[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「IP化等に対応した電気通信分野の競争評価手法に関する研究会」
報告書案に関する意見

2003年6月13日
(社)日本経済団体連合会
  情報通信委員会
   通信・放送政策部会
   情報通信ワーキング・グループ

1.基本的な考え方

一般に競争が進展している産業分野においては、公正な競争の確保を競争の一般ルールである独禁法に委ねることが重要である。しかしながら、通信市場においては、競争が進展しつつあるものの、(1)サービスの提供に不可欠な機能を保有し、高い市場シェアを持つ、いわゆる市場支配力を有する事業者が存在していること、また、(2)利用者は、市場シェアの高い事業者を選好する傾向があるといった特殊性があり、それらを背景に競争制限的な行為が継続してとられる蓋然性が高い。この点に鑑みれば、通信政策の要諦は、市場支配力に着目した必要最小限の競争ルールを設け、市場支配力を有する事業者とそれ以外の事業者が公正に競争できる環境を整えることにある。
また、独占から競争への過渡期において、競争の進展状況を継続的に監視するとともに、競争ルールを策定・執行し、紛争を迅速に解決する機能を強化する必要がある。
以上、日本経団連提言「IT分野の競争政策と『新通信法(競争促進法)』の骨子」(2001年12月)で示した基本的な考え方を踏まえ、今般公表された「IP化等に対応した電気通信分野の競争評価手法に関する研究会」報告書(案)( http://www.soumu.go.jp/s-news/2003/030514_3.html )に関し、当ワーキング・グループとして以下のとおりコメントする。

2.具体的コメント

(1) 競争評価の導入の目的について

【報告書案の記述】

「市場の競争状況は、基本的に、根拠となる法令、例えば電気通信事業法やそれに基づく省令等の見直しによってはじめて具体的に政策に反映される。これらの法律や省令の制定・改廃は、国会や審議会での審議を経て行われるので、競争評価の結果が直ちにそれにつながるわけではない。しかし、行政や利害関係者等により共有化された手法を用いた市場のモニタリングによって競争状況の変化の兆候を常に捉えられるようになり、それが公表されるルールが確立され、実践として定着するようになれば、競争評価が、市場の変化に対応した規制の迅速な見直しの契機になるであろう。」(P.5)

【コメント】

競争評価の目的は、現在、適用されている競争ルールが市場における競争の実態から乖離している場合に、その状態を是正することにある。特に、競争が有効に機能していないと考えられる市場において支配力を有する事業者が存在する場合には、競争促進のために必要最小限のルールを適用することが重要である。
なお、市場支配力を有する事業者が認められない場合には、全ての規制を撤廃すべきである。

(2) 対象分野の選定について

【報告書案の記述】

「電気通信事業分野の利用者向けサービスのうち、どの分野を競争評価の対象とするかは、競争評価が政策的に有意である範囲がどこかに依っている。」(P.11)
「競争評価の対象分野は、できるだけ客観的な基準に照らし、当該対象分野の重要性を見極めた上で決定されることが望ましい。その基準としては、例えば、国民生活への浸透度を表す市場規模や普及率、外形的・客観的な参入障壁の存在・変化といったものが想定されるであろう。」(P.14)
「対象分野の決定方法としては、(1)意見公募等の過程で、優先的、重点的に競争評価を行うべき対象分野を募る、(2)電気通信事業者等からある対象分野について競争評価を実施すべき旨の要請があって、その合理性が認められる場合に、当該対象分野についてアドホックに競争評価を行なう、可能性についても考慮されるべきである。」(P.14)

【コメント】

基本的には、競争が有効に機能していないと考えられる市場を対象とすべきである。また、対象分野の決定方法としては、パブリックコメントの実施、ペティション制度の導入などによって、国民、企業の声を反映するなど、透明な手続を確保する必要がある。そうすることが、競争評価の過程における恣意性の排除にもつながると考える。
なお、市場支配力は通信サービスを提供する上で不可欠な機能を有することに起因すると考えられることから、競争評価は、「利用者向けサービス」に留まらず、「通信事業者向けサービス」(報告書案の用語に従えば「インフラサービス」)も対象とすべきである。

