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「重点計画−2006(案)」に関する意見

2006年6月30日
(社)日本経済団体連合会
情報通信委員会
情報化部会

はじめに

わが国においては、e-Japan戦略およびe-Japan戦略IIの下、官民挙げて最先端のIT国家実現に向けた取組みを行ない、世界最先端のブロードバンド環境を構築することに成功した。今後は、この環境を維持発展させるとともに、利活用の面でその潜在能力を最大限生かして、新たな価値創造を行ない、IT国家のトップランナーを目指すべきである。
本年1月に決定された「IT新改革戦略」においては、社会的な課題の解決、あるいはわが国産業の持続的な発展等のために必要となる施策が、その目指すべき目標とともに示されているが、それらを確実に実施するためには、国家としての優先順位を明確に設定した上で、限られた資源を集中的に投下する必要がある。そのためには、IT戦略本部および内閣官房が司令塔となり、政府としてのロードマップを立案・実施するうえで強力なリーダーシップを発揮しなければならない。特に、重要分野の1つである「世界一便利で効率的な電子行政」の実現にあたっては、ITの構造改革力をうたう戦略の精神に則り、省庁の枠組みを超えた業務フローの大幅な見直しに基づき、ポータルサイトによる行政手続のワンストップ・サービスを実現するなど、利用者視点に徹した取り組みを行なわなければならない。
あわせて、PDCAサイクルを確実にまわすことで、「評価」およびそれに基づく「改善」を機能させなければならない。そのためには、評価専門調査会に対する各省庁の情報提供の義務化を徹底するとともに、その評価結果に基づき、IT戦略本部が適切な改善措置を確実に行なわせるような仕組みを導入すべきである。
また、世界のトップランナーとしての自覚を持ち、それにふさわしいユビキタス・ネットワーク社会の構築、高度IT人材の育成等に向けた努力を継続するとともに、これらの取り組み内容およびその成果等について、世界に発信することも重要である。
以上の基本的な視点に基づき、さらなる利活用の促進を進めるため、2006年度において優先的、重点的に実施すべき施策等を整理した「重点計画-2006(案)」に関して、下記のとおり意見を述べる。

IT戦略本部 パブリックコメント:
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pc/060601comment.html

I 基本的な方針 について

1) IT戦略本部のリーダーシップ(3頁)

重点計画にも記載されている通り、IT新改革戦略の完遂のためには、IT戦略本部および内閣官房の強力なリーダーシップ発揮が不可欠であり、単なる調整役ではなく、IT新改革戦略実施の司令塔としての機能を拡充頂きたい。特に、IT戦略本部においては、各省庁における政策の間で矛盾や重複が発生しないように、政府としての統一方針を明確にする役割を、内閣官房においては、産業界等からの要望を受け止め、各省庁に対し、適切な働き掛けを行なう窓口としての役割を、それぞれ確実に果たすことを期待する。

2) 成果目標型戦略の徹底(全般)

本重点計画では、目標や期限が明示されている分野が多いが、一部に実施時期等が不明瞭なものもある。IT新改革戦略の確実な実施のためには、明確な成果目標の設定と、その実現までのロードマップの明示が必要である。

3) 関連会議・本部等との連携(3頁)

知的財産戦略本部等との連携については、「推進体制」で一般論として触れられているのみである。しかし、知的財産推進計画2006において、多くのIT関連施策が取り込まれているので、IT新改革戦略との間で連携すべき具体的な点についても明示すべきである。

4) 評価体制の充実強化(4頁)

IT新改革戦略を実施する上では、PDCAサイクルを確実にまわすこと、その中でも特に「C(Check)」および「A(Act)」の実行が重要となる。
従って、「Check」の役割を担う評価専門調査会が十分機能するように、これまで以上の資源を投入すべきであり、今後、早期に評価基準の検討を行い、そのために必要となるデータの収集・分析体制を構築しなければならない。また、「Act」機能が確実に実施されるよう、評価結果を元に、IT戦略本部が適切な改善を確実に行なわせる仕組みも、評価体制の拡充強化として不可欠である。

II IT新改革戦略を推進するための政策 について

1.ITの構造改革力の追求

1) ITによる医療の構造改革

  1. 基本的な考え方(7頁)
    「基本的な考え方」において提示されている3つの課題は、医療の効率化や質の向上にとって重要であり、実現までのロードマップを明確にした上で、遅滞なく確実に実施されるべきである。
    特に、医療システムにおけるデータフォーマット及びデータ交換規約をはじめ、ソフト・ハード両面に関する標準化を推し進めることは、医療情報の共有化の促進、競争促進によるIT化コストの低減、医療給付費の適正化等を実現するために必須であり、政府として、資源を集中投下して確実に実施すべきである。
    なお、医療の情報化のために必要となるコストについては、将来の医療事務コスト低減をもたらす投資であるので、個別機関が経営努力により対応すべきものである。したがって、安易に診療報酬に反映する等により、利用者の負担を増やすことがあってはならない。

