2001年9月13日 (社)経済団体連合会 情報通信委員会 通信・放送政策部会 |
インターネットの爆発的な発展や放送のデジタル化、ITに係る技術革新等を背景に、従来の通信・放送といった枠にとらわれない電子メディアが出現しており、国民生活の向上、経済の活性化、新産業・新事業の創出、雇用機会の拡大等をもたらすと期待されている。しかし、新しいメディアが経済社会に定着し健全な成長を遂げていくためには、利用者満足度の高いメディアの自律的発展に向けてメディア事業の制約要因の除去など環境整備を行う必要がある。
そこで、経団連情報通信委員会通信・放送政策部会では、昨年7月、情報通信ワーキング・グループの下に、メディア政策研究会を設置し、インターネット、放送などの電子メディアについて、環境変化をふまえた今後の制度的枠組みのあり方を中心に検討を行ってきた。以下は、これまでの議論の結果を中間的に整理したものである。
通信ネットワークについては、かねてよりデジタル技術の高度利用が進展しているが、ここにきてADSL、ケーブル・インターネット等が普及しつつあり、また、FTTHの整備が推進されるなど、通信アクセス網のブロードバンド化が進展している。その結果、通信ネットワークを通じて、テレビ番組、映画、ゲーム、アニメーション、書籍をはじめ大容量の情報を円滑に伝送することが可能となりつつある。
一方、放送分野においては、従来より広帯域情報伝送が行われてきたが、CSデジタル放送に加えて、昨年12月にBSデジタル放送が開始され、さらにケーブルテレビ、地上波放送もデジタル化に向けて対応が進みつつある。この結果、チャンネル数の増加とともに、データ放送による特定者への情報伝送、双方向的な情報伝送など通信的利用が可能となっている。さらに、東経110度CSデジタル放送を皮切りに、デジタル放送においては、新たにサーバ型放送も検討されている。また、デジタル放送とインターネット・プロトコルとの整合を図る動きも見られる。
技術革新が従来の情報伝送上の制約を取り除く結果、双方向サービス、特定者を対象とした高付加価値サービス、パーソナルサービス、電子商取引への活用など、様々な新サービス、新事業の創出が模索されている。しかしながら、急速な変化の中で、どのような技術、メディアが市場に受け容れられ、どのような市場ニーズが顕在化するのか、など、先行き不透明な面もあるのが実情であり、変化への対応能力の強化や事業性の確保等が課題となっている。
国民の価値観の多様化や生活様式等の多元化・個性化に伴い、多種多様なコンテンツが求められている。例えば、利用者は、報道、教養、学術、文化、芸術、スポーツ、娯楽など様々なコンテンツについて、総合性、専門性、迅速性、信頼性、付加価値などを含め、必要な時に必要なコンテンツを必要なだけ自ら選択して入手できることを求めている。一方、供給サイドについても、デジタル技術やネットワーク・端末に係る技術等の発展に伴って、通信、放送を問わず、コンテンツの多角的利用が可能となっている。また、完成コンテンツをそのまま利用するだけでなく、素材として見直し、伝送されるメディアや受信される端末の特性に合わせて加工する動きも見られる。今後は、国内のみならず、国際的利用を想定したコンテンツ作りやコンテンツ事業の海外展開も期待される。一方、暗号技術の発展により、特定の利用者だけがコンテンツを見られるようにすることが容易にできるようになっている。
こうした中で、メディア事業の成否は、優れたコンテンツを利用者のニーズに合った形で提供できるかどうかにかかっているが、新しいメディアを中心に、質量両面でコンテンツの不足が問題視されるようになっている。一方、コンテンツのデジタル化に伴い、劣化のない複製、他への伝送が容易になり、不正コピーの懸念が高まりつつある。また、コンテンツの青少年への影響を懸念する声も強まっている。民間における自主的な取り組みが従来以上に求められている。
