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平成18年度税制改正に関する提言

2005年9月20日
(社)日本経済団体連合会

I.税財政の抜本的改革

1.好循環の継続

わが国経済は、民間の経営改革、政府の構造改革の相乗効果により、民間主導による本格的回復を実現しつつある。企業部門の活力は大きく向上しており、これに伴う形で、雇用・所得環境も改善し、消費の持ち直しにつながりつつある。
民間部門の好調を背景に、税収も増加傾向に転換している。政府においては、一定の歳出抑制努力が続けられており、これらの結果として、財政のプライマリー・バランスも若干ながら回復基調にある。
今後数年間で、財政のプライマリー・バランスを確実に回復させるためには、このような好循環を持続させることが不可欠である。諸外国の例を見るまでもなく、好調な経済を維持しない限り、財政の健全化も不可能である。
こうした観点から、活力重視の税制改革を、平成18年度税制改正の柱に位置づけるべきである。

2.歳出・歳入構造の一体的改革

わが国はいよいよ、総人口が減少してゆく社会に突入する。かかる事態はかねてより予想されているにも関わらず、そのための備えは不十分であり、本格的な少子高齢社会においても、活力を維持することのできる税財政構造の構築を急がねばならない。現状を放置すれば、国民負担率は急上昇し、活力なき高負担社会を招来することとなる。
中長期的に経済活力を維持してゆくために、潜在的国民負担率を50%程度に抑制してゆく必要がある。これを基本とした上で、歳出・歳入構造を一体的に見直し、かねてより政府目標として掲げられている通り、2010年代初頭に財政のプライマリー・バランスを回復させることが不可欠である。
そのため、何よりもまず、歳出の削減を先行して行なう必要がある。医療制度の抜本的改革、公的年金制度の再設計などを通じて、社会保障支出の増加を経済成長の範囲まで抑制するとともに、国・地方を通じた公務員人件費の削減、地方交付税の削減をはじめとする地方財政の改革など、聖域を設けず、徹底的な見直しを行なうべきである。
人口減少社会に突入直前の今が、まさにラストチャンスであり、政府においては、構造改革のスピードを飛躍的に高めるべきである。

3.税体系の抜本的改革

歳出削減の先行が不可欠であるとしても、それだけで財政の健全化は困難であり、歳入面の見直しをあわせて行なってゆく必要がある。その前提として、将来的に持続可能な税体系の全体像が明らかにされなければならない。
その上で、平成19年度を目途に、消費税を含め、税体系を抜本的に改革すべきである。
今後の税制改革の方向として、財政のプライマリー・バランス回復等を念頭におけば、全体としては増収に重きを置かざるを得ない。しかし、その場合でも、経済の好循環の継続や負担の公平性などに十分に配慮し、メリハリをつけた改革としない限り、国民の理解も得られず、結局は必要な改正の実現も困難となる。
今後の歳入確保策としては、日本経団連としてもかねてから主張を重ねてきた通り、経済活力への影響が相対的に軽微であり、幅広い世代が公平に負担することのできる消費税の拡充を中心に据えるべきと考える。平成19年度を目途に、消費税率(地方消費税を含む)を10%まで引き上げ、その後も、段階的に引き上げてゆく必要がある。

II.法人課税

企業が懸命な経営改革努力を続けてきた結果、過剰債務・不良債権問題をはじめとする民間部門の構造調整はようやく終了しつつある。この間、法人税率の引下げ、企業組織再編税制・連結納税制度の導入、研究開発・IT投資促進税制の新設などの法人課税の改革や、経済法制の見直し、規制緩和の進展など、政府による構造改革促進策も、企業活力の向上に寄与してきた。
企業収益は高水準を維持し、法人税収も増加に転じている。各企業は、今まさに守りのリストラから国際市場を視野に入れた攻めの経営改革に乗り出しつつある時期にある。平成18年度改正においては、こうした好循環を維持・拡大してゆく観点から、企業の競争力向上に重点をおいた税制改正を行なうべきであり、とりわけ、平成15年度税制改正で講じられた研究開発・IT投資促進のための両税制は、極めて重要な効果を持つことから、引き続き整備・拡充することが不可欠である。

1.研究開発促進税制の延長

資源小国であるわが国が、グローバルな競争が激化する世界経済の中で生き残りを図り、必要な雇用を確保してゆくためには、「科学技術創造立国」としての発展を目指す以外の道筋はあり得ない。研究開発の強化は、わが国の将来にとっての生命線であり、国を挙げた取り組みが不可欠である。
そうした中、企業は、研究開発の強化を通じて競争優位を確立できたものだけが世界市場において生き残ることができるという厳しい状況に直面し、必要な研究開発費を捻出することが至上命題となっている。
平成15年度税制改正において、研究開発促進税制が、研究開発費の増加分のみならず、研究開発費の総額を対象とする恒久税制として抜本的に再構築されたことは、わが国の将来を見据えた極めて意義のある改革として高く評価される。実際に、新しい研究開発促進税制は各企業に積極的に活用され、研究開発費の増加、企業競争力の向上に寄与している。
研究開発促進税制は、わが国法人課税の基幹的制度として位置付けられるものであり、引き続き維持・強化することが不可欠である。
平成15年度税制改正において3年間の時限措置とされた、(1)税額控除率の上乗せ、(2)開発研究用設備の特別償却制度、(3)産学官連携の共同・委託研究に係る税額控除率の上乗せについては、研究開発促進税制の基本部分と同様に恒久措置とするか、少なくとも適用期限を延長すべきである。

