規制改革の意義と今後の重点分野・課題

2007年5月15日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

本年1月26日、規制改革・民間開放推進会議の後継機関として、規制改革会議(議長:草刈隆郎 日本郵船会長)が発足した。規制改革会議は早速、重点検討課題を設定し、5月下旬にも第1次答申をとりまとめるべく、精力的に検討を行っている。官主導社会から脱却し、個人や企業の多様な挑戦を促して経済社会の活性化を図る観点から、日本経団連は規制改革の推進を最重要課題の一つに掲げており、規制改革会議の活動を引き続き支援していきたい。
規制改革の進展がわが国経済社会の活性化に果たしてきた役割は、特に1990年代半ば以降顕著であるが、他方、規制改革がわが国の社会に負の効果をもたらしたという批判も聞かれる。本提言では、規制改革の今日的意義をあらためて確認するとともに、新たな視点から今後の規制改革における重点分野・課題を整理し提示することとしたい。

1.深化する規制改革とその意義

(1) 経済社会の変革を促したこれまでの規制改革

政府が規制改革に本格的に取り組むようになったのは、一般に、1995年に「規制緩和小委員会」が設置されて以降であり、以来、規制改革は深化しながら着実に成果を挙げてきた。
例えば、各種事業法に基づく参入制限が緩和・撤廃されるとともに、官業とされてきた分野が民間に開放されることにより、民間事業者の事業機会が拡大した。消費者にとっても、規制改革によるメリットは決して小さくなく、内閣府の試算によると、1990年代以降の規制改革による利用者メリットは、対象14分野(2005年度時点)で約18兆3千億円、国民一人あたりに換算すれば約14万4千円にもなっている#1
規制改革の意義は、時代の要請とともに変化している。例えば1980年代の後半から90年代のはじめにかけては、海外から見て閉鎖的とされてきたわが国市場の開放や、経済活動に関わる制度の透明性向上が強調された。また90年代以降は、経済的規制の緩和・撤廃を通じて民間事業者の自由な経済活動を促進するため、「事前規制から事後チェックへ」と経済活動に対する官の関与のあり方が根本から見直されることになった。21世紀に入ると、規制改革は、社会保障や労働、教育など国民生活に密接に関係する制度の改革に踏み込むようになり、さらにそれまで官が行ってきた事業や行政サービスの民間への開放へと深化してきた。こうした社会的規制の改革および民間開放は、国民の多様なニーズにあわせて多様な選択肢と質の高いサービスを提供し、わが国の経済社会に新たな付加価値をもたらすものと理解されつつある。
わが国ではこれまで、各種業法や許認可を通じて、所管官庁と所管業種という欧米にはない密接な関係が存在するとされてきた。しかし、こうした関係は、規制改革やグローバル化の進展によって、大きく変化している。規制改革は、経済活動・国民生活に対する官の関与のあり方を根本から見直すものであり、つきつめるところ行政改革、なかんずく公務員制度改革につながる。タテ割り行政の弊害を排除し、真の意味で民間主導の経済社会を実現するとともに、官の役割を再定義して国家の競争力を強化するとの観点から、規制改革と公務員制度改革のさらなる取り組みが求められよう。もちろん企業は、公正、透明、自由な競争ならびに適正な取引を行うとともに、企業倫理の確立に努め法令遵守の取り組みを強化することが必要である。
また、規制のあり方は時代の変化に伴い、変わりゆくものである。時代にそぐわなくなった規制や役割を終えた規制を廃止し、必要とされる規制を新設するといった、適時適切な規制の改廃が求められており、全ての法令、通知・通達の周期的な見直しに取り組む必要がある。

(2) これからの規制改革の意義

これからのわが国は、少子化・高齢化が進む一方で、さらに厳しいグローバル競争にさらされることになる。日本経団連は、本年元旦に発表した新ビジョン「希望の国、日本」の中で、今後めざす国のかたちを、

