わが国国際協力政策に対する提言と新JICAへの期待

2007年5月15日
(社)日本経済団体連合会

わが国国際協力政策に対する提言と新JICAへの期待(概要) <PDF>


日本経団連では2006年6月、「海外経済協力と国際金融業務のあり方に関する提言」を公表した。ODAの司令塔としては、2006年5月に総理が主宰する「海外経済協力会議」が発足し、また外務省においては国際協力に関する企画立案能力を強化するとの観点から、同年8月国際協力局が新設された。ODAの実施機関については、国際協力銀行(JBIC)の円借款担当部門が明年10月、国際協力機構(JICA)と統合し、新JICAとして発足することが正式に決定されている。一方、JBICの非ODA部門は、日本政策金融公庫の国際金融部門(対外名称は「JBIC」)として、業務を継続することとなった。ここに改めて、国際協力のあり方について意見を表明する。

司令塔「海外経済協力会議」

日本経団連では予てより、ODAの司令塔が必要であると主張してきた。今回の改革により、総理主導の司令塔である「海外経済協力会議」が発足したことを評価する。ただし、同会議は関係閣僚のみで構成されていることに鑑み、会議において論議される基本方針を踏まえ、外務省をはじめとする関係省庁の施策の下で、実施機関も一体となって経済協力を推進することを期待する。

新JBIC

新JBIC(日本政策金融公庫の国際金融部門)には、引き続き国際金融の専門性を十分に活かし、実質的に独立した機関として、わが国企業の国際活動を後押しする機能を従来にも増して発揮することが望まれる。

新JICA

日本経団連では、技術協力、無償資金協力、有償資金協力(円借款)の3スキームの有機的連携の必要性を主張してきた。新しいJICAではこれが可能となるはずである。現在、組織統合に向けた各種の議論が行われており、これまでの制度を抜本的に見直す絶好のチャンスである。新JICAには、人材育成、人道援助のみならず、相手国の経済成長支援を促進するための経済・社会インフラ整備を重視するよう望む。また、新組織となるメリットが明確に伝わる制度改革(例えば、円借款事業の形成から実施までの期間半減)を期待する。

ODA予算

ODA予算については、国際協力はわが国の国際社会に対する責務であることを深く自覚し、ODAの事業量が必要量を確保できるよう努力すべきである。また、わが国はODAを通じて世界に貢献するという明確なメッセージを、内外に伝えるべきである。

明年2008年は、新JICAが10月に発足するほか、5月にTICAD(アフリカ開発会議)が、7月下旬には北海道・洞爺湖でG8サミット(主要国首脳会議)が開催されることとなっており、わが国の国際協力のあり方を規定する重要な年になる。そこで、日本経団連では基本的理念に関する前述の提言を踏まえ、わが国国際協力に対する提言と新JICAへの期待を実務的な観点より表明する。

1.わが国国際協力政策に対する提言

(1)経済成長に資する援助と担い手としての民間の重要性

わが国は戦後の復興やアジア支援の体験から、ODAを途上国の自立的経済発展を促すための手段と捉え、経済・社会インフラ整備、人材育成、制度構築の支援に努めてきた。
ODAは民間貿易や投資を誘引・促進するための触媒であり、民間経済活動とリンクしてこそ開発効果が最大になる。とりわけ2国間の援助については、わが国の優れた技術・ノウハウを極力活用した「顔の見える援助」を展開し、わが国と途上国との関係強化に結びつけることが重要である。
現在のODAは、借款のアンタイド化が進み、また予算の削減傾向が続いていることなどから、リスクやコストが増大し、民間企業にとって魅力的な事業とは言えなくなっている。わが国民間企業が商業性を確保しつつ、持続的にODAに取り組めるよう、ODA事業のあり方を官民で見直さなければならない。見直しにあたっては、ODAは官民が協力して国民全体で行うものであることを再確認したうえで、タイド借款を制限する方向にある現在の国際ルールの是非についても議論すべきである。

