることになっている。外資規制については、経済のグローバル化の進展を考慮し、外国人株主の経営への実質的な影響力の有無に配慮したものに改めるべきである。例えば、経営の実態に即した外資規制の適用除外基準を明記する等の方法が考えられる。

    (5) ハード・ソフト一体原則
    地上放送については、これまで、電波法によって放送局免許を受けた者が放送法の放送事業者となるという、ハード・ソフトが一体とされてきた。最近、「コンテンツ事業者がチャンネルと時間を借りて、放送するなど、多様な放送・メディアや情報伝送形態が登場することが想定されており、コンテンツ・情報伝送双方に活力ある競争を促進するため、多メディア時代では、ハード・ソフト一体とするかどうかは事業者の選択に任せ、制度的には自由にすべきである」との意見が出されている。他方、「基幹放送を安定に維持するためには、伝送路の確保が必要で、ハード・ソフト双方に責任をもって運営する事業主体が存在することが、国民へのサービスの継続性などの面からみて望ましく、ソフト・ハードの分離はすべきでない」との意見もあり、今ここで直ちに結論を得ることはむずかしい。今後、利用者の利益、デジタル化の進展状況などを考慮して、国民的な検討が行われることを期待する。

  7. 公共放送のあり方
  8. (1) NHKの公共放送としての意義、公共放送が担う役割
    NHKは、放送を通じて、あまねく全国で受信できるよう豊かで良い番組の提供、国民生活の基本的情報や災害情報を含む生命・財産の安全に係る情報等の提供、民主主義の健全な発展に資する公平で確かな情報の提供、文化・芸術等の記録・発展への寄与などの使命を負っている。民間地上放送の状況が異なる英国の事例を単純にわが国に当てはめることはできないものの、わが国のNHKと類似するとされている英国放送協会(BBC)においては、公共放送部門は受信許可料で成り立っているが、民業圧迫防止の観点から商業活動に受信許可料の充当は認められず、別会社形式で運営され、また、経営に関する説明責任(accountability)が厳しく問われている。NHKにおいても、経営の透明化が進みつつあることは評価できるが、受信料で成り立つ公共放送のための特殊法人であること、法人税・事業税が免除されていることをふまえた事業展開への期待や、子会社・関連会社等を含めた、より一層の説明責任の遂行、外部監査の活用ならびに今後の民業圧迫の回避の要請などが出されているところであり、こうした声に十分留意した取り組みが望まれる。
    NHKは、当面、既存チャネルにおける番組や視聴者サービスの充実、地上波デジタルの円滑な推進、BSデジタル放送の着実な発展に対して重点的に取り組むことが期待される。また、今後、公正競争条件の確保の観点から、各業務についての会計分離または新サービスに関する分離子会社化などを図る必要がある。
    NHKの子会社・関連会社等については、連結会計基準の整備、連結財務諸表やセグメント情報、NHKとの人材・資金・取引面の情報の公開など、業務・財務の実態の全容を明らかにし、国民に対する説明責任を全うすべきである。また、子会社、関連会社等との随意契約については、原則として他に適切な委託先がない場合に限定するのが妥当である。

    (2) NHKコンテンツの利用
    NHKが保有するコンテンツは、受信料によって制作された国民の貴重な財産であり、潜在的な利用ニーズが高いことから、その有効かつ公平な活用と流通を図ることが重要である。番組は放映用に作られ制作費が受信料で賄われていることから、制作費にとらわれない仕組みを基本としつつ、利用に関する方針、ルールについて、その背景や合理性の説明を含め、広く国民に明示する必要がある。また、現状では著作権問題の制約があるものの、デジタル・ネットワークによってNHKのコンテンツを広く利用する仕組みの導入を検討することも求められる。

    (3) NHKのあり方について
    上述のほか、受信料に関する問題提起もなされている。受信料の公正な負担を図ることは公共放送事業の大前提である。技術進歩の結果、無線による放送についても、テレビ受像機以外でも放送番組を受信できるようになりつつあり、また、契約した受信者だけを選択してサービスを提供することが可能となっている。BSデジタル放送では、受信者の情報を利用したスクランブル・ノンスクランブル制御と同様の原理で、NHKが受信料未払者の受信機に「メッセージ」を表示する仕組みが採用されている。デジタル放送の受信に関して、「NHK視聴及び受信契約は、視聴者の選択によるべき」「NHKのBSデジタル放送について、希望者が受信料を支払う受信契約を結ぶ仕組みをとることや、一定の普及後にスクランブル化を実施することも検討すべき」「受信料を納めない人にまでサービスを提供するのではなく、スクランブル化を図るべき」との意見が出されている。一方では、「スクランブル化し契約者だけに提供する放送は公共放送としての性格と相容れない」「公共放送はあまねく誰もが見られるようにすべき」との意見もある。
    今後の公共放送のあり方やNHKの役割、NHKのBSデジタル放送に関するスクランブル化の是非、受信端末保有に着目する受信料制度の是非、NHKと民間事業者との公正競争条件のあり方を含め、デジタル時代におけるNHKのあり方について、この際、国民的な議論を行う場を設けて、幅広い観点から掘り下げて検討していくことが望ましい。

