対外経済戦略の構築と推進を求める
―アジアとともに歩む貿易・投資立国を目指して―
【 補論 】
〔会員企業が海外事業活動において直面する具体的課題〕
日本経団連では、貿易投資委員会において、ビジョンの実現に向けた具体的な対外経済戦略を構築するため、会員企業の海外事業活動の実態と直面する課題について、幅広くヒアリングを重ねてきた。以下では、論点ごとに主な指摘を整理した。
(1)物品およびサービス貿易
- EUの自動車関税10%の削減が重要課題である。
- EUのAV製品(テレビ、ビデオ、ラジオ等)の関税14%の削減が重要課題である。
- 小売業界は海外から多くの商品を調達しているため、わが国の輸入関税・国境措置の削減・合理化が重要である。仕入れ額全体の3分の1が輸入品である。特に衣料品は8割が輸入であり、海外依存度が高い。食料品に関しては、特に、ベトナムからはえびの輸入が多いので、わが国の関税の引下げを期待している。
- 東アジア地域において、小売業の外資規制が障壁となっている。特にインドにおいては、単独資本による投資が認められない。但し、小売業は、当該国内市場の特性に応じた適応力がなければビジネスとして成り立たないため、まずは、海外との連携を通じローカル市場に合わせて資本注入を行っていくことを目指している。
- 豪州の関税率表においては、輸入石油製品の平均関税率が日本の30倍にも達する。課税実態を確認しつつ、日豪間の公平性を担保する観点から引き下げを求める。
- 中国では2001年のWTO加盟以降、石油卸売・小売市場を外資に開放したが、これら事業の経営要件を定めた「成品油市場管理弁法」により、外資の活動や参入が実質的に制約されている。例:(1)卸売:供給ルートの確保義務・輸入制約(実質的に、中国国内企業に依存せざるをえない。(2)小売:外資比率規制が50%未満。
- 東アジア地域において、物流事業の外資規制が厳しく、100%の資本参加が許容されない場合には、現地と合弁が必要となる。しかし、現地との合弁では、サービスのレベルをグローバルに均質化させにくい。輸送業務が現地国の法規制でそれぞれ縛られていても、サービスのレベルはグローバルなスタンダードを維持しなければならない。
- ASEANをはじめとするアジア諸国の損害保険市場は、外資規制が厳しい(特にインド、タイ、マレーシア、フィリピン、中国等)。インド、タイなど成長性の高い市場ほど、外資に対する出資規制が問題となっている。中国に関しては、WTO加盟約束は一定程度遵守しているが、ルール運用上の透明性・予見性に依然として問題がある。
- 生保事業の海外進出の課題は外資出資規制である。外資規制(インドは26%、タイは25%、中国は50%まで)のため、単独では進出できず提携相手を探す必要がある。ベトナムには外資規制がないので、単独で100%子会社を設立できた。日本の経営ノウハウを生かせるよう、経営権を握れるレベルまで外資規制の緩和を望む。
- 東アジアの証券業務の外資規制について。中国は証券業の外資持分比率上限は33%、アセットマネジメント業務でも49%。業務内容も引き受け業務に限られる。出資パートナー会社として現地の証券会社の選定、合弁会社設立も自由ではない。監督当局の意向が強く反映される上、その基準が不明確である。なお、米中が戦略経済対話を開始し、第2回が2007年5月に行われた際、合弁を含む証券会社へのライセンスを認めるとともに、ブローカレッジ、トレーディング、資産管理業務を含め、外資系証券の業務範囲の拡大に合意された。
- 中国以外の国の証券業務規制については、インドは外資100%の証券会社設立が可能であるが、最低資本金規制が存在し、内資との資本金規制に差別がある(内資に適用される1.2百万米ドルの純資産額維持に加え、外資は最低資本金50百万米ドルが必要)。ベトナムは証券業の外資持分規制の上限は49%。非上場にも制限があり上限は30%。タイは外資が過半数の証券会社では、引き受け業務とブローカレッジ業務のみ可能。マレーシアは証券業の外資持分規制の上限は49%。
- 中国における対内投資規制について。QFII制度(Qualified Foreign Institutional Investors)により、外国人投資家には中国当局から個別の認可が必要となる。極めて限定的であり、各社ごとに投資可能額も決められている。なお、米中戦略経済対話において、このQFIIの総額の枠(現状100億ドル)を3倍に増額することが決定された。