(2)ODAの事業量拡大と円借款返済金の有効活用

厳しい財政状況の下、わが国ODAは10年連続で削減を余儀なくされている。ODA予算は、途上国問題にどれだけ熱心に取り組んでいるかという、極めてわかりやすい国際的な指標となっている。わが国は世界第2位の経済大国として、1990年代には世界一の援助国の地位を占めていたが、2006年実績(暫定値)では英国に抜かれ、3位に後退した。OECDのDAC(開発援助委員会)によれば、2010年にはわが国ODA供与額は世界第5位となると予測されている。
先進諸国はミレニアム開発目標(MDGs)達成に向け、GNI比0.7%に向けてODA増額に努力している。また、2008年にはTICADとG8サミットが控えている。わが国も責任ある国際社会の一員として、2008年度予算編成においてはODA予算の減少に歯止めをかけ、ODAの事業量が2005年の実績(131.5億ドル)を上回るよう、対外的に宣言すべきである。
2005年7月のグレンイーグルス・サミットにおいて、小泉首相(当時)が「今後5年間のODA事業量について、100億ドルの積み増しを目指す」と国際公約したが、一方で、昨年7月に公表された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(骨太の方針)は、ODA予算に関し後ろ向きの印象を国際社会に与え、外交政策上大きなマイナスとなっている。こうした不一致を是正していくためには、基礎的財政収支の黒字化を目指した2011年度までは、補正予算や円借款の積極活用によりODA削減分をできる限り下支えするとともに、「ODAを再び拡充する」という明確なメッセージを国際社会に伝えるべきである。
ODAの事業量を中長期的に着実に増加させるためには、例えば途上国からの円借款の返済金(2006年度は約6,000億円)を新JICAに別枠としてプールし、これを活用して案件発掘形成に資する調査を拡充し、STEP(本邦技術活用条件)などの多くの新規円借款が供与できるようにすべきである。

(3)資源・エネルギー確保と地球環境問題解決に資する援助

資源・エネルギーをめぐる国際的な獲得競争は激化している。わが国においては、自国の資源・エネルギー安全保障確保の観点のみならず、世界の資源・エネルギーの安定供給に貢献するためにも、企業による石油ガス、石炭を含む鉱物資源の権益・引取権の獲得は不可欠である。
海外経済協力会議において、また昨年発表された新・国家エネルギー戦略、経済成長戦略大綱においても、ODAの戦略的な活用を通じて資源国との経済関係の強化に取り組み、わが国民間企業の資源国における資源・エネルギー確保を側面から積極的に支援することが謳われている。
関係省庁においても、2008年10月に発足する新JICA、新政策金融機関・日本政策金融公庫の国際金融部門となる新JBICやNEXI(日本貿易保険)等と密接な連携をとりつつ、資源・エネルギー案件のため、インフラ(貨物鉄道、道路、資源積出港など)の整備や人材育成に努めるべきである。
また、地球温暖化問題解決に貢献すべく、知財保護を担保しつつ、わが国の世界最高水準の環境・省エネルギー技術をODAでも柔軟に活用すべきである。

(4)国際社会の一員としてのアフリカ支援への取り組み

ODA大綱によるまでもなく、わが国ODAの重点地域は引き続きアジアであることに変わりはない。わが国のODAはアジアで成功したといわれているが、日本型ODAモデルの有効性と信頼性をさらに高めるためには、いまだ潜在能力を十分に引き出せていないインドネシアやフィリピンの経済開発に引き続き注力すべきである。また、カンボジアやラオスのような後発ASEAN諸国、さらに依然として多くの貧困層を抱えるインド、パキスタンなどの南アジアの支援強化も忘れてはならない。
一方、アフリカ支援が国際的に大きな焦点となっている。世界第2位の経済大国であり、世界の安定と繁栄から恩恵を受けているわが国としても、国際社会の責任ある一員として、アフリカ支援に取り組むことが求められている。わが国企業の多くはアフリカに通じておらず、その貢献には自ずと限界があるが、国際社会が注目する中、わが国もアフリカを支援する必要がある。わが国が行うアフリカ支援は、絶対的貧困層への人道的配慮は行いつつも、アジアの経済発展に大きく貢献したインフラ整備、人づくり、制度構築を中心とした経済成長に重点を置くのが適当である。
その際、わが国のアジアに対する国際協力の成果を理解し、自国に取り入れたいと願う国に対し、選択と集中の観点から重点的に支援を行うべきである。アフリカにおいて日本型ODAの成功例を作ることは、その後のアフリカ開発や、わが国とアフリカ諸国全体との関係強化のために極めて重要である。

