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2003年度環境自主行動計画評価報告書

2004年4月13日
環境自主行動計画第三者評価委員会

1.はじめに

第三者評価委員会は、2003年3月、2002年度フォローアップの評価として、各業種におけるデータの収集・集計、ならびに日本経団連事務局におけるデータの収集・集計方法について、評価を行った。その上で、2003年度フォローアップから取り組むべき短期的課題と、中期的に検討が望ましい課題に分けて、改善すべき点を指摘した
これを受けて、2003年度フォローアップでは、短期的課題全4項目と、中期的課題3項目のうち1項目#1が調査項目に取り入れられ、参加業界から改善状況が事務局に報告された。一方、第三者評価委員会では、諸外国の自主的取組事例との比較を行う観点から、産業界の自主的アプローチが重要な役割を果たしてきたドイツ、オランダ、イギリスについて、2003年9月に実地調査を行い、データ収集を行うとともに、関係者との意見交換を行った。
2003年度フォローアップ評価では、短期・中期の指摘事項への対応状況の評価と、海外実地調査結果をふまえ、環境自主行動計画の一層の透明性・信頼性向上に向けて今後取り組みが期待される点について指摘する。
なお、評価にあたっては、各業種から事務局に提出されたデータを精査するとともに、5業界(電力、鉄鋼、化学、セメント、電機・電子)の担当者から直接説明を聴取した#2

2.2002年度指摘事項への対応状況#3

(1) 短期的課題への対応状況

1. バウンダリー調整

バウンダリーの調整については、まず、業種間の調整について、従来一部業種間で実施されていた電力の調整#4に加えて、主要な重複箇所の調整が認められた#5。業種によっては、そもそも他業種との重複がないものもあるが、信頼性向上の観点からは、次回フォローアップまでに全業界がバウンダリー調整の有無(調整対象の有無を含む)を確認して報告することが望まれる。
さらに、フォローアップの対象とする企業の範囲についても、業界団体非加盟企業の除外、継続的にデータを提出できない企業の除外、拡大推計等による業界全体の排出量の推計廃止などについて、より正確な対応が図られた。この結果、一部団体については、集計方法の見直しに伴い、提出データの修正などが行われており、信頼性の向上の観点からは評価したい。一方、依然として拡大推計をしている業種や対象範囲が不明確な業種がまだ残されており、引き続き透明性確保の観点から改善に努力すべきである。

2. 予測値前提の統一

2002年度フォローアップ評価報告では、2010年度BAU#6の予測にあたって統一経済指標の採用を提案した。しかしこの点については、依然として独自の前提を採用する業種が殆どであり、多くの業界で統一指標が受け入れられなかったことは残念である。受け入れられなかった理由として、業界として従来から需要予測に用いている指標を継続的に採用したいとの意向や、企業毎に中長期計画を策定しているため業界として指標の統一はできないといった事情、さらに既に動いている計画の前提値を途中で見直す場合、遡ってのデータ調整や業界目標と予測値の整合性を確保することが難しい等の点が指摘された。
しかしながら、産業部門の温暖化対策の分析と評価は地球温暖化対策推進大綱の第2ステップの見直しを控えて従来より厳しくなると予想されることから、自主行動計画が引き続き温暖化対策の推進に有効なアプローチとして評価と信頼を得るためには、基本的に全業界が統一指標を採用することが必要と考える。少なくとも、次回のフォローアップからは、各業界の予測値の妥当性を検証し、信頼性を高める観点から、2010年度の排出量予測の根拠となる生産額や生産量の予測値を公表することが必要である。また、業界として現在採用している指標の変更が困難な場合は、少なくとも現在採用している指標とそれを採用した理由、ならびにマクロの統一指標とミクロの目標との関連性、整合性についても説明すべきである。
また、予測値については、計画の信頼性を高める観点から、将来、新たな実績値をふまえて定期的な見直しを検討すべきである。

3. 目標採用理由の明確化

自主行動計画は、産業・エネルギー転換部門全体の目標として2010年度におけるCO2排出総量を1990年度水準以下とすることを掲げている。一方、業種別目標については、CO2排出総量、CO2排出原単位、エネルギー使用量、エネルギー使用原単位の4種類の指標から、各業種が任意に選択しており、外部からはそれぞれの指標採用の理由が分かりにくい。原単位目標と総量目標にはそれぞれ長所と短所があり、中期的にはこれらを踏まえて日本経団連としての目標を定めることが望ましい。今年度のフォローアップでは、殆どの業種から、現在採用している指標を選択した理由について一応の説明がなされたが、次回フォローアップでは、今回説明のなかった業種の説明はもとより、選択理由のより詳細な説明や他の指標との比較についてもできる限り説明すべきである。
中期的には、後述するように各業種目標の妥当性評価方法の確立と、専門機関等による精査が必要と考えるが、今回の回答は改善に向けた第一歩として評価できる。
なおこれと関連して、なぜ当該数値が目標として算出されたかについても明確な説明をつけるべきである。こうすることで目標を達成した(あるいは達成できなかった)場合に、それが十分な取り組みを行った結果かどうかを判断できる。また算出根拠が明確になることで、前提条件の変化がいかに目標達成(あるいは目標未達成)に影響しているかを定量的に評価することが可能となる。欧州では、専門機関が各業種の設定目標を精査するとともに、実績評価においても客観的情勢を考慮し、柔軟な対応を行っていることを参考にすべきである。

