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世界は現在、未曽有の金融・経済危機に直面し、危機は世界経済のあらゆる面へと波及している。各国には更なる対話と協働が必要とされ、景気停滞に歯止めをかけ、中長期的な経済、雇用を回復するための迅速な行動が求められている。
11月15日の金融・世界経済に関する首脳会合(G20サミット)を受けて公表された金融・世界経済に関する首脳会合宣言(G20共同宣言)では、現状の深刻さと大胆で果敢な行動の必要性が認識された。G20サミットは、広がりつつある混乱に対する世界的な対策の出発点であるが、この対策を実現し、経済を回復軌道へと戻すために行うべきことは多い。
経済界のリーダーは、各国の経済団体を通じて、緊急対応の必要性やその道筋について各国政府に助言を行ってきた。今、我々は、金融市場の安定と信用の回復、経済の安定と成長に向けた一連の提案を行う。これらの計画や原則により、政策当局は信用の回復を図り、企業の雇用が確保され、世界の繁栄につながることであろう。
今後の行動のための4つのコア原則
G20首脳は、改革提案は、法の支配、私有財産の尊重、貿易と投資の自由、競争市場という自由市場の原則を守ることによってのみ所期の成果を上げることができるとの認識で一致した。我々は、G20共同宣言に示された原則を支持すると同時に、今後の行動の基礎となる4つのコア原則として、自由な市場経済(Free market economy)、透明性(Transparency)、責任(Responsibility)、開かれた貿易投資 (Open trade and investment)を提案したい。
第一に、政府は銀行融資や資本市場機能の正常化に向け効果的な経済政策の実効性を確保すべきである
景気回復策や銀行救済策の実施にもかかわらず、どの国においても多くの企業が、短期融資や中期債券市場で困難に直面している。このような状況が続くならば、経済全体に深刻な影響が及ぶであろう。政府、中央銀行は、金融市場を再生し、中小企業を中心とする企業への適切な与信を確保するために、あらゆる方策を検討すべきである。
政府のマクロ経済政策は、大胆であると同時に財政赤字への配慮が重要であり、また、他国への影響にも留意すべきである
まず、我々は、景気の後退を防ぐために各国における財政・金融面の刺激策が必要である点を支持する。しかし、経済の低迷がグローバルな規模で起こっており、各国経済が相互に依存していることに鑑みれば、世界経済の効果的な回復には、次のような条件を満たすことが不可欠である。
ドーハ開発アジェンダの野心的でバランスのとれた早期妥結を期待する
我々経済界首脳は、WTOのルールに沿って、「今後12か月にわたって新たな保護主義的政策をとらない」旨の先般のG20共同宣言を歓迎する。過去の失敗の教訓から、我々は、今日の危機を解決するための一つの方策として、開放的な経済体制を維持し国際協調を進めることがあると認識しており、そのような姿勢を長期的な政策として確認し、実行することを希望する。
経済界は、ドーハ開発アジェンダの野心的でバランスのとれた早期妥結につながるあらゆる取組みを全面的に支持する。それは今後、世界経済の成長を確かなものとする上で必要である。来るべきジュネーブにおけるWTO閣僚会合でモダリティ合意(大枠合意)に達することを強く期待している。これに関して我々は、すべてのWTO加盟国が交渉相手の立場を勘案した拘束力のある約束を果たす責任を認識することによって、交渉妥結に積極的な貢献を行うことを期待する。
調和、グローバルなアプローチ、適切な規制に基づく金融市場改革を支持する
金融危機に直面している企業の資金流動性を供給するために、金融市場の機能を回復させることが優先課題である。またG20各国は、マクロ経済政策の不十分な協調や一貫性の欠如が今回の危機の根源的な一因であるという考えで一致している。
これに関し、我々は、金融セクターの協力や規制に関するこれまで以上に首尾一貫した効率的なシステムの創設を強く支持する。同時に、過度な規制は避けるべきと考える。
経済や金融の安定性に関する国際的な監視機能については、IMFが適切な機関であり、金融安定化フォーラム(FSF)との緊密な連携の下で早期警戒メカニズムに関する作業を行うべきである。
企業主導による経済回復
危機は深刻であるが、企業は、経済には上昇と下降のサイクルがあることを十分に認識している。政府は、適切な市場規制、金融市場活性化、企業の円滑な資金調達に向けた総合対策を措置すべきである。継続的な雇用と所得の創出は企業の投資活動と技術革新によってもたらされる。企業や企業経営者が金融危機に立ち向かうために短期、中長期の資金調達を再び開始するようになれば、また、政府が有効な景気回復策を講じるならは、企業は未来への投資を行うこととなろう。
危機克服のための連携の必要性
企業は、国や個人や企業が脆弱であればあるほど、危機からより大きな影響を受けることを認識している。状況をさらに悪化させる「ドミノ効果」を回避するために、連携を図るべきである。
