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電波の有効利用に向けて

2002年12月17日
(社)日本経済団体連合会
  情報通信委員会
  通信・放送政策部会

はじめに

電波は、国民の人命保護のための緊急通信など公共的な利用を中心として、これまで重要な役割を果たしてきた。近年、技術革新の急速な進展に伴い、携帯電話や無線による高速インターネット接続など、電波の用途は飛躍的に広がり、今や我々の生活に欠かせないものとなっている。情報家電の普及も期待されており、電波はますます身近なものとなっていこう。
企業においても、従来のマイクロ波での固定業務や放送の中継業務での利用に加え、在庫管理、物流業務でのICタグの利用、営業活動での無線データ通信サービスの利用など、電波利用が高度化・多様化しており、産業活動の基盤を形成しつつある。
誰もが、いつでも、どこでも必要な情報に容易にアクセスすることができる高度情報通信ネットワーク社会の実現が待たれているが、電波は、そのための最重要資源の一つに位置づけられる。
このような中で、電波政策が国民生活や産業活動に与える影響は大きくなっており、透明性、客観性、納得性の高い施策が求められている。電波は有限な資源であるだけに、特に有効利用に資する施策を講ずることが重要である。
日本経団連では、電波利用料制度の創設の際に意見を公表して以降、これまで会員企業からの要望に基づき非接触型ICカードに関する規制緩和や無線LANの利用帯域の拡大などを政府に申し入れてきた。一昨年の周波数割当計画の策定・公表、免許制度における比較審査方式の導入、さらには本年の電波の利用状況調査・評価制度の導入など、電波政策が転換期にある中、経済界においても、電波政策全般について検討し、以下の通り、現時点での考え方をとりまとめた。

1.電波利用の現状と課題

電波利用ニーズが高まる中、利用効率の向上と新規需要への対応が、電波政策が今日直面している重要課題である。

(1) 利用効率の向上

電波は国民の貴重な財産であり、有効利用は、利用の目的や形態、帯域、地域などを問わず、電波利用者、とりわけ免許人にとって、当然の責務である(以下、「電波利用者」という場合、個人を除くものとする)。しかしながら、電波が有効に利用されているか否かなど、利用の実態は必ずしも把握されていないのが現状である。
有効利用を促していく上で、まずは、例外を設けることなく、電波の利用実態を把握し、その結果を電波の分配、割当に的確、迅速に反映させていくことが重要である。また、電波利用技術は革新が著しいことから、有効利用技術の開発・導入を推進するとともに、その成果をいち早く政策に反映させることにより、利用効率の向上につなげていかなければならない。

(2) 新規需要への対応

技術革新などを背景に、電波利用が高度化・多様化している。無線アクセスなどの技術革新に伴い、広帯域の通信サービスをいつでも、どこでも利用したいというニーズが高まっており、特に、都市部の特定の周波数帯では、電波の新規需要が増大している。
利用実態の調査・公表などの取り組みと併行して、新たな電波需要への迅速かつ的確な対応が必要不可欠である。特に、同一周波数帯域で競合する需要には、透明性、客観性、納得性の高い行政対応が求められる。その際、電波を有効に利用しようとするインセンティブを電波利用者に付与するような環境を整備することも必要である。

2.電波有効利用政策の基本的視点

これらの課題を念頭に電波の有効利用に向けた施策を講ずるにあたって、以下を基本的な視点とすべきである。

第一に、利用効率が低いと評価された無線局については、その事実を公表し国民の監視の目に晒すとともに、最新技術の導入等による利用効率の向上を促すことが不可欠である。
第二に、利用効率が高いと評価された無線局についても、一層の有効利用を促すべく、諸制度を見直す必要がある。
第三に、新たに利用可能となった電波を経済の活性化に資する使途に割当てることによって、電波利用の経済的効率性の最大化を目指すべきである。
第四に、免許を要しない無線局を拡大するなど、緩やかな制約の中で革新的な無線技術の実用化を可能とすることによって、電波利用から得ることのできる価値を高めるべきである。

