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「知的財産推進計画2005」の策定に向けて

2005年3月15日
(社)日本経済団体連合会

I.基本的考え方

これまで知的財産戦略本部において2回にわたり策定された知的財産推進計画に基づき、知的財産を巡り、様々な改革がスピード感を持って行なわれており、政府与党ほか関係者の取り組みを高く評価するところである。
こうした認識のもとに、今後の政策へのさらなる期待について、産業技術委員会知的財産部会と産業問題委員会エンターテインメント・コンテンツ産業部会が協力して検討を行い、以下の通り提言をとりまとめた。その基本的な考え方は、わが国産業の国際競争力の強化に役立つ、知的財産政策の推進である。知的財産政策は、ややもすれば権利の保護に焦点があてられがちであるが、重要なのはプロイノベーションの視点である。
制度改革が大きく進む中にあっては、今後の政策の重点を、保護中心から活用の促進に向けた法的環境の整備や活用と権利保護の調整といった保護と利用のバランスの確保や活用へ、市場内での分配から流通の効率化や人材の育成を通じた市場の拡大へ、国内問題から国際間における特許権の調査結果・審査結果の相互利用や海外の知的財産権侵害に対する対策強化といった国際問題へと移していくべきである。
また、推進方策も、できるだけ多くの課題を取り上げ、解決の方向性を示して総合的に改革を推進する形から、全体のバランスを確保しつつ重点化を図るとともに、知的財産の重要性を認識し権利を尊重する文化を育みつつ、これまでの成果を国際競争力の強化に着実につなげていく形への転換が求められる。
これまでの取り組みが、国際競争力の強化にどれだけ貢献したかについての評価を行ない、知的財産推進計画の策定を行なう必要がある。計画の策定とその遂行を通じて、改革の趣旨に沿った制度運用や意識改革が進み、わが国が企業の事業活動の場として魅力的となり、わが国産業の国際競争力が強化されることを期待したい。

II.特に、推進すべき課題

1.知的財産の活用

(1) コンテンツの流通促進
  1. 二次利用促進に向けたコンテンツ情報提供のための基盤整備支援
    ブロードバンド環境の整備が進むなかで、コンテンツの二次・三次利用を円滑に行うために、コンテンツ情報(商品カタログ的な作品情報)、権利者情報などを迅速かつ的確に入手できる基盤の整備が求められている。コンテンツを保有する権利者の側においてもわが国のみならず海外に向けて情報発信するための環境を模索している。
    優れたコンテンツの発掘と内外市場への展開も視野に入れたコンテンツ情報や権利者情報などをあまねく提供するための共同の「コンテンツポータルサイト」の構築を権利者、利用者と政府が官民一体となって導入すべきである。

  2. コンテンツの円滑な流通に向けた権利処理システムの構築
    放送番組等の二次利用などが円滑に進められるよう、日本経団連ブロードバンド流通研究会の結論を踏まえ、利用者は適切な水準で権利者への利益の還元を行うとともに、権利者も積極的な対応を行うべきである。

  3. ブロードバンドを利用したコンテンツ配信事業の促進
    爆発的に増えているファイル交換(P2P)ソフトを利用した著作物の違法交換により権利者が多大な損害を被っている。ブロードバンド上での健全なコンテンツビジネスを育成するためには、違法なコンテンツを排除し適法なコンテンツを流通させるとともに、新しい課金システムを構築していく必要がある。その促進に向けた取り組みを政府は支援すべきである。

  4. 新しいビジネスモデル・セキュリティ確保・課金方法の調査支援
    コンテンツのデジタル化、ブロードバンド化の推進は、より効率的、効果的なビジネスモデルを可能にする一方で、コンテンツの流通、配信段階でのセキュリティ上の課題や課金のシステム等に関する課題を発生させる。これら課題の解決に当たっては、高度なセキュリティシステムの開発、自主ルールの策定、場合によっては法的な整備が必要になることも考えられる。
    これら課題についての調査を行う機関等に対し、政府は支援すべきである。

(2) 活用促進に向けた法的環境の整備
  1. ライセンス契約の保護
    ライセンサーの倒産時や特許権の譲渡時における特許ライセンス契約の保護については、産業構造審議会で検討が行なわれ、政策措置の方向性として、(1)現行の登録制度の簡素化、(2)特許権の譲受人が旧権利者から譲り受けた権利をもとに、旧ライセンシーに禁止権を行使できないようにする仕組みの導入、(3)管財人によるライセンス契約の解除後に当該特許権を譲り受けた新権利者が、旧ライセンシーに対して禁止権を行使することの一定期間の制限があげられているところである。これらの方向性の具体化についての検討を行い、対策を講ずるべきである。また、著作権についても同様の対策が必要である。