  2. グランドデザインの策定(8頁)
    医療分野等の情報化の横断的なグランドデザインは、いわゆる日本版EHR(Electronic Health Record)を指向した内容になるものと考えるが、必ずしもそのビジョンは明確になっていないので、まずその内容を明確に定義した上で、具体的な数値目標、その実現に向けたロードマップ、評価指標等について、十分検討しなければならない。
    なお、検討にあたっては、過去に構築したシステム等を有効活用できるかどうかを意識する必要がある。

  3. 個人、保険者による予防医療のための情報の集積・活用の推進(10頁)
    「個人が自ら健康情報を管理し、健康管理等に活用できる」ようにするための仕組み作り等の施策が記載されているが、利用する国民に対する施策が検討されていない。利用する国民に対する啓発活動や、リテラシー向上のための施策も盛り込むべきである。

2) 世界一安全な道路交通社会

  1. 安全運転支援システムの実用化(25頁)
    交通事故死傷者数、交通事故件数を削減するための具体的施策として、実施期限を設けた上で、関係各省が連携して推進するロードマップを策定したことは評価できる。
    今後は官民連携して、事故分析など実証的な検討や、費用対効果の検証等を踏まえた、効果的なシステムの総合実証実験計画の策定を進めていただきたい。

  2. 交通事故被害者の迅速な救助(26頁)
    交通事故被害者の迅速な救助に向けた、「交通事故の覚知から、負傷者の医療機関等収容までの所要時間の短縮」については、明確な目標が必要である。
    例えば、ドイツなど欧州では救命確率が高まる医療機関等への収容時間15分以内をルール化している。具体的施策の効果を検証するためにも、明確な目標を設定した上で検討を行うべきである。

  3. 緊急通報システム(HELP)の普及促進(27頁)
    救急救命システムの高度化には、「緊急通報システム(HELP)」とドクターヘリ、救急車両等を一体的なシステムとして運用する事が重要であるので、「警察―消防―ドクターヘリ」間の連携(特に通信手段等の調和、開発、整備)や、関連する諸制度・法制度の整備に取り組むべきである。

3) 世界一便利で効率的な電子行政

  1. オンライン利用の促進(30頁)
    各省庁が、それぞれの所管する個別手続きだけを考えたシステムを構築することでは、利用する側にとっては非常に利用しづらいため、一律にオンライン申請率50%を達成することは不可能である。
    電子政府の利用を促進するためには、何よりもまず、利便性向上のため、省庁間の枠を超えた、簡素で効率的な行政手続きを再構築することが重要である。そして、その手続きを、統一した形で電子化(オンライン化)しなければならない。これはすなわち、日本経団連が要望している、ポータルサイトによる行政手続等の「ワンストップ・サービス化」の実現に他ならない。
    なお、これらの実現にあたっては、現在民間において利用されているデータベース等とオンライン行政システムとのインターフェース部分のあり方等について、利用者の意見を十分反映することが必要不可欠であるので、そのための体制を整備しなければならない。

  2. 主要三分野におけるインセンティブ措置(30頁)
    登記・国税・社会保険・労働保険手続きについては、利用者側のニーズも高いため、利便性の高いシステムが構築され、メリットを感じる制度が実現すれば、必ず利用率は向上する。費用補助等のインセンティブ付与も、利用促進の1方策であるが、それ以上に、利便性の高い、統一的な制度・システムが実現するかどうかが利用率に大きな影響を与えるため、利用者の声を十分に汲み取ってシステムを構築すべきである。
    例えば税金の申告・納税については、同じ「税金」手続きとして、国税と地方税の連携が図られること、オンライン上で手続きが完結すること、安全性を十分に確保した上で認証をできるだけ簡略化すること(「職印」に相当する電子証明の容認を含む)等の利便性向上策を検討すべきである。

  3. 認証の方法(31頁)
    「行政」分野における認証コードの一元化は、電子政府実現の前提となるため、個人については、住民基本台帳上の個人コード、また法人については、登記上のコード等の、単一コードを用いるべきである。
    また、今後行政手続のオンライン利用を促進するにあたり、セキュリティ確保のための電子証明(電子署名)が重要となるが、世界最先端のIT国家にふさわしいセキュリティ水準を達成するために、個人情報の保護と、その利活用の促進を両立させるための対策等を検討すべきである。例えば、個人に対しては住民基本台帳カードに無償で公的個人認証サービスを合わせて提供する、法人については、「職印」に相当する電子証明書を容認する、といったもの等が考えうる。

