全員参加型の低炭素社会の実現に向けて

−「省エネ・省CO2大国ニッポン」であり続けるために−

2008年6月17日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

本年から京都議定書の約束期間が開始されるとともに、7月のG8洞爺湖サミットにおける主要テーマの一つに地球温暖化問題が掲げられるなど、低炭素化・地球温暖化防止対策の推進が急務となっている。本格的な低炭素社会の実現のためには、技術のみならず、ライフスタイルや社会のイノベーションも必要である。わが国は、世界に先駆けて革新的な技術開発に積極的に取り組むと同時に、さらなる省エネ化の徹底など、実効ある対策を着実に実行に移していかなければならない。
これまで日本経団連では、「CO2削減のための環境自主行動計画」の着実な遂行など、産業部門を中心に温暖化対策に取り組んできた。同時に、わが国が低炭素社会を構築していくためには、民生部門の取り組みも重要である。去る6月9日に福田総理が発表した、地球温暖化防止に関する基本方針においても、「国民一人ひとりが、低炭素社会の実現に向けて、賢く、責任ある行動をとることが必要」である旨、強調されたところである。今後は、温室効果ガスの削減に向けて、政府・地方公共団体・企業・国民といった、あらゆる主体が連携を図りつつ、各々の役割を着実に果たしていくことが求められる。その際、環境と経済の両立を基本に、あらゆる主体が長期にわたって継続的に取り組み得る対策を推進していく必要がある。
こうした観点に立ち、本提言では、エネルギー需給の両面、すなわち「需要面におけるエネルギー利用の効率化」と「供給面における低炭素化」の双方に焦点を当て、家庭部門における省エネ・省CO2化など、国民生活に関係が深く、また、国民の理解が不可欠な対策を中心にとりまとめた。
本提言の内容は、本格的な低炭素社会の実現に向けた取組みの第一歩であり、今すぐ実行に移すことが重要である。

I.一人ひとりが「省エネ大国ニッポン」を形作るために

1.「省エネ大国ニッポン」であり続けるべく、産業界も最大限努力

わが国は資源小国であることもあり、資源・エネルギー問題に対する国民の関心は概して高いと言える。その結果、オイルショック以前から現在に至るまで、わが国は世界最高水準のエネルギー利用効率を達成し続けている。とりわけ産業部門では、オイルショックを契機に大幅な省エネを実現しており、業種別エネルギー利用効率を国際比較しても、わが国は世界トップクラスにある。
産業界では、今後とも、自ら掲げる「CO2削減のための環境自主行動計画」を柱に据えつつ、省エネ法に基づく施策や省エネ設備等の導入支援といった政府の諸施策との相乗効果により、より一層の省エネ化を徹底する。また、オフィスや物流の対策等に取り組むとともに、製品のライフサイクル・アセスメントを通じて、民生・運輸部門のCO2削減にも努力する。
地球温暖化問題への対応の機運が世界的に高まっているなかで、温室効果ガスの国別削減目標の達成に向けて、EUをはじめとした諸外国においても、省エネ化の取り組みが強化されている。そのような省エネ化を巡る国際競争のなかにあっても、わが国が、引き続き、世界最高水準のエネルギー利用効率を維持する「省エネ大国ニッポン」であり続けられるよう、産業界としても最大限かつ不断の努力を払う所存である。

2.家庭部門における省エネの徹底のために

京都議定書の目標を達成するためには、わが国では、2008〜2012年度で、温室効果ガスの排出量を1990年度(基準年)比6%削減しなければならない。同議定書対象の温室効果ガスのうち、CO2排出量の推移(基準年比の2006年度実績)を見ると、産業部門が約5%減に対し、運輸部門は約17%増、業務その他部門は約40%増、家庭部門は約30%増となっている。このことから、基準年比で増加率が大きい家庭・業務部門における省エネ対策の強化が必要である。2008年3月に改定された京都議定書目標達成計画でも、「業務その他・家庭部門において効果的な対策を抜本的に強化する」旨明記されている。
業務部門については、引き続き、環境自主行動計画の枠組みを活用しながら、オフィス対策の強化に取り組む。また、オフィス対策に係る業種横断的な目標の設定が可能か、検討を行う。
他方、家庭部門におけるCO2排出削減にあたって、何よりも、国民一人ひとりが、世界に誇れる「省エネ大国ニッポン」に向けて主体的に取り組むことが求められる。国民は、地球温暖化問題に対する自らの役割と責任を認識し、省エネ型のライフスタイルに変革していく必要がある。
そのうえで、企業、政府・地方公共団体も国民と連携しながら、家庭部門におけるCO2排出量削減に向けて、三位一体で取り組むことが重要である。
京都議定書目標達成計画では、2010年度までに、国民の省エネの取り組みのほか、省エネ機器の買換え促進や待機時消費電力の削減等の効果により、おおむね3800万トン程度のCO2排出量削減を見込んでいる。まずは、この京都議定書目標達成計画を着実に達成するため、各主体は、他の主体と連携しながら以下の対策に取り組むことが必要である。

