[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

地球温暖化対策の着実な推進に向けて

2004年7月12日
(社)日本経済団体連合会

温室効果ガスの排出量が2002年度には基準年より7.6%上回るなど、京都議定書で日本政府が約束した、2008年〜2012年の温室効果ガスの1990年比6%削減という目標達成は厳しい状況にある。そこで、二酸化炭素排出量が増大している民生・運輸部門を中心に、温暖化対策の一層の強化が必要となっている。

わが国産業界は、これまで環境自主行動計画の推進など積極的な取組みを進め、産業部門の対策において着実な成果をあげてきた。今後は、自主行動計画の信頼性、透明性の一層の強化に加え、民生・運輸などの部門においても更なる貢献を行っていく。

しかし、地球温暖化問題の解決には、幅広い主体の参加が不可欠である。現在、地球温暖化対策推進大綱(以下、大綱)の見直しに向けた議論が、政府や関係審議会で進められているが、国民・企業・政府の真に一体となった取組みが実現するよう、産業界として下記の提言を行う。

1.京都議定書の目標達成に向けた基本的な考え

(1) 経済と環境の両立を前提とした対策の必要性

温暖化対策にあたっては、大綱が強調している経済と環境の両立を施策の基本に据え、地道な省エネ努力、新たな技術の革新・普及を通じた経済活動あたりのエネルギー使用の原単位、二酸化炭素など温室効果ガスの排出原単位の改善を、国内対策の中心とすべきである。
企業や国民の経済活動を過度に制約するような施策、日本経済をリードする新産業・新事業の芽を摘むような施策はとるべきではない。
わが国は大綱に盛り込まれた国内対策の実現に最大限努力すべきであり、産業界も積極的な貢献を行う。
しかし、経済活動量の変動などの理由で目標が達成されないと見通される場合は、非経済的で規制色の強い追加国内対策ではなく、クリーン開発メカニズム(CDM)および共同実施(JI)を中心に、京都メカニズムを柔軟に活用していくことが重要である。

(2) 環境税や経済統制的な施策には反対

懸命な省エネ努力が実を結び、わが国企業は、既に世界最高水準のエネルギー効率を達成している。こうした状況にもかかわらず、環境税や温室効果ガスの排出枠を企業に割り当てる国内排出量取引制度を導入すれば、産業の国際競争力を喪失させ、同様の制度を有しない国での生産が増加し、結果として地球規模での温室効果ガスの排出増加につながる恐れがあることを認識すべきである。
特に環境税は、対策としての効果が全く不明確であるばかりか、既に様々なエネルギー税を負担している製造業への新規課税として、産業活動の足枷となる。一部で論じられている「森林環境・水源税」は、本来一般財源で賄うべき多面的機能をもつ森林保全の財源を、工業用水や化石燃料への上流課税によって確保しようとするものであり反対である。
また、政府による排出枠の割り当ては、市場メカニズムのなかで企業が自らの判断で決定すべきエネルギーの適正な使用量を、政府が事前に定めるという極めて規制色、経済統制色の強い政策であり、市場メカニズムによって進められるべきわが国の産業構造の転換、高度化を歪める。

2.産業界の温暖化対策への取組みの強化

(1) 自主行動計画の目標の確実な達成

日本経団連は、「産業・エネルギー転換部門からの二酸化炭素排出量を1990年度レベル以下に抑制する」という自主行動計画を、産業界の社会に対するコミットメントとして、その確実な達成に努めている。
大綱において自主行動計画は、「各主体の自主的かつ幅広い参画による自らの創意工夫を通じた最適な方法の選択が可能、状況の変化への柔軟かつ迅速な対応が可能等の観点から、環境と経済の両立を目指す本大綱の中核の一つをなすものである」と位置付けられている。
自主行動計画を着実に進めるべく、日本経団連では、毎年度のフォローアップを通じ、排出量および排出削減に向けた取組みの進捗状況を公表している。また、環境自主行動計画第三者評価委員会および政府の産業構造審議会・総合資源エネルギー調査会の合同小委員会での検証において、透明性、達成可能性について一定の評価を受けている。
2004年度フォローアップにおいては、透明性・信頼性の一層の向上、製品のライフサイクル的観点からの取組みの評価、エネルギー効率レベルの国際比較など、更なる改善を図る予定である。
併せて、自主行動計画の補完として、海外における植林活動や、わが国企業が持つ高い技術力を活用した温室効果ガス排出削減プロジェクトへの参加を進める。また、複数事業者間の連携による省エネ活動をさらに推進する。
なお日本経団連では、環境自主行動計画の民生・運輸部門への更なる拡大に取組む。