- 中国においてQFII免許を取得するにあたり、当局に何度も足を運びプレゼンを繰り返し、半年以上の時間を要するなど非常に困難があった。
- インドでは、海外投資家は当局より個別の認可が必要となる。認可取得までの手続きに要する時間が非常に長く、適格要件も不明確である。韓国では、外国人による投資には登録が必要。
- 台湾では、海外投資家のうち、法人はFINIs(Foreign Institutional Investors)登録が必要。投資金額の上限は設定されていない。個人の場合には、投資上限が5百万米ドルまでとされている。国内決済制度保護の観点から、T+1決済(受渡)をフェイルすると3年間取引禁止との厳格なペナルティが存在する。
- タイでは、昨年12月、国内政治クーデターを背景に、非居住者が国内債券を購入する際、タイ中央銀行にその取引額の30%相当を1年間預託する義務が課された。また、この規制を当初株式にも適用したところ、海外投資家が一斉に株式の売却を始めたため、翌日に撤回された。このような政治的理由によるルール急変のリスクがあり、外国投資家からの不信感は高い。
- ベトナムでは、海外投資家は当局に登録し、IDを取得する必要がある。IDの取得には、現地のカストディアン銀行を指定する必要がある。海外投資家は、取引するローカル証券会社を一社に限定される。こうした厳しい規制のもと、どのように投資をし、サービス提供するか苦心している。
- 東アジアにおいて証券業を営む上での阻害要因として、海外における投資に対する規制に関しては、台湾、韓国で為替管理規制が厳格である。例えば、オフショアでの為替取引も禁止されており、通貨スワップや他のデリバティブ取引でも、通貨が関連する取引には規制がある。国内投資に対する規制に関しては、ローカル通貨を利用する金融商品の組成や取引への規制がある。
- 東アジアにおいては、金融関連規制の不透明性が問題である。例えば、認可業務として細かいライセンスを多く設け、限定列挙される。法令整備は各国とも急速に進んでいるが、ガイドライン等の公布が遅れることが多い。
- 米国においては、保険事業の州別規制の抜本的見直しを求めたい。銀行、証券業態と同様、保険についても、連邦ベースの監督制度を導入し、州による監督とのいずれかを選択できるようにすることを希望する。
(2)その他ビジネス環境に係わる規制等(税制・規制等)
1.税制
- 二重課税の回避、移転価格税制問題解決に向けて、租税条約、EPA等による相互協議の円滑化、国際的な紛争解決のためのルール整備が重要な課題である。二重課税は投資意欲や輸出意欲の減退につながる。
- グローバルな競争条件の平等化の観点から、各国の制度のイコールフッティング(法 人税制、減価償却制度等)が必要である。
- 日インド租税条約におけるソフトウェア開発役務税の撤廃を求める。インドにおいては、ソフトウェアのオフショア開発を委託する際、日インド租税条約に基づき源泉徴収が行われる。2006年の条約改正により、税額は20%から10%に引き下げられたが、こうした税が発生するのはインドのみである。米国企業の場合は、米インド租税条約に基づき、課税は行われず、日本企業にとって不利である。日インド租税条約の改定に向けて、働きかけを望む。
2.基準・規格
- タイ国内でエンジン油(潤滑油)を販売する場合、現状は、米国規格(API=American Petroleum Institute)に合致することが法的に必要。問題は、日本車がタイでは趨勢にもかかわらず、日本車に適合した日本規格がタイでは認められておらず、現在、日系メーカーでは連携して規制緩和(日本規格の認可)をタイ政府に要請することを検討中。また、タイにおいて、建設に使用する鋼材、材料の基準につきJIS規格が認められることを希望する。
- 機械の設計基準の国際的統一が必要である。圧力容器等については、日本がリーダーシップをとって進めている。その他、溶接工等の資格の統一等が求められる。
- 中国において、独自規格(第三世代携帯電話、無線LAN、次世代DVD等)を定める動きがある。規格形成プロセスの透明化、仕様の明確化、国際標準の採用または国際標準に沿った国内規格化が必要である。
- 昨今、健康・環境・安全への関心の高まりを背景として、欧州において化学物質規制(REACH)が施行されることになったが、不明確な点も多く、貿易上の懸念が多くある。