(5)経済連携強化促進のためのODAの活用

現在、わが国は、東アジアを中心にEPA(経済連携協定)の締結を進めている。今後、「東アジアEPA」構想の名のもとに、ASEAN+6(日本・中国・韓国・インド・豪州・ニュージーランド)を範囲とする東アジア全体でのEPAを目指すこととしている。
途上国との間でEPA締結を促進し、互恵的な関係を築くために、ODAは重要な要素である。例えば、フィリピンやインドネシアなどから要望の強い人の移動分野では、技術分野の外国人受入れのため、相手国において技術指導や日本語教育を通じた人材育成支援を行うなど、政府ベースの協力をより積極的に実施すべきである。政府においては、省庁間の壁を乗り越え、またEPA担当部署とODA担当部署間の連携を密にしつつ、EPAとODAを有機的に連動させることを期待する。

(6)国際機関を通じた援助の見直し

わが国は国連機関、世界銀行グループなど多くの国際機関にこれまで資金拠出を行うほか、特定目的の基金も設置している。こうした国際機関を通じた援助は、わが国に知見のない分野や国々に対する援助を行うにあたって有効である。
関係省庁においてバイ・マルチの連携への取り組み強化が見られるが、その一方で、国際開発金融機関などを通じた多国間援助については、2国間援助政策との連携が十分でない、日本企業の得意とする分野・国々を対象とした案件が少ない、民間企業との情報交換が少ない、資金使途に関する情報開示が十分でない、といった指摘がなされている。政府はこうした意見に対して国内での説明責任を果たすとともに、国際機関に対しては、わが国の援助理念・政策の有効性を訴えつつ、日本企業の活躍の場の拡大につながるよう努めるべきである。

(7)国際社会におけるわが国援助政策の理解の促進

わが国の国際協力は、途上国の経済・社会インフラを円借款で整備し、それが民間の貿易・投資の拡大につながることにより、途上国の経済的自立、所得向上、貧困削減などを実現してきた。とくにアジア諸国の経済発展に果たしてきた円借款の役割は、いくら強調してもしすぎることはない。
関係省庁と新JICAは、DACなど国際協議の場において、こうした事実を繰り返し説明することにより、わが国国際協力政策の有効性を証明するとともに、わが国援助の考え方につき国際的理解の促進に努めるべきである。
これまでDACにおいては、ODAの実績はネットベースを中心に議論されてきた。ネットベースでは、わが国のように借款中心の援助を展開している場合、途上国から資金の返済があると、援助額が小さく表示される。途上国が借款による債務の返済をきちんと行うことは、市場経済に馴化するための第一歩であり、またわが国による援助資金がうまく循環していることを意味する。
DACは本年4月4日に発表した2006年実績(速報)分から暫定値についてもグロスベースの数値を公表するようになった。これを契機に、政府がわが国国際協力政策のあり方や有効性を一層積極的に主張していくことを期待する。

2.新JICAへの期待

日本経団連では予てより、ODAの司令塔設置の必要性と、技術協力、無償資金協力、有償資金協力(円借款)の3つのスキームの有機的連携を主張してきた。その意味で、2006年5月に発足した海外経済協力会議が、真に司令塔の役割を果たすことを求めるとともに、2008年10月の新JICAの発足に大いに期待する。われわれとしては、新JICAが海外経済協力会議の方針や関係省庁の政策を踏まえたうえ、民間との連携を深めつつ、3スキームを一体的に運用することにより、これまで非効率・官僚的といわれてきた部分を刷新し、国際的に魅力と競争力のある援助機関となることを求めたい。こうした考え方に基づき、われわれはとりわけ以下の点を強く要望する。

