わが国のエンターテインメント・コンテンツ(以下コンテンツ)産業は、アメリカに次ぎ世界第2位となる13.3兆円の市場規模を有し #1、日本経済の持続的発展を支え、国民に心の豊かさをもたらす産業としてますます重要になっている。他方、わが国のコンテンツ産業の市場規模は、GDP比率では2.3%を占めるに過ぎず、アメリカの4.6%、世界平均の3.3%と比べても低く #2、潜在的な成長可能性を秘めていると考えられる。
近年、ハードの技術革新の加速化やユビキタス化の進展、利用者ニーズの多様化等、わが国コンテンツ産業をめぐる環境は劇的に変化している。こうした環境変化を捉えた新たなビジネスモデルが徐々に現れてはいるものの、新規投資等に伴うコストを回収し収益を得るだけの市場規模を顕在化させ、一つのビジネスモデルの成功がさらなる新規参入を促し、コンテンツ・ビジネスの飛躍的拡大を実現するには至っていない。
コンテンツ・ビジネスの飛躍的拡大に向けた好循環を達成するためには、ユビキタス時代にふさわしい法整備や行政改革等が求められる一方で、豊かな創造性をもちクール・ジャパンの象徴であるソフト業界と、世界に類ない技術力をもつハード業界、さらには世界的にも最高水準の通信サービスを提供するキャリア等の幅広い関係者が、それぞれのビジネスモデルや課題について相互理解を深め、国際展開をも含めた市場全体の拡大に向けユーザー・ニーズに応える形で共に発展する新たなビジネスの将来像を描き、連携していく必要がある。これまでもこうした幅広い関係者による対話の必要性が説かれてきたものの、その機会は乏しく、対話の充実・整備が求められていた。
そうした状況の中、日本経団連では2004年8月より、ソフト、ハード、キャリア等コンテンツ関連企業のトップによる「エンターテインメント・コンテンツ関係者連携に関する懇談会」を設置し、相互理解を深め、コンテンツ・ビジネスの将来像等について議論を重ねてきた。こうしたコンテンツ関係者による連携は、民間の場で自主的に進められてこそ意義があり、同懇談会の取組みは、政府においても有意義な成果を示すことが期待されているところである #3。
そこで、本提言では、同懇談会におけるこれまでの議論の成果をもとに、今後3年から5年を視野に、ユビキタス社会におけるユーザーのニーズと権利者の保護のバランスを図りつつ、ソフト・ハード・キャリア等の連携による新たなビジネスモデル構築に向けた課題を整理し、今後の協力方策について提案することとする。
メディア端末の技術革新やネットワーク化・ブロードバンド化は目覚しく、ユビキタス化が急速に進んでいる。こうした動きは今後3〜5年でさらに加速することが予想され、新たなビジネスモデル構築に際しては、こうした環境変化を的確に見極め、前提とする必要がある。
メディア端末の技術革新は目覚しく、デジタル化、ハイデフィニション(HD)化等に伴う高性能化・高機能化により、コンテンツの創造・保護・活用のあらゆる側面において大きな環境変化をもたらしている #4。こうした傾向は、ネットワーク化によるインタラクティビティ(双方向性)の付与と相まって、今後さらに顕著なものとなり、現状のビジネスモデルに大きな影響を与えるものとなる。
他方、こうしたメディア端末の技術革新がユーザーの利便に即するためには、使いやすいユーザー・インターフェースの構築が不可欠である #5。パソコンに比べ操作がシンプルな情報家電は日本が競争優位を持つ分野であり、新たなビジネスモデルを世界に発信する際の有望な媒体となり得る。
わが国の高速・超高速インターネット加入者数は2005年9月時点で2148万人に達し、わが国の通信サービスは通信速度や利用料金を含め、世界的にも最高水準にある #6。また、電力線を通信インフラとして活用する電力線搬送通信(PLC)等新たな動きもある。さらに、高密度化したブリッジメディア、パッケージメディアも端末間を結びつける媒体として機能しており、これらを相互に融合させ付加価値の高いサービスを提供するモデルも登場している。こうしたブロードバンドの普及や記録媒体の高密度化等により、高性能化したメディア端末同士がネットワーク化されることでユビキタス化が進み、いつでもどこでもコンテンツを楽しめる環境が整備されつつある。
こうした傾向は、IPv6 #7 や次世代基幹ネットワークNGN(Next Generation Network) #8 等の本格導入によってますます顕著なものになり、将来的にはユビキタス・ネットワークが前提のビジネスが展開されることになる。
メディア・ソフト市場は、近年、約12兆円から13兆円規模で推移している。一次流通市場が縮小する中、マルチユース市場は2003年までの3年間、年平均2000億円ずつ拡大しており #9、コンテンツのマルチユースは拡大傾向にある #10。
メディア端末の高性能化やブロードバンド化は、コンテンツとメディアの分離を促進し、マルチユース、すなわち収益機会の拡大に寄与しているとも言え、わが国のコンテンツ・ビジネスが飛躍的に発展できるか否かはマルチユースの展開如何による。メディアの違いによる流通の垣根は年々低くなっており、マルチユース拡大に向けたさらなる環境整備が求められる。
