[経団連] [意見書]

担保・執行法制の見直しに関する基本的考え方

−法制審議会で審議中の担保及び執行制度の見直しに関するコメント−

2002年1月21日
(社)経済団体連合会
経済法規専門部会

I.当面の課題

現在、不良債権の回収・処理の促進と不動産市場の活性化の観点から、悪質な執行妨害の排除、担保物件の適正な管理、執行手続の合理化等を通じて、担保権実行の円滑化と裁判所の執行手続の信頼性向上を図ることが喫緊の課題となっている。
特に下記の点については、2003年の通常国会で整備を行うべきである。

1.短期賃貸借制度の廃止と抵当権者審査型借家権(仮称)の創設

  1. 短期賃貸借制度の廃止
    現行の短期賃貸借制度は、正常な賃借人保護の制度としては、競売手続に要した時間の長短により賃貸借契約および敷金返還請求権等が買受人の引受けになるかどうか左右されるという点で十分に機能していない。加えて、いわゆる占有屋などによる執行妨害の手段として巧妙に利用されている結果、妨害の立証が困難であり、訴訟により排除できる場合でも競売参加者に無用のコスト負担をかけ、競売制度そのものの信頼性と実効性を損っている。よって、廃止すべきである。

  2. 抵当権者審査型借家権(仮称)の創設
    賃借人が建物賃貸借契約の内容につき賃借権設定前の全ての抵当権者の同意を得た場合には、その旨を登記に明記することによって、契約期間が残存している場合に契約期間の長短を問わず買受人が当該建物の賃貸借契約を引き受ける、「抵当権者審査型借家権(仮称)」を創設すべきである。
    この制度によって正常な賃借人が保護される結果、不動産の所有者や抵当権者にとっても当該不動産の収益性と換価価値の維持が期待できる。

2.滌除制度の廃止と新・担保権消滅制度(仮称)の創設

  1. 基本的考え方
    現行の滌除制度は、抵当権者にとっては、滌除の申し出から1ヶ月という限られた熟慮期間に、自己競落義務が付随した増加競売を行うかどうか判断しなければならず、第三取得者にとっても完全な所有権を取得できる保証がないという点で、抵当権者と第三取得者双方にとって問題のある制度であり、廃止及び新制度の創設も含めた見直しを行うべきである。

  2. 新・担保権消滅請求制度(仮称)の創設
    国民経済の観点から特に滞留しがちな債務超過型の抵当不動産については適正な価額で迅速に市場に戻すことが必要であり、こうした場合に滌除制度が機能することが期待されるが、先に挙げた理由等により、実際に機能する場面は極めて限定的である。そこで、滌除制度に代えて、下記による新・担保権消滅制度(仮称:別紙参照)を創設することを提案する。


  3. 現行滌除制度の問題点と改善案
    上記のような制度が仮に創設できない場合においても、少なくとも、現行の滌除制度について、以下の修正を行うべきである。

    1. 増価競売における債権者の買受義務の廃止と増価枠の見直し
      現行の増価競売において、抵当権者は、第三取得者の申出価格より10分の1以上高価に売却できない場合、必要としない抵当不動産でも取得が義務付けられている。この、「10分の1以上」という増価枠は、買受人が現われる可能性を低め、抵当権者の負担を高めている。
      そこで、第三取得者が申出た金額の例えば20分の1以上の高価で抵当不動産が売却できないときには、当初の申出価額で第三取得者に抵当権の滌除を認めるものとすべきである。
    2. 滌除権者への抵当権実行の通知の廃止
      現行の制度では、抵当権者が滌除権者に抵当権実行の通知をした後1ヶ月経過しなければ競売の申立をすることができないため、執行手続の遅延の原因となっている。滌除権者は不動産に抵当権が設定されていることを既に承知しているのだから、抵当権者の滌除権者への抵当権実行の通知義務は廃止すべきである。
    3. 抵当権者の熟慮期間の延長
      抵当権者に与えられた時間的余裕が少ないため、抵当権者の熟慮期間を現行の1ヶ月から2ヶ月へ延長すべきである。

3.抵当権に基づく抵当物件管理制度の創設

  1. 基本的考え方
    現在、債権者が債務者の不動産を管理する制度としての強制管理については、抵当権に基づくものは認められていない。その結果、物件所有者の管理の放棄や競売を妨害する占有屋の入居など、様々な問題が生じている。適正な管理の下で抵当物件の価値を維持するため、抵当権に基づく抵当物件管理制度を創設すべきである。

  2. 抵当権者の競売申立後の管理
    少なくとも、抵当権者の競売申立後については、裁判所は、抵当権者の申立に基づき、所有者の作為又は不作為により抵当物件の価値が減少していることが認められる場合には、抵当物件の管理開始決定を行い、管理人を選任するものとすべきである。併せて、所有権者が自ら管理する意思を有する場合に、再び所有者が管理することも認められるよう所要の制度整備を行うべきである。 また、競売申立前にも抵当権に基づく管理を認めることの是非についても検討すべきである。

  3. 制度の概要(案)
    管理人は以下の権限と責任を有するものとする。

4.動産先取特権の行使要件の見直し

  1. 基本的考え方
    民法上、動産売買における代価及びその利息については、売買の対象となった動産上に先取特権が認められている。
    しかし、先取特権を実行するための競売については、民事執行法により、執行官への目的動産の提出または目的動産の占有者による差押承諾書の提出が手続開始の要件とされており、実際には目的動産の占有者が、困窮した債務者である場合が多いため、任意の協力が期待できず、先取特権の実行は非常に困難となっている。
    正当な権利の実行が円滑に行われるよう、動産先取特権の行使要件を見直すべきである。

  2. 新たに設けるべき実行手続
    非占有の動産先取特権の実行手続として、一定の書面等により、対象動産の特定が可能な場合には、動産競売の手続を開始できることとすべきである。
    その場合、対象動産の特定に必要な「一定の書面等」についての裁判所の判断基準を明らかにし、また、関係者の異議申立を認めるかどうかについても検討すべきである。

5.担保権実行段階における敷金等返還請求権の取扱いについて

現行制度の下では、担保権実行の各段階における、担保不動産の賃借人の敷金等返還請求権について、その保護の程度にばらつきがあり、予見可能性が無い。
そこで、担保・執行法制の整備と並行して、賃借人の敷金等返還請求権の取扱いについても明確にすべきである。

II.今後の課題

現行法制下では、例えば、テナントビルにおけるIT関連設備や、その設備を運用するためのソフトウェア等の知的財産権に関連する権利については、建物と一体として担保権を設定し、または、換価処分をすることが認められていない。
不動産と動産、または、動産と知的財産権等について、相互の利用上、一体として担保権を設定、あるいは、換価処分を行う方が適切である場合には、当事者の意思により、一体として扱うことを認めるような、より柔軟な担保・執行制度の創設について検討すべきである。

以 上
別 紙
新・担保権消滅制度(仮称)の概要

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