今回の危機を解決するためには、まず金融市場の改革が必要である。この改革を通じて、金融市場を再び、持続的な経済成長に寄与する資本形成の場としなければならない。このような取り組みにおいては、国際協調・協力の強化、適切な規制とイノベーション促進のバランス、システミック・リスクの適切な評価、投資家や消費者の適切な保護が求められる。
金融市場は本質的にグローバルである一方、各国経済ごとに資本形成及び運用方法が異なるため、必要とされる規制の形は異なる。現行の不十分な金融規制が、現在の危機的状況の要因の一つとなっている。したがって、規制の枠組みの見直しが必要不可欠である。各国の規制当局が、システミック・リスクのチェック、世界経済の持続的成長に必要となる国際資本移動の確保について、協議・協力を行う必要がある。
改革のための原則
国境を越えた協議・協力に必要なもの
規制の枠組みの見直し
協議・協働の組織化
現在の金融危機には、世界経済が真にグローバルであるということが如実に表われている。会計はビジネスにおける言語であることから、財務諸表作成者と投資家が最高品質の基準を用いて透明性のある情報交換を行うために、同じ言語を使用することが重要となる。21世紀型の財務報告に関する政策においては、以下の視点を軸に会計基準や監査基準を展開するべきである。
説明責任が果たされるガバナンスの枠内での基準設定主体の独立性維持
国際会計基準が、適切な一貫性と安定性を備えた最も高品質な基準であることを確保するためには、基準設定主体がその専門性を余すことなく発揮できることが必要である。したがって、基準設定主体は、独立していなければならず、財務諸表作成者、利用者、投資家からの意見や提案を聞き、定められたデュープロセスに則り、透明性を持って基準が策定されることを保証するためのセーフガード措置を講じるべきである。独立性と並行して、金融安定化に向けてIASCF(国際会計基準委員会財団)は、国際的な規制当局、金融安定化の担当機関に対して説明責任を果たす必要がある。
市場評価の包括的な研究の実施
経済界は、金融危機への国際会計基準審議会(IASB)の対応や米国証券取引委員会(SEC)が開始した時価会計に関する研究を歓迎する。流動性のない市場においては、合理的な判断や見積もりの余地を残した上で、金融商品の公正価値会計を適用するべきである。新しい基準の適用が予期せぬ結果を生じさせる可能性を最小限に留めるよう、基準適用の前後には、基準のテストと徹底的なレビューを行うべきである。また市場規制の観点から、基準適用前には、当局によるストレス・テストを行う必要がある。
財務報告は経済活動を反映するものであるが、経済を動かすものではないことを確かなものとするために、既存の基準を精査する
会計と監査の目的は、経営者や投資家、規制当局に対してビジネスの将来性や健全性を判断するために必要な情報を提供することである。会計基準が今回の金融危機を招いたわけではないが、いくつかの基準が金融危機を悪化させ、金融市場安定化を遅延させた可能性がある。したがって、会計基準が単に経済活動を反映し、透明性という共通の目的に資するものであるかどうかを確かなこととするために、精査を行う必要がある。
健全な財務報告の方向性を阻害する要因は排除しなければならない。最後に、会計ルールや自己資本比率規制が現在の金融危機にもたらした影響を理解するために、会計基準設定主体、銀行規制当局、中央銀行、適切な金融規制当局が、共同でその相関関係について研究する必要がある。
各国当局は、監査基準の国際的な収斂(コンバージェンス)を図るべきである
グローバルな会計基準の受入れが増加し、国際的な会計基準が確立されつつあるが、それは単に財務報告政策の一部分にすぎない。投資家や財務諸表作成者に対し、透明で、高品質の情報を保証し、適切なレベルの精密さと一貫性を確保するためには、会計基準同様、グローバルな監査基準を整備していく必要がある。そのような制度は、規制当局間同士の国境を越えた協議や協調の助けとなる。
金融危機が進行する中で格付け機関の役割と責任に対し、欧米の規制当局は多くの国際的な対応策や取り組みを開始した。経済界は、G8諸国の政府が格付け機関の問題に重きを置くことを期待している。
また、政府は必要な対策を講じる際に、円滑な企業金融を阻害せず、民間企業に追加的な負担が生じないようにするべきである。
信用格付けと仕組み商品格付けの明確な区分
仕組み商品(Structured Product)市場における債務不履行および格下げの数が議論されるときに問題となるのは、格付け機関がそういった商品を評価する際に提供する情報の品質である。商品の複雑さ、取引市場の不透明さ、そしてユーザーや投資家の格付けへの依存が、今回の金融危機の重大な原因となった。
このため、G8ビジネス・サミットのメンバーは、市場リスクを正確に特定するという投資家の目的に応じるために、国際規制当局が打ち出している、仕組み商品に対して異なる「格付け」の適用を求める方針に同意する。
格付け業務とコンサルティング業務の分離
