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商流・物流システムの効率化に関する提言

−高コスト構造是正のための基盤整備に向けて−

2003年10月21日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

経済のグローバル化やIT化の進展、少子高齢化社会の到来や環境問題への対応など、わが国の産業を取り巻く環境は急激かつ大幅に変化している。こうした中、長引くデフレと将来不安に起因する最終消費の冷え込みに加え、国民のライフスタイルの多様化と購買行動の変化により、消費の二極化やサービス消費の増加に見られるとおり、消費構造そのものも変わりつつある。
このようなビジネス環境の大きな変化に対応し、消費者の満足度や利便性をさらに高めるために、製造業、卸売業、小売業では、商流・物流システムの効率化を図る動きを一段と加速させている。しかし、原料調達から物流、製造、販売、廃棄物の回収までの各段階において、企業や企業間の創意工夫の発揮を阻害している多くの課題があり、それが、我が国の高コスト構造体質の要因となっている。そうした問題の解決にあたっては、企業単独の取組みだけではシステムの効率化に限界があり、全体最適を図るためのシステム構築を行うためには、業態を超えた企業の連携・協力関係強化や、規制改革をはじめとする制度改革や基盤整備が欠かせない。このことがわが国企業の国際競争力の強化に繋がることになる。
本提言では、流通の概念を広く産業界全般に係る商流・物流システムとして捉え、その効率化やサービスの高度化を図るための諸課題と企業・政府がそれぞれ取組むべき方策などについて提言する。

1.我が国の流通システムが直面する課題

(1)高コスト構造の是正

  1. 物流コストの削減
    経済のグローバル化に伴う国際的な分業体制の広がりにより、企業は、商品の調達先や製品の生産拠点を一層海外へと求める動きを加速させている。こうした企業の行動によって、良質かつ安価な商品の国内流入が促され、輸入品と国産品の競争による価格引下げ効果が働くとともに、商品選択の幅が拡大するなど、消費者利益が拡大している。
    このような商流の変化に対応し、広く世界各国、とりわけアジア諸国の生産と国内消費を結ぶシステムを構築するため、物流の合理化努力が行われつつあるが、諸外国と比較して、輸出入・港湾諸手続きに要するコストが割高なこと、貨物の滞留時間が長いこと、さらには空港利用料が著しく高いことなど様々な阻害要因が存在し、経済のグローバル化に伴う効用を十分に活かしきれていないという問題が生じている。

    図1:港湾の利用コストに関する国際比較(日本=100)
    表1:インボイス(=1コンテナ)あたりの費用・時間比較及び内訳
    図2:輸入品流通に係る総コストに関する国際比較(日本=100)

    一方、安価な輸入品に対抗するためには、国産品の価格競争力を高めることが不可欠であり、国内物流コストの削減が課題となっている。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が2003年6月に取りまとめた調査によれば、企業は、(1)在庫量の削減、(2)人員削減、(3)物流拠点の廃止に加え、(4)配送ルート、配送効率等の輸配送の見直しなどといった取組みを通じて、物流コストの削減努力を行っており、売上高に占める物流コストの比率は趨勢的に低下傾向にある。

    図3:主要製造業における売上高物流コスト比率

    しかし、こうした企業努力だけでは達成し得ない環境整備等については、政府が主体的に取り組む必要がある。とりわけ、先に指摘した港湾物流サービスの分野では、規制改革の進展が緩慢であり、欧州委員会の提案書(「日本の規制改革に関するEU優先提案」2002年10月)においても、「日本におけるビジネス全般に見受けられる高コスト水準の一因が港湾コストにあると考えられる」との指摘がなされている。高コスト構造の是正を図るため、大幅な規制改革を推進して、国際的に遜色のない物流サービスの提供を行うことができるような環境を早期に整備することが求められる。加えて、物流需要に対してインフラ容量が不足しているため、それがボトルネックになって、コストを押し上げている場合もあることから、費用便益効果の大きい物流インフラについては、早期に効率的かつ重点的な整備を図る必要がある。

