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国民が納得して支える医療制度の実現

〜2006年度の医療制度改革に向けた日本経団連のスタンス〜

2005年10月14日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

わが国の公的医療保険は、国民皆保険とフリーアクセスという特徴を持ち、国民の健康を高める機能を果たしてきた。その一方で、現在は高齢化の進展やライフスタイルの変化に伴う疾病構造の変化、医療の高度化・複雑化や制度そのものが効率化に向けたインセンティブが働きにくい特徴を有していることなどから、給付費は伸び続け、制度存続の危機に瀕している。

日本経団連は2005年5月の意見書において、公的医療給付費の伸び率を適正化する手段として、個別課題ごとに国、地方自治体、保険者、医療機関、国民などが実施主体となり、到達目標と実施計画を策定、実行し、その評価を進めることを提案してきた。

今回の意見書では、公的医療保険の持続可能性を維持するために行なわれる2006年度の医療制度の抜本的改革を控え、「国民が納得して支える医療制度の実現」というスタンスを掲げてこれまでの提案を具体化している。

公的医療保険制度を支える国民一人ひとりにとって、これまで医療情報は遠い存在であった。医療機関に関する情報、診療内容の質、支払い費用の内訳等の情報の透明化が積極的に行なわれていない中で、国民はフリーアクセスの権利の下で十分な理解がないままに費用を支払い、結果的に制度の危機を招いてしまった。制度の存続の危機にある今、医療における情報の透明化を推進し、国民全体が納得した上で公的皆保険制度を支えていく仕組みに早急に改めていくべきである。

「政策目標」編では、マクロ的な観点から、本年末までに政府が策定する公的医療費の「政策目標」のあり方について、経済と整合する目標を設定し、それを制度的に担保する仕組みとして、アクションプランの作成とその実施状況を適切に管理することを提案している。

医療提供体制と診療報酬編では、アクションプランの作成・実施にあたり、その前提として、限られた財源の中で、効率的で質の高い医療を受けられるようにするために、医療制度をどのように見直していくべきかについて示している。具体的には、医療における情報の透明性を確保し、国民が病態に対して適切な医療サービスを選択して、効率的に一日も早く日常生活を回復できるような制度に改めるとともに、受けた医療サービスに対して納得して費用を支払える制度にすることを提案している。国民所得が伸びず、家計も保険財政も苦しい状況下で、国民の納得が得られる医療費に適正化しつつ、制度を維持すべきである。

医療保険制度編では、高齢者医療制度の創設と保険者の再編・統合などについて提案している。はじめに、高齢者医療制度については、保険者と被保険者である高齢者に効率化のインセンティブを持たせ、国民全体がその仕組みを理解・納得して支えることのできる制度の創設を求めている。具体的には、財政責任と権限を持った独立した保険者を設け、給付の平等・負担の公平の観点から、コントロールの効かない老人保健拠出金と退職者給付拠出金を廃止し、預貯金など資産をも考慮した世代間・世代内の応分の負担を確立することを提案している。

次に、保険者の再編・統合については、国民自身の健康管理に対する自助努力を公的医療保険に活かしていくことを基本的方向とし、責任と権限を委譲して、保険者の自主性・自律性を高める形で、保険者機能の発揮が保険料等に十分に反映できる仕組みの導入を求めている。最後に、公的医療保険の給付範囲については、支え手の納得感や安心感を得る必要があり、重点化などの見直しを行なうことも提案している。


「政策目標」 編
公的医療給付費の総額目標としての「政策目標」の設定

1.「政策目標」の必要性

わが国の公的医療保険制度は、皆保険の下、少なからず国民生活の安心や、将来の不安を和らげる役割を果たしてきた。今後もその役割は変わらないが、公的医療費は、高齢者医療費を中心に、将来にわたって経済成長を大きく上回って伸びていくと見込まれており、その持続可能性に重大な懸念が生じている。
公的医療保険制度は国民の経済活動で支えられており、保険料や税負担が上がり続ければ、企業のグローバル競争力の低下を招くとともに、個人消費や雇用にも悪影響を及ぼすなど、経済社会の活力低下につながる。また、国と地方をあわせた長期債務残高は、GDPの約1.5倍という他の先進国では類を見ない水準に達しており、ストックの面でも危機的な状況に陥っている。
こうした中、わが国は一刻も早く「小さくて効率的な政府」に転換する必要があり、公的医療保険もその例外ではない。
少子高齢化が進行する中でも、医療の高度化を推進しつつ持続可能な制度を構築するには、公的医療費の総額について経済と整合する「政策目標」を設定し、それを担保するアクションプランを定めて、適切に管理することが不可欠である。
政府においても、経済財政諮問会議等で目標管理の必要性が議論され、「基本方針2005」の中で、本年末までに具体的な措置と併せた「政策目標」を定めることとしている。

