[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

国際会計基準委員会財団(IASC Foundation)定款の見直しに関するコメント

2004年2月10日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会
企業会計部会

国際会計基準委員会財団(IASC Foundation)定款の見直しに関するコメント提出について


日本経団連は、国際会計基準委員会財団(IASCF)による、IASBの活動を通じた世界的に用いられる会計基準の開発に向けた日頃の努力に敬意を表する。会計基準の国際的な収斂という目的に賛同し、その実現を効率的に達成するための観点から、今般、IASCFの定款を徹底的に見直すに当たり、パブリック・コメント募集の機会を利用して、日本の経済界の考え方を具体的に以下に表明したい。IASCFがこれらの意見を十分に斟酌するよう要請する。

A 名称及び目的
2 目的

【コメント】

IASBの目的は、パラグラフ(a)にあるように、「理解可能かつ実施可能な、高品質で単一の」会計基準の開発であるとされる。しかし、それは、実体経済や市場で現実に行われている実務を無視して、フレームワークのみに基づいた会計基準を作成し、それを家父長的に実務に適用することではない。したがって、「市場関係者に受け容れられる会計基準を開発する」旨を目的の項目に追加して明記すべきである。

質問:中小企業(SME)の直面している課題を取り扱うための個別的な目的を含めるべきか。

【コメント】

会計基準としては、基本的に大企業と中小企業で内容が異なるべきものではない。しかし、各国の法律上の制約や実務上の限界から、中小企業への適用には一定の配慮が必要な場合が生じる可能性はある。特に、国際財務報告基準を世界中に浸透させるためには、経済大国の中小企業のみならず、新興国の企業等に対する適切な対応を図ることは重要である。
しかし、IASCF本来の目的に照らして見ると、それは副次的な問題である。定款上で個別的な目的を明示する場合においても、資源の効率的な配分の観点からは、IASBで実際に議論する際に人的、時間的、物理的に過度な負担が生じないよう、まずSACで委員会を設けて事前に検討すべきである。

C 評議員会
4

質問:評議会の人数を増員することで、より広範囲の見方を受け入れることができるかもしれないというメリットが考えられるが、そのメリットは増員により会議が運営しづらくなったり、個々の評議員の責任感や参加意識が弱まって評議会の有効性が低下するといったリスクを上回っているか。

【コメント】

人数の増員という数字上の問題ではなく、6項の地域的配分等という組織構成の観点から、適切な規模を検討すべきである。構成を重視すれば各評議員の参加意識に適度な緊張感が生まれるため、個々の責任感や会議の有効性の問題は自ずと解決される。

6

質問:評議員の地域的配分はほぼ固定されているが、このような固定的な配分は適切か。それとも現在の配分を見直す必要があるか。

【コメント】

評議員には、地域別のほかに、主要な資本市場の代表を加えることが望ましいと考える。
理由としては、現状の地域別分布のみの枠組みに加え、やはり、世界の主要な資本市場の実態を重視すべきである。IASCFが世界で認められる組織となるためには、それを無視あるいは軽視することはあり得ない。また、会計基準の国際的収斂を効率的に進めるためには、主要な資本市場において現行で機能している制度や経験に基づいた知見を享受する必要があり、市場に精通している人材が参加することが有用である。

7及び8

質問:評議員の職歴が広範囲にわたることは明らかに必要であるが、それを定款に明記することは適切か。

【コメント】

人によっては、作成者や利用者、監査人といった複数の職歴を保有する可能性は十分にある。そのため、仮に定款に職歴上の要件を明記したとしても、複数の職業的背景を持つ人をどのような要件で選別するかという問題が残る。むしろ、6項に関する質問への意見のように評議員会全体の構成を重視し、結果として職歴が広範囲にわたるように考慮される方が好ましい。

14及び16

【コメント】

資金調達については、原則として、市場参加者全員から広く薄く負担を求めることとすべきである。現状のように、少数から多額の寄附を得るという形式では、長期的に安定した組織運営を達成することは不可能である。

質問:これらの要件の趣旨は、十分なデュー・プロセス及び協議が行われるようにする一方で、基準設定のプロセスの独立性を保つことである。評議会が、IASB の戦略及び手続を定期的に見直すという具体的な規定を置く必要はあるか。

【コメント】

十分なデュー・プロセスの確保は組織の透明性・公正性を維持する上で不可欠な手続である。一方、世界経済の動向は数年ごとに激しく変化するものであり、IASCFとしても、その動きに応じてIASBの戦略及び手続を効果的に対応させていく必要があると考えられる。したがって、定期的かつ継続的な見直しの規定を具体的に定めることは有用である。

18

質問:定款の見直しを、5 年ごとではなく、「少なくとも10 年ごとに」要求するよう定款の文言を変更すべきか。

【コメント】

「少なくとも10年ごと」と修正する理由が明確でない。時代の変化に合わせて適時適切に組織的対応が可能となるよう、定款の全体的な見直しは、現行通り、5年ごととする必要がある。その上で、随時必要な項目については改訂を図るべきである。

D IASB
19

質問:IASB 理事の人数は、審議会をより機動的なものとするために減員すべきか。

質問:IASB 理事は仕事量が多く、関係者との協議のための十分な時間が必要となるという認識に立って、非常勤の理事を廃止すべきか。

【コメント】

現時点では、EU等における2005年からのIFRS採用を念頭にして、時間的制約を伴う極めて多くの業務があるが、2005年以降にも、現行通りに12人ものFull-timeメンバーが必要になるのか疑問である。
コスト削減の観点からも、また、利用者の意見を十分に聞くためにも、22項への質問において指摘しているIASBメンバーの構成の見直しと合わせ、常勤メンバーを減らし、非常勤メンバーを増やすべきである。
また、現時点において、政治家を含めて世界中からIASBへの批判が出ていることを真摯に受け止め、そのガバナンスを改善する必要がある。
具体的には、主要国の金融監督当局及び会計基準設定主体との連携を強化(基準設定のプロセスに関与)すべきである。また、IASBの業務遂行が適切かどうかを監視するSub-CommitteeをTrusteesの下に設けるか、もしくはSACを改組するなど、ガバナンス強化を図るための適切な体制を構築することが重要である。

