雇用安定・創出の実現に向けた政労使合意

米国の金融危機に端を発した世界同時不況の中で、景気は急速な悪化を続け、大幅な減産などにより、雇用失業情勢は深刻の度を増し、国民の雇用不安は拡大している。雇用失業情勢については、今後さらに厳しい局面を迎える懸念がある。

雇用の安定は社会の安定の基盤であり、我が国における長期雇用システムが人材の育成及び労使関係の安定を図り、企業・経済の成長・発展を支えてきたことを再認識し、雇用の安定に向け最大限の努力を行う必要がある。

また、雇用の安定、さらには雇用創出の実現のためには、景気回復に向けあらゆる施策を総動員することと併せて、雇用の多くを占め、雇用維持に努力している中小企業の実情等に配意しつつ、実効性ある雇用の安定・創出策を更に強化していくことが、喫緊の課題である。

このような中で、今般、政府、日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会及び日本労働組合総連合会は、現下の雇用不安を払拭するためには、政労使の三者が一体となってこの難局に立ち向かうことが不可欠との共通認識に立って、別紙のとおり、雇用安定・創出の実現に向けて、一致協力して取り組むことに合意した。

政労使はこの合意に基づき、企業が活力を持って活動でき、国の基本をなす勤労者が仕事に意欲を持ち、その持てる能力を発揮できる社会の構築に向けて、一体となって取り組む。

政府は、早急にこの合意の実現に向け必要な施策を推進するとともに、労使は、政府の施策について理解・協力し、安定的な労使関係の下、相互理解に立って経営の安定と雇用の維持・確保に一致協力して取り組むこととする。

平成21年3月23日
内閣総理大臣麻生 太郎
(社)日本経済団体連合会会長御手洗 冨士夫
日本商工会議所会頭岡村 正
全国中小企業団体中央会会長佐伯 昭雄
日本労働組合総連合会会長高木 剛


(別紙)

雇用安定・創出の実現に向けた5つの取組み

1.雇用維持の一層の推進

景気が急速に悪化する中で、雇用の維持は最重要の課題である。このため、労使は最大限の努力を行うこととし、我が国の労働の現場の実態に合った形での「日本型ワークシェアリング」とも言える様々な取組みを強力に進める。この際、雇用が厳しい分野の労働者を、例えば出向等により、一時的に雇用機会がある分野に、企業間レベルでつなぐ等、失業がない形での産業間労働移動の取組みなどを進める。

このような取組みについては、個々の企業の労使間で、自主的に十分な協議を行い、労使の納得と合意を得る必要がある。その際、親会社たる大企業の労使は、下請労働者の雇用の維持・確保に最大限の配慮を行う。

経営側は、どのような経営環境にあっても、雇用の安定は企業の社会的責任であることを十分に認識し、個々の企業の実情に応じ、成果の適切な分配や、労働者の公正な処遇に配慮しつつ、残業の削減を含む労働時間の短縮等を行い、雇用の維持に最大限の努力を行う。また、失業がない形での労働者の送り出し、受け入れ等に努める。

労働側は、生産性の向上は雇用を増大するとの認識の下、コスト削減や、新事業展開など経営基盤の維持・強化に協力する。また、失業のない労働移動の取組みに協力する。

政府は、残業の削減、休業、教育訓練、出向などにより雇用維持を図る、いわゆる「日本型ワークシェアリング」への労使の取組みを促進するため、雇用調整助成金の支給の迅速化、内容の拡充を図り、正規・非正規労働者を問わず、解雇等を行わず雇用維持を図るための支援などを早急に行う。

また、雇用維持の観点から、中小企業の資金繰り支援に万全を期す。

2.職業訓練、職業紹介等の雇用のセーフティネットの拡充・強化

雇用機会がある分野と雇用が厳しい分野との産業間、地域間のばらつきが大きい中で、新たな産業分野での就職や、職種転換等を円滑に進めていくことが必要である。このため、職業訓練を重要な雇用のセーフティネットと位置づけ、強力に推進するとともに、広域的、機動的な職業紹介を実施できるよう、全国ネットワークのハローワークによるマッチング機能を最大限発揮させる。