(1) 企業(事業者)が取り組むべきこと
  1. 省エネ性能の優れた製品(省エネ製品)の開発と商品化
    産業界は、これまでも、トップランナー方式の活用等により、省エネ性能の優れた製品(省エネ製品)を提供してきており、既に、2006年時点で、エアコンで1995年比約4割、家庭用冷蔵庫で同約5割の省エネを実現している。企業は、今後とも、エネルギー消費効率の改善と機能向上に向けて、省エネ製品の開発と商品化に努める。
    中期的には、「Cool Earth−エネルギー革新技術計画」に盛り込まれている超高効率ヒートポンプや省エネ住宅・ビル、次世代高効率照明、定置用燃料電池等の革新的技術の開発・実用化に向けて、官民協力して取り組む。

  2. 適切な省エネ情報の提供(「見える化」の推進)
    消費者が省エネ性能の優れた商品を選択することができるよう、既に「省エネラベリング制度」や「統一省エネラベル」等の取組みを実施しているところである。引き続き、これらの制度を活用しながら、消費者に対する省エネ情報をわかりやすく提供するなど、「見える化」をより一層推進する。
    また、事業者は、製品の販売時において、省エネ性能の情報開示のみならず、省エネのための使用方法等についても、消費者への情報提供の充実に努める。加えて、個々の家庭部門が自らのエネルギー消費量等を数量的に把握し、省エネ意識を喚起する取組みを関係業界で積極的に行う必要がある。
    近年、流通企業のプライベート商品を先行事例として、商品へのカーボンフットプリント表示を推進する動きがあるが、まずは、消費者や事業者に無用な混乱を生じさせないよう、ライフサイクル・アセスメントの手法に準じたCO2排出量の算定と運用に関する合理的な国際統一ルールの策定が重要である。

  3. 自社施設内における省エネ製品等の率先導入・従業員対策の充実
    本社、事業所、あるいは社宅・寮において、空調・照明・給湯などに高効率機器やその他省CO2製品を率先して導入する。加えて、業務用車両について、ハイブリッド車、天然ガス自動車等のクリーンエネルギー自動車の導入をはじめ、将来的には、技術開発や商品化の状況を踏まえて、プラグインハイブリッド車や電気自動車等の導入にも取り組む。また、各社において数値目標を掲げるなど、これらをできるだけ計画的に取り組むよう、努める。
    そのほか、従業員に対して、クールビズ・ウォームビズの奨励に努める必要がある。加えて、環境家計簿等の推進を通じた省エネ行動を積極的に働きかける。また、電機・電子メーカーでは、自ら率先して、従業員に対して白熱電球の電球形蛍光灯への置換え促進を図るといった動きもあり、こうした動きを拡大していくべきである。
    経団連事務局では、昨年度、8月をエコワーク月間として、就業時間を1時間前倒しする取組みを試行した。空調に伴うエネルギー消費量の低減のほか事務局員の省エネ意識の醸成などの効果を上げた。経団連事務局では、本年も引き続き、エコワーク月間を設定することを予定している。今後も企業の自主的な判断により、就業時間の前倒し等のエコワークに取り組むことを期待したい。

(2) 政府・地方公共団体が取り組むべきこと
  1. サマータイム制度の実現
    サマータイム制度は、全ての国民が温暖化問題をより身近に考える機会を提供するという意味から重要であり、年2回の時間の切替に際し、政府主導で国民的な省エネキャンペーンを展開することで、環境調和型の新しい価値観やライフスタイルの創造につながることが期待できる。サマータイム制度導入法案の早期成立を図るとともに、コストの抑制や準備期間の確保を図りつつ着実に実施すべきである。