IV.周波数の有効活用の推進

情報伝送手段として電波の果たす役割に対する期待は従来以上に高まっている。周波数は国民の貴重な資源であり、有効活用が図られなければならない。デジタル技術や情報の処理・伝送に係る技術などの発展を背景に技術的、事業的には周波数の多角的な利用が可能となっている。例えば、同一周波数を、通信、放送のどちらでも使え、また、同一周波数を多様な放送サービスに利用することが可能である。しかし、制度的には放送目的に与えられた帯域を利用者ニーズに合わせて通信で利用することが困難である。また、放送波もデジタル化により、移動体での受信も含む多様なメディアでの利用や受信者を限定した送信が可能になっているが、現在の免許の手法では、標準テレビジョンとして免許されているとハイビジョン放送ができない、免許を受けた走査線数の異なる技術を使用できない、放送内容を変更するには膨大な手間が必要となる、放送用周波数を通信に利用ができないなど、事業者は市場ニーズ、技術の進歩や事業採算等をふまえて機動的かつ弾力的に周波数を活用することは実際上困難である。
事業者が、環境変化に対応して自らの選択・責任により周波数を多様な用途に柔軟に活用することは利用者の利益の増進につながり、また新しい雇用機会の創出に資する。周波数の利用状況・利用計画の公表等を前提として、一定範囲内であれば、割り当てられた帯域を自由に利用できる制度を導入することが期待される。例えば、通信と放送との区分、あるいは放送の種類にとらわれずに、デジタル技術の特徴である周波数を自由に使いこなせる免許とする必要がある。地上放送、BS放送など国際的に放送用に割り当てられた周波数帯についても、通信利用の途を開くことを検討する一方、国際電気通信連合(ITU)などに働きかけを行うべきである。
一方、地上放送については、現在、国策によりデジタル化が推進されているが、その円滑化に向けた環境整備も求められる。アナログからデジタルへの移行を機に、放送事業者に「デジタルならではの多彩な放送サービス」の追求を認め、かつ促すことが望ましい。また、地上デジタル放送普及のためには、ローカル放送、移動体向サービスなどを含め、既に開始されているBSデジタル放送サービスとの差別化が必要である。地上デジタル放送の利用形態を柔軟にする観点から、ハイビジョンと標準放送の選択、放送方式の選択、固定受信・移動体での受信など、周波数を柔軟に利用できるようにするとともに、サイマル放送に関する運用の弾力化等が期待される。
なお、利用者がコンテンツやサービスを受ける端末機器についても、低廉化や利便性の向上が重要である。今後、モバイルやITS(Intelligent Transport System)を含め、各種の無線端末機器の需要増大が予想されるが、これら機器に係る公的負担を極力抑制すべきである。特に、現在、無線機器に係る技術基準適合の証明や認定の手続に要する時間・費用等の制約が大きな問題となっているが、国際競争力確保の観点からも、米国、EUと同様、わが国において自らまたは第三者試験機関によるテストを行い、そのデータをもとに自身で適合を宣言する自己適合宣言方式を導入することが急務である。また、有料無線放送を行なう場合のスクランブルの方式は、現在の総務大臣告示では、一方式しか認められていないが、事業者がビジネスモデルにあったスクランブル方式を利用できるようにすべきである。例えば、事業者の自由、あるいは登録制とするのも一案である。

V.コンテンツ提供等の円滑化

利用者が自らのニーズにあったコンテンツを選択し、享受できるようにするためには、コンテンツ側が自由に創意工夫を発揮してコンテンツ自体の魅力を高めるとともに、コンテンツについて、流通促進を図り、多様なメディアでの活用が可能となるようにすることが重要である。それは、コンテンツ権利者の利益の増進やメディア産業の活性化にもつながる。
最近、各メディアによるコンテンツの不足感が高まりつつあるが、その背景には、高等教育におけるデジタル・コンテンツ教育の立ち遅れ、コンテンツをめぐる厳しい事業環境、あるいはコンテンツ利用に係る著作権処理が複雑、などの問題が存在している。事業者の自助努力は当然であるが、官民共同で、国全体のコンテンツ創造力の強化や既存コンテンツの有効活用が可能な環境整備に取り組んでいく必要がある。

  1. コンテンツ制作者等にとっての公正性の確保
    コンテンツ制作の外注に関する公正な取引を確保するとともに、異なるネットワークやプラットフォーム相互間のスムーズな流通のために、あらゆるビジネスレベル、レイヤにおいて、取引の透明化・オープン化等を進める必要がある。

