賛同団体(国名アルファベット順) | ||
オーストラリア | : | Business Council of Australia |
カナダ | : | Canadian Council of Chief Executives |
欧州 | : | European Roundtable of Industries |
日本 | : | 日本経済団体連合会 |
メキシコ | : | Consejo Mexicano de Hombres de Negocios (Businessmen's Council) |
米国 | : | Business Roundtable |
難航するWTO新ラウンド交渉を収拾するために、加盟国の政府関係者に残された時間は、わずか数ヵ月である。新ラウンド交渉によって、世界経済の成長と発展がもたらされるものと大いに期待されたが、今やその希望がかなうかどうか、深刻な局面を迎えている。この声明に賛同する世界の経済団体の首脳は、この交渉がいかに大切なものか、改めて強調したい。そして、われわれは、WTO加盟国政府に対して、残されたわずかな期間のうちに、均衡のとれた質の高い合意に向けて、必要な政治的コミットメントを行うことを強く求めたい。
2001年に開始された新ラウンド交渉は、何ら目に見える成果をあげられないまま、当初、交渉終了期限とされていた2005年1月が過ぎ、現時点で2年以上も遅れている。
交渉が2006年中に成功裏に終了するために必要とされた12月の香港閣僚会議合意のたたき台が、当初予定のさる7月にまとまらなかったことから、この危機的状況はさらに悪化した。
加盟国が本年12月までに主要課題について合意するための時間がなくなりつつある。このままでは、香港閣僚会議が、カンクーンやシアトルの二の舞になりかねない。WTO加盟国が、主要課題について解決できなければ、世界経済の成長と発展に重大な影響が及ぶばかりか、新ラウンド交渉そのものを危うくするような大きな打撃となろう。
われわれは、全てのWTO加盟国が、交渉を成功に導く軌道に再び戻すために、強い政治的リーダーシップを発揮すべく、心機一転努力することが不可欠であると考える。
われわれは、国際経済の主要分野でのさらなる自由化とWTO最貧加盟国への経済成長の恩典がかなわなければ、世界経済が、先進国、途上国の双方にとって必要なレベルで発展を持続することはできないと信じている。
農業交渉での主要課題の解決が見られないことが、他の交渉の進展を妨げている。これまでいくつかの進展が見られたものの、交渉の共通の土俵を見出そうとする意思を掲げた声明と比べて、ジュネーブでの交渉の動きは往々にして鈍い。全てのWTO加盟国、中でも主要国は、早急に農業交渉の実質的な進展をはかる政治的意思を明らかにするとともに、必要に応じ、輸出補助金はじめ、とりわけ国内支持の規律および市場アクセスに関して、難しい政治的決断をすべきである。
WTO加盟国は、全ての工業品の関税や非関税障壁の実質的な削減に、喫緊に取り組むべきである。加盟国は、全品目を対象にした包括的な関税の大幅引下げを実現するとともに、関税の撤廃を目指した分野ごとの取り組みを支援すべきである。こうした目的にかなう具体的な方法に関する合意は、長らく先送りにされてきた。経済界にとっては、交渉の方式はどうあれ、それが商業的に意味のある市場アクセスの改善をもたらすかどうかに関心がある。
サービス交渉は、さらに遅れをとっている。交渉当事者は、できるだけ速やかにサービス交渉の実質的な進展につながる補完的な取り組みを行うべきである。これらの取り組みには、自由化の進展が最も期待される分野に絞った交渉が含まれるだろう。また、長らく進展が滞っている国内規制に関する交渉を前進させるような取組みや、先進国、途上国の双方にとって恩典のある人の移動に関するさらなる自由化への約束も含まれるべきだ。
われわれが、なぜ新ラウンド交渉が世界経済にとって重要と考えるのか、また交渉の成功のために何が必要かという点について、以下に具体的に記したい。
