[経団連] [意見書] [ 目次 ]

誰もが起業家精神を発揮できる社会へ

−新産業・新事業創出に関する提言−

2002年4月16日
(社)経済団体連合会

I.なぜ今「起業家精神」の発揮か

1.わが国経済の現状

90年代に入り、わが国経済は、低迷を続けており、物価の低下に伴いデフレが進行するという事態に陥っている。このため、2001年度の名目GDPは95年度の水準にまで減少している。また、製造業の海外生産比率が増加傾向にあるなど、産業の空洞化も進んでおり、雇用問題は深刻の度を増しつつある。こうした事態を克服するためには、新産業・新事業の創造を通じて、安定的な経済成長の確保や雇用機会の拡大を図る必要がある。
しかし、2001年版中小企業白書によると、平成8年〜11年平均の廃業率が5.6%に対し、開業率は3.5%と、廃業企業数が新設企業数を大幅に上回っており、一貫して開業率が廃業率を上回るアメリカとは様相を異にしている。国際的な評価をみても、国際経営開発研究所(IMD)の2001年世界競争力ランキングによると、わが国の起業家精神度、会社設立の頻度は調査対象49ヵ国中最下位となっている。ロンドン大学等による2001年グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)報告書においても、起業活動力が調査対象29ヵ国中28位とされている。

2.今、求められること

今求められていることは、経済の活力を維持し、国民生活の安定を確保する観点から、起業家精神の涵養と、その発揮を妨げている要因を除去し、新産業・新事業を創出することである。2001年のグローバル・アントレプレナーシップ・モニター報告書においても、わが国の起業家精神の制約要因として、風土、税制、政府規制や官業等の問題ならびにベンチャー企業評価能力の不足等が指摘されている。
そこで、個人の能力を伸ばし、個性を活かすとともに、リスクへの挑戦を評価して成功を褒め称え、あるいは、事業に失敗しても再挑戦を認める社会風土の醸成に努めるとともに、従来の発想にとらわれず、産官学が協力して、起業家精神の発揮と新産業・新事業の創出に効果的な環境を大胆に整備していく必要がある。活力が低下しつつあるとはいえ、わが国は依然世界第2位の経済大国であり、1,400兆円を超える個人金融資産を有している。この体力のあるうちに、新しい時代を切り開くため、果敢にチャレンジしていかなければならない。
以下では、当面の課題として政府、地方公共団体、大学そして大企業が早急に対応すべき事項を整理した。そして中長期的な課題として起業家が生まれる風土、気風を醸成することが重要であることを指摘するとともに、経団連が担うべき役割についてまとめた。

II.当面の課題(早急に対応すべき事項)

1.政府

社会風土を変える上で政府の役割は大きい。率先して新産業・新事業が生まれる土壌を作るとともに、環境整備のための大胆な支援策を講ずる必要がある。このため、省庁横断的な官民共同の「創業戦略会議」を設置し、以下の事項を早急に検討するとともに、その実施に当たっては、各政府機関でバラバラとなっている支援措置を集中化し、効率的な支援体制を整えるべきである。

(1) 起業税制の整備

リスクを冒す新ビジネスへの挑戦を促すためには、ベンチャー企業への投資の活性化やリスクに応じた報酬が可能となるよう、税制面の整備を図ることが急務である。

  1. エンジェル税制の拡充
    起業家の最大の課題は、創業から事業を軌道に乗せるまでの間における資金確保である。間接金融では、リスクの高いベンチャー企業が安定的な資金を充分確保することは期待できない。直接金融を拡充する必要があるが、創業段階におけるベンチャー企業の資金調達先は起業家とその家族が中心で、英米のように、ベンチャー企業に投資、支援するエンジェルからの投資が少ないという問題がある。これは、現行のエンジェル税制は、投資家にとってメリットが少ないためであり、制度導入から平成14年3月末までの利用件数は、わずか15社226件に過ぎない。エンジェル税制を大胆に改善し、起業家、個人投資家双方にとって利用価値を高めることが不可欠である。
    例えばベンチャー企業に投資した場合、英国では投資額15万ポンド(約2,800万円)を限度にその20%、フランスでも投資額3万7,500フラン(約83万円)を限度にその25%の税額控除がそれぞれ認められている。わが国においても、ベンチャー企業への出資の一定割合を税額控除する制度を導入すべきである。
    また、主要国と同様、ベンチャー企業への出資に係る損失について、一般所得との通算を認めるとともに、損失の繰越期間を5年間に延長する必要がある。わが国では、ベンチャー企業への投資に係る損失は、他の株式投資に係る所得としか通算できないが、欧米主要国では、他の一般所得との通算が可能である。例えば、米国では、5万ドル(約660万円)を限度に一般所得との通算が可能である。78年に制度が拡充されたこともあり、新規設立法人数は、60年代は年間20万社程度だったが、80年代には60万社に増大したといわれている。
    また、現行エンジェル税制では、投資対象企業について政府の確認が求められているため、手続きに手間がかかり、制度利用の制約要因となっている。したがって、政府による確認を不要とするとともに、投資対象企業の範囲は、わかりやすく、できるだけ限定的なものとならないようにすべきである。

