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経済連携協定の「拡大」と「深化」を求める

2006年10月17日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

日本経団連ではこれまで、世界貿易機関(WTO)を中心とした多角的自由貿易体制の維持・強化と、わが国との経済関係が深く重要な国・地域との間の経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)の締結とを「車の両輪」として積極的に推進してきた。その一環として、2004年3月、「経済連携の強化に向けた緊急提言」をとりまとめ、以来、EPAの戦略的推進を政府・与党など関係方面に働きかけてきた。
この間、政府では、シンガポールやメキシコ、マレーシア、フィリピンとのEPAを締結するとともに、「グローバル戦略」(2006年5月18日、経済財政諮問会議)の下、工程表に沿ってEPA交渉を加速化すべく取組みを強化している。
一方、本年7月のWTO新ラウンド交渉の中断を受け、WTOを中心とする多角的自由貿易体制に対する信頼の低下が懸念されている。また、韓国や中国をはじめ各国は、EPA・FTAに対する取組みを一様に加速化しており、言わば「EPA・FTA競争」の様相を呈している。
わが国としては、グローバルな貿易の自由化やルールの整備を推進するとともに、紛争解決のための手続きを提供するWTO体制の強化に向け、新ラウンド交渉の早期再開ならびに早期妥結を強く求めていく姿勢が引き続き重要である。加えて、EPAのさらなる「拡大」と「深化」に取り組むことは多角的自由貿易体制の強化に反するものでは決してなく、むしろそれを補完するものである。特に戦略的に重要な国・地域との間でEPAを速やかに締結し、ヒト、モノ、カネ、サービス、情報の自由な移動を通じて経済関係を強化することは、かつてないほど緊要性を増している。
日本経団連では、本年5月に新設した経済連携推進委員会において、委員等を対象にアンケートを実施するとともに、今後のEPA推進のあり方等につき検討を重ねてきた。
本提言は、同アンケートに寄せられた多くの会員企業の要望等に基づきとりまとめた経済界の現時点での基本的考え方を示すものであり、政府・与党など関係方面においては、本提言の実現に向け、必要な交渉や国内的措置を迅速かつ着実に実施するよう強く要望する。

I.経済連携協定(EPA)推進の戦略的意義

グローバル化と少子高齢化が進行する中で、今後ともわが国経済が活力を維持し持続的成長を遂げるためには、企業による国境を越えたグローバルな事業体制の構築を促進することが不可欠である。EPAは、そのための重要な経済インフラである。
とりわけ地理的・経済的に緊密な関係にあり成長著しい東アジア諸国との間で互恵的なEPAを締結することは、わが国とアジア諸国が世界の成長センターとして共に発展するための必須の条件である。
わが国は、こうしたアジアのダイナミズムの中にあって、その一員として「アジアと共に歩む」という基本的姿勢に立って、物心両面での豊かさを共に追求する必要がある。そのためには、東アジアを中心とする諸国との互恵的なEPAをより一層「拡大」、「深化」させていかなければならない。
国民や消費者の視点からも、EPAによって物品・サービス貿易や投資の自由化等を進める結果、安価で良質な産品が市場に供給されることを通じてメリットがもたらされることになる。また、人手不足が予測されるわが国の介護サービス等については、人の移動の円滑化による労働力需給のミスマッチ解消等を通じてサービスの水準の維持・改善が期待できる。
また、資源・エネルギー、食料に対する需要が世界的に増大する中、これらの供給国との関係を緊密化することは極めて重要である。このため、EPAを通じて円滑な取引関係を中長期的に保障することが求められる。
さらに、他国が締結するEPA等によって、わが国企業が競争条件の面で不利な立場に置かれる恐れがある場合、貿易転換効果等を回避すべく、速やかに当該国との間で経済連携を強化するための対応策を講ずることは当然である。
このような戦略的意義を有するEPAの推進にあたって、それが相手国・地域との交渉を通じて成立するものである以上、わが国としても譲るべきは譲り、真に守るべきは守るにせよ、むしろそれを契機に国内の構造改革を進め、わが国経済社会の基盤強化につなげていく必要がある。
なお、アンケート結果によれば、経済界から見ても、また、個別企業の立場から見ても、EPAの戦略的意義として、(1)「わが国企業の事業活動範囲の拡大(流通・サービスまでも含めた広範な事業活動)」、(2)「経済的・地理的に緊密な関係にあるアジア諸国との関係強化」、(3)「輸出市場の拡大(関税引下げ、通関手続きの改善等)」が重要であるとする回答が多数であった。