コンテンツ・ビジネスをめぐる環境が大きく変化する中、こうした動きを捉えたビジネスモデルも登場している。これらは、ユビキタス時代における新たなビジネスモデル構築に向けた課題や成功要因を明らかにしている。
携帯電話におけるコンテンツ・ビジネスは、ハードの技術革新とプラットフォームの整備、魅力あるコンテンツの提供が緊密に連携し結集したWIN−WINモデルの象徴的事例である。
CD音源を活用する「着うた」のビジネスモデルは、端末の高性能化やブロードバンド化を前提に、コンテンツ・ホルダーの要望に応える形で、コピー問題への対応、課金の確実性・簡便性の確保、価格設定の独立性の担保をビジネスモデルに組み込んだ #11。その結果、レーベルの枠を超え多数の楽曲を提供することが可能になり、ユーザーへの魅力を高めることに成功した。
また、本年4月からサービスが開始されたワンセグ放送に先立ち、FM放送を受信できる携帯電話も販売されている。これは通信と放送の連携によるサービスの先駆けとも言え、双方にメリットのある連携が実現している #12。メディア間の連携によりビジネスの相乗効果を目指すことは、新たなビジネスモデル構築に向けた最重要課題の一つであり、携帯端末は、コンテンツ・ビジネスにおいて今度極めて重要な役割を果たし得る。
さらに、携帯電話は、コンテンツ・ビジネスのみならず、認証、課金、配信、セキュリティ等ネットワークビジネスにおけるプラットフォームを提供する機能を果たしつつあり、日常の生活インフラとしての性格を強めている。
音楽は映像コンテンツに比べデータ量が少ないことから、比較的早い段階からパッケージのデジタル化、ネットワーク配信が進み、映像コンテンツに先行する形でビジネスモデルが確立された。
特に、アップルの「iPod」は、通信事業者ではなくハード・メーカーが主体となってユーザーの立場から作り上げた新たなビジネスモデルである。アップルは「iPod」端末そのものを収益モデルにたてており、コンテンツから得る収入(コンテンツ料金)は極めて低額に抑えている。同時に、流通主導による低価格設定、比較的制限の緩いDRM(デジタル著作権管理 Digital Rights Management)の採用等、ユーザーにとっての使い勝手の悪さを極力排除する形で成功を収めた #13。これらは、コンテンツ・ホルダーにとって必ずしも受け入れやすいものばかりではないが、ユーザーの利便性と権利者の保護のバランスの中で、ユーザー重視の姿勢を強く打ち出した結果と言える。
また、音楽では、ユーザーによるプレイリストづくり、ポッドキャスティング、マッシュアップ等、ユーザーが参加する時代になりつつある。こうした動きは、今後映像コンテンツにおいても生じる可能性が高く、音楽を先行モデルケースとして検討することの意義は大きい。
本年4月より、放送と通信の双方の特徴を併せ持つ地上デジタル放送の携帯端末向け「ワンセグサービス」(ワンセグ放送) #14 が正式に開始された。潜在的には1,000万人規模の市場があり、本格的に普及すれば新しいメディアになる可能性は高い。当面は、完全サイマル放送 #15 でユーザーに定着するのを待つことになろうが、ワンセグ放送にふさわしい新たなビジネスモデルが構築できれば、コンテンツ・ビジネスの飛躍的拡大の起爆剤となり得る。また、ワンセグ放送の特徴たるデータ放送については、市場規模が大きくなりコストに見合うようになれば、新たな連動型データ放送も現実味を帯びてくる。その意味で、ワンセグ放送は、放送と通信の連携によるビジネスモデルの試金石となる。
同時に、まだ検討段階を脱していないサーバ型放送 #16 についても、ふさわしいコンテンツやビジネスモデルについて検討を促進することが求められる。
ゲーム業界は、従前よりハードのスペックに合わせてソフトを開発しており、ソフトとハードの対話が緊密に行われてきた業界である。
近年は、様々な端末の性能向上により、既存ゲームソフトが利用可能になり、ソフトの水平展開が拡大してきている。一方、放送業界と同様、HDコンテンツの制作費高騰が問題になってきており、魅力あるコンテンツとして、AV機器普及を牽引しつつ、ゲーム業界全体では、新たな収益モデルの模索が始まっている。また、オンラインゲームに象徴されるように、ソフト、ハード等が一体となってコンテンツへのアクセスを可能にする環境を構成するようになったほか、ユーザー同士のやりとり自体がコンテンツになる状況が生まれている。
こうした新たなコンテンツの創造形態は、著作権法では必ずしも想定されていなかったため保護する仕組みが弱く、新たなビジネスモデル構築に向けた障害にもなっている。
パソコンを端末とした映像配信サービスの登場は、コンテンツ・ビジネスの新たな形を提示する一方で、ユビキタス時代におけるコンテンツの利活用に係わる課題も浮き彫りにしつつある。
広告収入型のインターネット無料映像配信「GyaO」は2005年4月開局後、1年足らずで800万ユーザーに達した #17。「GyaO」はネットワーク事業者やISPを問わず全てのブロードバンドユーザーが利用できる極めてオープンな事業モデルをとっており、クローズドな会員サービスの一環としてコンテンツが提供されるビジネスモデルとは一線を画すものである。既存の放送メディアのマス性には及ばないものの、それを補完する特定ターゲットを狙った雑誌のような位置づけとしてインタラクティブ広告やセグメント広告が可能であり、既存メディアとの相乗効果をもたらすことも期待されている。その成功によっては、映画上映、DVD販売の次のウィンドウと位置づけられる可能性もある。