    図4:港湾運送サービスにおける内外価格差(日本=100)
  2. 流通在庫の削減
    消費者ニーズの多様化や商品のライフサイクルの短命化が進んでいる中で、企業は過剰在庫を抱えやすい状況にある。産業研究所の試算によれば、我が国の製造・卸・小売を通じたサプライチェーン上には、金額にして約60兆円、約100日分の完成品在庫が存在しており、それらの削減余地は極めて大きい。

    表2:全サプライチェーン上の在庫水準

    企業がキャッシュフロー経営を徹底していくためには、流通在庫を削減して流通コストを引下げ、売上に結び付かない仕入や生産を縮減することが不可欠となる。既に、ITの活用や生産プロセス、商慣行の見直し等の経営努力は図られているが、これまでのように企業の各部門が独自に効率化や最適化を図っていくような取組みだけでは、さらなる効率化に繋がらない。
    流通段階全般における最適化を図るためには、関係者の間で消費者の購買情報を遅滞なく川下から川上へフィードバックして情報の共有を行い、企業間の連携・協力と適切な役割分担を行う効率的なSCM(サプライチェーン・マネジメント)の構築が不可欠である。

(2)高齢化社会への対応

国立社会保障人口問題研究所が2002年1月に公表した日本の将来人口推計(中位推計)によると、少子化・高齢化は今後さらに進行し、総人口に占める65歳以上人口の割合は、2000年の17.4%から、2020年には27.8%、2050年には35.7%へと大幅に増加する見込みである。
こうした中で、人口の高齢化の進展に伴い、既に金融資産等のストック面では高齢者の存在が大きく高まっている。例えば、総務省の調査によると、全世帯の貯蓄額に占める60代以上世帯の貯蓄金額のシェアは1980年末に22%であったものが、2002年末には54%へと飛躍的に増加している。今後のさらなる高齢化の進展を踏まえれば、この傾向はますます顕著になると予想される。

図5:貯蓄の世代別、形態別保有状況

こうした点を踏まえれば、今後は、高齢世代が消費の牽引車となり、シニアマーケットが我が国の消費の中心になることも期待される。そのため、各企業は高齢化に伴う顧客ニーズの変化に対応した店舗づくりや売り場づくり、さらにはシニア世代の購買意欲を高めるような商品開発やマーチャンダイジングに取り組んでいる。加えて、高齢化に伴う在宅サービス需要の高まりという観点から、個別配送サービスに対応した効率的な物流システムの構築が求められている。さらに、住宅地に近接した地域にコンビニエンス・ストアが自由に出店できるような土地利用規制の緩和など、民間の努力を後押しするために必要な環境整備が早急に図られる必要がある。

(3)循環型社会への対応

近年、循環型社会の形成は一層重要な課題となっており、持続的成長と健全な環境と社会の構築に向けた企業の取組みが強く求められるようになっている。そのためには、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の促進と適正な廃棄物処理を両立させることが必要であるが、重要なことは静脈物流の構築に必要となるコストを社会的・経済的に見て合理的な水準とし、かつ公平妥当な負担にしていくことである。とりわけ、法制度の複雑化や管理の煩雑さにつながる施策、地方公共団体による対応の不一致は厳に戒めるべきであり、企業による自主的な環境対策を促進するため、制度の抜本的見直しを行う必要がある。2002年7月に公表した「循環型社会の着実な進展に向けて」で当会が求めたように、リサイクルが産業として自律的・持続的に発展する基盤を整備する観点から、優良事業者の負担に対して一定の軽減を図るようなインセンティブ制度の創設や、業許可要件の見直し(資金力・技術力の審査等)等の措置を講ずる必要がある。

2.企業自らが主体的に取組むべき課題

(1)日本的な商慣行の在り方の見直し

商慣行は、流通チャネルの各段階で、各企業がリスクを分担しながら利潤の安定を図るために長年かかってできあがったものであり、過去においては一定の役割を果たしてきたと言える。しかし、ビジネスを取巻く環境が大幅に変化しつつある中で、これまでの慣行を引き続き維持していくことは合理的ではなく、高コスト構造体質是正の阻害要因となっているものについては積極的に改善を図っていく必要がある。

