2008年度 環境自主行動計画第三者評価委員会 評価報告書

2009年4月22日
環境自主行動計画
第三者評価委員会

1.はじめに

第三者評価委員会は、2002年の設置以来、日本経団連環境自主行動計画(以下、自主行動計画)の毎年のフォローアップの進捗状況を確認するとともに、信頼性・透明性の向上に向けて検討すべき点を指摘してきた。
本年度は、京都議定書の約束期間に入っている中で、産業界としても自主行動計画の目標達成が強く求められているとの認識のもと、自主行動計画の全体目標に対する進捗や今後の見通し、金融危機以降の景気後退の影響が自主行動計画に与える影響等を中心に評価を行った。

2.2008年度自主行動計画フォローアップ結果(2007年度実績)とその評価、第三者評価委員会による調査の概要

日本経団連の自主行動計画には、現在、産業・エネルギー転換部門34業種 #1、業務部門13業種・企業、運輸部門13業種・企業の合計60業種・企業が参加している。このうち、産業・エネルギー転換部門(34業種)では、「2008年度〜2012年度の5年間の平均で、CO2排出量を1990年度レベル以下に抑制するよう努力する」という全体目標を掲げて取り組みを行っている。産業・エネルギー転換部門に属する34業種は、わが国全体のCO2排出量の45%、産業部門及びエネルギー転換部門全体のCO2排出量の84%をカバーしている。
この目標に参加している34業種について、2007年度の産業・エネルギー転換部門からのCO2排出量は、5億2,190万t-CO2と1990年度比で1.3%増加し、目標水準には至らなかった。なお、一部の原子力発電所の停止に伴う電力の炭素排出係数の悪化の影響を除けば、1990年度比で約1.9%減少していたと試算される。また、この1990年度比1.3%増という数値は京都メカニズムのクレジット等を含めないものであり、自らの目標達成のためにCDM等のクレジットを大量に購入している業種もある。
34業種の排出量の約9割を占める上位7業種からの、クレジットを含めた見通しに基づく試算によれば、2008年度〜2012年度の5年間平均の排出量は90年度比3.9%減となり、産業・エネルギー転換部門の全体目標の達成は可能である。
すでに京都議定書の約束期間に入っていることもあり、京都メカニズムの活用も含め、各業種における一層の取り組みを期待したい。

#1 2007年度から、日本自動車工業会と日本自動車車体工業会は統合して取り組みを推進しているため、昨年より1業種減少している。

今年度、第三者評価委員会は、合計6回の会合を開催した。産業・エネルギー転換部門の3業種(電気事業連合会、石油連盟、日本自動車工業会・日本自動車車体工業会)、業務部門の1業種・2企業(住宅生産団体連合会、NTTグループ、セブン&アイ・ホールディングス)、運輸部門の2業種(日本船主協会、日本内航海運組合総連合会)からヒアリングを行い、報告書における指摘事項について検討した。加えて、金融危機以降の景気後退が自主行動計画に与える影響に関して知見を得るため、日本エネルギー経済研究所と主要業界を招き勉強会を行った。

3.これまでの指摘事項への対応状況

これまでの指摘事項について、以下の通り、参加業種・企業(ここでは、個別業種版を提出した53業種・企業 #2 )の対応状況を確認した。

#2 脚注1と同様の理由により、昨年度の54業種・企業よりも1業種減少している。

(1) 目標設定

  1. 1. 目標指標の採用および目標値の設定に関する理由説明
    業種別目標について、参加業種・企業は、業種・業態の違いに応じて、4種の指標から最適と判断されるものを選択したうえで目標値の設定を行っている。その合理性を担保するために、参加業種・企業は、目標指標の選択理由と目標値の設定理由について説明することが重要である。
    今年度は、目標指標の選択理由について53業種・企業(昨年度52業種・企業)が、目標値の設定理由について52業種・企業(同50業種・企業)から説明があった。