その一方で、「GyaO」のような映像配信やファイル交換(P2P)ソフト #18 の普及によりトラフィックが急激に拡大しており、これまで以上に通信インフラが強化される必要がある一方、その費用分担についても議論がある点は留意する必要がある。また、ブロードバンドユーザーに映像を配信するサービスのさらなる充実に向けては、CODEC(coder/decoder) #19 やDRM等のさらなる技術革新が求められる。
ユビキタス時代にふさわしいビジネスモデルを実現するためには、ユーザー、クリエイター、権利者、事業者等幅広い関係者が共生できるような基盤を整備することが不可欠である。とりわけ、法制度や流通プラットフォームの整備はその中核であり、関係者のオープンな議論や市場での競争により関係者の納得のいくバランスのとれたものにする必要がある。
いわゆる放送と通信の垣根の整理
IT技術の発展や端末の進化により、放送と通信の垣根はユーザー側には見えなくなっており、ビジネス実態上も連携・融合が進みつつある。きたるべきIP化時代を見据え、放送や通信をめぐる法制度や行政組織、競争政策等についての抜本的な議論を行い、新たな制度整備を図るとともに、事業者においても放送と通信の連携によるシナジーを発揮しユーザーの利便に即した新たなビジネスモデルを実現していくべきである。
IPマルチキャスト #20 の本格的活用が予想される中、当面の課題としては、政府は、総務省情報通信審議会および文化庁文化審議会著作権分科会の審議や国際的な動向等を踏まえ、幅広い関係者の参加のもと、IPマルチキャストによる放送の同時再送信に関する著作権法上の扱いについて早期に明確化すべきである。
著作権法の見直し
現在、著作権は、権利の保護を図りつつ文化の発展に寄与するだけでなく、適切な利活用を通じてわが国経済の発展に貢献する役割を担っているが、デジタル化、ネットワーク化の進展に伴い、現行の著作権法では想定されていないコンテンツの利活用の形態も生まれている。また、オリジナルと全く同じコピーを複製し、ネットワークを通じて公衆に送信することも容易になっている。
インターネットにおけるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス) #21 やブログ等新たなWEB技術を活用したサービス #22 は、従来に比べて極めて動的なものであり、ネットワーク効果を活かしたユーザー参加の視点が強い。マッシュアップのような既存のコンテンツの組み合わせにより新たなコンテンツを創造する手法も出てきており、組み合わせる際の権利処理について議論があると同時に、創造された新たなコンテンツの著作権上の権利者を特定しきれない実態もある。インターネット掲示板から生まれた「電車男」の著作権も法的には明確ではなく、こうした新たな創造形態に関する著作権法体系への対応の遅れは、情報産業全体に関わる問題となっている。そうした中、米国ではクリエイティブ・コモンズの概念の元、Some rights reservedという形で、権利者が著作物の改変可能な範囲を指定する等の契約ベースで対応する動きもある。
また、現状の制度では、著作物として保護されるためには固定化されていることは必ずしも必要でない(映画は除く)が、有体物としてのメディアに固定することでより保護されやすくなることは事実であり、固定されたメディアによって保護の方法が決まってくる。そのため、オンラインゲームにおける世界観のような抽象的な概念や日々更新されるコンテンツ等はメディアに細かく固定する必要がある。
加えて、著作権においては、著作物の利用に関する一般的な権利が法律上規定されていない。今後、著作権ビジネスを発展させていく上では、法的に明確な位置付けがなされた著作物の利用(アクセス)に係わるルールを整備していくことも必要である。
そのため、権利者の保護とユーザーの利便性のバランスに配慮しながら、ユビキタス時代におけるコンテンツ・ビジネスの健全な発展に向けた、諸外国のモデルとなり得るような新たな著作権法体系の構築に向けて国民的議論を推進すべきである。
同時に、インターネットを通じ内外のサイトへのアクセスが自由に行われる中で、著作権の準拠法についても混乱が生じている。諸外国との著作権係争に係わる制度や、国際的な係争処理の仕組みについて整備が望まれる。
さらに、映像情報のデジタル化が進む中、IP網を利用したリモートコントロール録画サービス等が登場する一方で、衛星・地上デジタル放送では録画からの複製を技術的に制限する等、個人の私的使用が本来的にどこまで認められるべきかを問われる状況も現れている。コンテンツ流通の拡大のためには、明確なルールを整備することが必要であり、政府は、コンテンツに認められるべき私的使用の範囲を明らかにすべく、国際条約との整合性、技術的保護手段やそれを活用した契約との関係を踏まえつつ、権利者、利用者その他利害関係者による根本的な議論を促進すべきである。併せて、私的録音録画補償金制度についても、私的録音録画に関する法的枠組みを抜本的に見直し、具体的結論を得るべきである。