  1. 精神面を含めより豊かな生活、
  2. 開かれた機会、公正な競争に支えられた社会、
  3. 世界から尊敬され親しみを持たれる国、

であるとしている。このように国のあり方、社会のあり方が変化を遂げていく中で、規制改革の今日的意義についても再確認することが求められる。
第一に、規制改革とイノベーションによる成長を通じて、国民一人ひとりの生活が実際に豊かになることが重要である。規制改革によって新たな市場や需要が創造され、わが国経済全体のパイが拡大するとともに、消費者余剰も増大して成長力が増す。その結果、規制改革の果実が国民一人ひとりにいきわたることになるが、それを国民が実感できるようにすることが必要であろう。
第二に、地域の自立性・自主性を高める規制改革が求められる。日本経団連は2015年度を目途に道州制を導入することを求めている#2が、その目的は、地域経済の活性化を通じてわが国全体の活力と競争力を高めることにある。道州制導入の実現に向けて、官と民、国と地方の役割分担を明確にし、自立した地域経済圏を確立するためにも規制改革は重要である。この場合、地方においても規制改革の徹底が求められる。
第三に、わが国の国際競争力を高めることである。企業をはじめとする民間部門の競争力のみならず、公的部門の生産性向上も重要な課題である。このため、全ての法令、通知・通達を見直すことを通じて、官が担うべき役割を徹底的に見直し、限られた貴重な資源が国家としての競争力強化に効率的に活用されるようにすべきである。
同時に、グローバル化の動きに対応して、国際的なイコールフッティングを実現する観点からの規制改革も求められる。国内外の競争条件を調和させることによって、世界に対して開かれたオープンな市場が実現するとともに、わが国企業の活躍の場も拡大し、公正な競争を通じて付加価値を創造する力が高まることが期待できる。その意味で、経済的規制についても、あらためてその存在理由を再検証することが求められる。
第四に、従来の画一的・一律的な規制の運用にかわって、企業の優れた取り組みを評価し、これを奨励する規制改革が必要である。企業の多くはCSR(社会的責任経営)を重視し、コンプライアンス面で求められる水準より厳しい基準を自らに課して事業活動を行っている。そうした優れた取り組みを奨励するためにも、コンプライアンスへの取り組み面で優れた企業などに対しては、事業活動の面でより高い自由度を容認するなど、インセンティブを与える必要がある。
冒頭で述べたように、規制改革が格差の拡大などわが国の社会に負の効果をもたらしたとの批判が聞かれる。しかし、規制改革によって競争が促進されれば、成長が高まり、資源の最適配分が円滑に行われることを通じて、格差が固定化されることが回避できる。セーフティネットが確保されていれば、たとえ敗者となっても再び挑戦して勝者となることは十分可能である。競争に参加する活力を引き出すためにも、規制改革の手綱を緩めてはならない。今日の社会において、格差はむしろ、既得権を持つ者と持たざる者との間に存在する。規制改革はそうした既得権の打破を通じて、格差の縮小に貢献するものである。

2.今後の規制改革をリードする10の重点分野・課題

規制改革の今日的意義にそって、今後の規制改革における重点分野・課題を新たな視点から整理し、提示したい。

生産性向上、需要創造・イノベーションに資する改革、地域の活性化に資する改革

(1) 官業の民間開放

これまで官業とされてきた分野を民間に開放し、市場化テストなどの手法によって行政サービスに競争を導入することで、これまで官が担ってきたサービス分野の生産性向上が図られるとともに民間事業者の事業機会が拡大し、わが国全体の成長力が高まることが期待できる。
特に、景気回復が十分に実感されていない地域では、行政サービスが地域に密着したサービス産業となり、そこに市場が形成されることによって雇用機会の拡大が期待される。
しかし現状では、政府が行った市場化テストの要望募集に、2006年にはのべ193件が寄せられたが、実際に選定された事業はわずかに27事項にとどまっている。また、民間から寄せられる個別の民間開放提案に対しても、例えばハローワークの包括的な運営など、所管官庁の反対により進んでいない。
そこで、官民の役割分担をゼロベースで見直し、民間から提案がある事業は、原則として市場化テストや民間開放の対象事業とすべきである。また所管省庁としても、民間委託や民間開放が不可能であると判断した事業については、どのような処置を行えば民間委託・民間開放が可能になるかという説明責任を果たす必要がある。

