国際会計基準(IFRS)に関する欧州調査報告・概要

2008年3月18日
(社)日本経済団体連合会

1.調査の目的

国際会計基準IFRSは、EU域内市場での統一基準として採用されているほか、昨年11月に、米国市場への外国企業上場にも容認されるなど、世界100ヵ国以上で使用される国際基準としての地位を固めつつある。
わが国では、日本基準を国際会計基準へ整合させるコンバージェンス作業を続けているが、米国がIFRSの全面採用を決定したことから、中長期的な観点からわが国会計基準のあり方、とりわけIFRSをどのように受け入れていくべきかについて検討を深めるべき時期を迎えている。
そこで、欧州におけるIFRSの受け入れの実態について、関係機関、企業を訪問の上調査を行い、今後のわが国会計制度の方向性の検討の参考とする。

2.日程・訪問先

2月12日(火)  欧州委員会域内市場総局
欧州産業連盟(Business Europe)
欧州議会経済金融委員会
2月13日(水)欧州財務報告諮問会議(EFRAG)
国際会計基準審議会(IASB)
2月14日(木)英国財務報告審議会(FRC)
国際会計基準審議会(SAC会合)
2月15日(金)BP社
フランス財務省国家会計審議会(CNC)

3.参加者

(順不同敬称略)
(団長)経済法規委員会企業会計部会長八木良樹
松下電器産業東京支社経理グループグループマネージャー  山田浩史
住友商事主計部部長代理服部進睦
新日本製鐵財務部決算グループリーダー石原秀威
(事務局)日本経団連税制・会計グループ長井上 隆

4.主要論点についての調査概要

(1) 欧州におけるIFRSの定着度

  1. 2005年より、EU域内の上場企業の連結財務諸表に対し国際会計基準(IFRS)が適用されたが、3年を経て欧州市場においてIFRSは定着しつつあり、導入は成功であったとの評価がある。

  2. 2005年の導入時、企業においては数年前から適用に向けた準備を開始するなど、多くの時間、コストが費やされたのも事実である。

  3. EUは域内の資本移動の自由化という大きな目標の下で、各国ごとに異なっていた会計基準を統一する必要があり、この目標とIFRSが合致し、IFRSの採用に至った経緯がある。

  4. 一方、いずれの国、機関からも、IASBの公的な責任の増大から、より確固たるガバナンス(デュープロセスやアカウンタビリティーの強化など)を整備する必要性が指摘された。今後のIASBの最大の課題と考えられる。

(2) 各国におけるIFRSの利用

  1. IFRSは、あくまで資本市場における連結財務諸表作成のための会計基準として用いられており、個別(単体)財務諸表に関しては、英仏両国とも従前通り国内会計基準を用いている。なお、英では、個別財務諸表に対しても選択的にIFRSを用いることが可能である。

  2. 英仏の国内会計基準自体も、国際的な会計基準の流れを踏まえつつ、見直し作業が継続されている。

  3. 英仏とも、中小企業に対して国際会計基準を適用することには否定的である。今後とも、国際的な投資家向けの連結財務諸表作成のための会計基準であるIFRSと、配当や税務計算基礎としての個別財務諸表作成のための各国会計基準は、並存していくものと思われる。

  4. 英仏両国で、昨今のIFRSの求める開示内容が過剰になりすぎているとの意見があった。

(3) 各国会計基準設定主体の動向

  1. IFRSの採用後も、英仏の会計基準設定主体の活動は縮小していない。主たる機能は、個別財務諸表のための国内会計基準整備と国際会計基準に対する国としての考え方の取りまとめにある。フランスでは、国際的な発言力を高めるよう、会計基準設定主体の機能をむしろ強化する動きがある。

  2. 米国FASBとIASBの接近に対して、欧州諸国では懸念の声が多い。すなわち、欧州各国よりも米国の考え方が今後のIFRSに大きく反映されてしまうのではないかという懸念である。

  3. 英仏、欧州の会計基準設定主体が連携して、IASBに対して発言をしていこうという動きがある。日本に対しても、必要な範囲で連携を図りたいとの提案があった。

  4. IASBとFASBが中長期的に検討を進めている、業績報告(当期利益の廃止)などについては、慎重に検討を進めるべきで、また各国やステークホルダーからの意見をもっと重視すべきとの指摘があった。

(4) IASBの動向

米国がIFRSを全面採用(米国会計基準とIFRSの選択制。外国企業はすでに規則化、米国企業に対しても規則化の方向)する方針を受け、議論の多い中長期テーマ(財務諸表の表示等)に関しても、東京合意の期限である2011年までに完成を目指すよう、検討を加速する動きがある。

5.日本への示唆

  1. 英仏の例からも、国際的な投資家への開示である連結財務諸表と、配当や税務計算の基礎となる個別財務諸表とを区分し、前者にはIFRSを、後者には日本会計基準を適用していくこと(いわゆる連・単分離)は、有力な選択肢と思われる。また、上場企業でも必ずしも国際的な活動を行っていない企業も多いことから、IFRSの適用は選択制とすることが考えられる。なお、IFRSを採用する場合には、部分的な採用ではなく、国際的統一ルールとして一括して採用する必要がある。

  2. 同時に、開示の簡素化の観点から、金融商品取引法上の開示は、個別財務諸表を開示せず、連結財務諸表に一本化することを検討すべきである。

  3. 日本と同様、独自基準を維持していた米国がIFRSを適用する選択肢を海外企業に認め、また、近く米国国内企業にも認める可能性が高い。わが国においても、IFRSの選択適用容認に係る検討を急ぐ必要がある。

  4. 個別財務諸表に適用される日本会計基準は、引続き、国際的な整合性を踏まえつつ、また、国内の事情も勘案しつつ慎重な整備を続ける必要がある。

  5. IASBに対する意見反映は、例えばディスカッションペーパーが作成される時点など、可能な限り早い段階から行う必要がある。人的なつながりを強化するとともに、各国の基準設定主体とも連携しながら、意見を発信していくことが重要である。特に、IFRSとFASBで検討が進められている中長期的テーマに対する積極的な意見発信が不可欠である。

6.今後の予定

日本経団連では、経済法規委員会企業会計部会が中心となって、わが国におけるIFRSの受け入れ方などについて、アンケート調査、有識者からのヒヤリングなどを続け、基本的考え方を取りまとめる予定である。また、会員各社に対しIFRSへの正しい理解を深めるための広報活動を行う。


主要訪問者リスト
(順不同敬称略)
欧州委員会
域内市場総局担当局長ピエール・デルソー氏
欧州産業連盟
会計調和WG座長パトリス・マルトー氏
法制担当役員ジェロム・ショーバン氏
欧州議会
経済金融委員長ペルバンシュ・ベレス氏
同等性評価担当議員アレキサンダー・ラドバン氏
欧州財務報告アドバイザリーグループ(EFRAG)
議長スティグ・エネボルドセン氏
国際会計基準委員会(IASB)
議長デビット・トゥィーディー氏
副議長トーマス・ジョーンズ氏
理事ジョン・スミス氏
理事山田 辰己 氏
英国財務報告審議会(FRC)
チーフ・エグゼクティブポール・ボイル氏
会計基準審議会 議長イアン・マッキントッシュ氏
英国BP社
財務担当責任者ミカエル・スターキー氏
フランス財務省
経済財務総合政策局次官補  ジェロム・ハース氏
国家会計審議会 議長ジャン・フランソワ・ルプティ氏
以上

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