  2. 公共部門における省CO2製品等への置換計画策定とフォローアップ
    公共部門において、ESCO(Energy Service Company)事業の活用、高効率給湯機器・空調機器や断熱・遮光ガラスの導入、電球形蛍光灯への置換えなど、率先して推進すべきである。これらの置換えを着実に推進すべく、計画を策定し、適宜PDCAサイクルを回す必要がある。

  3. 省エネキャンペーンの展開(政府広報の充実)と環境教育の充実等
    国民に対して、省エネ製品への置換えや使用方法の改善によって、CO2排出量がどれだけ削減するのか等について、政府としても積極的に広報するなど、家庭部門の省エネ対策の励行に関するキャンペーンを展開すべきである。その一環として、個々の家庭におけるエネルギー消費量等を数量的に把握するための「見える化」について、環境家計簿のような有効な情報提供のあり方の検討も含めて取り組む必要がある。
    また、国や地方公共団体の創意工夫により、義務教育における温暖化・エネルギー教育の徹底を図るべきである。なお、その一環として、企業としても、事業所・工場等の視察や小中学校への講師派遣に協力することが必要である。
    そのほか、現在、地域で取り組みが進んでいるエコバック推進運動(レジ袋の削減運動)を一つの参考事例として、政府・地方公共団体、事業者、消費者が一体となった地域活動を推進することが重要である。

  4. 省エネ製品等への置換え・普及に向けた対策の強化
    最新省エネ製品は、従来型製品に比べて概して購入価格が高いことから、消費者が購入を躊躇してしまう側面がある。したがって、高効率給湯機器や家庭用太陽光発電・燃料電池、次世代自動車(プラグインハイブリッド車・電気自動車等)、省エネ住宅等、CO2削減効果の大きい省エネ・省CO2機器や設備等に対して、財政上・税制上の措置の創設・拡充を講じるべきである。また、現在、自動車に対して導入されているグリーン税制(自動車税や自動車取得税の軽減)についても、メリハリをつけながら、その拡充を検討する必要がある。

  5. 省エネ型の社会インフラの整備
    エネルギー需要密度の高い都市部では、個別の建物にとどまらず、効率向上に資するかたちでのエネルギーの面的利用の促進(複数の施設や建物への効率的なエネルギーの供給)を図り、省CO2型の地域づくりを促進すべきである。
    住宅・建築分野においても、省エネ性能判断基準に則り、住宅性能表示制度や総合的な環境性能評価手法(CASBEE)の充実・普及を促進することや、本年度から創設された省エネ改修促進税制にとどまらない税制上・財政上の措置や融資制度の拡充等について、検討することが必要である。税制上の措置を講じるにあたっては、利用者にとって分かりやすく、使い勝手の良い制度にすることが重要である。
    また、渋滞解消によるCO2排出削減効果は大きいことから、首都圏をはじめとした大都市圏における三環状道路を早期に整備すべきであるほか、環境ITSにも取り組む必要がある。

(3) 国民(消費者)の取り組みが望まれること
  1. 省エネ製品に係る正しい知識の習得と賢い製品選択
    わが国におけるトップランナー方式による省エネ機器の開発により、対象製品の省エネ性能の向上は著しい。例えば、エアコンでは1995年比で約4割、家庭用冷蔵庫では同約5割の省エネ改善を2006年までに実現している。また、電球形蛍光灯の消費電力は白熱電球の約5分の1である。その結果、機器の購入価格が多少高い場合でも、その後の使用時におけるエネルギー料金等を考えれば、消費者にとってメリットも多い。
    企業・政府等は、省エネ製品や省エネに資する使用方法等に係る有用な情報をわかりやすく提供していかなければならないが、国民(消費者)においても、省エネ情報に関心を持ち、省エネ性能の高い機器の置換えや使用方法の改善に心がけることが強く期待される。とりわけ家庭のエネルギー消費においては、暖冷房、給湯がそれぞれ約3分の1ずつと、多くの割合を占めている。したがって、このような分野での省エネが重要であり、よりCO2削減効果の大きい高効率機器の選択が有効と言える。
    加えて、鉄道等の公共交通機関の利用やエコドライブ等にも積極的に取り組むことが重要である。