2.適正な公的医療費の考え方

公的医療費の「政策目標」策定にあたっては、公的医療の高い公共性を認識しつつ、現状の医療の非効率性・負担面(経済活力)・財政面・国民の健康意識などを踏まえた「適正な公的医療費」のあり方について、国民的コンセンサスを得ていく必要がある。
保険料や税財源に限りがある中では、公的医療保険制度は、相互扶助と「個人の自助」を基本とし、過剰・重複する部分を「効率化」するとともに、給付内容を、重度の病気やけがで生命や生活に支障がある人への医療サービスに「重点化」する必要がある。また、効率化・重点化の取り組みは、高まる医療ニーズに対して財源面の安定性を確保するとともに、医療サービスの質を向上させる取り組みと併せることにより、国民生活における不安を解消し、真の「国民の安心」の確保となる。
そうした「適正な公的医療費」を実現していくには、様々な関係主体の適正な役割について再確認し(下記参照)、「政策目標」及び「アクションプラン」の中で適切に位置付けることが重要である。

3.政策目標のあり方

(1)政策目標は絶対値目標で

政府が本年中に定める「政策目標」は、「適正な公的医療費」の実現に向けた効率化・重点化の取り組みにより達成しうる「公的医療給付費の総額目標」として位置付けるべきである。
政策目標については、実際の公的医療費との関係を中期的にみて検証する必要はあるが、必要な取り組みを強力に推進するために、毎年の医療費実績や景気の変動により目標とする数値自体が変わってしまう「伸び率目標」ではなく、「絶対値目標」が適切と考える。
目標とする期間は、2025年度を視野に入れつつ、経済・財政の状況が予見可能な5年を重点とし、アクションプランも含め各年にブレークダウンする。さらに毎年P-D-C-Aを回して、効率化効果の検証、フィードバックを繰り返すことにより、プランの精度を高めつつ、ローリングを行う。必要があれば、アクションプランを強化する。

(2)2010年度の公的医療給付費は30兆円以内に

具体的な「政策目標」の策定にあたっては、将来的にも潜在的国民負担率を50%程度に抑制するなど、既存の経済・財政政策の目標との整合を図ることが重要である。
日本経団連の試算では、2025年度時点で潜在的国民負担率50%程度を実現するには、公的医療給付費について、少なくとも厚生労働省試算による成り行きより「15兆円、25%」程度抑制することが必要である。このうち効率化で対応する部分は、トップランナー方式で考え、現在の都道府県別の一人当たり医療費格差を解消し、最も医療費の低い長野県並に全国を効率化した場合の水準である「10兆円、17%」を目標とすべきである。この場合でも「5兆円弱、8%」の重点化が必要である。
そして、今後の5年間については、高齢者層が急増する2010年代を控え、重点的に対応する必要があり、「成り行きに対し4兆円の抑制、給付費30兆円以内」が妥当な「政策目標」であると考える。

○「基本方針2005」では「政策目標」策定に関し、下記の考慮事項が掲げられているが、各々に対する我々の考え方は、次の通りである。
(国民が受容しうる負担水準)
全ての税・保険料負担も含めた「潜在的国民負担率」でみて、将来的にも50%程度に抑制することが政治的コンセンサスであり、国民への約束になっている。「公的医療費」も全体の方向性と整合させていくことが必要である。
(人口高齢化、医療の特性)
高齢化や医療技術は経済と関係なく高度化が進むなどの特性は、医療費増加要因として適切に加味した上で、公的医療費全体を適正化する。
(地域での取り組み)
地域医療計画の策定や予防事業の推進など、公的医療費効率化における地域の役割は大きい。様々な効率化目標設定において、地域の主体的な取り組みを促すには、最も効率的な取り組みを実施している地域(トップランナー)の水準を目標とすることが有効である。

4.政策目標実現に向けたアクションプラン

(1)責任主体が曖昧であった過去のプラン

これまでも医療サービス効率化の必要性は数多く指摘され、政府においても、「基本方針2001」で「医療サービス効率化プログラム」の実施が掲げられた。
しかしながら、そのほとんどにおいて未だ実効があがっていないのは、責任主体が曖昧であり、プランの中に、効率化全体のグランドデザイン、数値目標、期限、施策ごとの工程表がなかったためと考える。また、施策に必要な財源の確保が困難であったり、一部関係者の反対で計画通り進まない場合が多くみられたが、政府には代替案を示して理解を求めていくなど、責任を持った対応が見られなかった。

