教育振興基本計画特別部会における審議のまとめに対するコメント

(中央教育審議会教育振興基本計画特別部会へ提出)
2007年12月5日
(社)日本経済団体連合会
教育問題委員会

1.総論

(1) 教育界の役割・責任などの明確化とその遂行が最重要課題である。産業界も教育再生に積極的に協力する

教育再生は、国を挙げて取り組むべき課題であり、産業界も社会的責任の一つとして教育再生に協力する考えであるが、その第一義的責任が教育界にあることは論をまたない。従って、教育界自らが何をなすべきか、その役割・責任を踏まえた上で、社会との連携の強化を目指すことが求められる。
また、教育予算の拡大については、教育界がその質の向上や予算執行の効率化に最大限の努力を行うことが大前提である。

(2) これまでの政府内での議論・決定を踏まえることが必要である

特別部会の審議経過報告(「基本的考え方」「重点的に取り組むべき事項」)は、学校や教員が切磋琢磨しながら創意工夫する環境整備の重要性などを指摘した教育再生会議、規制改革会議の提言ならびにこれらを踏まえた骨太2007等の閣議決定を必ずしも反映していない。これまでの政府内での議論・決定を踏まえた計画を策定することを期待する。

(3) 重要事項ならびに優先順位を定め、そのPDCAサイクルを確立すべきである

教育振興基本計画の進捗状況を検証するための仕組みが必要である。重点的に取り組むべき事項にあわせ、数値目標や達成期限(工程表)などを盛り込むべきである。特に、達成期限を検討する際には施策間の優先順位付けを行う必要がある。

2.「基本的な考え方」「重点的に取り組むべき事項」へのコメント(各論)

(1) 「基本的な考え方」(p4) まず教育界の責任を明記すべきである

「社会全体で教育の向上に取り組む」と言う前に、「教育界(学校、教育行政)は、公教育の再生を図る上での第一義的責任を負う」ことを冒頭に明記すべきである。
教育界の教育再生に向けて、産業界としても、公教育のあり方に関心を持つとともに、次世代育成を企業の社会的責任の一つとして位置づけ、教育の充実に積極的に協力する考えである。

(2) 切磋琢磨、学校選択制、学校・教員評価、権限移譲が不十分である

  1. 「基本的な考え方」p5「(2)<2>個性を尊重しつつ能力を伸ばし、個人として、社会の一員として生きる基盤を育てる」について
    学校毎の差異や競争を否定する考え方が教育界に存在していることが、児童・生徒の個性や能力を無視した教育内容や教育方法の画一化を招くとともに、教育の活性化を妨げてきた面が強いことから、学校・教員の切磋琢磨を促すことが必要である。また、教育成果をはかる客観的指標に基づき、子どもたちの個性・能力を踏まえた教育内容や教育方法を検討することが今後の施策に不可欠であると考える。
    「(2)<2>個性を尊重しつつ能力を伸ばし、個人として、社会の一員として生きる基盤を育てる」に以下を追記していただきたい。

    『そのためには、教員や学校、教育委員会が切磋琢磨しながら学校運営や授業改善に向けて創意工夫するための環境を整備すること、教育の受け手の意向を反映した運営を図ること、客観的で多元的な評価に基づき、教育の質の保証・向上を図るしくみを導入することが必要である。』
  2. 「重点的に取り組むべき事項」p4「2(1)知識・技能や思考力・判断力・表現力、学習意欲等の『確かな学力』を確立する」について
    個性の伸張という基本コンセプト(基本的な考え方2(2)<2>)に対応する具体的施策が欠落している。伸びる子は伸ばし、理解に時間のかかる子には丁寧な指導を行い、能力や興味・関心を最大限伸ばすための施策を入れるべき。具体的には、以下の施策を追記すべき。