  2. 欠損金の繰越期間の延長
    欠損金の繰越期間は日本では5年間だが、例えば米国では20年間である。欠損金の繰越期間を延長することにより、企業がリスクをとって新しい事業を起こす環境が整備される。少なくとも10年に延長する必要がある。ことに、新規事業を創出した企業には特例で延長を認めるべきである。

  3. 研究開発促進税制の拡充
    現行の増加試験研究費等税額控除制度のメリットは、制度の縮小や経済低迷の長期化等により縮小しており、実際の控除額は基本的に低下傾向にある。新しいビジネスシーズを生み出す研究開発の重要性を考慮すると、研究開発費の増加分のみならず、研究開発費全体を対象とすることを検討すべきである。具体的には研究開発に係る減価償却資産(無形固定資産も含む)と繰延資産の即時償却を認めるとともに、研究開発費の対売上高比率が一定の水準を超える企業については、研究開発費の一定割合の割増損金算入と、その無期限の繰越(あるいは研究開発費の総額または売上高の一定割合超過額を対象とする税額控除)を認めるべきである。

  4. 連結納税制度の改善
    わが国の連結納税制度の対象法人は100%子会社とされている。しかし、新事業へのマネジメントの資本参加などを通じ、子会社を通じた新事業創出のためには、連結対象範囲を少なくとも米国並みの80%子会社まで認めることを検討すべきである。また、制度適用前の子会社の欠損金が認められないことになったため、子会社を新設して新しい事業を興してきた企業の努力が報われないことになる。将来的には子会社の連結前の欠損金を通常の法人税の体系と同様に認めるべきである。さらに、連結付加税は連結納税制度の基本理念を損なう制度であり、2年後の見直しを待つことなく早期に廃止すべきである。

  5. ストックオプション税制の拡充
    ストックオプションの権利行使によって課税の繰り延べができる年間権利行使総額の上限は1,000万円から1,200万円に引き上げられる方向だが、これではインセンティブとして十分とは言えず、思い切って上限を引き上げる必要がある。また、外国企業の本邦子会社は、親会社の株式に関してストックオプション制度を利用できないという問題がある。国内における経済活動が活発化するよう、ストックオプション税制を拡充すべきである。

(2) 規制改革の推進

わが国には、広範な産業分野に政府の許認可等の規制が存在し、民間の自由な事業展開や創意・工夫の発揮を妨げている。今後、民間活力の一層の発揮を促し、新産業・新事業を創出していくためには、「民間にできることは民間に委ねる」との原則に基づき規制改革を推進し、民間ビジネスへの政府の関与・介入を徹底的に排除するとともに、特殊法人等の事業を含めた官業の見直しを行う必要がある。
とくに、IT関連分野を中心に、事業環境が急速に変化する中、新規産業や新商品・新サービスの創出が活発に行われることが期待できる分野については、事前規制型行政を事後チェック型に転換することを基本として、自主・自律・自己責任原則に基づく原則自由な市場を確立する必要がある。また、今後、大きな雇用機会が生まれることが期待されている医療・介護・福祉、雇用・労働、教育、環境分野等の生活関連サービス分野については、経営形態の多様化や競争条件の整備を進め、多様な事業主体による多様なサービス内容の提供が可能となるような制度の確立が求められる。
同時に、新事業の拠点としてのわが国の魅力を高めていく上でも、ビジネス・生活インフラの高コスト構造をもたらしている土地利用、運輸、流通、エネルギー、農業等の分野における規制を抜本的に見直すとともに、各種行政手続きの簡素化・透明化を図っていく必要がある。また、起業やベンチャー企業にとって有益な海外のビジネス関係者の活用を容易にするため、APECビジネストラベルカードのように、人材の国際的移動を円滑化する制度を構築する必要がある。
さらに、新しい挑戦を行う起業家に資金が円滑に供給されるための環境整備も必要である。例えば、現行の証券取引法上の私募制度は、ベンチャー企業の機動的な資金調達を阻害しており、私募の証券発行に関する投資家数50人未満、人数算定期間6ヵ月等の制限の見直しが求められる。