4. 排出量増減理由の説明

排出量の変化には様々な要因の影響が考えられることから、排出量増減の理由の説明を求めたところ、殆どの業種について、何らかの形で理由の説明または要因分析が示されたことは評価できる。
増減理由の詳細な説明は、各業種をめぐる環境と、その中での取り組み状況に対して一般の理解を深め、自主行動計画の信頼性を高める上で不可欠である。今回は排出量増減理由説明の第一歩として評価するが、今後、中長期的には産業構造変化や技術革新の影響など、一層分析を精緻化していくべきである。

(2) 中期的課題への対応状況

<ライフサイクル的観点からの評価>

各業種の努力を公平に評価し、さらなる努力を促すためには、製品のライフサイクル全体における排出削減への貢献を評価することが重要であるとの観点から、昨年の報告書では、産業部門の排出削減実績に加えて、製品のライフサイクル全体について、できる限り定量的な評価を行うべきであると指摘した。
今年度調査では、その第一歩として、半数弱の業種より、ライフサイクル的観点から期待される効果について何らかの記述があった。しかし、まだ事例的、定性的であり、十分とはいいがたい。今、求められているのは、できる限り統一的、定量的に評価を行うことであり、今後さらにこうした努力を積み重ねることを期待する。
なお、政府統計によれば、産業部門からの2001年度のCO2排出量は1990年度比で5.1%減となったのに対し、民生・運輸部門では、それぞれ25.4%、22.8%の増加となっており、民生・運輸部門での効果的な対策・施策が不可欠となっている。こうした状況では産業も産業からの排出に限定することなく、民生・運輸部門の削減にどのように貢献できるか、その範囲を明確にするとともに、具体的な取り組み状況をできるだけ公表していくべきである。
既に、民生・運輸部門からは23業種・企業が自主行動計画に参加しているが、両部門については、データの捕捉や管理実態の把握、共通目標の設定が容易でないなど課題が多い。今後、部門間のバウンダリー調整や適切な目標設定等に努力するとともに、物流、民生機器などのライフサイクル的取り組みを自主行動計画の延長に位置付けることも議論していく必要がある。

3.今後の課題

第三者評価委員会では、自主行動計画の信頼性、透明性の更なる向上に向けて、以下の課題があると考えており、昨年度指摘事項への対応に加えて、日本経団連の取り組みを期待する。

(1) 情報開示の積極的な推進

参加業種・企業は主体的に計画の改善に取り組んでいるが、信頼性向上のためには、外部からのチェックによって、企業側からは気付かない点を是正していく必要がある。そのためにも、予測値前提の統一など前節で評価した昨年度の指摘事項への対応はもとより情報公開の徹底が不可欠である。
前述の通り、自主行動計画の目標は、産業・エネルギー転換部門全体では総量目標を採用し、個別業種については4種類の指標から任意に選択する形をとっており、第三者からみて総量目標と個別目標(特に原単位目標)との関連性が非常にわかりにくくなっている。業種毎の情報開示とともに、各業種目標と自主行動計画全体の目標との関係、また、どのようにして総量目標の達成を担保するのか、日本経団連として明確に説明する必要がある。

(2) 専門機関の活用

昨年度評価報告書でも、専門機関による評価の可能性について指摘したところであるが、自主行動計画の透明性・信頼性の一層の向上に向けて、各業種から提出された数字と国の統計との整合性の確認、計画全体の目標と各業種目標の整合性の確認、各業種目標の妥当性のチェック、自主行動計画の効果の評価手法確立、モニタリングレポートの公表、エネルギー効率の国際比較について、専門的能力を有し、客観的な判断ができる専門機関の活用を検討することを提案する。

(3) データベースの蓄積

データベース整備の必要性も、昨年度評価報告書で指摘した通りである。現在、わが国では、複数の機関が異なる目的から各種のデータを収集・管理しているが、必ずしも有機的につながっておらず、有効活用に至っていない。今後わが国の温暖化政策や自主行動計画の評価の正確さを確保するためには、ライフサイクル的観点からの情報も含めて企業の提供したデータを蓄積してデータベースを構築し、その有効活用をはかるとともに、定期的に維持管理していくべきである#7

