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今後のわが国税制のあり方と
平成20年度税制改正に関する提言

2007年9月18日
(社)日本経済団体連合会

I.はじめに

わが国経済は巡航速度で戦後最長といわれる着実な景気を維持している。
一方で、原油を始めとする資源価格の高騰や株価動向、地球環境問題など、世界経済を取り巻く状況は予断を許さない。また、国内では急速な少子高齢化・人口減少とともに、企業活動や資金移動のグローバル化が一層進展しており、わが国は、これまでの歴史上経験したことの無い環境の中で、持続的な発展を維持していかなければならない。
日本経団連では、2007年初にビジョン「希望の国、日本」を公表し、10年後のわが国のあるべき姿とその道筋を提示した。ビジョンの実現に向けた諸課題のうち、税制抜本改革は国の将来を方向付ける最も重要な改革の一つである。
先の参院選の結果を受け、一部には改革断行に否定的な意見もあるが、わが国を取り巻く環境変化が留まることは無い。先進諸外国で相次いで大胆な税制改革が断行されるなか、改革の停滞は、わが国の成長を危うくすると同時に、種々の痛みを将来世代に先送りすることに他ならない。比較的、経済状況が安定している今こそが、税制改革に向けた第一歩を踏み出す好機と言える。
そこで、本提言では、「希望の国」の実現に向けて、中長期的に達成すべき税制抜本改革の主要課題と、それに至る平成20年度税制改正で措置すべき事項を示すこととしたい。

II.今後のわが国税制のあり方

1.わが国の現状と税制抜本改革の必要性

税制は一国の健全な運営を維持するための制度であると同時に、その仕組みは国民や企業の経済行動に影響し、国の形や成長を方向付ける基本的枠組みである。また、国民や日本企業のみならず、海外の投資家や企業が国際的な資金移動や企業の立地選択を判断するための重要な要素であり、投資先としての日本の魅力を左右し、世界経済にも影響を与える。
わが国税制は昭和25年のシャウプ勧告以来、包括的所得課税を基本としつつ、高度成長期、安定成長期、バブル崩壊といった経済社会の変化に応じて数次の改革を続けてきた。しかし、今、わが国が直面している環境変化は、これまでになく困難で、大きく、また速度の速いものであり、今次の税制抜本改革は、新しい国づくりの一環と位置づけていく必要がある。
このような点から、抜本改革においては、まず、わが国を支える礎として長期に安定的で、持続可能な税体系を構築することが求められる。時代の変化に即した改正であることは勿論、豊かな魅力ある国づくりの牽引役となる税制でなくてはならない。とりわけ、将来にわたり、わが国の継続的な成長を促進する制度とする必要がある。
また、新たな国づくりに向けて、抜本改革は税制のみではなく、社会保障制度をはじめ、他の行財政システムの改革と並行して行われるべきである。即ち、税と社会保障を一体的に改革することにより、国民の社会保障制度への信頼を高めるとともに、その効率化を通じ税制と社会保険料を併せた国民負担抑制を図るべきである。さらには、徹底した歳出改革、EPAの推進、地方分権改革などと一体的に行われる必要がある。

(1) 財政健全化

わが国の過去数年の税収は、法人所得課税(法人税、法人住民税、法人事業税)が平成15年度から平成19年度予算で約10兆円(6割増)増加したことなどを背景に、19年度予算では、国・地方合計で95兆円に達し、バブル期に匹敵する水準となっている。
また、政治のリーダーシップにより、歳出面での努力も漸く着実な成果をあげつつあると言える。
しかし、ストック面に目を転じるならば、国・地方を合わせた長期債務残高はGDPの1.5倍と先進国中最悪の危機的状況であり、引き続き、財政の早期健全化への努力を一瞬たりとも怠ってはならない。
日本経団連で本提言と同時に公表した「国・地方を通じた財政改革に向けて」に示した通り、当面の目標である2011年度における基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の黒字化に留まることなく、新たな財政健全化目標を共有しつつ、債務残高のGDP比を着実に低下させていくよう、税制面においても改革を進めることが不可欠となっている。

(2) グローバル化

アジア諸国への展開をはじめ、わが国製造業の海外生産比率(海外進出企業ベース)は過去10年で10%近く増大し3割を超え、さらに増加の傾向が続くなど(平成17年度海外事業活動基本調査)、企業の国際競争は熾烈さを増している。わが国が安定的な成長を維持するためには、この熾烈な競争を勝ち抜いていくことが不可避であり、民間の自由闊達な活動を支えるインフラ整備の一環として、国際的な整合性を踏まえた税制の確立や租税条約ネットワークの拡大などが必要である。また、規律ある対内直接投資の促進や金融資本市場の国際化の観点からも税制のグローバル化が求められている。