  1. 日本的商慣行に関する意識調査の概要

    イ.商慣行に関する総括的評価
    日本的商慣行に関する総括的評価について、流通委員会の委員各社の意識を調査したところ、「一部改善した上で存続すべき」あるいは「廃止を含めて全面的に見直すべき」とする評価が過半を占めており、それぞれの商慣行の是正が課題となっている。特に、後値決めについては否定的な見方が過半数を超え、口頭契約についても、「廃止を含めて全面的に見直すべき」という回答が相対的に多い。

    図6:商慣行に関する全体的評価

    ロ.商慣行と流通機能に内在する高コストとの関係
    日本的商慣行が我が国の高コスト体質を形成している要因となっているかを調べるため、両者の相関関係について聞いたところ、何らかの形で関係があるとの回答が8割弱を占める結果となった。特に、製造業では全体の9割以上が何らかの関係があると指摘し、大いに関係があるとする意見も強い。一方、非製造業では、製造業と比べると相関関係の弱さを指摘する声が強い。

    図7:商慣行と高コスト構造との関係

    ハ.高コスト構造の是正や最適SCMの観点から見直すことが必要な商慣行
    見直すべき商慣行としては、返品、多頻度小口配送、協賛金、リベートの順で優先度が高くなっており、特に返品に関する指摘が多い。

    図8:高コスト構造是正の観点から見直すべき商慣行(複数回答)
  2. 商慣行見直しの方向性
    高コスト構造の是正に向けた商慣行改善の具体的方向性として、まず返品・多頻度小口配送については、製造、卸、小売が受発注や、在庫の状況、POS情報など、情報の共有化を図るとともに、的確な需要予測を行い、製造・配送・販売におけるコストの適正な分担が可能となるような全体最適SCMを構築していくことが求められる。また、リベートや協賛金などに関しては、存在意義そのものについて見直しを図っていくべきであり、当面はその設定が合理性を欠くレベルにあるものについて、公正な取引を確保する観点から是正されるべきである。加えて、最近定着化しつつあるセンターフィーについては、費用負担を明確化するなどのインセンティブを付与していく方向で見直していくことが求められる。
    それぞれの商慣行の見直しを進めるにあたっては、単にリスク負担の在り方の見直しという観点から現行のコスト構造を前提にして取引当事者間の利害を調整するのでなく、流通経路を構成する製造・配送・販売の各段階において、それぞれの企業が協業し、企業の枠を超えて効率的に消費者へ対応していくような企業間協働による改革を進めていくべきである。その方向性としては、経済合理性、消費者利益、取引の公正性、透明性や開放性を確保する観点から、製造・配送・販売の各段階における無理や無駄を排除し、全体最適を図るために障害となる商慣行を不断に見直していく取組みが望まれる。
    こうした取組みの一つの事例として、日本百貨店協会と日本アパレル産業協会が構築したコラボレーション取引が挙げられる。このビジネスモデルは、欠品(販売機会ロス)や不良在庫(流通コスト)の極小化を目的に、百貨店側が消化率を、アパレル側が納品率を事前に取り決めるといった業態の枠を超えた協働活動により、リスク分担の明確化を図ろうとするものである。こうした取組みは、サプライチェーン全体の最適化を実現するものであり、その成果は着実に実りつつある。このような先進事例を参考に、各業界がそれぞれの実情に応じて、新たな仕組み作りを構築していくことが期待される。

