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2002年度環境自主行動計画評価報告書

2003年3月26日
環境自主行動計画第三者評価委員会

1.はじめに

(1) 環境自主行動計画について

1997年7月、京都議定書の採択に先立ち策定された経団連(当時)の環境自主行動計画は、温暖化対策編 #1 の統一目標として、「産業・エネルギー転換部門の参加業種からの2010年度のCO2排出量を1990年度レベル以下に抑える」ことを打ち出した。
自主協定あるいは自主行動計画は、新たな環境政策として世界的に脚光を浴びている手法であり、ドイツ、オランダをはじめいくつかの国では温暖化緩和策の主要な政策として取り入れられている。近年ではEUの自動車からのCO2排出削減対策に見られるとおり、日本や韓国も含む国際的協定にまで広がっている。こうした状況を反映して、2001年に刊行されたIPCC #2 第3次報告においても政策手段としての自主協定が詳細に分析されており、そのなかで日本経団連の環境自主行動計画は、地球温暖化対策推進大綱のなかに位置付けられ、政府の審議会(産業構造審議会)で毎年レビューが行われることから、自主協定と同等の性格を有するとされている(第3分科会報告書第6章417-418頁)。
こうしたなか、2002年度に実施した環境自主行動計画第5回フォローアップへの参加業種は34業種(産業・エネルギー転換部門)まで拡大し、これらの業種からの2001年度のCO2排出総量は1990年度比3.2%減と着実に成果を上げている。

(2) 第三者評価委員会設置の経緯

このような産業界の努力が評価され、2002年3月に改訂された「地球温暖化対策推進大綱」(以下、大綱)では、「自主行動計画は...(中略)...環境と経済の両立を目指す本大綱の中核の一つを成すもの」と位置付けられ、2002〜2004年度の第1ステップにおいては産業界の自主的取り組みを尊重することとされた。他方で追加的対策として、「自主行動計画の透明性・信頼性の更なる向上」が課題とされている。
そこで日本経団連は、2002年7月、環境自主行動計画第三者評価委員会を設置した。本委員会は、環境自主行動計画のフォローアップ(温暖化対策編)が適正に行なわれていることを第三者の立場から確認し、透明性・信頼性を評価するとともに、改善が望まれる点を指摘し、透明性・信頼性のさらなる向上に資することを、日本経団連から要請されている。

(3) 評価の対象範囲および方法

本委員会の目的および活動について、委員会規約は次のように定めている。
第2条 本委員会は、以下を目的とする。
  1. 環境自主行動計画のフォローアップ(温暖化対策編)が適正に行なわれていることを第三者の立場から確認し、透明性・信頼性を評価すること。
  2. 環境自主行動計画のフォローアップ(温暖化対策編)について改善が望まれる点を指摘し、透明性・信頼性のより一層の向上に資すること。
第3条 本委員会は、第2条に定められた目的を達成するために、以下の活動を行う。
  1. フォローアップ参加業種によるデータの収集、集計、(社)日本経済団体連合会事務局(以下、事務局)への報告の各プロセスが適正に実施されたかどうか評価する。
  2. 事務局が、報告されたデータを正しく集計したか評価する。
  3. フォローアップ全体のシステムにつき、透明性・信頼性の向上の観点から改善すべき点を勧告する。
  4. その他、第2条の目的を達成する必要な諸活動を行う。

2002年度は、初年度ということもあり、フォローアップの手続面を中心に、各業種におけるデータの収集、集計、ならびに日本経団連事務局におけるデータの集計の方法に問題がないかどうかを評価することとした。中期的には、各業種の目標設定の妥当性、各業種の目標と全体目標との関係の評価、また本自主行動計画の環境効果及び効率性の評価手法開発が必要であると思われ、次年度以降の本委員会の検討課題とする。
評価に当たっては、まず全体の集計に携わった日本経団連事務局より説明を受けるとともに、各業種から事務局に提出されたデータを点検した。その上で、特徴的と思われる6業種 #3 を抽出し、委員会の場で担当者からヒアリングを行なった #4
以下、その結果をふまえて全体評価を述べ、次いで、環境自主行動計画の透明性・信頼性のさらなる向上を図るために、短期的、つまり2003年度の第6回フォローアップから取り組むべき課題と、中期的に検討していくことが望ましい課題とに分けて、改善すべき点を列挙する。