  2. 2. 2008年度〜2012年度の平均としての目標設定
    従来、自主行動計画は2010年度を目標達成年度としていたが、京都議定書の約束期間を踏まえて、2006年度に、産業・エネルギー転換部門の全体目標を「2008年度〜2012年度の平均で1990年度レベル以下」とすることとした。そこで、産業・エネルギー転換部門の各業種の目標についても、全体目標との整合性を取ることを期待している。
    2008年〜2012年度の平均で目標を設定している産業・エネルギー転換部門の業種は、今年度は34業種(昨年度30業種)となっている。

  3. 3. 業種別目標の見直しへの対応
    参加業種・企業が自らの判断において更なる目標水準の引き上げを行うことは、自主行動計画の優れた特徴の一つであり、目標水準を達成した業種においては、可能な限り目標水準の引き上げを検討することが望まれる。
    また、新たに設定された目標水準が「引き上げ」に該当するかどうかは、昨年度、原則として、日本経団連が従来から採用している基本的な算定方式に基づく数値を用いて行うべきと指摘した。
    昨年度に目標水準の引き上げを行った業種が過去最高の23業種に上ったため、2008年度は引き上げ業種が少なくなったものの、産業・エネルギー転換部門において、4業種が目標水準を引き上げた(日本ガス協会、日本自動車工業会・日本自動車車体工業会、ビール酒造組合、日本電線工業会)。業務部門では1業種(不動産協会)、運輸部門(全国通運連盟)では1業種が、目標水準の引き上げおよび追加的な数値目標の設定をそれぞれ行った。また、業務部門の1企業(KDDI)において、追加的な数値目標の設定が行われた。
    いずれも、日本経団連が従来から採用している基本的な算定方式に基づく数値に基づいて「引き上げ」となっていることが確認されている。

  4. 4. 全体目標の見直し
    昨年度、全体目標について、原子力発電所の運転再開等の条件が整ってきた段階で、全体目標の引き上げの検討を行うことを期待した。
    産業・エネルギー転換部門の排出量の約9割を占める7業種(電気事業連合会、石油連盟、日本鉄鋼連盟、日本化学工業協会、日本製紙連合会、セメント協会、電機・電子4団体)の見通しをもとに、2008年度〜2012年度における同部門34業種からの平均CO2排出量を試算したところ、1990年度対比の排出量は3.9%減少となった(昨年度フォローアップにおける試算では2.9%減少)。ただし、この予測は、京都メカニズムのクレジット分を含んだものである。また、本年度フォローアップにおける実績値は、原子力発電所の停止による影響等もあり、目標水準を1.3%上回った。
    日本経団連としては、第三者評価委員会報告で指摘された条件が整った場合に、全体目標の引き上げの検討を行うこととしている。

(2) 目標達成の蓋然性の向上

  1. 1. 2008年度〜2012年度の予測に用いる経済指標の説明
    日本経団連では、2008年度〜2012年度平均で達成すべき目標および見通しの計算にあたって、統一的な経済指標を用いることとし、独自指標を用いる場合には、その理由と根拠についても説明を求めている。
    採用した経済指標に関する説明は、39業種(昨年度39業種・企業)が行った。そのうち、22業種が生産の見通し等を算出するにあたって独自の経済指標を用いたうえで、その理由と根拠を説明している。

  2. 2. 京都メカニズムの活用方針
    京都メカニズムの活用方針については、産業・エネルギー転換部門の34業種(昨年度35業種)、これに業務部門・運輸部門の業種・企業を加えると、50業種・企業(同48業種・企業)から報告があった。なお、現時点では、電力・鉄鋼業界が、京都メカニズムの活用を含めて自らの目標を達成することを明確化している。全体的には、活用しなくとも目標達成は可能としている業種が多かった。

