戦略的宇宙基本計画の策定と実効ある推進体制の整備を求める

2009年2月17日
(社)日本経済団体連合会

戦略的宇宙基本計画の策定と実効ある推進体制の整備を求める(概要) <PDF>


20世紀中盤以降、米ソを中心として宇宙開発が始まり、やや遅れてわが国もそれに加わった。その後、わが国は独自のロケットや衛星を開発し、打ち上げる能力を保有するまでに至り、最近では国際市場において宇宙機器メーカーが受注に成功するといった明るい動きも出てきている。しかしながら、欧米宇宙先進国との差は依然として大きく、また、近年では国家戦略として宇宙活動に取り組む中国やインド等の新興国の猛追を受けており、わが国としても宇宙政策を抜本的に見直す時期に来ている。

このような歴史の転換点において、宇宙開発戦略本部を中核とした推進体制の下、総合的・計画的に施策を推進し、国民生活の向上や経済社会の発展、世界平和や人類の福祉向上への貢献を目的とした宇宙基本法(以下、「基本法」)が成立したことは大きな意味を持つ。今後、基本法に基づいて種々の施策が推進されることから、わが国がどのような宇宙開発利用を目指すべきかについて、国民的な議論の展開が必要である。

経団連ではこれまでも、「わが国の宇宙開発利用推進に向けた提言」(2006年6月)や「宇宙新時代の幕開けと宇宙産業の国際競争力強化を目指して」(2007年7月)等の提言において、基本法の制定を含めた宇宙開発利用推進方策の実施を求めてきたが、基本法が成立し、5月を目途に宇宙基本計画が策定されるのに合わせ、今後の宇宙開発利用推進に関する考えを改めて述べることとする。

1.戦略的宇宙開発利用の重要性

宇宙はイノベーションの創出を促すとともに、国家の政策目標達成のための有効なツールを提供することができる分野である。例えば、気象衛星や測位衛星、通信・放送衛星等により人類の生活が飛躍的に向上した。また、観測衛星によって防災や環境問題への対策が進むとともに、それらのデータを諸外国に提供することで外交関係が強化された。さらに、多くの国では、安全保障確保のために宇宙は必要不可欠な基盤となっている。
宇宙産業はそのような宇宙開発利用を根底で支えており、衛星やロケット、各種地上システムを製造・利用する上流の機器産業の規模こそ2,000億円程度であるが、下流の宇宙利用サービス産業や宇宙関連民生機器産業、ユーザ産業群を含めたトータルの産業規模は6兆円を超える #1。利用につながる開発をこれまで以上に重視しつつ上流の規模を拡大し、下流への波及効果を高めていくため、宇宙機器産業の振興とともに、データの提供等まで含めた幅広い分野について明確なターゲットを設定し、戦略的に取組みを進めていく必要がある。

#1 「平成19年度宇宙産業データブック 平成18年度宇宙産業規模調査結果」
 (2008年3月 社団法人日本航空宇宙工業会)

2.宇宙開発利用を巡る状況

わが国は、宇宙開発利用に関する取組みを始めて以降、先進国に追い付くことを目標とし、米国から技術を導入しつつ、関係者が懸命の努力を続けてきた。その結果、現在では世界有数の研究開発能力を有するに至ったが、1969年の国会決議 #2 や1985年に導入された所謂「一般化原則」 #3 により、宇宙条約によって認められている安全保障目的の宇宙利用が制限されてきた。
また、日米通商摩擦の影響で1990年に締結された日米衛星調達協定により、政府機関が調達する実用衛星について国際競争入札の実施が義務付けられた結果、競争力に勝る外国企業がわが国の政府調達衛星を次々に受注することとなり、成長途上にあった国内衛星メーカーは壊滅的な打撃を受け、国際競争力を失った。
これにより、わが国の宇宙活動は科学技術・研究開発分野への集中を余儀なくされ、学術研究分野では一定の成果を挙げ、国際的な評価も得るようになったものの、諸外国では当然とされている宇宙を利用した国民の安全・安心の確保や宇宙産業の振興は進まなかった。その結果、企業は限られた政府の研究開発関連事業を中心に事業を行う状態が続き、財政危機に伴い宇宙関係予算が削減されると宇宙産業の市場規模は急激に縮小し、研究開発費や技術者の数の減少によって、技術基盤が危機に瀕するようになった。
しかしながら、研究開発力向上に加え、産業の振興、安全保障への貢献、国益増進に資する外交等のために宇宙開発利用を推進すると定めた基本法が成立したことで、閉塞感を払拭し、事態改善につながる希望の光が見えてきた。宇宙開発戦略本部の主導により、これまで各府省がバラバラに実施してきた政策を一元的・総合的な体制で、バランス良く進めることが期待される。
同本部は発足して日が浅く、取組みは緒に就いたばかりであり、基本法成立をきっかけとして関係者が連携し、今後の戦略的宇宙政策推進に向けていっそう努力する必要がある。