(3) 少子高齢化、人口減少社会

日本の将来推計人口によれば、2055年には65歳以上の高齢者が総人口の40%以上を占め、総人口は現在より3800万人も減少することが見込まれ、国の存立すら危ぶまれる状況にある。このような急激な少子化傾向を反転させるために、税制面でも可能な対応を行なっていく必要がある。
また、急激な少子・高齢化の進展により、社会保障負担の増加が不可避となる。社会保障制度改革の推進と並行して、人口減少社会においても国民の安心を確保し、負担の増大を最大限抑制して経済活力を維持するとともに、安定的な財政運営が可能な税体系を確立することが急務である。

(4) 地方分権

地方分権に関しては、いわゆる三位一体改革として税源移譲、交付税の見直し、国庫補助負担金の改革が行われたが、国地方の役割分担と財源配分の改革は道半ばである。住民の選択に基づく自治体の規律ある財政運営が可能となるよう、経団連が提唱する究極の構造改革である道州制の導入を見据えつつ、国と地方の税体系の在り方を抜本的に見直す必要がある。

(5) 官から民へ

国・地方を通じ、小さく効率的な政府を目指すため、民間に移管が可能な公的機能は可能な限り民間へ移管していく必要がある。政府は、民による公益活動をわが国社会・経済システムの中で積極的に位置づけ、その活動を促進するよう、公益法人制度改革を進めている。民間が支える公益活動を支援する税制の整備や、個人や企業の善意を引出し、積極的に公を支える精神を発揮するための税制措置の構築が急がれる。

2.税制抜本改革の主要課題

(1) 税収構造の改革に向けた消費税の充実

今後の急激な人口減少社会においても安定的で持続可能性があり、また、経済成長に影響が少ない税制を確立するよう、税収構成を改革していく必要がある。
わが国の国地方を通じた税収内訳は個人所得課税、法人所得課税、が各々約3割となっており、所得課税へ大きく依存した構造となっている。これに対し、欧州では消費課税の割合が4割から5割を、個人所得税が3割から4割程度を占めている。課税ベース把握が困難で、税率や制度により国外に移転しやすく、経済成長にマイナスの影響が大きい所得への課税から、水平的に公平な消費課税への移行は、近年の欧州の税制改正でも明らかな潮流となっている。消費税は経済活動に対し最も中立的であり、全ての国民が薄く広く負担し、景気動向等にも左右されにくい安定的財源と言える。また、国境税調整により輸出価格にも影響を及ぼさないため、国際競争力低下の懸念が少ない税目である。
このような消費税の利点を踏まえれば、わが国産業の国際競争力を維持しつつ、年1兆円のペースで増大する社会保障費用や息の長い少子化対策のための財源を安定的に賄い、かつ、債務残高のGDP比を着実に減少させていくためには、国・地方を通じた徹底した歳出削減を前提として、消費税率を引き上げ、今後のわが国における基幹的税目として役割を拡大していく必要がある。
具体的な引上げ幅やタイミングについては、歳出削減の状況や経済の動向を踏まえ、国民的な議論を経て決定していく必要がある。経団連が本年1月に示した試算では、当面、2%程度、2015年までにはさらに3%程度の引き上げにより、経済成長を図りつつ着実な財政再建を図っていくことが可能となる。
なお、消費税引上げを検討する際には、揮発油税や自動車取得税、不動産取得税といった個別消費税との関係の整理やインボイス制度の導入について、併せて議論を深めるべきである。また、税制簡素化や歳入確保の観点からは、少なくとも、税率が二桁になるまでの範囲においては、消費税率の複数税率化は好ましくない。

(2) 国・地方の税源改革

究極の構造改革である道州制の導入に向け、まずは、国の担うべき機能を最小限に限定し、国・地方の連結ベースで最も効率的な行政体系のあり方を徹底的に検証する必要がある。現状からの歳出削減の発想ではなく、ゼロベースで必要最低限の歳出規模を計画し、その上で、国税、地方税にふさわしい税目を選択していくことが重要である。
地方税の基本は、受益者である住民自らが自治体のサービスと負担を比較考量し選択することにある。このような観点から、地方税は、選挙権を持つ個人の住民税や土地・家屋への固定資産税と法人が自治体から受けるサービスに見合う簡素な課税を基本とすべきである。
国から地方への地方交付税については、地方財政規律の低下にもつながりかねず、将来的には廃止する方向とする。地方交付税の果たす水平的な財源調整機能については、現行の交付税法定率相当分を財源とし、例えば地方共有税(仮称)を創設し、国が関与しない形で道州間での自主的調整に委ねることも考えられる。但し、こうした財源は各地域の自立的発展が図られる中で、将来的に縮小していくことが予想される。なお、全国的に水準を保証すべき費用については、現在の補助金からさらに使途を限定した「シビルミニマム交付金」として、引き続き国からの財政移転を行うことが必要となろう。
地方法人二税(法人住民税、法人事業税)は、税源の地域偏在性が高く、景気に左右されやすいことから、安定した住民サービスを支える税目としては不適当である。地方法人二税は、国税である法人税への一本化をはかり、地方共有税財源として活用しつつ、全体の規模を縮小していくべきである。
こうした地方税改革は、道州制導入の実現を待つことなく、早急に検討を進めるべきである。