  2. 著作権の利用に関する権利の法律上の位置付け
    特許権においては,専用実施権や通常実施権といった権利の実施権について、登録を効力発生要件ないし対抗要件とするなど、法律上明確な位置付けがなされている。一方、著作権においては、著作物の利用に関する一般的な権利が法律上規定されていない。今後,著作権ビジネスを発展させていく上では,法的に確かな位置付けがされた著作物利用権を整備していくことが必要である。

  3. コンテンツに関するあっせん・裁定制度の改善
    コンテンツ契約の内容について合意に至らなかった場合について、裁判手続によらず当事者間の紛争を簡易に解決する手段として、政府は、あっせん制度(著作権法第105条)の改善に取り組むべきである。また、コンテンツの円滑な流通のために、著作権者不明のコンテンツの利用に関する裁定制度(著作権法第67条)をより簡易なものとするなどの改善を行うべきである。

  4. 知的財産のグループ管理
    信託業法の改正により、グループ企業内信託のルールが明らかにされたことから、一括ライセンスなどグループの知的財産権の管理にあたって、信託を活用すべく検討を進めている例も生じている。その過程では、数多くの知的財産権を信託する場合に登録免許税の負担が相当重くなる、受託者が特許管理会社の場合自ら特許を実施していないため損害賠償の額が一部に留まる、受託者が親会社の場合受託した特許を自ら実施できないといった弊害も指摘されている。新しい信託業法を活用した、知的財産権のグループ管理を現実のものとしていくために、課題と解決策の検討を行うべきである。

  5. ソフトウェアに関する日本版バイ・ドール制度の導入
    政府向けコンテンツについては、受託者または請負者にその成果物に関する知的財産権を帰属できるよう法改正がなされているが、政府向けソフトウェアの開発事業についても知的財産権の帰属を受託者又は請負者にすることができるようにすべきである。

(3) 活用と権利保護の調整
  1. 国際標準化の推進と知的財産政策の調和
    現在、ISO、IEC、ITU-Tの3つの国際標準化機関の協議の場であるWSC(World Standards Cooperation)において特許宣言の書式の統一化について検討が進んでいるが、国際標準化機関のパテントポリシーに関して、特許に関連する検討経緯の記録の作成・保持など他の側面も加え、ベストプラクティスを見出していくことが期待される。
    あわせて、全体としてのRAND(妥当かつ非差別的:Reasonable And Non-Discriminatory)条件の設定や非差別の概念の明確化などRAND条件の明確化を図る必要がある。
    また、多数権利者が存在する技術を標準化する場合には、標準と知的財産権の調整のため、規格/勧告案がほぼ固まった段階で、メンバーの合意により技術専門家と特許専門家からなる専門家グループを設置するとともに、国際標準化機関において、こうした専門家グループの活動を支援すべきである。関係者間で合意された場合には、この専門家グループが、国際標準化機関の外において、パテントプールなどライセンス交渉を目的とした新たな枠組みの創設について取り組みを行なうことも考えられる。
    国際標準化機関におけるパテントポリシーの整備にあたっては、わが国政府においても、FAQ(Frequently Asked Questions)案の作成など取り組みが行なわれており、こうした取り組みをさらに強化し、国際標準化機関や各国政府への働きかけを強めていくことが大いに期待される。
    さらには、わが国においても、パテントプールについて、制度面での国際的調和に十分に留意しつつ、独占禁止法上問題とならないパテントプールについてガイドラインの整備を含めて考え方の明示が必要である。必須特許の保有者で国際標準化過程に参加していない者の過度な権利行使に対しても、国際標準化機関におけるパテントポリシーの整備やわが国における独占禁止法上のパテントプールの扱いの明確化の状況を踏まえつつ、国内的な対抗措置の検討を引き続き行なうべきである。

  2. オープンスタンダードの構築・普及と知的財産権の権利行使の調整
    高度にネットワーク化された社会においては、情報システム同士の組み合わせ効率を高めていく過程においてシステム間の相互依存が高まり、その結果、一つの共通プラットフォームが採用されていくようになる傾向が強い。このようなプラットフォーム上に、世の中で最も優れた技術を迅速に構築し技術革新を強く進めていくためには、プラットフォームがオープンスタンダードを採用するものであること、すなわち、インターフェイス、プロトコル、データやファイルのフォーマットなどが開かれた参画プロセスのもとで合意され公開されていることが不可欠である。一方、知的財産権の権利行使によって、オープンスタンダードの構築・普及が阻害されるおそれも存在する。これらオープンスタンダードと知的財産権の関係について、課題の検討を行い、その対策を探っていくべきである。