#2 1969年5月9日 衆議院本会議
#3 1985年2月6日 衆議院予算委員会

3.わが国の宇宙開発利用推進に向けた課題

(1) 基本法に基づく施策の推進と予算の拡充

わが国の宇宙関係予算は研究開発関連分野に偏っており、基本法の趣旨に沿った施策を実行するため、戦略的な予算配分を実施しなければならないが、既存の予算を前提に各分野への予算配分を改めたとしても効果は限られる。基本法元年ともいえる2009年度の宇宙関係予算案は前年度比10%増の約3,480億円となったが、これを第一歩とし、わが国の宇宙開発利用推進のため、2010年度以降についても宇宙関係予算のさらなる拡充が必要である。

(2) 宇宙開発利用推進のための基盤強化

基本法の成立により、宇宙利用拡大が大きな政策目標となったが、それは、機器やサービスを必要に応じて外国から購入して使えば足りるということを意味しているのではない。国際的にも一目置かれる優れた技術が自国になくては、不当に高額な製品を買わされるのみならず、主体的・機動的な対応ができないなどの支障が生じる。何よりも、外国に頼るだけでは技術力が向上せず、経済波及効果も期待できない。宇宙利用を促進する前提として、自主技術の開発を中核とする、高度な宇宙開発利用推進基盤を確立するため、政府として継続的な投資を行わなければならない。具体的には、以下について積極的な対応が必要である。
第一に、政府は、企業の技術基盤確保に努めるべきである。企業は衛星やロケット、あるいは地上システム等の各種宇宙機器を製造し、システムの運用やデータ販売・利用等を通じたサービスを提供するだけでなく、実際の事業を通じ、技術者や研究者といった宇宙開発利用の支柱となる人材の質を維持・向上させる役割も担っている。企業の自主努力はもちろんであるが、宇宙分野の社会的な重要性に照らし、政府としても企業の基盤強化に対する支援を行う必要がある。これまでの技術開発に加え、政府機関による新たな技術開発支援と宇宙実証機会の提供、その成果を確実に実利用分野に波及させるためのメカニズムを構築していくことが重要である。
第二に、宇宙利用拡大に向け、測位、通信、観測等のインフラ整備を政府が積極的に行うとともに、衛星のシリーズ化やデータの有効利用に関する仕組みを構築し、利用定着のための継続性を担保する必要がある。衛星が打ち上げられ、技術試験が実施されただけでは利用が促進されることはなく、地上システムを含めたインフラが整備され、データの継続的提供やシステムの実用性が保証されることが不可欠である。
第三に、高度な科学技術・研究開発能力の維持が重要である。最先端の宇宙科学技術の進展は様々な技術革新をもたらすとともに、社会の様々な分野で宇宙利用を促進して産業競争力強化を実現してきた。今後とも、国際協力によって諸外国との戦略的パートナーシップを構築するきっかけとなるだけでなく、知識基盤の拡張や若者の知的好奇心の向上による宇宙開発利用の発展も期待される。わが国の宇宙科学の実力は世界的な水準にあるが、これを維持・向上させるため、今後とも宇宙科学分野へ一定の投資を継続すべきである。