(2) 民生・運輸部門等の取組みへの貢献

省エネ機器の開発や自動車燃費の向上などを通じ、企業は民生・運輸部門の温室効果ガスの抑制にも大きく貢献してきたが、世帯数・業務床面積・輸送量の伸びなどにより、民生・運輸部門の二酸化炭素排出量が増加している現状をふまえ、産業界として、以下のような一層の貢献を進める。

  1. 省エネ製品の開発・普及
    当面の重要課題として、トップランナー基準を満たした、高効率の省エネ機器の普及拡大を進める。
    また、高効率給湯器・空調機器などの省エネ機器、クリーンエネルギー車、サルファーフリー燃料およびこれを活用する車両、さらには住宅用太陽光発電材料・高性能住宅用断熱材・複層ガラス付き樹脂サッシといった新エネ・省エネ関連住宅用材料などの開発・普及に努める。

  2. 省エネルギーに関する情報、サービスの提供
    省エネ機器等の性能情報を含め消費者への適切な情報の提供を進めると同時に、IT技術の活用により家庭やビルのエネルギー管理をサポートする技術・情報の開発・普及を進める。

  3. 物流における温暖化対策の推進
    「グリーン物流パートナーシップ計画」に協力し、荷主企業と物流事業者が参画する効率化事業を促進する。また、トラック集積基地などへの給電インフラ設置などの環境整備に協力する。

  4. 森林整備活動の推進
    社有林の整備を引き続き進めるとともに、各地での植林および森林整備活動に協力する。また、木質バイオマス燃料や名刺への間伐材の利用促進により、森林経営に協力する。

  5. 家庭・オフィスにおける温暖化対策の推進
    従業員の家庭における環境家計簿の作成や通勤時等における公共交通機関の利用促進を進めるとともに、自社事務所ビルのエネルギー管理を強化する。

(3) 積極的な情報公開

温暖化対策の「計画、実行、結果の評価、より有効な対策の実行」のPDCAサイクルを実行するうえで、温室効果ガス排出量などの情報を各企業が把握することが重要であり、環境自主行動計画はそのための重要な手段を提供するものと考えられる。
加えて、日本経団連は、本年1月の「環境立国のための3つの取組み」のなかで、「会員企業の環境報告書等の3年倍増」を目指す旨の決意を表明しており、この実現に向けたフォローアップを行う。ただし、エネルギー多消費産業にとって、事業所毎のエネルギー使用量などの情報は、コスト情報そのものであることから競争上の企業秘密に該当する場合もあり、情報発信は企業・業界が自主的に行うものとすべきである。
なお、現在十分にデータが把握されていない民生・業務および運輸部門については、政府内で関係府省が協力し、関係者の理解を得ながら必要なデータを収集する手段を検討し、情報の適切な把握に努める必要がある。

3.政府に対する期待

(1) 行政による率先垂範

政府および全ての関係機関においても、産業界と同様、温暖化対策のための自主行動計画を作成するとともに具体的な行動をとることを強く期待する。
政府、地方自治体、学校等の公共機関がESCO(エネルギー・サービス・カンパニー)の活用や省エネ機器の導入など、温暖化対策に積極的に取組むことは、市場の創設に役立つのみならず、モデル事業の実施やモニタリング結果の情報提供により、国民の意識を高めることにもつながる。
また、グリーン調達についても、政府・地方自治体等の取組みの強化が望まれる。