  3. リサーチツール特許の活用
    バイオテクノロジー分野では、代替性のないリサーチツールに関する特許が試験・研究の実施を妨げるおそれが指摘されている。
    現在、総合科学技術会議においては、ガイドラインの策定など、大学等の試験研究における特許発明の利用円滑化のための検討が進められており、問題の解決に向けた具体的取り組みが期待される。一方、リサーチツールに関する裁定実施権の活用の是非についても、代替性の低い上流技術の特許権がもたらす研究活動や産業の発展への具体的影響や国内外の動向などを踏まえて、引き続き検討を行うべきである。

  4. デジタル時代に対応した「私的使用」の範囲の明確化
    映像情報のデジタル化が進む中、放送番組を録画してインターネットにより海外視聴させるサービスや、大容量サーバに放送番組を録画して視聴させるサービスなどが登場する一方で、衛星・地上デジタル放送では録画からの複製を技術的に制限するなど、個人の私的使用が本来的にどこまで認められるべきかを問われる状況が現れている。政府は、コンテンツに認められるべき「私的使用」の範囲を明らかにすべく、権利者、利用者、その他利害関係者による根本的な議論を促進すべきである。

(4) アーカイブの整備
  1. 制作支援のためのアーカイブ整備、国立美術倉庫の設置支援
    映画や放送番組を制作する際の美術や道具については、企業・業界横断的に利用できるものも多いが、その保存はスタジオや撮影所ごとにばらばらになされていることが多く、保存コストや美術制作に関するコストが制作費全体を圧迫している。
    同様にアニメーションの現場では、雪や雨のシーンの背景画などのように、共有化すれば効率的に用いることのできるものが共有化されていない。美術や道具、背景画などをデータベースに集約化してアーカイブとして整備し、作品の制作者が利用しやすくすることについて、国は支援すべきである。
    また、国は国立美術倉庫を設立し、美術や道具の散逸を防ぐべきである。

  2. 作品流通のためのアーカイブの整備
    放送番組の流通を促進するとともに、文化的資産としての保存を行うため、政府は、放送法第53条で定められた財団法人放送番組センターの「放送番組を収集し、保管し、及び公衆に視聴させること」等の活動を支援すべきである。
    また東京国立近代美術館フィルムセンターを拡充し、特に関西地域において、フィルムセンター京都分館(京都文化博物館のフィルムライブラリー機能を継承)を設置するとともに、国会図書館関西館との連携を行うべきである。

  3. 文化保全のためのアーカイブ
    (a) 映画スチール写真保全支援
    放送番組、映画、映画スチール写真については、文化資産として価値のあるものも多いのにかかわらず、十分な保全が行われておらず、散逸するに任せている状態にある。映像産業振興機構が認定する文化的資産の高い作品について、積極的に保全することを政府は支援すべきである。

    (b) フィルム等保管倉庫の整備支援
    フィルム等保管倉庫の整備を行った者に対しては、東京国立近代美術館フィルムセンターや財団法人放送番組センターとの連携を条件に支援を行うべきである。

    (c) VTR、フィルムのデジタル化支援
    文化資産として価値のある放送番組、映画(映像産業振興機構が認定)の保存を効率的、簡易に行うには、これら作品を収録したVTR、フィルムのデジタル化をすることが適切である。特に16mmフィルムで撮影されたテレビ映画のマスター保存には公的な補助制度がなく、早急な対策が必要である。政府はこれらデジタル化について支援すべきである。
    また保存すべきフィルムの修復・リマスター支援を拡充すべきである。

(5) その他
  1. ユニバーサルデザイン化への対応
    わが国の聴覚障害者は、字幕付が前提の洋画に比して、字幕のない日本映画を楽しむことができないという問題がある。逆に字幕があれば日本語学習中の外国人もより日本映画・番組を楽しむことができる。また聴覚障害者に対する音響効果を補うボディソニック型の座席は、障害のない者にとっても迫力ある映像体験を楽しませるものとなる。
    視覚障害者のためのガイド付上映を行うことは、視覚障害者のみならず、スピード感ある場面の展開に取り残されがちな高齢者などの鑑賞の助けとなることにもなる。
    このようなユニバーサルデザインによる映像の提供は、映像鑑賞人口を拡大し、映像をきっかけとした相互理解の促進にもつながる。映像提供のユニバーサルデザイン化を政府は支援すべきである。