2.フォローアップ全体評価

フォローアップ参加各業種は、傘下の企業・事業所に統一フォーマットを配布するなどして、詳細にわたる排出実績データを収集している。これらのデータは、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)による報告等に裏づけされている。 排出実績データの集計に当たっては、第5回フォローアップより、日本経団連事務局が予めIPCC方式 #5 の排出量計算式を組み込んだ電子フォーマットを配布しており、ほとんどの業種がこのフォーマットを用いている(添付資料参照)。各業種から提出されたデータを日本経団連事務局が合算する際も、電子フォーマットを用いて自動的に計算している。 ヒアリングを実施した6業種については、特に以下の項目をチェックした。

  1. カバー率および集計方法
    3業種で業種内の企業すべてをカバーした調査を行なっている。その他も1業種がエネルギー使用量ベースで約90%、もう1業種が同80%カバーしている。また4業種が積み上げにより合計値を算出しており、うち1業種は業種団体非加盟企業分についても政府統計により補足している。1業種は政府統計を主に用いており、バックアップするために会員企業データの積み上げも併せて実施している。1業種についてはカバー率が30%と低いことから、積み上げではなく業種全体のCO2排出原単位に生産高を乗じる手法を採っている。

  2. フォローアップ対象範囲
    2業種で他業種と重複の可能性が指摘された。政府統計を主に用いている業種では、他業種との重複はないと見られる。1業種については若干の企業がデータを提出しないケースがあると報告された。また運輸部門の排出量との重複が1業種について指摘された。こうした重複について、今のところ調整が十分に行なわれていない。

  3. 購入電力からのCO2排出係数
    3業種は発電端係数、1業種は受電端係数、1業種は90年度に固定した係数を用いている。残り1業種は計算手法が異なるため、購入電力からのCO2排出係数を用いていない。ただし日本経団連事務局が集計して総排出量を算出する際には、整合性を確保するため、全業種につき発電端係数に揃えて計算し直している。

  4. 目標設定の根拠
    各業種の目標設定の考え方について、a)業界の供給計画をベースとした将来の原単位目標からさらに削減、b)参加企業のエネルギー使用量目標の積み上げからさらに削減、c)参加企業のエネルギー原単位目標を加重平均、d)会員企業の削減可能予測量の中間値を算出、e)生産高・原単位・電力原単位の変化を前提として算出、f)個別対策ごとの削減量を積み上げといった根拠が示された。

  5. 排出量増減理由の説明
    各業種は、環境対策・リサイクルの実施、製品の高付加価値化、燃料としての石炭使用の増加といった排出量増加要因、生産量の減少、業界の省エネ努力といった減少要因を挙げているが、総じて説明が十分なされているとはいえない。製品の新陳代謝が激しく、増減の理由の分析が困難な業種もある。

以上、全体評価としては、各参加業界はそれぞれの事情の中で最善を尽くしており、また、経団連事務局による集計方法は適正なものと認められる一方、改善が望まれる点もいくつか見受けられるということである。こうした全体評価を踏まえた上で、短期および中期の課題のうち何点かを以下に具体的に述べる。

3.短期的課題

(1) フォローアップ対象範囲の調整

フォローアップの対象とする事業の範囲(バウンダリー)に、業種間でばらつきが見られる。たとえば、業種によって主たる事業のみに限定する場合と、同じ工場内で行う、本来であれば他の業種に含まれる事業を含めている場合がある。この場合、他の業種のほうに当該事業からの排出量が含まれ、ダブルカウントになっている可能性がある。また、従来から電力と鉄鋼の間では、自家発電など電力のやり取りにつき調整が行なわれている。他の業種間でも、こうした調整が行なわれることが望ましい。
また部門間の調整も必要である。政府統計の区分によると、産業・エネルギー転換部門業種の企業であっても、オフィスのエネルギー使用等に伴う排出量は本来、民生業務部門に含められるべきであり、資材の運搬等に伴う排出量は運輸部門に含まれるべきものである。ところがフォローアップの際に、これらの排出量が産業・エネルギー転換部門の排出量に合算されている場合がある。政府統計との整合性をとるためにも、こうした他部門に含めるべき排出量は切り分けてデータを取るべきである。
フォローアップの対象とする企業の範囲についても、一定のルールを設ける必要がある。業界団体に加盟していない企業については、環境自主行動計画に主体的に参加しているとはいえないので、原則として範囲に含めないほうがよい。対象はデータを継続的に提出できる企業に限定し、これを積み上げたものを業界データとして用いることを基本とすることが望ましい。政府統計等を用いて若干の補正を行うことは容認できるが、捕捉不可能な企業の排出量を拡大推計等の方法により推計することは「自主」行動計画の趣旨から外れると共に、その信頼性を低下させる。