技術革新を背景に、端末機器の進化、多様化が進みつつある。テレビ放送の受信・録画ができるパソコン、テレビでインターネットに接続できるセット・トップ・ボックス、放送の受信が可能なモバイル端末の開発など、一つの端末で通信サービスと放送サービスの双方を利用できる端末の融合が進展している。また、冷蔵庫や電子レンジなどの白物家電等家電製品をネットワーク化する情報家電ネットワークへの取り組みも強化されている。ITS(Intelligent Transport System)との融合も注目されている。今後は、有線・無線、固定・移動体を問わず、機器同士がネットワークを介して接続され、利用者が、いつでも、どこでもネットワークを活用できる、ユビキタス・ネットワーク化が進んでいくものと予想されている。それに伴い、利用者は、通信、放送の枠を超えて多種多様なサービスを享受・活用することが可能となる。さらに、家庭において多数のコンテンツを自動蓄積できるホームサーバーを利用し、視聴するコンテンツを自ら編集・選択できるようになり、放送の概念に当てはまらない情報伝送形態が普及することも予想されている。
簡単な操作で高齢者・障害者を含めて誰でも気軽に利用できる端末機器の開発も求められている。モバイル、情報家電を含め、端末分野は、わが国の国際競争力の強化の中心として大いに期待できるが、技術基準適合証明・認証の取得義務など、主要諸国には例のない公的負担の存在が懸念材料として指摘されている。
プラットフォーム事業は、ユーザーとコンテンツ、サービスとの橋渡しを行っている。例えば、CSデジタル放送の世界では、番組の制作・編集を行う委託放送事業者のために、プラットフォーム事業者が広告宣伝、加入者管理、利用料金回収、経営戦略の策定支援等を行い、CSデジタル放送発展の原動力となってきた。今後、デジタル放送の本格化、ブロードバンド・ネットワークの一般家庭への普及、モバイル・インターネットの発展などを背景に、他の媒体でもプラットフォームの機能がより一層高まっていくと予想されている。現に、ネットワーク事業者やコンテンツ提供事業者等がプラットフォーム分野に参入する動きも強まっている。とくに、プラットフォーム事業分野において、ユーザーニーズに合ったコンテンツの品揃え、情報検索代行、各種代行サービス(課金、顧客管理、営業等)、コミュニケーションの場の提供、取引の場の提供(オークション等)などの機能を果たすことが期待されている。
情報技術(圧縮技術、スクランブル技術も含む)、伝送技術、情報家電技術などの技術革新や、インターネットの普及、アクセス回線の高速化と多様化、放送のデジタル化等を背景に、多種多様な利用者へのデジタル情報伝送サービスを行うことができる広帯域な伝送路のバリエーションが増大しつつある。この結果、
表1:主要会員企業から寄せられた通信・放送の融合に係る制度的問題例
(2001年1月アンケート結果)
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今後のメディア制度を考えるに当たっては、国民に密着した公共放送や基幹放送の位置付けを明確にしつつ、従来の通信と放送の領域にとらわれないサービスを促進し、且つ技術の進化に柔軟に対応ができる可能性を持つ仕組みや制度変更を行っていくことが必要である。即ち、いたずらに通信と放送の既存の業態を守るのではなく、技術の進化をふまえ、全体として「WIN-WIN」の関係を構築する視点が重要であり、以下の3つの原則に則って、メディアに関するグランド・デザインの下に、通信と放送とを総合的にとらえた法制度の体系を整備していくべきである。
国民における価値観とメディアへの期待は多様化、個性化してきている。その中で、国民生活にとって有意義な情報・コンテンツがメディアから提供されるためには、多くのメディアや多種多様の事業者が、公正な競争条件の下で、創意工夫を十分に発揮し、自由に情報伝送手段、コンテンツを組み合わせてサービス提供するとともにプラットフォームの構築、利用ができるようにする必要がある。
そのため、自由で公正な競争という理念のもとで、情報伝送自体については通信・放送を共通の制度的枠組みとするとともに、基本情報を総合的に提供して大多数の国民の生活に密着している電子メディアに限って必要最小限のコンテンツ規律を求める、という考え方を基本にして、通信・放送に関する制度的枠組みを再構築することが望ましい。先般、通信・放送の融合の進展をふまえて現行CSデジタル放送、ケーブルテレビを対象にハード・ソフトの分離を図るべく、電気通信役務利用放送法が成立したことは一歩前進と評価できる。今後、こうした柔軟な考え方が他の放送分野に適用されることが期待される。