(2) 国民に対する情報提供

わが国の国民は高い省エネ・環境意識を持っており、多様な手法による適切な情報提供を通じ国民の内発的な意識に強く働きかけることにより、国民一人ひとりの自主的な行動に結び付くことが期待される。
現在も政府の広報やイベントなどを通じた働きかけが行なわれているが、大綱に掲げられている省資源・省エネ対策が国民にはほとんど知られていないなど、具体的な成果をあげているとは言いがたい。
効果的な情報提供のあり方を、政府として早急に検討し、現在の大綱に盛り込まれている「国民努力」分(最大1.8%の排出削減)を、政府の責任において確実に達成すべきである。
また、サマータイム制度の導入は、直接の省エネ効果のみならず、省エネに向けた国民意識の醸成の大きな契機となることも期待される。政府は、国民の理解を得ながら、具体的な検討を進める必要がある。

(3) 原子力の有効活用

原子力は、安定供給性に優れたわが国の基幹的準国産エネルギーであると同時に、発電時には二酸化炭素を排出しない温暖化対策の切り札であり、バックエンド対策を含めわが国として着実な推進が不可欠である。
京都議定書の目標達成に向けて、既存の原子力発電所の設備利用率を諸外国と比較しても遜色ない程度にまで向上させることが急務であり、安全確保を大前提としながら、定期検査体系や規制の見直しについて、官民が一体となり取組む必要がある。
併せて、政府は、原子力発電所の新増設にあたって、立地地域の理解を得るための努力を従来にも増して行う必要がある。

(4) 京都メカニズムの活用に向けた環境整備

京都メカニズムの活用は、わが国が京都議定書の目標を達成するために必要不可欠である。特に、CDMやJIなどの事業は、地球規模での温暖化対策に貢献するものであり、積極的な活用に向けた環境整備を早急に行う必要がある。
とりわけ、国民各層の最大限の努力にもかかわらず、京都議定書の削減約束に不足する分については、政府の責任において京都メカニズムを活用し、約束達成のために必要な措置を講じるべきである。また、政府が開発援助の一環として発展途上国におけるCDMプロジェクトを推進することも極めて重要である。
同時に、民間企業においても、自主行動計画の補完や国際貢献の観点から、CDMやJIに積極的に取組むつもりである。
政府には、民間企業の自主的な取組みを奨励するとともに、(1)温室効果ガス削減効果がある省エネや熱効率改善などのプロジェクトが、幅広くCDMプロジェクトとして認められるためのCDM理事会などへの働きかけの強化、(2)CDMおよびJIクレジットの企業会計・税務上の取扱の明確化など、企業が安心して京都メカニズムを活用するためのインフラ整備が求められる。

(5) 産業界の取組みに対する支援

産業界は、エネルギー効率の高い製品・サービスの開発・普及、本社ビル等の業務部門における省エネ、物流の効率化、温室効果ガス排出削減につながる素材、燃料などの供給を通じ、国全体の排出削減に大きく寄与している。
こうした貢献を政府が積極的に評価し、必要に応じて資金面での協力、税制上の措置、モデル事業への協力などの支援を行うことを期待する。
また、CDMやJIについても、政府による情報提供や資金協力を含めた支援が望まれる。

4.おわりに

温暖化問題は、長期的視野に立って取組むべき問題である。解決の鍵を握るのは、技術革新による環境に適応したエネルギー資源の創出であり、政府がその実現にむけたロードマップを描くよう求めたい。そのなかで、核燃料サイクルの確立、カーボンフリーを目指した水素社会に向けた取組み、二酸化炭素の分離・固定化、さらに核融合などへの国家として長期的な取組みの方向性を示し、積極的な研究開発資金の配分、計画的な人材育成を行うべきである。
同時に、温暖化問題は一国のみの努力では解決できない地球規模の問題でもある。アジアを中心に積極的な環境外交を展開し、日本が誇る優れた環境技術、省エネ・新エネ技術の移転を進めるなど、国際的な視点での取組みが不可欠である。
また、京都議定書の第一約束期間以降の国際的な排出削減の枠組みに向けた議論においては、結果的に限られた国しか温室効果ガスの削減義務を負わないという現在の京都議定書の反省を踏まえ、真に地球規模での温暖化対策につながるような合意が求められる。その際、わが国の優れた技術の移転を通じ地球全体の温室効果ガス削減へ貢献するといった視点が何よりも重要である。
そのためにも、今後の大綱の見直しにあたっては、技術革新の主体である企業の活力を殺ぐことのないよう、民間の自主努力や創意工夫を柱に据えた、真に実効のある対策、制度の整備を強く要望する。

以上

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