  3. 3. 今後実施する対策とその定量的効果
    自主行動計画全体の目標達成に関する正確な見通しを得るためには、参加業種・企業からの今後実施予定の具体的な対策、エネルギーやCO2の削減効果の報告が必要となるため、昨年度、具体的な対策とその定量的な効果について、より多くの業種からの報告を求めたところである。
    今後の具体策とその定量的効果を報告したのは、29業種・企業(昨年度20業種・企業)となった。具体策としては、高効率設備の新規導入、既存設備の省エネ運転の強化、廃熱等の有効利用、燃料転換が多くの業種で行われている。大規模な省エネ設備投資を実施済みの業界においても、既存設備の運転における工夫等の細かな対策が積み重ねられている。

(3) 要因分析

  1. 1. 原単位変化の説明
    エネルギー使用量やCO2排出量に関する原単位変化の説明は、参加業種・企業の対策を進めるうえで有益である。こうした説明を行ったのは、48業種・企業(昨年度49業種・企業)となっており、そのうち42業種・企業(同34業種・企業)が定量的な説明をしている。本年度、CO2排出量に関する原単位変化の説明を行った業種・企業の中では、購入電力の炭素排出係数の悪化を変化要因としてあげたところが多かった。

  2. 2. 個別の温暖化対策の費用対効果の説明
    個別の温暖化対策の費用対効果分析は、自主行動計画による取り組みについて第三者からの理解や信頼性を高めるうえで有効である。
    温暖化対策の費用対効果について説明を行ったのは、44業種・企業(昨年度37業種・企業)となった。業界によっては、2007年度単年度のみでも、原油換算1klあたり数十万円に上る省エネ投資を行うところも見られた。

(4) 産業部門以外(業務部門、運輸部門、家庭部門)への貢献

  1. 1. オフィスや物流に関するフォローアップ手法やデータ整備、目標のあり方
    昨年度、オフィスや物流等に関する対策の重要性が高まる中で、すべての部門の業種・企業において、データ整備を進め、目標設定の現状について早期の整理を行うことを求めた。また、業務部門に関する対策の推進に関しては、自主行動計画の枠組において、全体目標の設定の検討を含め、本社等オフィスにおけるCO2排出削減の目標設定・深掘りやPDCAサイクルの確立等の取り組みを拡大していく必要があると指摘した。
    本年度、本社等オフィスからのCO2排出量調査については31業種・企業(昨年度24業種・企業)、自家物流からのCO2排出量調査について20業種・企業(同17業種・企業)がデータを提出している。
    上記31業種・企業からの報告と、事務局が会員企業に行った本社等オフィスの取り組みに関する調査からは、(ア)回答した会員企業の9割がオフィスにおける数値目標を既に設定、あるいは設定を予定しているものの、目標指標や基準年・目標年等のばらつきが大きいこと、(イ)31業種・企業における本社等オフィスからのCO2排出量は、2007年度のわが国業務部門の排出量の0.5%とウエートが小さいことが明らかになった。しかし、日本経団連では、全体目標の設定について引き続きデータを収集しながら、今後とも検討を続けることとしている。

  2. 2. LCA的評価の充実
    製品・サービスの使用・消費段階における排出削減効果は、業種・企業の社会全体のCO2削減に向けた努力を示すとともに、利用者が製品・サービスを選択する際に参考となる情報を提供するという観点から重要である。とくに、主要製品・サービスの使用段階での削減効果の定量化を行うことは重要であり、取り組みを期待したところである。
    LCA的評価に関しては、48業種・企業が記載を行った。特に、主要製品の使用段階での削減効果に関する数値を記載した業種が昨年度よりも増加し、家電製品、炭素繊維、鋼材、高効率給湯機等の使用段階におけるCO2排出削減が報告された。