また、新メディア発展のために各種の経営資源、ノウハウを結集させる観点から、周波数の割当という制約はあるものの、事業者の参入や事業内容等は原則自由とすべきである。公正競争条件を整備することにより、他分野での有力な経営資源等を有する事業者を含めて多種多様な事業者が自由な活動ができるようにすることが求められる。放送事業者に関するマスメディア集中排除原則については原則緩和し、メディア事業のノウハウや番組供給能力の高い事業者を活用する必要がある。その際、楽しみのための娯楽コンテンツと、中立公正さが要求される報道及び学術・文化・教養を目的としたコンテンツとは異なる扱いをすることも検討に値する。受信料制度で成立するNHKについては、その地位がメディア関連事業分野において濫用され、弊害が生ずることがないようにする必要がある。
さらに、放送法上の放送普及基本計画は、放送の計画的な普及および健全な発達を図るため、総務大臣が定めることになっているが、通信・放送の融合やメディアの多様化が急速に進展し、政府があらゆる放送サービスの計画的普及や発達を図る段階は既に終焉している。新しい時代における放送普及基本計画のあり方について、技術革新や市場ニーズに合わせて通信・放送の枠を超えたサービスを機動的・弾力的に展開できるようにする観点から、抜本的に見直す必要がある。
また、現在、通信・放送両方の事業を行う事業者は、通信法規、放送法規毎別々に会計報告書を作成して、提出しなければならず、事業者の負担となっているため、一本化できるようにすべきである。通信・放送サービスの複合割引は可能であるのに対し、放送サービス利用者が通信サービスにも加入する場合に通信サービス料金を割り引くことは認められていないが、事業者の自己責任に基づく経営努力を尊重する観点からの配慮が望まれる。
コンテンツに関して重要なのは、情報の流通による社会的な弊害を防ぐことである。政府の役割については、国民の表現の自由を十分に踏まえた上で、民間の自主規律、利用者の能力強化とセットで考える必要がある。刑法、商法等の一般法の規制に抵触しない場合、政府によるコンテンツの内容に対するチェックは許されるべきでない。いわゆる「有害情報」、「個人の権利侵害」等の問題を含め、民間事業者の自己規律と社会的責任の遂行、社会的監視・評価、消費者の自己防衛を基本として対応するのが望ましい。その際、利用者の安全確保の手段を提供する観点から、利用者等が問題を感じた時の「駆け込み寺」、苦情処理を行なう仕組みの整備、的確な運用に引き続き努めることが重要である。同時に、フィルタリングソフトやチップなど、受信者側が、自己防衛手段として、受信情報を主体的に選択できる仕組み、不必要なコンテンツの受信を拒絶できる仕組みの実用化、導入・普及を図る必要がある。
放送は、有限、希少な電波を使用して社会的に大きな影響力をもつことなどを理由に、放送法に基づき、番組準則(公安・良俗、政治的公平、報道の真実性、対立意見の多角的取り扱い)、番組審議機関設置義務などの規律がかけられてきた。また、過去新しい放送類似のメディアが登場する毎に法制度の適用が議論され、ケーブルテレビ、CS放送、データ放送には、従来からの放送法、電波法の考え方に基づき、メディア特性を加味しつつ規制が行なわれている。確かに、放送の中でも、(1)他のメディアに比べて、広くあまねく普及している伝送路を使用しており、誰もが最も容易にアクセスできることが可能、(2)それにより、基本的な情報を総合的に提供している、(3)国民が情報を同時に共有できる、(4)しかもそれを恒常的に行なっているメディアは基幹放送として、社会的影響力や文化的な役割は大きいと言えよう。現時点で基幹放送の条件を満たしている民間放送事業の典型例は地上放送である。しかし、広く一般大衆による受信を目的としないニッチな有料の情報伝送についても、社会的影響力が強いメディアと類似の規制がなされてきた結果、新産業・新事業創出の足枷となっているとの指摘もある。