(3) 産業競争力強化

国内の宇宙機器産業は、競争力強化のための努力を続けているが、圧倒的な競争力を有する欧米のメーカーを相手に未だ苦戦を続ける一方、中国やインド等からも猛烈な追い上げを受けている。宇宙開発利用を促進し、国益の増進につなげるためには、官民を挙げて宇宙機器産業の競争力強化に取り組む必要がある。国際的には、各国ともそれぞれの国内事情を考慮して政府機関による実用衛星の調達を実施しており、例えば、気象衛星のように、国民の安全・安心の確保にとって重要な役割を果たす衛星は国内で調達するのが常識となっている。宇宙機器産業が国際競争力を強化するためには官民の緊密な連携が必要であるが、日米衛星調達協定が大きな障害となっており、政府は全力を挙げて協定を廃止すべきである。
そのような取組みを通じて宇宙産業全体の魅力を高め、高度な技術力やユニークなアイディアを有した企業が宇宙分野に参入し、産業全体を活性化させることが、わが国の宇宙開発利用促進にとって重要である。ただし、宇宙関連の事業を実施するには機器の信頼性を含めた様々なハードルをクリアしなければならないことから、求められる質や水準を明確にする必要がある。

(4) 安全保障・外交分野での利用

安全保障分野における宇宙利用に関しては、「一般化原則」によって限定的に自衛隊による衛星利用に関する途が開かれたものの、情報収集衛星を除き、これまでに本格的な進展は見られなかった。基本法の成立により、わが国も宇宙条約が定める平和原則の下、非侵略目的であれば安全保障分野で宇宙を積極的に利用できるようになったことから、国民の安全・安心確保のため、最先端の機器を積極的に開発・運用すべきである。
外交に関しては、これまで宇宙を活用するという発想自体が欠けていたが、宇宙活動によって得られた情報を基に国際交渉を行うことの効果は非常に大きい。また、発展途上国の中には通信、気象等の観測に関する基礎的な社会インフラが整備されておらず、これから地上のインフラを整備するよりも、宇宙を使ったサービスがより効果的な国もある。そのような国に対し、わが国が宇宙機器やサービスをユーザのニーズに合致した形で提供すれば、両国の関係強化につながる。さらに、宇宙サービスの広域性を活かし、通信や気象観測といったサービスを近隣のアジア諸国にも提供すれば、同地域におけるわが国のプレゼンス向上にも資することとなる。実際、中国のように、資源確保や企業進出の目的で宇宙外交を強力に推進している国もあり、わが国もこれまで培った先端技術を活用し、積極的な宇宙外交を行うべきである。

(5) 人類の夢や希望への貢献

宇宙開発は人類共通の夢であり、わが国でも小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星「イトカワ」の探査や、月周回衛星「かぐや」の活躍に対し、国民が大いに感動した。また、日本人宇宙飛行士は常に子供達の憧れの的である。このように、宇宙は夢や希望に満ち溢れた分野であり、短期的な利益にのみとらわれることなく、人類に対する貢献として、わが国としても引き続き、力を入れていく必要がある。現在、国際宇宙ステーションの実験棟「きぼう」において、様々な実験や研究が行われる予定であるが、これを着実に実施するとともに、将来の国際協力プロジェクトについても、わが国の得意分野を活かして積極的に参画していくべきである。

4.宇宙基本計画への要望

基本法第24条では、「宇宙開発戦略本部は、宇宙開発利用に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、宇宙開発利用に関する基本的な計画を作成しなければならない」とされており、わが国初の総合的な宇宙戦略として宇宙基本計画が策定されることとなっている。
宇宙基本計画は、(i)宇宙開発利用を国家戦略として実施し、国政全般においてその利活用を推進すること、(ii)宇宙開発利用は国が主導して行うものであり、わが国の宇宙開発利用のあるべき姿や具体的な政策目標を提示すること、(iii)具体的なプロジェクトの提案や機器・サービスの調達量、予算規模を明示すること、(iv)それぞれの施策をいつまでに実施するかを明記すること、の四つを基本的なスタンスとし、以下の項目について、必要な施策を盛り込むべきである。