II.東アジアに重点を置いた経済連携の推進

わが国としては、以上のような戦略的意義を念頭にEPAの拡大と深化を推進する必要があるが、当面、東アジアに重点を置いて、以下に示すような包括的で質の高い多国間・二国間EPAの締結を目指すべきである。そのような努力を通じ、広く東アジアに経済連携ネットワークを構築するとともに、それをベースとした地域経済統合のあり方についても検討を進めるべきである。

1.EPAの「拡大」

東アジアに重点を置いた経済連携を拡大していくためには、多国間EPAと二国間EPAを並行的かつ迅速に推進することが重要である。政府においては、「グローバル戦略」の下、今後1年程度の目標を掲げた工程表に沿ってEPA交渉等に取り組んでいるが、今後は、こうした目標を確実に実現するために具体的なロードマップを策定し、その進捗状況を管理するとともに、必要に応じて見直すことが求められる。
まず、多国間EPAについては、アジアにおけるEPAのハブとなりつつあるASEANとの包括的経済連携(AJCEP)協定の締結が極めて重要な課題である。協定の内容が異なるため、単純な比較はできないものの、既に中ASEAN・FTAが締結され、韓ASEAN・FTAも交渉妥結済みであるのに対し、わが国は後れをとっているとの感は否めず、合意目標時期を来春に控え、今後、交渉を加速化する必要がある。
一方、二国間EPAに関しても、日本にとって戦略的に重要な国・地域とのEPA(FTA)を着実に推進していくことが肝要である。とりわけ、ASEAN主要国のうち、現在交渉が大詰めを迎えつつあるインドネシアと早期に大筋合意に達するとともに、ベトナムとのEPA交渉を早急に開始することが重要である。
また、わが国としては、交渉が中断して久しい韓国に加え、他のアジア諸国にも増して密接な経済関係にある中国とのEPAをどのようにして推進するかという課題がある。わが国としては、まず、これら隣国との信頼関係の強化に取り組む必要がある。その上で、中断している韓国とのEPA交渉の早期再開を強く期待するものである。さらに、成長著しい中国と、世界第二位の経済大国として東アジア最大の経済力を有する日本が、安定した協力関係を築くことは、両国のみならず、この地域の平和と安定という観点からも極めて重要な課題である。アンケート結果においても、中国とのEPA推進を要望する意見が圧倒的に多かったことは留意されるべきであり、かかる要望も踏まえつつ、メリット・デメリットの検討を含め、日中間のEPAについて共同研究に着手することは意義があろう。
これらの諸国に加え、いわゆるBRICsの一員として現に高い経済成長を遂げており、中国に次ぐ10億人以上の人口を抱え、力強い成長を今後も続ける可能性を有するインドとEPA交渉を早期に開始することが重要である。
さらに、資源・エネルギー、食料供給国である豪州とのEPA交渉を早期に開始するよう改めて求めるものである。同じく資源・エネルギー供給面で戦略的に重要なGCC(湾岸協力会議)とのFTA交渉がようやく開始されたが、FTA未締結による不利益を回避する観点からも、今後、交渉を加速化すべきである。
なお、米国をはじめとする、わが国にとって重要な国・地域に関しては、EPA等、経済連携を強化する枠組みを併せて検討する必要がある。
以上の多国間・二国間の交渉をベースとしてEPAの面的拡大を迅速に実現するためには、あらゆる交渉に共通した基本的な枠組みとなり得る基本形を作り、これを応用することが有効である(「レディーメイド方式」)。日本は、これまで4つのEPA(シンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン)を締結し、2つのEPA(タイ、チリ)につき大筋合意に至っており、それらの経験に基づいた協定条文作成に係るノウハウの蓄積は十分と考えられる。自民党方針「経済連携交渉の更なる推進について」(2006年2月21日)においても、今後の交渉に際しては、これまでの経験を活かしつつ、相手国に応じた基本形を作成した上で交渉に臨むなど、その効率化・スピード化を図ることを謳っており、協定条文の共通部分については、基本形を有効活用し、条文作成、協定締結に要する時間の短縮を図るべきである。

