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「消費者団体訴訟制度の導入」に関する基本的考え方

2005年2月15日
(社)日本経済団体連合会

「消費者団体訴訟制度の導入」に関する基本的考え方・概要
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1.総論

近年、規制緩和、市場メカニズムの活用を柱とする構造改革や経済社会のグローバル化の進展等に伴い、消費者が自己責任原則の下で、自由に選択・行動し得るための環境整備を図ることが、我が国における消費者政策の基本となっている。消費者には、「自立した主体」として、市場に参加し、行動する一方、行政には、消費者の自立のための支援が求められている。
こうした中で、消費者に係る商取引はますます高度化・複雑化しつつあり、消費者被害の発生・拡散リスクも高まっている。これに伴い、消費者被害の発生・拡散を未然に防止することがますます重要な政策課題となりつつある。特に、悪質事業者による架空請求・不正請求などの犯罪行為の拡大は社会問題化しつつあり、日本経団連としては、このような悪徳事業者の市場からの排除に向けて、個別業法や行政措置など行政機関等による取り組みや警察等による徹底した取締りを強く求める。
同時に、消費者契約については、同種かつ少額の被害が大量に発生する特徴があるため、現在、国民生活審議会消費者団体訴訟制度検討委員会(以下、検討委員会)において、「消費者全体の利益擁護」という「政策目的」を実現するために、本来訴訟を起こす資格や権限を有しない消費者団体に対して、立法によって差止請求権を特別に付与する「消費者団体訴訟制度」の導入に向けた検討がなされていることは、時宜を得ている。
他方、「消費者団体訴訟制度」の導入は、21世紀における民事訴訟のあり方を根本から覆す制度といえる。
また、訴権の濫用・悪用がなされると、健全な事業者による活動や創意工夫の抑制、事業マインドの萎縮など、企業の自由な経済活動が損なわれるおそれがある。
したがって、以上のような状況を踏まえ、本制度の導入にあたっては、我が国における民事訴訟制度等との整合性、制度の濫用・悪用の徹底排除の方策を含め、幅広い視点から精緻な議論を尽くし、国民の信頼に足る制度を構築する必要がある。その際、既に本制度が導入されている欧州諸国の運用実態等も十分把握すべきである。

2.各論

日本経団連としては、上述の基本的考え方に基いて、主要論点に対する意見を以下に示す。今後、検討委員会においては、こうした点を踏まえて、本制度の具体的な制度設計が行われることを求める。

(1) 訴権の内容

現在、消費者契約法においては、個々の消費者が、事業者の不当な行為の差止めを求める権利は認められていない。したがって、消費者被害の未然防止・拡大防止のため、「消費者全体の利益擁護」という公益の観点から、公益を担うに足る消費者団体に対して、消費者契約法にかかわる差止請求権を付与することには、一定の意義がある。
一方、消費者が被害を受けた場合の損害賠償については、すでに個々の消費者が独自の請求権を有しており、個々の消費者が独自の権利を有さない差止請求権とは性質を異にする。また、個々の消費者が損害賠償請求権を有するにもかかわらず、消費者団体に対して訴権を与えることは、消費者基本法の「消費者の自立促進」という基本理念に反する。そもそも損害賠償請求制度のあり方は、民事訴訟制度の基本に係る問題であり、民事訴訟全体におよぶ根本的議論と切り離して検討すべきではない。
被害の救済策については、司法制度改革の中で、少額訴訟制度の改善、法律扶助制度の充実を含む司法ネットの整備、司法書士への簡裁代理権の付与など司法インフラを充実させるとともに、すでに民事訴訟法の改正により選定当事者制度の拡充が図られている。これらの手法の効果を十分に検証した上で、問題があれば、それらの改善策を検討するのが筋である。

(2) 差止めの範囲

差止めの対象とすべき行為については、消費者が不利益を被るとして消費者契約法で無効とされている契約条項を対象にすることが望ましい。
一方、勧誘行為については、消費者の価値観が多様化する中で、個々の消費者を一括りにして不当と判断し難い面があり、消費者全体の利益擁護のための団体訴訟にはなじみにくい点が懸念される。また、勧誘行為は、個々の現場における具体的な営業活動として行われることが多いため、法技術上、普遍性があり、かつ効果的に解決を図ることは容易ではないと言われている。事業者の創意工夫の発揮を不当に阻害せず、また営業活動を不必要に萎縮させずに、実効性ある仕組みが可能かどうかについて、十分検討した上で、結論を出す必要がある。

(3) 適格団体のあり方

「消費者全体の利益擁護」という公益のために、一定の消費者団体に対して、新たに訴権を認めるとの趣旨に鑑みて、行政機関に準ずる程度の公益性と信頼性のある消費者団体に対して訴権を付与することが、制度への信頼性確保にとって不可欠である。
適格消費者団体の選定にあたっては、制度の安定性・信頼性の観点から、行政が公正かつ透明な手続に基いて、あらかじめ団体の適合性を判断することが望ましい。その際、「真に消費者の利益を適切に代表し得る存在とは何か」「誰がどのように検証するのか」などを明確化するとともに、単なる形式ではなく、実体にまで掘り下げて判断すべきである。
適格要件については、既存の団体の実状に合わせて設定するのではなく、論理的整合性のある適格要件を設定する必要がある。また、反社会的集団による企業恐喝的な訴訟や、自己の利益や和解金等の受領を真の目的とする訴訟、消費者問題とは関係のない政治・宗教的問題や労働紛争等に起因する企業攻撃、競争事業者や買収予定者による悪用等を徹底排除し得る、厳格な要件とすべきである。適格団体として認定された団体であっても、その後、訴権を行使する団体として不適切な行為等がみられれば、制度の信頼性が損なわれることになる。そのため、適格要件を継続的に検証し得る仕組みや一定の資格喪失規定を設ける必要がある。

(4) 訴訟手続のあり方を含む制度運営の円滑化

本制度は、現在具体的な権利の帰属主体ではない消費者団体に対し、立法により特別に差止請求権を付与する新しい制度ではあるが、民事訴訟の枠組みを利用するものであることには変わりはない。したがって、本制度における訴訟手続(既判力の範囲、同時複数提訴の可否、請求の放棄・和解等の可否、管轄裁判所の決定など)については、民事訴訟法の原則に従うのが妥当である。ただし、複数の消費者団体に訴権が認められる場合、重複訴訟や蒸し返し訴訟、不当な訴訟などが現実の問題として懸念される。本制度の安定性・信頼性を確保するためにも、あらかじめ濫用防止措置を設けることを検討する必要がある。

以上

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