[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備に関する意見

2003年8月4日
(社)日本経済団体連合会
情報通信委員会情報化部会

インターネットをはじめ、情報通信ネットワークが企業や個人の活動に不可欠なインフラとなっている今日、それを悪用することによってネット社会の信頼を損ねたり、安心・安全を脅かしたりする犯罪行為に効果的に対処するためには、必要最小限の刑事法の整備が求められる。一方、実際の捜査にあたっては、それに協力する企業の負担とリスクを最小に止めることが重要である。
現在、法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会において、ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備について要綱(骨子)※を基に審議が進められているが、法制化ならびにその運用にあたっては、下記の点に十分配慮されたい。
なお、下記のうち、法律の解釈や運用にわたる事項については、国会答弁を通じて明らかにするとともに、例えば犯罪捜査規範や逐条解説等において明確化されたい。

http://www.moj.go.jp/SHINGI/030324-2.html


1. 差押えの方法(要綱第三、第四、第五)について

要綱(骨子)によれば、第三「電磁的記録に係る記録媒体の差押えの執行方法」、第四「記録命令差押え」、第五「電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体からの複写」の三つの差押え方法の導入が予定されている。捜査機関に対しては、事案に応じて被処分者である企業の負担や権利の侵害の程度が最小となる方法を選択すべき旨を徹底されたい。

2. 「電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体からの複写」(要綱第五)について

「差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体」であるからといって、その記録媒体の電磁的記録全体が直ちに複写の対象となるのではなく、当該電子計算機と機能的に一体である記録媒体の電磁的記録であって、事件と関連性のある部分のみが複写の対象になり得るものと理解する。探索型の捜査につながることのないよう、施行にあたっては、(1)「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にある」とされる記録媒体の範囲、(2)複写の対象となる電磁的記録と事件との関連性、に関する基準とその理由をできる限り具体的に明示されたい。

3. 「電磁的記録に係る記録媒体の差押状の執行を受ける者等への協力要請」(要綱第六)について

協力はあくまで任意であって、実際に要請を受ける企業の事業に支障を来たすような内容の協力、あるいは当該企業の対処能力を超える内容の協力は拒否できるものと理解する。しかしながら、差押えや捜索の現場において、協力要請を断ることは実質的に難しい場面も想定されることから、施行にあたって、上記趣旨を明確にされたい。

4. 「保全要請等」(要綱第七)について

(1) 保全の対象は、業務上の要請から通常記録することになっている「電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なもの」とされているが、施行にあたっては、「その他の通信履歴」の内容を具体的に明示されたい。また、捜査機関が保全の必要性を認めてから実際にそれを要請するに至る過程において、必要な通信履歴を特定する手順についても、併せて提示されたい。
なお、これらに際しては、パブリック・コメントなどを実施して、関係者から広く意見を聞く機会を設けるべきである。

(2) 通信履歴を保全するためには、相当な人員、時間や設備が必要となる。また、保全を要請された通信履歴が、業務上、一定期間後に消去されるべきものである場合に、当該期間を超えて保全しておくことは、情報が漏洩する危険性が増すことを意味し、プライバシーや通信の秘密の侵害につながる追加的なリスクを負うことになる。したがって、保全の要請は厳に慎重に行われなければならない。
そこで、将来に発生する通信履歴については保全の対象から外すとともに、保全の理由、必要性ならびに対象となる通信履歴の電磁的記録を明記した書面によって要請することとすべきである。なお、一回の保全要請によって対応できる容量には限界のあることも考慮されたい。
保全は、差押えの必要性を認めた場合の緊急処置として要請されるものと理解する。したがって、保全期間は、原則、令状の発付に要する期間に止め、要請後暫くしても令状が発付されないなどの場合には、書面によって要請を取り消すこととすべきである。
なお、保全要請制度が差押えを前提に運用されているか否かを検証できるようにするため、保全要請件数とその結果差押えに至った件数を定期的に開示すべきである。

以上

日本語のトップページへ