[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「企業・産業再生に係る事案に関する企業結合審査について」(原案)
(2003年2月5日 公正取引委員会公表)に関するコメント

2003年2月24日
(社)日本経済団体連合会
 経済法規委員会
  競争法部会

わが国企業・産業の再生のためには、経済・社会環境や産業構造の変化に迅速に対応し、柔軟に企業組織を改編させていく必要がある。こうした観点から、2002年12月19日、政府の産業再生・雇用対策戦略本部が「企業・産業再生に関する基本指針」を公表し、産業活力再生特別措置法の対象となる案件の企業結合審査について、迅速審査類型の明示と審査期間等を記載する「運用指針」の策定を表明したことを高く評価する。また、これを受け、公正取引委員会が具体的な「運用指針」の策定作業を行っていることは、望ましい方向である。
しかしながら、上記「運用指針」の原案として2月5日に公取委が公表した「企業・産業再生に係る事案に関する企業結合審査について」(原案)(以下、「運用指針(原案)」と呼ぶ)は、迅速な企業・産業再生のために十分なものとは言えない。そこで、以下の通りコメントする。
なお、上記「企業・産業再生に関する基本指針」では、産業活力再生特別措置法の対象となる案件以外の一般案件についても、迅速審査が可能な類型を明確化することとされている。これについても速やかな類型明確化を強く求める。
また、公取委の企業結合審査体制は諸外国と比べ質・量ともに十分ではなく、迅速審査類型の明確化を前提に、その審査体制の強化が図られるべきである。

1.ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)の使用とあるべき迅速審査類型

  1. HHIは、これまでのわが国の企業結合規制・審査で用いられてこなかったのみならず、独占規制における市場構造要件(独禁法第2条第7項第1号)および価格の同調的引上げの報告制度における市場構造要件(独禁法第18条の2および同条の運用基準)でも全く用いられておらず、わが国独禁法上全く新しい概念であり、唐突である。
    また、HHIは、輸入等の個社のシェアが取れない部分の取り扱いが、その算定上不明確であり、予見可能性が低い。さらに、仮に、個社のシェアが取れない部分について一括して二乗するとされた場合には、HHIが大きく出ることとなり、迅速審査類型の対象となる案件の範囲を狭めることとなる。

  2. 運用指針(原案)「1-(1)-ア〜エ」においては、迅速審査類型の要件として、このHHIに加え、シェアや競争者の数・集中度を課しており、「経産省 競争政策研究会 中間報告(案)(2002年12月25日公表)(以下、「経産省報告(案)」)」を踏まえれば、現行の実務より厳しくなっているのではないかとの懸念がある。

  3. 上記に鑑み、「運用指針」においては、従来から用いられてきたシェア等を用いるべきであり、経産省報告(案)で提示された「セーフハーバーのルール(同報告(案)資料-13)」を迅速審査類型として使用することが望ましい。なお、経産省報告(案)における有力な競争者類型(同報告(案)P47〜48)と思われる「1-(1)-ウ」については、HHI要件を外すとともに、「市場シェア35%以下」ではなく「市場シェア50%以下」とすべきである。また、海外価格連動類型(同報告(案)P49)、ユーザーの購買力類型(同報告(案)P48)が全く取り上げられていないことは、迅速審査の類型とはいえ、疑問である。

  4. 上記「セーフハーバーのルール」を迅速審査類型として用いない場合には、企業結合審査の予見可能性の向上、行政の透明性の向上の観点から、その理由を詳しく明示すべきである。

なお、HHIは、同程度の規模の企業間のカルテルないし協調寡占の成立の可能性を示唆する指標としては、必ずしも上位企業累積集中率(CRx)より優れているとは言えないとされる。それでもなお、仮に、将来、HHIを使用する場合には、上記の通り、これまでの独禁法の運用では使われてこなかった指標であることから、その内容について、例示等により分かりやすくするとともに、周知徹底を図るべきである。

2.「1-(1)-オ」

「1-(1)-オ」は、現行企業結合ガイドラインの記載に市場シェアの要件を追加しており、現行ガイドラインより厳しくなっている。一方、現行ガイドラインに記載のある「業績不振に陥っているかどうかなどの経営状況」について全く触れていない。
そこで、市場シェアの要件を外し、「業績不振に陥っているかどうかなどの経営状況」についての記述を追加すべきである。

3.「(注3)」、「(注10)」

(注3)および(注10)は、企業側からみて、予見可能性に乏しく、迅速審査類型を明示するという「運用指針」の趣旨にふさわしくないのみならず、「1-(1)-ア〜オ」で示された迅速審査類型の意義そのものを損なうように運用されかねないので、削除すべきである。

4.「1-(2)」、「1-(5)」

「1-(2)」において、「当該企業結合に係る一定の取引分野を画定するに当たっての基本的考え方、市場シェアおよびHHIを算定すべき商品又は役務の範囲、市場シェア及びHHIを算定する際の指標(販売数量、販売金額等)の選択や用いる統計資料の選択などの提出資料の作成方法」を教示するとしたことは評価できるが、これらが不明確であったり、この「教示」に時間がかかったりすることにより、迅速審査類型を明示した意義が損なわれるおそれがある。また、提出資料の明確化は、詳細審査との関係でも重要となる(「1-(5)」参照)。そこで、上記の、一定の取引分野を画定するに当たっての基本的考え方等を明確化するとともに、「教示」手続に期限を設けるべきである。

5.「1-(4)」

「新規参入や輸入の増加等」の「等」はその内容が不明確であり、明示すべきである。その際、現行企業結合ガイドライン上認められている全ての考慮要素を明示すべきである。
また、仮に、「1‐(1)‐ア」以降の迅速審査類型として、経産省報告(案)の海外価格連動類型(同報告(案)P49)、ユーザーの購買力類型(同報告(案)P48)を盛り込まない場合には、ここで明示するとともに、「前記(1)ア〜オのいずれかに該当する蓋然性が認められる場合は、」は、「前記(1)ア〜オのいずれかに該当する場合と同程度に独占禁止法上問題とならないと認められる場合は、」に改めるべきである。
「当事会社が講じる旨申し出た営業譲渡、当事会社グループ内の会社の株式の処分等の措置」の「措置」には、産業再編計画等の実施による過剰供給能力の削減措置が入ることを明示するとともに、その場合には、生産能力シェアも踏まえて、市場シェアを判断すべきである。
また、上記「措置」には、知的財産権や保有施設の競争者への開放等(経産省報告(案)資料17参照)が入ることを、同様に、明示すべきである。

6.「2 待機期間の短縮」

事前相談において独占禁止法上問題がないとされたものについては、引き続き行われる届出手続において待機期間を設ける必要性はないはずである。なお、この点は、産業再生特別措置法の対象となる案件以外の一般案件でも同様であり、事前相談において独占禁止法上問題がないとされた案件の届出手続については、待機期間をなくすよう改めるべきである。

以 上

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