  2. デジタル上映機器を備えた劇場への固定資産税軽減
    デジタルシネマの推進を図るため、デジタル上映機器を備えた劇場に対して固定資産税を減免した地方自治体に対して、政府は普通交付税による減収補填措置を講じるべきである。

  3. 芸術映画・実験映画等上映公設館の整備
    伝統芸能の継承のための記録映画、芸術映画や映像教育機関の学生が実験的に制作した映画など、市場では採算がとれる作品ではないが、上映することについて一定の意義が認められる作品(映像産業振興機構等で認定)を専門に上映する公設館を設けることは、民間の映画館の役割を補完するものであり、文化保全、教育上の意義も大きい。芸術映画・実験映画等上映公設館を国、地方公共団体は設けるべきである。

2.知的財産分野における国際問題への対応の強化

  1. 世界特許の実現への積極的取り組み
    特許制度は、国ごとに整備されてきた経緯から、現在でも属地主義が大原則とされているが、一方で特許制度の活用はグローバルに行なわれている。日米欧3極特許庁間で、先行技術調査結果の相互利用が始められているが、これをさらに進め、特許明細書の記載様式の統一、さらには、審査レベルの統一といったステップを踏んで審査の統一への取り組みを加速すべきである。

  2. アジア地域の知的財産権制度の充実へ向けたリーダーシップの発揮
    アジア地域では、中・長期的な各国の技術的発展により、今後、知的財産権の適正な保護が一層重要となってくる。将来、わが国産業にとって最も重要となるアジア地域の知的財産権制度・運用の充実のために、わが国が積極的にリーダーシップを発揮し貢献をしていくことが求められる。
    具体的には、アジアにおける先行技術調査結果・特許審査結果の相互利用、さらには審査の統一を目標にリーダーシップを発揮するべきである。
    また、制度・運用の充実には各国の知的財産人材の育成が欠かせない。現在実施している、わが国専門家の派遣や各国からの研修生の受け入れを通じた人材育成を一層進めるべきである。

  3. 模倣品・海賊版対策と海外における市場環境整備の一層の推進
    模倣品・海賊版対策については、実際に政策措置の効果が現れているという指摘がなされている。侵害発生国や地域の対策や水際での取り締まりの強化など、継続的な対策の実行が期待されるところである。
    その際、特に、コンテンツ・ジャパンマークを付与したコンテンツに関する権利侵害に対して厳しい取締まりをするよう、政府は、各国政府に要請すべきである。
    また、近年、ロゴがない製品が海外から第三国に輸出され、現地でロゴが付される行為が生じており、わが国の産業の国際展開に悪影響を及ぼしつつある。これら行為への対策を検討すべきである。
    中国など音楽レコード等の発行に行政機関の許可を要する国においては、審査に必要な書類等の簡素化や申請から発行までの期間をできる限り短縮することが必要である。政府はこれら諸国に対し、審査の簡素化、迅速化を強く働きかけるべきである。
    また、海外における見本市においては、日本企業による出展を、政府は積極的に支援すべきである。

  4. 海外における知的財産権侵害に対する新たな対抗策の検討
    わが国の知的財産権の侵害への対策として、新しい提案がなされている。例えば、知的財産権侵害品について、日本への輸入段階だけではなく、生産国からの輸出段階で取り締まる仕組みを作るべきであるとの意見や海外企業が製造して日本に第三者を介して製品が持ち込こまれた場合、本来的に責任を追及されるべき海外企業の間接侵害を認めるべきであるとの意見が出されている。
    これら提案は、知的財産権の侵害への強力な措置である一方、これまでの制度の枠を大きく越えることから、反作用としてわが国産業にマイナスの影響を与えるおそれも少なくない。
    しかしながら、このような提案がなされていることは、海外における知的財産権の侵害の大きさを示すものであると考えられる。現行制度の枠組みにこだわらずに、かつ、問題の深刻さと、対策のもたらす逆効果に十分な配慮をしながら、現在出されている提案を含めて新たな方策について真剣な検討を行うべきである。