シームレスでグローバルなコンテンツの流通環境の整備は、ユビキタス時代のコンテンツ・ビジネスにおいて最も重要な基盤の一つである。近年では、端末、通信サービス、プラットフォーム、アプリケーションといった複数のレイヤー毎に機能がモジュール化され、単一もしくは複数の事業者が垂直統合型にビジネスモデルを構築する動きもある。流通プラットフォームの機能については様々な規格があり、その標準化を望む声がある一方、競争に任せるべきだとの意見もあるが、ユーザーの視点やクリエイターの地位の尊重にも十分留意しつつ、ソフト、ハード、キャリア等幅広い関係者がそれぞれ応分の利益を享受し、共存・共栄できる仕組みとすることが不可欠である。こうした流通プラットフォームはコンテンツ流通にとどまらず、情報化社会における重要な基盤となるものである。
規格の標準化
規格間の競争はハード・端末等のイノベーションに必要である一方、過度の競争は、ユーザーの利便性を損なうのみならず、わが国産業の国際展開や市場の拡大を阻害する要因にもなりかねない。テレビ、パソコン等の端末の標準的な仕様・サービスの設定やビジネス・プラットフォームの標準化は、インターネット等を利用した新たなビジネスの市場拡大のために不可欠な基盤となる。また、著作権保護技術規格ライセンスは企業ごとに細かく分かれており、様々な機器がネットワーク化した際に、規格がバラバラではネットワーク化による利便性は享受できなくなる恐れもあるが、統一はなかなか進まない。各企業による囲い込みを防ぎ、権利者の保護とユーザーの利便性のバランスをとりつつ、利害関係者間の合意形成をオープンかつ透明性をもって行い、統一化ないし規格間の整合性が確保される必要がある。
他方、政府主導により安易にデ・ジュール型で技術の標準化を進めることは問題だとの指摘があるほか、必ずしも画一的に標準化する必要はないとの意見もある。新たなビジネスモデルを構築し市場を拡大するためには、デ・ジュール型で事前の標準化が必要なもの、競争によりデ・ファクト型の標準化が有用なものを明確化する必要がある。その上で、デ・ジュール型が望ましいものについては、幅広い関係者の参加のもと、国際標準化も意識しつつ、オープンな議論を行い、デ・ファクト型のものについては、公正な競争環境を確保しつつ、民間の自由な競争に委ねるべきである。なお、すでに標準化されたものについても、時代の変化とともに継続的に見直す必要がある。
コピー・コントロール
コンテンツ・ホルダーにとって、不正コピーはビジネスの根幹に係わる問題であり、ユーザーの利便や権利者の保護に直結することから、ビジネスモデルの要に位置づけられていることも多い。コピー・コントロールについては様々な取組みが行われてきたにも係わらず、関係者の足並みは揃っておらず、幅広い関係者が連携して対応する必要がある。その際、コンテンツの特性やビジネスモデルに応じて多様なあり方が想定されるところであり、ある程度の柔軟性を維持しつつ、規格の標準化や整合性の確保がなされることが望まれる。
また近年は、コピーの禁止ではなく、コンテンツの利用の履歴を管理し正確に把握することで、適切に課金する仕組みを構築することが望ましいとする意見もある。今後、無線ICタグ(RFID) #23 が普及し、コンテンツIDの付与が進めば、コンテンツ利用に係わるトレーサビリティはさらに向上することが期待され、アクセス・コントロール等、次世代流通プラットフォームの新たな仕組みとして期待される。
課金システム
これまで権利者に対する使用料の分配については、技術的制約等から、ブランケット契約(包括契約)に代表される、売上全体の一定比率を支払う包括的な分配方式をとることが多かったが、近年の技術革新により、音楽では使用コンテンツの全量把握を行い、使用毎に使用料を支払う方式に移行しつつある。権利者の適正な報酬の確保の観点からも、実際の使用実績に応じた支払いが行われることが望ましく、全量把握をより容易になし得るさらなる技術革新とともに、当該方式に対する権利者の理解増進が求められる。
また、ユーザーに対する課金システムも多様になっている。従前はインターネットにおける有料モデルを定着させるべく、月額定額料金制をとることが多かったが、音楽では楽曲単位の課金、オンラインゲームもアイテム課金の導入に成功している。ユーザー1人1人のニーズにきめ細かに対応することにビジネスチャンスが生じる中、コンテンツ・ビジネスは、所有する権利を与えるビジネスから使用させる権利を与えるビジネスに移行しつつある。
課金システムは、定額課金、コンテンツ従量課金、使用回数や期間を限定した課金方法等、プロバイダーやユーザーのニーズに応じて多様であるが、関係者の努力が収益につながる仕組みの構築が必要である。とりわけ、今後は、クリエイターとユーザーの直接の結びつきが強くなることが予想される中、ユーザーとしては自身が評価した作品に対して相応の対価を支払い、ユーザーに評価されるコンテンツのクリエイターに、その評価に応じた適正な報酬が還元される仕組みが構築されることが重要である。
