「聖域なき構造改革」を標榜する小泉内閣の下、開発途上国に対する政府開発援助(ODA)についても来年度予算の10%削減が打ち出され、援助の効率化、「量より質」への見直しが不可避となっている。折しも外務大臣の諮問機関として「第2次ODA改革懇談会」が発足し、改革論議が進行している。
経団連ではかねてより、多くの省庁が関わる援助体制を一元化すべきこと、わが国が戦後に培った経験と技術が活かせる援助を主軸とすべきこと、民間の人材を活用するため官民の連携を強化すべきことなどを訴えてきた。
経団連は、今次小泉内閣におけるODAの見直しが、単に予算削減のための議論に終始するのでなく、わが国ODA政策の理念の明確化、非効率性の排除、透明性の向上等を促進し、国内外から理解と共感が得られる抜本的な改革案を打ち出すことを期待するものであり、この機を捉えわれわれは、ODA改革に関し以下のとおり提言する。
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開発途上国における貧困問題、地球温暖化を含む環境問題等への対策のために、人道的配慮や国際的責務から、わが国がODAを実施すべきことは論を待たない。
しかしながら、資源小国・貿易立国であるわが国にとって、世界平和の実現と世界各国との友好関係の維持、即ち「共生」を図ることや、世界との安定した貿易・投資等の経済活動を通じた生存と繁栄という「国益」を実現することは欠くべからざる重要課題である。軍事力を持たない日本外交にあって、ODAは共生と国益を実現するための極めて有力な手段であることを忘れてはならない。
今次打ち出されたODA予算の10%削減という経済財政諮問会議のガイドラインが果たして妥当であるのか、慎重な検討を行うとともに、円借款、無償資金協力、技術協力の予算配分を見直すことにより、わが国ODA政策を、メリハリのある戦略的なものに改革していくことが肝要と考える。
世界各国との共生を図り、わが国の生存と繁栄を守るという国益を追求するためには、財政逼迫の中にあっても一定規模のODA予算を確保する必要がある。
われわれは、わが国のODAが相手国から日本の援助として認識され評価される「顔の見える援助」とするため、日本の技術力・ノウハウが優位性を発揮し得る分野(例えば、経済成長を促す電力・通信・輸送などのインフラ整備、環境技術、耐震構造技術、また設計から運転保守指導までの一貫したプロジェクトマネジメントなど)を重点的に推進すべきであると考える。
その方針の下に、予算配分に際しては、以下を考慮すべきである。
わが国のODAは、多数の省庁がそれぞれの実施機関を持ち、独自の事業を展開している。これらの関係機関の機能には類似・重複が散見され、わが国ODA全体としての効率を引き下げるとともに、国全体としての政策の方向性を見えにくくしている。現行のODAは、各省の決定した事業の集合体であり、国として統一した明確な政策によって打ち出されたものとはいい難い。
こうした多くの省にまたがるODA政策を一元化し、ODA実施の最終的な責任を明確化するためには、政府内に、ODAに関する総合的な戦略を企画・立案する司令塔が必要である。具体的には、経済財政諮問会議のごとく、内閣総理大臣を議長、関係閣僚、民間有識者をメンバーとする「ODA戦略会議」を設置し、同「会議」が司令塔の役割を果たすべきである。
司令塔による総合的な戦略の下、わが国ODAを効率的に遂行するためには、実施機関の業務を見直した上、各機関の連携を図っていくことが必要である。具体的には、特殊法人改革の流れの中で国際協力銀行(JBIC)ならびに国際協力事業団(JICA)の業務内容を精査したのち、ODAメニューである無償資金協力・技術協力・円借款の有機的な連携を強化するよう求める。
また、民間による途上国インフラ投融資案件に対しては、ODAとその他公的資金(OOF)、貿易保険が有機的かつ一体的に供与されることが望まれる。この意味において、ODAとOOF双方を担うJBICと、(独)日本貿易保険(NEXI)とのより一層の連携強化を期待したい。