3.知的財産の創造

  1. 産学連携における実態を踏まえた柔軟な契約の実現
    産学連携については、共同研究の数が最近5年間において、平成11年度の3,129件から平成15年度には8,023件と約2.5倍に増加するなど、結びつきが強まりつつあると考える。一方、昨年4月の国立大学の大学法人化の中で、各大学とも産学連携の新たな関係の構築を模索している段階にあると考える。こうした中、共有特許を企業が自己の事業に活用した場合のいわゆる不実施補償の是非を巡って、産学で意見の違いが見られるところである。しかし、産学連携は、技術の内容、連携の形などにより、様々なバリエーションが存在し、一律に契約の内容を決めるのは、望ましいことではない。連携の実態に応じて、産学双方にとって公正で柔軟な契約の実現を目指す必要があり、そのため、産学双方によるさらなるコミュニケーションの推進が必要である。
    大学から生まれた知的財産権が、国立大学法人化に伴ない、大学の機関帰属となり、大学と企業との間で組織と組織の契約が可能となったことは高く評価できる。一方、大学の研究は、研究費、人件費、施設費のいずれも公的資金で行なわれている場合が多く、これらの成果である知的財産権を巡っては、転職した場合の転職先での研究を阻害するおそれが指摘されている。また、産業界からは、知的財産権から得られた収入について、個人へのインセンティブより組織としての活用を優先すべきとの意見も出されている。研究費、人件費などが公的資金による研究開発から得られた成果の扱いについて、どのような問題があるか、それに対してどのような対応が必要か、検討を行なうべきである。

  2. 職務発明に関する継続的な検討
    職務発明制度については、新特許法第35条の4月1日の施行に向けて、企業において、従業者との協議などが進められているところである。当面は、企業という様々な人々が集まる組織の一員として、研究者が力を発揮できるような仕組みを作り上げていくことが期待されるところである。
    今後は、企業の運用状況や職務発明をめぐる訴訟の状況も見極めながら、職務発明制度や手続事例集のあり方について不断に検討を進め、産業競争力の強化という目的に照らして制度の評価、見直しを行っていくべきである。
    なお、司法においては、改正法の趣旨に鑑み、企業の研究者と経営者が十分な話し合いを行ない、その結果として契約が成立している場合には、その契約の内容を尊重するとともに、併せて既存案件についても、改正法の趣旨を十分に参考とされることを期待したい。

  3. 技術力を持った中小・ベンチャー企業の育成
    技術力を持った中小・ベンチャー企業の創出は、わが国全体としての技術の裾野を広げていくために、大変重要な課題である。知的財産政策の観点からも、技術力を持った中小・ベンチャー企業への支援を進めるべきである。

4.知的財産権の保護

  1. 医療関連行為の特許保護強化
    医療関連行為の特許保護に関しては、医療特許専門調査会において検討が行なわれ、医薬の製造・販売のために医薬の新しい効能・効果を発現させる方法について物質の特許として保護することとなったが、物質の特許による保護には、一定の限界が存在する。方法の特許による保護を認めていくべきである。また、先端医療行為に対する特許保護についても、今後の検討課題として認識すべきである。

  2. ゲームソフトの中古品流通のあり方の見直し
    昨今のゲームソフトは長期にわたる開発期間と多額の資金をかけて制作されているが、中古業者により中古ゲームソフトが広範に取り扱われていることから、それが発売後間もない新品の市場や、一定期間経過後に発売される廉価版の市場に影響を及ぼしている。こうした問題の解決には、消費者の利益に配慮しつつ、中古ソフトの流通によって得られた利益について開発者に還元され得る仕組みの構築が重要である。新たな仕組みの構築に向けて、ゲームソフトメーカーが自ら努力すべき課題もあるが、政府も環境整備に努めることが期待される。

  3. 技術的保護手段等の回避行為に関する検討
    「知的財産推進計画2004」において指摘されている事項のうち、技術的保護手段の有用性を担保する観点から、接続管理(アクセスコントロール)回避行為への刑事罰の導入について構成要件の明確化も含め検討を行うべきである。

5.コンテンツ人材の育成

(1) 求められる人材育成プログラムの支援
  1. ビジネス・プロデューサー育成プログラム・社会人再教育プログラム支援
    映像産業振興機構の調査によれば、映画、放送、ゲーム、アニメーション、音楽など映像関連産業においては、法務、会計・税務、マーケティング等の分野で、社外の教育機関等における人材育成のニーズが高い。こうした能力を備えた人材がビジネス・プロデューサーとして活躍することは業界の近代化、市場の発展に大きく寄与する。ビジネス・プロデューサーを育成するプログラムおよび社会人(現役プロデューサー)の再教育プログラムを整備した大学等について、政府は支援すべきである。

  2. ライブ・エンターテインメント・プロデューサー育成プログラム支援
    ライブ・エンターテインメントについてはソフトの開発、市場調査、関係者との調整などを行うプロデューサーが不足している。地域活性化、集客交流の拡大などに資するライブ・エンターテインメント・プロデューサーを育成するプログラムを整備した大学等について、政府は支援すべきである。