22

質問:この特定の職歴の分布に関する要件は、最適任者を吸引することが望ましいとの観点から、緩和すべきか。

質問:(他の基準設定機関と同様に)IASC 財団は、アナリスト及び投資家(「利用者」)の関与の確保について困難を経験している。こうしたグループの関与を促進する方策はあるか。

【コメント】

ボードメンバーが個人資格として参加するには(権限と責任の両面で)限界がある。現行の定款上に「公式のリエゾン責任」という記述はあるが、リエゾンメンバーの位置付け、責任及び選任手続が明確にされていない。
世界の市場で用いられる基準を作成するためには、ボードメンバーは、特定の国や文化に偏りをもたせるべきではない(例:特定の国からの出身者が全体の25%超の議席を占めない)。また、主要資本市場の代表が参画すべきである(例:米欧日の主要資本市場)。現実の市場で用いられる会計基準を作成し、その上で基準の統一化へ進むためには、主要な資本市場と関係の無い集まりとしてボードが議論しても、市場で広く受け容れられることとはならない。ボードの独立性の確保は重要であるが、それは関係者の声を無視することとは別問題であり、地域性、専門性を踏まえたバランスを考慮することが不可欠である。その際には、「公式のリエゾン責任」の定義を明確化した上で、各国との連携を強化して議論を進めた方が、収斂という目的を達成するためにはより効率的である。
一方、複数の職歴を持つ人もおり、今後のメンバー選定に支障をきたさないためにも、職歴の分布に関する要件は柔軟性を持たせる必要がある。

23

質問:このような公式のリエゾン関係は、会計基準の収斂を確実にするために重要と思うか。現在リエゾン関係による代表者を出していない新興経済圏とのリエゾンを行うために特別の考慮を払うべきか。

【コメント】

現状では、そもそもの「公式のリエゾン関係」の位置付けが不明であり、22項の質問について指摘した通り、その位置付けを見直した上で、公式のリエゾン関係は非常に重要である。
新興経済圏とのリエゾン関係については、一定の考慮は必要であるが、それはIASBの構成そのものではなく、下記40項に関する質問で指摘する通り、SACの見直しと合わせて対応すべきである。

24 公共の利益とフレームワークへの誓約:IASB理事は、公共の利益のために行動し、IASBのフレームワークに忠実でなければならない。

【コメント】

IASBが現行で定めているフレームワーク自体も絶対的なものではないため、現実に即して適宜改善を図る必要がある。現状では、フレームワークの位置付けならびにその改訂に関する具体的な手続が不明であるため、これらを明確にすべきである。

32

質問:定款では、IASB にとって必要なデュー・プロセスの原則及び要素について記述している。IASB の手続については、国際財務報告基準の序文により詳細に示されている。定款で定められた手続では十分でないと回答者が考える場合、何を追加すべきか。

【コメント】

これまでの経験上、定款で定められたデュー・プロセスを表面的に実施するのみで、真摯な対応に欠けているのではないかという強い不満が市場関係者からよく出されている。
具体的には、論点整理や公開草案の公表に加え、世界中から寄せられた意見に対して、それらの意見を採用しない場合に、対応方針やその理由を懇切丁寧かつ明確に説明する作業が不可欠である。フィールド・ビジットについては、その結果を正確に公表するとともに、そこで得られた意見への適切な対応を図るべきである。また、早い段階から有用なインプットが得られるよう、討議用資料をきちんと公開しておく必要がある。こうした努力なくして、IASBが真に国際機関にたる組織としての信頼性を確保することはあり得ないし、フィールド・ビジットへの協力が得られなくなる恐れが生じる。
さらに、IAS32号及び39号の見直しの際に行われたような、公聴会の開催や直接意見交換する場の設定を、デュー・プロセス上で原則として実施する手続として追加すべきである。特に、地域的、文化的に異なる場所での公聴会等を積極的に開催し、広範囲の意見を吸い上げた上で基準を検討すべきである。
その他、現行では取扱いが不明確なサンセット・レビュー手続について、定款上で明確に手続を定めるべきである。現在、IASBの一部のメンバーがサンセット・レビューを行っているようであるが、その有効性を確保するためには、当事者以外の第三者がレビューを行わなければならない。そのため、レビューを行う際には、IASBとは独立した第三者で構成される特別の委員会を設置するか、SACの協力を得るべきである。

F 基準諮問会議(SAC)
40

質問:SAC の現在の手続及びSAC のメンバー構成(人数及び職歴)は、満足できるものであるか。SAC は第38 節で定義されている目的を達成する能力があるか。

【コメント】

現在の数十名が参加する会議体では効率性も低く、折角、世界中から年に3回集まっても、実りある議論ができていない。そのため、グループ分け(例:(1)新興経済圏・中小企業の基準を別途検討する機関、(2)市場関係者(作成者、監査人、アナリスト)や金融監督当局で構成される基準設定諮問機関 等)を行い、各グループの人数を絞り込むべきである。

質問:SAC 議長の選出方法は適切か。

【コメント】

IASB議長とSAC議長の兼職は解くべきである。助言を受けるべき立場にあるIASBの議長がSAC会議を運営することは適切性を欠く。

以上

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