(2)集中改革5カ年計画の策定

政府は、これまでの取り組みを十分反省した上で、「政策目標」とそれを担保するアクションプランからなる「集中改革5カ年計画」を新たに策定すべきである。そこでは、医療費効率化や質の向上の目標を設定した上で、責任主体(国、地方自治体、医療機関等、保険者、国民・患者)、施策の優先順位、期限・改革工程を明確にし、パッケージで推進すべきである。
同計画を推進する仕組みは、次の通りである。

  1. 「政策目標」について、政府におけるコンセンサスを得る。
  2. 厚生労働省は、各実施事項の優先順位を明らかにし、事項ごとに中長期と短期の工程表を作成する。さらに、実現のために必要な法令改正、権限付与、財源負担者を明確化する。
  3. 工程表について、関係者の同意を取り付け、公表する。
  4. 各関係者は、各々の責任とされた取り組みの進捗状況について、半期ごとに報告・開示する。目標より遅れている場合は、その理由と対策を明確にする。
  5. 厚生労働省は、当該責任主体のみで対応できない問題等について、対策を立て、関係者と調整する。

(3)重点実施事項

「集中改革5カ年計画」では、様々な取り組みが求められるが、その中でも次の施策は、重点実施事項として位置付けて、いち早く取り組むことが重要である。

  1. ITを起爆剤とした医療の「透明化」「標準化」の促進、診療報酬の見直し
    疾病別・病態別の医療費データの収集・分析は医療の透明化、標準化や包括化に欠かせないことから、IT化を本格的に推進する必要がある。これにより、医療機関、薬局、保険者、患者等がネットワークで共有可能な「医療情報ネットワーク」を構築し、まずは公的病院、大学病院に加えて、地域で中核となる病院について、参画を義務化することを提案する。
    今次の診療報酬改定については、公的医療費の動向、経済・財政の状況等から本体部分のマイナス改定が不可欠である。全体のコストは抑えつつ、個別の項目については、効率的で質の高い医療を実現していくために、患者の視点等の観点から、簡素化、包括化を推進し、メリハリをつけたものとすべきである。

    医療提供体制と診療報酬 編参照)
  2. 高齢者医療制度の創設、保険者の再編・統合、公的給付範囲の見直し
    高齢者医療制度は、65歳以上の高齢者を対象として独立した保険者を設け、高齢者にも適正な保険料や自己負担(原則、入院2割、入院外3割)を求める。制度構築に際しては、医療費効率化を促す仕組みをビルトインすべきである。保険者の再編・統合については、責任と権限を委譲し、自主・自律性を高めるとともに、地域の実情にあわせた保健事業を充実、展開する必要がある。
    食費・居住費への給付は、在宅医療や介護保険との公平性の観点から、低所得者等に十分配慮しつつ、医療上必要なものに限定することが求められる。また、重度の傷病への資源配分を強化するためには、外来受診に保険免責制などの導入を検討すべきである。

    医療保険制度 編参照)

医療提供体制と診療報酬 編
国民や患者が求める効率的で良質な医療の実現

I.医療提供体制の改革

患者や国民が効率的で質の高い医療を提供する医療機関を適切に選択できるよう、透明性を高め、医療をわかりやすいものとすべきである。また、患者や国民により選択された医療機関同士がそれぞれの役割を明確にした上で、連携をしながら、限りある財源の中で医療資源を効率的に活用して、良質な医療提供体制を構築していくべきである。

1.医療における透明性の確保

(1)ITの活用による、医療の科学的な評価・分析と情報の公開

医療における透明性を高めるためにはデータの蓄積・分析と公開が必要であり、そのためには、カルテやレセプトの電子化は欠かせない。これらを活用し、科学的根拠に基づいた情報を公開していくことで、患者が納得して医療サービスを選択することが可能となる。その場合、医療機関側の積極的な参画と効率的で質の高い医療サービスを提供しようとする姿勢が求められる。
医療の質に関する科学的な分析は、医療の標準化を推し進める材料となり、正確な医療のアウトカムの評価、客観的な医療機関間の比較を可能とする。これは患者の適切な医療機関の選択の一助となる。
そのためには現行の診療報酬を大幅に簡素化し、電子レセプトに対応しやすいものとすべきである。その際、診療報酬業務の簡素化において大きな成果をあげている韓国の診療報酬体系を大いに参考とすべきである。IT化を促進していく際には、事務の効率化や安全性の向上に限らず、地域や国レベルで情報の互換性が確保されるようにハード・ソフトの両面から標準化を進め、医療機関・薬局・支払機関・保険者・患者等がネットワーク上で共有可能な「医療情報ネットワーク」を構築すべきである。この患者情報の共有化が進むことにより、地域における医療機関のスムーズな連携が可能となり、検査や投薬、受診の重複の是正など、医療の質を向上させることになる。
また、電子的に取得したレセプト情報を疾病動向の分析や疫学研究等に活用するなど予防医療による医療費の抑制を推進すべきである。
さらに、過去の病歴の管理や被保険者資格の確認が容易になることを考えれば、日本経団連が提唱している「社会保障・福祉制度に共通する個人番号制」について、この仕組みと連動させるべきである。また、患者・国民の利便性向上のため、社会保障全般のサービスに対応したICカードの導入が求められる。