  3. 長期間(半年以上)のインターンシップ・プログラム支援
    2004年度から行われている「映画スタッフ育成事業」については、製作現場で学生の実習を行うことを通じて、製作現場、学生側双方にとって貴重な体験を得ることとなっているが、その期間が学生の夏季休業期間を利用した短期的なものであるために、得られる効果も限定的なものとなっている。特にテレビドラマ製作現場からは長期インターンでなければ受け入れは難しいとの声もある。
    大学等の側がインターンシップによる体験を学習過程の中にきちんと組み込みつつ、政府の支援を拡充することにより、半年程度の長期の実習を可能とすることにより、より本格的な参加を可能とすべきである。

  4. ゲートキーパー育成プログラム支援
    米国等では、演劇・放送・映画業界から独立した批評家・評論家が、新聞・雑誌やウェッブに十分な批評スペースを確保し、エンターテインメント・コンテンツへのゲートキーパーとして、読者に対する高品質の視点を提供しつつ、その批評の結果が、新人の発掘やオフブロードウェー作品をブロードウェー作品に押し上げること、チケットの売上げを左右することなどの多大な力を有している。
    こうしたゲートキーパーを育てるため、映像産業振興機構等は、批評家・評論家の検定制度を検討するとともに、ゲートキーパー・ランキングを発表し、ゲートキーパーの研鑽の機会を提供する。こうした取り組みに対し、政府は広報誌等の紙面を積極的に提供すべきである。

  5. パフォーマンス技術プログラム支援
    現在、歌舞伎など一部の伝統芸能を除いては、俳優・歌手・演奏家等の実演家の技術の伝承は劇団や楽団の中に留まっているが、プロデューサーやクリエーター同様、実演家も国際レベルの人材を育成する必要がある。こうした実演家の技能伝承・研修の場を提供している民間の取り組みを支援すべきである。またこうしたパフォーマンス技術を学問的に研究、体系化するプログラム、実技を行うプログラムを設けた大学等について、政府は支援すべきである。

  6. 小・中・高校生に対する映像・演劇・音楽教育プログラム支援
    初等・中等教育、高校における教育の中に映像、演劇、音楽の鑑賞や映像制作体験、体験ミュージカルといった体験型のプログラムを設けることは、こどもの集中力を高め、情操力を向上させるとともに、社会規範やチームワークの大切さなどを学ぶことが期待できる。こうしたプログラムの設置を行った小学校・中学校・高等学校等について、政府は支援すべきである。
    また、政府は、映画・映像に関する小・中・高校生向け教材の開発を支援し、映画・映像に関するクラブ活動の補助(機材・教材購入の補助、クラブ活動の成果発表の場の提供など)等を行うべきである。

  7. 地域映像人材育成プログラム支援
    地域のフィルム・コミッションにおいては、地域に関する知識等はあっても、撮影をサポートするための基本的な知識やスキルを持たない場合が多い。また肖像権・著作権に対する認識不足などによるトラブルも多い。フィルム・コミッションのスタッフとして十分な知識を備えた、地域の映像人材を育てることは地域における映像作品の制作を増やし、地域の活性化にもつながる。
    政府は映像産業振興機構が行う専門教材開発・セミナー開催等の「地域映像人材育成事業」を支援すべきである。

(2) 海外との交流
  1. 映像産業振興機構と海外映像産業振興機関との連携支援
    人材の交流、ロケーション場所の相互提供、各国の映像産業振興策の調査研究、さらには海外の事業者と日本の事業者との共同製作などを支援するため、海外の映像産業振興機関と連携を推進し、映像産業の振興を通じて、相互理解が促進されるようにすべきである。

  2. 海外映像教育機関への留学・講師招聘支援、海外からの日本の映像教育機関への留学支援
    映像人材の育成を行うに当たっては、米国映画大学院(UCLA,USC,AFI)、韓国映画アカデミー等欧米、アジアなどの映像教育機関で実際に映像教育の経験をすることや、映像教育に従事している講師をわが国の映像教育機関に招聘することがノウハウを蓄積する上での早道である。また、日本の映像教育機関に外国人学生を招き、日本のコンテンツへの理解を深めることは、日本の創造力への尊敬を得ることにつながる。海外への留学生や海外から来日する留学生への奨学金や講師招聘にかかる費用について、政府は支援すべきである。