(2)最適SCMの構築に向けた企業間の協働

商慣行の見直しに関連して、効率的な流通システムを構築するためには、最適SCM(サプライチェーン・マネジメント)の構築が不可欠である。SCMの構築によって、そのメリットである、(1)無駄な在庫の削減、(2)リードタイムの短縮化、(3)欠品等の販売機会ロスの回避、(4)保管・返品等の物流コストの削減、などを享受していくためには、製造・配送・販売の各段階において各企業が果たすべき役割や責任を一層明確化することが重要である。
しかし、現状では、SCMを通じた流通システムの効率化、高度化を図る取組みが進展しているとは言い難く、流通経路における様々な無駄の削減は十分進んでいない。その原因として、各企業が果すべき役割や責任を明確化するためには、個々の取引ごとに当事者間で契約を結ばなければならず、多数の企業によって、個別の商品分野ごとに構築された流通システムが存在している現状を踏まえると、実務上、多大な負担がかかるという実態に加え、SCM構築の基盤といえる商品コードや物流ユニットなどの標準化が進んでいないことが挙げられる。
このような課題を乗り越えて、最適なSCMを構築するためには、経営トップ自らが先頭に立って、全社的、さらには企業間のBPR(業務改革)を行うことが重要である。その前提条件として、(1)各種のシミュレーションや実証実験を積み上げた上で、得られた成果を参加企業が共有できるような仕組みを作り、システムのメリットが具体的にどのように発現するかを明らかにすること、(2)企業や業界の自主的な取組みによって、SCMを構築する際の最低限のルールやガイドラインを定め、それを遵守するような合意形成を行うこと、などの環境整備が必要である。
また、末端の販売情報を川上サイドの企業がどれだけ活用できるかが鍵となることから、自動受発注や自動決済のシステム構築、多岐に亘るスペックについての標準化を進めていく必要があり、早期に関係する業界が協力して、国際的に標準化された通信手段、言語、標準コード等からなる取引プロセスEDIの基盤を整備することが求められる。そのために、まず取組むべき課題は、商品コードの標準化であり、商品コードの付与やコードの改廃を含めた運用のルールなどを一元的に管理するような機関の創設の検討や、新しい技術として脚光を浴びているICタグ(RFID:Radio Frequency Identification)の活用・普及促進に向けた標準化・ルール作りを行うなど、情報システム基盤整備を図ることが求められる。行政としても、こうした企業や業界の取組みを後押しするため、現在行われている実証実験に対する支援等の施策を拡充する必要がある。
さらに、企業間で情報の共有化を進めて行くための環境整備として、ファイヤーウォールの整備など、情報の提供を受ける側の守秘義務の遵守を制度的に担保するため、情報管理体制の充実や情報提供に係る契約内容を明確にしておくことが必要である。
以上のような取組みを進めるにあたっては、全社的なBPRが必要であり、とりわけ、企業間協働を推進するためには、経営のトップ同士が無用な差別化が非効率を生むという認識を共有し、競争と協働を峻別していくような意識改革を進めることが重要である。

(3)IT投資、商品開発、集配送などの共同化推進への取組み

一般に、業務提携には、(1)業務の共同化が必要な分野・事業のみで行える、(2)企業の独立性を維持したままで行える、(3)必要がなくなれば解消することができる、というメリットがあり、企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、企業の経営戦略上の自由度や柔軟性を維持しつつ、競争力を高め得る有効な手段と言える。このため、IT投資、商品開発、物流といった分野についてスケールメリットによる効率化を図るため、水平的な業務提携による共同化を推進する動きが進んでいる。
共同配送に関しては、物流サービスのアウトソーシングニーズが高まる中、同業他社間あるいは異業種間の物流を物流事業者が一括して請け負うようなビジネスが広がり始めている。例えば、日用品や医薬品の製造業、石油精製業では、同業他社間などで一括物流を採用し、各社が製品(ブレーキオイル・エンジンオイル等の潤滑油や日用品など)を物流事業者の流通加工施設に搬入し、それを販売店などに配送する仕組みを構築した。今後は、こうした共同化により、ロジスティクスの効率化を推進する動きが高まることが予想される。
その一方で、地方自治体や商店街などが中心となって取組んでいる共同配送事業は成功事例が少ない。このスキームは、個別の集配送を共同化することによって、走行トラック台数の削減による渋滞の緩和や違法駐車の削減などを図ることが目的であるが、物流の効率化に向けた総論には賛意が得られても、現実には荷主側からは自社分の配送の優先希望が強く、配送順位が共同化以前に比べて下位になると、配送時刻が従来よりも遅れることから、共同化のメリットを享受できないとして、スキームそのものから離脱する等の事象が散見されるなど、スキームの普及には課題が多い。
また、物流事業者としても、限られた範囲の中での集配作業は、車両や従業員の削減に繋がらず、むしろ専属の車両や従業員が必要とされるため、コストアップの要因となることなどから、共同集配送に消極的な物流事業者も少なくない。しかしながら、渋滞の解消をはじめとする都市内物流の効率化を図る観点からは、共同配送への取組みを広げていく必要がある。そのためには、荷主企業、物流事業者双方の意識改革が求められるとともに、政府や地方自治体としても、インフラ整備や交通規制の見直しなどの都市内物流対策について、積極的に取組む必要がある。

