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日・ASEAN包括的経済連携構想の早期具体化を求める

2002年9月17日
(社)日本経済団体連合会

グローバル化の進展による世界的な競争激化を背景として、東アジアにおいても、ASEAN自由貿易地域(AFTA)の形成、中国のWTO加盟、さらには中・ASEAN自由貿易協定締結への動きなど、貿易自由化による経済規模の拡大や、競争による域内国の経済活性化を目指す動きが顕著となっている。特に、中・ASEAN自由貿易協定の協議が当初の予想よりも早く進展しているとの見方もあり、わが国としても、ASEANならびに中国との貿易投資関係のあり方を早急に検討する必要がある。
また、長引く不況の中で、構造改革の推進によるわが国経済の立て直しが急務となっている。東アジアは今後もますます世界の成長センターとしての活力を発揮していくものと見られており、わが国としては、ASEAN+3(日中韓)を中心とする統合された東アジア市場を形成し、その中で自由な企業活動を通じ、経済活力の維持・強化を図ることが重要となっている。
そうした中で、小泉首相が本年1月に発表した日・ASEAN包括的経済連携構想は、日・ASEANの経済関係のさらなる深化と、それを通じた国際競争力の強化を目的とするとともに、東アジア地域全体の経済連携に向けた重要なステップを提示している。わが国経済界としては、以下の観点から、同構想の早期具体化を強く求める。その上で、具体化のあり方についても、改めて提言していきたい。

1.東アジアのバランスある発展

近年、中国における多様なレベルでの豊富かつ良質な労働力の供給や、技術力の目覚しい向上、さらにはWTO加盟による市場開放と経済発展がもたらす巨大な消費市場への期待などから、わが国企業の中国進出が加速している。
他方、ASEANには、過去40年にわたる日系企業のオペレーション経験による人材の厚みや産業集積があり、輸出拠点としての基盤も確立されていることから、わが国企業にとってのASEANの重要性は変わらない。
わが国としては、ASEANを重要戦略地域と改めて認識し、東アジアのバランスある発展を目指すべきである。そのためには、わが国が主導権をもって、ASEANとの包括的経済連携構想を早期に具体化することが重要である。これに韓国ならびに中国との経済連携をあわせたASEAN+3を中心とする統合された東アジア市場の形成に努めるべきである。その中でヒト、モノ、カネ、サービス等の移動が自由になり、コストが下がることが、わが国企業にとって特に重要である。

2.対象分野と対象国の包括性の重視

わが国が通商立国として今後も繁栄していくためには、マルチの場であるWTO交渉を通じた自由化とルールの強化に引き続き努めるとともに、その促進を図るために、これまでわが国の対応が必ずしも充分でなかったバイラテラルおよびリージョナルの協定を活用していくことが重要である。
特にASEANは、民族、文化、歴史、さらには経済発展の度合いなどの面で多様性を有しており、民主化への移行期にあって不安定性を抱えている国もメンバーとしている。このため、ASEANの多くの国が経済発展を実現する上で、わが国が果たすべき役割は依然として大きい。わが国としては、こうした実情を十分理解し、投資協定の整備、ODAの戦略的な活用、人材育成の促進などを含め、国状に応じたきめ細かい経済連携のあり方を考えるべきである。その意味で、対象分野の包括性が重要であり、幅広い分野での経済連携を目指した日本・シンガポール新時代経済連携協定を参考にすべきである。
その一方で、ASEANが一体となって大きな力を発揮できるよう、その結束と安定が維持されることが、わが国にとっても非常に重要である。したがって、対象国の包括性を維持することも重要であり、その中で可能な限り高いレベルの連携強化策を早急に築くべきである。
具体的対応としては、二国間の国別交渉とASEAN全体との交渉を並行して進めるデュアル・アプローチを採るべきである。これにより、国別交渉がASEAN全体との交渉のベースとなり、また、ASEAN全体との交渉が国別交渉を促すといった相乗効果が期待できる。

3.国内構造改革の促進

統合された東アジア市場を形成するために、わが国が取り組むべき課題は多く、日・ASEAN包括的経済連携構想の具体化は、こうした課題への取り組みを加速させるものである。
まず、わが国自身が規制撤廃を軸とした構造改革を推進し、高コスト構造の是正、ビジネス環境の改善に取り組まない限り、事業活動を行う場としてのわが国の競争力を維持・強化することはできない。市場アクセスのさらなる改善を通じて、農業や製造業における国際競争力の弱い分野の改革を進め、産業構造の高度化を図る必要もある。あわせて、人の移動に関する自由化、円滑化も重要である。さらに、わが国が今後も発展していくための戦略的分野(医療、環境、バイオ、ナノテク、ITなど)の基礎研究の充実と応用開発の強化が急務となっている。日系企業が海外であげた利益をわが国に還流し得るシステムの整備も必要である。
わが国としては、同構想の具体化にあたり、こうした課題の早期解決を目指すべきである。

以  上

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