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「仲裁法制に関する中間とりまとめ」についてのコメント

− 司法制度改革推進本部「仲裁法制に関する中間とりまとめ」に関する意見募集(8月5日)へのコメント −
2002年9月13日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会企画部会

I.全体についての考え方

  1. 仲裁法が、UNCITRALモデル法に準拠して整備されることに賛成する。国際的に通用する仲裁法制を確立し、内外の紛争当事者に活用の道を開くことは、紛争解決の一層の円滑化に資するものと期待する。
    特に、海外の当事者の活用を促すために、新仲裁法がUNCITRALモデル法に原則準拠して立法化されたことを明らかにするとともに、法律の構成(内容と章立て)でUNCITRALモデル法に準拠していることが容易に認められるものとすることが望まれる。

  2. 仲裁も先例として将来の紛争事案における決定の予測可能性に資することから、当事者に対する守秘義務について留意し、かつ、当事者の合意を前提にして、一定の場合についての仲裁内容の公開に関して何らかの措置を検討してはどうか。

  3. 仲裁法制の整備はもとより重要である。ただし、法律の整備に止まらず、広く国際的取引に関し日本での仲裁を魅力あるものとするためには、英語で弁論を聞き法的判断を下すことのできる仲裁人の人材育成にも、国として意を用いるべきである。
    加えて、法制度の改正に併せてJCAA(国際商事仲裁協会)の制度や運用もより使いやすいものとなることを期待したい。

II.個別事項についての考え方

一部を除き、基本的に中間とりまとめの内容に賛成である。異論や追加意見のある事項および選択肢が示されている事項についての考えは次の通りである。なお、42頁の消費者保護に関する特則については意見を述べない。

第一編

第2 仲裁契約に関する事項について

[1] 仲裁契約の意義(定義)について(モデル法第7条第1項、第1条第5項関係)
1(紛争の仲裁適格について)
B案を支持する。当事者の合意がある限り、当事者自治を優先し、出来る限り仲裁適格を広く認めるべきである。身分関係等の仲裁に馴染まない事例もあるが、新仲裁法にこうした事例を網羅的に規定することは困難であり、他の法律で個別に仲裁適格を否定する規定を置くべきである。

[2] 仲裁契約の方式について(モデル法第7条第2項関係)
2(書面性の意義、書面要件を満たす媒体等の範囲について)
(2) 仲裁条項を含む文書が引用される場合について、どのように考えるか
A案を支持する。仲裁条項を引用する合意にも、慎重性及び明確性の観点から書面性を要求するべきである。また、引用形式については、仲裁条項を特定した引用に限らず、仲裁条項を含む文章への一般的言及がある場合には、反証がなされない限り有効な引用とみなすべきである。

第3 仲裁人及び仲裁廷について

[1] 仲裁人の数について(モデル法第10条関係)
紛争解決の迅速化とコストの低減の観点から、当事者合意の無い場合には、標準的人数を1名としてはどうか。

[2] 仲裁人の資格について(モデル法第11条第1項関係)
2(法人その他の団体が仲裁人として指定された場合について)
B案を支持する。訴訟ではなく仲裁での紛争解決を求める当事者の意思を出来る限り尊重するべきである。(なお、A案をとった場合にも、当事者の意思の合理的な解釈として、法人その他の団体に仲裁選定権限を付与したものと解釈すべき場合が多いと考える。)

第4 仲裁廷の権限について

[1] 仲裁事件を審理し、判断する権限の有無について仲裁廷自らが判断する権能について(モデル法第16条関係)
4 (仲裁廷の判断についての裁判所に対する不服申立てについて)
B案を支持する。仲裁廷が仲裁権限なしとの終局判断を行った場合にも、紛争解決を仲裁に委ねるとの当事者の仲裁合意を尊重するため、裁判所に対し、仲裁廷の仲裁権限ありとの決定を求めることにより、再度仲裁廷による仲裁判断を得る道を認めるべきである。

第5 仲裁手続について

[4] 仲裁手続の開始時期及び時効の中断について(モデル法第21条関係)
2 (仲裁の目的たる権利にかかる消滅時効の中断について)
A案をベースとし、機関仲裁の場合には、仲裁申立書を当該機関に提出した時点で時効の中断が生じるものとすべきである。

(注) 仲裁に付する申出を書面によって行うものとするかどうかについては、なお検討する。
仲裁申立に時効中断効を認める関係で、申立の事実及び時期の明確化が必要であり、書面性を要求すべきである。