(2) 2005/2010年度予測値の前提

自主行動計画に基づく対策を実施した場合の2005年度のCO2排出量予測値(=見通し)が1990年度比1.8%増、フォローアップ実施年度以降、自主行動計画に基づく対策を実施しない場合の2010年度のCO2排出量予測値(=BAU;Business as Usual)が同8.4%増となっているが、これらの予測の前提となる将来の生産額(量)予測が明らかでないため、妥当性が検証不可能になっている。それに伴い目標の妥当性、さらには目標達成の可能性の検証にも支障を来している。これは、環境自主行動計画の全体目標の達成が不確実であると見られる一因となり、計画自体の信頼性を低下させかねない。こうしたことを避けるためには、予測値の前提に統一経済指標を用いると共に、それを公開することが望ましい。
また、計画の信頼性を高めるためには、計画策定年度から目標年度までの期間において、その都度予測した生産額(量)を実績値に修正していくことが望ましい。

(3) 総量目標/原単位目標採用の理由の明確化

現在、業種別目標は、CO2排出総量、CO2排出原単位、エネルギー使用量、エネルギー使用原単位の4種類の指標のなかから、各業種が自由に選択する形になっている。部外者にはなぜ業種によって違う指標を採用しているのか理由がわからないため、不透明感を与えがちである。これに加えて、産業・エネルギー転換部門全体としては総量目標を掲げており、個別業種の目標の積み上げになっていない。
原単位は効率性を表す指標であり、CO2排出抑制の業界努力を比較するには有用であるが、全体としての削減量が不確実だという点が指摘できる。また、電機・電子業界のように生産額当たり原単位で目標を立てている場合 #6 、国際競争、デフレ等による急速な価格下落に見舞われた場合、原単位が悪化するという矛盾も生じる。他方、総量目標のほうが、京都議定書の国別総量目標との関係はわかりやすいが、経済状況により相当の努力をしたにもかかわらず目標が達成できなかったり、反対にほとんど努力しなくても達成できたりする問題がある。
こうした諸点を考慮した目標設定の検討が中期的課題と思われるが、短期的には少なくとも各業種が総量目標なり原単位目標なりを採用している理由を明示すべきである。

(4) 排出量増減の理由説明

フォローアップの個別業種版では、各業種のCO2排出量が単に増加した、あるいは減少した事実にとどまらず、その理由を定性的にせよ説明することが望ましい。排出量の変化には、生産量の増減、海外移転、設備稼働率の変化、製品変化、産業構造変化等、さまざまな要因の影響が考えられる。
特に電力業界をめぐる最近の諸問題が今後のCO2排出量にどのような影響を及ぼすかが大きな社会的関心事になっており、十分な説明が求められる。その他、清涼飲料業では、ペットボトル飲料の急増によりペットボトル製造に伴う排出量が増加しているのに加え、熱処理過程の多い日本茶の増加で排出原単位が増加しているという指摘がある。また電機・電子業界では、特に組立部門の海外移転が進み、国内ではエネルギー消費の大きい装置型産業である半導体デバイスの占める割合が増大している。
こうした背景事情について、できる限り数値データも公表しつつ、増減理由を詳細に説明することで、理解が深まり、環境自主行動計画の信頼性が増すと思われる。