(3) 所得税の適正化
  1. 各種控除の見直し
    個人所得税はいずれの国においても、消費税と並び税体系の基幹となる税目である。わが国の国民所得における所得税負担率は国際的に低い水準だが、今後の社会保険料の増加を踏まえつつ、税・社会保障全体の負担が経済活力に影響を与えないよう制度構築を図っていくことが不可欠である。
    わが国の所得税負担率が低い原因は、各種控除により課税ベースが浸食されている結果と言える。税制抜本改革においては、低所得者層への配慮を行いつつ、各種控除の整理を進める必要がある。法人税率の引下げが世界的な潮流となるなかにおいては、個人所得に対する税率も引下げの必要性が高まることが予想され、その際の課税ベース確保の観点からも各種控除の見直しが必要となろう。
    特に、高齢化社会を迎えたわが国において、年金課税の適正化が喫緊の課題となっている。現行制度では、実際の担税力に関係なく高齢者を一律に税制優遇する結果となっており、その是正が必要である。年金税制の基本である、拠出時・運用時非課税、受給時課税の原則に基づき、見直しを進めるべきである。
    また、人的控除については、少子化対策の観点から特に扶養控除の見直しが重要な課題である。現行の児童手当と扶養控除を統合し「子育て税額控除」に一本化することも考えられる。但し、課税最低限以下の世帯では税額控除の効果が生じないため、負の税額控除部分については還付を行うといった制度も併せて検討すべきである。

  2. 社会保障番号の活用
    所得税の見直しは、自営業、農業、給与所得者間の所得捕捉の公平性、透明性の確保が大前提である。徴税事務の効率化の観点からも、社会保障番号の活用などによる納税者番号制度を早期に導入する必要がある。

  3. 金融所得の一元的課税
    高齢化社会を迎え、年金資産や個人金融資産をより効率的に運用し、これを、さらに企業の円滑な資金調達へと循環させる金融資本市場の活性化が重要となっている。金融資産への投資から生ずる所得と損失を全体で通算するとともに、損失の繰越を認めることにより、リスク分散をはかるよう、実務面の課題に十分配慮しつつ、利子、配当、譲渡損益などの金融所得を一元的に課税する制度を構築すべきである。

(4) 国際的整合性を踏まえた法人税改革
  1. 地方法人税改革
    地方法人二税(法人住民税、法人事業税)は、その課税ベースが基本的に国税である法人税と同様であり、実質的に法人税の付加税となっており、国際的な整合性を踏まえた法人税抜本改革が進まない要因の一つである。企業活動の国際化に伴い、移転価格税制をはじめ、他国との税制面での機動的な調整が一層重要性を増しており、国による一元的な対応が必要となっている。このような観点から、地方法人二税については、国税たる法人税への一本化を図っていくことが適当である。
    地方法定外税は、本来は、地方自治体の創意工夫に基づき、当該地域における受益と負担の関係に基づいて導入されるべきであるが、現実には、当該地域から移動することができない一部の企業に対象が限られる課税も多い。また、多くの自治体において、法人に対してのみ超過課税が行われている。このように、法人のみに偏った地方課税については早急に是正すべきである。
    なお、法人の地方自治体からの受益に見合う負担としては、法人事業税の外形標準部分、事業所税、法人住民税均等割部分を統合し、大幅に簡素化したうえで、赤字法人も含めた適正な税負担水準のあり方を検討することが考えられる。付加価値の源泉である償却資産に対する固定資産税は、企業の設備投資意欲を低下させるとともに、特定の業種に偏在するなど問題が多く、段階的に廃止していくべきである。

  2. 法人税(国税)改革
    法人税法は、会社法や企業会計制度とともに、企業が事業活動を行う上での重要なインフラであり、単に税収確保の仕組みではなく、様々な面において企業活動を規律する規範として機能している。わが国企業が活力ある経済活動を展開することができる土台を築き上げるために、法人税法の構造上のゆがみを是正するとともに新たな時代にふさわしい枠組みに改めていく必要がある。