2.IT投資促進税制の延長

企業競争力を維持・確保する上でIT投資の重要性が高まっている。今やパソコンの導入、インターネットへの接続などによる業務効率の改善がIT投資の主目的であった時代は過ぎ去り、IT投資を梃子とした全社的な業務プロセスの改革、企業経営の迅速化を実現できない限り、国際的な競争にも太刀打ちできない状況にある。
先進的な企業においては、企業活動をグローバルに展開する中で、全世界規模での最適調達・生産管理や新製品の世界同時立ち上げなどを行なうために、ITの活用が不可欠のツールとなっている。
また、製品の環境負荷の軽減、業務のペーパーレス化などを通じた地球環境の保全、内部統制システムや情報セキュリティの確立、さらに、震災などの災害発生時におけるライフラインや企業活動の維持といった様々な観点からも、企業におけるIT投資の増強が必要となっている。
しかし、わが国企業のIT投資の水準は、全体としては米国や韓国などに比べても劣っており、わが国企業にとっては、むしろこれから本格的なIT投資を行なわなければならない状況にある。平成15年度税制改正において、IT投資促進税制が3年間の時限措置として講じられたが、かかる状況に鑑みれば、適用期限の延長が不可欠である。

3.減価償却制度の改革

バブル崩壊以降、企業においては過剰設備や債務の解消を優先し、新規の設備投資を手控える傾向が続いてきた。しかし、ここへきて設備の過剰感は払底しており、他方、企業収益の改善によってキャッシュフローの水準は高まっている。
企業の設備投資は経済成長の原動力となるものである。わが国経済は回復の傾向を強めているが、これを長期安定成長軌道にのせてゆくためには、高水準にあるキャッシュフローを、経済成長への寄与が大きい設備投資へと、いかにつなげてゆくかが重要な課題となる。
減価償却制度のあり方は、設備投資に係る経営判断に重大な影響を与えるものであるが、グローバルな競争の激化や商品サイクルの短期化などを踏まえれば、減価償却制度に求められる最大のポイントは、投下資金の完全かつ早期の回収である。
しかるに、わが国の減価償却制度は、長年にわたり抜本的な見直しが行なわれずにきた。近年、法人課税については、税率の引下げや企業組織再編税制・連結納税制度の導入など、大掛かりな改革が急ピッチで行なわれてきたことに比べると、立ち遅れた分野であると言わざるを得ない。また、加速度償却制度を導入した米国、制度の大幅な簡素化を図った韓国など諸外国と比べても、わが国の減価償却制度は見劣りのするものとなっている。
法人課税改革において残された分野の一つである減価償却制度について、抜本的改革を行なうべきである。
改革の基本的考え方としては、企業の競争力の向上、国際的イコール・フッティングの確保、制度の簡素化・合理化の観点から、耐用年数表の分類の大括り化、償却可能限度額の引上げなどの見直しを行なうことが必要である。とりわけ、現在取得価額の95%までとされている償却可能限度額については、100%償却できるよう早急に見直すべきである。

4.会社法制定等に伴う法人課税の見直し

平成17年通常国会において新たな会社法が制定され、来年施行される予定となっている。また、企業会計基準についても様々な見直しが進行中である。
これまでもわが国法人課税は、商法等の見直しに対応し適宜改正が行なわれてきたが、新しい会社法の制定等に際しても、合理的な改正を行なう必要がある。

(1)株式交換・株式移転税制

企業が競争力を維持・強化する上では、事業組織のあり方を不断に見直し、企業グループ全体としての経営の最適化を図ることが求められる。株式交換・移転制度はそのための重要なツールであり、企業グループとしての事業領域の見直しやグループ企業の完全子会社化等に積極的に活用されている。
株式交換・移転に係る税制については、今後とも、現在行なわれている円滑な組織再編を阻害しないようにすることが重要である。

(2)役員賞与の損金算入

役員賞与は、会社法では、決算確定手続とは無関係に「報酬等」として、役員報酬と一体として株主総会の決議によって定めることとされた。また、会社法を踏まえ、企業会計において費用計上に一本化される方向にある。
一方、企業経営においても、コーポーレート・ガバナンスのあり方が見直される中で、役員報酬体系の改革が進められており、退職慰労金を廃止し、業績連動型の報酬体系に移行する企業も見られる。
これらの動きを踏まえれば、法人税制においてはこれまで損金不算入とされている役員賞与について、損金算入を認めるべきだと考えられる。