(1)円借款事業の形成から実施までの期間半減

ODA事業については、途上国における開発効果を早期に発現させることが必要である。しかしながら、わが国ODAは、無償資金協力、技術協力、円借款のいずれについても、総じて迅速性に欠けている。とりわけ円借款については、円借款にかかる要望が出されてからF/S(実施可能性調査)を経て、工事開始まで早くて3〜4年、場合によっては7年もかかることも珍しくない。この間、案件は途上国の政権交代などによる政策変更、案件の優先順位の引下げ、建設費や資材の高騰など、種々の政治的・経済的リスクに晒される。途上国の要請に速やかに応えるとともに、こうしたリスクを回避・低減するため、円借款の抜本的な期間短縮化を行うべきである。
現在、政府・実施機関において、円借款事業の期間短縮化に関し鋭意検討中と聞いているが、以下のような期間半減を目指した具体的な改革を速やかに実施することを期待する。

  1. 優良案件の発掘・形成のための体制整備
    迅速化の第一歩は、いかに優良な案件を発掘するかにある。従来、案件の発掘は、民間企業のイニシアティブに依存してきたが、近年、一般アンタイド化が進んだことなどから、このプロセスを担う民間企業は減少している。また、現地ODAタスクフォースの設置、国別援助計画の策定、ローリングプランの作成など、政府によるODA政策の遂行の枠組みが整いつつあるものの、優良案件を迅速に発掘・形成するための人的資源は不足している。
    しかしながら、途上国の事情や開発ニーズに通じた民間人は少なくない。そうした民間の人材やノウハウを活用する仕組みを作ることが望まれる。現地機能強化の一環として、現在、現地大使館、JICA、JBIC、JETRO(日本貿易振興機構)といった政府機関をメンバーとする現地ODAタスクフォースが設置されているが、今後は現地の事情に応じて、現地商工会や進出日系企業の代表を参加させる仕組みを作るべきである。また、日本においても、新JICAと経済界の間で定期的に意見交換することは重要であり、新JICAと日本経団連の間に「定期協議会(仮称)」を設けることを提案したい。

  2. 開発調査の円借款プロセスへの統合
    JICAが現在、技術協力として実施している開発調査は、円借款に結びつけることを必ずしも前提としておらず、途上国からの要請も円借款とは別に受付けている。このため、開発調査から円借款につながっている案件(円借款のうち開発調査のあるもの)は、2割程度と極めて低く、非効率であるといわざるをえない。また、調査期間が長期にわたり、成果も不明確という指摘もある。
    新JICAとして組織が一体化した後には、開発調査を円借款プロセスに組み込み、円借款案件実施に向けての準備調査と位置づけることが望ましい。また、そのように位置づけられた場合、開発調査予算の大幅増と調査実施の迅速化を強く要望する。

  3. 要請受付時期の通年化
    現行制度では、途上国からODA案件の要請を受付ける時期は、特定の時期に限定されている。この時期を過ぎた要請は次の年の受付けとなり、最長1年余り放置されることになる。こうした事態を避けるため、要請の受付時期を柔軟化し、案件採択が通年化されるようにすべきである。
    また、要請主義の原則を維持しながらも、フレキシブルな運用が可能となるよう、制度の調整を図る必要がある。現地における政策対話などを活用することにより、当初の提案の質が改善され、途上国とわが国の双方にとって納得のいくプロセスとなることが重要である。こうしたプロセスにおいて、両国にとって必要性が高いと合意された案件については、ファストトラック案件として別枠で迅速化できる仕組みも導入すべきである。

