財政健全化に向けた予算制度改革

2008年4月15日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

わが国の財政は、まさに危機的状況にある。国・地方の長期債務残高は、2008年度末で778兆円、対GDP比147.6%と、先進国の中で最悪の水準にある。特に国の公債残高は、2008年度末で553兆円と、一般会計税収の約10年分に相当するまで積みあがっており、大きな負担を将来世代につけまわしている。この異常ともいえる状況から早急に脱却し、財政の中長期的な持続可能性を確保することは、わが国にとって待ったなしの課題である。

確かに、近年の歳出削減努力や税収増加を受け、財政健全化に向けた取り組みは一定の進展をみせている。しかし、現状に満足することは許されない。財政改革は国を挙げて、将来を見据えながら、継続性・一貫性をもって取り組むべき課題である。先を見通せば、わが国が本格的な少子・高齢化社会に突入するなかで、社会保障受給者数の増加による社会保障関係費の傾向的な増大など、乗り越えるべき多くの課題が待ち受けている。

危惧されるのは、このところ税収の伸びが鈍化するなかで、格差是正などを旗印とする歳出拡大圧力が増しており、財政規律に緩みが生じていることである。2008年度当初予算では、一般会計の基礎的財政収支は5.2兆円の赤字と5年ぶりに悪化し、近年続いてきた基礎的財政収支の改善傾向は途切れることとなった。現状を放置すれば、財政健全化に向けた一里塚に過ぎない2011年度における国・地方を通じた基礎的財政収支の黒字化さえ、達成が危ぶまれる。

このまま債務規模が抑制されなければ、利払い、償還に要する費用が他の財政支出を圧迫し、機動的な政策運営を行うことができなくなる。また、健全な財政がなければ、国民生活の安心の拠り所となる社会保障制度の維持が困難となるのみならず、イノベーションの開花に向けた研究開発投資の拡充、わが国の国益確保と国際社会の安定につながる外交防衛力の強化など、将来を見据えた国家投資も行えなくなる。さらに、財政の持続可能性に対する内外市場からの信頼を失えば、金利の高騰、大幅な円安などにより、経済に計り知れない損失を与える可能性もある。財政の持続可能性を確保することは、わが国経済へのマイナス影響を取り除き、成長力を強化するためにも不可欠である。

これまで経団連は、深刻な状況にあるわが国財政の建て直しに向け、具体的な政策提言を行ってきた。2007年9月には「国・地方を通じた財政改革に向けて」を公表し、今後の財政健全化目標のあり方、ならびに歳出入見直しに関する課題について、経済界としての考え方を示した。今後は、こうした提言の内容を実現するための体制整備が必要と考える。すなわち、政治情勢などにかかわらず、長期的な観点から財政規律の回復に向けて着実に取り組むための仕組みが必要であり、そのためには、立法府および行政府における予算制度のあり方にまで踏み込んだ改革が求められよう。

こうした問題意識の下、本意見書では、財政健全化に向けた予算制度改革のあり方について、経済界としての考え方を示すこととする。

2.予算制度を巡る現状

予算は、一会計年度の歳入歳出の見積もりを内容とする財政行為の準則である。憲法は、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」と財政国会中心主義を規定しており、現行予算制度においては、国会による財政統制が大前提となっている。その上で、 「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」と、内閣が予算を作成し、提出することを規定している。

これまで立法府および行政府の双方において、予算制度に関わる多岐にわたる取り組みが行われてきた。主要なものを挙げれば、以下のとおりである。

(1) 国会における予算審議

憲法に基づき、国会は毎年度、内閣が提出した予算を審議する任を負う。国会における予算の審議は、先議権をもつ衆議院から始まる。衆議院予算委員会における詳細な審議を経て、本会議で審議・可決されると、参議院へ送付され、参議院でも同様の手続きを経て可決されると、予算が成立することとなる。参議院が衆議院と異なった議決をした場合に、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、または参議院が衆議院の可決した予算を受け取った後に、国会休会中の期間を除いて30日以内に議決しないときは、衆議院の議決をもって国会の議決とされる。なお、歳入の裏づけとなる税制改正法については、こうした衆議院の優越は認められない #1