3.商流・物流システムの全体最適を実現するための政府の取組み

我が国の流通システムが直面する課題やそれに対する企業の取組みを踏まえ、政府としても、経済構造改革の一環として、例えば、ハードインフラの面から空港、道路、港湾、ソフトインフラの面から港湾の24時間化、輸出入・港湾諸手続きの標準化・簡素化などといった基盤整備を行うことに加え、酒類や医薬品等の商品別の取扱規制や物流諸規制の見直しなど、商流・物流システムの効率化に資するような基盤整備や規制改革に積極的に取り組む必要がある。以下に掲げる具体的事項は、商流・物流システムの全体最適化や高コスト構造を是正する上で、早期に実現することが求められるものである。
なお、消費税に係る総額表示の実施にあたっては、事業者に多大な経費負担を強いることのないよう求める声が強いことに配慮する必要がある。

(1)国際的な商品調達に関する事項

  1. 輸出入・港湾諸手続の簡素化促進及びワンストップサービスの実現
    本年7月、NACCS(海上貨物通関情報処理システム)、港湾EDI及び乗員上陸許可支援システムなどの各システムを相互に接続し、それらの連携を図るシングルウインドウシステムの供用が開始され、輸出入・港湾関連諸手続きの効率化に向けた第一歩が踏み出された。しかし、各種申請の見直しや現行の申請書類の徹底した簡素化など、電子化に先立って行うべき輸出入・港湾諸手続全般のBPR(業務改革)については、未だ不十分である。
    そこで、今後の取組みとしては、BPRの観点から、イ)民間事業者からの意見聴取に基づき、必要性の意義が薄れている申請項目を徹底的に洗い出すこと、ロ)申請書類の中で削除できる項目を可能な限り削除すること、ハ)各府省間における共通項目を標準化、統一化することなどを強く求めたい。
    その上で、全ての手続きを統合し、一度の入力・送信で複数の申請を可能とするシステムを整備すべく、各府省は内閣官房のリーダーシップの下で連携・協議を行う必要がある。また、これらシステムの整備にあたっては、行政情報の目的外利用を可能とするため、輸出入・港湾諸手続等に係る通則法を策定し、行政情報の共有化を通じたワンストップサービスを実現すべきである。

  2. 税関の執務時間の拡大及び臨時開庁手数料の見直し
    構造改革特別区域法(以下特区法)の施行により、本年4月から5月にかけて、全国14の地区で国際物流関連特区(うち一つは産業活性化特区)の認定がなされ、臨時開庁手数料を軽減(2分の1)する等の措置が導入された。今後は、既に実施されている以外の港湾であっても、364日・24時間フルオープンを必要とする港湾については、税関職員の常駐化、あるいは地方公務員への税関業務の委託、さらには検疫等に係る業務の執務時間の拡大を図り、輸出入のリードタイム短縮化を実現すべきである。