  4. プログラム単位での業務フローの実現
    技術協力、無償資金協力、円借款は、実施期間の差などから、それぞれ固有の手続きや業務の流れが形成されてきた。新組織においては、組織をスキーム別でなく地域別に編成した上、現行JBIC職員とJICA職員を同一部門内に配置し、業務の流れを極力統一させる方向で検討が進んでいると仄聞している。こうした方向性は評価できるものであり、いくつかのプロジェクトを束ねたプログラム単位の業務フローが適切に管理できる体制を構築すべきである。

  5. 進捗管理の合理化・弾力化
    3つのスキームについては、「標準処理期間」が定められ、円借款9カ月、無償資金協力10〜12カ月(ただし、基本設計調査から交換公文までの期間)、技術協力7カ月となっているが、実際には遅延が生じることも多いため、その遵守を求める。また、途上国側とは案件の内容だけでなく、実施期間まで合意する必要がある。これを実現するためには、主に途上国側に起因する遅延要因も多く存在することから、わが国の側からもモニタリング要員を確保し、両国間で共同して進捗管理を行う仕組みを構築すべきである。また、進捗管理には相手国政府内のプロセス促進への協力も含めるべきである。

  6. 内部統制の強化と透明性の確保
    新JICAにおいて、技術協力、無償資金協力、円借款の3スキームを有機的に統合し、地域別に業務を推進していくとなると、例えばインドネシアやインドなどの年次供与国の場合、年間1,000〜2,000億円という多額の援助資金量を管理・執行することになる。したがって、内部統制には細心の注意が必要であり、透明性と検証プロセス確保のために、民間人など第三者を活用したチェック体制を整備することも検討すべきである。

(2)ドル建て・現地通貨建て借款の創設

円借款は譲許性が極めて高く、多くの途上国の経済開発に多大な貢献をしてきた。円借款は円建てによる借款であるので、為替変動リスクは全面的に途上国側が負うことになっている。一方、多くの途上国は貿易決済や外貨準備をドル建てで行っている事情等から、借入国の一部からは円以外の通貨での借款を期待する声が強く出されてきた。
新JICAでは、外債の発行が可能となる。また、最近では広く金融デリバティブが利用されるようになっている。こうした手段を活用して調達した外貨を、相手国の希望を踏まえて、ドル建てあるいは現地通貨建てでも貸付けられるようメニューの多様化を図るべきである。そうすれば、わが国の借款制度が魅力を増すことは間違いない。関係省と新JICAは、途上国向け借款制度の基本的なあり方を見直し、途上国の要請に弾力的に対応すべきである。

(3)STEPの拡充と部分無償化

STEP(Special Terms for Economic Partnership:本邦技術活用条件)は、わが国の優れた技術やノウハウを活用した「顔の見える援助」を促進する趣旨で、2002年7月に導入されたタイド円借款である。途上国向け借款は一般アンタイド化の方向にあるが、諸外国でも一定の枠内でタイド借款が行われている。わが国としても、これらの実例を研究しつつ、制度の拡充を検討し、実績が伸び悩んでいるSTEP案件の件数と金額の増加につながるよう手当てすべきである。例えば、対象分野については、わが国企業がかつて手がけた案件のリハビリ(改修、近代化)、省エネ事業、地球温暖化対策事業、都市間鉄道などへの弾力的適用が考えられる。
また、アフターサービスのようなソフト部分や、わが国製品をパイロット的に導入する場合の資金は無償資金協力として組み込み、STEPの部分無償化として打ち出すべきである。
さらに、STEPの存在があまり知られていない途上国もある。政府は途上国においてSTEPの周知徹底を図り、その認知度と理解が高まるよう、積極的な働きかけを行うべきである。

(4)無償資金協力の適切なリスク分担

無償資金協力については、外務省から新JICAに一部移管されることになっている。無償資金協力は本来、官と民の適切な連携の下で実施されるべきものであるが、前近代的な仕組みが残されている。例えば、多くの案件が片務契約となっており、資機材の高騰、為替の大幅な変動といった不測の事態をはじめ、入札後の諸要因による見積もりの見直しや設計変更が一切認められていない。また、異常気象や治安の悪化などがあった場合でも、工期内での完成が厳格に求められている。このように、無償資金協力は受注した企業が過度のリスクを被る仕組みとなっており、近年、無償案件の入札不調が多く発生している。円借款では認められている予備費の計上を認めるとともに、実施期限の柔軟化など、抜本的な制度の見直しを行うべきである。

