2006年度 自主行動計画第三者評価委員会 評価報告書

2007年5月8日
環境自主行動計画
第三者評価委員会

1.はじめに

京都議定書の約束期間が近づく中、地球温暖化問題への関心は内外ともに高まっており、日本経団連の環境自主行動計画で独自の達成目標を掲げた産業界にも、積極的な取り組みが求められている。
第三者評価委員会は、2002年の設置以来、環境自主行動計画の毎年のフォローアップの進捗状況を確認するとともに、信頼性・透明性の向上に向けて、検討すべき点を指摘してきた。今年度の評価報告では、これまでの指摘事項への対応とともに、環境自主行動計画の一層の充実に向けた課題や、産業界への期待について、以下取りまとめた。

2.これまでの指摘事項への対応状況の確認

今年度フォローアップにおいて、参加業種・企業の対応状況の確認を求めた事項は以下の通りである。

(1) 調査方法

  1. 1. フォローアップ対象範囲の調整
    参加業種間の重複を避けるためのバウンダリ調整については、他業種との調整がない場合も含めて、41業種から確認が行われた(前年度26業種)。産業・エネルギー転換部門においては、全ての業種について確認が行われており、今後とも継続されることを望む。他方、民生・運輸部門において、依然未確認の業種がみられる。これらの業種については来年度以降の確認が求められる。

  2. 2. 拡大推計の廃止
    拡大推計でなく実績値に基づくデータの使用については、47業種から確認が行われた(前年度43業種)。昨年指摘の通り、参加企業・事業所(CO2の発生場所)が極めて多数に上る業種など、推計的手法の活用も止むを得ない場合もあるが、実績値の割合の向上に努めるとともに、拡大推計を行う理由について説明が必要である。

  3. 3. エネルギー効率等の国際比較
    国際比較を実施した業種は前年度同様8業種に止まっている。諸外国における産業構造の違いや、比較に必要なデータの入手が困難であるなど、対応が容易でない場合も多いが、代表的製品に関する比較など、引き続いての検討が望まれる。

(2) 目標設定根拠

  1. 1. 各業種の目標指標採用理由
    業種業態の異なる参加業種・企業が、対策効果を検証する観点から、業種別の目標については、4種の指標 #1 から最適な指標の選択を可能としている。これに伴い、参加業種・企業は、目標指標の選択理由と、目標値の理由について説明が必要である。
    今年度は、目標値の選択理由について49業種(前年度34業種)、目標値の設定根拠については43業種(同26業種)と、殆どの業種から説明があった。残る業種についても、来年度以降、説明が望まれる。

    #1 CO2排出量、エネルギー使用量、CO2排出原単位、エネルギー使用原単位
  2. 2. 業種別目標の見直しへの対応
    環境自主行動計画も策定以来10年となり、当初見通し以上に成果が上がった場合には、より高い目標への取組みが期待される。日本経団連からも、目標の上方修正について積極的な検討を要請した結果、4業種(電機電子4団体、日本電線工業会、日本チェーンストア協会、日本百貨店協会) #2 が目標水準を引き上げ、1業種(日本自動車部品工業会)が目標指標の追加を行ったことは高く評価する。これら業種においては、新たな目標の達成に向けた着実な努力を期待する。
    また、1企業(NTTグループ)が、CO2排出量からCO2排出原単位 #3 に目標指標の見直しを行った。これは、通信事業をめぐる状況が急速に変化する中で、業界努力を反映し得る指標への変更を目的としての見直しであったが、結果的に実質的な目標の下方修正とならないよう注意が必要である。昨年度の指摘を受けて、日本経団連では、「原則として、上方修正以外の個別目標の見直しは認めない」旨の方針を確認しており、この方針を堅持するとともに、参加業種・企業は目標の確実な達成が望まれる。

