[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

平成18年度住宅・土地税制改正への提言

2005年9月20日
(社)日本経済団体連合会

平成18年度住宅・土地税制改正への提言主要項目

はじめに

  1. (1)バブル崩壊後長らく続いた地価の下落は、首都圏をはじめとする大都市の中心部ではようやく下げ止まり、一部には反転もみられるものの、全国的には未だ下落傾向が続いており、とりわけ地方において産業・経済の再生にとって重い足かせとなっている。
    何よりも、地価がバブル前の安定期である1980年代中頃の水準にまで低下した中で、土地の保有・流通に係る税負担は地価安定期の水準を大きく上回って高止まりしており、さらなる負担増は、良質な住宅・住環境の整備や流通の促進を阻害するだけでなく、日本経済の活性化、安定的成長を阻害することとなる。

  2. (2)住宅は、既に量的には世帯数を超えているものの、欧米主要国に比べ質の面では改善すべき点が多く、とりわけ、震災・環境対策は早急に対処すべき国家的課題である。
    さらに、良質な住宅や住環境は個人の住生活を豊かにするばかりか、何世代にもわたって引き継がれるべき社会的インフラでもあり、住みよい街づくりの整備と合わせ、本格的な高齢化・人口減少社会に先立って取り組まなければならない課題である。

  3. (3)また、わが国経済全体としてみるならば、景気を踊り場から長期安定成長軌道にのせていくための、まさに重要な局面にあり、内需の確実な伸張は依然として重要な課題である。

  4. (4)およそ、税制は公平・公正であるとともに、社会・経済の活力を促進するものでなければならない。安全で住みよい街、活力ある地域社会を作るためには、個人・企業の自由で主体的な取組みを尊重しながら、土地・住宅税制を政策的に活用して実現をはかることが効果的である。
    また、景気回復への足取りを確固たるものとするためにも、住宅投資の持続的活性化、地域づくりや都市再生に向けた民間の自主的な取組みを税制面からも支援する必要があり、平成18年度税制改正において、以下のとおり具体的な措置を講じるべきである。

1.住宅税制

(1)住宅政策に関する基本的考え方

われわれは、先に提言「住宅・街づくり基本法の制定に向けて(2005年6月21日)」において、住宅政策のあり方として、単体の住宅だけでなく長い歴史を経て形成される住環境の整備に向けて、長期的な視点で取り組むべき課題であることを指摘するとともに、今後の政策的支援について、「住」の本来の意義に加え「住」のもつ社会的資産の側面に着目し、良質な住宅ストックの形成と豊かな住環境の整備に焦点を当て、その実現に向けた個人の自助努力を促すことを基本とすべきことを求めた。

(2)自己資金・借り入れの区別なく適用される住宅投資減税の導入

従来の住宅税制は、住宅建設の促進を短期的な経済対策として位置づけ、中堅以下の所得層に対しても住宅取得を容易にさせるために、住宅ローン残高に対する一定割合の税額控除を行うことを基本としてきた。
しかしながら、税制においても「住」のもつ社会的資産の側面を重視し、住宅取得への支出を社会インフラへの投資ととらえる視点から、住宅ローンのみを支援の対象とするのではなく、自己資金をも含めた住宅投資額に対して一定割合を税額から控除する方式を導入し、より良質な住宅の建設・改善に向けた住宅投資全体を促進・誘導する制度に改めることが必要であり、これが日本の「住」の問題解決には早道である。

(3)平成18年度改正において講じるべき措置

今後、自己資金を含めた住宅投資税制の創設に向け、早期に「住宅・街づくり基本法」を実現した上で、住宅政策全体の具体的なあり方を検討する中で、住宅に係る税制全体を再構築していくことが必要である。
しかしながら、緊急に対応すべき諸課題を解決し、持続的な住宅投資の活性化による経済の安定成長を確保するためには、平成18年度税制改正においても以下の措置を講じる必要がある。

(1) 大規模震災対策、地球温暖化対策に向けた住宅投資税制の導入

官民をあげて取り組むべき緊急課題である大規模地震対策、地球温暖化対策を、良質な住宅・住環境の整備を通して進めるために、新耐震基準、一定の環境基準(省エネ等)を満たす住宅の建設・改修について、借り入れ・自己資金を問わず工事費の一定割合に相当する額を所得税・個人住民税から控除する措置を、現行制度とは別枠で創設すべきである。

(2) 所得税から個人住民税への税源移譲に伴う現行住宅取得促進税制の改正

平成18年度税制改正においては、国税の所得税から地方税の個人住民税への税源移譲が大きな課題とされている。税源移譲によって所得税の最低税率が引き下げられるならば、中堅所得層以下では本来予定されていた住宅ローン減税制度による税負担の軽減効果は著しく減殺される。
そこで、個人住民税においてこれを補完する措置を創設するか、あるいは、現行住宅ローン減税制度に関して、実質的な税負担軽減効果を損なうことのないよう控除率の見直し・控除期間の延長等の措置を講じることが不可欠である。

(3) 相続税・贈与税

平成15年度税制改正において導入された相続時精算課税制度に係る住宅取得資金贈与特例は、親から子への大胆な住宅資金贈与を促進し、40歳から50歳代の住宅取得に大きな効果をもたらしている。
また、住宅取得資金贈与の贈与税額の計算特例(5分5乗特例)に関しても、30歳代を中心になお数多く活用されている上、そもそも相続税の課税件数が5%未満であることから、国民がより広く活用できる制度となっている。
両制度は、いずれも本年末(平成17年12月31日)において適用期限を迎えるが、良質な住宅ストック形成、さらには高齢者から現役世代への資産移転により経済活性化を図るために、恒久化を含め、引き続き活用できる制度とすべきである。