  3. 港湾施設運営の効率化による港湾諸料金の低減化
    同じく特区法によって、港湾施設の公設民営方式が長期貸付(30年間)という形で可能となった。しかし、今回の措置は、ターミナルごとの貸付制度であるため、規模の経済が働きにくい仕組みとなっている。
    したがって、特区における運営状況を踏まえつつ、順次、貸出施設の単位を拡大することが求められる。そのような取組みを通じて、現在、諸外国と比較して割高な港湾諸料金の引下げを実現するとともに、港湾施設サービスの拡充を図るべきである。
    また、同時に、東京港と横浜港、名古屋港と四日市港、大阪港と神戸港などの隣接する主要港湾の管理者である各地方公共団体は、それぞれが管理する港湾間の運営についての連携強化を図り、港湾運営のさらなる効率化を進めるべきである。

  4. 航海実歴認定を受けた船長の乗り組む船舶に対する強制水先の免除
    航海実歴認定を受けた船長は、日本船籍及び日本船籍を所有することが出来る者が借り入れた日本船籍以外の船舶を運航する場合、強制水先を免除されることになっているが、期間傭船された外国船籍等を運航する場合には、強制水先は免除されないこととなっている。
    しかし、イ)水先法が制定された1949年以降、船舶性能、航行技術、船路監視システムは格段の進歩を遂げている、ロ)わが国外航商船の9割以上は外国籍船であり、日本の航路について十分な知識を有する日本人船長が乗船する外国籍用船が主流となっている、という実態を踏まえれば、船籍によって一律に規制を課すことは妥当性を欠くばかりか、わが国港湾の競争力低下を招く要因の一つをなっている。したがって、期間傭船された外国船舶を含め、実歴認定を受けた船長が運航する船舶については、船舶の国籍によらず強制水先を免除すべきである。

(2)国内物流の効率化に関する事項

  1. 物流インフラの整備
    経済のグローバル化の更なる進展を見据え、経済活動の活性化や国際競争力の強化、さらに国民生活の利便性向上を図るためには、東京国際空港の再拡張事業、新東京国際空港における平行滑走路の早期整備、外環、圏央、首都高中央環状線(三環状線)の早期整備、スーパー中枢港湾の早期育成など、基幹的な交通・物流インフラの整備に取り組む必要がある。
    また、都市部の慢性的な渋滞を解消するためには、共同集配送を促進する必要があり、駐車違反の厳格な取締りと同時にその受皿となる駐車スペースを確保するためのインフラ整備が求められる。具体的には、トラックベイ・共同荷捌き場の整備や貨物車専用パーキングメーターの設置などの拡充を図るべきである。

  2. 車高規制の緩和
    道路を走行する車両の「高さ」制限は、道路運送車両の保安基準及び車両制限令により、現行、3.8mとされているが、高さ4.1mのISO規格背高海上コンテナ積載車両等については、特殊車両通行許可の取得によって、通行することが可能となっている。しかし、積載効率の向上による物流効率化や低コスト化を実現するためには、道路の構造や交通の安全に悪影響を与えずに通行が可能なルートについて、許可を得ることを前提に当該コンテナ積載車両以外の車高3.8mを超える車両の通行も容認すべきである。
    合わせて、通行が可能なルートを走行する際に申請が義務付けられている特殊車両通行許可申請手続について、申請窓口の一本化、申請書類の削減、申請手数料の見直し、さらには手続き全般に係る電子化などの事務の簡素化を図るとともに、現在1年の許可証の有効期限を2年に延長すべきである。
    日本経団連では、当該規制の緩和に伴う安全性を担保するため、「安全運送に関する荷主としての行動指針(仮称)」を早期に取りまとめることとしている。本件については、行政サイドにおいても検討が重ねられているが、早期に措置すべきである。

  3. 貨物自動車の「大型」と「普通」の区分の見直し
    現在、大型自動車と普通自動車の区分は、道路交通法施行規則等により、最大積載量5t、車両総重量8tと定められている。しかし、ディーゼル車規制への対応や冷凍車両の増加などに伴い、車両総重量が増加しており、付加した装置の重量により実質的な積載可能重量が減少してしまうため、現行の車両総重量規制(普通車8t未満)を10t未満に緩和すべきである。