なお、一言で有効利用といっても、無線局の目的(現行の周波数割当計画においては、電気通信業務用、公共業務用、簡易無線通信業務用、アマチュア業務用、放送用、放送事業用、小電力業務用、一般業務用に区分されている)により定義が異なる。そこで、本報告では、無線局を、その目的の公共性に着目して、次の3つに便宜的に分類し、具体的な有効利用施策を論ずることとする。

  1. 「公務用」
    国や地方公共団体が国民の生命・財産の保護、治安維持などの業務のために運用する無線局
  2. 「公共的業務用」
    企業が公共性の高い業務を円滑、安全かつ安定的に遂行するために運用する無線局
  3. 「経済活動用」
    企業が消費者にサービスを提供するために運用する無線局

3.電波の有効利用に向けた施策

以下では、電波の有効利用に向けた施策を、直ちに実行すべき施策と、広く国民の意見も求めながら検討すべき制度等の見直しの2つに分けて記すこととする。

(1) 直ちに実行すべき施策

  1. 利用状況の調査・評価・公表
    本年、電波法が改正され、電波の利用状況を調査し、評価するための制度が導入されたのを受け、まず3.4GHz超の帯域の調査が行なわれることになっている。
    利用状況の調査・評価・公表は、電波の有効利用を推進するための前提となる情報を提供するものである。それによって電波利用の実態が国民に明らかになるとともに、免許人にとっても電波の有効利用に取り組む契機となることが期待される。利用状況の調査は、「公務用」を含め例外なく実施し、その結果の評価については、免許人が特定されないよう配意した上で公表することを原則とすべきである。なお、調査項目は、有効利用程度を評価する上で真に必要な項目に限定し、免許人、行政双方に過度の負担とならないようにすることが重要である。
    調査結果に基づき有効利用の程度を評価する場合には、無線局の利用目的との相対関係に十分配意する必要がある。即ち、利用度が低いことが直ちに有効に使われていないという評価につながるわけではなく、利用度が利用目的に照らして十分かどうかが重要である。基本的には、「経済活動用」は、利用者数、情報伝送量などの定量的指標を中心に判断されることが望ましい。「公務用」および「公共的業務用」については、定量的指標で有効利用の程度を判断することは適切でない場合もあることから、公共性など、定性的な観点をも踏まえた総合判断とならざるをえないと考える。また、利用目的にかかわらず、有効利用技術の採用の程度や割当当初と比較した場合の有効利用の進捗度も勘案すべきである。いずれにしても、有効利用程度の評価については、パブリックコメントを実施するなど、公正・透明な手続を経て確定すべきである。
    有効利用の程度に関する評価を踏まえて、周波数割当計画の変更案を策定するにあたっては、その時点で実用可能な技術を十分考慮し、出来る限り共用の可能性を追求すべきである。その際、例えば、共用する場合には使用できる周波数を若干広げるなどのインセンティブを付与する方策も検討すべきである。

  2. 「公務用」への割当の見直し
    電波は、その利用が公的部門から始まった経緯もあり、今日なお多くの周波数が「公務用」に割当てられている。他方、民間による利用に比べ、デジタル化などによる有効利用が進んでおらず、また、地方公共団体において、中央の縦割り行政の反映で周波数が細分化して割当られたまま、整理・統合が十分進んでいないなどの問題がある。
    人命および財産の保護、治安の維持などのための利用は否定すべくもないが、民間における電波利用ニーズの増大が予想される中、「公務用」への割当は、他の伝送手段への代替可能性や民間サービスへの委託可能性を精査し、真に必要なものに限定すべきである。また、例えば、用途毎に細分化された周波数を利用形態を勘案しつつ「地方公共団体用」として統合し、その範囲内で有効利用するよう求めることも考えられる。