3.通関・物流
- 東アジアにおいては、道路状態の不備、港に大型船が着岸できず積み下ろしに時間がかかるなどの問題を抱える途上国が多い。
- ベトナムからタイへの東西回廊において、通関、道路等のインフラが不十分。
- インドにおいて道路・鉄道のインフラが不十分。
- 東アジアにおける通関の問題点として、担当官により手続き・法解釈、要する時間が異なることが多い。
- 中国では、税関での輸入品の評価額がインボイス価格より低い。税関の評価額が外貨管理局へ連絡されるため、輸入者はその分の外貨割当しか得られず、会計上の債務(インボイスに記載された金額)の一部が海外に送金できない。また中国からの輸出においても、広東省で実施するプラスチック事業において、香港の親会社から中国の製造子会社に対し製品が輸出される過程で、問題が発生している。
4.その他規制等
- グローバルな競争条件の平等化の観点から、各国の制度のイコールフッティング(独禁法等競争政策・M&A制度、環境法制等)が必要である。
- グローバルな規模で、政府調達の市場開放と透明性の確保が望まれる。特に豪州は政府調達協定に加盟していない。政府調達市場としては北米に関心が高いが、米国は加盟国であるものの州によって参入障壁がある。海上輸送にも米国籍の船舶の利用が求められる。
- 米国国家安全保障計画(NISP)における「機密情報取り扱い」の認定要件の緩和が必要である。米国では、機密情報を扱う連邦政府の機関(国防総省ほか23省庁)において、NISP(National Security Program)が実施され、民間企業に対する事業参加や情報公開に制限が設けられている。NISP対象事業に民間企業が参加するためには、「機密情報取り扱い」の認定が必要であり、海外企業には「ボードメンバー全員が米国市民」であることが要求される。これを日本企業が満たすことは事実上無理であり、国籍要件はボードメンバーの一部でよいとするなど、要件の緩和が望まれる。
- 電子商取引に関するWTOにおける関税不賦課のモラトリアムを恒久化すべきである。
- 研究開発面において日本の厳格な規制(航空技術開発面における航空法上の規制)が障害となっている例がある。
- 著作権補償金制度(欧州)の廃止を求める。ドイツにおいては、1965年より、機器や記憶媒体の製造者から補償金を徴収して権利者に分配する制度が実施され、カセットレコーダー、CD記憶媒体、ブランクのCDなどが対象となった。2000年、パソコン、ハードディスクにも補償金を賦課する方針が決定され、著作権団体からの一方的な通知により、1台あたり12ユーロが課されることとされた。この点の違法性を争うべく、欧州内で訴訟を開始したが、下級審では敗訴し上告している。上級審でも敗訴すれば、2002年まで遡及して年間100万台の販売につき12ユーロという巨額の支払い義務が発生する。この問題は欧州全体だけでなく、日本を含め各国に影響を及ぼしつつある。
- 食品輸入における安定供給・安全性の確保の両立が課題となっている。2006年5月より食品衛生法に基づき、食品中に残留する農薬、飼料、飼料添加物、動物用医薬品につき、一定の残留値を超える食品を販売・流通することを禁止するポジティブリスト制が導入された。同制度の運用については、行政と一体となって取り組んでいるが、毒性物質を含んだBSEや、中国から品質・安全性に問題のある品目が輸入される例が発生するなど、円滑な輸入の確保に向けて課題は多い。
- 中国の独禁法、米国の証券法等(米国に株主が存在する可能性がある場合の株式交換の米国への届出義務)など、外国法の日本企業に対する域外適用を防ぐ必要がある。
- 独禁法について、中国が今年にも、域外適用が明記された独禁法を制定する。EUや米国の独禁法においても、一定の域外の企業同士の合併等についても事前許可ないし事後審査が必要とされているが、域外適用を明記した中国の独禁法において、その運用を踏襲する懸念がある。これに対処するためには、EPAの枠組において、通商の問題に限らず、独禁法といった課題に関しても政策調整を図る必要がある。
- 日本において米国の証券法が適用されている。日本において、日本企業同士が株式交換を行う場合、米国市場に上場されていなくても、一人でも米国に株主が存在すれば、米国に届け出る必要がある。株主が10%未満の場合、簡易の届出、10%以上は事前の登録が必要となる。日本では米国企業同士の合併に同様の義務は課していない。