これまで放送への規制根拠として、稀少性が強く、情報を瞬時かつ広範に伝送できる電波を利用し、公衆によって直接受信されることを目的とする放送の社会的影響力が強いことが挙げられている。しかし、技術革新等により放送の多チャンネル化が実現し、また、光ファイバーや衛星通信等、広帯域伝送路が急速に発展しており、全体として、電波の稀少性による国民への影響力はかつてより薄れてきている。また、地上放送のような、基幹放送の社会的影響力は依然として強いものの、通信と放送の中間領域のメディアなど、その他の電子メディアについては、新聞・雑誌・書籍・映画・市販ビデオ等のメディアに比べて特段大きな社会的影響力を持っているとは必ずしも言えない。
米国においては、マスメディア集中排除原則(地上放送における35%超世帯を対象とする放送局所有の禁止等)や子供向け番組に関する規制等があるものの、公平原則(相反する意見を公平に伝える義務)については、1987年に電波有限希少性低下の中で言論を萎縮させるものとして廃止されている。また、契約によるサービスは、一般大衆の直接受信を目的としたものでないため放送規制の対象とはせず、民間の自主的規律に委ねられている。
わが国においても、基幹放送以外の電子メディアについては、新産業・新事業の創出や雇用機会の拡大の観点から、基幹放送に課せられているコンテンツ規制を適用しないことが望まれる。例えば、情報提供側が国民生活に密接な基本的情報を広く一般大衆を直接の対象に提供することは意図せず、情報の受信者側も自らの意思により有料契約をし、その責任を負うと認識・判断したことについて、刑法や商取引に関する法令の違反がない場合にも規制をすることは望ましくない。コンテンツの内容が暗号技術等によって秘匿され、有料の受信契約を結んだ特定の受信者しかわからない場合には、原則として通信扱いとすることが妥当である。さらに、基幹放送以外の放送についても、コンテンツ規制を緩和し、公序良俗、事実報道のみを義務付ける仕組みとすることが望ましい。番組基準の作成義務や番組審議機関設置義務が課されていない専門放送については、早急に、その範囲を拡大することが期待される。
最近、政府において、通信・放送の区分の明確化等に向けた建設的な取り組みが進められているが、事業者が、政府に対して、通信か放送かの解釈を問い合わせなくても新サービスの事業化の検討をできるようにすることが望ましい。その意味で、97年12月に政府が策定した「通信衛星を利用した通信・放送の中間領域的な新たなサービスに係る通信と放送の区分に関するガイドライン」については、利用者が広く新サービスを機動的、弾力的に享受できるよう、放送扱いをしない類型について、ネガティブリスト化を図るべきである。
民間地上放送は、電波を利用して自らの編集責任により直接一般大衆向けに、報道、文化、教養・教育、娯楽の全てに係る基本的情報を無料で送信している。ほぼ100%の国民に普及し誰もが手軽に享受している、現在の地上放送は基幹放送の典型例である。こうした地上放送は、民主的政治過程の基本的な構成要素であるとともに、現代社会の多元性と個人の自律性を支える基本的情報を提供している。当面、現行放送法にあるような番組の適正性の自主的確保を促す仕組みを続ける必要がある。同時に、地上放送事業の活性化を図る観点から、以下の規制改革に取り組む必要がある。
情報伝送手段として電波の果たす役割に対する期待は従来以上に高まっている。周波数は国民の貴重な資源であり、有効活用が図られなければならない。デジタル技術や情報の処理・伝送に係る技術などの発展を背景に技術的、事業的には周波数の多角的な利用が可能となっている。例えば、同一周波数を、通信、放送のどちらでも使え、また、同一周波数を多様な放送サービスに利用することが可能である。しかし、制度的には放送目的に与えられた帯域を利用者ニーズに合わせて通信で利用することが困難である。また、放送波もデジタル化により、移動体での受信も含む多様なメディアでの利用や受信者を限定した送信が可能になっているが、現在の免許の手法では、標準テレビジョンとして免許されているとハイビジョン放送ができない、免許を受けた走査線数の異なる技術を使用できない、放送内容を変更するには膨大な手間が必要となる、放送用周波数を通信に利用ができないなど、事業者は市場ニーズ、技術の進歩や事業採算等をふまえて機動的かつ弾力的に周波数を活用することは実際上困難である。