(3) 教育基盤の整備
  1. 海外映像教育用図書翻訳支援
    映像人材の育成を行うに当たっては、諸外国の映像教育機関で実際に使用している教育用図書(テキスト)等を翻訳することがノウハウを蓄積する上での早道である。海外映像教育用図書の翻訳について、政府は支援すべきである。

  2. 映像教育体系確立のための調査支援および映像に係る高等教育機関の整備促進
    映像を学問として深化させるためには、制作現場の知恵・知識、技術等を整理、体系化し、理論化・整合化をすることが必要になる。また地方の映像人材養成機関では現場の生きた技術を教えることが難しいため、教育の地域間格差が生じる可能性があり、遠隔教育にも使用可能な教材の開発も必要である。メイク・結髪等、制作現場にある暗黙知の理論化に取り組む大学等の機関、諸外国における映像学の体系などについて調査をする機関に対し、政府は支援すべきである。
    また政府は映像専門の高等教育機関の設立および既存の高等教育機関による映像関連学部・学科・講座の開設を促進すべきである。

  3. 映像関連高等教育機関卒業生の映像関連産業就職支援
    映像高等教育機関が輩出した人材が、学んだ能力を社会で適切に生かすことができるよう、卒業生の映像関連産業への就職について、政府および映像産業振興機構は支援すべきである。

  4. 映像専門職大学院認証評価機関の設置
    専門職大学院制度を利用して、映像人材育成を目指す映像専門職大学院が設置されているが、これら大学院は5年ごとに、設置の目的に照らして教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況について、認証評価機関の認証評価を受けることとなっている(学校教育法第69条の3第3項)が、現在のところ映像専門職大学院のための認証評価機関は存在していない。映像産業振興機構は学校教育法第69条の4に基づく認証評価機関となるべく体制の整備を進めるべきである。

6.コンテンツの制作環境の整備

  1. デジタル撮影・編集・配信機器の購入支援、デジタル施設を備えたスタジオへの固定資産税の軽減
    テレビ放送の地上波デジタル時代に対応するべく、撮影・編集機器等のデジタル化が進められているが、番組制作会社・ポストプロダクション・スタジオ等への支援は十分ではなく、経営や制作費の圧迫が懸念される。また、デジタルシネマの標準化に備え、デジタルシネマ配信機器の設置や劇場の改装などの負担が求められる興行者への支援策を検討すべきである。これら事業者のデジタル機器・設備の購入について、政府は支援すべきである。デジタル施設を備えたスタジオへの固定資産税の軽減を検討すべきである。

  2. 地域映像制作環境の整備
    (a) ロケーション撮影の円滑化、フィルム・コミッションの機能充実
    ロケーション撮影には規制が多く、撮影許可の申請も煩雑で、企画・撮影の障害になっている。政府、地方公共団体は、撮影許可のあり方を見直し、各地のフィルム・コミッションに撮影許可申請の窓口を一元化する等の措置を講じるべきである。また、フィルム・コミッションの機能充実を促すため、運営補助策を検討すべきである。

    (b) 公共スペースへの電源ボックス設置、撮影チームへの提供
    現在、野外でのロケーションを行う際には、撮影チームはゼネ車(電源車)を伴わなければ撮影ができない場合が多い。しかし電源車の利用はエネルギー効率の観点からも、また、街中での駐車スペースの確保などの問題からも困難が伴う。公園等の公共スペースに電源ボックスを設置し、これを合理的な価格で撮影チームに提供することができれば、よりロケーションが行いやすくなるのみならず、災害時の危機対応などの際にも利便性が高い。ちなみにオーストリアではこうした施策を推進することにより、ロケ地として選定されやすい環境づくりに成功している。
    国、地方公共団体は公共スペースへの電源ボックス設置を推進すべきである。

  3. 国際共同制作提案市場の創設
    2004年度、東京国際映画祭におけるコンテンツマーケットの成功を踏まえ、わが国コンテンツを海外に展開する機会とともに、映像の製作者が企画等を提案し、国際的な共同制作等を呼びかける場を設定すべきであり、東京国際映画祭における設置について、政府は支援すべきである。

7.コンテンツ産業の近代化支援

  1. 業界調査の推進・消費者ニーズの把握
    映像産業従事者の雇用形態はフリースタッフ化、制作スタッフの海外発注・国内空洞化といった問題が生じているとされ、制作現場における所得水準の低さも後継者難のような問題を生み出しているとされる。クリエーターの就業形態も通常の就業時間に基づく勤務形態ではかえって効率的ではないといった問題が生じている。
    一方で民間の劇場や流通事業者等で行っているさまざまな顧客満足のための工夫について、評価される場が乏しいといった問題がある。
    そこで映像産業従事者の雇用形態や所得、クリエーターの就業形態に関する調査、さらには映像視聴者に対するサービスに関する調査について、政府は支援すべきである。
    とりわけ政府は、映像産業振興機構が行う映像産業振興策の調査・立案事業を支援し、映像業界の横断的・継続的連携を促進すべきである。