(3)日本国内の貿易手続き等
- 日本の航空・海運の港は、韓国、中国と比べ、手数料が高いことなどにより、国際的なハブとしての地位が低下している。物流インフラの整備が喫緊の課題であり、輸出入手続きの簡素化・効率化(特定輸出者認定制度の拡充、税関稼働時間の延長、コンテナヤード周辺の物流円滑化等)が必要である。アジア・ゲートウェイ構想等による取り組みの加速が必要である。
- 日本の港湾・空港の国際的地位が低下している。実際に海運では、神戸港や東京港だけでなく、プサン港など海外のハブ港を経由して製品を輸出している。また空輸でも、生産拠点からの距離は関空や福岡の方が近くても、コストや利便性を考えると、成田を使わざるを得ないのが現状である。
- 輸出手続きの簡素化に向けては、電子タグの導入を試みることも考えられる。なお、駐車場の車両の入出庫管理、コンテナの内容物の表示等の実験について、補助金を政府に申請したことがあるが、認められなかった。海外の例では、スーパーマーケット等の商品在庫管理にウォルマート等が利用していると聞いている。
- 日本の金融・資本市場がアジアの資金循環の中核となる金融力を確保し向上させるため、必要な規制改革を行うべきである。
- 日本は欧米諸国から、他のアジア諸国と同様、金融・証券市場の透明性が低いとみなされている。
(4)原産地規則・証明制度
- 原産地規則に関し、原産地証明取得手続きの簡素化と、各国間の手続きの共通化を図ることが極めて重要である。例えば、自動車は約3万点もの部品から構成されるという特徴があり、一つ一つの部品の原産地を特定し証明するには膨大な手間がかかる。
- 化学品の原産地規則について、化学品の市場変動が大きいことから「付加価値基準」の適用は実際上大きな困難を伴う。「関税番号変更基準」に加えて「加工工程基準」も選択できることが望ましい。
- HS番号85類の機械製品に関し、関税番号変更基準(6桁ベース)での認定を望む。付加価値基準では、個々の製品の下請会社に原産品かどうかの証明を依頼する必要があり、膨大な手間と費用がかかる。
(5)知的財産権
- 有効期限切れの模倣品に関しては、多くの先進国で実施されているように、不正競争防止法に基づく対応が必要である。
- 知的財産権侵害物品に関しては、輸入時だけでなく輸出時にも一定の対応が必要である。ブラジル、パナマ、中東、アフリカ等に流通している例が発見されている。中国においては、模倣品が通関において発見されても、輸出先等の情報については中国当局から開示されない。また、メキシコはOECD諸国で唯一、税関が国内法に基づいて知的財産権侵害物品を差し止める権限を有していない。
- 模倣品の流通防止には、危険性に関するPRの促進も重要である。例えば、自動車のボンネットの模倣など、事故の際に人命にかかわる問題となりうる。
- 途上国政府・国民の権利侵害の違法性等の認識の向上に向けて、取り組みが必要である。例えば、インド・ブラジル等において、ロイヤリティの支払いが円滑に行われないケースがある。また、ロイヤリティ支払いには、工業相・中央銀行の許可が必要となっている場合があり、そうした制度がロイヤリティの回収の障害となっている。
- 今後、インターネットを通じた模倣品の販売も増加すると思われることから、インターネットの販売業者に対する模倣品販売の摘発への協力を依頼することも考えうる。
- 模倣品は日本以外で販売されるケースが圧倒的であることから、海外政府との取締り等の連携強化や模倣品・海賊版に関する条約の締結推進など、世界的枠組での解決の推進が重要である。
- 海賊版・模倣品の放置は、実質的な被害のみならず、ブランド価値を薄めるリスクがある点にも大きな問題がある。
- 意匠に関しては、スタイル全体が類似していれば国内裁判所に提訴できるが、例えば自動車のテールランプの形状など、部分(パーツ)ごとの意匠の権利を認める制度がない。部分意匠制度の導入を検討すべきである。
(6)外国人材、人の移動
- グローバルな規模で迅速な人員配置を可能とするため、各国におけるビザ取得の迅速化が必要である。