    (ア)法人実効税率

    欧州をはじめ、諸外国では、企業を経済成長のエンジンとして位置付けつつ、所得課税から消費課税へという大胆な税制改革議論が進んでいる。
    わが国と並び法人実効税率が40%程度であったドイツでは、連立与党の下、2007年に付加価値税率を引き上げた上、2008年から法人実効税率を他の欧州諸国なみの30%以下に引下げることを決定している。これに呼応するように英国では30%だった法人税率をさらに28%へと引下げる予定である。先進諸外国で法人実効税率が40%台となっているのは、もはや、米国と日本のみであるが、米国においても、先般、財務長官が「税制が米国企業の競争力を阻害している」旨の発言に至っている。もとより、アジア諸国の法人税率は20%台が大勢である。
    このように、世界各国では、企業活動の活性化のために法人税率の引き下げが進められており、わが国との税率の格差はわが国企業の競争力の、強化や対内直接投資促進の上で無視できない水準に至っている。企業活動の活性化は、わが国の雇用や所得の拡大に直結する。法人税収は過去数年で大幅な増収となっており、今後も予想される増収基調のなかで、諸外国との税率格差の是正を実現すべく、英独仏並みの30%を目途に法人実効税率を引き下げるべきである。

    (イ)所得計算の妥当性

    過去の法人税制改革における課税ベースの拡大や、国際的な潮流の変化等によって、わが国の法人所得計算上、さまざまなゆがみが生じており、税制抜本改革においては、企業の経営実態に即した所得計算のあり方について、全般にわたるたな卸し作業を進めるべきである。
    例えば、各種引当金に関しては、過去の課税ベース拡大により、わが国では貸倒引当金など、ごく限定された引当金しか容認されていない。しかし、将来の損失へ計画的な引当てを行っていくことは、企業経営の健全性維持のみならず安定した税収確保の観点からも有効と考えられる。退職給付に係る引当金や減損損失の計上などに関しては、税制上の取り扱いについて改めて検討を行うことが望ましい。

    (ウ)連結納税制度の改善

    連結納税制度の創設から既に5年が経過し、制度利用上の課題を調査、整理し、改善をはかる時期を迎えている。制度創設当初、税収確保の観点から措置された、連結納税開始時及び連結納税グループ加入時の子会社繰越欠損金の切捨て及び子会社資産の時価評価課税やグループ内寄付金の否認規定について見直しを図るべきである。

    (エ)欠損金の繰越、繰戻し制度

    企業は、時々の経済状況やコストやリスクの期間配分によって、事業年度単位では、やむを得ず損失を計上せざるを得ない場合がある。しかし、企業は本来、ゴーイングコンサーンとして営利を追求する経済主体であり、損失の計上は単なる期間的な配分の結果に過ぎないと言える。このような考え方から、現在停止されている欠損金の繰戻し制度を復活させるとともに、繰越期間については延長をはかるべきである。

    (オ)国際税制の見直し

    わが国の成長は、企業が経済のグローバル化に柔軟に対応できるか否かに大きく依存しており、企業の円滑な国際展開に資する国際税制の整備が不可欠となっている。
    わが国企業の全世界グループ経営の実態、資金や物の流れ、内外の法制度との整合性などを踏まえ、簡素で機動的に二重課税を排除できる税制を確立し、グローバル化への基盤整備を進めるべきである。
    海外子会社からの配当に係る二重課税を排除する外国税額控除の仕組みについては、受取配当金を益金不算入とするといった簡素な制度を検討すべきである。また、移転価格税制における二重課税の排除やタックスヘイブン税制に関しては、相手国との連携の強化や制度の整合性を図りつつ、自由な企業活動の妨げにならないよう、透明で予見可能性が高い制度の構築を目指す必要がある。

  3. 事業体税制
    任意組合・匿名組合、合同会社等の持分会社に係る税制を抜本的に見直して整備し、法人税課税をする株式会社の周囲に、裾野広く、層厚く、多様な事業形態の選択肢を用意することが、企業活動を多様化し活性化するために重要となっている。米国では、すでにこうした構成員課税をする事業体が数多く存在し、それが経済の牽引力の一つとなっている。
    任意組合・匿名組合など組合に関する税制は、現在に至っても通達による取り扱いに委ねられており、多くの課題が残されたままとなっている。構成員課税とし、純額法によって持分と利益・損失を計上することについて明確な規定を設けるべきである。また、合名会社・合資会社・合同会社から成る持分会社に関しても、利益は構成員のものとされているので、会社法の下で設立されたものについては、諸外国の取り扱いと同様に、法人課税ではなく、構成員課税とすべきである。