2.EPAの「深化」

東アジアに重点を置いた経済連携を進めるに当たって、GATT第24条の要件(関税等の規制の水準がより制限的でないこと、域内の実質上全ての貿易が自由化されていること等)およびGATS第5条の要件(実質的に全ての差別が統合加盟国間で撤廃されていること等を条件として、GATS適合性を認めること)との整合性を確保することは当然である。併せて、かかる経済連携を「深化」という側面から捉えたとき、グローバルな事業活動に必要な環境を整備するためには、物品・サービスの自由化のみならず、投資ルールの整備、知的財産権の実効ある保護、人の移動等を含む包括的で質の高い経済連携を推進することが重要である。経済活動に関わる諸ルールを優先的に整備し、共通化を進めることによってこそ、事業展開上の予見可能性が増し、競争条件も公平なものとなり、経済活動のさらなる発展が期待できよう。既に発効済み・締結済みのEPAについても、こうした観点から、協定内容の見直しを継続的に行っていくことが肝要である。
なお、アンケート結果によれば、ASEAN全体について、「物品貿易の自由化(関税削減・撤廃)」、「投資の自由化・投資ルールの整備」、「知的財産制度の整備」を要望する意見が多かった。一方、中国については、「物品貿易の自由化(関税削減・撤廃)」、「投資の自由化・投資ルールの整備」、「知的財産制度の整備」、「ビジネス環境の整備」を要望する意見が多数を占めた。また、インドに関しては、「投資の自由化・投資ルールの整備」を求める回答が上位に入っている(下表参照)。

<EPA交渉によって期待する成果:アンケート結果より抜粋>
ASEAN韓国中国インドネシアベトナムインド
物品貿易自由化物品貿易自由化物品貿易自由化 投資自由化
ビジネス環境整備
投資自由化
ビジネス環境整備
投資自由化
投資自由化知的財産権投資自由化
知的財産権
物品貿易自由化物品貿易自由化物品貿易自由化
知的財産権サービス貿易自由化
投資自由化
ビジネス環境整備 人の移動人の移動サービス貿易自由化

東アジアに重点を置いた経済連携について期待される効果として、各国・地域に共通して多かった要望事項は以下の通りである。日本政府には、個別の国・地域に応じた経済界の実務的な意見を踏まえつつ、交渉に臨むよう要望したい。

(1)物品貿易の自由化

物品貿易等の自由化は、相手国産品の対日輸出増につながることが期待されるほか、東アジア諸国の現地企業ならびに当該国に進出しているわが国企業にとっても、関税負担の軽減に加え、原材料・部品の調達先や製品の販路の選択肢が広がるという点で大きなメリットがある。また、東アジアの生産・輸出拠点としての魅力向上、国際競争力強化にもつながる。このため、鉄鋼製品、自動車、電子・電気機器、化学等の高付加価値品を含む物品について、WTO(GATT第24条)に整合的な高いレベルでの関税撤廃を早期に実現し、二国間貿易の自由化が進展することを期待する。

(2)サービス貿易の自由化

製造業関連サービスや流通・金融サービスなど各種サービスに関しては、発効済みEPAにおいて、自由化が不十分な分野も見られる。サービスは経済発展に不可欠な基本的インフラを形成するものであり、統合的なサプライチェーンを構築するためにも極めて重要な役割を担っている。物品貿易や投資の自由化から最大限の利益を得るためにも、市場アクセスや内国民待遇、国内規制の透明性の改善といった、サービス貿易の一層の自由化を期待する。

