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WTO加盟後の中国との
通商・経済関係の拡大に向けて

第I部 総論

2003年5月20日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

1978年の改革・開放政策以降、中国は国内構造改革の実施、市場経済への転換ならびに積極的な外国投資の誘致等を行なってきた結果、四半世紀にわたり高成長を続けている。また2001年12月にはWTO加盟を果たし、世界に大きく門戸を開放するとともに、国際ルールの遵守を約束した。わが国経済界は、こうした中国の英断を歓迎している。WTO加盟後1年以上が経過したが、この間、中国政府は膨大な数の法律および制度の整備及び改正を行なう等、加盟約束の完全な遵守に向けて努力を続けている。日本の経済界は、このような中国政府の努力を高く評価するとともに、今後もこうした努力が継続され加速化されることを望んでいる。
わが国企業は、これまで貿易や投資の拡大を通じ日中両国経済交流の拡大に努めてきており、その結果、両国経済間には相互補完的な関係が構築されつつある。日本からの投資の拡大は、日本企業を利するとともに、中国における雇用の創出、技術の移転、中間財貿易の拡大、関連サービスへの波及等を通じて、中国経済の発展にも貢献してきた。さらに近年は、中国をグローバル戦略の重要な拠点として位置づける日本企業が増えており、我々はこうした互恵互利の関係をさらに発展させていきたいと考えている。
そのために、中国には、WTO加盟に伴う国際約束の遵守とルールに沿った国内改革を引き続き、迅速かつ着実に進めることが求められる。一方、わが国は、規制改革を始めとする国内構造改革を推進し、産業構造の一層の高度化を図るとともに、対中国投資を促進しなければならない。これは、両国にとって大きなチャレンジであるが、この課題に果敢に立ち向かっていくことが、両国経済、東アジア経済ならびに世界経済の活性化にもつながる。
この方向を推し進めるためには、事業機会が大きいサービス分野をはじめ、様々な分野において解決すべき課題も多々ある。そこで、日中経済関係の緊密化に向けてわが国経済界としての基本的な考え方を明らかにするとともに、中国政府に対し、ルールの遵守、一層の自由化、国内改革について要望を取りまとめることとした。

2.日中通商・経済関係の評価

過去10年の日中間の貿易・投資は、アジア通貨危機等により一時的に低調となった時期はあったものの、総じて増加傾向にある。中国にとって日本は香港を除いて第1位の貿易相手国、日本にとって中国は米国に次ぐ第2位の貿易相手国である。また、日本から中国への直接投資は1999年から4年間にわたって順調に拡大している。
中国は、2002年11月に開催された第16回共産党大会において、2020年にGDPを2000年の4倍にするとの目標を示した。他方、財政赤字の拡大、国営企業の経営悪化、国有銀行の不良債権、需要に対する供給過剰、地域格差・貧富格差の拡大や産業構造調整による社会不安の増大等のリスク要因がある。中国がこうしたリスクを克服し、目標としている経済成長を達成するうえで、日中経済関係の持続的かつ安定的な発展が不可欠である。この意味からも、わが国経済界は、今般の中国全国人民代表大会で国家主席に選出された胡錦濤氏を中心とする新政権に大きな期待を抱いている。

3.日中通商・経済関係拡大への展望

わが国の製造業は1980年代から活発に中国へ進出してきたが、近年は垂直、水平分業に加えて、設計・開発、素材・原料調達、部品生産・調達、組立・製造といった工程内分業を深化、拡大させる等、日本と中国の間でそれぞれの経営資源を有効に活かした分業を推進している。日本企業は、中国を主として世界に対する生産・輸出基地と位置付けるとともに、中国市場を対象としたビジネスも積極的に展開している。
他方、サービス産業は、それ自体豊かな国民生活をもたらすとともに、製造業のビジネスインフラとしてもきわめて重要である。この分野への進出は、これまで比較的多くの制約があったが、WTO加盟に伴い、これらが開放されることにより、今後、飛躍的な拡大が期待される。製造業のバリュー・チェーンをスムースかつスピード感をもって展開する観点からも、電気通信、エンジニアリング、運輸、物流・流通、マーケティング、資金回収・決済、アフターサービス、ローン等のサービスに対するニーズは高まっている。また、上海市などの沿岸部を中心に生まれている中間所得者層等をターゲットとして、金融、小売、建設サービス等も拡大していく。
このようなビジネス活動を展開するためには、両国間において、ヒト、モノ、カネ、サービス、情報といった経営資源の自由で円滑な移動が確保されなければならない。わが国と中国の産業構造は相互に補完的関係にあり、こうした資源の自由な移動が、効率的な経済活動を可能にすると考える。
また、わが国企業による中国とのビジネスは、二国間関係に留まらず、東南アジア諸国等を含めた東アジア全域を視野に入れて展開されつつある。そこで我々は、日本と中国が、ともに力を合わせて、例えば2015年を目標にASEAN+3(日本・中国・韓国)の枠組みをベースとする東アジア自由経済圏の構築を目指していくべきである。こうした東アジア自由経済圏の構築は、域内の取引コストの削減による効率的な生産体制とともに、巨大な市場を生み出すことによって、域内のすべての国はもちろんのこと、世界経済にも大きな利益をもたらす。