(3)合同会社に係る税制

会社法の制定により新たな法人の形態として「合同会社」が創設される。合同会社は、法人格を有するものの、その内容は組合と同等の柔軟な組織である。米国等ではかねてより、類似の組織形態であるLLC(Limited Liability Company)が、新事業への進出や共同事業の展開に活用されている。LLCの税制上の取扱いとしては、法人段階での課税は行なわれず、組合と同様に出資者段階で課税が行なわれる(パススルー課税)。
わが国法人課税は、法人格を有する事業体には法人課税を適用することを原則としてはいるものの、特定目的会社への支払配当損金算入措置の適用をはじめ、政策的なニーズ等により柔軟な取扱いも認められてきたところであり、合同会社に対する課税のあり方を考えるにあたっても、課税上の弊害が生じないものに限っては、パススルー課税を適用することを検討すべきである。

(4)その他
  1. 剰余金の配当(現物配当を含む)
    新しい会社法においては、旧商法で規定されていた配当、有償減資等の扱いについて、株主への払戻しとなる部分は一括して「剰余金の配当」という形に整理されたが、これに関する税務上の取扱いとしては、これまでの法人税法上の考え方を踏まえ、実務に混乱が生じないように整理する必要がある。
    また、これまでの分割型分割(人的分割)の類型は、分社型分割(物的分割)と新設・承継会社の株式の現物配当の組み合わせに整理されたが、会社法上、会社分割と剰余金の配当(承継会社の株式)が同時に行なわれる場合には、配当の財源規制が免除されており、このような取扱いを前提として、企業会計における取扱いも踏まえつつ、現行の適格分割型分割の制度を維持するとともに、既存子会社との間の分割型分割についても、適格再編とする手当てが必要である。このようなことを含め、様々なニーズに対応できる企業組織再編税制の整備を検討すべきである。

  2. 企業結合時の退職給付引当金に係る差額等の取扱い
    企業結合会計の適用が開始されることに伴い、退職給付引当金など、企業会計と税務での取扱いの異なることにより税務上の問題が生じないよう、適切な措置を講ずる必要がある。

  3. 自己株式の取得に伴う付随費用の損金算入
    自己株式の取得に伴う付随費用については取得価額に算入されるが、当該自己株式を消却する場合は、付随費用の損金算入の途が閉ざされている。自己株式を消却する場合には、その取得に係る付随費用を損金算入できるよう、見直しが必要である。

  4. 種類株式の取扱いの明確化
    会社法の制定により、種類株式の類型が増加し、今後、その活用が増えることが考えられることから、その評価も含め、税務上の取扱いを明確化することが必要である。そうした観点から、取得条項付株式などの取得にあたってのみなし配当の計算においては、資本等の金額を当該種類株式に該当する部分とそれ以外の部分に区別することが考えられる。

5.国際租税制度の適正化

(1)外国税額控除制度等の見直し

国際的な二重課税を排除する外国税額控除制度は、近年ますます加速している企業活動のグローバル化を円滑に進める上で不可欠な基本的インフラであり、企業の国際競争力の向上ならびに国際的イコール・フッティング確保の観点に立った見直しが必要である。
わが国の外国税額控除制度に関して、海外主要国との比較において不十分な点については、早急に是正し、国際的二重課税の解消を図るべきである。具体的には、(1)外国税額控除限度超過額及び控除余裕額の繰越期間の延長、(2)間接外国税額控除対象会社の拡大(出資要件の引下げ、適用対象会社の範囲の拡大)等を図るべきである。
なお、外国税額控除限度額の計算方法において、わが国は一括限度額管理方式を採用しているが、これは、実務的に簡便であり、また、企業活動のグローバル化の推進に資する特質を有するものと考えられる。一括限度額管理方式において生じ得るとされる弊害に対しては、いわゆる彼我流用制限措置がとられている。一方、海外主要国では、外国税額控除制度を採用した上で所得別に限度管理を行なっている国もあれば、もともと国外所得を免除する国もあるなど様々であり、米国のように外国税額控除限度額の管理方法の簡素化を図る動きもある。
限度額管理方式のあり方については実務面への影響も含め慎重な検討が必要であるが、仮に現行の管理方式の見直しを検討する場合には、一括限度額管理方式を前提にとられている彼我流用制限措置(高税率負担シーリング、非課税国外所得の制限措置、控除対象となる国外所得のシーリング)は撤廃すべきである。
また、タックスヘイブン対策税制や過少資本税制など、他の国際課税制度についてもあわせて必要な見直しを検討する必要がある。

(2)租税条約改正交渉の推進

近年、画期的な日米新租税条約の批准・発効に続き、英国、オランダ、インドと、政府において精力的に租税条約改正に向けた取り組みが行なわれていることは高く評価できる。今後も取り組みをさらに強化するとともに、とりわけ経済的な結びつきが強まっているアジア諸国や、今後投資交流の活発化が見込まれる国々との条約改正・締結交渉の推進を期待する。

6.法人実効税率の引下げ

わが国法人実効税率は、平成10、11年度税制改正において、約40%へ引き下げられて以降、見直しが行なわれておらず、30%台前半が中心である欧州主要国、あるいは一層低水準にあるアジア諸国などに比べると、高止まりしていると言わざるを得ない状況にある。また、業種によっては、主要先進国における課税の手法そのものが大きく変わりつつあるものもある。
法人実効税率のあり方は、単に国内企業の課税負担がどうなるかという静学的な捉え方ではなく、内外からの投資の活発化を通じた経済成長と雇用の確保、国際的なイコール・フッティングの確立といったダイナミックな視点から考えるべきであり、そうした観点からは、さらなる引下げが急務である。
平成19年度を目途とする税体系の抜本的な見直しの一環として、法人実効税率の引下げを断行すべきである。