他方、無料モデルにおける収益の中心となる広告についても、新たな動きが出ている。近年成長著しいネット広告はまだ発展途上であるものの、2004年には1,814億円に達し、ラジオ広告費の1,795億円を初めて上回る等、その存在感は今後さらに大きくなるであろう #24。インターネットを活用した広告では、ユーザーの趣向に応じて特定の層をターゲットとした広告が可能であり、広告の活用の幅が広がる。インターネットにおけるオープンソース化やチープ化が急速に進む中、こうした新たな広告モデルも柔軟に取り入れつつ、新たなビジネスモデルの構築していく必要がある。
紛れもなく、エンターテインメント・コンテンツ連携の要は人材である。最新の制作技術に精通したクリエイターやマネジメント能力の高いプロデューサー、最先端の技術に長けた技術者等、各業態に必要とされる専門人材が果たす役割の重要性は変わらない。他方、例えば、欧米ではソフトの大企業に著作権保護技術に精通した人材が多く所属し、ハード業界に対して様々なリクエストを行うが、日本のソフト業界には著作権保護技術に精通した人材が少なく、逆にハード業界にはライツビジネスに精通した人材は十分にいないとも言われており、効果的な対話が必ずしも行われていない。こうしたソフト・ハード等業界の橋渡しとなる人材の育成・交流を早期に進めるべく、ソフト・ハード等業界における人材交流とともに、異なる職能や複数の領域に精通した融合人材の育成に向けた取組みを政府は支援すべきである。
また、コンテンツ・ビジネスに係わる標準的なスキル・知識を設定すべきといった指摘もある。現在、わが国においてもコンテンツに係わる大学・学部が多く設立され、コンテンツに係わるカリキュラムが整備されつつある。民間レベルでも、知的財産に係わる標準的な知識体系の構築に向けた取組みも進んでいる。産学官によりコンテンツに係わる教育体系を早期に確立するとともに、民間企業においても社会人再教育プログラムの活用等コンテンツ人材の育成に努めるべきである。
高コスト化・資金調達等
コンテンツのHD制作等のコストは、中小規模のコンテンツ制作者にとっては吸収困難である。こうした傾向は、流通形態の多様化により1コンテンツあたりの売上が相対的に薄まっていることも拍車を掛けている。現状では、HD化は先行投資の意味合いが強く、普及には、税制優遇措置等を通じて投資負担を軽減させることが必要である。
併せて、優れたコンテンツ作品の制作に要する資金調達を円滑化するため、政策金融機関によるコンテンツ制作者等への出融資を拡充するとともに、多様な手段による資金調達が可能となるように民間の金融・資本市場の整備を進めるべきである。
また、コンテンツの制作に係わる美術や道具、背景画等、企業・業界横断的に利用できるものについても、データベースに集約化してアーカイブとして整備し作品の制作者が利用しやすくすることについて、政府は支援すべきである。
商慣習等
映画をはじめコンテンツの多くは、ある程度定型化されたマルチ・ウィンドウ戦略を採っている。そうした中、ブロードバンドでの映像配信は宣伝手段に留まることが多く、また、既存のパッケージ市場との競合性が懸念されることもあり、必ずしもウィンドウとして明確に位置づけられていない。他方、通信における音楽配信が普及しつつある音楽については、携帯における「着うた」はプロモーションとして先行配信し、「着うたフル」はパッケージ販売と同時に配信する等、プロモーションとしての利用とコンテンツ利用の拡大とを目的に応じて使い分けているケースもある。
映像においても今後ブロードバンド配信が増加することが予想される中、こうした新たな手法を有効に取り入れつつ、視聴環境や価格、画質・音質、使い勝手等に応じてユーザーに多様な利用形態を提示し、ウィンドウ戦略を再構築することも必要である。その際、デジタル化やネットワーク化が既存の流通業者に与える影響も十分留意すべきである。
市場の未成熟
前述のとおり、映像のブロードバンド配信は、まだ開始されて間もなく、分野によっては市場規模も小さいことから、まだ有望なウィンドウとして明確に位置づけられるには至っていない。インターネットでの映像配信をはじめとする新しいビジネスモデルがわが国で発展していくためには、新規投資等に伴うコストを回収し十分な収益を得るだけの市場規模を顕在化させることが不可欠であり、一つのビジネスモデルの成功によりさらなる新規参入が促され、コンテンツ・ビジネスが飛躍的に拡大するという好循環を構築することが求められる。
特に、マスをターゲットとした放送に比べ、インターネットは、個人の多様なニーズを集めることに長けており、アマゾン・ドットコムのように、ロングテール現象により従来では考えられなかった市場を顕在化させた #25。インターネットの特性を活かしたビジネスモデルにより新たな市場が開拓されることが期待される。
権利処理
