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司法制度改革推進本部
「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」に関するコメント

「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての御意見募集について
司法制度改革推進本部
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/pc/0729comment_b.html
2003年9月1日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会 企画部会

司法制度改革審議会意見書は、21世紀のわが国の姿を「国民が、(中略)自律的かつ社会的責任を負った主体として互いに協力しながら自由かつ公正な社会を築く」と記述しており、国民一人ひとりが自律し社会的責任を負うことが司法制度改革の前提とされていると理解できる。弁護士報酬の敗訴者負担の制度についても、この前提にたって検討し、国民一人ひとりが自己責任を自覚し、司法制度の利用に関わる合理的なコストを負担するという心構えを持つ方向で結論を得るべきであると考える。従って、勝訴者の弁護士報酬を敗訴者に負担させる制度の導入に賛成する。私人間等において、不当訴訟をしかけられた側が、弁護士報酬の負担との比較考量から不当な賠償金を支払うようなことはあってはならず、これを制度的に担保するためにも、弁護士報酬の敗訴者負担の導入が必要である。
また、訴えの提起を不当に萎縮させないため、本制度を一律導入しないことに賛成する。ただし、本制度を導入しない訴訟の範囲や類型並びに取扱いについては、適用しない合理的な理由を明確にすることが必要である。
さらに、負担費用を法定化しリスクの予測可能性を高める必要がある。
なお、今後の検討にあたっては、下記事項を斟酌願いたい。

1.弁護士報酬の敗訴者負担制度導入の意義について

弁護士報酬の敗訴者負担の制度は、司法制度改革審議会の意見書にあるように、「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする(いわゆる費用倒れの問題)」ことを目的としており、司法アクセスの改善のみならず社会正義の実現に大きく貢献すると考えられる。また、正当な理由のある訴訟を提起しやすくすると同時に、不当訴訟を抑制する効果がある。以上の点から導入に賛成する。
一方、本制度が「敗訴の可能性の高い訴訟提起を萎縮させる」と懸念する意見があるが、これを問題にするのであれば、訴訟費用の敗訴者負担の問題まで掘り下げて議論をしなければならない。

2.敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方

敗訴者負担制度の対象としない訴訟の範囲については、行政訴訟、労働関係訴訟、人事訴訟といった類型が考えられ、これを採用する場合は、その合理的な理由を付することが求められる。
なお、検討会では、訴訟上弱者・強者があるとする考え方から、「片面的敗訴者負担制度」を支持する意見があるが、同制度の導入は、今般の司法制度改革の基本となる「自己責任」の原則に反する。また、同制度には、不当な訴訟提起に対する歯止めをなくす、勝訴者が訴訟に要した費用を十分に回収できないという弊害も考えられる。さらに、このような当事者間の情報力や交渉力の格差に起因する問題については、PL法や消費者契約法等のように立法的解決に委ねるべきである。

3.敗訴者が負担するべき額の定め方

敗訴者が負担するべき額の定め方については、提供される法務サービスとその報酬額の関係が不明瞭で、弁護士間の報酬に格差があることから、実際の弁護士報酬を基準として負担額を算定することは困難である。そこで、敗訴者の負担リスクを予測可能とし、訴訟提起を抑止しない合理的な水準の法定化を検討してはどうか。

4.その他

訴訟当事者が、訴訟費用や弁護士報酬を負担することが経済的に困難であるという問題については、訴訟救助、民事法律扶助制度、保険制度等で対応すべきである。弁護士報酬の敗訴者負担の導入と並行して、これら訴訟当事者の経済的負担を支援する制度の整備・拡充を図ることが重要である。

以上

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