  3. 分配・割当プロセスの改善
    電波は、国際電気通信連合(ITU)が定めた国際分配に基づき、各国内で具体的な分配が行なわれる。したがって、新たな電波利用を可能とするためには、行政において、パブリックコメントなどを通じて、常に国内の電波利用ニーズを的確に把握しておき、ITUにおける調整に反映させることが求められる。米国電気電子技術者協会(IEEE)や欧州電気通信標準化機構(ESTI)などの標準化団体に対しても、無線設備などのグローバルな運用が可能となるよう、わが国としての考え方を訴えていくことが重要である。
    また、国内への分配に際しては、無線設備のグローバルな流通を妨げることのないよう、国際的な分配に調和させることが基本である。その上で、事業者の創意工夫や技術革新の成果を生かしたサービスが速やかに展開できるよう、利用目的や技術基準、免許方針をできる限り早期に決定し、公表する必要がある。

  4. 技術基準適合証明制度の改善
    電波が実際に利用されるためには、当該用途に開発された無線設備が迅速に市場に投入されるようにすることが不可欠である。そのためには、特定無線設備の技術基準適合証明制度において、製造者などが自ら技術基準への適合を宣言する「自己適合宣言方式」を早期に導入すべきである。また、その対象は、認証機関による認証の対象となる全ての設備とすべきである。対象とする設備を限定する場合であっても、対象から除外するのが相当であることを裏付ける客観的なデータが示されない場合は、自己適合宣言の対象とすることが適当である。

(2) 制度等の見直し

  1. 免許方式
    今後、再配分等により電波を新たに割当てるにあたって、特に「経済活動用」の無線局については、同一周波数帯域で複数の利用ニーズが競合することが予想される。そのような状況に迅速かつ的確に対応するためには、免許方式の見直しが必要である。既に、携帯電話等の免許の競願処理手続として比較審査方式が導入されているところであるが、審査の透明性、公平性、客観性を担保する観点から、「経済活動用」の無線局であって、電波を専用する形態については、市場原理を取り入れた免許方式とすることが適当である。
    市場原理を取り入れた免許方式としては、オークション方式や「市場原理活用型比較審査方式」(* 従来の比較審査方式に人口カバー率などを新たな審査項目として取り入れた上で各審査項目を点数化し、その点数に基づいて免許人を決定する方式。総務省の研究会で提案されている)などが考えられる。オークション方式については、価格が高騰する、免許期間が長くなり、再配分が困難となる、使途が特定できない、といったデメリットがあり、導入に反対する意見があった。他方、それらのデメリットは制度の設計次第で是正可能であり、少なくとも将来の導入の可能性まで否定すべきではないとの意見もあった。したがって、当面は、「市場原理活用型比較審査方式」による対応が妥当であり、方式の詳細について検討を深める必要がある。また、実際の運用にあたっては、比較審査項目と各項目毎の配点を事前に公表し、パブリックコメントを実施するとともに、得点を含めた審査結果を公表することによって、手続の透明性を確保すべきである。
    なお、オークション方式は、引き続き中長期的な課題として検討する必要がある。

  2. 電波利用料制度

    1. 電波利用料は、無線局全体の受益を目的として行なわれる事務に要する費用(電波利用共益費用)を免許人が負担するという趣旨の下、導入当初は、電波監視施設および総合無線局監理システムの整備・運用などに充てることとされた。その後、特定周波数変更対策業務などに使途が拡大される一方、利用料総額の約85%を携帯電話端末などの包括免許における特定無線局に依存するなど、受益と負担の関係が曖昧になっている。現在、後述する電波の再配分に要する給付金の財源に電波利用料を充てることが検討されており、受益と負担の関係が改めて問われることになろう。また、電波利用料は無線局数を基に料額を算定するため、電波の有効利用を促進するような形とはなっていない。さらに、国および一定の独立行政法人については適用除外に、地方公共団体が開設する水防、消防および防災行政用の無線局については料額が減免されている。
      これら現行制度が抱える問題を解決するための方策について検討する必要がある。