(1) 宇宙産業の基盤維持と国際競争力強化

宇宙産業の基盤維持と競争力強化を図るため、宇宙産業の振興が必要である。わが国には優れた機器を製造する企業や、衛星オペレーターを含めたユーザ企業が多く存在しており、政府が宇宙機器やサービスを調達する場合には可能な限り国内企業の能力の活用・改善に努め、輸入や技術導入は国内調達が不可能な場合に限るべきである。ただし、外国から調達する場合であっても、必要なときには国内で調達できるよう、ある程度の技術力を有しておくべきである。そのため、システム構築のうえで決定的に重要な技術や機器製造の際に不可欠な部品等、宇宙産業の基盤となる分野の強化を図ることが必要である。
そのような取組みを通じて宇宙産業の国際競争力を強化し、商業市場や海外市場における企業の受注獲得の機会を増やすことが喫緊の課題であり、政府は以下の施策を推進すべきである。

  1. アンカー・テナンシーの確立
    国際的にも宇宙産業市場は官需に支えられており、民間事業はそれを前提として成り立っている。わが国においても、技術者の維持・向上を含めた企業の基盤維持のため、政府が宇宙機器やサービスを長期間、安定的に、あるいは一括して調達する仕組みを確立し、今後5年間の調達計画を宇宙基本計画に盛り込むべきである。その際、基幹ロケットであるH-IIAロケットを含めた年間のロケット打上げ回数を少なくとも従来の2倍以上(6〜8機程度)とし、企業の事業機会拡大につなげるべきである。

  2. 企業の国際的事業展開に対する支援
    これまで、わが国の宇宙機器メーカーの事業展開は国内が中心で、海外の事業に携わる機会は極めて限定されていた。しかも、国内の衛星やロケットの打上げ数が限られていたため、国際市場で事業を展開する際に重視される実績が決定的に欠けている。国内の宇宙機器メーカーが国際的に活躍できるだけの実績を積むため、国内の需要をいっそう喚起する必要がある。それに加え、諸外国でしばしば見られるように、海外の公的事業受注に関して政府首脳が直接、相手国首脳に働きかける、所謂トップセールス等の政府による支援をわが国としても行うべきである。特に東南アジア等の新興諸国への技術指導・データ提供・人的支援等を含めた総合的な支援を国家レベルで行い、将来にわたって関係を強化していくことが必要である。また、国内の衛星オペレーターが海外において事業を展開する際、相手国の国内法等が障壁となることもあるが、そのような場合、政府は二国間、あるいは多国間の枠組みを通じて事業展開の障壁となる制度の撤廃を求めていくべきである。

  3. 産業競争力強化を目的とした官民連携
    宇宙事業については従来、国が主体となって実施していたが、最近では、準天頂衛星システムやGXロケットのように、官民が連携して事業を計画する事例が出てきている。民間の活力や事業経験の活用は大いに推奨されるべきであるが、官民連携の名の下に本来官が負うべきリスクを民間に負わせることがあってはならず、官が開発・実証したものを民間の創意工夫で事業化するという形態を原則とすべきである。その際、測位分野のような複数衛星によるシステムの実証が必要なものについては、その段階まで国が責任を持つ必要がある。もちろん、開発や実証の段階で官民が意見交換し、より実用性の高い機器やシステムを作り上げることは有意義であり、民間としてもできる限りの協力は不可欠と考えている。

  4. 企業の競争環境整備
    宇宙事業には大きなリスクと莫大なコストが伴うことから、民間の努力だけでは事業活動が成り立たない。競争環境を整備するため、必要なときに必要な機器を国内で調達できるよう、政府主導で部品や材料の国産化と共通化を推進し、信頼性向上に努めるとともに、顧客の多様なニーズに応えられるよう、大型・中型・小型衛星の開発・運用と、それらの打上げに適したロケットのラインアップを揃えるべきである。さらに、種子島の射場に課されている制約を解消して打上げの自由度拡大に努めるとともに、新規の打上げ射場建設の検討を行うことも必要である。また、衛星の軌道、特に静止軌道は有限資産であり、積極的に確保していく必要がある。

(2) 宇宙利用の拡大

宇宙開発利用の進展に伴い、通信衛星を用いた民間の通信事業や観測衛星で得られた画像の販売等の事業が展開されるようになった。また、最近では放送衛星を活用した超高精細映像や高臨場感音響システム、高速ダウンロードシステムといった放送サービスも計画されている。しかし、そのような事業は当初から純粋な民間事業として計画されたのではなく、本来は政府が機器やシステムを開発し、それをメインユーザとして利用して、余った能力を使って民間が事業を展開してきたものである。今後とも、民間の事業は発展していく傾向にあるが、宇宙の最大の利用者は政府であり、宇宙利用インフラについても国が責任を持って整備する必要がある。
そこで、各分野について、以下のような措置を実施する必要がある。

