[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

規制改革・民間開放の推進による経済社会の活性化を目指して

2006年11月21日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

日本経団連は、これまで一貫して、規制改革と官業の民間開放の推進を求めてきた。それは規制改革・民間開放が「活力あるオープンな経済社会の構築」のエンジンとなるものだからである。言うまでもなく、規制改革・民間開放は、官が民の上位にあって民の活動を監督・指導するというこれまでの制度・慣習を根底から変え、経済社会のあらゆる面において民間の力を活用していこうというものであり、官と民との関係にイノベーションをもたらす。
また、規制改革・民間開放の結果つくりだされる自由で透明な競争環境は、消費者・ユーザーの選択肢を大幅に広げ、新たな付加価値を経済全体にもたらす。それはわが国国内にとどまらず、世界の成長センターであるアジア全体にも波及し、わが国の存在や役割をあらためて世界に示すことにもなろう。
一方、地方の自立と活性化のために地方分権を進め、あわせて国・地方を通じた行政の無駄を解消すべく、道州制を導入しようという気運も急速に高まっている。地方分権の推進や道州制の導入には、国から地方への大幅な権限移譲が不可欠であるが、その際、簡素で効率的な行政体制を構築する観点から、官が担うべき事務・事業の徹底的な見直しが必要であり、また地域経済の活性化のためにも、国・地方自治体ともに一層の規制改革や民間開放を進めていくことが望ましい。規制改革・民間開放と地方分権・道州制導入は制度改革の実現のための車の両輪であり、一体的に推進することが求められよう。
以上を踏まえ安倍内閣には、規制改革・民間開放に積極的に取り組み、経済活性化の拡大と深化を図るよう期待したい。

1.これまでの規制改革・民間開放に対する評価

「官から民へ」という理念のもと、ここ数年、規制改革・民間開放は着実な進展を見せてきた。具体的には、社会的分野の規制改革や官製市場の開放への取り組み強化、規制改革・民間開放集中受付月間の制度化、構造改革特区・市場化テスト等の横断的手法の導入等により、民間の自由な事業活動を阻害する制約条件の見直しが図られ、わが国経済が新たな成長軌道に乗る状況を生み出した。
「事前規制から事後チェックへ」という規制改革にあたっての基本原則は、国民や事業者に社会的責任の自覚や企業倫理の徹底という新たな行動規範を求めることを通じて、わが国経済社会の活力の源泉となる。しかしながら、いまだ多くの課題が残されている。経済的規制にしても社会的規制にしても既得権益やタテ割り行政の壁は厚い。官業の民間開放についても緒についたばかりであり、本格的な実施はこれからである。
一部に、規制改革が格差社会の到来を招いたとの意見も聞かれるが、規制改革は、全てのプレイヤーに競争に参加できる機会を与え、また公正で透明な市場を整える。したがって、規制改革それ自体が格差を生むことはなく、むしろ格差是正に資するものである。もちろん競争の結果、勝者と敗者が生まれ、その間に格差が生じることはあるが、重要なのは、一旦生じた格差が固定化、既得権益化しないよう、常に開かれた市場と公正な競争環境を整えることである。そのために、規制改革・民間開放は常に枢要な機能を果たし得る。