7.地方法人課税の改革

(1)地方法人課税のあり方

わが国では地方における法人課税負担が重く、企業の国際競争力の向上や地域の活性化を図る上での阻害要因となっている。また、法人所得に対する地方課税(法人住民税、法人事業税)は、わが国法人実効税率が諸外国に比べても高いことの大きな要因でもある。
税負担が重いだけではなく、法人所得に対する課税は地域や景気サイクルによる税収のばらつきが大きく、本来地方税として適切な税目とは言いがたいことなど、地方法人課税については、制度自体としても問題点が多く、体系的かつ抜本的な見直しが急務である。
消費税を含む税体系の抜本的改革の一環として、地方税のあり方についても、本来地方財政を賄うために相応しい税目は何かという観点から再検討すべきである。基本的な考え方として、地方財政の税源には、個人住民税と居住用資産に対する固定資産税を中心に位置付けるべきである。一方、法人所得に対する課税は国税に集約しつつ、全体としての法人実効税率の引下げを図るべきである。

(2)償却資産に対する固定資産税

償却資産に対する固定資産税は、総額でみれば土地あるいは建物に係る固定資産税のおよそ半分の規模である。しかし、日本経団連の調査によれば、製造業を中心とする多数の設備を有する企業においては、土地に対する固定資産税と同等かそれを上回る負担額となっており、企業収益を圧迫し、企業競争力に悪影響を与えている。
もともと、償却資産に対する固定資産税に関しては、税制自体としての問題点が多い。即ち、製造業など特定業界に負担が偏重しており、課税の公平性の面からも問題が大きいだけでなく、税収の面からみても、自治体ごとのアンバランスが大きい。さらに、国際的にも、事業用の償却資産に対する課税は非常に稀である。本来、事業用の償却資産は将来収益を生み出す源泉であり、企業の所得に対しては地方税としても法人住民税・事業税が課されることに鑑みれば、償却資産に対する課税は二重課税にほかならない。土地・家屋と異なり、償却資産に対する固定資産税だけは事業用の資産のみに課税されることも問題である。
国・地方の税財政の三位一体改革の一環として個人所得税から個人住民税への税源移譲が行なわれ、その後、消費税を含む税体系の抜本的改革が検討されることとなっている。その際には、地方消費税を含めた地方税の体系についても根本的見直しを行ない、償却資産に対する固定資産税については、廃止すべきである。

(3)法人事業税の実務の改善

平成16年4月1日以降に開始する事業年度より、法人事業税の外形標準課税が適用され、多くの企業においては、本年初めての申告が行われたところである。外形標準課税のとくに付加価値割については、これまでの所得割と異なる複雑な仕組みとなっており、各企業が申告実務を行なう中で浮かび上がってきた諸課題については、合理化することが必要である。即ち、付加価値割の計算方法について簡素化するとともに、申告実務についても、必要性の薄い明細書の廃止も含めた簡素化が必要である。
また、無償減資等により資本の欠損の填補を行なった場合の外形標準課税の資本割の課税標準に係る特例措置については、平成18年3月31日までの時限措置とされているが、制度の趣旨に鑑み、これを恒久化すべきである。
さらに、連結納税制度を採用している連結親法人について、資本割額算定上の持株会社特例を適用するにあたり、総資産額から連結子法人に対する個別帰属税額未収金を控除するよう、見直しが必要である。

(4)地方法定外税等の見直し

地方法定外税は、本来は、地方自治体の創意工夫に基づき、当該地域における受益と負担の関係に基づいて導入されるべきであるが、現実には、当該地域から移動することができない一部の企業に対象が限られる課税も多い。また、超過課税の採用についても、法人を対象とするものが大半である。このように負担が法人に偏った地方課税については早急に是正すべきである。

8.その他

(1)特定の事業用資産の買換特例の延長

特定の事業用資産の買換特例制度については、企業の事業構造の改革、産業構造の転換に有用であり、平成18年3月31日に期限を迎える各特例措置については適用期限を延長すべきである。
また、平成18年12月31日に期限を迎える長期保有土地等から土地・建物等への買換の特例制度についても、多くの企業に有効に活用されており、同様に適用期限を延長すべきである。

(2)課税ベースの見直し
  1. 受取配当益金不算入制度の見直し
    配当は課税済の利益から支払われるものであり、二重課税防止の観点から、法人が受け取る配当については、本来、全額益金不算入とする必要がある。平成14年度税制改正において廃止された特定利子に係る措置については、早急に復活させるべきである。

  2. 欠損金の繰戻還付制度の復活
    欠損金の繰戻還付制度は、法人課税における基本制度として、当然認められるべきであるにも関わらず、わが国においては長年にわたり制度が凍結されてきた。企業収益の回復により、法人税収は増加に転じており、繰越欠損金の水準も低下しつつあることから、繰戻還付制度を復活した上で、繰戻還付期間を2年間に延長すべきである。