  1. 地球観測
    わが国ではこれまで、継続的な観測衛星の打上げ計画がなかったことから、利用を進めるための体制整備が進んでいない。リモートセンシングデータの活用が円滑に進むよう、観測衛星をシリーズ化するとともに、国と地方におけるデータの共有、データ利用センターやデータアーカイブの整備、データを一元的に利用するための検索・閲覧環境の整備等、観測データの利用促進に関する制度整備が必要である。

  2. 通信・測位
    通信衛星や測位衛星に関しては、国民生活の向上や安全・安心確保のための基盤を確立する必要があり、離島や山間僻地、地下等における利用環境確保の観点からも引き続き、研究開発を含めた国による整備が必要である。特に、通信に関しては、整備が進んだ地上システムとの統合運用の確保についても必要な措置を講じるべきである。

  3. 安全保障
    安全保障分野に関しては、諸外国と同様、積極的に宇宙を利用すべきである。その際、(ア)早期警戒衛星や、民間衛星の活用だけでは対応できない電波傍受等の防衛専用衛星の防衛省による保有・運用と即応型衛星打上げシステムの確立、(イ)情報収集、測位、気象観測等の安全・安心に資する衛星の確実な整備と政府関連機関による利用の推進、(ウ)企業その他の研究開発機関とその研究者・技術者に対する適切な秘密保持義務の設定、(エ)宇宙空間におけるわが国の資産の保護、(オ)宇宙の防衛利用に必要な技術の研究開発促進、に関して必要な措置を講じ、それを、本年末に策定される新たな「防衛計画の大綱」や「中期防衛力整備計画」に反映させるべきである。

  4. 外交・国際協力
    喫緊の課題として、世界中でますます重要性が増している鉱物・エネルギー資源等を確保するため、ODAを活用し、通信・測位・観測等の分野において地上を含めたインフラ整備を行い、資源保有国との関係強化を図る必要がある。また、地球環境問題や災害対策のような人類が共通で直面する課題、衛星測位のようなアジア・太平洋等への貢献に大きく寄与する分野、有人宇宙活動や国際宇宙ステーションのように膨大なコストがかかる計画については、諸外国と協力して実施することでリスクやコストを低減し、効果的な推進を図るべきである。さらに、安全な宇宙活動の障害となるスペース・デブリ対策に関しては、わが国が強みを持つロボティクス技術を有効に活用し、運用を終えた衛星等の機器の回収について、国際的な枠組み作りを念頭に置きながら貢献を行っていくべきである。

(3) 広報・教育

宇宙開発利用には膨大な資金が必要であり、昨今のような厳しい財政状況の下では予算支出に関する国民の理解を得ることが重要である。したがって、一般国民の宇宙への関心や理解度を高めるため、政府はこれまで以上に宇宙の実利用や宇宙科学の成果を訴えるなど、広報活動に力を入れるべきである。それにより、優れた能力を持つ若者が宇宙分野に進み、将来の優秀な技術者や科学者誕生といった高度人材育成にも結び付く。

5.宇宙開発利用に関する体制・法制の整備

(1) 宇宙開発利用を推進するための体制

これまで、わが国では、各府省がそれぞれの所掌範囲内で宇宙政策を立案し、実行してきたが、そのような縦割り行政に対しては、無駄が多く、効率性が低いとの批判があった。そこで、基本法では、内閣に設置した宇宙開発戦略本部が司令塔となり、一元的・総合的な宇宙開発利用を推進することとしているが、わが国の宇宙開発利用を推進するため、宇宙開発戦略本部は以下について早急に検討すべきである。

  1. 宇宙開発戦略本部の総合調整権限強化
    2001年の中央省庁再編以前に総理府に設置されていた宇宙開発委員会は、関係行政機関の宇宙開発に関する事務の総合調整や、関係行政機関の宇宙開発に関する経費の見積等を所掌事務としていた。これを参考にして、宇宙開発戦略本部は各府省との連携を図りつつ、わが国の宇宙開発利用推進のために重要な施策の推進に関する決定権限を持ち、その結果を各府省の予算要求に反映させるべきである。また、将来的には、既存の予算に加えて本部の特別予算枠を設け、重要プロジェクトの推進を図るとともに、本部による一括要求も含めた宇宙関係予算要求のあり方についても検討すべきである。