  2. 日常生活の点検(環境家計簿・「気づきの省エネ」)による省エネ行動の徹底
    家庭における「見える化」の推進によって、今まで気づかなかった省エネ行動を実践し、ひいては家計の節約にも資する。環境家計簿や省エネモニターなどのツールを積極的に活用することによって、「気づきの省エネ」を推進することが期待される。

  3. エネルギーを含めた「もったいない」の考え方の徹底
    「もったいない」の考えから、電気機器や自動車等を長く使うことが「環境にやさしい」との考え方がある。しかしながら、廃棄物対策のみならず、温暖化対策も含めて総合的な観点から環境への負荷を考えた場合には、その考え方は必ずしも妥当とは言えない。エネルギー使用やCO2排出量等も考慮した場合には、エネルギー効率の高い機器や自動車に置換えた方が「環境にやさしい」場合もありうる。とりわけ、家電や自動車など既にリサイクル体制が整っている製品は、金属や樹脂等の資源の有効利用が進展している。エネルギーも含めた「もったいない」との考え方や使用済み製品のリサイクル体制等にも配慮しながら、使用年数や製品の状況等を踏まえて、エネルギー効率の高い機器等に早期に置換えることも、環境行動の一つとして認識されることを期待したい。
    なお、政府はこれまで、低炭素社会に向けた対策〔地球温暖化対策〕と循環型社会に向けた対策〔3R(リデュース、リユース、リサイクル)対策〕をとかく縦割りで講じてきたことから、エネルギー効率の高い電気機器等への買換え推進と長期使用の推奨について、国民や事業者に混乱を招いていることは否めない。このような地球温暖化対策と3R対策とが相矛盾するような問題について、政府としての考え方や具体的な指針を提示すべきである。

II.エネルギー供給面から、「省CO2大国ニッポン」を形作るために

エネルギー供給面においても、エネルギーの省CO2化・低炭素化を実現すべきであり、産官学で連携した取り組みが必要である。同時に、エネルギーの省CO2化・低炭素化の必要性やそのための国民負担の必要性等について、国民の理解増進を図ることも重要である。

1.質・量の面でエネルギー供給の低炭素化の切り札となる原子力発電の積極活用

(1) 原子力エネルギーの積極活用の必要性

エネルギー資源に乏しいわが国においては、その厳しい資源制約の下で、「安定供給(Energy Security)」、「環境適合(Environmental Protection)」、「経済成長(Economic Growth)」の「3つのE」の観点から、中長期的なエネルギー政策を考えていかなければならない。
原子力発電は、発電時にCO2を排出しないという特徴を持ち、燃料輸送等による排出量を加えたとしても、ライフサイクルを通じてのCO2排出量は、風力や太陽光より少ない。また、資源供給途絶リスクが小さく、また備蓄機能を有するなど、燃料供給の安定性に優れるとともに、十分な経済性を有するという特性をもったエネルギー源である。このように、質・量の面で優れた特性を持つ原子力発電の積極活用は、エネルギー供給の低炭素化を図るための切り札である。
したがって、近年、わが国はもとより、世界各国においても、エネルギーの安定供給、地球温暖化問題、経済性という三つの課題への対応の切り札として、原子力エネルギー活用の重要性への認識が高まっている。
わが国における原子力発電は、2006年度実績で、一般電気事業用の発電電力量の約3割を担っており、わが国の電力供給において基幹電源としての役割を果たしているところではあるが、原子力エネルギーをより一層積極的に活用すべきである。2006年8月に政府が策定した「原子力立国計画」に則って、長期的にぶれない確固たる国家戦略の下、安全性の確保を大前提に、原子燃料サイクルを含めた原子力発電を着実に推進することが必要である。

(2) 原子力エネルギーの活用に向けた具体的な提言
  1. 安全確保を大前提とした原子力発電所の利用率の向上
    喫緊の対応が迫られる地球温暖化問題に鑑みれば、即効性の観点から、既設の原子力発電所に係る設備利用率の向上が必要である。わが国の設備利用率は、検査等に係る諸規制が厳格なこともあって、70%程度(柏崎刈羽原子力発電所の停止により2007年度で61%まで下落)にとどまっているが、安全確保を大前提として、これを海外並み(90%超)に引き上げていくことが重要である。
    そのため、安全性・信頼性向上のための事業者の努力はもちろん、原子力発電所に係る科学的かつ合理的な規制を推進すべきである。また、地域社会の理解を得つつ、柏崎刈羽原子力発電所の通常状態への復旧に向けた関係者の努力も必要である。