  4. 確定決算主義
    法人は、「確定した決算に基づき」申告書を提出しなければならないとされていることから、法人税と会社法との不可分の関係が生ずる。このような会社の意思を決算によって確認するという考え方は、「確定決算主義」と呼ばれることもある。しかし、近年、会計基準の国際的な収斂(コンバージェンス)が進む中で、税務会計と企業会計の相違が拡大していく流れは避けがたい状況にある。実務負担へ充分に配慮し、できる限り税務会計と企業会計の整合性を確保しつつ、今後の税務会計と企業会計の関係について、再整理していく必要がある。

(5) 納税・徴税体制のあり方

納税体制に関しては、特に給与所得者について、給与所得控除の実額控除制度を充実させることなどを通じて、自ら申告を行い納税意識の高揚を図る必要がある。その際、徴税コストが増大しないよう、簡易な電子申告などの導入により効率化を同時に進めるべきである。
徴税体制については所得捕捉や租税回避防止機能を強化する必要がある。また、納税者側の税法遵守意識の向上も不可欠であり、徴税当局との連携を図りつつ、一定の税務代理手続等を経た申告に関しては、例えば、税務調査事務を軽減するといった措置も検討に値しよう。税や財政に対する国民の意識を高めるため、初等・中等教育の段階から、国の歳出入に係る教育の充実を図ることも必要と考えられる。

III.平成20年度税制改正に関する提言

1.平成20年度税制改正の位置づけ

上述した税制抜本改革に向けた検討も含め、平成20年度税制改正では、まず、経済成長の維持、さらなる成長への基盤整備という視点を重視して取り組む必要がある。景気は戦後最長の拡大を継続しているものの、国際競争は熾烈さを増しており、中小企業を含めた企業活力の一層の強化、生産性の向上、将来に対する投資促進を図っていかなければならない。また、平成20年度改正は、税制抜本改革の第一歩となる改正とすべきである。消費税の拡充や国際的な整合性を踏まえた法人実効税率の引き下げなど、抜本改革に向けた議論については、年度をまたがる継続的な検討も含め、可能なものから措置していくことが重要である。
税制改正に停滞があってはならない。与野党間で協議、調整を図りつつ、本格的な少子高齢化社会を迎えたわが国にふさわしい、税体系の構築を急ぐべきである。

2.平成20年度税制改正の具体的課題

(1) 法人所得課税
  1. イノベーション促進に係る税制措置
    わが国が、今後とも持続的な発展を遂げていく鍵は連続的なイノベーションの創出にある。近年、近隣アジア諸国における研究開発投資の増大は目覚しく、科学技術立国を目指すわが国が国際競争に打ち勝っていくためは、国を挙げてイノベーションを促進する政策を総動員していく必要がある。研究費に対する政府負担割合が主要国中で最も低いわが国にとって、産業競争力に直結する民間の研究開発促進に係る税制措置は不可欠の政策であり、新たな成長への礎として現行制度を更に維持、拡充していく必要がある。とりわけ、わが国の法人実効税率が国際的にみて高止まりしている状況においては、国際競争を勝ち抜くための措置としても、イノベーションに係る政策税制は必須の措置と言える。
    平成20年度改正においては、企業の研究開発投資を促進するよう、研究開発促進税制における控除限度額(現行:法人税額の20%)および控除率の拡充や限度超過額の繰越期間の延長を図るべきである。平成20年3月に期限を迎える試験研究費の増加額に対する上乗せ措置は、研究開発投資を一層増大させるインセンティブとなっており、適用期限を延長すべきである。
    また、ITの活用による企業の生産性向上が急務であり、情報基盤強化税制の維持、拡充、さらには人材投資促進税制の改善も重要である。

  2. 国際税制
    わが国企業のグローバル展開の障害となることの無い、予見可能性の高い国際税制の整備は、貿易を糧とするわが国産業の重要なインフラである。国際税制については、近年、様々な改善が行われているが、抜本改革に至る道筋において、以下のように現行制度の改善を図るべきである。

    (ア)移転価格税制

    企業の事業活動の根幹である取引価格の是正を行う移転価格税制は、その性質上、更正金額が巨額に上ることが多く、二重課税を排除するための二国間協議にも長い時間やコストを要することから、わが国企業が海外取引を行う上での大きなリスクの一つとなっている。今回、新たに納税猶予制度が導入されたこと、また執行当局により事務運営要領及び参考事例集がパブリックコメントを経て改訂されたことは高く評価できる。新たな事務運営要領の下で、当局と企業の間の見解の相違が解消され、特に無形資産や役務提供取引の取扱いについて混乱の無い執行が行われ、運用面においても国際的な整合性が確保されることが強く望まれる。また、国税と整合性をもった地方税の見直しも必要である。
    一方、制度面においては、支配権が及ばないにもかかわらず国外関連者とされている持分50%の場合について、形式判断基準から除外するといった見直しを図る必要がある。また、本年2月にOECDから公表された、国際的二重課税の新たな紛争解決手法である仲裁制度についても検討を進める必要がある。