2.規制改革・民間開放によってもたらされる新たな発展の可能性

グローバル競争の激化、人口減少社会の到来への対応に加え、地域経済社会の再生という課題に直面しているわが国が、ここで規制改革・民間開放の手綱を緩めてしまうことは、将来にわたるわが国の発展を否定することにつながりかねない。
わが国の企業は、今日、アジア諸国を中心として海外の企業と多層的でかつ複雑な国際分業・サプライチェーンの体制を構築し、生産性の向上や付加価値の拡大を図っている。そのなかで、国の内外に開かれた市場を形成することは、わが国にとって当然の使命であり、アジア諸国等とのEPA・FTAの促進、さらにはアジア全体の自由経済圏の実現にも、規制改革・民間開放の推進は欠かせない。
一方、国内の諸制度においても、例えば雇用・労働の分野の規制改革は、国民にとって多様な働き方が可能な労働市場の整備を通じて、生き方も含めた新たな人生の可能性を提示することになる。また、教育分野での規制改革は、すべての子供・若者に、それぞれに適した学習機会や能力開発・向上の機会を与える。保育分野も含めて、こうした分野での規制改革が進めば、少子化傾向に歯止めをかけることもできよう。また、年金・医療・介護といった社会保障分野でも、規制改革・民間開放は国民のニーズを踏まえた新たなサービスの実現やその質的向上、コストの削減を図り得る。
加えて、景気回復が十分に実感されていない地域においても、規制改革・民間開放を進めることにより、地域に密着したサービス産業が活性化するとともに、これまで官の仕事とされていた分野等において地域企業の事業機会が拡大し、民主導による経済の活性化が実現しよう。
それらの結果、官の仕事が合理化され、国・地方を通じた行政改革、財政改革を促すことにもつながる。

3.規制改革・民間開放の推進機関のあり方

規制改革・民間開放を推進していくためには、政府内部に強力な推進母体を設置していくことが欠かせない。現在は、「規制改革・民間開放推進会議」(以下「会議」)がその任務を果たしているが、「会議」は、来年3月末をもって3年間の設置期限が終了することから、これに替わる新たな推進機関の設置が強く求められる。その際、以下の点に留意する必要がある。

(1) メンバー構成

改革への意識が高い民間人が主体となる後継機関が組織されるべきである。規制改革・民間開放に対する国民や事業者のニーズを踏まえた改革を実現するためには、コスト意識を持ち、株主等多様なステークホルダーの期待に応えてきた経営トップの経験のある民間人を活用することが肝要である。

(2) 機能・権限

後継機関は、現在の「会議」と同様に、政令に基づく第三者機関として設置されるべきである。その際、現在の「会議」が持つ機能や権限が保持・強化されたかたちとすることが望ましい。とりわけ、資料請求、説明要求の権限は重要である。
後継機関の委員は、政府・与党と協力しながら、検討テーマの掘り起こしや調査、各省との協議、答申案の起草・取りまとめ等、議論の一連の流れを主導することが求められる。
そのようにして取りまとめられた答申については、「最大限尊重の閣議決定」を得ることにより、確実な実現が担保されることが望ましい。そのうえで政府は「推進計画」を策定すべきであり、その監視は後継機関の重要な役割となろう。

(3) 関係機関との密接な連携

規制改革・民間開放は、経済活性化の重要な柱であることから、後継機関は、特に経済財政諮問会議と密接に連携をとることが重要である。また、官業の民間開放を市場化テストという手法で進めていく官民競争入札等監理委員会や、構造改革特区推進本部、さらには行政減量・効率化有識者会議などの関連機関とも連携をとり、積極的に活動していく必要がある。

(4) PDCAサイクルの着実な実施

後継機関では、規制改革・民間開放において目指すべき目標と、そこに至る取り組みを明確化し、一定のサイクルでPDCAをまわす作業を行うことが求められる。例えば、これまで改革が行われた諸規制をレビューするとともに、その維持・改廃について監視し、さらに裁量行政を排除すべく、後継機関は意見を具申する機能をさらに強化すべきである。

おわりに

規制改革・民間開放は、これまでの成果を踏まえ、新たな段階を迎えようとしている。そのような状況のなかで、日本経団連は、会員企業に対して企業倫理の徹底を強く求めつつ、引き続き個別具体的な規制改革・民間開放の要望に加え、新たな推進方策に関する提言を行っていく所存である。
安倍内閣には、改革に対する真摯な姿勢を示すためにも、規制改革・民間開放を最優先の課題の一つとして位置づけることを強く要望したい。

以上

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