4.ビジネスの促進に向けた優先的な課題

わが国経済界は、さらなるビジネスの促進に向けて、中国政府が、次のような課題の克服に優先的に取り組むことを強く望む。こうした課題の解決は、外資系企業だけでなく中国の企業にとってもビジネスの拡大につながり、中国の経済成長に大きく貢献する。
その際、(1)WTO加盟約束の遵守、(2)WTO新ラウンド交渉におけるさらなる自由化、(3)国有企業改革、金融システム改革、政府機構改革を含む国内構造改革を同時並行的に推進していくことが望ましい。(なお、詳細は「第二部各論〜日本の経済界が是正を求めるビジネス上の障壁〜」を参照されたい。)

  1. WTO加盟約束の迅速かつ着実な実行
    中国は加盟約束をスケジュール通り、また可能であれば、一部を前倒しして、着実に実行していくことを求めたい。特に、貿易権、流通権については、ビジネス実態に即した自由化を強く望む。原則として、加盟から3年以内にはすべての外資系企業に付与されたい。

  2. 一層の市場開放
    WTO新ラウンド交渉あるいは自主的な自由化を通じて、関税・非関税障壁の削減・撤廃、主要サービス分野(金融、物流・流通、電気通信、建設、運送等)における外資出資規制の削減・撤廃、市場アクセスの改善といった、さらなる市場開放に取り組むべきである。

  3. 法・規制の透明性の確保
    基本的な法・規制を整備するとともに、新たな法・規制の制定手続においては、パブリック・コメントの実施や一般への公表などによって、高い透明性を確保すべきである。

  4. 中央・地方政府による統一行政
    中央政府が定める法・規制について、いずれの地方政府においても、解釈や運用面を含めて統一的に適用されるよう徹底することを望む。

  5. 知的所有権の実効的な保護
    知的所有権の保護が、執行段階まで徹底されるよう、司法、行政各省、検察当局、税関等の協力により、制度・運用面を整備するよう求める。特に、司法上の迅速かつ確実な救済、行政及び税関の取締りの強化が重要である。

  6. 国際基準との整合性の確保
    現在、中国政府が定める強制規格の一部には、国際規格と大きく異なるものがあり、基準や強制規格の制定に際しては、国際的な基準に整合的なものとするよう望む。

  7. 人民元の変動為替相場制への移行
    人民元の為替レートは、事実上米ドルにペッグしており、急拡大する経済に見合わず過小評価されているとの指摘もある。当面は、貿易の自由化にあわせて資本取引を漸進的に自由化するとともに、いずれは変動為替相場制度へ移行することを望む。

  8. 外資優遇措置の存続
    外資系企業を優遇する制度については、中央政府、地方政府が実施しているかを問わず、WTO上禁止されてはいないため、存続を望む。他方中国政府が、こうした制度を撤廃する場合には、十分な経過期間を置くとともに遡及的な適用をしないことを強く求めたい。

  9. 迅速な増値税の還付
    増値税に関して、還付手続の簡素化、還付の迅速化、徹底化を望む。

5.おわりに

経済のグローバル化、中国における急速な市場経済化、両国による経済の緊密化を考えれば、中国のWTO加盟を契機に、わが国と中国との経済・通商関係を改めて見直し、様々な施策を講じていく必要がある。
今後、日本と中国とは、WTO新ラウンド交渉の推進、東アジア自由経済圏の構築、日中経済パートナーシップ協議の一層の活用、日中投資協定の改定を含めた日中経済連携の強化といった、マルチラテラル、リージョナル、バイラテラルの枠組みを重層的に推進していくべきである。また、二国間経済交流にあたっては、これまでの官民様々なレベルにおけるコミュニケーション・チャネルを再検討、再構築して、21世紀の日中関係にふさわしい戦略的なアプローチにしていくことが必要不可欠である。こうした観点から、日本経団連として、持続的かつ安定的な中国との関係強化に積極的に取り組みたい。

以上

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