    #2 このほか、日本フランチャイズチェーン協会が目標水準引き上げを今年度実施した。但し、経団連自主行動計画には今回からの参加であるため、目標の上方修正について評価対象とはしなかった。
    #3 通信系事業会社は契約数当り排出量、ソリューション系事業会社は売上高当り排出量。
  3. 3. 2010年度以降の取り組み
    環境自主行動計画では、産業・エネルギー転換部門に関する全体目標について、2010年度のCO2排出量を1990年度レベル以下に抑制することとしている。他方、京都議定書の第一約束期間は2008年から2012年の5年間であり、両者の関係について考え方の整理が望まれていた。今般、日本経団連として、この目標を5年間の平均として達成する方針を確認したことを評価する。参加業種には、この目標達成に向けた着実な取り組みを期待する。

(3) 目標達成の蓋然性の向上

  1. 1. 2010年度の予測値前提の統一
    2010年度の予測を行う際の前提となる経済指標の明確化については、(事務局提示の)統一指標を使用した業種が37業種(前年度25業種)であった。独自の指標を用いた18業種からは独自指標採用理由の説明があった。依然15業種については説明が十分でなく、来年度以降の対応を改めて望む。

  2. 2. 京都メカニズムの活用状況
    業種別目標ならびに産業・エネルギー転換部門の全体目標の達成蓋然性を見通す上でも、京都メカニズムの活用方針の有無と、活用する場合は対応状況を確認することが望まれる。35業種から、現時点での活用方針が確認され(前年度5業種)、10業種から具体的事例や獲得クレジット量の見通しについて報告があった。クレジットの獲得量については、プロジェクトの進捗状況等により、途中段階での確認は単純にはできないが、引き続き積極的な報告が望まれる。

  3. 3. 対策効果の定量的評価
    参加業種・企業の目標達成の見通しについては35業種、今後強化する対策項目については47業種、および定量的効果については15業種から説明があった。今後、目標年度が近づくに伴い、より正確な見通しが求められる。参加業種・企業には、引き続きできるだけ具体的、定量的な見通しと対策効果の提示を期待する。

(4) 要因分析

  1. 1. 原単位指標の充実
    要因分析に関して、従来対応を求めていた事項については、CO2排出量の増減理由の説明について50業種(前年度44業種)、CO2排出量増減の定量的な説明について35業種から説明があった。昨年度新たに指摘した、原単位変化理由の説明については、47業種、原単位変化の定量的説明については34業種の対応が確認された。CO2排出量に関する要因分析はもとより、原単位変化の分析は、各業種・企業の対策を進める上で有益であり、一層の充実を期待する。

  2. 2. 費用対効果を含む対策効果の説明
    温暖化対策別の費用対効果分析は、環境自主行動計画の効果の説得力を高める上で有効である。今回37業種(前年度29業種)から報告があり、充実が図られていることは評価できる。今後とも、より多くの業種における分析の充実を期待する。

(5) 民生、運輸部門への貢献

  1. 1. 産業・エネルギー転換部門の参加業種による対策の推進
    産業・エネルギー転換部門における業務・運輸部門からのCO2排出に関する現状報告は13業種(前年度25業種)にとどまっている。また、業務・運輸部門に関する目標の策定は1業種(石油連盟)のみとなっている。産業・エネルギー転換部門の業種においては、主たる事業以外の取組みとなるが、未対応業種における早期検討が望まれる。

  2. 2. LCA的評価の充実
    製品・サービスの使用段階における排出削減効果については、16業種から説明(前年度24業種)があった。LCA的評価が容易でない業種もあるが、利用者が製品・サービスを選択する際の情報提供の観点からも、定量的な評価をはじめ記載の充実が必要である。

  3. 3. 民生・運輸部門の参加業種による取組みの充実
    民生部門については、生命保険協会と日本フランチャイズチェーン協会の新たな参加を得たことは環境自主行動計画の充実に資するものであり歓迎する。また、全国銀行協会において、定量的目標が新たに設定されたことも評価する。これら業種においては、目標の達成に向けた着実な取り組みの推進が期待される。他方、定量的なデータの整備が不十分な既参加業種において、改善がなかったことは残念である。産業・エネルギー転換部門も含め、オフィスや物流等に関する温暖化対策の重要性は高まりつつある。環境自主行動計画全体としても、フォローアップ手法やデータ整備、目標のあり方について、早期の整理が求められる。