    (イ)外国税額控除

    グループ業績に応じた親会社の配当政策が重視されるなか、海外グループ会社から親会社への利益分配に係る税制の重要性が増している。
    現行の外国税額控除制度については、実務的にも簡便である一括限度額管理方式を維持しつつ、外国税額控除限度超過額及び控除余裕額の繰越期間の延長や間接外国税額控除対象会社の拡大が必要である。さらには、地方税も含め、海外子会社からの受取配当金を益金不算入するといった、簡素な制度を創設することによって、企業が海外事業で得た収益を国内に還流し易い環境を整備すべきである。

    (ウ)タックスヘイブン税制

    世界的に法人税率の引き下げ競争が進展するなか、平成4年に制定された軽課税国の定義(税率25%以下)は実態にそぐわないものとなっており、見直しが必要である。また、事業の多様化を踏まえ、制度適用除外規定についても見直すべきである。

    (エ)租税条約

    租税条約はわが国の課税権を確保するのみならず、二重課税を排除し、企業を租税上の不利益から救済する事業活動上のインフラである。現在、精力的に行われている租税条約の改定作業をさらに加速し、ネットワークの拡大を進めるべきである。

  3. 減価償却制度
    減価償却制度について、昨年度、残存価額・償却可能限度額の撤廃や新たな定率法の導入など、国際的にも遜色の無い、抜本的な見直しが行われたことは高く評価できる。減価償却制度見直しの課題として残されている、資産区分や法定耐用年数の見直しについても、抜本的見直しの効果が縮減されることのないよう、与党税制改正大綱に示された「わが国企業の新規設備への投資を促進し、国際競争力を高める」という目的を達成する観点から進めるべきである。併せて、法定耐用年数の短縮特例制度の手続の簡素化を進めるべきである。さらに、損金経理要件により、海外上場企業などにおいて減価償却制度の抜本見直しの効果を得ることが困難となる場合もあり、一定の場合において損金経理要件を緩和することも検討すべきである。
    また、昨年度、減価償却制度の抜本的見直しにもかかわらず、固定資産税の減価償却資産の評価が据え置きとなり、国税と地方税で同一の固定資産評価が異なるという異例の状況にある。機械設備等、耐用年数の比較的短い償却資産については、法人税と同様の扱いを講ずることにより、むしろ資産の入れ替え効果が期待でき、地方における投資の活性化にも繋がることから、法人税の取扱いと合致させ、制度の合理化を進めるべきである。

  4. 会計基準見直しへの対応
    資本市場のグローバル化に伴い、市場のインフラである会計基準の国際的な収斂(コンバージェンス)が加速している。わが国税制は、確定決算主義や損金経理要件など、企業会計と密接に関係しているが、このような会計基準の見直しに伴い、税制との関係において様々な課題が生じつつある。
    現在、企業会計基準委員会では「工事契約に関する会計基準」などの検討も進められているが、会計基準の見直しにより、安易な課税ベース拡大につながらないよう、実務への影響も考慮しながら税制と企業会計の調整が必要である。
    さらに、京都議定書目標達成計画の第一約束期間(2008年〜2012年)が近づき、京都メカニズムに基づく排出権の取得が活発になることが予想される。企業が排出権を取得した場合や政府保有口座へ移転した場合における法人税法上の損金算入のタイミングなどについて、明確化が必要である。

  5. 受取配当金益金不算入制度
    受取配当金に係る二重課税を排除するよう、法人の受取配当金について、全額を益金不算入とするとともに、負債利子控除制度を見直すべきである。

(2) 公益法人税制・寄附金税制

平成20年中に施行される公益法人制度改革に伴う税制上の措置については、今後のわが国社会において、民間が公を支えることで小さく効率的な政府の実現を図るという観点から構築すべきである。即ち、法制度と税制との関係を整合的にし、公益を担うと認められる法人については、国や自治体に準じ、以下のように税制上も非課税とするという原則で制度整備を行うべきである。

  1. 公益認定等委員会において公益社団法人、公益財団法人と認定された法人については、明らかに公益を担う法人であり、非課税とする。
  2. 一般社団法人、一般財団法人については、現行の公益法人税制に準ずる扱いとする。