  3. 営業権(のれん)の償却の取扱い
    これまで、のれんの償却については、商法施行規則上5年償却とされていたが、新しい企業結合会計基準では20年以内の規則償却とされる予定である。
    これに対し、現行では5年とされる営業権の耐用年数のあり方が検討の俎上にのぼる可能性もあるが、本来、法人税法における耐用年数は「課税所得の計算上損金に算入できる償却可能限度額を画する(政府税制調査会「税制の抜本的見直しについての答申」)」ものとの位置づけであり、会計上の最長の年数に合致させる必然性はなく、税法独自のものとして償却限度額を計算するための年数が定められて然るべきものと考えられる。

(3)連結納税制度等の改善

平成14年度税制改正において連結納税制度が導入されて約3年が経過しており、連結納税制度の運用の実態や、関連する税制改正等を踏まえつつ、適用開始・加入時における一定の資産の時価評価・課税、未処理欠損金の扱い、連結グループ内の寄附金の扱い等について検討を行なう必要がある。
また、企業組織再編税制について、組織再編のより一層の円滑化に向けて、個別事例の公表などを通じた制度運用の予見可能性の向上を図ることが必要である。

(4)電話加入権の取扱い

固定電話の電話加入権は現行税法上、非減価償却資産とされているが、今後市場価値が消失してゆく見込みであり、税法においても早期に償却を認めるべきである。

(5)非営利法人課税等

豊かで活力ある社会を構築するためには、民間の自主性や創意工夫に基づく公益活動の充実が必要であり、非営利法人の活動が重要になってきている。
そうした見地から、現在、政府において、公益法人制度の改革に向けた検討が進められるとともに、これに伴う税制のあり方については、政府税制調査会から基本的な考え方が示されたところであるが、次の点については、さらなる明確化、見直しが求められる。
第一に、経済団体・業界団体はかねてより、わが国経済社会の発展に向けた政策提言、地球環境の保全に向けた活動、各分野における規格作りをはじめ、公益性の高い活動を広範に展開しており、このような活動を支援する観点から公益法人改革を進め、税制措置を整備すべきである。
第二に、金融資産収益は会費や寄付金とならんで重要な財源であり、公益性・共益性を有する非営利法人の利子・配当等の金融資産収益については課税を強化すべきではない。
第三に、企業の社会貢献活動を一層充実させるために、公益目的の寄附金に係る損金算入枠を拡充すべきである。また、一般寄付の損金算入枠についても、企業が国外も含め主体的に寄付先を選択できるようにするとともに、多様な非営利法人の活動を可能とするために、現行の水準を維持すべきである。

III.環境税には改めて反対

1.進展を続ける産業界の自主的な取り組み

地球温暖化は、われわれが直面する最も重要な環境問題のひとつである。
産業界は、温暖化防止への取り組みが企業活動の必須要件であることを強く認識し、自らが持つ技術、製品、サービス、そして社会とのネットワークを最大限に活用し、温暖化防止に積極的かつ責任ある役割を担う決意である。
京都議定書に先駆け、日本経団連は1996年に環境自主行動計画を開始した。2010年度の産業部門及びエネルギー転換部門からのCO2排出量を1990年度レベル以下に抑制すべく、参加各業界・企業は懸命の努力を続け、大きな成果をあげている。政府が4月に閣議決定した京都議定書目標達成計画において自主行動計画は「産業・エネルギー転換部門における対策の中心的役割を果たすもの」と評価された。
産業部門での排出削減に加え、産業界は、優れた省エネ製品やサービスの開発・普及を通じ、民生・運輸部門も含めライフサイクルベースでの温暖化防止に寄与している。政府の進める地球温暖化防止国民運動に対しても、全面的な協力を行っている。また、わが国の優れた環境技術は、地球規模での温暖化防止にも貢献している。
このように地球温暖化防止に向けた産業界の自主的な行動の輪は、産業・エネルギー転換部門におけるCO2排出削減から民生・運輸部門での取り組みに拡大し、国民運動にも発展しつつある。政府は、こうした自主的な行動の輪がさらに広がるよう積極的に支援すべきであり、税や規制的な施策によって水を差すことがあってはならない。