コンテンツの充実のためには、権利処理が極めて重要になる。2005年3月に、利用者団体協議会および権利者団体との間で、放送局制作のテレビドラマ番組をストリーム配信する場合をモデルとした料額について暫定的に合意がなされた。また、本年3月には放送事業者、権利者団体、通信事業者等により、放送から3年経過した番組をストリーム配信で2次利用するための権利処理手続きについて確認された。こうした取組みを契機として、ユビキタス時代におけるコンテンツ流通を円滑にすべく、利用者および権利者は、様々な映像コンテンツのブロードバンド配信に係わる合意形成に向けた取組みをより一層推進すべきであり、政府はそうした取組みを奨励・支援すべきである。その一環として、映像実演やレコード等業界における著作権等管理事業制度の活用や、契約のより一層の活用を政府は支援すべきである。また、権利者に利益を配分できるよう市場が成長するまで、一定期間の支払猶予や減額についても検討されることも一案である。
さらに、将来的には、マルチユース時代における適切な使用料分配のあり方について、コンテンツにおける2次使用料の見直しや、税制措置、調整を行う独立した第三者機関の設置も含め検討する必要もあろう。
ユーザーによるコンテンツの健全な利活用の促進
ファイル交換(P2P)ソフトを利用した著作物の違法交換やインターネット・オークション等を通じた模倣品・海賊版の取引により権利者が多大な損害を被っている。また、コンテンツに限らず、インターネットを通じて意図せず様々な情報が流出する等社会的に大きな影響を及ぼす事態も生じている。コンテンツ・ビジネスを育成しわが国経済社会の健全な発展に資するためには、技術的保護手段のさらなる向上が求められる一方で、違法なコンテンツを排除し適法なコンテンツを流通させるとともに、様々な機会を通じてユーザーに対する著作権についての啓蒙を強化する等コンテンツの健全な利活用を促進すべきである。
同時に、事業者としても、表現の自由や青少年の心身発達に与える影響等に十分留意しつつ、レーティング制度等業界の自主的取組みを通じて、良質なコンテンツの創造・流通に努めるべきであり、そうした取組みを政府は支援すべきである。
また、オンラインゲームにおいては、ゲーム内アイテムや通貨等の一部データをリアル・マネー・トレード(RMT)として現実の世界で取引する現象も起きている。アイテム課金はこうした流れをビジネスモデルとして取り込んだものであるが、RMTに対しては業界関係者の間でも賛否両論あり、今後、コミュニティ内でのデータやコンテンツのやり取りが増加することも想定される中、オンラインゲームでのRMTについての議論をより一層深めるとともに、より大きな枠組みでRMTについて議論がなされることも必要である。
ユビキタス時代にふさわしい法制度や流通プラットフォーム等が整備されたとしても、コンテンツ・ビジネスの飛躍的拡大をもたらすためには、ユーザーの多様なニーズに応えつつ日本発のビジネスモデルを国内外で展開すべく、ソフト・ハード・キャリア等幅広い関係者が相互理解を深め、戦略的に協働(コラボレート)していくことが不可欠である。
ユーザーの多様なニーズへの対応
ユーザーのニーズに応える魅力的なコンテンツの提供があって初めて市場が拡大する。ユーザーのニーズがますます多様化する中、従来からのマスをターゲットとしたコンテンツ・ビジネスに加え、ユーザー1人1人のニーズにきめ細かく対応することが重要になってきている。
インターネット配信のもつインタラクティブ性は、個々のユーザーのニーズをつかむことを容易にし、マーケティングとの親和性が高い。インターネットはユーザーの嗜好のセグメント化を可能にするため、ユーザー1人1人の好みや習慣にあわせたものをユーザーの代わりに目利きすることも今後の局面としてあり得る。また、ユーザーが能動化することで、ユーザーの推薦が実際の購買につながるようにもなっており、CMのあり方・形態等既存のビジネスモデルにも影響をおよぼす可能性がある。多様化するユーザーのニーズに応えるべく、こうした特徴を念頭においたビジネスモデルを構築することが重要である。
また、近年の端末の高機能化・高性能化・高画質化等の技術革新をユーザーがどこまで求めているかをしっかり把握することも必要である。端末の高度化は、端末そのものの高価格化やコンテンツの制作費の高騰にもつながり、その見極めを誤れば、市場の縮小にもつながりかねない。近年の技術革新は、ユーザーの多様なニーズに応えられるだけの環境を提供しているが、ユーザーのニーズあってのソフト・ハードの連携である。
新たな市場の開拓
少子化・高齢化が進み子供向けマーケットが縮小する中、海外への販売とともに、有望なマーケットとは必ずしも捉えられていなかった比較的高い年齢層向けのマーケットを開拓していく必要がある。ゲーム業界では、これまであまりゲームに関心を有しなかった高年齢層やライトユーザーをターゲットとしたソフトを販売し、新たな市場開拓に成功した。こうした事例では、教育や福祉等にも役立つコンテンツを提供することで新たな市場を開拓しており、コンテンツのもつ娯楽性を活かす新たなビジネスモデルとも言える。
このように、対象年齢層の拡大や、コンテンツ・ビジネスとシナジーを発揮できるような新たな分野への進出等により市場を積極的に拡大していくことが求められる。
端末の連携・融合