  4. ICカード(31頁)
    各省庁が独自のシステムを構築し、個別のICカードを発行する場合、住民基本台帳ネットワーク・システム等の、既存投資との重複部分が多くなり、かつ、利用者の利便性にも悪影響が生じる。従って、行政手続関係(地方行政を含む)および医療・介護・年金等の公的サービス分野については、国民の利用価値を高めるために、原則として住民基本台帳カードを共通のICカードと位置づけるべきである。
    また、これらのICカードの普及にあたっては、まず官が率先してその普及を担うべきであるので、公的部門の職員については、原則住基カードの取得、公的個人認証サービスおよびオンライン行政手続の利用を義務付けるべきである。

  5. 行政情報の電子的提供の推進(32頁)
    行政部門の保有する情報は、国民の税金を使って収集された、国民の共通財産であるので、民間部門との間でその情報の非対称性が存在することがあってはならない。従って、行政情報の電子的提供にあたっては、上記趣旨を踏まえ、公開を禁止すべき特別の理由がない限り全て公開し、その所在を明確にすべきである。
    過去において、e-Japan戦略の実現状況を評価するために必要な情報が、評価専門調査会にすら届かず、まともに評価できないということがあった。評価に必要となる情報を全て開示することで、民間部門でも実行状況に対する評価(Check)を実施し、PDCAサイクルをより効果的に実施することができる。

  6. 地方公共団体における効率化の推進(34頁)
    同じ行政部門として、中央省庁だけでなく、地方公共団体においても、業務・システムの最適化を推進しなければならない。電子自治体推進指針を踏まえ、明確なロードマップを設定した対策を希望する。

2.IT基盤の整備

1) デジタル・ディバイドのないインフラの整備

  1. デジタル時代に対応した電波利用等の推進(57頁)
    今後、UWB、PLC等の実用化が見込まれているが、それらの新技術を発展させるため、政府は技術中立的なスタンスをとり、民間部門の創意工夫に基づく自由で公正な競争を阻害しない制度を構築すべきである。

  2. ユビキタス・コミュニティ先進モデル構想(56頁)
    「地域の分野横断的な課題の解決」は、ユビキタス・ネットワーク社会の発展にとって喫緊の課題であるので、今回の構想を強力に推進し、単なるインフラ整備にとどまらない、有効なモデルを構築し、それを全国展開すべきである。そのためには、内閣官房・IT戦略本部のリーダーシップの下、多岐に渡る関係省庁が連携して政府として一貫性を持った取り組みを行なわなければならない。

2) 通信と放送のハーモナイゼーションの推進等

  1. アナログ周波数変更対策(59頁)
    テレビジョン地上放送のデジタル化に伴い、利用可能となる周波数(VHF帯、UHF帯)の割当てについて、携帯電話、ITS、無線通信など、多くの分野がその利用を希望しているところであるが、電波が有限の資源であること、また、今後のIT国家としての発展の鍵を電波利用方法が握ることに鑑み、既存の周波数配分の是正までも視野に入れ、国民にとって有効かつ効率的な電波利用を議論すべきである。

3) 情報セキュリティ対策

  1. 「セキュア・ジャパン2006」の推進(63頁)
    安心・安全なネットワーク環境を活用して、新たな価値を創造することは、今後、わが国の産業成長の基盤となるものであるので、第一次情報セキュリティ基本計画(セキュア・ジャパン2006)に掲げる諸施策が、確実に実施されることを期待する。
    その際、技術の進展や環境の変化に伴い、新たに生じる脅威への対処を行なうことが重要な課題であるので、産学官をはじめ関係者が連携して迅速な対応ができる体制を構築すべきである。

4) 世界に通用する高度IT人材の育成

  1. 高度IT人材の育成(74頁)
    わが国が世界トップレベルのIT国家となるために、最も重要となるのが人材の育成である。しかし、現在の扱いは各省庁施策の寄せ集めに過ぎず、国家としてのビジョンが欠落している。
    世界最先端のIT国家を目指すためには、世界最先端のIT人材が必要であり、そのためには世界最先端のIT人材育成環境がなければならない。従って、国家としての明確なビジョンの下、優先順位をつけた中長期ロードマップを作成し、産官学が連携して人・物・金といった資源を集中投下すべきである。

5) 戦略的な研究開発の取り組み

  1. 準天頂衛星システム(80頁)
    衛星測位により得られる地理空間情報の活用を推進することを旨とする「地理空間情報活用推進基本法」が先の通常国会に提出されている。
    我が国において、「地理空間情報活用推進基本法」に示す技術及び利用可能性に関する実証や利用の促進を念頭に置いた衛星測位に係る研究開発としては、準天頂衛星システムの研究開発が該当することから、重点計画においても、その点を具体的に明示すべきである。

3.世界への発信

  1. 重点計画等の発信(84頁)
    IT新改革戦略、重点計画-2006(案)、第一次情報セキュリティ基本計画等の、わが国のITに関する基本計画として公表された文書について、早急に英文化した上で公表し、世界に向けて日本の政策を明示すべきである。

以上

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