3.環境自主行動計画の充実に向けた課題

(1) 環境自主行動計画に期待される役割の拡大

京都議定書の目標達成に向けて、環境自主行動計画における対策強化への期待も高まっている。京都議定書目標達成計画において環境自主行動計画が果たす役割を明確にするとともに、産業・エネルギー転換部門の全体目標の達成と、参加業種・企業の個別目標達成が強く求められる。
さらに、現在の目標達成のための対策にとどまらず、長期的な視点からの対策も含め、継続的に計画を強化していく必要がある。産業・エネルギー転換部門の全体目標についても、経団連自主行動のこれまでの実績を考慮しつつ、引き上げの可能性を検討していくことが望まれる。
今後の取り組みを評価する観点からは、景気などに左右されずに業界の努力をより正確に反映しやすい原単位目標が望ましいが、京都議定書約束期間が近づいていることをふまえ、従来以上にCO2排出総量の抑制・削減に努力することが望まれる。その際には、LCA的評価を含め、社会全体でのCO2排出総量の削減に繋がる取り組みが必要である。

(2) 目標水準を達成した業種の対応

既に当初の目標水準を達成している業種については、環境自主行動計画の特徴を活かし、目標の引き上げの検討が望まれる。目標の引き上げについては、現時点では目標の水準を達成していても、今後様々な要因で目標の達成が厳しくなる可能性もあることを勘案し、現行の目標を維持しつつ、例えば「努力目標」の設定など、可能な限り高い目標を目指すことを推奨する。
他方、達成見通しの厳しい業種については、対策の強化を求めていく必要がある。日本経団連としても、各業種の進捗状況の評価方法を検討し、今後のフォローアップにおいて整理、公表することが望まれる。

(3) 目標達成の蓋然性向上に向けた取組み

産業・エネルギー転換部門の全体目標達成の蓋然性については、参加業種の排出量の9割を占める上位7業種の見通しを基に試算し、2010年度時点での目標達成は可能としている。今般、目標年が2008年度から2012年度の5年間平均となり、フォローアップ期間が2012年度まで延長されることに伴い、必要に応じて、例えば2010年度時点での中間評価なども検討が必要であろう。
また、目標達成の実効性を判断していく上で、諸対策の投資額と排出削減量の関係や原単位の変化等、費用対効果分析の充実が望まれる。
なお、京都メカニズムのクレジットの利用については、フォローアップにおいても、業種別目標の達成のための活用方針を毎年確認しているが、環境自主行動計画達成のためにクレジットを活用する場合の扱いについても説明が必要である。

(4) 電力排出係数に関する考え方の整理

関連して、多くの環境自主行動計画参加業種にとって、目標を達成する上で電力の排出係数の影響は少なくない。自主行動計画のフォローアップでは、これまで電気事業連合会の提供する当該年度の排出係数を活用しているが、今般、温暖化対策法における算定報告公表制度における係数の扱いや、PPS(特定規模電気事業者)の利用拡大の可能性もふまえ、自主行動計画における係数の取り扱いについても、早急に考え方を確認する必要がある。

(5) 民生業務・運輸部門の対策強化

民生業務部門については、自主行動計画参加業種が利用するオフィス、店舗等は多数に上ると考えられる。テナントとして入居する場合など、実績値の把握が困難であったり、エネルギー使用を管理する立場にないなど課題も多いが、関係者の理解を得るとともに、連携協力による現状把握と可能な対策の展開が必要である。
特に民生業務部門のCO2排出状況の調査については、現在、産業・エネルギー転換部門も含めて、本社ならびに主要事業所等における対策とデータ把握が中心となっている。温対法、省エネ法の施行状況も踏まえつつ、各種対策による効果の評価のあり方についても検討することが期待される。
また、民生業務・運輸部門においては、需要側の状況が大きく影響することから、需給双方の相乗効果を発揮していく必要があり、今後、業種間連携の効果についても評価することが望まれる。