ユビキタス社会においては、テレビ、パソコン、携帯電話等あらゆる端末がネットワーク化される。ユーザーとしては一度購入したコンテンツがあらゆる端末で共有できることや、放送・通信、無線・有線等の違いを意識することなくサービスを受けられることが理想であり、端末間の連携・融合が求められる。他方、パソコンと携帯のサービスを融合したビジネスモデルが登場する中、異なる端末を連携させることで付加価値を生むモデルも今後増えていくと考えられるほか、端末によってエンドユーザーの対象が異なることがあり、端末の特性に応じたコンテンツの利活用モデルも重要になる。
また、ユビキタス化は、コンテンツを楽しむことができる空間そのものの拡大も意味する。携帯電話の高機能化は、コンテンツを楽しめる空間を屋内から屋外に広げたが、今後は情報家電に始まり、自動車等様々な機器がコンテンツ端末として機能することになる。そうした中、これまで想定されていなかった場所や生活シーンにおける新たなコンテンツ利用形態も模索していく必要がある。
コンテンツ・ビジネスの飛躍的拡大のためには、日本の数十倍の市場規模を有する世界市場での展開が重要であり、国際展開の強化は避けて通れない。すでにアジアにおいてはジャパン・コンテンツの存在感は高まっているが、欧米においては、アニメやゲーム等競争力をもつ分野はあるものの、言語や文化の違い等もあり、市場を開拓するには至っていない。他のアジア諸国も国際展開に向けた取組みを強化している中、わが国コンテンツ産業としても、国際展開を経営戦略として明確に位置づけ、ソフト・ハード等業界が連携し、世界に日本発のビジネスモデルを地域に応じた形で展開していく必要がある。これはコンテンツ市場の拡大のみならず、ジャパン・ブランドの発信を通じて日本のソフトパワーを強化することにもつながる。そのためには、海外展開に関する知識・ノウハウの共有化や国際共同制作の強化、見本市等を通じた情報発信等が求められるとともに、例えば、政府は、アジア近隣諸国や、アメリカ、フランス等の先進国との間でコンテンツ産業に係わる戦略的アライアンスを進めることや、特定の国をモデルケースにソフト・ハード等業界の連携による海外展開を支援することも考えられる。
また、欧米のような契約社会においては、ジャパン・コンテンツの展開に成功したとしても、契約上、日本に適正な収益がもたらされるよう権利を確保しなければ、日本経済の発展にはつながらない。日本が交渉の主体性を持つことで日本側が権利をコントロールできる市場をより大きくする必要がある。
コーディネーターの必要性
ケータイ・ビジネスにおいては、キャリア事業者がコーディネーターとなり、コンテンツ・プロバイダーや端末メーカーと調整を行いつつ、設計を統一した。ソフト・ハード・キャリア等企業が一体となってコンテンツに係わるサービスを提供することの重要性が高まる中、新たなビジネスモデルをプロデュースし、多様な関係者の立場を尊重しつつ調整を行う、コンテンツ・リレーションシップ・マネージメントとも言うべき能力を有するコーディネーターの必要性は高まるばかりである。
こうしたコーディネーターには、関係業界に対する幅広い知識とともに、プロデューサーとしての専門的知識・スキル、卓越した調整能力が求められ、その育成には高等教育機関等における専門教育とともに幅広い実務経験も必要と考えられる。関係業界においては、大学等における社会人再教育プログラムの活用や業界を超えた人材交流等を通じてコーディネーターとなる人材の育成を強化すべきである。こうした人材は、今後のコンテンツ・ビジネスをリードする人材となる。
相互理解の必要性
従前よりコンテンツに係わる幅広い関係者による対話の必要性が説かれてきたものの、その機会は乏しく、対話の充実・整備が求められていた。互いの業界の最新の動向に対する情報共有を行い、相互理解を深めることは新たなビジネスモデル構築にあたっての前提となるものである。実際、「着うた」についても、キャリアがレコード会社にこまめに足を運び、配信にあたり留意すべき点を学んだ。また、他業界の動向を十分に把握できていなかったことがビジネスチャンスの喪失につながった例もある。
ソフト・ハード等業界の経営者・実務者等様々なレベルでの定期的なコミュニケーションの場を設け、共通の利益を目指すべく、過去の成功事例・失敗事例等を蓄積し共有する等、常日頃からの相互理解増進に努めるべきである。こうした場は、関係者間のトラブル発生時の駆け込み寺としても有効である。
加えて、大学の研究者が研究成果を発表し、産業界がその成果を活用してビジネスにつなげる等の連携を促進すべく、大学・研究機関やクリエイター、民間企業等が情報共有できる場を設ける等人的ネットワーク構築に向けた取組みを強化すべきである。その際、学会やシンポジウム、研究会といった場に加え、SNS等のインターネット上のコミュニティも効果的に活用すべきである。
その一方で、相互理解が進んだとしても、根本的にソフトとハードでは考え方・性格の違う部分も残り得る。連携に向けた課題の解決にあたっては、こうした差異を乗り越えられるメンバーで協議することも求められる。
関係者がWIN−WINとなる仕組みの構築の必要性