加えて、わが国に数多くある各省・関係機関の技術協力関係業務を一覧性を持って掌握し、それぞれの業務の重複を省くため、技術協力・人的支援を一元的に効率的に実施し得る体制を整えるよう望む。
ODA政策は、被援助国の発展段階や時代の変化に適宜適切に対応する必要がある。開発途上国のニーズは、昨今ますます多様化しており、発電設備、橋梁等いわゆるハコモノを必要としている国が引き続きある一方、人的資源の育成が課題となっている国もある。
こうした多様なニーズに対応するためには、被援助国毎に実施優先度を盛り込んだ、木目の細かい国別援助計画を官民が協同して策定するとともに、定期的な見直しを行う体制を構築する必要がある。
昨今、開発途上国においても電力・通信・鉄道・空港などの公共インフラの民営化が進展しており、こうした案件に関してわが国民間企業の協力を強く望む声がある。民営化は経済の活性化のためには不可欠であり、日本の企業経営のノウハウとプラントの効率的操業を含む経営技術の移転のための人的・資金的支援をODAにより一層推進すべきである。
開発途上国、とりわけ後発開発途上国(LLDC)においては、やや規模の大きいインフラ建設に対する協力を望む声も大きい。これらLLDCの財政状況を考慮し、かかる経済インフラ案件を対象とする無償資金供与の制度を創設すべきである。
九州・沖縄サミットでの公約である「デジタル・デバイド」解消(IT途上国支援策、5年間で150億ドル)を鋭意推進する必要があるが、途上国の中には、基本的な通信インフラの不足、すなわち「アクセス・デバイド」の解消を急務とする国が多い。従って、まずはその支援に重点を置くべきである。
一方、IT産業は日進月歩であり、従来の円借款のように対象案件の特定から借款調印まで3〜4年を要するようでは支援効果が薄れる。円借款手続きのスピードアップとともに、足の速いITセクターローンの創設が望まれる。
また、情報通信案件は、国境を越えたプロジェクトとなる可能性が高い上、遠隔教育や遠隔医療等、メニューが多様化する可能性も高い。外務省がイニシアティブをとって、関係省庁との連携を進め、途上国支援策の積極的推進を図るべきである。
今後ますます複雑・多様化する途上国ニーズに適宜適切に対応するためには、官民連携の推進により民間の知識・経験を、より積極的に活用すべきである。ODAの現業に精通した人材・専門家を充実させるため、案件形成などで実績のある民間企業(コンサルタント・商社・メーカー・エンジニアリング会社等)の国際的ネットワークを十分に活用するとともに、関係省庁(外務省・財務省・経済産業省等)との人事交流などを通じ、わが国全体としての効率的援助を図るべきである。
これに関連し、JICAなど実施機関の海外事務所の幹部に民間人を登用することを提案したい。
民間企業は貿易・投融資活動を通じ、各国現地にて日々当該国の援助ニーズについて肌身で感じており、大使館やJICA事務所の機能を補いうる情報を保有しているうえ、ハード・ソフト両面での知識・経験も併せ持つ。
従って、ODAの国別援助計画策定、プロジェクト形成、民間投融資案件とODA案件の連携等、さまざまな局面において官民が多面的に連携がとれるよう望む。
総じて、今なおODAについての情報公開が不足している。例えば、各種の調査については、JICAの開発調査のみならず、各省が外郭団体・外部研究機関に委託して実施した調査等の情報は必ずしも十分に開示されていない。各種調査の関連が不明であるため、重複や無意味な調査が行われている可能性もある。
納税者である国民の理解を得るため、また非効率性・不透明さの排除のため、徹底した情報公開がぜひとも必要である。
ODAに対する正しい理解を国民一般に広めるためには、国内広報活動を更に一段と強化する必要がある。例えば、テレビによる定期的なODA紹介番組を拡充することも一法である。こうした番組の提供により、ODAに携わる関係機関、NGOおよび企業の活動に対する正確な認識が広まることを大いに期待するとともに、多くの国民が国際協力に対するポジティブなイメージを持ち、国際協力に自ら参加しようとする意欲が向上するよう望む。
また、国内広報のみならず、被援助国においても日本の援助が正しく理解され評価されるよう、一層の広報活動を展開すべきである。