(3) 政府調達の改善等

政府がベンチャー企業の商品・サービスを積極的に購入・利用することが、ベンチャー企業の信用力の向上と創業段階での収入確保に寄与するとともに、ベンチャー企業の実績作りにもなる。ベンチャー企業の入札参加の実質的な足枷となっている、政府調達における実績主義、規模制限を廃止する必要がある。とくに、情報システムの政府調達については、仕様書作成、入札業務に関する民間コンサルタントの活用、現行の総合評価落札方式の見直し、単年度予算主義の見直し等を行う必要がある。
また、中小企業技術革新制度(日本版SBIR)は、平成13年度約180億円と、米国の10分の1程度にすぎないので、その拡充を図るべきである。同時に、従来のように政府がターゲットを絞ってその実現のため複数企業に連合を組ませて技術開発を行う手法ではなく、優秀な人材、ベンチャー企業の発掘、育成が可能となるよう、公募と外部専門家による評価に基づいてプロジェクトを決定する手法を導入すべきである。
さらに、PFIを活用した政府事業の外部委託を促進する必要がある。一般競争入札の一類型として、多段階選抜方式や契約交渉を認める必要がある。また、PFIについては、従来の施設だけでなく、政府サービスについても対象とし、積極的に推進すべきである。

2.地方公共団体

産業の空洞化が進展する中で、わが国経済のさらなる発展と地域経済の活性化を促すためには、各地域において新産業・新事業を創出していく必要がある。地方公共団体は、地域の主体的な担い手の立場から、大学をはじめとする地域資源を活かして新産業・新事業の振興を図らなければならない。

(1) 地域における人材ネットワークの構築

  1. 今後、地方公共団体が主導して、地域において、産官学にわたる人的、物的資源をデータベース化するとともに、ベンチャー企業等のニーズに対して適切なアドバイスや起業に必要な情報を提供するワンストップサービス部門を設ける必要がある。

  2. 新産業・新事業の創出を推進するためには、起業家、ベンチャー企業等が、インキュベータ、ベンチャーキャピタル、エンジェル、コンサルタント、弁護士、公認会計士、税理士、大学教員、企業経営者等の専門家の支援を得られるよう、地方公共団体が主導して交流の場を設け、起業家が人的ネットワークを構築できる機会を提供する必要がある。特に、起業家が、背中をみて経営の参考にする人材と出会いにくいという声が強いことから、ベンチャー企業と大企業や中小企業の経営者等が交流できるようにすることが望まれる。

(2) 地域インキュベーション機能の強化

地方公共団体主導で、各地において、多くのビジネス・インキュベータが設置されている。しかし、わが国の場合、先ず建物ありきで、家賃は割安だが、ベンチャー企業に対する支援機能が弱いという問題がある。平均スタッフ数でみてもわが国が0.7人にすぎないのに対し、米国では2.8人、英国では5.8人となっており、専門人材の層が薄く、外部資源の活用、大学等との連携も弱いというのが実態である。米国では、インキュベーションの運営に当たっては、入居者と外部の各種ネットワークとを適切に結びつけ、起業家、ベンチャー企業への支援サービスを行うことに主眼が置かれている。
わが国の公的インキュベーションにおいても、今後、ソフト支援サービス(各種情報提供、補助金・融資等の紹介、経営指導、大学の紹介・交流機会の提供、販路開拓支援、知的財産権の取得等)を拡充していく必要がある。そのため、企業活動に通じ幅広いネットワークを有する民間の人材や起業に関する専門家を、インキュベーション・マネージャーとして採用するとともに、民間のインキュベータとの連携を推進することが望ましい。
また、米国の優れた高度技術開発型インキュベーションは、大学の中または近傍に所在するのが一般的であり、わが国においても、高度技術型ベンチャー企業を志向するインキュベーションは、技術や専門家を有する大学との連携を強化すべきである。

(3) その他

新産業・新事業は、地域の特性に合わせて推進していくべきであり、例えば、インキュベーションの施設にとどまらず、自治体が既に形成した公的施設を民間に思い切って貸与したり、包括的に委ねることにより、地域の特性に応じた新しい事業や付加価値を高めた事業の展開を積極的に進めていくべきであり、地域の経済や産業活動の活性化にも大いに貢献すると考えられる。また、地場産業、地域の大学、非営利法人との関係などをふまえた地域経営戦略を策定すべきである。そのため、ビジネス感覚に優れた民間人を責任者として活用していく必要がある。さらに、事業税、固定資産税、都市計画税などの地方税を減免し、創業支援を推進すべきである。