関係者間の連携により新たなビジネスモデルが構築されたとしても、関係者がWIN−WINとなるモデルでなければ、新たな市場の創造にはつながらない。「着うた」のビジネスモデルは、ユーザーに多様な楽曲を提供するとともに、著作権者に加え著作隣接権者にも収益機会をもたらしたほか、キャリアにとっては通信料の増収、ハード・メーカーにとっては端末の売上増等、関係者すべてに利益をもたらすものであった。
こうしたWIN−WINモデルは、優れたコーディネーターの存在や業界間の相互理解を土台として、幅広い関係者が緩やかなネットワークの下、相互に影響を与えつつ協調していくことで構築されるものであり、一つのビジネスモデルの成功がさらなるビジネスモデルを生み、コンテンツ・ビジネスの質を高め、市場の拡大をもたらす好循環を実現する上で不可欠である。
オープンソース #26 を活用したマッシュアップ、検索連動型広告、P2Pファイル交換、ポッドキャスティング、マネージド・コピー・リモートサーバー、ブログ、ロングテール等の新たな動きはアメリカから生まれている。こうしたインターネットにおける新たな現象は、新たなビジネスモデルを提示するに留まらず、新たなパラダイムを提示している。
こうした新たなトレンドを柔軟に取り入れ、ビジネスモデルを構築することも必要であるが、同時に、オープンな競争と協調を通じて、新たなパラダイム・シフトをもたらすような日本発のビジネスモデルを構築することが中期的な観点から求められる。
これら新たなトレンドはいずれも、最先端の学術研究や技術を積極的に取り込み、多様な利害関係者の潜在的ニーズを掘り起こし、ビジネスモデルに昇華したものである。科学技術立国たる日本には、次代を担う技術が数多く存在する。また、ソフトとハードを併せ持つ企業は、日本以外では世界的にはあまり多くなく、日本においてはソフト・ハード連携の機運も高まりつつあることから、ハード等における技術革新とジャパン・コンテンツを活かした日本発のモデルが生まれる可能性は多分にある。一見関係の薄いコンテンツ・ビジネスと科学技術であるが、両者の融合による可能性は計り知れない。こうした最先端技術のビジネスへの応用に向けた産学連携や、企業内を含めたベンチャーの活用等により、サービス・イノベーションともいえるダイナミックな動きを創出することが期待される。
コンテンツ・ビジネスの飛躍的拡大に向け、ハード業界は絶え間ない技術革新による高品質の端末の製造、ソフト業界は魅力あるコンテンツの創造、キャリアは良質な通信サービスの提供と、それぞれが本来的に担うべき役割を不断に追求すべきであることは論を待たない。
ユビキタス化が急速に進む社会にあって、コンテンツ・ビジネスは、ソフト、ハード、キャリア、ユーザー等が一体となってコンテンツを提供するサービスへと変貌しつつある。従来型のビジネスモデルだけでの成長に限界が見えつつある中、わが国経済社会の持続的成長を支え、国民に豊かさをもたらすべく、ソフト、ハード、キャリア等の幅広い関係者が、より長期的な視点から戦略的な協働(コラボレーション)を行い、新たなビジネスモデルを構築することで、サービス・イノベーションといったダイナミックな動きを作り出していく必要がある。
2011年には地上波放送がアナログからデジタルに完全に移行し、コンテンツのデジタル化に向けた動きは一つの区切りを迎える。本提言で掲げた現状認識や課題、今後の協力方策をエンターテインメント・コンテンツ・ビジネスの関係者が共有し、新たなビジネスモデル構築に向けた戦略的なコラボレーションが踏み出されることを期待したい。
エンターテインメント・コンテンツ産業の発展のためには、ハードの技術進歩とエンターテインメント・コンテンツの充実が相互に協調していく必要がある。従前よりハードウェアメーカーとソフトウェアメーカーとの対話の必要性が説かれてきたが、その機会は乏しく、対話の充実・整備が求められている。また、2004年4月に政府知的財産戦略本部コンテンツ専門調査会が発表した「コンテンツビジネス振興政策」においても、ソフト・ハードを含む関係者の連携の一層の強化等の必要性を指摘し、政府として必要な支援を行うこととされている。
近年のハードの極めて早い技術進歩と利用者ニーズの多様化の中で、ソフト・ハードの対話の気運が出てきていることを受け、日本経団連産業問題委員会の下に、業界横断的なハード・ソフトのコンテンツビジネス関係者トップの懇談会を設け、関係者の相互理解を深め課題を整理すると共に、ビジネスの将来像を探る。
【参考】コンテンツビジネス振興政策(2004年4月 知的財産戦略本部コンテンツ専門調査会)
第3部 今後のコンテンツビジネス振興に向けて 3 関係者一体となった取組の促進 また民間においても,コンテンツ制作者,流通事業者,送・配信事業者,広告事業者,権利管理事業者,機器メーカー,法務関係者など,コンテンツビジネスに関わる者は多岐にわたっており,関係者間のコミュニケーションは必ずしも良好とは言えない。今後これらのソフト・ハードを含む関係者の連携を一層図るとともに,関係者が一体となって,コンテンツビジネスの振興に関する研究や提言,更には新たな技術の芽を活用したビジネス展開の取組などを行うことが求められており,国はこうした取組が実現されるよう、必要な支援を行う。 |
2004年8月
エンドユーザーは、コンテンツの内容、端末の利便性、
流通コストの合理性を判断して消費・利用の選択を行う