  2. 原子燃料サイクルの推進
    使用済み燃料の再処理などの原子燃料サイクルを推進していくうえで、高レベル放射性廃棄物処分場の確保は極めて重要な課題であり、全力で取り組むべきである。そのため、国の強力なリーダーシップの下、原子力発電環境整備機構及び電気事業者が国と一致協力して、各々の役割を果たしていく必要がある。

  3. 魅力ある原子力産業と人材の育成
    長期的に原子力発電を維持・拡大するためには、次代を担う人材育成が不可欠である。人材育成の鍵は、原子力分野の大学教育に係る環境整備や、原子力事業のプレゼンスを向上させ、魅力的で夢のある産業に育てることであり、産官学で協力して取り組むべきである。

  4. 国際貢献
    地球規模での大幅なCO2削減を実現するためには、世界全体での原子力の維持・拡大が重要である。そのためには、平和利用を担保する核不拡散、核セキュリティ強化、それらを実現するための国際的な枠組みや二国間協定などが不可欠である。また、京都メカニズムのCDMの対象に原子力発電を加えるとともに、2013年以降の次期枠組みにおいても、原子力エネルギーの平和利用を有効な地球温暖化対策として位置づけることが期待される。

  5. 持続的な技術開発の推進
    わが国として持続可能な原子力政策を実現し、将来にわたり世界をリードできる原子力技術水準を維持していくためには、研究開発が極めて重要である。国の技術開発戦略の下、産官学が適切に役割分担をして取り組むべきである。2030年前後からのリプレースをにらんだ次世代軽水炉技術や、2050年頃に商用化を目指す高速増殖炉技術は、とりわけ重要である。

  6. 理解醸成の土台づくり
    国内における原子力発電の着実な推進には国民の理解は必要不可欠である。そのため、政府は、総理自らリーダーシップを発揮しながら、内閣府、経済産業省、環境省はじめ関係府省の連携の下、安全確保を大前提とした原子力発電の積極的活用が必要不可欠であることについて、国民に訴えていくべきである。同時に、国や事業者による情報公開を徹底し、原子力発電に係る情報を国民と共有するとともに、地元をはじめ、国民との双方向コミュニケーションの強化が必要である。
    また、エネルギーの安定供給および地球温暖化問題に対する原子力の有用性についての正しい理解を深めていくためには、エネルギー教育が果たす役割は大きく、国・地方公共団体と事業者の連携が重要である。

2.再生可能エネルギーの活用のあり方

(1) 太陽光発電や風力発電等の活用のあり方

太陽光・風力・水力など、発電時にCO2等を排出せず、環境への影響が少ない再生可能エネルギーの活用が望まれている。それらの利用技術に関する研究開発や実用化の面においては、わが国の有する技術は世界をリードしている面がある。
しかしながら、わが国において太陽光発電や風力発電等を推進するにあたっては、現状、発電出力が日照や風量などの気象条件に左右され安定しないため、必要な時に電気を使えない、電気を安定して送るのに必要な周波数や電圧を維持できないといった、安定供給上の課題がある。また、現状では、コストが高い、エネルギー密度や設備利用率が低いという問題がある。
なお、ドイツが再生可能エネルギー普及のために採用した固定価格買取制度は、電力料金への転嫁というかたちで、ユーザーである消費者に対し、追加的にその普及コストの負担を求めるものであることに留意する必要がある。例えば、ドイツでは、電気料金の水準はわが国よりも高く、また、経年的に上昇傾向にあり、ドイツにおける再生可能エネルギー負担は約500円/月・軒と、わが国の約30円/月・軒に対して格段に高い。加えて、IEA(国際エネルギー機関)も固定価格買取制度の見直しを求める旨勧告を行っているなど、問題が多い。
以上を踏まえ、今後、わが国において太陽光発電や風力発電等を積極的に推進するにあたっては、安定供給上の課題を解決するための蓄電池の開発・普及やコストの低減など、諸課題の克服に向けて研究開発を急ぐとともに、低炭素社会の実現に向けたエネルギーのベストミックスを視野にいれながら、社会的なコスト負担のあり方について検討を行う必要がある。
例えば、太陽光発電の活用促進にあたっては、2005年度で終了した住宅用太陽光発電システム向け補助事業に代わる太陽光発電の普及に資する補助制度の創設をはじめ、分譲集合住宅や賃貸集合住宅等に対する税制上の特例措置や大規模太陽光発電システムに対する税制上・財政上の措置等について検討すべきである。また、再生可能エネルギーの活用促進に向けた規制緩和(大規模太陽光発電システムの推進に係る工場立地法の緑地算定基準の見直しや、風力発電等の推進に係る国立公園等における立地規制等の緩和)についても検討する必要がある。
そのほか、ここ数年に大幅に増加しているグリーン電力証書(自然エネルギー普及のための企業向け制度)を推進するため、購入に要した費用の損金算入を認めるなど、購入側の導入インセンティブを検討すべきである。加えて、中小河川等を活用した水力発電の活用など、地域住民や地方自治体が主体となった、地産地消型のエネルギー供給のあり方についても検討を深めていくことが考えられる。
いずれにしても、今後、克服すべき技術面やコスト面等の課題も含めて国民に情報発信を行い、コスト負担問題も含めて、国民の理解を深めたうえで、太陽光発電等をはじめとした再生可能エネルギーの活用を図ることが重要である。

