子育てに優しい社会づくりに向けて

〜地域の多様なニーズを踏まえた子育て環境整備に関する提言〜

2007年11月20日
(社)日本経済団体連合会

子育てに優しい社会づくりに向けて(概要) <PDF>

はじめに

政府は、今年2月に、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議を立ち上げ、年末を目途に、少子化対策に関する重点戦略を取りまとめることとしている。6月に公表された中間報告では、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現が最優先の課題とし、それを支える子育て支援サービスの基盤整備も求められるとした。
日本経団連では、今年3月に「少子化問題への総合的な対応を求める」 <PDF> を取りまとめた。そこでは、企業はワーク・ライフ・バランス推進に取り組み、保育サービス等の社会インフラ整備は国・地方自治体が基本的に担うという役割分担を明確にしながら、互いに連携して取り組むことの必要性を訴えた。
しかし、子育て世代を中心に恒常的な長時間労働が見られ、結果として長時間保育を必要とする状況が存在する。また、「男は仕事、女は家庭」といった固定的な性別役割分担意識が社会全体に依然として根強く残っている。この状況が続くことは、仕事と子育ての両立はもちろんのこと、次代を担う子どもの家庭における健全育成を図る観点からも好ましくない。経済界・企業としては、経営トップのリーダーシップの下、ワーク・ライフ・バランスの考え方に沿って、働く時間や場所などの多様かつ柔軟な働き方を整備するとともに、メリハリのある働き方を基本とする職場風土の醸成に取り組む。
国・地方自治体には、地域における子育て環境整備に対して、責任をもって取り組むことを望む。子育て環境は地域ごとに多様であることから、子どもの育ちという視点で質の確保に配慮しながら、全国画一の対応ではなく、地域の主体性を尊重し、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められる。
大都市圏では保育所待機児童問題として、低年齢児向けの保育サービスの絶対量が不足しており、先進的な地方自治体の取組みを踏まえ、企業の協力、地域貢献を得ながら、早急に対応すべきである。

1.子育て環境整備に向けた企業の取組み

(1) 事業所内保育施設・地域貢献型の保育施設の設置・運営

企業は、これまで事業所内保育施設の設置に関して、初期費用や運営費用を含めて多額の費用を持ち出しても、自らの課題として、従業員のニーズにあわせた子育て環境の提供に努めてきた。特に待機児童の多い大都市圏において、事業所内保育施設は、地域の保育所で十分対応できない低年齢児向けの子育て環境を従業員に提供し、産休・育休を取得した従業員の早期の職場復帰に貢献している。
企業は、今後も、子育て環境の整備、大都市圏における待機児童対策、親子のふれあい等従業員福祉の充実の観点から、具体的な従業員のニーズに基づいて、必要な事業所内保育施設の整備を進める。また、単独で設置できない場合は、他社との共同設置や地方自治体との連携を検討するとともに、社会貢献の観点から地域への開放 #1 にも積極的に取り組む。
特に、地方自治体との連携においては、例えば東京都の認証保育所の施設整備に対し企業の土地・建物の提供 #2 などを検討する。
こうした取組みを加速させ、より多くの企業が、事業所内保育施設や地域貢献型の保育施設を設置・運営しやすくするためには、政策的な支援を拡充する必要がある。なお、大都市圏の都心部で事業所内保育施設の設置を検討した場合、通勤車両に関する配慮や短時間勤務、フレックスタイムなど各種制度の利活用もあわせて検討しておく必要がある。

(2) 地域における子育て環境整備に対する企業の自発的な協力

経済界・企業は、上記の事業所内保育施設・地域貢献型の保育施設の設置・運営にとどまらず、社会貢献の一環として、従業員、地域のニーズを踏まえながら、たとえば、以下の事項につき、人材面での貢献を含めて、積極的かつ自発的に協力する。

(3) 仕事と子育ての両立支援と男性の育児参加の推進

日本経団連では、多様かつ柔軟な働き方の整備や仕事と生活を両立しやすい職場風土の醸成に取り組む観点から、今年3月にワーク・ライフ・バランス推進に向けた企業の行動指針 #3 を取りまとめ、行動指針の各項目に関する各企業における具体的取組み事例を掲載している。経済界・企業は、仕事と子育ての両立支援とともに、固定的な性別役割分担意識を払拭し、男性の育児参加を勧める観点から、特に下記の事項に積極的に取り組み、多様な働き方を推進する。