(2) 地域の活力を引き出す国と地方の規制のあり方

わが国は今後、地域の自立と活性化を通じて国全体の成長を図っていく必要がある。そうした中、国から地方への過剰な関与によって、地方公共団体が地域の特性を活かす政策を企画・立案・展開することができない分野がある。国から地方への過剰な関与を排除して、地域の自立と競争力の強化を促し、道州制の導入に向けた基盤を整備することが重要である。
他方、港湾諸手続きや流通業における立地関連規制などにおいては、地方公共団体ごとに規制や行政手続き、届出様式が異なることで、広域的な活動を行う企業の事業活動が阻害されるケースも見られる。全国的に整合性・統一性が図られることが望ましい規制については、国の主導により統一を図ることが求められよう。道州制の導入には、国の役割を最小限のものに限定しつつ、地方への大幅な権限移譲を進めていく必要があるが、国と地方の規制のあり方について、国家としての競争力確立の観点から、グローバル競争の時代にふさわしいものに見直していくことが求められよう。

(3) 農業分野の生産性向上

地域の活性化のためには、農業をはじめとする第一次産業の再興が不可欠である。しかしながら、国内では農業従事者の減少や高齢化が進展しており、また耕作放棄地も年々増加している。その中で、多様な担い手の参入が期待されるが、株式会社の農業参入の方法は、農業生産法人や、市町村が定めた地域でのリース方式などに限られている。農林水産省が実施したアンケート調査でも、多くの参入法人が現行制度の問題点を指摘している#3
そこで、国際化対応の観点も踏まえて、国内農業の生産性の向上を図り、農業を産業として活性化させるために、農業の構造改革を前倒しで進める必要がある。「農地を保有する者は、農地を農地として有効に利用する責務がある」との理念を広く確立するとともに、農地の所有と利用の分離の推進、定期借地権の導入など農地制度の改革を図るべきである。また、生産基盤である圃場の大区画化や面的集積を支援するとともに、担い手の確保・多様化の観点から、農業生産法人の設立要件を緩和することに加えて、一般の株式会社の農業参入を促進すべく、現在市町村が定めている区域以外の地域でもリース方式による参入を進めることが必要である。このほか、わが国の農業および食品加工業等の食品関連産業の競争力強化の観点から、原料・資機材等の流通面の見直しも求められる。

公正な競争を促し、再チャレンジ・多様な選択を可能とする改革

(4) 雇用・労働法制の見直し

現代人は様々な価値観を持ち、それぞれ自らの価値観に基づいて行動する。ICTの進展などの進歩もあり、人々のライフスタイルはますます多様性を増している。しかし、雇用・労働関連の法制を見ると、人々の多様な働き方のニーズに対応できていない。
わが国ではすでに、労働力人口の減少が始まっている。人々のさまざまな働き方に対するニーズに応えるためにも、柔軟な雇用・労働法制の確立を通じて、働き方の選択肢を多様化し、生産性の向上を図らなければならない。あわせて、意欲と能力のある人に就労の機会が提供されることで全員参加型社会を実現し、経済社会の活力を維持・向上させる必要がある。
具体的には、自律的な働き方にふさわしい制度の整備や、裁量労働制の対象業務拡大など、労働時間法制の見直しに重点的に取り組むべきである。また、労働市場の活性化を図るために、有期労働契約の規制や解雇規制、労働者派遣法等の見直しが求められる。一方、企業年金制度では、雇用の流動化に即した規制改革を進め、特に企業型確定拠出年金に従業員拠出制を導入し、制度普及を促進すべきである。

(5) 教育再生

教育は、資源に乏しいわが国の競争力の源泉となる人材の育成に関わる重要課題であり、経済界にとっても関心の高いテーマの一つである。しかし特に義務教育の段階では、教育を受ける児童・保護者のニーズや評価が学校の運営に十分に反映されていない。内閣府の調査によると、現在の学校教育に「満足」と回答した保護者は13%で、他方「不満」と回答した保護者は43%にのぼっている#4
そこで、学習者主権を確立し、生徒一人ひとりの能力や適性を引き出す観点から、学校選択制の拡大と学習者による学校・教員評価制度の確立、児童生徒数を基準とした教育予算の配分、バウチャー制度の試行的導入、教育現場に必要な権限を付与し教育現場が学習者への説明責任を負う制度への転換に取り組むべきである。
また高等教育については、その質を高めるために、評価システムを適切かつ効果的に機能させることが不可欠である。そこで、認証機関による大学の機関評価をはじめ、教育活動や研究活動の分野別評価を行う体制を整えるべきである。また、大学においては、評価結果を踏まえた改善、教員評価の実施、大学の教育研究・財務状況・評価結果の情報開示などが強く求められる。