事業者が、環境変化に対応して自らの選択・責任により周波数を多様な用途に柔軟に活用することは利用者の利益の増進につながり、また新しい雇用機会の創出に資する。周波数の利用状況・利用計画の公表等を前提として、一定範囲内であれば、割り当てられた帯域を自由に利用できる制度を導入することが期待される。例えば、通信と放送との区分、あるいは放送の種類にとらわれずに、デジタル技術の特徴である周波数を自由に使いこなせる免許とする必要がある。地上放送、BS放送など国際的に放送用に割り当てられた周波数帯についても、通信利用の途を開くことを検討する一方、国際電気通信連合(ITU)などに働きかけを行うべきである。
一方、地上放送については、現在、国策によりデジタル化が推進されているが、その円滑化に向けた環境整備も求められる。アナログからデジタルへの移行を機に、放送事業者に「デジタルならではの多彩な放送サービス」の追求を認め、かつ促すことが望ましい。また、地上デジタル放送普及のためには、ローカル放送、移動体向サービスなどを含め、既に開始されているBSデジタル放送サービスとの差別化が必要である。地上デジタル放送の利用形態を柔軟にする観点から、ハイビジョンと標準放送の選択、放送方式の選択、固定受信・移動体での受信など、周波数を柔軟に利用できるようにするとともに、サイマル放送に関する運用の弾力化等が期待される。
なお、利用者がコンテンツやサービスを受ける端末機器についても、低廉化や利便性の向上が重要である。今後、モバイルやITS(Intelligent Transport System)を含め、各種の無線端末機器の需要増大が予想されるが、これら機器に係る公的負担を極力抑制すべきである。特に、現在、無線機器に係る技術基準適合の証明や認定の手続に要する時間・費用等の制約が大きな問題となっているが、国際競争力確保の観点からも、米国、EUと同様、わが国において自らまたは第三者試験機関によるテストを行い、そのデータをもとに自身で適合を宣言する自己適合宣言方式を導入することが急務である。また、有料無線放送を行なう場合のスクランブルの方式は、現在の総務大臣告示では、一方式しか認められていないが、事業者がビジネスモデルにあったスクランブル方式を利用できるようにすべきである。例えば、事業者の自由、あるいは登録制とするのも一案である。
利用者が自らのニーズにあったコンテンツを選択し、享受できるようにするためには、コンテンツ側が自由に創意工夫を発揮してコンテンツ自体の魅力を高めるとともに、コンテンツについて、流通促進を図り、多様なメディアでの活用が可能となるようにすることが重要である。それは、コンテンツ権利者の利益の増進やメディア産業の活性化にもつながる。
最近、各メディアによるコンテンツの不足感が高まりつつあるが、その背景には、高等教育におけるデジタル・コンテンツ教育の立ち遅れ、コンテンツをめぐる厳しい事業環境、あるいはコンテンツ利用に係る著作権処理が複雑、などの問題が存在している。事業者の自助努力は当然であるが、官民共同で、国全体のコンテンツ創造力の強化や既存コンテンツの有効活用が可能な環境整備に取り組んでいく必要がある。
コンテンツ制作者等にとっての公正性の確保
コンテンツ制作の外注に関する公正な取引を確保するとともに、異なるネットワークやプラットフォーム相互間のスムーズな流通のために、あらゆるビジネスレベル、レイヤにおいて、取引の透明化・オープン化等を進める必要がある。
コンテンツ流通市場の形成促進
コンテンツの健全な流通を確保するためには、不正コピーの防止を図る必要がある。ネットワークを通じてデジタル・コンテンツがダウンロードされた後に利用者が当該コンテンツを再配信したり、コンテンツの不正コピーをネットワークに大量流布するなどの違法複製問題がデジタル・コンテンツの流通阻害要因となっている。今後、コンテンツの暗号化技術、電子透かし技術や課金技術等の技術の発展、コンテンツIDの付与による利用状況の把握等を図る必要がある。アジア諸国をはじめ、海外においても円滑な流通が可能となるよう、海賊版対策を推進する必要があり、多国間・二国間協議における取り組みや、現地における海賊行為対策への支援などが求められる。