こうした取組みを通じて、企業は生産性の向上、競争力の強化を実現し、従業員個々人は働きがい、生きがいを高めていくことが期待される。
なお、企業の取組み情報を提供する観点から、次世代育成支援対策推進法「一般事業主行動計画」の開示の義務化が提案されているが、行動計画自体が公表を前提として策定されたものでなく、行動計画には企業の自主的取組みが十分反映されていない。したがって、行動計画については、その内容や届出対象企業の範囲などあるべき姿を十分議論した上で、近い将来の公表を前提に国民への周知活動を行っていくべきである。

(4) 児童育成事業におけるPDCAサイクルの実行

経済界・企業は、これまでも児童手当事業主拠出金を通じて、休日・夜間保育、特定保育、病児・病後児保育、家庭的保育等の多様な保育サービスの実施、地域子育て支援拠点の整備、放課後児童対策の実施等の児童育成事業に対して、貢献している。
今後、経済界・企業は、事業を実施する地方自治体等と連携して、従業員のニーズを的確に反映し、より効果的な児童育成事業が展開できるよう、雇用保険2事業の取組みを参考に、評価システムを設け、自らもその運営に参画するとともに、PDCAサイクルを実行するよう求める。

(5) 企業活動の本業を通じた幅広い子育て支援

地域における子育て環境整備にとどまらず、企業活動の本業を通じた子育て支援として、子育て・家事負担軽減のための商品開発や子育て・家事に忙しい家庭でも利用しやすいサービス提供を積極的に行うとともに、店舗スペースや接客応対などの面で子連れでも利用しやすい雰囲気づくりに努める。

2.地域の多様なニーズを踏まえた子育て環境整備に向けて

(1) 大都市圏における保育所待機児童問題への対応

  1. 施設整備の推進に向けた政策対応
    保育所待機児童問題は大都市圏において顕著に見られ、かつ低年齢児に集中している。しかしながら、大都市圏では用地確保や費用負担等の問題があり、施設整備を進めていくことは難しい。そういった困難な状況の中で施設整備を進めるためには、質や安全の確保にも配慮しつつ、たとえば東京都の認証保育所を参考にした柔軟な保育料の設定、施設整備を行う民間事業者への財政支援、面積基準や保育従事職員の資格基準の緩和を実現し、多様な事業者の参入と柔軟なサービス提供を行える仕組みを導入すべきである。
    また、駅前などの利便性の高い場所に保育施設を設置しやすくするため、建物の容積率の緩和措置や保育事業者への賃料補助を拡充する必要がある。

  2. 家庭的保育等の活用に向けた環境整備
    上記の施設整備に加えて、小集団での保育が求められる低年齢児向けのサービスとして、保育ママやベビーシッターなどによる家庭的保育、保育士を補助する保育サポーターやボランティアを積極的に育成し、活用することも考えられる。
    その担い手として、家庭福祉員等を参考に、定年退職者や子育て経験者などが保育士等の公的資格を有していなくても研修を受けることで関われるように、制度を整備すべきである。また、保育士についても受験要件を緩和し、多様な人材が子育て支援に参加できるようにすることも必要である。
    なお、現行の21世紀職業財団やこども未来財団などから、家庭的保育等に支出されている補助金について、保育施設に対する補助金とのバランス、家庭的保育などの活用促進等の観点から、財源のあり方も含めて見直すべきである。

(2) 全国各地域における効果的な子育て環境整備について

  1. 既存の保育所・幼稚園の有効活用
    大都市圏に限らず、全国各地域において、保育サービスの充実を進める上で、新たに施設を整備するだけでなく、既存の保育所・幼稚園が実施する、保育園の一時預かりや広域入所制度、幼稚園の預かり保育や親子登園を積極的に展開することも重要である。家庭的保育や各種子育て支援(ファミリー・サポートセンター、つどいの広場、緊急サポートネットワーク等)の充実にあたって、その拠点として、既存の保育所・幼稚園を積極的に活用していくことも求められる。
    その際、保育所の役割について、現行の認可保育所で言う「保育に欠ける児童の保育」のための施設との位置付けに加え、「専業主婦や育児休業中の家庭を含め、保育を希望するすべての人の多様なニーズに応える」ための施設とし、利用者が直接契約できるようにすべきである。
    さらに、保育所・幼稚園の取組みの多様化・充実を図るため、質や安全の確保にも配慮しつつ、定員要件を柔軟にする等、認定子ども園の設置を促進することも必要である。

  2. 多様な働き方に対応した多様な子育て支援サービスの整備
    企業において育児休業、短時間勤務、隔日・夜間・休日勤務等のシフト勤務といった多様で柔軟な働き方が広まっており、育児休業明けでの年度途中の保育所入所や延長・夜間・休日保育・学童保育、病児・病後児保育など多様な子育て支援サービスに各地域が対応できるようにするため、前述したとおり、地域と企業の連携を図りながら、児童育成事業等を効果的に展開する。