  4. 主要11港以外における運送事業の参入規制の緩和
    港湾運送事業法により、主要11港(千葉、東京、横浜、川崎、清水、名古屋、四日市、大阪、神戸、関門、博多)以外の港湾においては、港湾運送事業の参入は免許制による需給調整規制が課せられている。主要11港以外の港湾運送事業の参入規制を免許制から許可制へ緩和することについては、去る9月の閣議報告によって、本年度中に結論を得るとされたが、先に指摘したように、国際的に遜色のない物流サービスの提供を行うことができるような環境を早期に整備するためにも、現地の実態を調査、検討の上、措置する必要がある。

  5. 内航海運暫定措置事業の早期終了
    意欲的な事業者の事業規模の拡大や新規参入を促進し、内航海運業の活性化を図るため、98年5月より、スクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業が解消され、既存の日本内航海運組合総連合会に登録された自己所有船を解撤又は海外売船する転廃業者等に対して日本内航海運組合総連合会が交付金を交付すること等を内容とする内航海運暫定措置事業が導入された。しかしながら、本暫定措置事業のもとでは、新船を建造する者が交付金の原資となる建造納付金を負担しなければならないこととされている。
    規制改革推進3か年計画(再改定、2003年3月)では、内航海運暫定措置事業について、交付金単価の一層の減額を行うとともに、健全で透明性のある施策を講ずるとの方針が示されたものの、依然として暫定措置事業規程には具体的な適用期間が明示されていない。
    内航海運業界の活性化、競争力強化を図る上からも、政府は当事業を早期に終了し、新船建造に係るコスト増加を回避する具体的施策を講じるべきである。

(3)流通分野における規制改革に関する事項

  1. 酒類関係
    本年7月に施行された「酒類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法」は、指定された緊急調整地域における酒類小売業免許の付与を制限することを目的として時限的に施行されたものであるが、これは、98年3月に閣議決定された酒類小売業に係る需給調整規制の段階的緩和の趣旨を逸脱するものである。
    全国の酒類小売販売地域3,383のうち、3割にあたる922の地域が緊急調整地域に指定されたが、緊急調整地域の指定プロセスが不透明との指摘もある。こうした事態は企業の自由な事業活動や国民の利便を阻害する懸念があることから、施行期限である2005年8月31日以降の延長措置を講じないのは無論のこと、法令等の運営についての透明性・公正性確保の観点から情報公開の徹底を求めたい。
    その一方で、酒類販売の自由化を促進する観点から、大型店舗酒類小売業免許に係る制限(免許取得後3年間は国産ビールや日本酒の販売ができない)や通信販売酒類小売業免許に係る制限(インターネット販売を含む通販が取り扱える酒類は、一般小売店で通常購入が困難な地酒や輸入酒に限定されている)については早期に廃止すべきである。さらに免許付与に係る単位(各店舗ごとに免許が必要)、経験要件(酒類や食品等の製造・販売に3年以上直接従事した者)についても早期の見直しが必要である。

  2. 薬事法関係
    「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」では、「医薬品の一般小売店における販売については、利用者の利便と安全の確保について平成15年中に十分な検討を行い、安全上特に問題のないとの結論に至った医薬品すべてについて、薬局・薬店に限らず販売できるようにする」ことが明記された。この取組み方針を踏まえ、既に特例販売業等において薬剤師の関与なしに販売できる医薬品を中心に検討を行い、早期に作用の緩やかな医薬品(整腸薬、健胃薬、解熱鎮痛剤、乗り物酔い薬等)について、一般小売店での販売が可能となるよう措置すべきである。

  3. 大規模小売店舗立地法に関する運用の透明性確保
    大規模小売店舗立地法は、生活利便施設としての大規模小売店舗の立地が、周辺地域の生活環境を保持し、適正に行われることを目的に定められたものであり、法の運用は各地方自治体に委ねられている。
    しかしながら、地方自治体によっては、(法令等の範囲内ではあるものの、自動車での来店数を実態以上に高く想定し、必要以上に駐車場の整備を新規出店企業に要請するなど)過度な設備投資を求める指導や法令等に定めのない事前協議の要請など、事業者に多大な負担を求めるような運用が見受けられる。こうした運用の改善を図り、公正・透明な法令等の運用を行うとともに、事業者の自由な事業展開や創意工夫の発揮を図るために、国は地方自治体に対して指導・勧告等の適切な処置を講ずるべきである。