- 英語圏以外の国においては、高度な能力を有し当該国語を理解する人材を現地で採用することが必要となっている。高度な人材を確保するためには、そうした人材が魅力を感じるグローバルなキャリア形成を可能とする必要があり、日本と他国との間の二国間だけでなく、第三国間の人の移動を円滑化することの重要性が増している。外国の銀行では、IT関連の専門家をインドで採用し、24時間にビザを取得した上で、直後にシンガポールで就労させるなど、グローバルな人事異動を実現しているようである。
- 企業が内外で即戦力となる外国人材を活用していくためには、日本や日本企業に対する外国人の理解を深めるとともに、日本において勉強・就労・生活しやすい環境の整備が求められる。例えば、日本への留学制度の充実、9月開始の学期制の導入、外国人の活用に資する税制改正、地方公共団体レベルでは、外国人留学生の生活居住環境の整備、英語表記の推進、地方自治体における英語での対応などが挙げられる。また、海外での日本語教育の充実、海外の学校への日本人教師の派遣、海外での奨学金の交付により、日本びいきの外国人の育成も重視すべきである。
(7)資源・エネルギーの安定供給
- 価格の高止まりを背景に、一部の資源産出国に資源の囲い込み、いわゆる資源ナショナリズムの動きが顕著となっている。ベネズエラやボリビア、ロシアといった国では上流権益の国有化、あるいは外資の上流参入が厳格化され、こうした動きの中、上流事業に外資参入を認めていない石油は埋蔵量ベースで世界の70%程度である。
- わが国と中東の貿易関係は、現状、中東からの輸入が日本の輸出の5倍以上の圧倒的な日本の輸入超過であり、かつ輸入のほとんどが原油である。中東との経済関係を強化するには、原油以外の貿易・投資活動を活性化させ、重層的な経済関係に発展させていくことが重要である。特に進行中の中東における産業クラスター形成に向けて、多様な分野で日本からの投資、技術・人材育成協力に対する大きな期待がある。
- 資源の安定供給確保には、資源国とのEPAや首脳外交を含めた官民一体となった関係強化が重要である。最近のわが国政府の取り組みにおいては、経済界が同行するミッションや資金面での支援が充実するなど、政府の資源外交や民間に対する支援体制は強化されており、今後とも継続した取り組みを期待する。
- 日インドネシアEPAにおいて、エネルギー・鉱物資源章が設けられ、輸出規制等の資源国側の政策変更時の通報・協議や、エネルギー・鉱物資源小委員会が設置されるなどが盛り込まれている。有益な内容であると評価している。
- EPAの資源・エネルギー章には輸出税の制限を盛り込むべきである。WTOにおいて必ずしも違法とはいえないケースがあるので、中国などの輸出税による資源の囲い込みについては、EPA等、個別の協定で対応する必要がある。また、加盟約束等WTOルールに違反する場合には、紛争解決手続きの活用も視野に働きかける必要がある。
(8)貿易ルールの履行確保、不公正貿易措置の是正
- 欧州においてITA対象品目として関税がゼロとされるIT製品に対して課税する動きが顕著である。96年のITA憲章の目的は、パソコンに接続する周辺機器の関税をゼロとし、IT製品を世界に普及させることであった。パソコンは多国籍にまたがる部品で構成され、世界各国から部品を融通しあう生産システムが採用されている。ITAにより、多くの国の生産者がウィンウィンの関係を構築することができ、ユーザー側にとっても接続コストが逓減する。しかし、EUは、モニターをパソコンに接続し、DVDの信号を送ることが可能となれば、モニターはIT製品でなくビデオモニターに分類すべきと主張するようになった。ウインドウズビスタを搭載するためには、パソコンにDVD信号を受信する機能等を付加することがメーカーに求められており、この点が深刻な問題になっている。また、将来的には、ワンセグによりTVが受信できる携帯電話がTVに、音楽が再生できる携帯電話がオーディオに分類されるといった事態が生じる可能性もある。
- ITA対象製品への課税について、欧州側は、新たな機能を有する製品をどのように分類するかはITA憲章において合意されたものではないことから、ITAへの違反はなく、関税分類を決定するWCOにおいて新たに議論すべきであると主張している。しかし、WCOにおける意思決定が投票によるため、欧州自体の票数が多い上、アフリカも欧州に賛同する可能性が高い。しかし、ITAはそもそもWTO上の協定であり、WCOでなくWTOのルールにのっとり決定すべきである。また、こうしたルールの違反を放置すればルールへの信頼が損なわれ、他国、他の分野における違反も誘発しかねないことから、適切に対処する必要がある。