(3)投資の自由化

魅力ある投資環境を整備する上で、外資規制の緩和・撤廃は欠かせない。国境を越えた投資交流は、投資国側の企業にとって事業機会の拡大につながるのみならず、投資受入れ国にとっても、国内雇用の創出とともに、外国資本、新たなビジネス・モデル、技術・素材および経営ノウハウといった経営資源を導入する契機となる。投資許可段階での内国民待遇・最恵国待遇の原則付与や現地人の雇用義務をはじめとするパフォーマンス要求の原則禁止など、高いレベルの投資ルールを整備することが望まれる。
また、現行規制が将来悪化せず、安定性が確保されることは、既進出企業のみならず、新規企業が投資を行う上で不可欠な要件であり、EPAの投資章において現状維持義務(スタンドスティル)を制度化することが肝要である。
既に多くの日系企業が東アジア諸国で事業を展開しており、日系企業は当該国産業の良きパートナーとして、経済社会の発展に貢献してきている。こうした関係強化のための基盤を強化する観点から、「原則自由・例外規制」という考え方に基づき、広範な分野における投資自由化をさらに推進すべきである。

(4)知的財産権の実効ある保護

アンケートでは、EPAを締結済み、あるいは大筋合意済みの国について、十分な成果が得られていない事項として、「海賊版対策」等を指摘する回答が多かった。模倣品・海賊版の氾濫は、企業の間の競争を歪めるとともに、創造的な活動のインセンティブを減退させることになる。さらに、アジア諸国内において、新たな自国産業の発展や中小企業の振興を支援する上からも、知的財産権をこれまで以上に重視する必要がある。
東アジア諸国等とのEPAにおいて、交渉相手国の知財制度の基盤整備等を促すとともに、実効的なエンフォースメントを確保するための条項(模倣品・海賊版の取締りや罰則強化等)を盛り込むよう交渉すべきである。併せて、EPA発効後も執行状況をレビューしていくことが重要である。

(5)ビジネス環境の整備

投資先としての魅力を向上させ、日本からの投資を拡大するためには、法令運用の公平性・厳格性・予見可能性を高め、安心して投資・ビジネス活動を展開できるよう行政手続きを合理化・効率化することが求められる。この点については、当該国同士の官民による継続的な協議というビジネス環境整備委員会の枠組みをEPAに盛り込むだけではなく、その実効を期待したい。
また、東アジアに重点を置いた経済連携を推進する上で、輸出入・港湾諸手続きの効率化、簡素化を通じた貿易の円滑化が極めて重要であることに鑑み、わが国としても、ASEANシングルウィンドウ(ASEAN域内共通の税関手続きワンストップサービス)等のシステムとの連携を図り、グローバルでオープンな貿易IT基盤を構築することが求められる。

(6)利便性の高い原産地規則の確立

日墨EPAは、メキシコが他国と締結した協定によってわが国企業が経済的な不利益を被る貿易転換効果を回避し、両国間の実質的な経済連携の強化に大いにつながるものと期待されているが、依然として大きな問題の一つは、原産地証明書の発給手続きが複雑で必要な書類が多いため、EPAが発効したにもかかわらず、実際にはEPA特恵税率の利用度が低いことである。メキシコに限らず、こうした現状を早期に改善するために原産地証明書発給手続きを簡素化、円滑化することが極めて重要であり、特に域内貿易比率が既に過半を占める東アジアにおける多国間協定の場合、必要不可欠である。なお、今後わが国が締結するEPAにおいては、原産性を判定する際の基準(関税番号変更基準、加工工程基準、付加価値基準)を必要に応じて選択することが可能となるような仕組みが望ましい。