  4. 第一種低層住居専用地区における店舗建設制限の緩和
    高齢化社会の到来に伴い、消費者利便の向上の観点から、住居に近接したコンビニエンス・ストア等を設置することが必要となる。そのためには、現行の第一種低層住居専用地区に課せられている延べ床面積の2分の1以上を住居の用に供し、かつ、店舗部分の床面積の合計が50m2を超えてはならないという規制を緩和し、第二種低層住居専用地区同様に150m2までの店舗建設を認めるべきである。

(4)効率的な静脈物流の構築に関する事項

  1. リサイクルに対する基準の緩和
    現行の廃棄物処理法は、廃棄物の適正処理、特に不法投棄の未然防止を重視しているため、厳格な規制と煩瑣な許認可手続きが盛り込まれており、資源循環・リサイクルに取組む際にも、一律に厳格な規制の遵守を求めている。
    3R(リデュース・リユース・リサイクル)の促進と適正な廃棄物処理を両立させるためには、例えば、廃棄物であってもリサイクルできるものについては、資源有効利用促進法や各種リサイクル法等を拡充し、廃棄物処理法の対象外とするなど、徒に廃棄物処理に係るコストを高めることのないよう、基準を緩和すべきである。

  2. 広域処理を推進するための制度整備や廃棄物定義の見直し
    全国展開している企業にとっては、廃棄物の処理基準等が地方自治体ごとに定められているため、廃棄物処理に関する標準化を行うことが困難となっている。従って、廃棄物の広域処理を推進するための制度整備や廃棄物の定義(一般廃棄物と産業廃棄物の区分)の見直しを図るとともに、市町村ごとに定められている一般廃棄物の分別収集の標準化を進めることが必要である。

  3. 各種リサイクル法の適正運用等
    各種リサイクル法の制定により、企業のリサイクル促進への取組みが求められる中、容器包装リサイクル法を例にとれば、リサイクル数量が増加すればするほど、事業者の負担も増加する仕組みとなっており、優良事業者による法令遵守のインセンティブが阻害されている。また、法令を遵守しないフリーライダーに対する立入検査も十分に実施されていないという指摘もある。
    企業におけるリサイクル促進を図る観点からは、優良事業者の負担(静脈物流コストや収集運搬に係る労務費、駐留スペースの確保等)に対して一定の軽減を図るようなインセンティブ制度を導入すると同時に、フリーライダーの撲滅等を推進するような措置を講ずることが重要である。

  4. 貨物駅・港湾における産業廃棄物の収集・運搬に係る事業許可の見直し
    鉄道運送事業者や船舶運送事業者を介して産業廃棄物を密閉封印したコンテナを運送する場合、最終的に廃棄物処理場に搬入するまでに、駅や港で密閉封印されたコンテナをそのままトラックに載せかえる作業が発生する。
    このトラックに載せかえる作業を行おうとする場合、都道府県によっては、産業廃棄物の「積替え・保管」に該当すると判断するところがあり、産業廃棄物処理業に係る許可の取得が求められる。さらに産業廃棄物を運搬する際には、発着の貨物駅等で取り扱う廃棄物の品目ごとに、当該発着駅が所在する都道府県知事から、産業廃棄物収集運搬業の許可を取得しなければならない上に、厳格な設備構造基準を満たすことが必要となる。
    しかしながら、少なくとも、貨物駅における密閉封印されたコンテナの載せかえ作業は、廃棄物の飛散・流出等が生じるおそれはなく、廃棄物処理法で想定する「積替え・保管」の概念とは異なるものであり、業の許可を不要とすべきである。加えて、上記のような場合に関しては、廃棄物処理法上の「積み替え・保管」に該当しないとする統一的な解釈を示し、各都道府県に通知すべきである。

以上

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