  3. 3. 家庭部門への貢献・働きかけ
    家庭部門においては、製品・サービスの省エネ化がCO2削減に大きな影響を与えるため、省エネ製品の開発と商品化を進めることが必要である。例えば、消費者への働きかけができる小売等の参加業種・企業における取り組みや工夫が求められる。
    国民運動につながる従業員や顧客への働きかけ等については、47業種・企業が報告を行った。エネルギー転換部門等の業種においては、家庭におけるCO2削減対策のチェック表や環境家計簿の提供等が行われ、個別的できめ細かい情報提供が行われている。小売においても、店頭での広報や、レジ袋削減・マイバッグ利用のキャンペーンなどを推進している。

(5) 調査方法等

  1. 1. フォローアップ対象範囲の調整
    参加業種間の重複を避けるため、バウンダリーの調整を適宜行う必要がある。今年度は、バウンダリーについて、43業種・企業(昨年度43業種・企業)が確認・調整を行ったと報告している。

  2. 2. 拡大推計の廃止・実績値に基づくデータの使用
    フォローアップ調査に関する業種内でのカバー率等に関し、拡大推計でなく実績値に基づくデータを使用することが求められる。
    実績値に基づくデータを使用したのは47業種・企業(昨年度48業種・企業)であり、他方、拡大推計を行ったのは6業種、報告のない業種が2業種あった。

  3. 3. 「フォローアップ結果概要版」「フォローアップ結果個別業種版」において用いられる算定方式
    「フォローアップ結果概要版」における業種横断的な数値評価の必要性、分かりやすさの確保の観点から、すべての業種の算定方式を統一すべきであり、少なくとも当面は、削減効果の検証の容易さ、数値の連続性の確保、算定方式を変更する場合に生じるコストの回避という観点から、日本経団連が従来から採用している基本的な算定方式のみを用いることが望ましい。他方、「フォローアップ結果個別業種版」には、各業種の事情に応じた取り組み等をきめ細かに説明する役割があるため、業種独自の算定方式による数値を掲載して事情を適切に説明することは各業種の判断に委ねられるべき事項である。
    この点について、日本経団連では、「フォローアップ結果概要版」では、日本経団連が従来から採用している基本的な算定方式を用い、「フォローアップ結果個別業種版」では業種独自の算定方式による数値を掲載して業種の事情を適切に説明する、という整理が行われた。

  4. 4. 電力の炭素排出係数に関する考え方の整理
    自主行動計画で使用する電力の炭素排出係数は、電気事業連合会から報告される一般電気事業者の電力排出係数を一律採用している。昨年度、PPS(特定規模電気事業者)の利用拡大の状況をにらみつつ、電力の炭素排出係数について検討課題とすべきであると指摘した。
    PPSについては、電力の総需要量に占める割合が僅少(2007年に1.42%)であることから、普及実態を引き続き注視しつつ、日本経団連として改めて対応を検討することとしている。

(6) 自主行動計画に関する情報発信、その他

  1. 1. エネルギー効率等の国際比較
    エネルギー効率等の国際比較は、自主行動計画参加業種におけるエネルギー効率向上の努力や成果を説明するうえで重要である。日本経団連としては、より客観性の高いデータの個別業種版への記載、ポスト京都議定書における取り組みを見据えたデータ収集に努めるとしている。
    エネルギー効率の国際比較の数値を提出した業種は昨年度と同様に8業種であった。しかし、アジア太平洋パートナーシップ(APP:Asia-Pacific Partnership on Clean Development and Climate)や、IEA(国際エネルギー機関)に対しデータ提供等を行っていることが、電力・鉄鋼・セメント・電機電子等の業界から報告された。また、石灰製造工業会からは、業界レベルの国際会議で、データ整備を日本から提案したなどの活動が報告されている。

  2. 2. 森林に関する取り組み
    昨年度、国内の吸収源への貢献に関し、自主行動計画としての取り扱いの検討が望ましいと指摘した。森林に関する取り組みは、多くの業種・企業で事例が報告されているところであり、対応状況の報告を行った業種は、41業種・企業(昨年度24業種・企業)と昨年度に比べ大幅に増加している。日本経団連としては、関係する業種における報告の充実に努めつつ、引き続き推進等の検討を行うこととしている。