(7)資源・エネルギー、食料の安定的供給の確保

わが国は、多くの資源・エネルギーをアジア・大洋州地域や湾岸諸国に依存している。これら資源・エネルギー供給国とのEPA・FTAにおいては、資源・エネルギーの輸出制限の禁止や政策変更に対する事前通知、さらには日本企業が当該国の資源・エネルギー分野に投資する際の環境改善等を盛り込み、民間ベースの円滑な取引関係が中長期にわたり制度的に保障されることが重要である。
また、GCC等、戦略的なエネルギー安全保障の確保やFTA未締結による貿易転換効果の回避という観点が極めて重要な国・地域に関しては、迅速な協定締結を目指すために、締結目的に合致したFTAという枠組みの下で交渉を進めていくべきである。
一方、食料に関しては、農業構造改革を通じて、わが国の食料自給率を維持、向上させるべく取り組むと同時に、自給で賄いきれない分について、海外からの安定供給によって確保することも重要な課題である。資源・エネルギーと同様、EPAを通じて、食料に関する輸出制限の禁止、食料生産に投資する際の環境改善等を実現できれば、わが国の食料安全保障に寄与するものと期待される。

III.国内構造改革を通じたEPAの推進

EPA交渉において、東アジア諸国がわが国に最も期待するのは、日本からの直接投資による技術移転や雇用創出等であるが、交渉における個別のアジェンダとしては、農林水産物市場の開放と人材の受入れに対する期待も大きい。これらは、今後の国土利用や経済社会のあり方とも密接な関連を有する問題であり、わが国として、十分な国内対策を講じつつ、個別具体的に慎重な対応が求められる。
その上で、わが国が東アジア各国からの信頼と尊敬を得、アジアの一員として共に豊かさを追求していく観点から、EPA交渉における相手国の要請を国内構造改革断行の好機と捉え、可能な限り対応していくことが期待される。

1.農業分野の改革の促進

農業については、競争力を持った健全な国内農業の構築とEPAの締結とを両立させる必要がある。EPAを通じたわが国農林水産物市場の開放に際しては、国民の支持を得つつ、担い手に対する政策の集中や、内外の生産条件格差を是正する直接支払い等の導入・推進によって、国内市場開放のための基盤を整備することが重要である。
日本経団連では、2004年3月、「経済連携の強化に向けた緊急提言」において、農業構造改革の加速化に関する提言を行ったが、その後、本年6月、担い手経営安定新法(2005年10月の「経営所得安定対策等大綱」の品目横断的政策を法的に担保したもの)が成立したことは評価できる。国内農業の体質強化に向けた新しい政策的枠組みの下で意欲と能力のある中核的な担い手を対象に、その経営安定を図ることが定められており、来春の施行が待たれるところである。WTO新ラウンド交渉が中断された中にあっても、こうした施策を迅速かつ着実に実行することが重要である。
日本経団連としては、農業界とも意見交換を重ねるとともに、例えば大区画圃場等の生産基盤の整備や農地法制の見直し等について、農政問題委員会等の場でさらに具体的に検討していく所存である。
なお、政府は、2005年3月に策定した新たな「食料・農業・農村基本計画」において、輸出を含む「攻めの農政」を大きな柱の一つとして打ち出した。また、2006年4月に公表された「21世紀新農政2006」においても、WTOやEPAへの積極的な取組みや「東アジア食品産業共同体構想」等が謳われている。こうした中、国内市場に限らず、東アジアをはじめとする海外市場へ農産物を輸出することは、わが国農業の競争力を強化する上で重要な柱であるが、農産物輸出を促進するにつけても、価格面での競争力強化のための改革努力が求められよう。
EPAの推進にあたって、わが国農業としては、検疫制度に関連する諸基準の共通ルール作りや、農作物の新品種保護をはじめ農業分野の知的財産権に関わる各国制度の拡充等について貢献することが可能であり、今後とも、当該分野における積極的な対応を期待したい。