(2)医療機関による情報の公表

医療はその専門性ゆえにわかりにくく、さらに、命にかかわるリスクの高い分野であることから、患者が医療機関の適切な選択を行なうためには、幅広い情報(例えば、治療実績、安全対策の実施状況、医師の略歴、医療機関の経営情報など)の公表が必要である。また、公的な社会保険によって診療が行なわれている保険医療機関は、国民や患者の信頼を確保するという観点からも、積極的な情報の公表が求められる。

(3)広告規制の撤廃

患者が十分な情報を得て自らの判断で病状に適切な医療機関を選択することを可能とするためには、広告を虚偽・誇大以外は原則自由にすべきである。これは、積極的に情報を提供していきたいという医療機関の努力を阻害しないためにも必要である。特に、治療成績などのアウトカム情報は、医療機関を選択する上で、患者が最も知りたい重要な情報であることから、客観性や検証が可能となるような評価基準等を国や公的機関は早急に確立すべきであり、それまでの間は、データや解説を付すことなどを条件に医療機関の自主的な判断に基づき、広告を可能とすべきである。

(4)医療行為についての透明性の確保

患者が納得して医療サービスを受けられるように、例えばクリニカルパスをわかりやすく活用するなどの手段が考えられる。また、新しい医療技術については、積極的に患者が活用できるようにすべきであり、医療機関は、保険給付と患者の自己負担を併用する「混合診療」について、2004年末から具体的に措置された内容を踏まえて情報を提供し、その拡大に向けて取り組む必要がある。
患者・保険者が納得して支払える仕組みとするためには、行なわれた医療行為と支払いの関係の透明性を高めることが不可欠である。そのためには、請求の内訳を記載した明細領収書を無料で発行することを医療機関に義務付けるべきである。その際、明細の項目は診療報酬点数表に則った記載とすべきである。同様に、レセプトの様式や記載要領についても改善していく必要がある。
また、患者に対するカルテの開示を推進するため、開示請求手続の簡易化を図るべきである。

(5)透明性の確保における保険者の役割の発揮

保険者は、医療行為の透明性確保において、その果たす役割も大きいことから、レセプトの電算化の推進、オンライン請求の実現に向けて政府や医療機関等に強く働きかけるとともに、レセプト開示手続を簡易化し、被保険者に対してレセプト開示の方法とその意義を周知するなど、被保険者に対する積極的な情報開示を推進すべきである。
また、保険者は蓄積された健診結果やレセプトデータを活用して医療の適正化に積極的に取り組む必要がある。その前提として、レセプトの電算化、オンライン請求の実現、健診結果等関係書類の標準化については、医療機関から保険者まで一貫することが求められる。

2.医療機関に求められる機能の明確化〜機能の分化と連携の促進〜

(1)患者の病態に応じた医療提供

患者が自らの病態に応じて、効率的に質の高い治療を集中的に受けられるよう、各医療機関の役割を明確にすべきである。診療所は全人的に患者の症状を判断し、必要があればさらに、高度な医療を提供する病院に紹介するという一連の流れを構築することが求められる。さらに、入院医療を中心に行なう病院については、急性期や慢性期などそれぞれの機能に特化することでその役割を明確化していくべきである。
19床以下の診療所における入院について、基本的には、人員の配置や構造設備等も含め、病院並みの入院医療を提供できる診療所も病院として位置づけ、そうでない診療所については無床の診療所とすることで、本来の診療所と病院の機能面での役割分担を明確にすべきである。
このような機能分担と連携を効果的に推進するためには、電子カルテ等によって構築される「医療情報ネットワーク」を連携の基盤として位置づけ、構築すべきである。医療機関全体への展開を視野に、まずは公的病院、大学病院に加えて、地域で中核となる病院について、本ネットワークへの参画を義務化することを提案する。
また、患者の日常生活の質の向上の観点から、医療機関で入院をせずにすむ患者に対しては、在宅での医療を選択できるような環境の整備も必要である。
さらに、病態に応じ、本人の意思に基づき、家族の同意の上で、延命治療を望まないという選択も尊重すべきである。