(4) 原単位目標の検討とエネルギー効率の各国比較

そもそも温室効果ガスの排出削減目標としてどのような指標を採用すべきかについては、京都議定書で各国の目標値が定められた際にも、総量目標は国の責任能力を超えるのではないかと指摘されたところである。自主行動計画についても、総量目標は、京都議定書の各国の削減目標(総量目標)との整合性という点では分かりやすいが、排出量の増減は様々な要因に影響されるため、各業界の実際の努力が分かりにくく、また各業界の努力だけでは目標達成が担保できない惧れがあるという問題がある#8
各業界が責任をもって取り組めるのは原単位の改善であり、外部要因を捨象した努力の成果が見えることが重要である。自主行動計画として決定した現行目標の達成に向けた取り組みとフォローアップは当然継続すべきであるが、日本経団連として、総量目標だけではなく、責任をもって取り組める原単位目標について検討するとともに、原単位目標とその成果について、一覧性のある情報公開を心がけるべきである。なお、提供する製品・サービスの種類が多様、あるいは製品・サービス構造の変化が速い場合には、原単位データの評価に不可欠な関連データの公表が必要である#9
我々の調査によれば、ドイツ、オランダ、イギリスの自主協定は、いずれも原単位目標を採用しており、経済状況の如何に関わらず、企業努力が反映されやすい。さらにドイツとオランダでは、目標設定に際して自国企業の国際競争力維持を明確に謳っている。国際競争力維持の観点から自主行動計画を見ると、時系列の排出量の変化以上に重要なのは、各業界のエネルギー効率が国際的にどのレベルにあり、CO2削減の限界費用をいくらと見るかということである。こうしたデータを公表することで、国際競争力への影響を考慮した公平な評価と、経済と環境の両立の実現が可能になる。

4.おわりに〜自主的取り組みの今後のあり方

2003年度フォローアップ結果からは、1998年度以降、5年連続で産業・エネルギー転換部門からのCO2排出量を1990年度レベル以下に抑えるとの目標を達成しており、現時点では2010年度の目標達成に向けてひとまず全体として順調に推移していることが確認できる#10。しかし、他方でわが国全体の温室効果ガス排出量は、2001年度実績で1990年度比5.2%増加しており、京都議定書に定めるわが国の目標の達成は極めて厳しい状況となっている。
政府は今年、地球温暖化対策推進大綱を見直すこととしており、第2ステップでは、排出削減に向けた政策・施策の強化も予想される。こうした中、産業部門で中心的な役割を果たしている自主行動計画の信頼性・透明性・実効性をどう評価すべきかとの論点も提起されており、産業界が今後とも自主行動計画を進め、信頼を得ていくためには、一層の説明責任を果たすことが不可欠である。自主的な取り組みは自主的であるがゆえに、その有効性を一般に理解してもらうためにより一層の説明責任が求められるのは当然である。
京都議定書批准の見通しをはじめ、温暖化政策の方向性をめぐる国際的動向が依然として不透明な中で、自主行動計画がわが国産業界の信頼できる実績として評価されるためには、今後とくに目標達成の見通しをより確実なものとしていく必要がある。
かかる観点からは、欧州諸国にみられる自主協定も、環境自主行動計画の今後を考える上で一つの参考となる。我々が理解する自主協定は必ずしも法的拘束力や罰則等を伴うものではない。政府もしくは独立性の高い専門機関によるデータのチェックによって透明性・信頼性を確保するとともに、協定に基づく計画の実施を産業界の取り組みの柱と位置づけ、目標が達成される限りにおいて追加的措置を講じないことが担保されれば、参加各業種のインセンティブ向上も期待できる。
また、自主性を尊重する観点からは、NGOなど民間セクターとのコミュニケーション強化や民間セクターによるモニタリングも、社会的な評価として選択肢の一つとなることを考えるべきである。

以上

  1. 短期的課題として、バウンダリー調整、予測値前提、目標採用理由の明確化、排出量増減理由の説明、中期的課題としてLCA的評価について報告を求めた。対応状況の評価は本文2.を参照。LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、資源採取から製造・物流・販売・使用・廃棄に至る製品のライフサイクル全体を通して環境負荷や影響を定量的に把握し、客観的に分析・評価する方法。
  2. 2003年12月19日開催の委員会会合で5業界からのヒアリングを実施した。
  3. バウンダリー調整等今年度のフォローアップ調査で調査対象とした第三者評価委員会指摘事項への対応状況については、別紙一覧<PDF>を参照。
  4. 排出量のダブルカウントを避けるための調整を指す。
  5. 電気事業連合会、日本鉄鋼連盟、日本化学工業協会、セメント協会、日本製紙連合会、日本自動車部品工業会、日本石灰協会、日本ゴム工業会について調整済を確認、石油連盟と日本乳業協会について該当なしを確認した。
  6. Business as Usual: 自主行動計画を2003年度以降実施しない場合、2010年度のCO2排出量、エネルギー使用量、CO2排出原単位、エネルギー使用原単位等が、どの程度増加するかを示したもの。
  7. 但し、データベース構築・維持管理に伴う費用や利用のあり方については別途検討が必要である。
  8. 自主行動計画は京都議定書の合意に先立って開始されたものであり、国別目標との整合性を念頭においた目標設定ではないことにも留意が必要である。
  9. 業種によっては、提供する製品・サービスの種類や性質から、適切な原単位の選択が容易でなく、共通の原単位の採用による業種間比較が困難であることに留意する必要がある。
  10. ただし2002年度実績については、CO2排出係数の悪化が排出量に影響したことに留意する必要がある。

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