審議に際して、国会議員は、内閣が予算編成の際に前提条件とした「政府経済見通し」、当該予算に基づき先行きの財政状況を推計した「後年度影響試算」、各府省が自らの政策を評価した結果(政策評価)などを利用し判断を行っている。これら資料は各議員により現に活用されており、その有用性はいささかも否定されるものではない。しかし、国会として、予算審議の一層の充実を図るためには、行政府サイドの資料に加えて、今後の経済見通し、予算が成立した場合の経済や財政への影響などについて、多角的視点から分析されたより豊富な情報が利用可能であることが望ましい。

また、国会は、毎年度の審議を行うにあたって、前もって財政規律に関する考え方を示すことが望まれるが、現在のところ、そうした仕組みは形成されていない。過去、国会が財政改革の方策を法的拘束力あるかたちで示した例としては、1997年11月に制定された「財政構造改革の推進に関する特別措置法(財政構造改革法)」が挙げられる。同法は、2003年度までに、国・地方の財政赤字の対GDP比を3%以内に抑えること、また、一般会計について、特例公債を年々減額し特例公債依存から脱却することを目指し、その実現に向けて、社会保障、公共投資、文教など9分野について、改革の基本方針、量的縮減目標、実施すべき各種の制度改革を示した。しかしながら、同法成立後、アジア通貨危機の発生や金融不安の深刻化に直面するなど、わが国の経済情勢が大きく変化するなか、同法は経済動向へ柔軟に対応する仕組みを基本的に欠いていたため、機動的な財政運営の足かせとなってしまった。そして1998年12月、景気回復を優先する観点から、「財政構造改革の推進に関する特別措置法停止法」が成立し、「財政構造改革法」はわずか1年余りで凍結されることとなった。

#1 参議院が衆議院と異なった議決をした場合、衆議院で3分の2以上の多数で再可決すれば、法案が成立する。

(2) 経済財政諮問会議を中心とする取り組み

経済財政諮問会議は、内閣総理大臣の諮問に応じて、経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策に関する重要事項について調査・審議をする場として設置された。同会議は、年初に中期の経済財政運営の方針を示す「日本経済の進路と戦略(進路と戦略)」、6〜7月頃に「経済財政改革の基本方針(基本方針)」を決定しており、同会議の設置以降、これらを踏まえて予算編成の方針が定められ、概算要求・予算編成作業が行われるとの流れが定着している。

特に、2006年7月に取りまとめられた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006(基本方針2006)」においては、当面の財政健全化目標として、2011年度までの国・地方の基礎的財政収支の確実な黒字化が掲げられ、分野毎の歳出削減プログラムが策定された。財政改革の方策が、数値目標を含めて具体的に取りまとめられたことは、財政健全化に向けて予算をコントロールする一定の仕組みが構築されたという点で、評価できる。

しかしながら、目標とされた国民経済計算(SNA)ベースの基礎的財政収支の値は事後的に作成・判明するものであり、SNAの財政統計を得るためには、年度終了後2年近く待たなければならない。そのため、各年度の歳出入を管理する観点からは、SNAベースの財政健全化目標を毎年度の予算編成の基準として活用することには限界がある。

加えて、「基本方針2006」では、財政健全化目標の達成に向けた方策は歳出削減が中心となっており、社会保障関係費など今後避けられない歳出の増大に対応するための財源確保措置については、必ずしも明確になっていない。すなわち、基礎的財政収支の黒字化を達成するために算定された要対応額と歳出削減額との差額については、主に税制改革により達成すべきことを指摘しているものの、その具体的内容やスケジュールまでは明らかになっていない。また、歳出削減プログラムについても、具体的な目標は2011年度までであり、2012年度以降において削減を着実に進めるための道筋は明確となっていない。

(3) 政策評価等の進展

2001年6月に成立し、2002年4月に施行された「行政機関が行う政策の評価に関する法律(政策評価法)」に基づき、政策評価制度が導入された。政策評価は、国民に対する説明責任の徹底、国民本位かつ効率的で質の高い行政の実現、国民的視点に立った成果重視の行政への転換を目的としている。基本的には、各府省が政策を企画立案し遂行する立場から、その所掌する政策について自ら評価するが、同時に、評価専担組織である総務省が、政府全体として政策評価制度が十分に機能するよう制度の推進役を担うとともに、複数府省にまたがる政策の評価や、各府省が行った政策評価の点検活動を実施している。評価結果は、予算の作成においても適切な活用を図ることとされており、2005年に実施された法律の施行後3年の制度見直しにおいても、評価結果の予算要求などへの反映が明示されている。こうした点も踏まえ、総務省ならびに各府省は、毎年8月末の予算概算要求に間に合うよう、6月末までに前年度の政策評価書を作成・公表しているところである。ただし、各府省自身が行う評価は、内容が定性的・抽象的記述に留まるものが多く、客観性・中立性を疑問視する向きもある。また、政策の必要性の観点からの評価に重点がおかれ、有効性や効率性の観点からの評価が必ずしも十分ではないとの指摘もある。