(2)地域実態にあわせた医療提供体制の構築

各医療機関の連携は、地域住民にあわせた形で行なわれる必要があり、そのために、都道府県はレセプトデータ等を活用した上で地域内の疾病動向の把握や分析を行なうことが求められる。把握した情報をもとに、都道府県は不足する機能の充実と過剰な機能の適正化を図るために、国の定める「政策目標」と整合的な数値目標の設定と目標達成のための計画を策定し、その進捗状況を随時チェックし、住民に公表していくことが必要である。都道府県が策定する地域医療計画、医療費適正化計画(今次改革により策定予定)、健康増進計画、介護保険事業支援計画、地域福祉支援計画などの施策は、相互に連携するとともに、「政策目標」と十分な整合性を図ることが求められる。
そのために、例えば、現在、厚生労働大臣の委任により地方社会保険事務局長が実施している保険医療機関の指定・取消し等について、都道府県知事が主体的に地域住民の声も反映させながら地域の実態を踏まえ、指定・取消し等を行なっていく仕組みも検討すべきである。さらに、地域の実態に応じた体制の構築においては、真に入院治療を必要とする患者がより密度の濃い医療を受けられるよう、各医療機関の役割分担を行なっていく中で、病床数を適正な水準へと収斂させていくべきである。その際、既存の許可病床を既得権化せずに、随時、新陳代謝が行なわれるようにすることが必要である。
また、株式会社も含めた多様な主体による医療経営を可能とし、患者の選択の幅を拡大して、その選択を通じ、優良医療機関が生き残り、そうでない医療機関が淘汰されることでより質の高い医療提供体制を構築していくべきである。

(3)地域における患者の支援

都道府県は地域医療の推進役として、地域内の医療機関情報を地域医療計画を通じて住民に積極的に提供していく必要がある。併せて、電話相談などの事業を通じ、適切な受診を促すとともに、場合によっては患者が医療機関に行かなくても安心できるようなサービスの充実を図るべきである。例えば、山間僻地における遠隔医療の提供などを行なうべきである。
また、保険者は被保険者のエージェントとしての機能を最大限に発揮し、優良医療機関についての情報提供や医療機関から提供される情報の読み方について情報提供を行ない、被保険者が最適な選択をできるように支援すべきである。
なお、地域内で連携の推進役として位置づけられる中核的な病院については、地域医療に対する積極的な貢献などが求められることから、「医療情報ネットワーク」の中核になることに加えて、救急医療・不採算医療の提供や、地域住民に対する医療・健康管理に関する情報提供などの実績を積極的に評価していくべきである。

3.医療における安全対策

患者が安心して医療を受けられるよう、医療機関が安全対策を講じることは当然の責務であり、その費用は医療機関が独自で負担すべきである。講じている安全対策や日中・夜間別の実際の人員配置状況、医療事故情報など、患者がより安全な医療機関を選択できるように情報の公表が医療機関には求められる。また、医療事故に至らないヒヤリ・ハット事例についても蓄積・分析し、事故防止策を講じる必要がある。
医療事故防止の観点からはさらに、医療関連死に関する中立的な専門機関による調査(診療上の問題点と死亡との因果関係)を制度化すべきである。また、医師の質を確保するためには、保険医登録の更新制を導入するなど定期的にその適性をチェックする手段を講じる必要がある。

II.診療報酬の改革

限られた財源の中で行なわれる診療報酬の改定は、地域における機能分化と連係を進め、明確な役割意識に基づいて、患者に効率的に質の高い医療を提供する医療機関等を評価する内容としていきたい。
これまでの診療報酬改定は、一定の政策誘導や医療機関の収支改善等を目的とした項目が多く、患者にとって極めて複雑で理解しがたいものとなっている。また、提供している医療の質が評価される仕組みとなっておらず、効率的に質の高い医療を提供しようとする医療機関等にインセンティブが働きにくいものとなっている。
そこでこれまでの反省を踏まえ、まず短期的な診療報酬の見直しとしては、国民からみて機能の差がないにもかかわらず、その時々の医療政策課題の実現のために点数の差が設けられてきたものについて、一度格差を是正し、わかりやすいものとしていくべきである。
さらに、中期的には、診療報酬を医療機関等の機能や提供される医療サービスの質に応じて評価していきたい。そのためには、データの蓄積・分析を進め、患者の症状に応じた包括支払方式を推進することやアウトカムに応じて評価することなどの見直しが必要である。

