以下は、経団連(当時)が2002年4月に実施した「投資に関するアンケート調査」の結果をまとめたものである。
本年初より開始しているWTO新ラウンド交渉では、国際的な投資ルールの策定については、来年メキシコで開催予定の閣僚会議の後に交渉が開始されるべく検討作業が続けられている。また近年、世界的に、二国間投資協定、地域・二国間の投資分野を含む自由貿易協定・経済連携協定が増加している。
そこで、WTO交渉を中心に投資ルール策定に関するわが国経済界の意見を取りまとめ、わが国政府、諸外国の政府及び産業界、WTOに働き掛ける上で参考とするため、本調査を実施した。
経団連(当時)会員企業(貿易投資委員会及び二国間・地域委員会委員企業等)
140社・159件 (アンケート送付先:980社、回答率14.3%)
実効性ある協定とするためには、高水準の内容を望む意見が多い。その際には、全加盟国の参加しないプルリ(複数国間)協定を視野に入れる一方、プルリ協定にはASEAN諸国、中国及びNIEs諸国を含めることを求める声が多い。プルリ協定の場合、参加国のみ効果を認める条件付最恵国待遇とすべきである。
投資ルールの中でも、特に、透明性及び投資保護に関する期待が大きい。
わが国企業による投資の促進・安定化のためには、投資受入国における法令・規制の透明性が最も重要であることが明らかとなった。特に、法令・規制の公表、行政認可手続の透明性の確保を求める声が多い。
伝統的な分野である送金の自由及び収用・補償等の投資保護については、途上国であっても高水準の保護の適用を求める意見が多い。
対象となる投資は、対外直接投資に限定せず、知的財産権及び契約上の権利、長期及び短期のポートフォリオ投資、不動産投資等も含むべきであるとの意見が多い。特に、国際ビジネスの多様化に伴い、技術供与等の知的財産権、契約上の権利の保護の重要性が高まっているとの指摘が多い。
東アジア諸国を中心とする途上国を協定に参加させるためには、配慮が必要であるため、一定の措置に関しては経過期間を設定すること、条件付きで一時的な義務からの逸脱等も認められるとの意見が多い。
また、最恵国待遇、内国民待遇については、投資(拠点等の設立)前であれば、途上国に一定の例外、或いは可能な分野のみ自由化を約束する方式(ポジティブ・リスト方式)を採用することも考えられる
海外投資に伴って重要な経営資源であるキーパーソネルの入国・滞在・就労の自由化が重要であるとの意見が多い。
わが国企業の海外進出において、投資に伴う様々な特定措置の履行要求(パフォーマンス要求)が大きな障害となっている。特に、現地企業との合弁要求、国内販売の制限、技術の移転要求、一定割合の輸出要求については、制度的に規制することが強く求められる。
投資インセンティブについては、海外進出するわが国企業の多くがその利益を享受しており、途上国が投資誘致を促進する上での環境整備の一環と捉えられるため、規律する必要はないとの意見がきわめて多い。
加盟国のカバレッジや行政の効率性を考えると、WTO交渉の取り組みを優先すべきであるが、わが国企業にとって重要なASEAN諸国、中国、NIEs諸国といった国との間では二国投資協定を積極的に締結すべきであるとの声が多い。NAFTA諸国との投資協定に対する期待もある。
協定の構造
高水準のプルリ協定を目指すべきであるが、ASEAN諸国、中国及びNIEs諸国等が参加しない場合には、WTO全加盟国による協定を目指すべきであるとの意見が最も多い(39%)。他方、こうした国が参加しなくとも高水準のプルリ協定を目指すべきとの意見(33%)、WTO全加盟国による協定を目指すべきとの意見(28%)も少なくない。
プルリ協定に含めるべき国としては、ASEAN(32件)、中国(28件)、韓国(10件)、ブラジル(8件)、インド(7件)、EU(6件)、台湾(5件)と続いている。
プルリ協定となった場合には、プルリ協定参加国にのみ効果を認めるべきであるとの意見が多い(70%)。
協定締結の方式
一括受諾方式の対象として早期に締結すべきであるとの意見が多い(57%)。
項目のプライオリティ