  3. 分かりやすい情報発信と情報交換の場の提供
    地域の子育て支援は、保育所、幼稚園、各種子育て支援、学童保育など多種多様な内容になっている。現状では、これらがバラバラに情報発信され、一覧性を欠くケースが多く、地域の子育て支援の全体像が見えにくい。そこで、官民が連携し、利用者や子育て支援の参加希望者にとって分かりやすい情報内容に加工して、「子育て支援マップ」等の形で情報発信していくことが求められる。また、核家族化が進み、地域コミュニティの活動が希薄化している地域もあるため、ICTを活用して時間や場所にとらわれずに、子育て世帯が悩みや相談、情報交換を気軽にできる場を提供することも必要である。

3.子育て環境整備を進めるに当たっての安定的財源の確保

以上提言した子育て環境整備は、国・地方を通じた財政支出を伴うものとなる。これを賄うに当たっては、歳出面の見直しとして、これまでの施策における重複や無駄の排除、規制改革や民間委託などを通じたサービスの多様化やコストの削減などを行うとともに、長期的に安定した財源の確保が不可欠となる。
政府・有識者の一部に、子育て環境整備をはじめ、出産・育児に関する費用負担を新しい社会保険の創設によって賄うべきとの主張がある。しかし、現行の社会保険において、年金では未納者・未加入者問題、記録漏れ問題、徴収コストの高さ等の問題があり、医療では給付と負担の対応が不明確な財政調整の仕組み等の問題があり、制度としての効率性、透明性に欠ける。さらに、今後も高齢化の進展に伴い、賃金や所得に課される社会保険料負担の増加が見込まれ、経済成長への悪影響も懸念されるなど社会保険の創設は到底、受け入れ難い。

4.国民運動の再構築と企業の取組みの推奨

子育てに優しい社会づくりに向けては、社会インフラの整備や企業における多様な働き方の推進とともに、社会全体で子育てを暖かく見守り、支えていく雰囲気を醸成していくことも必要である。そのためには、男性の育児参加をはじめ、家族・地域のきずなをより深める方向で、国民一人ひとりの働き方や生き方に対する意識を改革していくことが求められる。こうした意識醸成に国全体が国民運動として取り組むことが極めて重要であり、経済界・企業はその趣旨に賛同し、協力していく所存である。

(1) これまでの取組みに対する危惧

内閣府は、今年6月に、今後、毎年11月第3日曜日を「家族の日」、その前後1週間を「家族の週間」とし、「家族・地域のきずなを再生する国民運動」を展開すると決定した。しかし、現状では、国民運動の事業が予算計上されているにもかかわらず、国民各層に対する周知が極めて不十分であり、運動自体が掛け声倒れに終わることが懸念される。加えて、同じ内閣府が行う官民連携子育て支援推進フォーラム事業や各地方自治体における取組みとの調整がなされず、各主体がバラバラに活動し、国全体として一体感ある取組みにならない可能性が高い。

(2) 国民運動の今後の展開に向けて

そこで、引き続き、国民全体に周知し、認知度を高めることに注力するとともに、来年以降の本格的な運動の展開に向けて、既存の様々な事業や取組みをスクラップアンドビルドし、国全体として一体感ある取組みに再構築した上で、その内容を政府が策定を進めるワーク・ライフ・バランス憲章に盛り込む必要がある。
また、既に各企業において、それぞれの実情に応じ、ワーク・ライフ・バランス推進等の自主的な取組みとして、ノー残業デーの設定、職場参観・工場見学等の家族イベントの実施、年次有給休暇の取得促進の呼びかけ等を行っている。日本経団連としては、各企業に対し、今後、「家族の週間」といった国民運動の機会を活かし、こうした取組みのさらなる推進を働きかける。

以上

  1. 地域への開放に当たっては、事故リスクの責任分担、事業所内保育施設としての位置付け、開放した地域からの補助金交付を可能とすること等の措置を講じる必要がある。
  2. たとえば、企業の施設内において、東京都認証保育所を作る事例(台東区にあるバンダイ本社福利厚生棟内、武蔵野市にある横河電機の敷地内)がある。
  3. 2007年3月に公表した提言「少子化問題への総合的な対応を求める」 <PDF> において、(1)経営トップのリーダーシップの発揮、(2)メリハリのある働き方の実現、(3)職場の意識醸成を図るための幅広い運動の展開、(4)マネジメント職に対する教育、(5)主体的なキャリア形成の環境整備、(6)女性の就労継続支援と再雇用の推進、(7)次世代育成支援対策推進法の行動計画におけるPDCAサイクルの活用、(8)社会全体に対する積極的なアピール、(9)創意工夫を生かした取組み、(10)企業間の連携の推進を掲げている。

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