WTOは、1995年の創設以来、市場の自由化の牽引役を果たすとともに、ルール・ベースの貿易システムの安定と信頼を高めることにより、世界経済の発展と繁栄に貢献してきた。
WTOを通じた貿易の自由化により、各国の国民の生活費が軽減し、消費者の購入する商品の選択の幅が拡大し、所得も向上する。
WTOによる多国間貿易システムの成果とその恩恵は、世界中で認識されている。WTOの加盟国数は、2005年時点で148カ国にのぼり、1947年のGATT締約国の23カ国から大幅に増えている。8回のラウンド交渉によって、世界の貿易額は、1947年の800億ドルから9兆ドルに拡大した。
2001−02年期以来、世界の貿易と経済成長が高まってきたとはいえ、世界のどこを見ても1990年代のような成長を遂げているところは見当たらない。現在の成長は弱含みで推移し、成長が持続できるか懸念が出ている。
先進国も途上国も世界市場での競争力を改善せねばならない。新ラウンド交渉の成功は、長期的には、経済成長に寄与するとともに、短期的には市場への力強いシグナルとなる。先進国、途上国とも経済のさらなる開放によって、恩恵を受けることは明白であり、新ラウンドの成功を通じて、それぞれの経済がより効率的になる。
先進国、途上国の双方にとって、農業改革が世界経済の成長と発展を助長する重要な要因となる。ウルグアイ・ラウンド交渉での妥協によって、WTO加盟国は、高い水準の保護策を維持することが認められた。輸出補助金の撤廃、貿易歪曲効果の高い国内支持の明確な削減、関税その他の障壁の大幅な削減が、最終的に輸出者と消費者に著しい利益をもたらす。
サービスや工業分野は、生産高、雇用ならびに自由化によってもたらされる潜在的な利益のどれを比べても、農業分野よりはるかに大きい。
過去50年にわたる関税引き下げの結果、先進国の工業品の平均関税率は、4%を切った。残存する関税は、ほとんど保護的効果がないものの、それでも年間160億ドルの費用を課している。また、タリフ・ピーク(突出した高関税品目)が、低所得の後発途上国で生産されるコストの安い製品の輸出を依然として妨げている。さらに、途上国の製造業者は、タリフ・エスカレーション(加工度の高い製品ほど関税が上昇する仕組み)によって先進国への輸出を阻まれている。
先進国では、途上国からの輸入工業品にかけられる関税率(の加重平均)が、先進国からのものと比べて4倍も高い。また、途上国でも、工業品にかけられる関税率が非常に高く、こうした高関税が、途上国同士の貿易を阻害しており、商業的には、かえって大きな損失を被ってさえいる。
関税に関して、取り組まねばならないことが多く残っているだけでなく、たとえ関税が撤廃もしくは低くなった分野においてすら、非関税措置が貿易の拡大を妨げている。
この10年間におけるサービス貿易の伸び率は、製品貿易の伸び率を上回っている。世界的に見ると、サービス貿易は、モノとサービスを合わせた貿易の4分の1近くを占めている。しかしながら、サービス貿易には、過度ないし差別的な規制、透明性の欠如、選択の幅が不十分な拠点の設立要件、ビジネスに従事する人の移動に関する厳しい制限や手続き面の負担など、大きな障壁が依然として残っている。サービス分野の一層の自由化によって、こうした障壁が低くなれば、海外のサービスの提供者ならびに、そうしたサービスを利用する国内の生産者・消費者のどちらにも利益がもたらされる。
最後に、関税が益々引き下げられ、貿易量が一層拡大するにつれ、多くの企業は、通関に当たり、著しく時間と費用のかかる行政手続き、バラバラな税関や検査の手続きなど、規制、政策による非関税障壁をより深刻にとらえるようになってきた。貿易の円滑化に関する合意を進めることにより、こうした障壁が緩和され、輸出者、国内の生産者・消費者の双方が恩恵を受ける。