(6) LCA的評価の重要性

併せて、LCA的評価は、特に民生・運輸部門における影響が大きいことから、今後とも充実を図る必要がある。
また、こうした評価をふまえ、対策の成果を挙げていくためには、生産、流通、消費等の各段階で関係する業種が連携し、有効な対策を検討・実施する必要がある。既に企業単位では各種の協力が進められているが、環境自主行動計画参加業種レベルにおいても、課題の整理と対策の検討、共有化に取り組むことが望まれる。

(7) 森林を通じた温暖化対策の評価

森林に関する温暖化対策についても、自社保有林の管理をはじめ、内外での植林活動、ボランティアによる森林整備への協力など、業界・企業として多様な取り組みが展開されている。特に、わが国の京都議定書目標達成における森林吸収源の役割は大きく、環境自主行動計画の目標の対象外ではあるが、その対策効果を整理するとともに、積極的に公表していくべきである。

(8) 政府による間接的な支援の重要性

環境自主行動計画の直接の対象範囲を超えて、一層の効果をあげていくためには、政府による間接的な支援策も重要である。国民の理解促進に向けた情報提供とともに、企業の省エネルギー・省CO2への自主的な取組みがビジネスチャンスとなり、積極的な取り組みを促す好循環に繋がるよう、税制面の支援策をはじめとする各種対策の検討を期待する。

(9) 二酸化炭素以外の温室効果ガス排出抑制への取り組み

現在、日本経団連の環境自主行動計画では、対象とする温室効果ガスをCO2の排出に限定している。京都議定書での削減対象であるその他の温室効果ガスのうち、代替フロン等3ガス(HFC、PFC、SF6)については、別途関係業界が自主行動計画を策定し実施している。日本経団連の環境自主行動計画においても、メタン、N2Oを含め、関係業界の取り組み状況の記載を求めているが、説明の充実が望まれる。

4.自主行動計画の有効性の説明と内外への積極的発信

個別対策の効果については、定量的な説明を拡充されつつあるが、個別対策の効果にとどまらず、建物の断熱性強化やモーダルシフトなど複数の対策による相乗効果が大きい事例についても分析と説明が期待される。
原単位による各業種のエネルギー効率の国際比較については、諸外国におけるデータ整備の状況や、比較対象となる事業範囲の違いなど、全ての業種において実施するには困難も多いが、可能な範囲で検討を進め、より多くの業種において現状の評価を示すべきである。
また、原単位の国際比較については、業種ごとに様々な指標が選択されている。最も適切に評価し得る指標が業種毎に異なることは止むを得ないが、できるだけ物量ベースの原単位で比較していくことが望まれる。
こうした検討にあたっては、外部有識者・研究機関との連携・協力等により客観性の確保を図るとともに、英文ジャーナルの活用等による情報発信に努めるべきである。
毎年実施されるフォローアップを通じて、環境自主行動計画は着実に充実しつつある。参加業種・企業には、目標の着実な達成を目指すとともに、環境報告書等を活用し、自主行動計画を通じた自らの取組みを積極的に紹介し、その成果に対して理解を得ていくことも重要である。

以上

〔 別紙 〕

第三者評価委員会 委員名簿

2007年4月27日現在
委員長内山 洋司(筑波大学大学院 システム情報工学研究科教授)
委員青柳 雅(三菱総合研究所 前上席研究理事)
浅田 浄江(ウィメンズ・エナジー・ネットワーク(WEN)代表)
佐藤 博之(グリーン購入ネットワーク事務局長)
真下 正樹(日本林業経営者協会 相談役)
松橋 隆治(東京大学大学院 新領域創成科学研究科教授)
吉岡 完治(慶應義塾大学 産業研究所教授)

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