  2. コンテンツ流通市場の形成促進
    コンテンツの健全な流通を確保するためには、不正コピーの防止を図る必要がある。ネットワークを通じてデジタル・コンテンツがダウンロードされた後に利用者が当該コンテンツを再配信したり、コンテンツの不正コピーをネットワークに大量流布するなどの違法複製問題がデジタル・コンテンツの流通阻害要因となっている。今後、コンテンツの暗号化技術、電子透かし技術や課金技術等の技術の発展、コンテンツIDの付与による利用状況の把握等を図る必要がある。アジア諸国をはじめ、海外においても円滑な流通が可能となるよう、海賊版対策を推進する必要があり、多国間・二国間協議における取り組みや、現地における海賊行為対策への支援などが求められる。
    また、著作権の権利処理の迅速化も急務である。現在、例えば、既存の劇場用映画やテレビ映画を当初目的の劇場上映、テレビ放映以外にブロードバンドなどのネットワークで利用するためには、原作、脚本、音楽等について権利者団体等と利用許諾契約を結び、利用許諾料を支払わなければならない。また、既存の地上放送局製作番組をネットワーク利用するためには、原作、脚本、音楽の著作権者もしくは権利者団体から再度許諾を得るとともに、実演家からも録音・録画権、送信可能化権の許諾を得なければならない。市販用CD音源に関してもレコード製作者から複製権や送信可能化権の許諾が必要である。とくに各種メディアにおいて利用価値が高いと期待されている放送番組等に関する著作権の権利処理の円滑化が重要であり、著作物等の分野毎に窓口の整備、権利者団体と利用者団体との間での各メディアに関する権利処理ルールの構築(使用料規程、団体協約等)が必要である。実演家について権利処理の一元化体制整備が期待され、実演家著作隣接権センターの取り組みが注目される。
    関係者が広範にわたるため、省庁の垣根を超え、関係省庁が一体となって官民が協力して取り組むことが不可欠であり、省庁横断的に官民共同で具体策を協議する場を設けるべきである。また、著作権の権利内容に関して、新たな利用形態が生まれる毎に許諾権を新設するというよりも、報酬請求権などによる対応を図ることが望ましいのではないかと考えられる。これらの市場及び著作権は国境を超えた課題であり、日本独自のものとならないよう、国際的な動向にも適合させることが必要である。また、不正利用の防止や著作権処理の円滑化の観点からも、コンテンツのデータベース化・検索可能化を着実に進める必要がある。

  3. コンテンツ創造力の強化
    今後、国内だけでなく、全世界の市場をにらんだコンテンツの作成、販売等を推進し、コンテンツ産業がグローバルな規模で発展していくことが期待される。制度・政策的枠組みもこうした一段の飛躍を支えていくべきである。とくに、コンテンツ制作を担う人材の育成が重要であり、才能の発掘及び育成に向けて高等学校、大学においてコンテンツ教育を充実させる必要がある。また、これらの才能に対して適当な対価が支払われるルール作りが望まれる。

(おわりに)

以上、メディアをめぐる変化と今後の制度的対応の方向性について基本的な考え方を整理した。今後は、国民の価値観、メディアへの期待の多様化や通信・放送の融合の進展等をふまえ、メディアに関するグランド・デザインの下に、利用者利益の最大化を優先して、総合的なフレームワークの構築を行い、新ビジネスの創造と発展を図ることが求められる。
上述の指摘の他、メディアをめぐる状況変化は非常に多岐にわたる。例えば、メディアのビジネスモデルを考える上で重要な企業広告についても、変化を迫られている。経済成長率の低下、企業経営の変質(大量、一方向販売から多品種・特定対象販売、ブランド価値追求、双方向対話重視、説明責任の重視など)等を背景に、費用対効果が厳しく精査・追及され、企業は実効ある広告チャネルを模索するようになっている。こうした企業広告戦略の変化をふまえて、メディアならびに制度・慣行のあり方も検討する必要がある。
また、デジタル放送とインターネットとをより一層円滑に連携させる方策、ミリ波や光通信等に関する基礎的な技術開発の促進策などについても検討が求められる。さらには、コンテンツの制作、提供について、青少年への影響や個人の権利尊重の面から幅広い検討を行うとともに、国民のメディア・リテラシーの向上に向けた取り組みを強化する必要がある。
技術革新に伴い新しいメディアサービスが可能となっているが、どのようなサービスが発展していくかは、不透明な面がある。昨年12月に開始されたBSデジタル放送の健全な発展や東経110度CSの有効活用に向けた取り組みや、次期BSデジタルのあり方の検討も重要な課題となっている。これら問題の帰趨は、基幹放送たる地上放送のデジタル化にも影響を及ぼす可能性がある。ラジオを含めたメディアの事業性、将来ビジョンを構築し、それをふまえて対応を図る必要がある。
当通信・放送政策部会としては、引き続き、こうした問題を含め、今後の期待の大きな電子メディアをめぐる環境変化やその影響、制度的対応のあり方、行政体制のあり方などついて掘り下げた検討を進めていく予定である。

以  上

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