  3. 3. 英文名称の変更、ガイドラインの策定
    昨年度、上記事項に関する検討を第三者評価委員会として提案したところである。日本経団連としては、今後、ポスト京都議定書における行動計画を検討する際、英文名称の変更を検討する予定である。また、自主行動計画を拡げるためのガイドラインの新規策定には至っていないが、自主行動計画への新規参加を希望する業種・企業に対して、策定のノウハウなどを個別に情報提供している。

  4. 4. 二酸化炭素以外の温室効果ガス排出抑制への取り組み
    昨年度、温室効果ガス全体の削減について、引き続き取り組みを求めたところである。京都議定書に定められたCO2以外の温室効果ガスであるメタン、一酸化二窒素、代替フロン等3ガス(HFC、PFC,SF6)についても、対応状況が報告され、42業種・企業(昨年度27業種・企業)に上っている。製薬業界のように、HFC削減に関する業種目標を持って取り組みを行っているところもある。

4.今後の課題

(1) 目標の達成について

2008年度のフォローアップ調査結果によれば、産業・エネルギー転換部門からのCO2排出量は、クレジットを含まない2007年度実績の数値では1990年度比1.3%増加となったものの、一部の原子力発電所の停止に伴う電力の炭素排出係数の悪化の影響を除けば、同約1.9%減少と試算されている。2007年度の排出量の増加は、原単位の改善が進められている中で、生産活動量の増加および、一部の原子力発電所の停止が主たる要因と考えられる。この点について、産業界として、十分な説明を行なっていく必要がある。なお、クレジットを含めた見通しでは、2008年度〜2012年度の5年間平均の排出量は90年度比3.9%減となり、全体目標の達成は可能である。
個別業種の中でも、電力業界と鉄鋼業界は、京都メカニズムを目標達成のために活用するとしており、現時点で、それぞれ1億9,000万t-CO2、5,900万t-CO2のクレジット発生量を見込んでいる。生産活動等の不確実性を含んだ1997年当時の目標を社会的公約として捉え、クレジットを購入してでもクリアするとしている業界の決断については、第三者評価委員会としても評価したい。
すでに京都議定書の約束期間に入っていることもあり、各業種における一層の取り組みを求めたい。とくに、電力業界の目標達成に向けた進捗は、電力の炭素排出係数に反映されて自主行動計画全体に影響するため、電力の目標達成は極めて重要である。こうした観点からも、全体目標の進捗状況について、要因分析を行ない、産業界として十分な説明を行っていく必要がある。
また、現時点で既に目標水準を達成している業種については、目標水準の引き上げの検討を期待する。なお、世界的な景気後退による需要の減少の影響について、十分留意する必要がある。例えば、石油業界では、ここ数年、政府の見通しを上回るペースで燃料油需要が減退しているため、これまで順調に改善してきたエネルギー使用原単位の目標達成が困難になる可能性もあるとしていた。現時点で目標水準を達成しながらも引き上げが困難な個別業種は、その理由について、適切に説明を行う必要がある。