2.民間活力を阻害する環境税

京都議定書目標達成計画では、環境税を具体的施策として位置づけることなく6%(1990年比)の排出削減を行なうための道筋が描かれた。環境税は、以下のような多くの問題点を抱えており、改めて反対する。
第一に、環境税は、とりわけアジア諸国と熾烈な国際競争を展開するわが国の生産拠点としての魅力を減じ、国際競争力を著しく低下させる。その結果、同様の税負担の無い近隣諸国への生産の移転など、国内産業空洞化を引き起こし、いわゆる炭素リーケージにより地球規模での温室効果ガスの排出量を増大させる懸念がある。
第二に、漸く踊り場を抜けた景気への目下の最大の懸念材料は原油価格の高騰である。すでに重畳的な課税が行なわれている化石燃料に、環境税導入により更なるコスト増が加われば、国民生活や企業活動に深刻なダメージを与えかねない。
第三に、環境税は、自主行動計画の目標達成に向けて、中長期的視野に立ち多額のコストを払いながら研究開発、設備投資と続ける企業に対し、追加的なコスト負担を強い、将来の投資や研究開発の原資を奪う。その結果、自主行動の基盤を損ねるなど、温暖化問題の真の解決に逆行するものである。
第四に、環境税の効果として、価格効果、財源効果、アナウンスメント効果を指摘する意見があるがいずれも疑問である。
まず、消費者に対し価格効果が発揮されるためには、消費抑制を引き起こすような大幅な価格引上げが必要である。しかし、激化するグローバルな企業間競争の中で、価格の大幅な引上げや転嫁は、実際上極めて困難である。一方、産業部門では、現在の高エネルギーコストのもとで主体的に生産の効率化、新技術の開発・導入に日々真剣に取り組んでおり、環境税によるコスト増大が追加的な技術革新を促すといった効果は考えられない。財源効果と称して環境税を導入し、安易に補助金をばらまくことは、効果に疑問があると同時に行政の肥大化、非効率を助長するものであり、行財政改革によりわが国が目指すべき小さくて効率的な政府の実現とは相容れない。温暖化対策については、既存の1兆円を超える予算の効率的活用を考えるべきである。さらに、アナウンスメント効果を新税導入の目的とすることは論外と言わざるを得ない。政府は、税や規制で国民のライフスタイルを変えるのではなく、初等中等段階での教育も含め、効果的でより社会的コストの小さい国民運動を真剣かつ継続的に展開すべきである。
われわれに必要なのは、効果が無いばかりか、民間の活力を奪いかねない新税の導入ではない。目標達成計画が確実に達成されるよう、政府、地方自治体、国民、企業が一体となって自主的な行動の輪を広げることが何より重要である。
産業界はそのための努力を惜しまず、引き続き温暖化対策に主体的に全力で邁進していく。

IV.住宅・土地税制等

1.住宅税制の拡充

住宅ストックは、すでに量的には世帯数を超えているものの、欧米主要国に比べ質の面では改善すべき点が多く、とりわけ、震災・環境対策は早急に対処すべき国家的課題である。
良質な住宅や住環境の整備は、個人の住生活を豊かにするだけではなく、何世代にもわたって引き継がれるべき社会的インフラでもあり、住みよい街づくりの整備とあわせ、本格的な高齢・人口減少社会の突入に先立って取り組まなければならない課題である。

(1)自己資金・借入の区別なく適用される住宅投資減税の導入

従来の住宅税制は、経済対策として住宅建設を促進するための住宅ローン減税を柱としてきたが、今後の住宅に対する政策的支援は、「住」の本来の意義に加え、「住」のもつ社会的資産の側面に着目し、良質な住宅ストックの形成と豊かな住環境の整備に焦点をあて、その実現に向けた個人の自助努力を促すことを基本とすべきである。
税制においても、住宅ローンのみを支援の対象とするのではなく、自己資金をも含めた住宅投資額に対して一定割合を税額から控除する方式を導入し、より良質な住宅の建設、質の改善に向けて住宅投資全体を誘導・促進することが、日本の「住」の問題解決には早道である。
当面、官民あげて取り組むべき緊急課題である大規模地震対策、地球温暖化対策を、良質な住宅・住環境の整備を通して進めるために、新耐震基準、一定の環境基準(省エネ等)を満たす住宅の建設・改修(リフォーム)について、工事費の一定割合に相当する額を所得税・個人住民税から税額控除する措置を現行制度とは別枠で創設すべきである。

(2)個人所得課税の抜本改革に伴う現行制度の改正

所得税から個人住民税への税源移譲に際し、所得税において予定されていた住宅ローン減税制度の効果が減殺されることがないようにするため、個人住民税においてこれを補完する措置を創設するか、あるいは、現行住宅ローン減税制度に関して、実質的な税負担軽減効果を損なうことのないよう控除率の見直し・控除期間の延長等の措置を講ずる必要がある。

(3)住宅取得・住宅建設に係る特例の延長

住宅投資の持続的活性化を図るために以下の措置を講ずるべきである。

  1. 相続時精算課税制度に係る住宅取得資金贈与特例(+1,000万円)の適用期限の延長
  2. 住宅取得資金贈与の贈与税額の計算特例(5分5乗特例)の適用期限の延長
  3. 新築住宅に係る固定資産税の特例措置の適用期限の延長
  4. 優良賃貸住宅等に係る固定資産税の特例措置の適用期限の延長
  5. 住宅用土地に対する不動産取得税の特例措置を受ける場合の土地取得から新築までの期間要件の特例措置の適用期限の延長
  6. デベロッパー等に対する新築家屋のみなし取得時期に関する不動産取得税の特例措置の適用期限の延長

2.土地税制の見直し

バブル崩壊後長らく続いた地価の下落は、首都圏をはじめとする大都市の中心部ではようやく下げ止まり、一部は反転もみられるものの、全国的にはいまだ下落傾向が続いており、とりわけ地方において産業・経済の再生に重い足かせとなっている。
何よりも、地価がバブル前の安定期である1980年代中頃の水準にまで低下した中で、土地の流通・保有に係る税負担は地価安定期の水準を上回って高止まりしている。
土地の有効利用と都市の再生、企業の活力向上を図るために、不動産流通課税ならびに固定資産税の負担軽減を図るべきである。