  2. 映像産業振興機構における映像コンテンツ関連イベント支援
    映像視聴者からの評価を映像制作の現場に届けることは、映像作品の競争力向上のためには不可欠である。また民間の劇場や流通事業者等で行っているさまざまな顧客満足のための工夫を評価する場も必要である。映像産業振興機構において行う「ベスト/ワーストコンテスト」「コンテンツ・オブ・ザ・イヤー」「人気劇場ランキング」といったイベントに対し、政府は支援を行うべきである。

  3. POSシステムの導入支援
    映画産業においてはどのような鑑賞客がどのように映画を鑑賞しているのかといった実態の把握が十分になされていない。「コンテンツビジネス改革のロードマップ」においても言及されているように、映画館を活用したPOSシステムの導入実験の結果を踏まえ、政府はシステム構築のためのインフラ整備を支援すべきである。

  4. エンターテインメント・コンテンツ年鑑の整備
    エンターテインメント・コンテンツ産業の実態を示すデータを整備し、他の産業や諸外国との比較を通じて、エンターテインメント・コンテンツ産業の国際競争力を的確に把握することが、次代でも日本のコンテンツが高い競争力を維持するための戦略を立案する上で不可欠である。
    政府は、映像産業振興機構はじめ民間機関におけるこうしたデータ整備に関する取り組みについて支援すべきである。

  5. アニメ業界における委託取引に関するモデル契約書の検証
    平成16年3月に公表された「アニメ業界における委託取引に関するモデル書面」(平成15年度中小企業庁委託事業によりアニメ産業の委託取引に関するモデル契約等策定に関する研究会が策定)の周知状況や取引の実態を踏まえ、モデル契約書の早急な見直しを行うべきである。

8.ライブ・エンターテインメントの振興

  1. ライブ・エンターテインメント集積特区の設定
    ライブ・エンターテインメントは、「心の豊かさ」や「生の感動」を求めるニーズに応える、エンターテインメント・コンテンツの重要な要素のひとつである。「観光立国」づくりを推進していく観点からも、日本のライブ・エンターテインメントの一大拠点として、ライブを集中的に体験できるライブ・エンターテインメント関連のホール・劇場・映画館、コンベンションセンター、ホテル、レストラン、ショッピングセンターを集積する経済特区を国、地方公共団体は設定すべきである。特区内では、一定の大規模施設の固定資産税・都市計画税・事業所税を軽減するとともに、規制の合理化、また、野外でのイベントを行いやすくするため、野外会場や道路使用許可等の規制を緩和すべきである。

  2. カジノに関する法整備
    ラスベガスに見られるように、カジノをはじめとするゲーミング・ビジネスをライブ・エンターテインメントと組み合わせることは、集客を地域の利益に結びつけるビジネスモデルとして有効である。「国際観光産業としてのカジノを考える議員連盟」などによる、カジノの立法化に向けた検討を加速化し、ライブ・エンターテインメント集積特区との立地の組み合わせを検討すべきである。

  3. ビジター、ツーリストを市場に呼び込む仕組みづくり
    ニューヨークやロンドンでは空港、駅舎やホテル、インフォメーションセンターなどでシアターカレンダーを大量に配布しており、旅行者などもたやすくその都市で行われているエンターテインメントにアクセスできる。わが国ライブ・エンターテインメントの集客力を高めるためにも、シアターカレンダーを作成し、集客施設で配布することについて、国・地方公共団体は支援すべきである。

III.政策の効果に関する評価の仕組みの整備

前述のとおり、知的財産政策の目的は、わが国産業の国際競争力の強化である。知的財産推進計画2004やコンテンツビジネス改革のロードマップの実施によって、国際競争力がどの程度向上したのか、あるいは、今後向上すると予想されるかについて、評価を行なうことが重要である。しかし一方では、国際競争力の強化への貢献を計る適切な指標が存在しない、政策の実施と効果の発生にはタイムラグが存在するなど、評価を行なう上での課題も少なくない。国際競争力の強化への貢献に関する指標の検討を含めて、政策の効果を評価するための仕組みを整備すべきである。

以上

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