- 不公正貿易措置の是正にあたっては、WTO紛争解決機関への提訴を梃子に相手国と交渉することが有効である。
- 不公正貿易措置の是正に向けては、日本企業・経済界の対外発信能力の強化に努め、通商法弁護士等専門家も積極的に活用していくことが重要である。
- アンチ・ダンピング措置の濫用の是正に関しては、措置発動により影響が及ぶ域内ユーザーとの連携強化も有益である。
- 将来的に、中国からの輸出が急増することが見込まれる中、他国で中国製品の輸入急増被害に対する貿易救済措置の発動により、日本製品が巻き添えとなる可能性が高く、アンチ・ダンピング等のルールの厳格な運用の確保、WTOルール交渉の推進が望まれる。例えば、米国のアンチ・ダンピング制度においては、一定の場合、複数国からの輸入による国内産業への影響が義務的に累積評価される。そのため、中国から米国への輸出が急増した場合、日本からの輸出も調査対象に含まれる懸念がある。また、セーフガードについてはそもそも対象国を特定した発動がみとめられていないが、日本も中国と同様の製品を輸出している。
- アンチ・ダンピング調査は、措置が結果的に発動されなくても、調査への対応に割かれる人員、コストは膨大である。日本においてアンチ・ダンピング措置が発動しにくく、欧米では発動しやすいというアンバランスがあることは問題である。
(9)貿易救済措置
- アンチ・ダンピングについて、他国から発動される場合が多い反面、日本が発動した例は極めて少ない。関税定率法に発動のための規定があるが、調査開始のためには、提訴企業が十分な証拠を揃える必要があり、非常に厳しい要件となっている。WTO協定上は、合理的証拠があれば調査開始できることとなっている。十分な証拠を求めるということは、明らかにダンピングが行われていると分かる場合しか調査しないということである。これは関税定率法の改正によって対処すべき問題である。
- セーフガードについて、日本は畳表、しいたけ、ねぎに暫定措置を発動した1件しか例がない。まず、政府のみが調査開始権限を有する一方、民間企業等に申し立て権はないことに問題がある。また、セーフガードを発動するための一体的な法律が存在しない。SGの手段として、関税措置であれば関税定率法、数量制限は外為法にそれぞれ規定がある。日本への輸入急増被害が生じた際、救済措置を求めるためには企業は自ら関税引き上げを求めるか数量制限かを決めた上で、適切な窓口に持ち込まなければ受け付けてもらえない。他方、米国や中国などのように、輸入急増被害の対処を政府に要望すれば、出口のメニューを政府が決めるというのが通常の仕組みである。
- セーフガード発動に関する企業の申立権の付与も必要である。
- 化学品に関し、現時点ではアンチ・ダンピング措置を発動する気運はそれほど高くないが、今後、アジア・中近東における生産能力の増大により余剰生産設備の問題が顕在化し、日本に大量に流入するようになれば、アンチ・ダンピングの発動も真剣に考える必要がでてくる可能性がある。
- 他国の不公正貿易措置に対しては、攻めの姿勢で臨み、産業界も積極的に活用する姿勢が必要である。例えば、韓国の半導体に対する補助金については、わが国において初めて相殺関税が発動された。伝家の宝刀である貿易救済措置も利用しなければさび付いてしまう。
(1)WTOの維持・強化およびドーハ・ラウンドの推進の意義
- 企業にとって、WTO体制および交渉推進の意義は大きい。中国等の新興市場への進出判断にあたっては、WTOへの加盟が決定的な役割を果たした。
- 自由化の推進はWTO交渉に基づく方法が最も重要である。国境を越えて生産・販売を行うためには、貿易自由化の進展が最も重要な要素である。また、WTO制度により、公平な競争が確保されることも重要な意義を有している。
- WTOを通じ、グローバルな分野別関税撤廃・調和交渉を推進することが必要である。化学分野については、特にインド、ブラジル、ASEAN各国には高関税が残存する。ICCA(国際化学工業協会協議会)においては、年間生産額が30億ドルを超える全ての国の参加を条件として、関税撤廃(ゼロ・ゼロ)の実現を目指して活動しており、わが国もこれを支持している。