  2. 宇宙開発利用機関、宇宙開発利用に係る行政組織のあり方
    宇宙開発利用関係機関については、基本法において見直しが求められているが、国民生活の向上や産業競争力強化につながる研究開発の実施、研究開発機関と利用府省、産業界との一層の連携強化を実現するという観点から検討を進めることが重要である。
    まず、宇宙開発戦略本部事務局については、基本法施行後1年を目途に内閣府へ移行することとなっているが、強力なリーダーシップの下、総合的観点からの宇宙開発利用戦略を実施するため、国務大臣を長とし、独立性を有する宇宙庁も含めた最適な形態について幅広く検討を行い、わが国の宇宙行政に責任が持てる組織とすべきである。その際、少なくとも参事官以上の幹部クラスに関しては、他府省からの出向ではなく、内閣府へ転籍することが必要である。また、現状では研究開発と利用の各フェーズでPDCA(Plan Do Check Act)サイクルに基づく評価が実施されているが、研究開発の成果を利用につなげられるよう、研究開発と利用を一体として評価する体制を構築しなければならない。そのため、産業界や学界から人材を受け入れ、事務局内に研究開発から各分野における利用までを含めた強力な宇宙コミュニティを形成することが必要である。
    次に、各種宇宙関係機関については、基本法の理念を実現するために最適な形態へ移行すべきである。特に、わが国で唯一の総合宇宙研究開発機関である独立行政法人宇宙航空研究開発機構に関しては、産業振興についても幅広く取り組むとともに、ユーザとなる府省が広く深く関与し、防衛省とも十分に連携できる体制とすべきである。ただし、宇宙科学についてはボトム・アップ型の自由な発想が活きる体制とし、安全保障についてはセンシティブな技術の秘密保全を徹底する体制にするなど、分野の特性に応じて弾力的な体制を構築すべきである。併せて、宇宙開発委員会については現在の業務を抜本的に見直し、技術的・専門的役割のみを担う組織へと転換すべきである。

(2) 宇宙活動に関する法制

基本法附帯決議では、宇宙活動に係る規制等に関する法制について、基本法施行後2年を目途に整備することとされているが、基本法第11条で定める「法制上、財政上、税制上又は金融上の措置」について、宇宙産業振興の観点から、民間への優遇融資や政府による調達保証等の検討が必要である。また、現時点で事業が開始される見込みが薄い分野に係る法制についての検討は必要最小限に止め、必要以上に厳格な法制を導入し、却って民間の宇宙事業を阻害することがないよう留意するとともに、将来において本格的な検討を行うこととすべきである。
基本法の成立により、わが国の宇宙開発利用は新たな局面を迎えた。今後は、研究開発を中心とした宇宙活動だけでは不十分であり、厳しい経済環境のなかで貴重な税金を投入することに対する国民の幅広い合意を得つつ、産学官と政治が連携し、関係者の英知を結集することで、国益につながる戦略的な宇宙開発利用を推進すべきである。

以上

宇宙基本計画に盛り込むべき重要プロジェクト

※基本法の条文に従って分類したもの

国民生活の向上等 (第3条)

(1) 国民生活の向上等に資する人工衛星の利用 (第13条)

○測位

○情報収集

○観測

○通信

○データ管理センターの整備、および各利用システムとのデータ共有ネットワークの構築

(2) 国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障 (第14条)

産業の振興等 (第4条)

(1) 人工衛星等の自立的な打上げ等 (第15条)

○技術試験

(2) 民間事業者による宇宙開発利用の促進 (第16条)

○大型ロケット

○中型ロケット

○小型ロケット

人類社会の発展 (第5条)、先端的な宇宙開発利用の推進 (第18条)

○科学

○宇宙空間物体の観測・監視システムの整備

○宇宙太陽光発電システムの開発

国際協力等 (第6条)、国際協力の推進等 (第19条)

○有人宇宙活動・国際宇宙ステーション

○国際協力プロジェクト

以上

日本語のトップページへ