新ラウンド交渉が、経済的にも政治的にも、最終的に成功するかどうかは、農業改革と農産品市場の開放の成果および非農産品市場アクセス、サービス自由化、貿易円滑化の農業以外の主要分野の自由化推進の組み合わせに大きくかかっている。
農業交渉は、早い段階で進展が見られた。しかし交渉が、目下、難航していることから、他のすべての分野の交渉進展の足かせとなっているとの批判に直面している。全てのWTO加盟国、中でも主要国は、交渉の共通の土俵を見出すよう努めたいと公に言うに止まらず、早急に、農業交渉の実質的な進展をはかる真の政治的意思を示すとともに、必要に応じ、難しい政治的決断をすべきである。中でも輸出補助金、国内支持の規律ならびに市場アクセスに関する進展が求められる。
農産品の市場開放に加えて、WTO加盟国は、全ての工業品に関する残存する障壁の実質的な削減に目を向けるとともに、関税の引下げに関する方式に早急に合意すべきである。また、全品目を対象にした包括的な関税の大幅引下げを実現するとともに、関税の完全撤廃を望んでいる分野での、関税の撤廃への取り組みを支持すべきである。さらに、加盟国は、残存する非関税障壁の削減にも真摯に取り組むべきである。経済界にとって、工業品の自由化を評価する尺度は、あくまで市場であり、関税削減・撤廃に関するいかなる詳細かつ包括的な枠組み合意がされようと、それが商業的に意味のある市場アクセスの改善をもたらすかどうかに関心がある。
サービス交渉は、さらに遅れをとっている。交渉の再活性化がかなわなければ、先進国、途上国問わず、経済界の新ラウンドへの支持が失われることになろう。サービスは、世界経済の発展の中心をなしており、サービス分野での大きな成果なしに交渉が終わることなどとても信じがたい。交渉当事者は、できるだけ速やかに、サービス交渉の実質的な進展につながる補完的な取り組みを行うことに早急に合意することが必要であり、これらの取り組みには、ベンチマークについて合意をし、それをある種の分野に適用することや自由化の進展が最も期待される分野に絞った交渉が含まれる。また、長らく進展が滞っている国内規制に関する交渉を前進させるような取り組みや、先進国、途上国の双方にとって恩典のある人の移動に関するさらなる自由化への約束も含まれるべきだ。
WTO加盟国は、通過貨物を含めた貨物の移動、積み下ろし、通関の一層の促進に関するルールの明確化と改善に関する交渉を始めている。新ラウンド交渉の成功には、こうした貿易円滑化に関する質の高い多国間合意が不可欠である。この分野にコミットメントを行うことによって、通関にかかわる直接的な経費が削減され、世界中の輸出者と国内の生産者・消費者の双方が即時に恩恵を受ける。
新ラウンド交渉は、先進国、途上国の双方が、最終合意内容について、分野ごとに均衡がとれ、かつ全体の合意が分野間で均衡のとれたものになると認識できて初めて成功する。WTO加盟国は、今日の世界経済において、貿易の制限措置が実際に経済成長の妨げとなり、これらは経済発展政策に反すると認識する必要がある。先進国は、新ラウンド交渉が、貿易制限措置や貿易を歪曲する慣行をなくし、先進国や途上国の農業や工業の関係者が世界市場拡大の恩恵に与るまたとない機会となることを理解すべきである。また、途上国も、新ラウンド交渉がもしも失敗して、途上国の市場開放や経済改革を遂行することができなくなれば、貿易や投資の拡大をもたらす経済的、制度的な環境変化は起きないので、途上国の農業や工業関係者が、そうした機会を利用することができなくなるものと認識すべきである。
新ラウンド交渉は、途上国の利益が十分考慮されて、はじめて成功する。WTO加盟国は、このことをよく認識し、途上国への特別な配慮、技術的支援、約束実施の条件緩和など途上国に係わる課題や後発途上国のおかれた特殊な立場を十分認めるべきである。
途上国の農業貿易の一層の自由化に関する関心が、それだけとは言わないまでも、米国、EU、日本などの市場開放、農業補助金の削減といった事項に、長年にわたり特化しがちであった。しかしながら、農業以外の分野のさらなる自由化によってもたらされる潜在的な利益については、見落とされがちだった。