1.簡素化の推進

(1) 初再診料の格差の是正

病院と診療所の初診については、本来機能が異なるべきと考えるものの、現状においては大きな違いがみられない。このため、当面は初診料の格差を是正すべきである。また、再診料については、過剰な検査を減らし、医師の技術の評価を適切に行なうためにも、現行の200床以上病院同様に包括化を進めつつ、病院と診療所、病院の規模間にある格差を是正すべきである。
中期的には、外来機能における診療所と病院の機能を機能分化の面から見直し、その役割にふさわしい評価を検討する必要がある。その際、現状の初再診における特定療養費制度を含めて見直すことも必要である。

(2)診療情報提供料の一本化

医療機関の連携の際に発生する診療情報提供料は、医療機関の規模が異なれば、金額が異なるという面で、複雑でわかりにくい上、患者の自己負担を引き上げる仕組みとなっている。医療機関の連携を推進することは当然のこととして、診療報酬上の評価は紹介の事務コスト程度に引き下げて一本化すべきである。

(3)医薬分業の見直し

患者による薬剤選択の実現等のために、処方せんに代替調剤が可能な場合のチェック欄を設けるようにすべきである。また、患者からみて、薬を処方してもらう際に、院内であっても院外であっても、手数料は同じとすべきであり、患者負担を引き下げる形で処方料と処方せん料を一本化する必要がある。同様に、薬を調剤してもらうことにおいて、その費用が薬局によって異なるべきではないことから、保険薬局に支払う調剤基本料は、引き下げる形で一本化する必要がある。
さらに、慢性疾患など服薬のみで治療の継続が可能な場合に、1回発行された処方せんで、医師の認める回数内であれば薬剤師の管理の下で繰り返し医薬品を受け取れる仕組みを導入すべきである。

2.包括化の推進

(1)再診料の包括化

再診料については、過剰な検査を防ぐことと同時に、医師の技術を適正に評価するためにも、現行の200床以上病院の「外来診療料」と同様に検査・処置の一部を包括化したものに一本化すべきである。また、外来管理加算と継続管理加算については、患者が理解しにくい制度であることから、廃止し、包括の範囲とすべきである。

(2)生活習慣病指導管理料の見直し

生活習慣病の悪化を防ぐために、現行2種類ある生活習慣病対策のうち「特定疾患療養指導料」を「生活習慣病指導管理料」に一本化した上で点数は現行よりも引き下げ、患者が活用しやすいようにすべきである。また、治療の計画や、その実施状況に加え、患者の病状について、保険者に報告する仕組みを設けることにより、保険者と医療機関が連携して重症化予防を推進できるようにすべきである。

(3)入院医療における包括化の推進

入院医療については、データの蓄積を推進し、患者の疾病に応じた評価としていくために、現行のDPCの対象をデータ提出が可能な医療機関に拡大すべきである。これは、患者にとってわかりやすい医療を実現することにもつながる。また、DPCの対象となっている医療機関の情報を公開して、様々な主体によってデータの分析を行なうことが可能な仕組みとすることも医療の質の向上のためには重要である。
また、慢性期入院医療についても、患者の症状に応じた包括支払方式に改めるべきである。その際、症状と支払い分類がマッチしているかどうかアセスメントが可能な仕組みを設けることが不可欠である。


医療保険制度 編
医療費効率化を促す高齢者医療制度と活力ある保険者の実現

I.高齢者医療制度の創設

医療費の中でも特に、急増する高齢者医療費の効率化・重点化が重要な課題である。現行の老人保健制度では、財政責任を負う保険者がなく、高齢者にとっても保険料負担と給付が連動していない。このため、医療費効率化のインセンティブが働かないまま、各医療保険者に対して老健拠出金の負担が求められている現状がある。
国民が高齢者医療制度を納得して支えるようにするためには、高齢者を対象とした独立した保険者を設け、そこに責任と権限を移譲するとともに、高齢者にも適正な保険料や自己負担を求めて、効率化を促す仕組みを制度内にビルトインする必要がある。

1.独立した保険者を創設し、効率化を進める

高齢者医療制度の保険者は地域保険として、高齢者にとって身近な市町村を軸に広域化された形態とすべきである。地域の被保険者に密着した様々な活動を通じて、地域の高齢者医療費の効率化を進めることが可能となる。例えば、当該地域の被保険者への生活習慣病予防のための健康指導や、高齢者の地域での活動の場の提供等、高齢者の健康や生き甲斐にも資する活動なども積極的に行なうことができる。
また、高齢者にとっても、主に市町村を単位とする生活圏で暮らしていることから、保険者が身近にあれば、健診や健康指導、医療機関選択のアドバイス等を受けやすく、また、保険料負担と給付の関係を容易に認識することができると考える。