(1)不動産の流動化等のための税制措置

土地の有効活用や都市再生、企業の事業構造の革新を進めるためには、取得コストの軽減により、不動産の流動化を促進することが不可欠である。
平成15年度税制改正において講じられた不動産流通課税に関する様々な軽減措置が本年末から年度末に期限切れを迎えることとなる。しかし、日本経団連と国土交通省が共同で主要企業を対象に実施したアンケート調査(408社回答)によれば、不動産を売却する予定のある企業のうち、97%とほとんどの企業が、不動産流通課税の軽減措置が廃止されれば、不動産の売却に影響を与えることになると回答している。
登録免許税、不動産取得税の課税標準となる固定資産税評価額は、地価高騰前の水準を依然として上回っており、現行軽減措置によって、ようやくバブル期以前の登録免許税、不動産取得税の負担水準を維持しているにすぎない。全国的にみれば依然として地価の下落傾向が続いている中で、軽減措置が廃止されれば、不動産の流動化が著しく阻害され、土地の有効活用、都市再生、企業の事業構造の革新を進める上での障害となることが予想される。
本来、本則税率の大幅な引下げを含めた見直しが必要であり、少なくとも、以下の特例措置については、適用期限を延長すべきである。

  1. 不動産に係る登録免許税の税率の軽減措置の適用期限(平成18年3月31日)の延長
  2. 土地・建物に係る不動産取得税の税率の軽減措置(平成18年3月31日)の適用期限の延長
  3. 土地に係る不動産取得税の課税標準の特例措置の適用期限(平成17年12月31日)の延長
(2)固定資産税の負担軽減
  1. 土地に係る固定資産税
    土地に係る固定資産税については、固定資産税評価額に対する負担水準を調整する措置がとられており、商業地等については、固定資産税評価額の60〜70%を据え置くべき水準とし、60%未満のものは60%まで一定割合で引き上げ、70%超のものは70%へ引き下げることとされている。しかし、負担を据え置くべき水準として10%もの幅を認めた調整の仕組みは、同評価の土地に対して異なる税負担を容認するものであり問題が大きい。負担水準を速やかに収斂させることが必要である。平成16年度税制改正において、地方自治体の条例により負担水準の60%までの減額を可能とする措置(条例減額制度)が講じられており、これは、国全体として負担水準を60%まで一本化するための一つのプロセスと理解すべきである。したがって、商業地等に係る固定資産税の負担水準については、上限の70%を速やかに60%まで引き下げ、均衡化に向けた取り組みを進めるべきである。

  2. 家屋に係る固定資産税
    家屋に係る固定資産税については、その評価額が時価を上回るケースも見られることから、評価方法のあり方を抜本的に見直す必要がある。当面の措置として、経年減点補正率基準表に定める「経過年数」を法人税法上の減価償却資産の「耐用年数」並みに短縮すること、残価率20%を引き下げること等が必要である。

(3)その他
  1. 会社分割に係る登録免許税の軽減措置(合併並み)の恒久化
    会社分割に伴う資産の移転に係る登録免許税については、租税特別措置(平成18年3月31日期限)として、合併に伴う資産の移転と同等の水準へと軽減が図られているが、本来、期限を設ける必要はなく、本措置については恒久化すべきである。

  2. SPC(特定目的会社)等に関する取扱い
    都市の再生、企業のバランスシートの改善を進めるために、資産の流動化・証券化をより一層促進する必要がある。そのために、イ)SPC等が取得する不動産に係る登録免許税の軽減措置の適用期限の延長、ロ)SPC等に係る支払配当損金算入要件の緩和、ハ)SPC等に係る借入先要件の改善等の措置を講じるべきである。

  3. 都市再生税制等
    民間活力により都市の再生を推進する観点から、認定民間都市再生事業に係る登録免許税の軽減税率の適用期限の延長を行なうべきである。
    また、各地域におけるまちづくり活動を支援する観点から、認定特定公益信託の対象範囲を、まちづくりに関する様々な活動を支援するものへと拡大することなど、地域のまちづくりを一体的に支援するための税制措置が必要である。

  4. 法人の土地譲渡益重課の廃止、地価税の廃止
    法人の土地譲渡益重課制度ならびに地価税については、いずれも政策目的が失われており、速やかに制度そのものを撤廃すべきである