経営側は、訓練施設や人材を提供する等、労働者の職業訓練の実施に最大限の支援、協力を行う。また、ハローワークによる職業紹介に協力する。

労働側は、自らの職業能力の開発向上に努力する。また、誠実かつ熱心に求職活動を行う。

政府は、以下の支援を行う。

  1. 企業のニーズ、人材不足分野、新規雇用創出が期待される分野などの実態を踏まえた、職業訓練や研修の拡大、内容・期間の拡充・強化
  2. 現下の厳しい雇用失業情勢を踏まえた、全国ネットワークのハローワークの再就職・生活支援等の機能の強化及び組織・体制の拡充・強化
  3. 職業紹介、職業相談や能力開発に関する相談、生活相談等をワンストップで行える拠点の整備、また、政府と一体となって民間団体等が行っている就職支援の取組みの促進

3.就職困難者の訓練期間中の生活の安定確保、長期失業者等の就職の実現

失業給付を受給できない者への支援が求められている。年長フリーターや母子家庭の母等のうち、失業給付を受給できない者への職業訓練期間中の生活支援、離職に伴い住居を失った者への住居や生活の支援、失業給付の支給が終了したものの、就職できない長期失業者へのカウンセリング等を組み合わせた就職支援など、就職と生活の支援を進める。

経営側は、職業訓練の実施、求人の提供、労働者の受入れに最大限協力する。この際、過去の就業実態や離職状況にとらわれず、人物本位による採用を行うよう努める。

労働側は、自らの職業能力の開発向上に努力する。また、ハローワークによる指導、援助に応え、誠実かつ熱心に求職活動を行い、就職できるよう努める。

政府は、再就職が困難な者の就職を実現するため、ハローワークが中心となって、離職者等の就業意欲・能力の底上げを図り、上記の職業訓練中の生活保障、住居・生活支援、就職支援を強化する。

4.雇用創出の実現

我が国の将来的な経済成長、国民生活の向上、産業競争力の強化、地域の活性化等につながる分野、とりわけ、医療、介護、保育、環境、農業、林業等、成長が見込まれる分野において、雇用の受け皿を確保するため雇用創出が必要である。地域の労使を含め関係者が協力して、「ふるさと雇用再生特別交付金」、「緊急雇用創出事業」や、地方交付税の活用を通じて、地域における主体的な取組みを着実に進める。

経営側は、個々の企業の実情に応じ、新事業の開始や事業転換等に努める。また、「ふるさと雇用再生特別交付金」について、必要な支援に努める。

労働側は、新たな事業分野についての理解を深め、労働市場の実態を踏まえた適切な職業選択を行う。また、「ふるさと雇用再生特別交付金」について、必要な支援に努める。

政府は、財政出動による需要喚起をはじめ、産業政策、中小企業政策等の施策を総動員し、今後成長が見込まれる重点分野の雇用創出を図る。また、「ふるさと雇用再生特別交付金」等について、都道府県労働局と都道府県が一体となって推進するとともに、関係省庁間、関係者で協力し、早急かつ、効果的、効率的な実施を図る。

特に「ふるさと雇用再生特別交付金」については、労使が必要な拠出を行うことができるよう都道府県に対し要請を行う。

5.政労使合意の周知徹底等

政府、日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会及び日本労働組合総連合会は、この合意に盛り込まれたそれぞれの役割を十分果たすよう最大限の努力を傾注するとともに、この「雇用安定・創出の実現に向けた政労使合意」を個々の企業の労使に周知徹底し、この中の労使の取組みについては、必要に応じ、その適切な実施が確保されるよう、働きかけを行う。

なお、仕事と生活の調和の実現は、生産性の向上を図りつつ、労働者が仕事と生活において生きがい、喜びを享受するために重要であり、平成19年12月に取りまとめられた「仕事と生活の調和憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」に基づき、政労使が一体となって、着実な取組みを進める。


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