2002年度から、財務省は予算執行調査を実施している。これは、予算査定を行った当事者の立場から、同省主計局および全国の財務局の担当者が、それぞれの問題意識に応じて選定した事業の執行の状況を、実際に事業現場に赴き調査し、予算の効率化に向けて改善すべき点などを指摘するものである。毎年、予算年度開始直後の4月に調査対象事業を選定、各省庁が翌年度予算の概算要求を行う前の6〜7月に調査結果を公表し、年末にかけて行われる翌年度予算編成に反映されている。2007年度の調査は62事業を対象に実施し、予算が効率的かつ効果的に執行されているか調査した結果、計342億円について翌年度予算案への反映が図られることとなった。

会計年度が終わり、予算の執行が完了すると、財務大臣により決算が作成される。会計検査院は、立法および司法に属さず、内閣に対し独立の地位を有する外部監査機関の立場から、国の収入支出の決算を検査する。さらに、国の決算金額と日本銀行が取り扱った国庫金の計算書の金額との不一致、法令・予算に違反しまたは不当と認めた事項、国会の承諾を受ける手続きをとっていない予備費の支出などの掲記を含む、検査報告を作成する。そして、決算と検査報告は、会計検査院から内閣へ送付、内閣から国会へ提出される。こうした取り組みは、予算が適切かつ有効に執行されたかどうかをチェックとともに、その結果を次の予算の編成や執行に反映することで、国の行財政活動の健全性の維持に貢献している。ただし、検査報告の会計検査院から内閣への送付は例年、予算編成作業中である11月頃であり、予算編成への反映においては時間的制約が課題となっている。

(4) 予算書・決算書の改革

「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005(基本方針2005)」などにおいて、政策ごとに予算と決算を結び付け、予算とその成果を評価できるように、予算書・決算書の表示科目の単位(項・事項)と政策評価の単位とを対応させるとの見直しを行うこととされた。これを受け、2008年度予算から、予算書の表示科目の見直しが行われている。当該見直しにより、予算書が国民の目に分かりやすくなり、また、決算書についても同様の見直しが行われることで、政策ごとに予算・決算とその成果が比較対照可能になり、予算・決算と政策評価の連携が強まることが期待される。

(5) 公会計制度改革によるアカウンタビリティの向上

近年、企業会計の考え方を活用した財務書類を公表し、財政に関する透明性とアカウンタビリティの向上を図る取り組みが進展している。予算執行の単位であるとともに、行政評価の主体である省庁単位での財務書類を作成するため、2004年6月に「省庁別財務書類の作成基準」が取りまとめられ、これに基づき、2002年度決算分より「省庁別財務書類」が作成・公表されている。また、特別会計の財務内容の透明性の確保を図る観点から、1999年度決算分より「特別会計の財務書類」が作成・公表されている。さらに、国全体のフローとストックの財務情報を提供するため、2003年度決算分から、一般会計および特別会計を合算した国の会計の財務状況、一般会計単体の財務状況、国の会計に特殊法人や独立行政法人などを連結した財務状況、により構成される「国の財務書類」が作成・公表されている。この「国の財務書類」として、年一回、貸借対照表とともに、損益計算書にあたるものとしての業務費用計算書および資産・負債差額増減計算書、キャッシュフロー計算書に相当するものとして区分別収支計算書が作成されている。このように、順次、財務書類の整備が進められてきたことは評価できるものの、会計年度終了から公表まで、「国の財務書類」は1年半、「省庁別財務書類」は1年というタイム・ラグが生じており、これらを予算の編成段階から適切に活用し、財政活動の効率化・適正化につなげていくことは困難となっている。

3.予算制度改革に関する提言

以上みてきた取り組みは、財政健全化の実現に向けて、一定の成果をあげている。例えば、「基本方針2006」で掲げられた社会保障費、公務員人件費、公共事業費などの分野について、計画的な歳出改革が実施されている。新規国債発行額は4年連続で減額され、2008年度は25.3兆円と2004年度から10兆円以上縮小している。また、一般会計の基礎的財政収支の赤字額は、2008年度に若干悪化したものの、2003年度の19.8兆円から5兆円台にまで減少している。