V.個人所得課税

1.個人所得課税改革のあり方

人口減少社会においてもなお、経済社会の活力を維持してゆくためには、現役世代に過重な負担を強いることは避けるべきである。
また、個人所得課税のあり方を考える上では、税負担だけでなく、年金をはじめとする社会保険料をあわせた公的負担全体として考えることが必須である。社会保険料をあわせた公的負担全体では、わが国の負担水準は海外主要国に比べて決して低いとは言えず、しかも、社会保険料負担は今後増加することが確実視されている。
個人所得税の税収は、バブル期のピークに比べて大きく減少しているが、これは主としてバブルに伴ってもたらされた利子、土地譲渡益などに係る税収の減少が大きな要因である。給与所得者について見るならば一貫して相応の税負担を行なってきていると見るべきであり、とりわけ定率減税の縮小により、恒常的な負担水準に戻ることとなる。
さらに、わが国では、控除の見直しによって個人所得課税の課税最低限が引き下げられた一方、海外主要国においては子育て支援のための控除措置の充実などにより、逆に課税最低限が引き上げられる傾向にあり、いまやわが国は国際的に見ても課税最低限が低い国となっている。
税体系の抜本的見直しの一環として、個人所得課税についても改革が必要だとしても、以上の点を踏まえ、何よりも個人の活力発揮と負担の公平性確保の観点に立った検討が求められる。

2.納税者番号制度

全ての納税者の所得を確実に捕捉し、納税者間の公平性を確保することは、税制に対する国民の信頼のもとにあらゆる税制改正を進める上での大前提となるものであり、こうした観点から、日本経団連としても、かねてより納税に係る番号制度の導入を強く主張してきた。
とくに最近では、社会保障制度改革の一環として、年金や医療、介護等、個人への社会保障給付を統一的に把握・調整する観点からも、個人への番号付与の必要性が高まっている。
早期の導入に向けて、国民の理解をいかに得るかを含め、具体的な検討を急ぐべきである。

3.個人所得税から個人住民税への税源移譲と定率減税の見直し

平成18年度税制改正において、国・地方財政の三位一体改革の一環として、個人所得税から個人住民税へ税源を移譲し、個人住民税の所得割の税率をフラット化することが検討される見込みである。これに伴い、個人所得税の税率構造についても見直す必要が生じるが、個人所得課税の税率構造のあり方を考える上では、現役世代の活力の維持・向上を図る観点が何よりも重視されるべきである。
また、平成17年度税制改正において、個人所得税・個人住民税の定率減税の縮減が決められ、平成18年所得分から適用される予定となっている。定率減税のさらなる見直しについては、景気の動向などを踏まえつつ、慎重に検討する必要がある。

4.諸控除の見直し

(1)給与所得控除

現在の給与所得控除は、給与所得者の経費の概算控除としての性格だけではなく、累進税率構造による税負担増加の緩和等、様々な役割を担っている。給与所得者にとっては極めて重要な制度であり、安易な見直しが行なわれることがあってはならない。

(2)退職所得控除

退職所得控除は、サラリーマンの老後の人生設計に大きく影響するものであり、そのあり方については慎重な検討が必要である。仮に、退職所得控除を見直す場合には、退職給付に関連する税制の全体的見直しを併せて行なうべきであり、企業年金資産に係る特別法人税は撤廃すべきである。

5.金融所得課税

(1)金融所得課税の一体化の推進

課税の合理化・簡素化をさらに進め、投資に係るリスク軽減を図る観点から、金融商品間の損益通算を幅広く認めることが必要である。

(2)民間国外債の非課税措置の延長等

わが国企業が海外で発行する債券を非居住者が購入した際の利子に関する非課税措置の適用期限(平成18年3月31日)を延長するとともに、国内債の利子についても同様に非課税とすべきである。

6.少子化対策

低下し続けているわが国の出生率を反転させるために、あらゆる対策を講ずる必要があるが、その政策手段としては、児童手当などの財政措置、税制面による対策、また、税制措置としても様々な方法が考えられ、国全体としての考え方を整理し、政策手段を取捨選択しつつ、整合性のとれた対応を行なうべきである。

7.年金税制

(1)企業年金資産に係る特別法人税の廃止

年金税制の基本原則は、掛け金の拠出・運用時は非課税、課税は受給時に行なうというものである。企業年金の運用資産に課税する特別法人税については、平成17年度税制改正において課税凍結措置の延長が図られたが、本来、速やかに制度そのものを廃止すべきである。
とくに、退職所得控除の見直しなど、退職給付に係る税制の見直しが議論されるのであれば、特別法人税を廃止することが前提である。

(2)確定拠出年金税制の拡充

確定拠出年金に係る拠出限度額については、既存の退職一時金や企業年金から確定拠出年金への移行を行なうためには不十分であり、拠出限度額のさらなる引上げが必要である

8.その他

(1)税制適格ストックオプション税制の改善

税制適格ストックオプションの適用対象者に、委員会(等)設置会社における執行役を含めるべきである。

VI.その他

1.道路特定財源

揮発油税、自動車重量税等の道路特定財源は、受益者負担の原則のもとに、自動車ユーザーが道路整備のための財源を負担する趣旨のものである。また、本則で定められた税率では道路整備に不足するために、長年にわたり暫定税率が上乗せされてきたところである。
しかし、政府の構造改革努力の一環として、公共事業費の抑制が図られてきた結果、道路特定財源額が、必要な道路整備費を上回る状態が経常化しつつあることから、少なくとも暫定税率の廃止・引下げなど、納税者の負担を軽減することが必要である。

2.印紙税の見直し

インターネット販売の一般化など、経済取引のペーパーレス化が進展する中で、文書に課税する印紙税については合理性が失われてきており、抜本的な見直しを行なうべきである。


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