[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

民間の活力を活かした地球温暖化防止対策の実現に向けて

〜改めて環境税に反対する〜

2005年9月20日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

地球温暖化は、われわれが直面する最も重要な環境問題のひとつである。
産業界は、温暖化防止への取り組みが企業活動の必須要件であることを強く認識し、自らが持つ技術、製品、サービス、そして社会とのネットワークを最大限に活用し、温暖化防止に積極的かつ責任ある役割を担う決意である。
京都議定書に先駆け、日本経団連は1996年に環境自主行動計画を開始した。2010年度の産業部門及びエネルギー転換部門からのCO2排出量を1990年度レベル以下に抑制すべく、参加各業界・企業は懸命の努力を続け、大きな成果をあげている。この結果、政府が4月に閣議決定した京都議定書目標達成計画において自主行動計画は「産業・エネルギー転換部門における対策の中心的役割を果たすもの」と評価された。同時に、わが国企業は、優れた環境技術、ノウハウで世界をリードし、国境を超えた地球規模の温暖化問題の解決にも多大な貢献をしている。
政府が目標達成計画において示した温暖化対策の基本的考えの中で、「環境と経済の両立」、「技術革新の促進」、「すべての主体の参加・連携の促進」は特に重要である。温暖化対策は、経済社会の発展と調和をはかりながら、長期的視点に立って進めていかない限り、効果的で持続可能なものとはならない。自らの努力で省エネや技術開発を進め「世界に冠たる省CO2国家」を築きあげた国民や企業の力を信じ、その活力をさらに伸ばすような施策こそが求められる。
環境税や規制的手法で、各主体の自主性や創意工夫を縛るべきではない。

2.進展を続ける産業界の自主的な取り組み

(1) 自主行動計画の着実な達成

日本経団連の環境自主行動計画の下で、各業界が温暖化対策への取り組みを強化した結果、産業・エネルギー転換部門の温室効果ガス排出量は安定的に推移しており、自ら掲げた2010年度の目標は十分達成可能な状況にある。
自主行動計画は、(1)各企業が創意工夫を活かし、効果的な対策をきめ細かく実施できる、(2)行政コストがかからず、各企業も費用対効果に優れた対策を選択できるため社会全体の費用を最小化できる、(3)2010年度という中期目標に基づいた計画的な削減を行うため技術革新を促す、(4)目標達成が十分視野に入った業界においてより高い目標を設定する例もあるなど、税や規制にはない多くの利点がある。
日本経団連としては、外部有識者からなる第三者評価委員会からの指摘を踏まえ、自主行動計画の更なる充実、改善を図り、信頼性・透明性を高めながら、目標の着実な達成に努める。同時に、民生・運輸部門の業界団体についても、自主行動計画への一層の参加を呼びかけていく。

(2) 民生・運輸部門への貢献や国民運動への協力

産業部門の排出削減に加え、産業界は、優れた省エネ製品やサービスの開発・普及を通じ、民生・運輸部門も含めライフサイクルベースでの温暖化防止に寄与してきた。引き続き、世界のトップランナーとなる製品やサービスの開発、消費者への省エネ情報の提供に努める。同時に、モーダルシフトや物流の合理化などを通じ、運輸部門の排出削減対策を強化する。
政府の進める地球温暖化防止国民運動に対しても、全面的な協力を行っている。日本経団連の調査によれば、今夏は多くの企業で冷房温度の調節や軽装の励行などが実施された。さらに、環境家計簿やマイカー通勤の自粛など、従業員個人レベルでの温暖化防止活動も広がりつつある。こうした動きは、京都議定書目標達成計画の実効性を高めるのみならず、環境調和型経済社会の実現に向け、中長期的に国民のライフスタイルを変革する第一歩となるものである。

(3) 一層の広がりを見せる産業界の自主行動

このように地球温暖化防止に向けた産業界の自主的な行動の輪は、産業・エネルギー転換部門におけるCO2排出削減から民生・運輸部門での取り組みに拡大し、さらに、国民運動にも発展しつつある。
加えて、わが国企業の優れた環境技術を活かし地球規模の温室効果ガスを削減する京都メカニズムの推進、グローバルな連結ベースでの温暖化対策、国内外の植林や間伐材の活用等の取り組みも増大している。
日本経団連では、以上のような各企業、業界の多様な温暖化防止活動の事例集を作成、公表することで、先進的取り組みの横展開を促していく。
政府は、企業、国民のこうした自主的な行動の輪がさらに広がるよう積極的に支援すべきであり、税や規制的な施策によって水を差すことがあってはならない。