世界から信頼される、オープンな日本になるための改革

(6) 貿易関連諸制度の改善

今後、わが国が世界のダイナミズムを取り込み、自らの経済成長に結びつけるためには、グローバルな視点でのルールの標準化を推進することが必要であり、世界貿易機関(WTO)を中心とした多角的自由貿易体制の維持・強化と、わが国との経済関係が深く重要な国・地域との間の経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)の締結を「車の両輪」として、戦略的かつ一貫性のある通商政策を展開する必要がある。
今日、欧米諸国ではセキュリティ強化と貿易円滑化の両立に向けた施策が講じられている。これに対してわが国では、関係省庁それぞれの所管の範囲内で制度を見直すにとどまっており、貿易関連諸手続きがグローバルに事業展開する企業のビジネスの実態に則していない。そこで、以下の施策を総合的に講じるべきである。
まず通関制度については、コンプライアンスの優良な事業者に輸出入手続きの簡素化などのメリットを付与する「日本版C−TPAT#5」を導入し、欧米諸国との相互認証を実現する。また、EPAの特恵関税の利用促進のため、原産地証明制度について、発給主体の多様化や料金体系の弾力化、手続きの簡素化・ペーパーレス化などの基盤整備を実現する。さらに、現行の第三者証明方式と並行して、自己証明、認定輸出者証明などの制度を導入する。港湾行政については、真のワンストップサービスの実現に向けて、各港湾管理者ごとに異なる手続きの統一や簡素化を早急に進め、いわゆる府省共通ポータル#6の稼動(2008年10月予定)後1年以内を目途に、次世代シングルウィンドウに組み込むことが重要であるほか、いわゆるポートオーソリティ#7の実現を目指す。

(7) 外国人材の受入れ促進

わが国が世界から信頼され、親しみを持たれるためには、人や文化の交流をさらに促進することが重要である。わが国にとっても、優秀な人材をグローバルなマーケットから獲得することで、多様な価値観や発想力による企業活動の活性化や国際競争力の強化が実現する。また、介護、農業、製造業、建設業、機械組立等に係る技能者については、将来的にも人手不足が予想されており、秩序ある受入れのための国内の受入れ体制・法制を早急に整備する必要がある。
まず高度人材については、在留資格要件や在留期間を緩和するとともに、在留資格認定証明書や査証発給手続の簡素化・透明性向上を図り、優秀な人材の受入れを促進する。一方、技能者については、経済連携協定(EPA)等の二国間協定や労働需給テスト#8を活用するなどにより、秩序ある受入れを推進する。さらに、外国人を住民として受入れ、各種の行政サービスを提供する観点から、外国人登録制度と住民基本台帳制度および住民基本台帳ネットワークとの融合を進める。加えて、外国人材に対する社会保障制度の適用を徹底するとともに、外国人のニーズにあった制度の確立をめざす。
外国人研修・技能実習制度については、受入機関による不正行為や研修・技能実習生の失踪も少なからず発生していることから、不正行為を行った受入機関に対する新規受入停止期間の延長など、より厳しい処分を行うとともに、研修・技能実習生本人に不適切な在留実態が認められる場合は、期限前でも研修・技能実習を打ち切り、帰国させる制度を導入する。同時に、一定の技能や日本語能力を修得した技能実習生へのインセンティブ措置として、再実習の制度化等を図る。なお、国民の不安をかきたてている外国人犯罪を減少させる観点から、わが国に合法的に在留している外国人が犯罪に引き込まれないよう、官民あげて彼らの生活基盤の確立を支援する一方で、関係機関が連携し、国際的かつ組織的な犯罪の抑止に取り組む必要がある。