3.大学

大学は、高度な人材と技術を有する地域社会の有力な構成員として、新産業・新事業の創出などを通じて地域産業の振興に貢献することを、その使命の一つに明確に位置付け、起業シーズの発信や起業人材の輩出を推進することが期待される。

(1) 大学発ベンチャー企業の創出

  1. かねてより大学の技術が社会的に活用されるケースが少ないという批判がある。今後、わが国の新産業・新事業の創出を推進していくためには、大学において、論文だけでなく、技術・アイデアの事業化や民間企業の指導、特許の取得、企業との連携(共同・受託研究、ベンチャーの起業および支援等)を教員、研究者の重要評価基準に位置付ける必要がある。

  2. 大学が有する資源の積極活用に向けて、とくに国公立大学の研究設備などをベンチャー企業など民間との共同研究、製品開発などに使用できるように開放するとともに、研究テーマや技術情報をデータベース化し、民間が大学との連携を図りやすくすべきである。

  3. 大学関係者は、技術的知見には詳しいが、技術の商品化やビジネスの経験が少なく、ベンチャー企業の立ち上げ、運営や、技術の事業としての活用を主導しにくいのが実情である。産と学とのコーディネーター機能の強化に向けて、産と学とのリエゾン担当部門やTLOにおいて、技術を評価できる目利きや商品化の知識・ノウハウを有する専門家あるいは法務や財務の専門家を積極的に活用する必要がある。このため、大学が、インキュベーション機能を自ら有するか、あるいは民間のインキュベータと提携することが検討に値する。

  4. 国立大学の独立法人化に際して、民間との連携の柔軟性を確保できるよう、非公務員型を選択することが望まれる。また、大学の研究者が発明した技術の知的財産権については、原則として、適切な報奨のもとで組織としての大学に帰属させることとする必要がある。独立法人化以前においても、産学連携で生じた大学の研究者の成果について、大学が管理・処分を決定できるような措置を講じることが望ましい。

(2) 起業家教育の拡充

ビジネスを目指す学生や起業家からは、大学、大学院ではビジネスを学ぶことができないという不満が出されている。起業を目指している社会人、大学教員等が、じっくり起業家教育を受けられる機会を設けることも期待される。また、大学、大学院において、会計実務、マーケティング実務やマネジメント、ベンチャー企業等に関する公開講座を開くとともに、大学の授業を一部開放することが求められる。
さらに、大学、大学院において、技術系の学生に対するMOT教育(Management Of Technology)、事業計画書作成やビジネスモデル説明ノウハウなど、経営、ビジネス教育を拡充する必要がある。
ビジネスに関する教育においては、ビジネスの現場を知っている人材が有益である。ビジネスの経験が豊富な企業経営者、ベンチャー企業経営者などを活用することが望まれる。

4.大企業

わが国経済の活性化のためには、技術、人材、資金、情報、経営ノウハウなどの経営資源を豊富に有する大企業が新事業開拓、新商品の創出に果敢にチャレンジしていくことが期待される。

(1) 大企業についての指摘

新しい事業機会をつかみ、企業を活性化するためには、あらゆる社員が起業に挑戦する、あるいはそれを評価し応援する社風を築く必要がある。しかし、経団連が会員企業へ行なったアンケートにおいて、各社から次のような点が指摘されている。

  1. 「集中と選択」による新事業の抑制ムードがあり、社内の新事業提案能力や新事業開拓意欲が低下している。
  2. 研究開発が積極的に推進されているが、費用対効果の問題から、新商品化、新事業化に結びついていないケースが多い。
  3. リスクへの挑戦や起業をめぐる困難の克服への努力が評価されていない、起業した者の敗者復活が困難など、人事評価や人材活用のあり方が新規事業開拓者に不利になっている。
  4. 新規事業挑戦者の提案する革新、異質なアイデアが排除され、スピードやリスクテイクといった起業家的特質が失われつつある。

また、以上のほかに既存企業が新産業・新事業開拓に取り組む際の課題としては、人材の発掘・育成の重要性、事業撤退・投資基準の明確化、経営者のリーダーシップの発揮などが指摘された。

(2) 大企業への期待

  1. 上述したようなことから大企業において、社員が起業家精神を発揮して、新産業・新事業に取り組めるよう、革新的な企業風土を経営者のリーダーシップにより構築することが期待される。とりわけ、新たな事業への努力が報われ、失敗しても再挑戦できる人事、評価等を行うことが望まれる。