これらの歳出改革努力は今後とも続けていく必要があるが、それでもなお、先を見通した場合、2009年度に予定される基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げをはじめ、高齢化の進展に伴う社会保障関係費増大への対応の必要性など、財政健全化に向けて多くの困難が待ち受けていることを忘れてはならない。こうしたなかでは、わが国財政の中長期的な持続可能性を確保するための取り組みは、未だ不十分と言わざるを得ない。

わが国財政の危機的状況を踏まえ、将来世代への負担の先送りを回避し、経済の活力を維持するためには、以下に掲げるとおり、行政府による予算編成のあり方のみならず、立法府の意思決定も含めて、予算制度改革を断行しなければならない。

(1) 基本的考え方

財政健全化は一朝一夕になし得ることではなく、歳出入改革への一貫した姿勢の下、長期にわたる粘り強い努力が求められる。その過程では、歳出削減や増税など、国民に痛みを強いる政策の遂行が不可避となることも想定される。他方、小選挙区制の導入や頻繁な国政選挙の実施など、わが国の政治体制を鑑みれば、国民の負担を伴う政策の断行を掲げ、長期スパンで取り組みを進めることは、仕組みとして容易であるとは必ずしも言い難い。より短期的視点に立った国民生活の水準向上を目指す施策に重きが置かれる結果、財政健全化への取り組みが後回しとなる可能性も否定できない。そのため、安定的かつ確実な財政健全化への取り組みを、制度的に担保することが求められる。

このような観点に立ち、まず国会が一定期間にわたる財政改革に関するコミットメントを行い、そして内閣は国会によるコミットメントをベースに、毎年度の予算編成を行うとの仕組みを確立することが考えられる。その際、当然の前提として、あらゆる手段を尽くして最大限の歳出削減努力を行わなければならない。同時に、歳出改革を行ってもなお費用が増大する社会保障制度の持続可能性の確保に加え、研究開発投資の拡充、競争力強化に必要なインフラ整備、外交防衛力の強化などに対しては、必要に応じて財源を確保した上で、重点的・戦略的な予算配分を行う必要がある。

また、現在の政策評価制度は、評価情報の供給拡大という観点からは一定の成果を挙げているものの、予算編成への活用との視点に立った場合、効果的な評価情報は必ずしも十分ではない。そこで、政策評価を情報公開の手段と捉えるアカウンタビリティ志向にとどまらず、国全体の業務遂行の改善につなげるマネジメント志向へ転換し、予算配分に活用可能な評価情報を増やす必要がある。その上で、政策評価の結果を予算編成により一層反映させる仕組みを導入し、政策評価制度と予算制度の連動を高める必要がある。

(2) 当面の措置

<1> 立法府 − 財政健全化に係る中期的コミットメントの形成

国会は、財務省や内閣府をはじめ行政府の協力の下、当面の財政構造改革の目標(5年間程度)について、必要不可欠な歳出増加に対応した財源確保策を含め、「歳出歳入改革法」(仮称)の制定などの手段を通じて、一定のコミットを行う。これにより、当面の財政運営における一定のルールを明確にする。

当該コミットメントは、近年の財政健全化に向けた取り組みとの継続性の観点から、歳出削減プログラムを含め、「基本方針2006」との整合性を確保したものであることが求められる。その上で、毎年度の予算編成の基準として活用可能なものとするとの観点も含め、まずは一般会計ベースでの基礎的財政収支黒字化を目指すものとする。ただし、基礎的財政収支黒字化は、一定の経済条件のもとで債務残高対GDP比のさらなる上昇を避けるという意味にとどまる。既にわが国の債務残高対GDP比は先進国のなかで突出して高く、それでは中長期的な持続可能性は全く確保されない。これを踏まえれば、当該コミットメントは、基礎的財政収支の黒字化にとどまらず、国債残高対GDP比の安定的低下を目指すものとしていく必要がある。

さらに、当該コミットメントには、経済成長の維持、国際競争力の強化に必要な施策も盛り込まれるものとする。財政を中長期的に健全化していくためには、経済成長を維持することが不可欠である。先進諸国の実例をみても、経済が活性化し、企業収益の向上や雇用・所得の拡大が見込める環境がない限り、税収の拡大は期待できず、財政収支を持続的に改善していくことは困難である。そこで、財政再建と経済成長を車の両輪と捉え、わが国の成長を支える施策についてもコミットしていく必要がある。