(2) 2008年秋以降の金融危機による景気後退の影響

2008年秋以降の金融危機によって世界的に景気が後退している。日本エネルギー経済研究所が2008年12月に公表した短期エネルギー需給見通しによれば、わが国の最終エネルギー消費については、2008年度に前年度比3.6%減、2009年度に同2.8%減と予測されている。部門別では、生産活動の不振から産業部門での落ち込みが大きい。また、エネルギー起源CO2排出量については、上記の生産活動の落ち込みに加え、原子力発電所の稼働率の上昇、本年度の渇水の反動による水力発電の増加もあり、2008年度に前年度比3.8%減、2009年度に同6.9%減と予測されている。産業部門におけるCO2排出量の減少は、京都議定書約束期間の削減目標の達成にもプラスの影響を与え、わが国全体のエネルギー起源のCO2排出量は1990年度比でプラス2%程度と予測されている。
企業活動に大きな影響を与えた今回の金融危機は、総量によるCO2削減目標の設定の在り方に課題を残した。国内外の経済が不透明な中で、ポスト京都議定書に向け、総量による削減目標の設定に取り組むことが難しい状況にある。
しかし、温暖化対策は、官民挙げて長期に亘り取り組んでいかなければならない問題であり、引き続き、産業界の省エネ努力が求められている。この点、金融危機による景気後退の影響について、本年度に第三者評価委員会がヒアリングを行った業界(鉄鋼、化学、セメント)が、景気後退による生産調整を行いながらも、温暖化対策を着実に推進するとの姿勢を示したことを評価したい。今後とも、低炭素社会の実現に向けて、中長期的な視点から導入可能な温暖化対策技術の開発・普及に取り組むことが望まれる。また、そのような企業の取り組みを促進するため、イノベーションを誘発する官民協力を期待する。

(3) 排出量取引の国内統合市場の試行的実施への対応

2008年10月より、政府による排出量取引の国内統合市場の試行的実施が開始された。原則として企業を参加主体とする国内統合市場においては、「京都メカニズムによるクレジット」に加え、「国内クレジット #3」や、「他の企業等の目標超過達成分としての排出枠 #4」が取引の対象となる。
こうした中で、原則として業種を参加主体とする自主行動計画においては、補完的に活用可能なクレジットとして、現在、京都メカニズムによるクレジットのみが対象として合意されている。そのため、京都メカニズム以外のクレジットを目標達成との関係でどう取り扱うかについて、政府の動向も踏まえつつ、日本経団連として方針を整理する必要がある。
また、透明性を高める観点から、企業が自ら削減した量と、クレジット購入によって補完的に削減したとみなされる量とは明確に区別して把握する必要がある。業種からのデータについては、企業が実際に使用した燃料量や電力量を業種で積み上げた結果とは別に、各種クレジットの取得量と見込み量についても報告が求められる。

#3 排出量取引の国内統合市場の試行的実施は、内閣に設置されている地球温暖化対策推進本部によって決定された(2008年10月21日)。国内クレジットとは、大企業等が国内の中小企業等に資金・技術を提供し、CO2を削減することによって得られるクレジット等を指す。なお、試行的実施では認められないクレジットとして、環境省が創設したオフセット・クレジット(J-VER)がある。
#4 企業が自主的に削減目標を設定し、目標を超過達成した場合に売却できる排出枠を指す。

