「観光立国推進基本計画」に関する意見

2007年4月5日
(社)日本経済団体連合会
観光委員会企画部会

観光立国の目的は、魅力ある国づくり、すなわち我々が普段生活している地域空間を魅力的なものとすることによって内外から人々を受け入れることにある。とりわけ、海外から多くの観光客を受け入れることは、国民の草の根レベルも含めた相互理解を促進し、政治・外交分野で重要な役割を果たす。観光は単に旅行業や宿泊業のみならず、広汎な分野の産業と密接な関連があり、地域活性化ならびに国家の持続的発展にも大きく寄与する。

こうした観点から、日本経団連では、かねてより観光立国を「国家百年の計」として重要な国家戦略の一つに位置づけ、関連施策が総合的・効率的かつ迅速に展開されることを訴えてきた。その意味で、本年1月からの「観光立国推進基本法」の施行は、観光立国に向け大きな一歩が踏み出されたものとして高く評価できる。今後は、同基本法に基づく「観光立国推進基本計画」が、上記の基本的な考え方を踏まえ、長期的視野の下に策定・実行され、地域や民間の創意工夫が発揮されるべきである。併せて、PDCAサイクルを廻し、その実現状況を評価することも重要である。

日本経団連・観光委員会企画部会では、国際観光立国のあり方やその実現に必要な法制度や推進体制の整備に関するこれまでの検討を踏まえ、「観光立国推進基本計画」に盛り込まれるべき事項について、改めて以下の考え方をとりまとめた。

I 観光立国の実現に関する施策についての基本的な方針

1.省庁間連携による基本計画の推進

政府内の推進体制については、これまで国土交通省を中心に各省庁がそれぞれの立場から観光立国に関る施策を検討し、諸施策を実現してきた。今後は基本計画の下で省庁間の連携を更に深め、省庁横断的な施策・事業を企画立案した上で、予算や人員を効率的に活用すべきである。その際、特に、責任体制の明確化、政策の説明責任の履行、事前・事後の政策評価実施等を徹底することが不可欠である。さらに、将来的課題として、観光行政の総合的推進の観点から、行政改革の趣旨を踏まえ、観光庁等の設置のあり方について検討すべきである。

2.地域の主体性重視

魅力ある国・地域づくりという観点からは、地方自治体、民間が国とも協力しつつ、広域的な観光振興に努めることで主体的な役割を果たすべきである。基本計画では、「選択と集中」の観点から、創意工夫の発揮により魅力的な空間作りに向けた先進的な取組を行っている地域を支援する施策を打ち出すべきである。

3.規制緩和の推進

国際観光立国を推進する観点から各種規制の緩和、制度の運用改善を図るべきである(出入国手続の簡素化、ビザ発給要件の緩和等)。

4.国際観光プロモーション機能の強化

国際観光プロモーションを一層効果的に展開するために、政府は、民間のノウハウが十分に活かされるよう、インバウンド推進事業を展開している関係機関(在外公館、VJC実施本部、JNTOなど)の連携を強化すべきである。将来的には、VJC実施本部とJNTOについて、それぞれの長所を活かす形での機能の一本化に向けた検討を行うべきである。

II 観光立国の実現に関する目標

現在、政府は、2010年までに訪日外国人旅行者数1000万人を達成すべく、ビジット・ジャパン・キャンペーンをはじめとする諸施策を展開しているが、今後は、観光立国の実現に向けて、例えば以下の事項について目標を定めるべきである。

  1. (1) 国・地方における国際観光収入の増加目標
    (地方については、広域連携による観光振興の観点から、東北、中部、九州などブロック単位で目標を設定するのも一案である。)

  2. (2) 空港手続の簡素化・迅速化
    (全国際空港における出入国手続にかかる時間平均10分以内など)

  3. (3) なお、日本の対外イメージ、例えば(1)「伝統とハイテクの国 日本」(最先端技術・伝統文化・ポップカルチャー)、(2)「四季と食文化の国 日本」(起伏に富む自然、四季折々の風情、地域独自の食文化)、(3)「安全・安心ともてなしの国 日本」(治安の良い快適な国、ホスピタリティ)のそれぞれについて、海外における定着度の目標を設定することが考えられる。