    『教育委員会・学校は、子どもたちの能力や理解度に応じた教育を推進するため、習熟度別授業や少人数教育を拡充する。国・教育委員会は、こうした現場の創意工夫を促すために、人事、予算、学級編成・教育過程の編成などに関する学校(校長)、市区町村教育委員会への権限委譲を促進する。権限の委譲に併せ、国・都道府県教育委員会は、教育現場が抱える問題を専門的見地から助言・支援する人材を確保し、その組織化を図るとともに、先進的な取組みを普及するための活動を行う。』
  3. 「重点的に取り組むべき事項」p8「学校評価の推進とその結果に基づく学校運営の改善」について
    評価の充実、学校間の切磋琢磨の促進の観点から、以下の下線部分を加えていただきたい。

    『・・保護者・地域住民等と連携協力の促進、教育の受け手の評価も踏まえ比較検証可能な客観的指標を用いるなど学校評価システムの充実に向けて取り組む。また、評価結果などを参考に、教育の受け手が就学先の学校を選択するとともに、その選択結果を踏まえた予算配分を行うなど、学校運営や授業改善に向けた切磋琢磨を促進するための環境を整備することが必要である。

(3) 教育予算の拡大について

総論で述べたとおり、これまでの政府内での方針・決定を踏まえること、教育界がその質の向上や予算執行の効率化に最大限の努力を傾けることが大前提であり、その上での教育への投資拡大であることを肝に銘じていただきたい。

  1. 「重点的に取り組むべき事項」p6「(3)優秀な教員を養成する・確保するとともに、一人一人の子どもに教員が向き合える環境をつくる」p7「教育課題に対応するために必要な教職員定数の措置等」について
    教員が子どもと向き合う時間を確保することは非常に重要である。しかしながら、まず教職員定数の措置ありきということでなく、教職員定数の措置以外にも、学校マネジメントの改善、行政機関からの調査の合理化など教員の負担軽減に向けた業務の効率化、ICT環境整備による校内、地域・家庭との情報の共有化、適正な学校規模の確保などを通じた効率化など様々な取り組みが考えられる。

  2. 「重点的に取り組むべき事項」p6「優れた教員を確保するための優遇措置の維持及びメリハリある給与体系の実現」について
    教員の勤務実態のみならず、教員評価に基づくメリハリのある給与体系を実現すべきである。優遇措置の在り方については、教員給与の見直しの方向性を示した骨太2006の方針を踏まえることが必要である。

  3. 「重点的に取り組むべき事項」p11「(6)大学等の教育研究を支える基盤を強化する」について
    大学の基盤的経費の措置にあたり、教育、研究に対する評価を踏まえることが必要である。この点を反映させ「・・あらゆる分野において優れた教育研究が安定的に・継続的に行われるよう、基盤的な経費を確実に措置する。その際、大学等における教育面・研究面での取り組みに対する評価を踏まえることとする」と修文すべきである。

  4. 「基本的な考え方」P6「重点的に取り組むべき事項」p12「安全・安心で質の高い教育環境を整備する」について
    「耐震化について計画的な整備を支援する」とあるが、設備投資による安全確保とともに、子どもたちの整理・整頓をはじめとする安全確保のための心構え・行動を育むことが重要である。

(4) その他

  1. 「基本的な考え方」p2「(2)教育の使命」について
    第3パラグラフ 「教育は、国、地方公共団体、学校、保護者、地域住民、企業など様々な関係者の相互の取組みにより成り立つ・・中略・・重ねていかなければならない」までは、内容的に「教育の使命」に入れることには違和感がある。
    「関係者の役割」などの新しい小見出しを設けるか、あるいは、2(2)今後の教育施策の目指すべき基本的方向の中に入れるなど、整理が必要ではないか。

  2. 「基本的な考え方」p3「(4)教育振興基本計画のねらい」について
    「教育振興基本計画を策定するに当たっては、各分野において様々な主体によって行われている様々な活動にも十分に目を配り、それらが一層促進されるよう配慮することが求められる」とあるが、その意図がわかりにくい。

  3. 「重点的に取り組むべき事項」p3 専門教育について
    専門的職業人を養成するとあるが、専門的職業人という概念が不明確であり企業でどのような役割を担う人材であるか明示して欲しい。産業界は、今後のものづくりを担う技能者の減少を危惧している。「専門的職業人(技術者・技能者)」と記して欲しい。

以上

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