(4) 業務・家庭・運輸部門での対策強化

2007年度のわが国のエネルギー起源CO2の排出量(速報値)は、業務部門では1990年度比41.7%増、家庭部門は同41.1%増と大きく増加している。自主行動計画参加業種としても、両部門の排出削減に向けた貢献が求められている。
業務部門については、自主行動計画参加業種・企業によって、本社等オフィスでの省エネに関するデータが昨年に引き続き収集され、業種横断的な目標設定に関する検討が行われた(本報告書5ページ目を参照)。また、第三者評価委員会としては、今回、初めてコンビニエンスストアよりヒアリングを行い、消費者にとって身近で便利なサービスの提供を図りつつ、積極的な設備投資によって冷蔵・冷凍機器、照明、空調等の省エネを図っていることを確認した #5
業務部門の業種・企業はもちろん、それ以外の業種においても、積極的な活動やデータ収集を行っていることがフォローアップ報告により確認されており、第三者評価委員会としては、産業界の貢献を評価したい。また、各業種や自主行動計画全体での目標については、引き続きデータ収集を行い、政府における動向等も踏まえつつ、検討を続けることを期待する。
家庭部門への貢献・働きかけに関しては、昨年度の報告において、消費者への働きかけができる小売等の参加業種・企業における取り組みや工夫を求めたところである。また、日本フランチャイズチェーン協会では、2010年度に2000年度比でのレジ袋使用重量を35%削減するという数値目標を設定してレジ袋の削減に取り組んでいる。また、自主行動計画参加業種・企業が、従業員の家庭や顧客における温暖化対策を働きかける取り組みも広がっている。今後とも、働きかけの充実が望まれる。
運輸部門に関しては、日本船主協会が、バンカー油(国際航空および外航海運のための燃料)の削減に取り組んでいることを確認した。バンカー油は、世界のCO2排出量の5%弱を占めており、現在、国際海事機関(IMO)と国際民間航空機関(ICAO)において削減方法および各国への割当方法が検討されている。京都議定書において、バンカー油はわが国の削減対象には含まれていないが、国際的な運輸に係る業界が、率先して目標を立て削減努力を行っていることはとくに評価する。
内航海運は、国内貨物の輸送トンキロにおいて約40%と高いシェアを占める輸送手段であり、船舶の大型化、省エネ装置・機器の採用、効率的な集荷と輸送ルートの選択等による省エネの取り組みを行っている。外航海運業界とも情報交換しつつ、引き続き取り組みを求めたい。
また、運輸部門以外の業種・企業においては、グループ会社全体の共同配送によるCO2の排出削減、低炭素型の社用車への切り替え等の取り組みが行われている。物流の形態は業種によって多様であり、統一的なデータ整備は難しいところであるが、自ら管理できる部分からデータの収集、分析の充実を図ることが必要である。

#5 1990年度に比べ冷蔵・冷凍什器、電子レンジ、ATM等の設置台数が約2倍に増える中で、エネルギー使用原単位は90年度比19%削減されている(日本フランチャイズチェーン協会報告)。

(5) LCA的評価の重要性

昨年度の第三者評価委員会報告においては、社会全体で排出削減を実現するためには、産業界が低炭素型の製品・サービスを開発・商品化し、提供していくこと、LCA的評価を取り入れていくことが重要であると指摘した。また、業種間の連携や、主要製品・サービスの使用段階での削減効果の定量化を進めることを期待したところである。
本年度は、自動車の組み立てが自動車メーカーから自動車車体メーカーに委託されている実情を踏まえて、日本自動車工業会と日本自動車車体工業会が統合してフォローアップ調査を行うこととなった。一体となった取り組みにより、今後、省エネに関するベストプラクティスの共有化が一層進むと期待される。LCA的な観点から、自動車業界は、使用段階での排出量削減に努めており、2010年度の燃費基準(15.1km/l)を2004年度から前倒しで達成している。
また、IT化の進展に伴いICT設備における省エネは重要性を増している。NTTからは、情報通信量が3〜4桁ペースで伸びる中で、積極的な研究開発により、光ケーブルの共有や信号の多重化等、社会インフラにおけるCO2削減を実現していることが報告された。
住宅生産団体連合会は、建設段階のCO2排出量を2007年度に1990年度比28%削減しており、省エネを含めた住宅性能の向上を推進している。しかし、住宅のライフサイクルにおいては使用段階の排出量が87%を占めている。省エネ住宅は他の住宅に比べ1割程度価格が高く、買い手にとってはかなりの負担となる。ライフサイクルでの排出削減に関し、政策による後押しも期待しつつ、メーカーには消費者に対して分かりやすい情報の提供を求めたい。
2008年度は、主要製品・サービスの使用段階での削減効果の定量化に関して報告を充実させた業種が増加したことを評価したい。LCA的評価に関しては、政府・公的機関による産業連関データの整備が必要である。産業界としても、引き続き主要製品・サービスのLCA評価を進めることに加え、例えば初期コストを使用段階のエネルギー節約によって回収できることを示す等、業種・企業ならではの工夫を図ることを期待する。