(3) 市場画定について

【報告書案の記述】

「まずある程度大きなサービス領域を対象分野として捉え、市場画定の段階では、競争評価の都度、現実に利用可能なデータを基に、分析の起点となるサービスを中心に同一サービスとしての広がりを分析し、その外郭で市場を画定するようにすべきである。」(P.15)
「生産設備に重要な変更を加えることなく当該サービスを供給できる事業者が存在する場合には、市場画定において供給の代替性を考慮することが特に重要と認められる場合を除き、分析対象となるサービス市場の競争状況を評価する段階において潜在的な競争者の新規参入圧力を勘案することとする。」(P.17)

【コメント】

競争が有効に機能していないと考えられる比較的小さな市場を起点とし、需要の代替性等を考慮して最終的に適切な市場を画定するのが適当である。
また、需要の代替性を基本に市場を画定することは妥当であるが、供給の代替性について、「特に重要と認められる場合」を除き勘案しないことが適当か否か疑問が残る。供給の代替性の検討においては、代替的なサービスを供給できる事業者の存在のみならず、当該市場へ参入する上での制度的、実態的な障壁の有無も勘案されるべきと考える。

(4) 競争状況の評価について

【報告書案の記述】

「留意を要するのは、競争状況はあくまで分析対象となる利用者向けサービス市場に関するものであって、インフラサービス市場のそれではない。ボトルネック性に起因する影響力がどのようなものであろうと、利用者向けサービス市場の競争条件にとっては与件であって、それを前提として当該サービス市場の競争状況を評価する必要があるという点である。」(P.33)

【コメント】

報告書案は、競争評価の対象を利用者向けサービス市場に限定していることから、上のような記述となっていると考えられるが、報告書案も指摘するように、競争状況の評価において設備のボトルネック性に起因した影響力についてはきちんと考慮する必要がある。なお、インフラサービス市場に関する競争評価の必要性はすでに指摘したとおりである。
一方、利用者向けサービス市場の競争が進展しているからといって、そのことが関連するインフラサービス市場に係るルールを当然に変更する理由にはならないと考える。念のため、この点を確認したい。

(5) 競争評価の具体的実施方法について

【報告書案の記述】

「このような競争評価は、できる限り定型化された判断基準に基づいて透明に実施されることが望まれるが、対象分野によっては、各種の指標や要因等を用いた総合評価を必要とすることも予想される。その際には、評価過程における公正性・中立性・透明性をより確かなものとするため、利用者代表、学識経験者の参加を求めるのが望ましい。また、独占禁止法の分野で類似の事例について多くの知見を蓄積している公正取引委員会の参画も求め、電気通信事業法を所管する総務省と独占禁止法を所管する公正取引委員会が、それぞれが担う機能の相違に留意しながら、相互の知見を交流し合い、連携をより一層強化していくことが有益と考えられる。」(P.43)

【コメント】

競争評価にあたって、総合的な評価が避けられないとすれば、競争評価の過程において、また、評価結果に基づく政策措置の必要性の判断にあたり、公正性、中立性、透明性をできる限り確保する必要がある。そのための具体的な方策としては、パブリックコメントにより広く国民、企業から意見を募集することは当然として、透明な手続の下で競争評価を実施し、その結果の公正・中立な判断に基づいて競争ルールの策定・執行等を行なう、独立した規制機関を設置する必要がある。
一方、報告書案では、競争状況の総合評価にあたって、公正取引委員会の参画を求めることとしているが、同委員会の独立行政委員会としての位置付けに留意するとともに、競争評価の手法や考え方を独禁法のそれとできる限り整合のとれたものとする必要がある。そのような観点からは、競争評価の具体的実施方法等に関するガイドラインの策定・見直し、ならびに競争状況の評価とその結果に基づく政策措置の必要性の判断にあたり、公正取引委員会による意見表明の機会を確保し、パブリックコメントを募集する際に、同委員会の意見も合わせて公表することとすべきである。

以上

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