(8) 航空利用者の利便向上

すでに空港インフラの整った欧米諸国に加え、近隣アジア諸国において利便性に優れた巨大空港が急速に整備されている中、わが国では、成田空港が2010年3月の北伸完成まで、また羽田空港が2010年10月末の第4滑走路完成まで、発着便数がほぼ現状のままに固定されるなど、特に首都圏空港整備の立ち遅れが際立つ状況となっている。一方、航空自由化協定#9締結の流れは、米国−アジア・オセアニア諸国間から米国−EU間へと拡大し、世界の潮流となりつつある。
これらの状況を看過し無策を続ければ、特にアジアとの人流や物流面における都市間競争において、わが国が不利な立場に追い込まれる懸念を高めることになろう。
こうした状況を一刻も早く改善するとともに、国家戦略としての観光立国実現の観点からも、国民、企業ならびに海外からの旅行者の利便性を向上させるため、首都圏における各空港が、国際的に遜色のないオペレーションが可能となる環境を整備するとともに、各々の特徴を活かした一体的かつ有効な活用および相互のアクセス網整備、羽田空港の国際化、実質的24時間化を可能な限り急ぐ必要がある。特に羽田空港については、再拡張工事期間中の全滑走路閉鎖時間の短縮化を図るとともに、比較的余裕のある深夜・早朝に加えて、昼間時間帯の発着枠を見直し、全時間帯で国際便の定期的な運航を実現する。また、相手国との相互互恵関係の確立やペリメータ規制#10の見直しなどを前提に、発着枠数増に合わせた民間主導による国際航空の自由化を進める。さらに、わが国へのインバウンドの旅客の利便性向上という点では、出入国手続きの簡素化・迅速化も必要である。

将来不安のない社会実現のための改革

(9) 医療制度改革

高齢化の進行に伴い給付費が増大する中で、今後も真に必要とする人に確実に医療が提供されるよう、国民一人ひとりの健康維持努力を前提に公的医療保険制度をセーフティネットとして位置づけるとともに、保険内外を通じた国民の医療サービスの選択の幅を拡大していく必要がある。
一方、セーフティネットとしての公的医療保険であっても効率的に運用される必要があり、保険医の更新制を導入し提供される医療の質を担保するとともに、医療の標準化の推進あるいは事務手続き等の効率化を図るためのICT化推進などが不可欠である。
また、国民の多様な医療ニーズを充足していくため、医療保険外診療と保険診療の組み合わせの原則自由化など硬直的な制度の見直しが求められる。あわせて利用者の選択の一助として客観的な基準にもとづく専門医制度を確立するとともに、医療提供者の技術向上に対するインセンティブが働くよう、現行の一律的な診療報酬を改め、技術に応じた適正な評価を行っていくべきである。
さらに、わが国において日進月歩の医療技術の恩恵を国民が享受しやすくするために、画期的な医療機器、医薬品等の迅速な提供が可能となるような承認・審査体制などの見直しが求められる。
これらの施策を通じ、医療産業が今後わが国の経済の牽引役としての能力を発揮でき、同時に公的医療保険の効率化が促され、結果的に国民が真に求める医療サービスの享受が可能となるような制度整備が望まれる。

(10) 子育て環境・保育の充実

乳幼児を抱える子育て世帯において、働き方や価値観の多様化に伴い、保育サービスに対するニーズは多様化しており、保育サービスの量的な拡充とサービスの質の向上が求められる。特に都市部を中心とする待機児童問題を解消するため、認可保育所だけでなく、質の確保を条件に認可外保育所、ベビーシッター、保育ママなどを利用しやすくする仕組みを導入して、量的な拡充を急ぐべきである。また、専業主婦や育児休業期間中の家庭を含めてあらゆる子育て世帯が利用できる地域の子育て支援拠点を充実していく必要がある。
さらに、サービスの質の向上に向けては、利用者が多様な保育サービスを自由に選択できるようにして、保育サービス提供者間で競争メカニズムを機能させ、利用者のニーズを柔軟かつ的確に反映していく仕組みが求められる。そのためには、認可保育所における「保育に欠ける」要件の見直しや利用者とサービスの提供者の間で直接契約できる仕組みの導入などが必要である。