コンサルティング業務と格付け業務とのつながりが問題視されている。格付け機関は複雑な商品を組成する投資銀行に対して、適格な信用格付けを付与するため助言業務を行っているとの指摘がある。この点についてG8ビジネス・サミットのメンバーは、格付け機関が同一の金融商品に対する格付業務と助言業務の両方を行えないようにする行動規範を採用するよう提案する。
市場の現実に即した登録・監督システムの導入
格付け機関の活動は金融市場に多大な影響を与えるため、一国の規制当局だけに縛られない認証・監督システムを導入する必要がある。これは、規制当局の適切なレベルの協力によって、国ごとあるいは地域ごとに組織すべきである。金融安定化フォーラムが指摘した通り、格付けは質的にも利用面でもグローバルであることを踏まえ、国際的に一貫した形で格付け機関の登録制度や監督を行うことは必須である。 しかし過度に規制すれば格付コストが増大するため、競争の歪みを避けつつ、特に注意して多様なシステムを調和させなければならない。
IOSCO行動規範に基づく監督を支持
ここ数年、発行者団体と格付け機関は多くの共同作業を行い、その結果、証券監督者国際機構(IOSCO)の行動規範を導入した。
この行動規範は、格付け機関の活動や経済モデルに固有の利益相反、透明性、評価手法、信用格付けによる厳密なリスク評価など格付け機関がとるべき適切な行動規則を定めている。
IOSCOが意図したとおり、監督機関は新しい規則を課す前に、格付け機関がIOSCO行動規範を遵守し、彼らのビジネスモデルと内部プロセスを規範に適用させることを保証するよう努めるべきである。市場に新規参入者が参入しやすくするためには、過去の評価に加えて、実績データの質、信頼性、独立性を重視する登録システムを今後導入することが不可欠である。
投資家へのリスク分析責任に関する注意喚起
極端に変動する市場において、格付け機関は細心の注意を払い専門家としての決定を下さなくてはならない。また、格付けがあっても、自ら設定したモデルや提案された商品に関する知識に基づいてリスク分析を行う必要があることを、投資家に対して注意喚起しなければならない。
金融市場で重要性を高めているファンド(ソブリン・ファンド、オルタナティブ・マネジメント・ファンド、ヘッジファンドなど)は、今回の金融危機にも大きく関わっている。そのため関連の国内機関や国際機関は、こうしたファンドに求められる透明性のレベルについて見直しを始めている。
したがって、我々は、金融監督当局による適切なレベルの監督やモニタリングを可能とするために、これらの様々なファンドに対して合理的で適切な形態の透明性確保を提案する。一方、規制は市場におけるイノベーションを妨げるものであってはならない。
金融市場は企業セクターへの融資だけでなく経済全般に大きな役割を果たしている。しかし現在の金融市場は機能不全になっているため、G8ビジネス・サミットのメンバーは、ファンドの透明性を改善し、金融市場が効果的に機能する状況を取り戻すための提案を策定する。
ヘッジファンドの透明性を高め、レバレッジ・ファイナンスを監視する効果的なシステムを導入する
ファンドによる過度の債務レバレッジはリスクを増幅させる可能性があるので避ける必要がある。ヘッジファンドのように巨大な資金を運用するものについては、システミック・リスクの評価のために、ファンドが採用するレバレッジ効果の規模を透明化することが望まれる。また、これによりファンドに対して供与された信用に対する監視を改善することも可能となる。
レバレッジ・レシオ、債務比率要件、及び監視の適切な水準について、しかるべき機関において検討を進めるべきである。
最後に、効率の観点から、様々な国の金融規制当局間での協力と協議が可能となるよう、国際的な枠組みとして、このシステムを構築するべきである。
店頭(OTC)市場における透明性の改善
市場改革の原則に従い、我々は、市場外取引や店頭(OTC)市場の透明性向上を支持する。公募、私募での流動性の維持は、投資の流れや価格発見機能向上に資する。しかし、システミック・リスク防止の観点から、私設市場やOTC市場の、規制当局に対する透明性向上が必要である。
発行体は選択肢を持つべきであり、我々は、世界的な市場の統一や投資プラットフォームの統一を支持しない。しかし透明性の向上は公益に資する。従って、規制当局によって許可されたポストマーケット・インフラの整備が必要である。
ソブリン・ファンドの透明性改善に向けた取組みの継続
ソブリン・ファンド(SWFs)は、長期投資に位置づけられるとともに、流動性の向上に寄与しており、金融市場において非常にポジティブな役割を果たしている。それにもかかわらず、特に投資先国において戦略的産業として保護されている分野に投資が行われる場合に、ファンドの国籍(源泉)に関連して、多くの懸念を生じさせている。
G8ビジネス・サミットのメンバーは、ファンドの自主的な行動規範遵守に関する国際通貨基金(IMF)のサンチャゴ原則や、開かれた投資環境を維持しつつ透明性を高めるためのSWFsと受入国の政策に関する経済協力開発機構(OECD)閣僚宣言などの国際機関の方針を支持する。