2.住宅・土地流通課税

平成15年度税制改正において、デフレ対策として導入・拡充された各種軽減措置等が本年末から年度末に一斉に期限切れを迎えることとなる。
しかしながら、登録免許税、不動産取得税の課税標準となる固定資産税評価額は、地価高騰前の水準に比べ大幅に嵩上げされており、現行軽減措置によって、ようやくバブル期前の負担水準を維持しているにすぎない。全国的にみれば地価は依然として下落傾向が続いている中で、一挙に本則課税に戻るならば、住宅および土地の流動化は著しく阻害され、土地の有効活用、都市再生さらには産業構造の転換にも大きな障害となることが懸念される。
また、不動産に係る登録免許税は、不動産取引等の背後にある担税力に着目した課税であるとされているが、他の資産に比して過大な負担を課すべき理由はなく、本来は登記制度を維持するための定額的・手数料的な課税を行えば足りるはずである。
適正な負担水準を確保するためには、本則税率の大幅な引き下げを含めた見直しが必要であり、それがなされるまでは、少なくとも以下の特例措置について適用期限を延長すべきである。

(1) 登録免許税
  1. 不動産に係る軽減措置(所有権の移転登記:本則2%→1%、住宅所有権の保存登記:本則0.4%→0.2%等)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。
  2. JリートおよびSPCが取得する不動産に係る軽減税率(0.6%)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。
  3. 国土交通大臣認定の民間都市再生事業に係る所有権の移転登記の軽減税率(0.7%)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。
(2) 不動産取得税
  1. 税率の軽減措置(非住宅用土地:本則4%→3%)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。
  2. 土地の課税標準の特例措置(固定資産税評価額の1/2)の適用期限(平成17年12月31日)の延長。
  3. 住宅用土地に対する特例措置(住宅床面積の2倍相当額を減額、200m2を限度)を受ける場合の土地取得から新築までの期間要件の特例措置(本則2年→特例3年、やむを得ない事情の場合には100戸以上のマンションは4年)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。
  4. デベロッパー等に対する新築家屋のみなし取得時期の特例措置(本則6か月→1年)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。
(3) 特定の事業用資産の買替特例

法人の特定の事業用資産の買換え特例(22号の長期所有土地等から土地・建物等への買換えを除く)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。

3.固定資産税・都市計画税

(1)商業地等に係る固定資産税の適正化・均衡化

固定資産税は市町村の基幹税目であり、本来、固定資産の活用から得られる収益に対して適正かつ安定的な税負担を求めるべきものである。しかしながら、現実には土地に係る固定資産税は、地価公示価格に対する7割程度とされる評価額を前提に、複雑な負担調整を行う仕組みとなっており、地価下落の中での税負担の増加という異常な現象を恒常化させている。
とりわけ、商業地等に対する負担水準(評価額に対する課税標準額の割合)は、平成14年度以降、60〜70%を据え置くべき水準とし、60%以下のものは60%まで一定割合で引き上げ、70%超のものは70%まで引き下げるとの負担調整措置が講じられており、現実には、政令指定都市をはじめとする大部分の市部の商業地の負担水準は60%を超えた水準に固定化されつつある。
そもそも、60〜70%という水準は「あるべき負担水準」として妥当とする根拠に乏しく、また10%もの幅を認めた負担調整の仕組みは、同評価の土地に対して異なる税負担を容認しているのみならず、下限値への到達に数十年を要する制度は問題があるといわざるを得ない。
平成18年度改正は、3年に一度の評価替えを踏まえた制度見直しの機会として極めて重要であり、まずは、負担水準の上限70%を速やかに60%まで引き下げる軽減措置を講じた上、均衡化に向けた取組みを進めるべきである。

(2)新築住宅に係る特例措置の適用期限の延長

新築住宅に対する固定資産税の負担を緩和するため、現在、床面積120m2までの部分について、中高層耐火住宅5年、その他は3年の間、税額を1/2に軽減する措置が講じられてきたが、本年度末(平成18年3月31日)に適用期限が終了する。
しかし、現行住宅ローン減税が逐年、縮小されていく中で、固定資産税までもが本則課税に戻るならば、住宅取得に対する著しい障害となることが予想される。本制度を恒久的な措置とするか、少なくとも、適用期限の延長を行うべきである。

(3)優良賃貸住宅等に係る特例措置の適用期限の延長

住宅に対する多様なニーズを充足するため、民間賃貸住宅の果たすべき役割は大きく、税制において講じられている以下の支援措置について適用期限を延長すべきである。

  1. 優良賃貸住宅に係る建物固定資産税の軽減措置(5年間、1/3に軽減)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。
  2. 高齢者の居住安定の確保に関する法律に基づく高齢者世帯向け優良賃貸住宅に係る固定資産税の軽減措置(5年間、120m2相当分につき1/3に軽減)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。
  3. 特定市街化区域内農地の新築中高層耐火建築物の貸家住宅に係る軽減措置(第1種高層住宅につき当初5年間3/4、その後5年間2/3を減額、等)の適用期限(平成18年3月31日)の延長。

4.地価抑制、土地投機抑制等を目的とする税制の廃止

地価高騰時において創設あるいは強化された税制措置については、既にその役割を明らかに終えており、現状停止されているものも含めて、この際、廃止すべきである。

  1. 地価税(平成10年度改正により課税停止)
  2. 法人の土地譲渡益重課(平成10年度改正により適用停止)
  3. 土地等の取得に要する負債利子の損益通算制限制度
以上

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