3.日本経団連の今後の取り組み

日本経団連は、以上の重点分野・課題の実現に向けて、会員企業・団体から寄せられた個別具体的な規制改革要望をとりまとめ、政府の「あじさい月間」および「もみじ月間」に提出し、その実現に向けた活動を積極的に展開する。上記の重点分野・課題については、規制改革会議が重点検討課題に設定しているものと重なるものも多いことから、これまで以上に同会議との連携を強化していきたい。
もちろん、上記重点分野・課題以外にも、金融・資本市場の整備や都市・地域の再生など、規制改革の求められる分野・課題は多い。特に、アジア諸都市の成長は目覚しく、このままの状態を放置しておくと、海外企業のアジア拠点がわが国から消えてしまうという事態に陥る危険性もある。したがって、わが国の競争力向上のためにも、市場の整備など都市の魅力を増す施策について検討すべきである。
日本経団連が毎年実施している「規制改革要望に関する調査」では、のべ数百を超える要望が寄せられる。「規制の真髄は細部に宿る」といわれる通り、個別要望の実現も規制改革の重要な課題である。政府への地道な働きかけを通じて、一つでも多くの改革が実現されるよう努めていく。
本提言の考え方が、規制改革会議が5月にもとりまとめる第1次答申、および政府の「骨太方針2007」に反映されるとともに、確実に実現されることを強く望みたい。
日本経団連としても、会員企業に対して、社会的責任を重視した経営を行い、企業倫理の確立に向け強力に取り組むよう要請していく。

以上

  1. 「政策効果分析レポートNo.22・規制改革の経済効果−利用者メリットの分析(改訂試算)2007年版−」 2007年3月28日 内閣府政策統括官室(経済財政分析担当)
    利用者メリットとは、主要な規制改革の開始年度を「基準年度」とし、そこから増加した分の「消費者余剰」を指す。消費者余剰とは、「消費者・利用者がその財・サービスを購入するに際して、実は支払ってもよいと考える最大の金額から実際に支払った金額を差し引いた金額」であり、規制改革によって価格・料金が低下し、購入が増えれば、消費者余剰は増加する。
  2. 「希望の国、日本」2007年1月1日 日本経団連
    「道州制の導入に向けた第1次提言−究極の構造改革を目指して−」 <PDF> 2007年3月28日 日本経団連
  3. 「農外から農業に新規参入した法人(同法人が参入している市町村を含む)に対するアンケート結果」 2006年9月1日 農林水産省
  4. 「学校制度に関する保護者アンケート調査結果」 2005年10月6日 内閣府
  5. Customs-Trade Partnership Against Terrorismの略。米国で実施されており、輸入者がコンプライアンスプログラムを作成し、サプライチェーン上で自主的にセキュリティを確保するプログラム。
  6. 申請者の視点に立って、輸出入および港湾・空港手続を簡素化・迅速化するため、NACCS(通関情報処理システム)、港湾EDIシステム等、関係6府省7システムを統合した、ポータルサイト。
  7. 欧米における港湾の管理組織の一形態であり、公共企業体方式によって運営されるものをいう。ロンドン及びニューヨークのポートオーソリティがその代表的なものであり、独立採算を基本とし、単に港湾ばかりでなく、空港、バスターミナルなども包含して管理運営している。
  8. 労働市場テストとも言う。一定期間求人を出し、国内労働者により充足されないことを確認するなど国内労働市場の状況を踏まえて、外国人に在留・就労の許可を与える制度。主に現場労働の分野で適用される。
  9. 国際線の発着都市・便数・運賃・運行する航空会社等を従来のように政府間交渉で決めるのではなく、市場ニーズに基づき、航空会社が国際線便を柔軟に提供できる内容となっているもの。
  10. 空港からの距離を基準に国際線の運行路線を制限すること。国際便運行距離規制。羽田空港については、国際化した場合に「羽田から一定距離以内の路線とする。羽田発着の国内線の距離をひとつの目安とする。」との考え方が国土交通省から示されている(「羽田空港再拡張事業に関する協議会」(2003年6月12日国土交通省資料))。

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