わが国経済は、最悪期を脱しつつあるものの、いまだ自律的な回復過程に入っていない。景気の先行きはまだ予断を許さない状況にあり、大幅な需給ギャップの存在から、物価下落、資産デフレも懸念されている。
また、企業金融については、格付けの高い大企業の資金調達・資金繰りは一時期より改善しているが、それ以外の大企業や中小企業は厳しい状況が続いており、年度末に向けて、資金需要が高まる中、依然として不透明感が残っている。
こうした状況を踏まえると、経済危機からの脱却を図るために、財政面のみならず金融面での政策的な対応が求められるとともに、企業金融についても支援措置による下支えが引き続き重要な役割を果たすものと考える。
したがって、政府ならびに日本銀行は、内外の経済および金融市場の動向に細心の注意を払い、必要に応じて、企業金融支援措置を継続すべきである。
さらに、わが国経済が持続的な成長をしていく上で、経済危機から脱却した後の国民生活および経済活動を支える金融資本市場の望ましい姿を描いていくことが求められる。
こうした認識に立ち、当面行うべき対策ならびに中長期的に取り組むべき視点について、下記の通り、提言する。
内外の経済および金融市場の動向に細心の注意を払い、必要に応じて、機動的に、日本銀行によるCP・社債の買取り措置を再開すべきである。
あわせて、景気の自律的な回復が明らかになるまで、日本銀行による企業金融支援特別オペならびに日本政策投資銀行等による危機対応業務を継続すべきである。
景気が自律的な回復軌道に乗った後も、わが国金融資本市場の活性化、ひいては産業競争力の維持・強化に向けて取り組むべき課題は山積している。
日本経団連では、特に以下の視点に沿って、関係者との意見交換を行いながら検討を深め、今後より具体的な提案を取りまとめていく所存である。
グローバルな競争の激化、高齢化社会の進展の中で、国民が将来にわたって豊かな生活を実現していくためには、経済全体が持続的に成長することが不可欠であり、中長期的な成長戦略を描くことが求められる。
成長戦略の実現にあたっては、国民生活および経済活動を支える金融資本市場の活性化が不可欠である。
多様な投資家を育成して、わが国金融資産の効率的な運用を促すとともに、海外投資家からの資金を呼び込みながら、企業活動や地域経済の活性化、都市の再生やインフラ更新、生活の充実など幅広い資金需要に対して、金融面で対応できるようにすることが求められる。
あわせて、わが国金融資本市場の今後の一層の発展に向けては、香港、上海、シンガポールといったアジア地域の主要な金融資本市場の先頭に立ち、ニューヨーク、ロンドンに肩を並べるような国際競争力を有することにより、潜在的な成長力の大きいアジア諸国の資金需要に対応できるよう、税制・規制等の見直しを進めていく必要がある。
今回の金融危機では、社債・CPといった直接金融市場が機能不全に陥り、大企業も資金調達・資金繰りのため銀行借り入れに大きく頼らざるを得ない状況となった。企業の資金調達・資金繰りの一層の円滑化、わが国金融資本市場の活性化、ひいては産業競争力の維持・強化に向けて、資金調達手段の充実を図ることは極めて重要な課題である。
なお、米国金融機関の破綻に端を発した金融危機に対応して、現在、国際的な金融規制の強化が議論されているが、金融情勢が改善し、景気が自律的な回復軌道に乗るまでは、規制強化は行うべきではない。拙速な規制強化は、わが国企業の円滑な資金調達・資金繰りへの悪影響等を通じ、実体経済へのさらなる打撃を与えかねない。
また、今後の見直しの議論に際して、経済実態、会計・税制等の各種制度、金融・資本市場の成熟度、金融機関のビジネスモデル等にかかる各国の違いを十分考慮することにより、金融機関の貸出姿勢の過度な委縮、資本市場の過度のリスク回避を招き、景気変動を増幅することがないよう、留意すべきである。
政策金融に対しては、内外での超長期にわたる資源・エネルギー開発、国民生活や産業競争力の維持・強化のためのインフラ整備、自然災害に被災した地域や企業に対する復旧・復興支援、経済・金融危機対応時における円滑な資金供給といった分野での対応が期待されている。
特に、グローバル競争を勝ち抜くため、わが国企業による海外投融資(例えば、新エネ・省エネビジネスの海外展開、資源・エネルギーの開発など)については、政策金融面での更なる支援が必要である。
今後、政策金融に関して、
などの配慮をしつつ、活用していくことが求められる。