4.中期的課題

(1) 排出量増減の要因分析

環境自主行動計画のなかで最も注目されるのが、目標設定が適切か、それが自主行動計画によって達成されるかという点である。現時点で排出実績が目標水準を大幅に上回っている業種については、目標の達成可能性について懸念が生じる。逆に、排出実績が既に目標水準以下になっている場合は、目標を下方修正する可能性を問われることになる。こうした業種は目標の見直しを行うか、見直しが不要あるいは不可能である場合は、その理由を明示すべきである。
いずれにせよ、増加あるいは減少の要因、およびその要因が今後の排出量の推移に及ぼす影響について、またその結果としての目標達成の見通し、目標の妥当性について、より綿密な数量分析が産業界全体および各業種について行なわれることが望ましい。

(2) LCA的観点からの評価

製品使用によるCO2排出量の削減に貢献する代わりに、当該産業の工場からのCO2排出量が増加する場合がある。たとえば自動車の燃費はトップランナー基準を前倒し達成するスピードで向上しているが、これには鋼板の薄肉化による車体の軽量化が一役買っている。このことは運輸部門の排出削減に貢献するが、他方で圧延プロセスが増え、鉄鋼業の排出量は増加してしまう。また液晶テレビやプラズマディスプレイの普及により民生部門の排出量は減少するが、これらを製造する電機・電子業界の排出量は増加する。建設業についても、フォローアップで集計される排出量は建物の施工段階のみであるが、実際には過半のCO2排出量は建物の使用から生じており、施工段階のみのCO2排出量把握では正当な評価とならない。
このように、製品の製造時だけでなくライフサイクル全体で見た排出削減への貢献を評価することが、各業種の努力を公平に評価しさらなる努力を促すためにも重要である。従来の産業部門に限定した実績評価に加えて、より広範囲の削減実績を定量的に評価する手法を中期的に構築していくことが望まれる。

(3) 専門機関による評価手法およびデータベースの開発ならびに評価

上記(1)、(2)とも新たな評価手法の開発が望まれるが、そのためには高度な専門知識が必要である。また評価に必要なデータベースを蓄積するとともに、その透明性を高めることも重要である。今後は、こうした評価手法の開発とデータベースの構築、ならびに評価そのものを、専門の外部研究機関にゆだねるのも一つの方法であろう。この点については、来年度、引き続き本委員会において検討する。

5.おわりに

評価委員会としては、引き続き環境自主行動計画の評価を行う。特に来年度は、諸外国との比較を考慮した分析を行う観点から、海外実地調査を課題としたい。各業種には、自主的アプローチの利点を最大限発揮し、上述の課題に積極的に取り組み、環境自主行動計画の信頼性・透明性を向上させるよう期待する。
短期的課題として挙げた点については、参加業種間で改善の要否について検討し、2003年度の第6回フォローアップで実現することが期待される。
中期的課題については、参加業種間で早急に検討を開始し、大綱の第2ステップ(2005年度以降)を視野に入れて、3年を目安に統一的な評価・分析方法の構築に取り組んでいただきたい。
最後に、透明性・信頼性の向上のためには、フォローアップ結果概要版ならびに個別業種版において、各業種の努力がなるべく多くの人々の理解を得る必要がある。記載事項や体裁についても、第三者の視点を取り入れながら検討し、改善できるところから改善すべきである。第6回フォローアップでは、少なくとも各業種の取り組みの概要について、ひと目で比較できる一覧表を添付するなどの工夫が求められる。

以 上

  1. 併せて廃棄物対策編を実施。
  2. Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)地球温暖化のリスクに関する最新の科学的・技術的・社会経済的な知見をとりまとめて評価し、各国政府に助言することを目的とした政府間機構。
  3. 大量排出業種として電力、鉄鋼、化学、政府統計によるデータ捕捉を行なっている業種として製紙、多数の会員企業を抱える業種として電機・電子、建設の計6業種からヒアリングを行なった。
  4. 本委員会の活動状況については、http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/vape/iinkai.html 参照。
  5. IPCCは、国別のCO2排出実績を算定する方式として、燃料種別使用量に平均発熱量を乗じて発熱量を求め、これにCO2排出係数を乗じて燃料種別のCO2排出量を算出したものを積み上げて総排出量を算出する方式を提示している。平均発熱量、CO2排出係数については、各国の実情に応じた数値を採用できるとしている。
  6. 電機・電子業界のように製品の種類が多岐にわたる場合、製品により重量・形態等が異なるため単位数量当たりの原単位を算出するのが困難であり、生産額当たりの原単位を指標とせざるを得ない事情がある。

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