2.外国人材の受入れの拡大

外国人材の受入れは、企業のグローバルな事業展開を円滑化するとともに、わが国経済の活性化や競争基盤の強化等に資するものである。さる9月9日に署名に至った日比EPAでは、看護師・介護福祉士の受入れが人の移動における重要な争点となったが、質・量ともにコントロールされたシステムの下、看護・介護分野の人材を東アジアから受け入れることは、高齢化社会への現実的な対応のみならず、肉親の看病や在宅介護から解放される者の就業率の向上を通じて、わが国経済社会の活性化を促す一助となるものと期待される。
また、現在、交渉中の日・インドネシアEPA交渉では、外国人研修・技能実習制度の改善(研修・技能実習修了後の再入国や期間延長、範囲拡大等)等につき、相手国より要望が出されている。さらに、今後、交渉立上げが期待される日越EPAにおいても、類似の関心が示されることが予想される。
通商立国であるわが国がリーダーシップを発揮し、アジアと共に生き、アジアと共に歩む上からは、両国・地域がWin-Winとなる互恵的なEPAを締結することが不可欠であり、「人の移動」の問題に対しても、分野、人数等について、相手国の要望に十分配慮しつつ、前向きに対応することが求められる。
こうした外国人材を受け入れるに当たっては、国内の受入れ体制を早急に整備することが求められる。在留・就業管理の見直し、社会保険加入の促進、日本語教育の充実等、早急な検討と実施が不可欠である。
本提言では、相手国の要望が強く、かつ将来的に労働力不足が予想される分野での受入れに関し、以下の通り要望する。

IV.交渉の推進体制等

EPA交渉を加速するために講じるべき方策として、アンケート結果では、「EPA交渉過程における官民の連携強化」、「政府横断的な司令塔の確立」を望む意見が多数寄せられた。
企業の経営努力が報われる事業環境を創出すべく、EPA交渉に民間企業の意見を継続的に取り入れる仕組みが必要との指摘も予てあるところであり、例えば、官民の連携強化の方策の一つとして、既存の経済財政諮問会議に相当する機能を対外経済戦略面で担う「対外経済戦略諮問会議」(仮称)を設置することを検討すべきである。
自民党方針「経済連携交渉の更なる推進について」においては、現在の「経済連携促進関係閣僚会議」のあり方を見直すなど、政府における指令・調整機能を抜本的に強化するとともに、体制強化に必要な人員の増強や予算を含む適切な措置を講じる旨、謳われている。
わが国が今後、必要な国内構造改革を推進しつつ、とりわけ東アジア諸国との総合的なEPA戦略を策定・推進するためには、内閣総理大臣のリーダーシップの下、各省の利害を超えた真の国益を総合的に判断し実行に移すことが重要であり、それを可能にする省庁横断的な「司令塔」を内閣に設置することが必要不可欠である。
そこで、内閣総理大臣を本部長とし、EPA・WTO交渉等を所管する対外経済戦略特命担当大臣(仮称)を本部長代理とする「対外経済戦略推進本部」(仮称)を内閣に創設し、官邸主導による対外交渉および国内調整権限の一本化を図るよう要望する。併せて、経済連携を戦略的に推進していく観点から、EPA交渉の目標実現に向けた具体的なロードマップを策定し、進捗状況を管理するよう要望する。
ODAの戦略的活用も重要な観点である。例えば、外国人労働者の積極的な受入れ推進に向けて、相手国における日本語教育拡充や各種資格取得のための支援等、人材育成面にODAを活用するなどの取組みを推進すべきである。この点、中国では、海外における中国語普及促進のため、日本国内での孔子学院(中国政府が海外に設立する中国語学校)の設立に積極的に動いており(日本では既に立命館、桜美林、北陸、愛知の各大学に設立調印、開校)、わが国も大いに参考にすべきであろう。さらに、相手国市場の育成や自由化対応に向けた技術支援等を実施すべく、わが国経済界としても積極的に協力していく必要がある。

おわりに

日本経団連としては、東アジアに重点を置いたEPAの推進に関し、政府・与党等関係方面への働きかけをこれまで以上に強化していく。また、わが国ならびに東アジアの人々にとって、より豊かな生活につながるEPA推進の重要性について国民的理解を得るべく、必要な広報活動等を行っていきたい。
それとともに、環境技術の移転等、東アジアの相手国・地域の産業界に対する経済協力・技術協力等についても、可能な限り実施していく所存である。
最後に、経済界が果たすべき役割に関するアンケートの設問に対して、「相手国政府・経済界との対話を深めるための民間経済外交の推進」を求める回答が最も多かったことに留意したい。日本経団連としては、こうした期待に応えるべく、経済連携の拡大と深化に向け、民間経済外交を積極的に推進していく所存である。

以上

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