2.被保険者の対象年齢は65歳以上

公的年金の受給開始年齢や、介護保険の受給対象年齢との整合性を勘案すれば、65歳以上の高齢者を一括して被保険者とすべきである。
75歳を境目に前期高齢者と後期高齢者に分けることに伴い、高齢者における給付と負担の仕組みに差異を設けることは、納得性がないだけではなく合理的でもない。効果的な疾病予防や健康管理を進めるには、高齢期を通じて継続的・一体的に考える必要がある。

3.給付財源は、高齢者保険料、公費、若年者からの支援の組み合わせで

(1)全ての高齢者に保険料負担を求める

これまでの社会保障は、その多くを現役世代の支援によって支えられてきたが、少子高齢化の急速な進展の中で現役世代の負担余力は少なくなってきており、このままでは制度を支える基盤そのものが崩壊しかねない。
高齢者を一律に「弱者」と捉えるのではなく、高齢者の世代内での支え合いの視点も必要である。全ての高齢者が、預貯金なども考慮に入れた上で負担能力に応じて保険料を負担する制度とし、年金から徴収できるようにすべきである。また、保険料負担を通じて、給付の効率化に向けた問題意識を醸成する必要がある。

(2)公費は給付費の5割以上に引き上げる

高齢者医療制度は、効率化を進めるとしても、高齢者の保険料のみで賄うことはできず、全ての国民で支えることが不可欠である。その財源は、公平・公正に支えるために、原則、税を中心とすべきであり、今後の消費税の引き上げを含む税・財政の一体改革の中で、必要な財源を確保しつつ、公費負担割合を少なくとも5割以上に引き上げるべきである。

(3)若年者(65歳未満)からの支援

公費財源の限られた現状においては、ある程度の現役世代からの支援は避けられない。負担の分担に際しては、一定のルールを定め、負担の決定の際には負担者も関与できるような仕組みを設けるなど、現役世代を含め、関係者の十分な合意を得た上で負担を求める必要がある。
若年者からの支援は、高齢者医療費の適正化を大前提として、65歳以上の高齢者と一定年齢以上65歳未満の若年者との人口比に応じて分担する仕組みとすべきである。その際、一般医療保険者における若年者への生活習慣病対策などの実施状況を勘案する必要がある。具体的には、保険者が有効な生活習慣病対策などを積極的に実施する上でのインセンティブを与えるために、若年者からの支援金を増減するなど保険者間に競争原理が働く仕組みを設けるべきである。
また、一般医療保険者の間での財政調整は行なうべきではない。各保険者ごとに保険者機能発揮への取り組み度合が異なる状況下では、新たな財政調整の仕組みを設けても真に公平な負担は達成されず、むしろ保険財政の運営に対するモラルハザードを招くだけである。

(4)公費等の配分方法は予算制で

保険者による医療費効率化の取り組みを制度面からも後押しし、各保険者の医療費効率化へのインセンティブを働かせる意味でも、公費と若年者からの支援金については、実際の給付費の一定割合ではなく、あるべき給付費を念頭に予算制による配分とすることが必要である。

4.一部負担割合の見直し

真に必要な医療サービスを確実に確保していくためには、限られた財源をより有効に活用する観点、また、高齢者のコスト意識の喚起の観点から、低所得者等に対する十分な配慮をした上で、患者の一部負担割合を引き上げる必要がある。具体的には、若年者が既に3割負担に統一されていることも踏まえ、原則として入院2割負担、外来3割負担とすべきである。

5.その他

高齢者の病態を踏まえれば、診療報酬体系について、一層の包括化は必要不可欠である。

II.保険者の再編・統合

保険者の再編・統合を進めるに際しては、被保険者にとって保険者が「身近な存在」になるような視点が不可欠である。「身近な存在」とは、保険者からの働きかけによって左右される感覚的な距離を意味するものであり、その距離を短くするためには、保険者の自主的な判断により柔軟な対応を図ることができる環境づくりが求められる。
若年者(65歳未満)の保険者については、(1)医療費の適正化など保険者機能が発揮できる規模であり、(2)運営責任と財政責任を一体とした主体となるよう、組織・ガバナンスの改革・強化を図る必要がある。特に保険者として、医療機関へのチェック機能を高めることが求められており、医療機関との直接審査・支払や直接契約の実施などを進めるべきである。また、保険者には、例えば生活習慣病対策をはじめとして、疾病予防や健康増進などへの積極的な取り組みが求められることから、健診受診率の引き上げや健診後の事後指導(保健指導)を徹底するとともに、地域の実情にあわせた保健事業を充実、展開する必要がある。その際、保険者協議会が実施する共同事業を活用することも選択肢の一つである。また、すでに述べたように、一般医療保険者における保健事業の実施状況を勘案して、高齢者医療制度における若年者からの支援金を増減するなどインセンティブを与える仕組みが求められる。
さらには、医療情報の提供などを通じて、被保険者の最適な医療サービスの選択が可能となるように支援すべきである。
そのためには、手続きの簡素化、組織の集約化、業務の外部委託化が促進されるように規制緩和を一層図り、責任や権限を委譲することが求められる。なお、保険者の再編・統合に伴って、医療保険者の自主・自律性を損なうような形での財政調整の仕組みを導入することについては、容認することができない。