そして、当該コミットメントは経済社会情勢や財政健全化の進捗状況などに対応し、定期的に改定する。また、財政構造改革法が凍結された経緯も踏まえ、当該コミットメントには、景気の大幅悪化など、止むを得ない限定的な事情が発生した場合に弾力的な運用を可能とする条項を盛り込むこととする。これにより、経済情勢に柔軟に適応できないという制度の硬直性が制度自体を崩壊させ、最終的には財政規律を失うとの失敗を回避することができよう。

なお、国会がコミットメントを形成するに際して、その主体性を確保する観点からは、経済や財政状況の見通しなど、判断の前提となる情報について、財務省や内閣府に全面的に依存することは望ましくない。そこで、多角的視点から分析された豊富な情報が利用可能となるように、中長期的観点から両院事務局、特に予算議決について優越的権限が付与されている衆議院の事務局の情報収集・分析機能を拡充していく必要がある。具体的には、事務局において、経済政策分野、財政分野などについて、専門性の高い人材の研修、育成を図るとともに、民間を含む外部の研究機関などを効果的に活用する仕組みを構築していくべきである。

<2> 行政府
  1. (イ) 優先政策事項に基づいた分野別および分野内の予算配分
    内閣は、毎年度、国会が行った財政構造の改革目標に関するコミットメントに合致する範囲内で、分野別・分野内の予算を取りまとめる。その際、留意すべきは、財政は国民の安心・安全や将来への投資を支える基盤であるが、有限な資源であり、戦略的・集中的に配分することが不可欠であることである。そこで、分野別・分野内の予算配分においては、内閣は事前に行政府として取り組む優先政策事項を明示し、それをメルクマールとすることで透明性を確保しながら、政策の優先度に基づいて必要な予算を充当していく一方、経済社会情勢の変化に伴い重要性の低下したものについては、思い切った予算の縮減を図ることが求められる。

  2. (ロ) 予算編成に役立つ評価ツールや手法の確立

    (i) 評価手法の確立

    財政健全化に向けて歳出改革を進める上では、政策評価制度を充実させるとともに、政策評価と予算の連携を強化することにより、政策評価を予算配分の合理化・効率化を図るための梃子として利用することが課題となる。
    政策評価の実効性を高めるためには、第一に、国民的な関心や重要性が高い特定の事業については、社会実験の実施なども含めて検証可能な手法で評価し、政策の是非や改善点を明らかにすることが必要である。こうしたより厳格な評価については、例えば社会政策、教育政策などを中心に実施されることが考えられる。
    第二に、分野毎の政策に対して、評価の客観性を確保することが求められる。このため、政策目標におけるアウトプット(政策目標の達成のために提供された財、サービスの数量など)、アウトカム(政策目標がどの程度達成されたか実際の効果を示すもの)の数値化を推進し、政策遂行による成果を具体的指標に基づき測定・評価する必要がある。その際、効果の発現まで一定の期間を要する政策についても、適切に評価できるよう配慮することが求められる。
    第三に、分野間の比較を可能とする横断的な政策評価体系を確立する必要がある。例えば米国では、施策の評価と格付けツール(PART #2)により、各省庁の個別プログラムが「プログラムの目的と概要」、「戦略計画」、「マネジメント」、「成果」の4つの視点から得点化され、一覧性をもったかたちで公表されており、その結果は、予算配分決定の際の判断材料の一つとして利用されている。こうした取り組みも参考にしながら、わが国においても、横断的な評価ツールを策定することが求められる。
    その上で、こうした評価分析結果などについて、一定のルールに基づき高い透明性を確保しながら、予算配分に反映させていく必要がある。
    同時に、決算から得られるコスト情報と政策評価結果を照らし合わせるなど、効果的なコストベネフィット分析手法を開発し、予算配分の妥当性・効率性について、事後検証を常時行うべきである。

    #2 Program Assessment and Rating Tool
    (ii) 財務諸表の公表の早期化

    公会計を通じた財務的評価は、非財務的評価と同様、財政活動を効率的に進めていく上で不可欠な情報を構成する。「省庁別財務書類」、「特別会計財務書類」、「国の財務書類」については、情報公開を促進するツールとして、財政状況に関する事後的な説明資料にとどめるのではなく、財政システム全体のインフラと捉え、財政健全化に役立てていく必要がある。このためには公表時期のさらなる早期化が必要であり、世界最先端の電子行政の構築に取り組むなかで、会計データの電子化・データベース化を推進し、財務諸表の作成作業の効率化を図ることが求められる。なお、企業の経営管理指標も参考にしながら、国全体の業務遂行の改善を目的とした管理指標を開発することも課題である。