- サービス交渉について、現在進められているプルリでのリクエスト・オファーによる交渉を推進すべきである。エネルギーサービス交渉に関しては、各国がその固有の事情を背景に、安定供給、環境、効率化等、多様な目標を総合勘案したうえで、現在のプルリ・リクエストの合意に基づき自由化交渉を進めるべきである(理由:交渉全般の議論の後に、政策論を議論すべきではないため)。
(2)EPA/FTA、二国間協定の意義・課題
- 日本とのFTAがない国に関しては、企業努力を通じ、現地生産・調達の推進や他国とのFTAを活用することにより、ある程度対応可能である。しかし、日本からの輸出が多い国との間でFTAが締結されることが望ましい。
- WTO、日本のFTA締結速度が遅い。第三国間のFTAにより、日本企業にとって競争条件格差が発生している。特に、韓国に遅れずFTAを締結していくことが不可欠である。例えば、EUの自動車、家電の高関税や恣意的関税分類問題は、FTA等の関税撤廃が実現すれば関税自体がなくなるため、解決が可能となる。
- FTA締結が遅れれば、日本企業の海外展開と日本の産業の空洞化が加速する。
- 韓国はEUとFTA交渉を進めているが、EUは家電、自動車等の関税が高く、韓国とのFTAが実現すれば日本企業の競争力に大きく影響するため、特にEUとの締結を急ぐべきである。
- グローバルな企業活動の円滑化の観点からは、日本以外の第三国間のFTAも活用している。わが国としても、企業活動のグローバル化、ネットワーク化に対応できるよう、第三国間のFTAの締結または企業活動にとって重要な地域内部の経済連携の推進を図ることも重要である。
- 現地生産している企業が限定される場合、企業間でメリット・デメリットに対する考え方が異なってくる。現地生産ビジネスにとっては、例えば完成車の関税が即時撤廃された場合、相当の影響がある。しかし、自由貿易の恩恵を享受してきた日本企業として、こうした関税撤廃の影響を懸念する保護主義的主張をすることは好ましくない。
- FTA交渉の過程では、相手国の関税、規制に関する情報を詳細に把握できる。途上国の担当官が日本政府から様々な面でキャパシティビルディングを受けられるメリットがある。
- アンチ・ダンピング措置の濫用防止の観点から、既存のまたは今後交渉するEPAにおいて関連する規律が必要である。特に、日米EPA交渉においては、米韓FTAにおける貿易救済措置の事前協議制度等と同様の措置を求めることが重要である。
(1)官民連携
- 損保業界では、各国の民間金融サービス業界とともにFinancial Leaders Groupを形成し、国際的な業界間の連携を強化している。また、金融庁と連携しつつ、途上国向けの研修を実施している。(下記(3)参照。)
- 首脳・閣僚レベルの外交に際しては、経済界・企業の意図や実情が正確に反映された働きかけが可能となるよう、事前に十分すり合わせを行うことが重要である。
(2)産業界による海外渉外活動
- 海外に進出する日本企業が現地政府に対しどのように影響力を確保していくかが重要な課題となっている。
(3)途上国支援
- 途上国に対しては、自由化を求めるばかりでなく、ビジネスノウハウの移転等を通じた自由化の支援が重要である。
- 途上国に対し、損保業界では、各国との交渉を通じた問題解決を側面支援するため、協会や金融庁によるセミナー等を通じ、サービス自由化や効果的な保険監督のメリットを説きつつ、わが国の技術やノウハウを共有している。ロシアに関しても同様の戦略を採用している。
- 関税削減・撤廃への働きかけに関しては、途上国に具体的なメリットがあることを示し、国ごとに理論的に働きかけることが有効である。例えば化学品の自由化については、ASEAN諸国に対しては、日本は石化製品の輸出余力はなく、また高級グレード中心であるため競合していないことを説明している。また、化学品は、ASEAN諸国が製造するテレビ、電気・電子製品など多くの産業にも利用されるため、こうした原料が安く入手できれば、国内産業の競争力がつくので、低関税によるメリットがあると説明している。インドに対しては、インドが行う医農薬の委託加工の原料を日本、EUから輸入しているため、原料である化学品の関税が下がれば各国からの投資も活発化し、また国内の当該産業の競争力がつくと説明している。
以上
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