公益社団法人、公益財団法人への寄附金は、特定公益増進法人に対する寄附金と同様の取扱いとするべきである。また、国や地方自治体、大学などに対する寄附金については、一定の限度まで税額控除を認める。現在10万円となっている個人住民税の寄附金控除適用下限額については、国税と同様5000円まで引下げる。

(3) 年金税制

年金税制の基本原則は、掛金の拠出・運用時は非課税、受給時に課税するというものである。企業年金の運用資産に対する特別法人税については、平成17年度税制改正において課税凍結措置の延長が図られたが、公的年金給付の縮減に対応し、個人や企業の自助努力を促す観点から、平成20年度改正において、課税制度そのものを廃止すべきである。
また、確定拠出年金は私的年金制度の中核として発展することが期待されている。制度の普及を促すためにも、企業型確定拠出年金における個人拠出の容認、拠出限度額のさらなる引上げ、資産の引き出し要件の緩和などを行う必要がある。
さらに、平成24年に廃止される適格退職年金制度について、企業年金制度への円滑な移行を行うための税制措置を講ずるべきである。

(4) 金融・証券税制
  1. 上場株式等の譲渡益、配当に係る課税
    「貯蓄から投資へ」の流れを確実にするよう、税制面での措置を継続する必要がある。平成19年度改正において、上場株式等の譲渡益、配当に係る10%の軽減税率の適用期限が1年間延長され、中所得者層を中心に株式等の保有が増大しているものの、個人金融資産に占める株式の保有割合は国際的に見ても未だ低い状況である。また、配当に関しては、法人・個人間における二重課税調整の必要がある。このような状況を踏まえ、軽減税率の適用期限はさらに延長すべきである。同時に、金融所得の一元的な課税に向け、譲渡損益と配当など、可能なものから損益通算の範囲を拡大すべきである。

  2. 民間国外債の利子非課税制度
    わが国企業が海外で発行する債券を非居住者が購入した際の利子に関する非課税措置の適用期限(平成20年3月31日)を延長すべきである。

(5) 土地・住宅税制

昨年、住生活基本法が成立し、これに基づき平成27年までの住生活基本計画が策定された。豊かな住宅・住環境は、わが国の国民生活の向上の基本であると同時に社会的資産であり、良質な住宅ストックの形成とその循環に資する政策を国家的な戦略として推進すべきである。また、住宅投資は、わが国経済の成長に大きな波及効果を及ぼす。
わが国の住環境は、耐震、地球環境、高齢化対応などの面で未だ不十分な状況であり、新規取得、改修にかかわらず、税制面でも積極的な支援を拡大していく必要がある。
現行の住宅ローン減税制度は平成20年12月入居分をもって終了となる。税制抜本改革においては、住宅ローンのみならず、自己資金も対象とした総合的な住宅取得支援税制の創設や、重複課税となっている不動産取得税や登録免許税、印紙税などの不動産流通課税のあり方を見直すべきである。
平成20年度改正においては、京都議定書の目標達成に向けてCO2排出削減が強く求められている民生部門への対策の一環として、次世代省エネ基準を満たした新築住宅や、一定の省エネルギー改修を対象に省エネ工事費用相当額の一定割合を税額控除する措置を講ずるべきである。一方で、中越沖地震などにより、地震の不安は高まりつつあるため、建物の耐震化の推進に向け、総合的な制度の見直しや特例の延長を行うべきである。平成20年3月末で期限切れとなる事業用建築物の耐震改修促進税制については、適用期限の延長、償却率の見直し等を行うとともに、住宅の耐震改修促進税制については、適用区域制限の撤廃や手続きの簡素化、建替えへの拡大を図るべきである。
土地・住宅の流動化については、登録免許税や不動産取得税が平成20年3月末で特例の期限を迎える。地域活性化や土地の有効活用の視点、制度の趣旨を踏まえ、現行の特例措置は延長すべきである。また、住宅取得関連費用の軽減の視点から、固定資産税の軽減措置や相続時精算課税の住宅取得資金贈与の特例期限を延長すべきである。

(6) 道路特定財源

政府与党は昨年12月に、道路特定財源に関し、真に必要な道路整備を計画的に進めること、現行の税率水準を維持すること、道路歳出を上回る税収は一般財源とすることなどを基本方針とした見直しの具体策を閣議決定している。
しかし、道路特定財源は本来、受益者負担の原則に基づいた制度であり、歳入が歳出を上回る状況が続くのであれば、歳入の水準を見直すことが当然である。制度の見直しには納税者たる自動車利用者の理解を得ることが不可欠であり、本来の税率の倍以上となっている割増暫定税率の引き下げを図るとともに、複雑な自動車関係諸税の簡素化を図っていくべきである。