    2. まず、受益と負担のアンバランスを解消するという観点から、無線局数を基に料額を算定するのは、電波監視施設および総合無線局監理システムの整備・運用、技術試験事務の実施などの使途に関わる費用とするのが適当である。
      次に、少なくとも電波の有効利用の意欲を殺がず、可能な限り有効利用のインセンティブを電波利用者に与える制度とするため、再配分に要する補償費用などについては、例えば、(イ) 電波利用から得た収入、使用帯域幅、空中線電力などを基に料額を算定するとともに、(ロ) 電波利用ニーズが高い帯域を使用している場合は一定の割増率を乗ずる、利用状況の調査に基づく有効利用の程度の評価を料額にも反映させる、といったことが考えられる。
      これに対し、(イ) 使途によって料額の算定根拠を違えることの合理的な理由が乏しい、(ロ) 再配分に要する補償費用などが予め正確に把握できるかどうか不明である、(ハ) 「電波利用から得た収入」の定義が難しい、(ニ) 使用帯域幅、空中線電力などに基づいて料額を算定する場合には、利用目的を勘案する必要がある、といった問題点や課題も指摘された。
      いずれにしても、有効利用を促す電波利用料制度のあり方については、こうした問題点を踏まえつつ、さらに検討を深める必要がある。

    3. なお、現在、電波利用料に関する規定が適用除外となっている、あるいは減免されている無線局からも、他の無線局と同様の考え方に基づいて電波利用料を徴収することとすべきである。その場合、国が運用する無線局について利用料を徴収することは、内部取引であることから徴収コストが発生するだけで意味がないとの意見もあるが、行政運営コストを可視化することによって、行政の効率化を促すことは重要であると考える。
      免許を要しない無線局については、低出力で伝搬範囲も小さく、電波の適正な利用に大きな混乱を生じさせる恐れがほとんどないことから、見直し後の電波利用料制度においても、従来どおり利用料徴収の対象とすべきではない。

  3. 再配分制度
    新規の電波ニーズに迅速、的確に対応していくためには、上記の制度見直しと併行して、短期間での再配分を実施していく必要もある。その際、「公務用」の無線局も、周波数帯の移行あるいは電波利用の終了の例外としないのは当然である。
    今後、電波の利用状況の調査に基づく有効利用程度の評価と既存免許人への影響に関する調査を踏まえた上で、再配分を含む周波数割当計画が変更されることになるが、パブリックコメントを複数回実施することなどにより、公正、透明な手続を確保すべきである。
    また、再配分に伴い、既存免許人に損失が発生する場合の補償費用は、原則として新規免許人に一定の負担を求めるのが適当である。ただし、免許を要しない無線局へ再配分する場合に、同様に費用負担を求めることについては、緩やかな制約の下で発展してきた、それら無線局の普及に水を差す恐れがある上、費用徴収方法についても種々の課題があることから、慎重な対応が求められる。

  4. 審査基準等
    国際的な周波数分配の決定を遵守しつつ、電波の有効利用を促す観点から、「経済活動用」の無線局については、用途制限を緩和し、免許人に一定の利用の自由を与えることが望ましい。例えば、技術革新の動向をにらみつつ、空中線電力など一定の技術基準を遵守すれば、免許された無線局の目的の範囲内で、(イ) 具体的な使用形態は自由とする、(ロ) より高度な無線技術の導入を可能とする、(ハ) 同種類の無線業務であるにも関わらず、個別事業毎に割当が細分化されている場合は、統合化していくことなども検討する必要がある。
    また、都市部では電波が逼迫している一方、地域によっては余裕のある場合もあることから、全国一律でなく、地域毎の利用状況を勘案した割当を実施すべきとの意見がある。実験無線局については、その可能性が検討されつつあるが、実用局で行なわれた場合、全国的な利用を可能とする再配分が困難になるなどの問題もあることから、メリット、デメリットを十分勘案する必要がある。

おわりに

以上、電波の有効利用に向けた施策について述べてきたが、電波政策の公正性、透明性、効率性を確保することが、これらの施策を実行する上での大前提であることを最後に強調しておきたい。

以 上

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