  2. また、社員の発意を活かして新事業を開拓するコーポレートベンチャーの推進に向けて、ベンチャーキャピタルとインキュベータの機能を有するサポートセクションを社内に設置し、起業を目指す社員を支援するとともに、ベンチャー企業教育を行うことが望まれる。経団連のアンケートでは、コーポレートベンチャーの支援制度を持つ企業が24%であり、その増加が期待される。

  3. 大企業の事業化にふさわしい市場規模が見込めないもののユニークな社内技術については、コーポレートベンチャー方式を活用して事業化を推進することも考えられる。

  4. 事業構造の再編成によって事業を取り止める場合においても、マネジメント・バイアウト(MBO)の手法などを活用して、従来の社員等が事業を継続できる機会を与えることも検討に値する。

なお、新事業部門は、研究、開発、設計、製造、営業、品質管理、財務、経理、法務などの機能をゼロから立ち上げており、事業基盤が整っている既存事業とは異なる尺度で評価しなければならない。新規事業やその担い手の評価に際しては、経営者が現場の取組みを的確に把握する必要がある。

(3) 独立ベンチャー企業との連携

  1. 前記のアンケートにおいて、大企業とベンチャー企業とのパートナーシップ上の課題を調査したところ、独立ベンチャー企業の経営基盤、過去の取引実績の無さ、供給能力、商品の品質などが懸念材料として指摘された。戦後大企業は、実績はなくとも技術力や潜在能力が高いベンチャー企業に出資、発注、技術援助等を行うことによってベンチャー企業を育て、共存共栄を図ってきたケースも多いが、最近は、ベンチャー企業育成の姿勢が弱まっていると言われており、独立ベンチャー企業と積極的に連携を図ることが期待される。

  2. 大企業としても、技術革新の速い分野やコアビジネス以外の分野で、外部の資源、技術、ノウハウを活用し、自らは得意な分野に専心することにより、結果として経営資源の最適な配分、有効活用が可能となる。とくに、独立ベンチャー企業との対等な連携は、新規事業開拓にとって有効であるのみならず、ベンチャー企業の起業家精神、迅速な意思決定、行動力などの刺激を受けることで、大企業の保守性や横並び意識を克服し、組織を活性化することも期待できる。今後、前述のサポートセクションが独立ベンチャー企業との連携の窓口となり、社内の関係部署に展開するとともに、事業の可能性の評価を行うことが期待される。また、連携する独立ベンチャー企業に対し、資金、法務、生産、販売、マーケティング等のサポートを行うことが望まれる。

III.中長期的な課題 − 起業家が生まれる風土、気風の醸成 −

開業率が廃業率を下回っていることの背景には、起業に挑戦する人材や起業家を支援する人材が少ないことがある。したがって、中長期的な課題として、個性や創造性さらにはチャレンジ精神が尊重され、失敗から学ぶ者にチャンスが与えられる社会風土や国民意識を確立する必要がある。そのため、初等中等教育において、起業に役立つ教育を推進するとともに、教育界と産業界との連携を強化する必要がある。

1.起業家に必要な資質の涵養

起業家の多くは、小・中学生の時点で基本的な動機付けがなされていると言われている。したがって、初等教育段階において、起業家の卵を育てることもさることながら、自ら考える習慣の形成や、問題ならびに解決策の発見を促し、自立性、独創性、決断力など起業家に必要な要素を身に付け、個性の芽を育てることが重要である。
また、起業や付加価値創造の楽しさ、喜びを感じられるよう、職業体験や起業ゲーム、さらにはビジネスの仕組みの学習や企業の実地見学などを初等中等教育の中に組み込むことも大事である。これは、生徒が実社会への理解を深める上でも有効である。

2.教育界と産業界の連携強化

広く社会における起業家精神の涵養、発揮を図るためには、教師、生徒・学生がビジネスの現場に触れることができるようにする必要がある。教育界と産業界との連携を強化し、教育関係者が企業現場の見学や経済人との交流等を行う機会を拡充することが望まれる。
また、高校、大学、大学院の生徒・学生が、ビジネスを体験できるよう、ベンチャー企業、既存企業におけるインターンシップ制度を推進する必要がある。

(おわりに)

以上、誰もが起業家精神を発揮できる社会を築き、新産業・新事業が各地域で活発に生まれ、発展する環境を整備するために、政府、地方公共団体、大学、大企業、さらには教育界が果たすべき役割について考え方を述べた。
経団連としては、新産業・新事業創出に向けて、上述の政策が実現するよう関係者に働きかけるとともに、ベンチャー企業支援の観点から、ベンチャー企業経営者と経団連会員企業経営者とが情報を交換する場として「起業家協議会(仮称)」を設け、人的交流を促進するとともに、そこで指摘された重要事項を経団連活動に反映させていく。

以 上

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