[6] 申立て(statement of claim)及び答弁(statement of defence)(モデル法第23条関係)
賛成であるが、「3」について、故意・重過失による時機に遅れたる攻撃防御方法の提出に関する規律を厳格にするべきである

[8] 当事者が申立てや答弁を明らかにしない場合等への対応について(モデル法第25条関係)
「2」について反対する。仲裁手続は当事者主義に基づき行われるべきであり、相手方が答弁を明らかにしない場合であって、それがやむをえない事由によらない場合には、申立人の請求又は請求を理由づける事実を認めたものと取り扱うべきである。

[9] 仲裁廷の職権による鑑定について(モデル法第26条関係)
反対である。仲裁廷が専門知識を有さない場合には、専門家による鑑定を認めるべきではあるが、当事者主義に反するおそれがあり、また、仲裁費用が増加することから、鑑定を行うには当事者の合意が必要であるとすべきである。また、当事者の手続き保障を確保するため、鑑定の結果について当事者に反論の機会を与えるべきである。

[10] 裁判所の証拠調べの援助について(モデル法第27条関係)
1(援助の申立権者について)
B案を支持する。仲裁廷の許可を条件とする限り、当事者が証拠調べに関し裁判所の援助を求めることを認めても、仲裁手続の引き延ばしの濫用を防止できる。

2(対象となる証拠調べの範囲について)
C案を支持する。

3(裁判所が援助を行うための要件について)
A案を支持する。仲裁廷が必要と判断する限りは、出来る限り広く裁判所による援助を認めるべきである。

第6 仲裁判断及び仲裁手続の終了について

[1] 仲裁判断によるべき準則について(モデル法第28条関係)
3(当事者が仲裁判断のよるべき準則を指定しない場合の規律について)
B案を支持する。

[4] 仲裁判断書の方式及び内容について(モデル法第31条関係)
3(仲裁判断書の預置について)
反対する。仲裁判断は確定判決と同一の効力を有するものであることから、原本を保管する制度は必要と考える。電子データ化を認めれば裁判所の負荷を抑えることもできる。

[6] 仲裁判断の訂正(更正)及び解釈(補足説明)並びに追加的仲裁判断について(モデル法第33条関係)
賛成する。ただし、モデル法と同様に、仲裁廷の職権による仲裁判断の訂正(更正)の期間に制限を設ける(判断日から30日)こととすべきである。

(追加)保全措置について
ICC規則では、審理の終結の際、特別な場合には保全措置を講じることができる(第23 1項)。保全措置を規則のなかで明示することによって確実に執行がなされることとなり、仲裁への信頼が増すと考えられるため、準拠法によりうのではなく仲裁法案の中でも採用することを検討するべきではないか。

第7 仲裁判断の取消しの裁判について

[4] 仲裁裁判の取消しの裁判の申立てを受けた裁判所のとり得る措置について(モデル法第34条第4項関係)
反対する。モデル法に従い、仲裁手続を再開する機会を仲裁廷に与えるべきであり、その間は取消手続を停止する。

第二編

第1 仲裁人及び仲裁法廷関係

[1] 仲裁人の責務等について
2(仲裁人の民事上の責任について)
意見が分かれたためにコメントをしない。

第2 仲裁判断及び仲裁手続の終了関係

[1] 仲裁廷又は仲裁人による和解の試みについて
当事者の合意が無い場合でも和解を試みることは可能としてはどうか。

第3 準拠法関係

1(仲裁契約の成立及び効力の準拠法について)
賛成であるが、当事者の準拠法を明示的に指定していない場合も、仲裁廷が当事者の黙示の意思を勘案して準拠法を認定することを認めるべきである。

4(仲裁手続の準拠法について)
当事者の指定する準拠法を優先し、当事者が指定しない場合にのみ仲裁地法によるものとすべきである。

第4 その他

[1] 裁判所の管轄について
1(事物管轄権について)
B案を支持する。仲裁合意がなければ簡易裁判所に係属すべき事項については、簡易裁判所の事物管轄を認めるべきである。

[3] 仲裁人等の守秘義務について
守秘義務は仲裁のメリットの1つであり、仲裁人等に当然課すべきものである。また、当事者の守秘義務についても必要と考える。なお、当事者の合意があれば公開を認めることとする。
以 上

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