知的財産戦略本部・知財による競争力強化専門調査会
知的財産戦略に関する政策レビュー及び第3期基本方針の策定に関する意見

2008年12月25日
(社)日本経済団体連合会
知的財産委員会 企画部会

2002年の小泉総理大臣(当時)による施政方針演説から始まった「知財立国」の実現に向けた取り組みにより、わが国は世界でも先進的な知財制度を持つ国の一つになったといえる。政府をはじめとする関係者の尽力を高く評価したい。

近年、世界各国は、イノベーション創出のための知財獲得競争を繰り広げているが、その一方で、技術・サービスの高度化により、さまざまな国の企業や大学などが連携してイノベーションを追及するオープンイノベーション、あるいはパテントプールやパテントコモンズといった“オープン化”の重要性が増してきている。また、2008年後半には、サブプライムローン問題に端を発した米欧の金融不安に伴う世界同時不況が深刻化しており、これが各国の知財政策にどのような影響を及ぼすかについては、予断を許さない状況である。

このような環境の下、来年度からはじまる第3期基本方針では、“プロ・パテント”に続く“プロ・イノベーション”の時代を意識し、知財制度の改革への取り組みをさらに加速させるべきである。その際には、これまでの取り組みの成果を改めて見直すことはもちろん、従来の延長線上の視点だけではなく、新たな戦略的視点を盛り込んだ政策展開を図っていく必要がある。

1.イノベーション推進のための知的創造サイクルの強化

知財が持つ本来的な目的は、知財を活用したさまざまな製品やサービスが市場に提供され、その結果としてイノベーションを実現し、社会・経済を活性化していくことにある。
第1期および第2期の知財政策では、知の創造、保護、活用のそれぞれの分野において、きめ細かな施策が行われるとともに、その国際的な展開が図られてきた。第3期基本方針においては、知財立国の実現という原点に改めて立ちかえり、総合的な産業・文化戦略の下で、現在の世界経済の状況を踏まえ、新たな戦略観に立った施策を展開し、イノベーション推進のための知的創造サイクルをさらに強化していくべきである。
特に、わが国の国際的な競争力強化の観点から、産学連携による先端技術の製品・サービスへの活用とその国際市場への展開をイノベーションの重要なプロセスとして再認識し、そのための技術移転を円滑にする施策を検討すべきである。その際には、事業化の面について、税制や破産法など、知財以外の分野の法制度と組み合わせた支援策も検討すべきである。

2.知財をめぐる環境変化への対応

(1) グローバル化への対応

世界が未曾有の経済危機に陥っていることは極めて重大な事態であるが、このような危機感を共有できている時期こそ、経済活動と密接不可分な関係にある知財制度の国際的調和を進める良い機会ととらえることも可能である。知財制度の国際調和について、これまで以上にわが国が主導的な役割を果たすべきであり、政府は各国と連携し、特許審査の協力などを含めた特許制度の調和や「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」の早期実現の取り組みをさらに加速させるべきである。
特に、オープンイノベーションやパテントプールなど、オープン化の動きが活発になる中、個々の権利主張を強めるよりもライセンスを行う意思を持っている者が広くライセンスを行えるなど、さまざまな関係者がより協業・連携しやすい仕組みづくりを促進すべきである。オープンイノベーションにおける標準規格やオープンソース・ソフトウェア(OSS)には、特許権が存在しうるが、これらの技術は広く使われ、普及することを目的としており、排他的権利である通常の特許権とは性格が異なっていると考えられる。そこで、ライセンス・オブ・ライト(LOR)の導入など、オープン化を目的とする技術に対する特許権のあり方について検討すべきである。
また、各国間の制度の違いが海外企業等との円滑な協業・連携を阻害することがないように配慮すべきである。職務発明制度もグローバル化の視点から再検討すべき課題であり、各国の職務発明の扱いの違いが企業の国際的な協業・連携を阻害することが懸念されている。諸外国の職務発明に関するルールや慣習を調査するとともに、適宜、職務発明規定の評価、見直しを行っていくべきである。さらに、特許のライセンス契約におけるライセンシーの保護について、契約によって第三者に対抗できる米国型の“当然保護方式”とすることが望ましく、他の法制度との関係に留意しつつ、検討を進めるべきである。
なお、最近、特定国においては、情報通信関連製品に対するソースコード開示の義務付けや、環境関連特許に対する強制実施件の設定など、企業の研究開発のインセンティブを損ないかねない動きが見られる。政府として、引き続き各国の動向を注視するとともに、必要に応じて政府レベルでの国際的対応をとる必要があると考える。

(2) 知財関連係争への対応

知財に対する意識の高まりやいわゆるパテントトロールの問題により、知財関連係争にかかる企業の負担が大きくなっている。企業としても係争リスクへの対策をさらに強化していく必要があるが、政府としても、知財関連係争の発生の抑制に向けた支援策に取り組むべきである。
特に、パテントトロールやOSSの第三者特許のようにイノベーションを阻害しかねない権利行使が問題となっている。オープンイノベーションにおいても権利は尊重すべきであるが、適切な権利行使のあり方について早急に検討し、対応を進めるべきである。
また、知財高裁の設置によって知財関連の判例が積み重ねられ、わが国における権利行使の予測可能性は高まってきている。しかし、その一方で、特許無効の判断が下されるケースが多く、特許の有効性の判断に対する予測可能性が低下しており、企業をはじめとする権利者の懸念が強まっている。特許庁と裁判所の間で審査基準のあり方などに関する共通認識の形成に努めるとともに、技術と法律の双方に知見のある法曹人材の育成を図ることが必要と考える。

(3) 国際標準に関連する知財の取り扱いルールの明確化

2006年12月に策定された「国際標準総合戦略」を契機として、わが国発の先進的技術の標準化に向けて産学官が協力し、研究開発戦略、知財戦略、そして標準化戦略を一体的に推進する取り組みが始まったことは評価に値する。その一方で、知財を含む標準が増加しており、標準技術が普及するためには、関連する知財の取り扱いルールを明確化する必要がある。
国際標準に関連する知財の取り扱いルールについては、世界的な議論および合意が必要であるが、国内においても、パテントプール化した場合の知財の運用ルールや、権利濫用の制限、裁定実施権の適用等の措置を含めたアウトサイダー、ホールドアップ対策について議論を進め、早急に結論を得るべきである。

以上

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