(7) 地球温暖化問題、エネルギー問題への対応
  1. 地球温暖化問題への対応
    地球温暖化は、わが国経済の発展の基盤に関わる最も重要な問題の一つであり、その阻止に真剣に取り組む必要がある。とりわけ、来年度から京都議定書の第一約束期間が開始され、また、来年7月の北海道洞爺湖サミットでは、議長国として京都議定書後の国際枠組みの構築に向けたリーダーシップが問われることから、より一層実効的な対策を講じていく必要がある。
    かかる観点から、産業・エネルギー転換部門の地球温暖化対策としては、京都議定書の採択に先駆けて策定され、すでに大きな実績をあげてきた日本経団連自主行動計画をはじめとする自主的な取組みの更なる拡充や、わが国が有する世界トップ水準の省エネ技術の革新、途上国への移転の促進に主眼が置かれるべきである。また、対策の遅れている家庭・業務部門への対応の強化がまずなされるべきである。
    環境税の導入については、エネルギー効率が相対的に低い地域への生産移転により、地球温暖化をむしろ促進する懸念があること、導入してもエネルギー需要を抑制することにつながらないこと、技術革新のための研究開発費の原資を企業から奪うこととなること、等の理由から強く反対する。

  2. エネルギー問題への対応
    世界のエネルギー需給の構造的逼迫が懸念され、地球温暖化への対応が迫られるなか、わが国としても国を挙げてエネルギー資源の利用効率を最大化していく必要があり、企業による省エネルギー対策と新エネルギーの導入等を後押しするエネルギー需給構造改革投資促進税制について、対象設備の拡大を含め、制度全体の充実を図るべきである。

(8) その他
  1. 外航海運に係る法人課税
    外航海運業者の日本籍船に係る、いわゆるトン数標準税制に関し、平成20年の通常国会における法改正とあわせ、主要な海運国の税制との整合性を踏まえた制度を創設すべきである。

  2. エンジェル税制の拡充
    ベンチャー企業等に対する投資を促進し新たな創業を支援するよう、エンジェル税制の拡充を図るべきである。

  3. 印紙税
    インターネットを通じた商取引など、経済取引のペーパーレス化が進展するなか、紙を媒体とした文書のみを対象とする印紙税は、税制の公平性の観点から問題が大きく、廃止を検討すべきである。

  4. 文書回答手続の改善
    企業が様々な事業計画を検討する上で、税制上のリスクを低減していくことは不可欠の課題であり、課税当局に対する事前照会制度は極めて有効な制度である。現行の事前照会制度では、対象が確実に実施される取引に限定されたり、関係者名が公表されるなど、企業が活用を躊躇するいくつかの問題点がある。一定の手数料を徴収することにより制度の濫用を防止することも含め、制度の使い勝手の改善を図るべきである。

  5. 外形標準課税の資本割の課税標準に係る特例措置
    無償減資等により資本の欠損の填補を行なった場合の外形標準課税の資本割の課税標準に係る特例措置については、平成20年3月31日までの時限措置とされているが、制度の趣旨に鑑み、これを恒久化すべきである。

  6. 法人事業税外形標準課税の簡素化等
    法人事業税外形標準課税の付加価値割については、申告実務上、付加価値計算のために多大な事務負担が生じており、明細書の廃止も含め、大幅な合理化、簡素化が必要である。また、事業所税従業者割の従業員給与総額と事業税外形標準課税付加価値割の報酬給与額の範囲が異なっており、統一を図るべきである。

  7. 電子申告制度の改善
    電子申告に必要となる、代表者の電子証明取得に時間を要するため、複数の代表者を認めるなどの取扱いの弾力化が必要である。また、電子申告のデータ読み込みに長大な時間を要する場合があることから、電子申告用ソフトの改善も必要である。

IV.おわりに

政府は、本年6月の経済財政改革の基本方針2007において、「平成19年秋以降、税制改革の本格的な議論を行い、平成19年度を目途に、(中略)、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく、取り組む。」ことを閣議決定している。
一方、先の参議院選挙で、民主党は現行の消費税率を掲げている。
消費税の取扱いについては、与野党において、大きな隔たりがあるものの、少子高齢化、グローバル社会において、国・地方の財政を健全化しつつ、日本の発展を支えていくための改革の必要性については、相違は無いものと考えられる。
世界各国では税制の抜本改革を終え、新たな成長を加速させている。中国、インドを始めとするアジア諸国の経済発展も目ざましい。
大きな環境変化のなか、抜本改革に向け、わが国に残された時間はわずかである。与党、野党の枠組を超えて、日本の将来に向け、今、行うべき改革のあり方について、透明で真剣な討論を重ね、国民的議論を喚起すべきである。

以上

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