(2) バイオ燃料の活用のあり方

京都議定書では、カーボンニュートラルの考え方に基づき、バイオ燃料によって排出されたCO2を温室効果ガス排出量として計上しないルールとなっており、世界的にバイオ燃料への関心が高まっている。米国やEU、ブラジル等では、主に、自国の農業対策やエネルギーセキュリティ等の観点から、バイオエタノールが推進されている。わが国では、温室効果ガスの排出削減を目的として、京都議定書目標達成計画において、バイオエタノールを含む輸送用バイオマス由来燃料の導入(2010年度原油換算で約50万kl)が盛り込まれている。
しかしながら、わが国におけるバイオ燃料の利用には、供給安定性や経済性、さらには食料との競合など、様々な課題を抱えている。とりわけ、食料との競合については、最近、バイオ燃料への関心の高まりを受けて、原料となるトウモロコシや、小麦、大豆等の穀物相場が急騰しており、わが国のみならず、世界的にも、食料と競合するバイオ燃料の推進を疑問視する声が上がっている。
わが国では、当面、これらの問題に十分に配慮しながら、サトウキビなど穀物との競合が少ない原料から生産されたバイオ燃料の利用を中心に、京都議定書目標達成計画で盛り込まれた取組みを着実に実施していくことが求められる。また、将来的には、稲わら等のセルロースなど、食糧と競合しない原料の生産技術の開発を目指すことが重要である。加えて、関係省庁が協力して、低コストで原料を収集する仕組みを構築するとともに、効率的な地産地消型のエネルギー供給・利用のあり方を検討していくことも必要である。

おわりに

冒頭述べたように、本格的な低炭素社会の実現にあたっては、革新的な技術開発が不可欠である。政府が2008年3月の「Cool Earth−エネルギー革新技術計画」で掲げた21の革新的なエネルギー技術について、官民が連携してロードマップを共有しながら、技術開発を推進していくことが必要である。また、人類共通の課題である地球温暖化問題の解決に向けて、諸外国と協力しながら、革新的な技術開発に取り組むことも求められよう。さらに、中国、インド等のアジア諸国を中心とした発展途上国に省エネ技術等の導入・普及を図るなど、省エネに係る国際協力も重要である。洞爺湖サミットを契機に、国際協力に弾みがつくことを期待する。
わが国は、オイルショック後の経験を踏まえて、世界トップ水準のエネルギー技術を開発し、世界に誇れる「省エネ大国ニッポン」を築いてきたが、今後、省エネ化を巡る国際競争の展開も想定される。わが国は、これまでの取組みに安穏とすることなく、「省エネ・省CO2大国ニッポン」を標榜しながら、政府・地方公共団体・企業・国民が連携しながらそれぞれの役割を果たしていく意思と行動が必要である。そのことが、環境と経済が両立したかたちで低炭素社会を実現するための一つの羅針盤になりうると考える。

以上

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