1.健保組合

健保組合は基本的に自主、自律、自己責任の原則で運営されており、再編・統合については、健保組合の個別判断に委ねるべきである。安易な再編・統合は、健保組合が果たしてきた保険者機能を歪めることになりかねないので、行なうべきではない。
また、解散する健保組合に対しては、受入れ先の保険料率の高さ、提供サービスの内容や水準などを勘案して、同一県内に複数設立の場合、どの地域型健保組合に加入するのか、また、地域型健保組合と政管健保のいずれに加入するのかなど、選択権を付与すべきである。

2.政管健保

政管健保の再編を検討するにあたっては、現行の全国一本の組織に比べて、管理・運営コストが増えないことが前提であり、無駄遣いは排除し、効率化を進めることが求められる。財政運営は支部単位とし、その規模は、(1)加入者数が少ないことで財政の不安定問題が生ずるおそれがあること、(2)受療動向を考えれば近隣県にまたがる場合もあることから、県単位かブロック単位かの選択制を導入することが必要である。
支部ごとに保険料率が設定できる仕組みを導入し、その際、支部間の財政調整については、年齢構造の格差調整に限って認めるべきである。また、現行の国庫補助については、継続することとし、保険者の効率化努力を促す仕組みとするためには、予算制など公費の配分方法を工夫すべきである。

3.国民健康保険

市町村国保は、国保財政が比較的健全である中核的な市が存在する形で広域化を進め、地域保険者として積極的な役割を担うべきである。
国保組合については、公平性や納得性の観点から国費投入の是非を判断する必要がある。被保険者の所得状況を勘案して、国庫補助をなくすか、現行よりもその割合を引き下げるべきである。また、機能・性格からみて被用者保険と同じとみなせる場合には、被用者保険への転換を促すことについても検討することが求められる。

III.公的給付範囲の見直し

限りある財源を考えれば、医療給付費の重点化は不可欠である。また、現金給付については、現金給付全体の中で、スクラップ・アンド・ビルドすることは必要であり、その中で、目的と効果を勘案し、優先順位をつけて判断すべきである。

1.食費・居住費

年金給付と医療給付との調整、在宅療養と入院における患者負担の公平性、さらには、介護保険との整合性を考えれば、食費・居住費の自己負担化について検討する必要がある。具体的には、医師の指示に基づいて提供される入院時の食事については、治療食の範囲として保険給付すべきであるが、それ以外は、自己負担とすべきである。また、入院時の居住費(室料)については、少なくとも療養病床においては原則的に自己負担とすべきである。いずれの場合にも、低所得者等への十分な配慮が求められる。

2.保険免責制等

医療資源を真に必要な患者へ重点的に投入するためには、保険免責制を導入すること、また、自己責任による予防効果が期待できる生活習慣病など疾病によっては自己負担率を引き上げることなどを検討すべきである。

3.高額療養費

高額療養費制度では、家計への影響を考えて一カ月当りの自己負担限度額が設定されており、現行では月収の25%相当となっている。高額療養費については、医療サービスを受けていない者との公平性などを勘案して、見直しを検討すべきである。

4.出産育児一時金・出産手当金

出産育児一時金(現行30万円)の増額については、実施した場合でも少子化対策としての効果は薄く、現在の厳しい医療保険財政を踏まえれば、慎重に考えたい。また、保険料等を財源に補填されている現状を踏まえれば、出産費用の保険給付化についても慎重に考えたい。
出産手当金についても同様に、現行の給付水準を維持すべきであると考える。

5.傷病手当金

傷病手当金は、1日につき標準報酬日額の6割相当額が支給されているが、家計調査の結果では、衣食住の基本的な支出が報酬の4割強となっており、財政効果などを踏まえて見直しを検討すべきである。
一方、任意継続被保険者への支給の場合、被保険者期間が最短で2カ月であるにもかかわらず、最長で1年6カ月の間、受給できる不合理な仕組みになっていることから、廃止もしくは給付要件の見直し(例えば、被保険者期間に応じて受給期間を設定することなど)が必要である。

6.埋葬料

埋葬料(現行、標準報酬月額相当)は、保険給付する必要性が薄くなっていることから、廃止を含めて見直すべきである。

以上

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