また、著作権の権利処理の迅速化も急務である。現在、例えば、既存の劇場用映画やテレビ映画を当初目的の劇場上映、テレビ放映以外にブロードバンドなどのネットワークで利用するためには、原作、脚本、音楽等について権利者団体等と利用許諾契約を結び、利用許諾料を支払わなければならない。また、既存の地上放送局製作番組をネットワーク利用するためには、原作、脚本、音楽の著作権者もしくは権利者団体から再度許諾を得るとともに、実演家からも録音・録画権、送信可能化権の許諾を得なければならない。市販用CD音源に関してもレコード製作者から複製権や送信可能化権の許諾が必要である。とくに各種メディアにおいて利用価値が高いと期待されている放送番組等に関する著作権の権利処理の円滑化が重要であり、著作物等の分野毎に窓口の整備、権利者団体と利用者団体との間での各メディアに関する権利処理ルールの構築(使用料規程、団体協約等)が必要である。実演家について権利処理の一元化体制整備が期待され、実演家著作隣接権センターの取り組みが注目される。
関係者が広範にわたるため、省庁の垣根を超え、関係省庁が一体となって官民が協力して取り組むことが不可欠であり、省庁横断的に官民共同で具体策を協議する場を設けるべきである。また、著作権の権利内容に関して、新たな利用形態が生まれる毎に許諾権を新設するというよりも、報酬請求権などによる対応を図ることが望ましいのではないかと考えられる。これらの市場及び著作権は国境を超えた課題であり、日本独自のものとならないよう、国際的な動向にも適合させることが必要である。また、不正利用の防止や著作権処理の円滑化の観点からも、コンテンツのデータベース化・検索可能化を着実に進める必要がある。
コンテンツ創造力の強化
今後、国内だけでなく、全世界の市場をにらんだコンテンツの作成、販売等を推進し、コンテンツ産業がグローバルな規模で発展していくことが期待される。制度・政策的枠組みもこうした一段の飛躍を支えていくべきである。とくに、コンテンツ制作を担う人材の育成が重要であり、才能の発掘及び育成に向けて高等学校、大学においてコンテンツ教育を充実させる必要がある。また、これらの才能に対して適当な対価が支払われるルール作りが望まれる。
以上、メディアをめぐる変化と今後の制度的対応の方向性について基本的な考え方を整理した。今後は、国民の価値観、メディアへの期待の多様化や通信・放送の融合の進展等をふまえ、メディアに関するグランド・デザインの下に、利用者利益の最大化を優先して、総合的なフレームワークの構築を行い、新ビジネスの創造と発展を図ることが求められる。
上述の指摘の他、メディアをめぐる状況変化は非常に多岐にわたる。例えば、メディアのビジネスモデルを考える上で重要な企業広告についても、変化を迫られている。経済成長率の低下、企業経営の変質(大量、一方向販売から多品種・特定対象販売、ブランド価値追求、双方向対話重視、説明責任の重視など)等を背景に、費用対効果が厳しく精査・追及され、企業は実効ある広告チャネルを模索するようになっている。こうした企業広告戦略の変化をふまえて、メディアならびに制度・慣行のあり方も検討する必要がある。
また、デジタル放送とインターネットとをより一層円滑に連携させる方策、ミリ波や光通信等に関する基礎的な技術開発の促進策などについても検討が求められる。さらには、コンテンツの制作、提供について、青少年への影響や個人の権利尊重の面から幅広い検討を行うとともに、国民のメディア・リテラシーの向上に向けた取り組みを強化する必要がある。
技術革新に伴い新しいメディアサービスが可能となっているが、どのようなサービスが発展していくかは、不透明な面がある。昨年12月に開始されたBSデジタル放送の健全な発展や東経110度CSの有効活用に向けた取り組みや、次期BSデジタルのあり方の検討も重要な課題となっている。これら問題の帰趨は、基幹放送たる地上放送のデジタル化にも影響を及ぼす可能性がある。ラジオを含めたメディアの事業性、将来ビジョンを構築し、それをふまえて対応を図る必要がある。
当通信・放送政策部会としては、引き続き、こうした問題を含め、今後の期待の大きな電子メディアをめぐる環境変化やその影響、制度的対応のあり方、行政体制のあり方などついて掘り下げた検討を進めていく予定である。