3.民間活力を阻害する環境税

(1) 景気や国際競争力に悪影響

わが国経済は漸く踊り場を抜け、回復基調を迎えた。現在、わが国に求められるのは、景気の好循環を維持しながら行財政改革を中心とする経済の構造改革を進め、高齢化社会でも活力のある経済基盤を整えていくことである。
景気への目下の最大の懸念材料は原油価格の高騰である。すでに重畳的な課税が行なわれている化石燃料に、環境税導入により更なるコスト増が加われば、国民生活や企業活動に深刻なダメージを与えかねない。
さらに、環境税は、とりわけアジア諸国と熾烈な国際競争を展開するわが国の生産拠点としての魅力を減じ、国際競争力を著しく低下させる。その結果、同様の税負担の無い近隣諸国への生産の移転など、国内産業空洞化を引き起こし、いわゆる炭素リーケージにより地球規模での温室効果ガスの排出量を増大させる懸念がある。国内のみの排出削減ではなく、地球規模での排出削減につながる実効ある施策を推進すべきである。

(2) 自主行動の基盤を阻害

企業は、自主行動計画の目標達成に向けて、中長期的視野に立ち多額のコストを払いながら、研究開発を行い、絶え間ない技術革新の成果を設備投資に体化させてきた。
環境税は、このように責任ある取り組みを行っている企業に対し、追加的なコスト負担を強いる。これは、将来の投資や研究開発の原資を奪い、自主行動の基盤を損ねるなど、温暖化問題の真の解決に逆行するものである。

(3) 効果に対する疑問

環境税の効果として、価格効果、財源効果、アナウンスメント効果を指摘する意見がある。
まず、消費者に対し価格効果が発揮されるためには、消費抑制を引き起こすような大幅な価格引き上げが必要である。また、効果を得るよう最終消費段階まで円滑な価格転嫁も必要となる。しかし、激化するグローバルな企業間競争の中で、価格の大幅な引き上げや転嫁は、実際上極めて困難である。一方、産業部門では、現在の高エネルギーコストのもとで主体的に生産の効率化、新技術の開発・導入に日々真剣に取り組んでおり、環境税によるコスト増大が追加的な技術革新を促すといった効果は考えられない。
財源効果と称して環境税を導入し、安易に補助金をばらまくことは、効果に疑問があると同時に行政の肥大化、非効率を助長するものであり、行財政改革によりわが国が目指すべき小さくて効率的な政府の実現とは相容れない。温暖化対策については、既存の1兆円を超える予算の効率的活用を考えるべきである。
さらに、アナウンスメント効果を新税導入の目的とすることは論外と言わざるを得ない。政府は、税や規制で国民のライフスタイルを変えるのではなく、初等中等段階での教育も含め、効果的でより社会的コストの小さい国民運動を真剣かつ継続的に展開すべきである。産業界もチームマイナス6%をはじめとする政府の取り組みに、引き続き協力していく。また、国民意識の向上の観点から、サマータイムの早期導入に向けた政府の取り組みを強く期待する。

4.終わりに

われわれには、次の世代に対し、環境と経済の調和の取れた持続可能で豊かな経済社会を引き継ぐ責務がある。その鍵を握るのは、民間の活力である。
京都議定書目標達成計画が閣議決定され、環境税を具体的施策として位置づけることなく6%(1990年比)の排出削減を行うための道筋が描かれた。
われわれに必要なのは、効果が無いばかりか、民間の活力を奪いかねない新税の導入ではない。目標達成計画が確実に達成されるよう、政府、地方自治体、国民、企業が一体となって自主的な行動の輪を広げることが何より重要である。
産業界はそのための努力を惜しまず、引き続き温暖化対策に主体的に全力で邁進していく。

以上

参考資料 <PDF>

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