透明性(130件)、投資保護(113件)に対する関心がきわめて高く、定義・範囲(79件)、紛争処理(76件)、内国民待遇(61件)、投資インセンティブ(47件)、例外・セーフガード(46件)、最恵国待遇(45件)、既存の協定との関係(29件)、パフォーマンス要求(29件)、開発条項・途上国配慮(21件)、キーパーソネルの移動(18件)と続いている。
定義
対外直接投資に限定せず、長期及び短期のポートフォリオ投資、不動産投資、さらに知的財産権及び契約上の権利等も含むべきであるとの意見が最も多い(48%)。
範囲
国家の安全保障に係る分野を除き、原則全分野を対象とすべきであるとの意見が最も多い(63%)。
投資保護
伝統的な分野である投資保護については、協定参加国全てに高水準の保護が適用されるべきとの意見が最も多い(56%)。
透明性
法令・規制の公表(127件)、行政認可手続の透明性の確保(115件)に対する関心がきわめて高く、国内司法・苦情申立手続の整備(90件)、法令・規制のWTOへの通報(68件)、情報提供要請に対する照会所の設置(53件)、法制・規制制定前の公告・討議の機会の付与(48件)と続いている。
最恵国待遇(MFN)
投資の前後を問わずMFNを義務付けるべきとの意見が最も多い(38%)。他方、投資前についてはポジティブ・リスト方式を認めるべきとの意見(29%)、途上国には一定の例外を認めるべきとの意見(23%)も少なくない。
内国民待遇(NT)
投資の前後を問わずNTを義務付けるべきとの意見が最も多い(33%)が、投資前についてはポジティブ・リスト方式を認めるべきとの意見(29%)、途上国には一定の例外を認めるべきとの意見(27%)がほぼ同数で続いている。
例外・セーフガード
途上国に対しては例外を認める一方、セーフガードは制限すべきとの意見が最も多い(49%)。他方、全加盟国に対して例外・セーフガードともに制限すべきとの意見も少なくない(33%)。
開発条項・途上国配慮
途上国に対して、一定の措置に関する経過期間を設定すべきとの意見が最も多い(48%)。他方、条件付きの一時的な義務からの逸脱を認めるべきとの意見も少なくない(33%)。
既存の協定との関係
既存の協定は、原則としてWTOに統合すべきであるが、条件付きで例外を認めるべきとの意見が最も多い(67%)。
キーパーソネルの移動
キーパーソネルの入国・滞在・就労の自由化を含めるべきとの意見が最も多い(66%)。
パフォーマンス要求
合弁要求(103件)、国内販売規制(94件)、技術移転要求(88件)、輸出要求(83件)に対する関心がきわめて高く、供給地指定要求(59件)、本社設置要求(54件)、プロダクトマンデート要求(51件)、研究開発要求(50件)、自国民雇用要求(48件)と続いている。
投資インセンティブ
投資インセンティブについては定める必要がないとの意見がきわめて多い(83%)。
紛争処理
WTO加盟国による紛争処理手続とすべきとの意見(50%)と投資家対国家による手続も認めるべきとの意見(50%)が拮抗している。
その他
環境保護に関しては、保護を目的とするルールからの逸脱を認めるべきとの意見(58件)が多い一方、ルールからの逸脱については紛争処理手続に委ねるべきとの意見(51件)も少なくない。
税制については、規律を定めるべきとの意見(53件)が、扱うべきではないとの意見(21件)を大きく上回っている。
投資家(企業)が負うべき義務については、定めるべきとの意見(41件)が、定めるべきではないとの意見(36件)をわずかに上回っている。
加盟国による労働基準の保護の責務については、定めるべきとの意見(40件)が、定めるべきではないとの意見(19件)を上回っている。
民間慣行については、定めるべきではないとの意見(34件)が。定めるべきとの意見(25件)を上回っている。
WTO交渉における取り組みを優先する一方、ASEAN諸国等とは高水準の内容を含む二国間投資協定を締結すべきとの意見がきわめて多い(89%)。
二国間投資協定を締結すべき地域としては、ASEAN(14件)が最も多く、中国(8件)、NAFTA(7件)、韓国(5件)、EU(3件)と続いている。