  3. (ハ) 予算編成と政策評価の担当部局の連携強化
    以上の施策により、予算編成に役立てるための評価ツールや手法の確立が進んだとしても、行政府内で評価結果の予算編成への活用が積極的に行われなければ、資源の浪費に過ぎない。そこで、経済財政政策の司令塔的役割を担う経済財政諮問会議、予算編成と予算執行調査を担当する財務省主計局、政策評価を担当する総務省行政評価局などが、組織の壁を超えてより一層連携を強化し、予算編成と政策評価の連動性を高めるべきである。

(3) 将来的課題

<1> 立法府
  1. (イ) 継続的なコミットメントの形成
    財政構造改革の実現には、継続的な取り組みが不可欠である。そこで国会には、経済社会情勢や財政健全化の進捗状況などをふまえて定期的に改定しながらも、財政構造改革の目標に関する一定のコミットメントを常に有することが求められる。
    一般会計の基礎的財政収支黒字化を達成した後の財政健全化目標は、債務の利払費までをカバーする財政収支の改善に向けた赤字縮減とすることが考えられる。債務残高の絶対額の増大に歯止めがかかれば、一定の成長を続ける経済においては、債務残高対GDP比が年々、確実に減少していくことになる。

  2. (ロ) 両院事務局の調査能力の強化
    国会には、財政に関する主体的判断能力をより一層向上させることが望まれる。そこでまず、予算の先議権を持つとともに議決においても強い優越的地位が認められる衆議院に関して、事務局の企画・調査能力を強化し、必要に応じて外部の研究機関なども活用して、行政府が想定するマクロ経済や財政収支見通しについて多角的観点から検証を行う。これにより、国会の財政健全化目標に関するコミットメントと政府の諸施策との整合性を確保する。また、各年度において、様々な施策を実施するために必要となる額を示すなど、個別政策が財政に与える影響の試算なども行う。なお、米国では、議会の付属機関として議会予算局(CBO #3)が設置され、議会が経済および財政に関する決定を行うために必要な客観的な分析、ならびに議会の予算編成過程に必要な情報および推計を議会に提供することを任務として活動している。こうした取り組みも参考に、議院内閣制を採るわが国に整合的なかたちで衆議院事務局の機能を強化していくことが望まれる。
    同時に、参議院事務局においては、とくに行政監督の機能の発揮の観点から、決算の審査をより実効あるものとするためのサポート体制を強化すべきである。決算審査は、予算審査とともに、国会の財政に関する権限のいわば車の両輪とも言うべきものであり、その強化は、行政府による予算執行を適正なものとするためにも不可欠である。審査の迅速化にも配慮しつつ、会計検査院の検査報告にのみ重点を置くことなく、国会独自の調査結果も踏まえて決算に対して厳しいチェックを行い、その成果を予算編成に反映させる必要がある。
    なお、両院事務局の調査能力の強化とあわせて、国政選挙に際して有権者が各政党の財政政策のビジョンについて明確に理解した上で投票することができるよう、民間の研究機関などが、政党の政策マニフェストの財政面からの分析を活発に行うことも期待される。

    #3 Congressional Budget Office
<2> 行政府
  1. (イ) 政策評価の徹底
    限られた財政資金を真に有効に活用するためには、政策のスクラップ・アンド・ビルドを徹底するとの観点から、新規施策のみならず既存施策を含めた歳出内容の全般を見直し、ゼロベースの観点に立った予算編成を目指す必要がある。このため、分野間の比較による優先付けを含めた横断的な政策評価を徹底し、予算配分の合理性を高めていくことが求められる。

  2. (ロ) 予算編成の体制の再構築
    現在は予算編成、政策評価の実施、同制度の施行が別の組織に置かれるなど、予算編成と政策評価の機能が分散している。しかし、予算配分の合理化・効率化をさらに強力に進めるためには、政策評価情報の徹底的な利用が不可欠である。そこで、政策評価と予算編成の機能を一体のものと捉える観点から、予算編成担当部局への政策評価担当部局の統合も検討することが求められる。

以上

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