工業品に関して、多くの途上国は、途上国同士を含め、高い関税障壁を維持している。OECDによれば、EU、米国、日本、カナダの工業品の平均譲許税率が4%であるのに対して、13の主要途上国の平均譲許税率は39%となっている。世界貿易の40%以上が、途上国同士によるものであり、世界銀行によれば、途上国の製品にかけられる関税の70%(570億ドル)が、他の途上国によってかけられていると見積もられている。高関税によって、輸入原材料の価格が上がれば、低コストの労賃によってもたらされる途上国の有利さが相殺され、自由化によってもたらされる経済的な利益が損なわれる。
関税の譲許率が非常に低い途上国や非関税障壁に何層に覆われている途上国は、貿易や投資に関して良い条件を提示し、ビジネスに安心感を与えている国々に比べれば、不利な立場に立たされている。新ラウンド交渉は、そうした不利益を是正する機会となりうる。
後発途上国にとっても、新ラウンド交渉は、市場から不当な非関税障壁を除去する機会となり、それを除去できれば、市場での競争が可能となる。
また、サービスの自由化によっても途上国は大きな恩恵を受ける。サービスの輸出は、途上国の外貨獲得の重要な手段となりうる。多くの国では、すでに観光や天然資源関連サービスにおいて、比較優位があることが実証されており、ソフトウェアのような人的・資本集約的なサービスで競争力を有する途上国もある。情報通信技術分野においては、サービス関連などで途上国が参画することによって、さらなる技術革新がもたらされてきた。
さらに、金融、会計、電気通信、法律・ビジネス・コンサル、宅配、建設、教育・訓練など主要なサービスのインフラが整備されなければ、世界経済への完全な統合は不可能であり、国民所得の増加や途上国が望んでいる経済成長も叶わなくなくなろう。
世界銀行の推定では、サービス貿易で大幅な自由化が実現すれば、途上国の所得が2015年までに総計で9000億ドル増え、モノだけの自由化に比べ、4.5倍の利益をもたらすと見られている。WTO加盟国は、途上国の関心の高いサービス分野やモードに、特に配慮することを合意している。
最後に、新たな貿易円滑化協定によって、通関手続きが改善、明確化されれば、途上国の輸出者、消費者、投資家ならびに輸入者に恩恵がもたらされる。
WTO加盟国は、148カ国に拡大し、2010年までには、170カ国にまで増えると見られる。今やWTO加盟国の過半数は途上国によって占められている。その中には、いまだ世界経済の一員として十分参画できない国々もあり、これらの国に対しては、新ラウンド交渉によってもたらされる様々な機会に加え、必要な支援をすべきである。それ以外の国々は、すでに国際貿易の主要国となっており、将来の経済発展につながる大きな潜在力を秘めている。こうした国が思うような発展を遂げられるがどうかは、紛れもなく、世界中の市場が開放され、農業補助金が削減されることに、少なからずかかっている。しかし、そればかりでなく、こうした先進段階にある途上国が、自国の市場を開放し、効率的なものにできるかということにもかかっている。こうした自国の自由化こそ、投資を通じて雇用を拡大し、経済を多様化し、消費者に利益を与え、貧困を減らす最善の選択である。
こうした貿易の大きい国々は、これまでも多角的貿易体制から大きな恩恵を受けてきた。そして、将来も恩恵を受け続けるだろう。WTOの効用を最大限発揮させるためには、それらの国がこれまで以上に自由化に努める必要がある。新ラウンド交渉を成功に導くためには、それらの国の大きな貢献が必要だ。先進国も当然、努力するが、同時に、多角的貿易システムから恩恵を受けている他の主要国が、それらの国の利益をかなえるためにも、努力すべきである。さらに、発展段階の違いがどうであれ、一般的には、例外は認めるべきでないが、より長い期間をかけた適用など移行の仕組みはあって然るべきだろう。