III 講ずべき施策

1.観光旅行者の来訪に必要な交通施設の総合的な整備 (14条関連)

  1. (1)交通施設等のインフラ整備に際しては、国内主要空港、港湾、鉄道、道路の整備により都心・国内主要都市・観光地へのアクセスの向上を図るべきである。特に、空港については、羽田空港を中心として24時間化・国際化の推進に取り組むべきである。

  2. (2)空港・港湾等における設備のうち、民間のノウハウの活用によってサービスの向上が期待できるものについては、PFI(Private Finance Initiative)を導入すべきである。

2.観光の振興に寄与する人材の育成 (16条関連)

  1. (1)大学の観光学部、経営学部等の充実を図り、地域の総合プロデューサー的人材や観光分野におけるマーケティングに精通した高度人材等を育成すべく、必要な措置を講じるべきである。

  2. (2)「観光関係人材育成のための産学官連携検討会議」(国土交通省)、「集客交流経営人材事業運営委員会」(経産省)、「サービス・イノベーション人材育成推進プログラム」(文部科学省)等、観光分野を対象に人材育成に向けた取組がなされてきたが、今後、これらの取組を連携させつつ、人材の育成に向け予算、ノウハウ等を集中的に投入すべきである。

  3. (3)民間企業は、インターンの受入、実務研修、大学への講師派遣や講座開設等の面で人材育成に貢献し得る。

3.外国人観光旅客の来訪の促進 (17条関連)

  1. (1)現在VJC実施本部が推進している国別のプロモーション活動を基本計画の一部として明確に位置づけるべきである。

  2. (2)VJC実施本部とJNTOは、それぞれの長所を活かす形で連携を強化し、国際観光プロモーションの効率的な展開を図るべきである。

  3. (3)外国人観光客の来訪を促進すべく、規制緩和ならびに制度上の運用改善を推進すべきである(IT化の推進も含めた出入国手続の簡素化、ビザ発給の要件緩和等)。

  4. (4)我が国の対外的なブランドイメージを確立するとともに、企業広告を活用したPR等、民間との連携によるプロモーション活動を推進すべきである。

  5. (5)国際会議・コンベンションの誘致に一層取組むべきである。

  6. (6)外国語による案内表示の整備とIT技術を活用した情報提供ツールの開発・普及を促進すべきである。

4.新たな観光旅行の分野の開拓 (23条関連)

  1. (1)産業観光を推進するため、国・自治体は具体的な支援措置を講ずるべきである(産業遺産の改修・保存のための財政・税制支援等)。

  2. (2)ライブエンターテイメントを通じた集客を図るべく、ホール・劇場・映画館、コンベンションセンター、ホテル、レストラン、ショッピングセンター等が集積する特区を設定し、税制上のインセンティブを講じるほか、必要な規制の緩和を図るべきである。

5.観光地における環境及び良好な景観の保全 (24条関連)

景観の保全・形成は屋外広告物の制限のみでは到底達成できない。歴史的建造物等の観光資源を含む、街・地域全体の景観、観光地に至るまでの街道の風景等、美しい空間の創出が不可欠である。

  1. (1)各地域において、伝統的な街並等を含む街区を景観法に定める「景観地区」に指定し、条例に基づき景観を維持・形成していくことが重要である。地域の発意による景観の維持・形成を促すべく、先進的な取組に対して優先的に財政・税制上の支援を講じるべきである。

  2. (2)景観形成に不可欠な建造物の修復・復元、街路樹・公園・緑地・ウォーターフロント等の整備、歩いて廻れる道路づくり等を推進すべく、優先順位をつけた上で、必要な制度上ならびに財政・税制上の措置を講じるべきである。

6.観光に関する統計の整備 (25条関連)

  1. (1)各自治体が個別に実施している観光統計の基準の統一に向けた具体的な措置を明記すべきである。

  2. (2)民間事業者等は、観光統計の整備に向けた国・自治体の諸施策に協力する。

IV その他必要な事項

1.観光立国推進基本計画と国の他の計画との関係 (11条関連)

  1. (1)魅力ある国づくりの推進という観点から、観光立国推進基本計画と国土形成計画との整合性を図るべきである。

  2. (2)観光の広域性に鑑み、地域の基本計画を策定する場合は、国土形成計画のブロック計画との整合性を図るべきである。

以上

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