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ポスト京都議定書におけるわが国の中期目標に関する考え方

2009年2月17日
(社)日本経済団体連合会

政府は、ポスト京都議定書におけるわが国の中期目標について、地球温暖化問題に関する懇談会の下に委員会を設置し検討を行っており、本年6月までに発表する予定である。

中期目標は、ポスト京都議定書における地球温暖化防止に対するわが国の貢献という観点から大きな意義がある。加えて、すでに世界有数の低炭素社会を実現しているわが国が掲げる中期目標は、より高次元の低炭素社会に向けた世界最先端の取組みとなる点も重要である。目標達成への道のりは決して容易ではないが、国民各界各層それぞれが着実に努力することで、環境と経済、エネルギー安全保障のバランスがとれた社会を実現すれば、それは、世界に先駆けたロール・モデルとなる。併せて、低炭素社会実現の鍵となる革新的技術の開発に関し、各国で具体的なロードマップを共有するとともに、わが国として、国際的な連携・協力の促進に強いリーダーシップを発揮すべきである。

このため、産業界も、製造工程・製品における世界最高のエネルギー効率のさらなる向上を目指すとともに、原子力発電の着実な推進、革新的技術の開発と普及等を通じて、地球規模での排出削減に積極的に取り組む決意であり、日本経団連としては、今後、行動計画を策定する。

同時に、今後の中期目標の設定に当たっては、達成のための大きな国民負担や巨額の財政支出が、中期的な経済の悪化や雇用の喪失、産業の国際競争力の低下につながらないよう、地に足の着いた検討を行う必要がある。

以上の視点にたち、ポスト京都議定書におけるわが国の中期目標のあり方について、産業界の考え方を述べる。

1.中期目標の大前提となる国際枠組のあり方

ポスト京都議定書の国際枠組について、日本経団連では、かねてより、環境と経済の両立、米国、中国、インド等のすべての主要排出国の参加、公平性の観点からのセクター別積み上げによる国別目標の設定ならびに基準年の見直し、技術(革新的技術開発と既存技術の普及)の重視などの実効性ある枠組を求めてきた。このような国際枠組は、わが国が中期目標を国際約束するうえでの大前提とならなければならない。

2.具体的な中期目標のあり方

(1) 各部門における具体的かつ実施可能な削減策の積み上げによる着実な削減の確保

中期目標の設定にあたっては、国内での着実な削減を確保すべく、エネルギー転換、産業、運輸、家庭、その他業務の各部門において具体的かつ実施可能な削減策を積み上げていくべきである。既に、極めて高い効率を達成し、削減ポテンシャルが低いセクターもある中で、具体的削減策について十分な検討のないまま、実現可能性の乏しい中期目標にコミットすれば、海外からのクレジット購入という形で、国民が不合理な負担を強いられることとなる。
中期目標検討のための各経済モデルにおいては、各部門における削減のための技術・設備、導入コスト・投資回収期間、経済活動量・需要等を明確にする必要がある。また、産業界や民生部門のヒアリングも踏まえ、削減策等各モデルの前提条件等が具体的で実施可能であるかどうかを十分に検証すべきである。
各部門における削減策の積み上げによって目標を設定することにより、それぞれの部門の責任分担、行うべき施策は自ずと明らかとなる。今後目標達成のための計画を策定するうえでは、各部門・各施策の担当官庁とその責任を明確にし、着実な目標達成に向けてしっかりと進捗管理を行なっていくべきである。

(2) 国内での削減ポテンシャルに基づく設定

中期目標の設定は、国内の削減ポテンシャルに基づき行なうべきであり、途上国支援とは明確に区別すべきである。
目標設定の段階において、海外からのクレジット購入のような途上国支援分を加算すれば、本来途上国支援として捉えられるべきものがわが国の義務の履行とみなされ、国際的な評価が得られなくなるおそれがある。
さらに、目標達成のために海外からのクレジット購入に資金を投入することとなれば、技術開発の原資が奪われ、長期的な温暖化防止に向けたわが国の技術開発が阻害されることとなる。
途上国支援については、アジア太平洋パートナーシップ(APP)の枠組における技術を活用した取組みに加え、公的資金によるバイ・マルチの援助がすでに行われており、ポスト京都議定書においても、こうした取組みをさらに強化すべきである。

(3) 公平性の確保

中期目標は、他国の目標の削減負担との公平性を確保すべきである。不公平な中期目標は、国民に過大な削減負担を強いるのみならず、わが国産業の国際競争力の低下や生産拠点の海外移転につながり、雇用の喪失や財政の悪化、地域経済への悪影響を招くこととなる。
中期目標検討委員会で示されている各経済モデルにおいて、わが国の限界削減費用は、EU、米国に比べ相当程度高いことが明確となっている。このことは、日本の省エネ・省CO2が進んでいることを示しており、中期目標の設定は、この点を十分踏まえて行なわれるべきである。

(4) 負担に関する情報開示・国民的コンセンサスの確保

すでに世界有数の低炭素社会を実現しているわが国が、世界に先駆けて、より高次元の低炭素社会を追求していくためには、国民的な覚悟と決意が必要である。
中期目標検討委員会で示されているいずれの経済モデルにおいても、排出量の削減を進めていくためには、家計部門・政府部門・企業部門における追加的支出、経済成長率の低下や失業率の増加等、相応のコストが必要となるとされている。
負担するコストとその国際比較における位置づけについて国民に対し十分な情報開示がなされるとともに、それがマスメディアによって適切に伝えられ、国民的な合意の下で中期目標が設定される必要がある。

以上

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