(5)民間の貿易・投資を促す技術協力の推進

技術協力については、統合を機に無償資金協力や円借款とのシナジー効果を最大限発揮すべきである。そのため、援助形態間の手続きの違いなど、制度上の阻害要因を可能な限り解消すべきである。
また、相手国の基盤整備につながる制度構築、人材支援などを戦略的に実施していくことが望まれる。例えば、ベトナムやカンボジアでは、民法などの法制度整備支援と司法・行政人材の育成がわが国技術協力で行われたが、これは法の支配の確立と、また中長期的には投資環境の改善につながるものである。工業製品等の規格・基準整備、産業分野等の人材育成も、民間企業の貿易・投資活動を後押しし、結果的に先進国・途上国双方の経済成長に大きく貢献する。
さらに、環境・省エネなど民間企業の知見を活かすことができる分野で、技術協力をこれまで以上に活用することが望まれる。

(6)PPP(官民パートナーシップ)の推進と円借款の新商品開発

途上国におけるインフラ整備に対する資金需要は膨大である。世銀・アジア開発銀行・JBICの試算によれば、東アジアだけでも2006〜2011年の5年間で毎年2,000億ドル(24兆円)の資金需要があるといわれる。それら全ての需要はODA資金や途上国の自己資金だけでは到底賄いきれず、民間資金の活用が必要となってくる。一方、途上国においては、突然の法制度変更や大幅な為替変動など、民間では負いきれないリスクが存在し、それがインフラ整備事業を展開するうえで大きな障害となっている。
そうした旺盛な資金需要に応えつつ、リスクをカバーする仕組みとして、官民連携のPPP(官民パートナーシップ:Public-Private Partnership)を推進すべきである。併せて新JICAは、円借款の新しい商品開発(例えば地方政府向け借款、O&M(Operation and Maintenance)事業への拡充)、無償資金協力事業との連携などODAによる支援のあり方を多様化し、民間投資を誘引・促進する触媒としてのODAをアジアを中心に展開すべきである。

(7)新JBICやNEXI等との連携強化

企業の国際競争力強化、資源・エネルギー確保、PPP促進等の観点から、新JICAが新JBICやNEXI等と連携を深め、案件形成において多様なメニューを提供することを期待する。

むすびにかえて 〜わが国「ODA総合力」の足腰強化のために〜

国際協力を推進するにあたっては、国民の理解と支持が不可欠である。教育現場においても、わが国の国際協力が途上国の経済的自立、所得向上、貧困削減などに貢献してきた事実を教えることが必要である。同時に、国際協力を効率的に実行していくには、専門的な知識・ノウハウが求められることもあらためて強調しておきたい。
官民それぞれが実施している国際協力の総和を「ODA総合力」と規定するならば、わが国のODA総合力は近年低下の傾向にある。とくに、現行JICAは、独立行政法人として課されている事業費削減を達成するため、事業量を確保する一方で事業単価の切り詰めを行っている。こうした手法は、コンサルタントをはじめとするわが国の案件発掘・形成能力を著しく弱体化させるばかりである。
途上国のニーズを汲んだ優良案件を発掘・形成する能力と人材は、わが国国際協力の生命線である。これがなければ、国際協力の開発効果が出てこない。事業費の削減はボディブローのように効き、長期的にはわが国ODA総合力が著しく毀損されるおそれがある。技術力に加え、誇りと情熱を持った人材の確保と育成を図らなければならない。
新JICAにおいては、わが国ODAの足腰を強化すべく、コンサルタントなど民間企業との関係を見直し、発注主と業者という古い考えから脱却し、ともにわが国国際協力を推進するパートナーとして協力関係が深まるよう要望する。

以上

日本語のトップページへ