[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「国際私法の現代化に関する要綱中間試案」に対するコメント

2005年5月24日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会企画部会

我が国の国際私法の基本法たる法例については、明治31年に制定されて以来、全面的な見直しは行われていない。法例制定時から約100年の間に、我が国を取り巻く環境は、社会・経済のグローバル化の進展、人・モノ・情報の国際的移動の増加、国際的な取引の複雑化・多様化などが大きく変化するとともに、国境を越えた民事紛争も増大している。そこで、今般、法制審議会国際私法(現代化関係)部会において、こうした環境の変化に対応して、我が国法例の見直しに向けた取り組みが行われていることは、経済界として、基本的に評価する。同部会においては、以下の通り、「国際私法の現代化に関する要綱中間試案」に対して、特に経済実態を踏まえていただきたい点について、コメントをする。

法務省
「国際私法の現代化に関する要綱中間試案」に関する意見募集
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI57/pub_minji57.html

第4 法律行為の成立及び効力に関する準拠法(第7条、第9条)

1 分割指定

A案を支持する。

〔理由〕
A案は、例えば、ある法律行為又は契約について、効力の一部(例えば損害賠償の部分)を別の準拠法とする、あるいは、成立と効力を別の準拠法によると指定することを認めることを明文化するという考え方である。分割指定を認めることが明文化されると、準拠法に関する予見可能性が高まり、取引の安全にも適うため、海上運送に係る保険約款等においてニーズが見られる。

4 準拠法の事後的変更

A案を、基本的に支持する。なお、第三者の権利を害する準拠法の事後的変更が行われた場合の効力は、当該第三者との関係では変更の効果が生じないこととし、当事者間及びその他の者との関係のみ法律行為の準拠法は変更されたものとすべきである。

〔理由〕
現行法では、法律行為の準拠法を法律行為がされた後に当事者の意思によって変更することができるか否かについて、明文の規定はない。しかしながら、当事者が法律行為を行った後においても、当事者自治は認められるべきであり、準拠法はいつでも選択又は変更することができるようにすべきである。A案では、(1)法律行為の準拠法の事後的変更を認める旨の規定を設ける、(2)法律行為の当事者の自由を尊重すべきであるため、事後的変更の効力については、遡及的な変更も将来的な変更も認める、としており、これらは合理的な考え方である。なお、事後的変更に関与できない第三者については、事後的変更による不利益を被るのは、好ましくない。

5 消費者契約に関する消費者保護規定

仮にA案が採択された場合、提案エのa及びbのただし書に関し、事業者からの「誘引」があったといえるためには、事業者が積極的に当該消費者に対して、事業者の事業所の所在する法域に来るよう具体的に強く働きかけたことが必要である。したがって、補足説明で例示されている事項のうち、(1)事業者が物品購入のツアー旅行を企画して消費者がそれに参加したような場合、(2)ダイレクトメールや電話等によって事業者が個別的に消費者に対して事業者の事業所の所在する法域に来ることを強く働きかけた場合に限定すべきである。

6 労働契約に関する労働者保護規定

B案が妥当である。その際、「絶対的強行法規」の意味を明確にすべきである。

〔理由〕
いずれの案を採用しても、労働者保護に関する法廷地の絶対的強行法規が、契約準拠法の如何に関わらず適用されるとのことなので、外国人労働者の保護に欠けるところはないと思われる。そうであれば、外国人雇用を促進するために、むしろ労働契約に関する特段の労働者保護規定は設けない方が適切である。

第7 法定債権の成立及び効力に関する準拠法(第11条)

1 不法行為、事務管理又は不当利得の原則的連結政策
(1)不法行為の原則的連結政策

仮に現行規定を変更する場合、特別留保条項が維持されるならば、B案が妥当である。

〔理由〕
仮に現行規定を変更する場合、B案は、加害者の準拠法に関する予見可能性を考慮し、侵害の結果が発生した地における侵害結果の発生を、加害者が予見できず、かつ予見できなかったことについて過失がない場合には、加害行為地法を準拠法としているが、加害者と被害者とのバランスがとれており、妥当である。その際、特別留保条項の維持は必須である。
なお、加害者の予見可能性(加害者が予見できず、かつ予見できなかったことについて過失がない場合)については、裁判所が「規範的に考える」との立法担当者の意思を明確化していただきたい。

6 特別留保条項(第11条第2項、第3項)

A案を支持する。

〔理由〕
特別留保条項(第11条2項及び第3項)については、本規定を削除すべき特段の実務ニーズがない中で、(1)適用される裁判例もかなり存在する、(2)実務的にも重要な規定である、(3)予期しない不利益を受ける懸念があることから、第2項、第3項ともに維持すべきである。

7 個別的不法行為
(1)生産物責任に関する準拠法

仮に現行規定を変更する場合、特別留保条項が維持されるならば、A案が妥当である。

〔理由〕
生産業者等は、生産物の安全基準について、基本的に、それが流通する市場における基準に従っている。生産業者等の行為を不法と評価する規範は、市場地法(生産物が最終消費者に取得された地)によるべきとの考え方をとるとしても、生産業者等がその地における同種の生産物の取得を予見できず、かつ予見できなかったことについて過失がないときは、生産業者等の主たる営業所の所在地の法律によるとするのが合理的である。その際、特別留保条項が必須である。
なお、予見可能性の有無については、世界中のどこに転売されても予見可能であった、という一方的な解釈は適切でなく、裁判所が「規範的に考える」との立法担当者の意思を明確化していただきたい。

以上

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