(6) 森林に関する取り組み

森林に関する取り組みは、地域住民との交流の場を兼ねた植林や森林整備、工場等での緑地整備、苗木の配布等、多くの企業における事例が報告されている。また、林野庁や地方自治体が行う「企業の森」に対する協力も進められている。さらに、製紙業界においては、業種の自主行動計画の目標の一部として植林に取り組んでいる。政府の動向等も踏まえつつ、自主行動計画における取り扱いの検討を期待したい。

(7) その他

本報告書「3.これまでの指摘事項への対応状況」の項目に関しては、引き続き、業種における対応、日本経団連としての検討を期待したい。
地球温暖化対策という観点からは、CO2排出が削減されたかどうかのみが注目される傾向にある。しかし、実際には、廃棄物リサイクルの推進によってCO2排出が増加してしまうなど、業種・企業レベルでは3R(Reduce, Reuse, Recycle)と温暖化対策は相反する場合がある。資源のリサイクル、リユースによるCO2排出や原単位への影響に関する情報、分析を蓄積し、今後の検討課題としていく必要がある。

5.ポスト京都議定書における温暖化対策のあり方

(1) 費用対効果に関する考え方

現在、ポスト京都議定書に関し、わが国の中期目標が検討され、複数の経済モデルによるシミュレーションが行われている。わが国の削減ポテンシャルが少ないこと、わが国が他国と同等のCO2排出量の削減を行うためには、より多くの負担が必要になることがデータで示されているところである。
産業のエネルギー効率については、産業構造やバウンダリーの違いによって比較結果は異なるものの、わが国の主要産業は世界でトップレベルにあることがIEA(国際エネルギー機関)、RITE(地球環境産業技術研究機構)などの研究機関の調査によって示されている。国際比較は、自主行動計画における努力や成果を示すうえで非常に重要であり、引き続き、国際機関のデータ等を含めたデータの収集・分析に向けた業種レベルでの努力を期待したい。また、国内・国際に認知されるような分かりやすい情報発信も求められる。

(2) ポスト京都議定書における産業界の取り組みのあり方

日本経団連では、2009年2月に「ポスト京都議定書におけるわが国の中期目標に関する考え方」を公表し、その中で、産業界が今後とも世界最高のエネルギー効率の向上を目指し、地球規模での排出削減に積極的に取り組むこと、ポスト京都議定書の期間においても、行動計画を策定する決意を示している。
ポスト京都議定書の産業界の取り組みについては、温暖化対策の観点から、CO2排出総量が議論されることが多い。しかし、CO2排出総量は、少なくとも短期では、需要および生産活動量によって決定され、産業界が責任をもって取り組めるのは、特定の技術導入といったアクションや原単位の改善である。ポスト京都議定書の産業界の取り組みについては、こうした点も踏まえた柔軟な枠組を検討することが期待される。また、ポスト京都議定書における枠組は、先進国だけでなく、CO2排出量の大きい米国や新興国の参加・協力が不可欠であり、世界全体で削減に取り組むことが必要である。

6.あとがき

以上、今年度の自主行動計画について、フォローアップ調査結果の確認と今後の課題の指摘を行ってきたが、第三者評価委員会としては、全体として、今年度も順調に推移していると評価している。温暖化対策にあたって、わが国産業界が果たすべき役割は引き続き大きいため、各業界における継続的な取組みを期待している。また、企業活力を適切に引き出す仕組みづくりが必要である。

以上

第三者評価委員会 委員名簿

2008年12月5日現在
(順不同・敬称略)

委員長内山 洋司(筑波大学大学院 システム情報工学研究科教授)
委員青柳 雅(名古屋大学客員教授)
浅田 浄江(ウィメンズ・エナジー・ネットワーク(WEN) 代表)
麹谷 和也(グリーン購入ネットワーク 専務理事 事務局長)
真下 正樹(日本林業経営者協会 相談役)
松橋 隆治(東京大学大学院 新領域創成科学研究科教授)
吉岡 完治(慶應義塾大学 産業研究所教授)

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