PFIのさらなる活用を求める

−行政の無駄削減と人に優しい行政サービスの提供に向けて−

2009年11月17日
(社)日本経済団体連合会

PFIのさらなる活用を求める(概要)
−行政の無駄削減と人に優しい行政サービスの提供に向けて−
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現在、わが国財政は、国・地方通じて約800兆円もの債務残高を抱えるなど危機的な状況にあるが、行政に対する住民のニーズが多様化するなか、行政サービスを縮減するにも限度がある。低コストで効率的に質の高い行政サービスを提供する手段が求められている。

PFI(Private Finance Initiative)は、公共施設の建設、運営などを民間事業者に委ねることで、民間事業者の能力や創意工夫を活用することにより、効率的で質の高いサービスの提供を可能とするものである。PFIを活用すれば、限られた予算を効率的に活用しつつ、行政サービス需要を満たし、雇用の維持を図ることができる。まさに新政権の目指す「新しい公共」の一つの柱となるものである。

わが国のPFIは、いわゆる施設整備型事業を中心に、病院や廃棄物処理施設などの運営重視型事業も実施され、多くの案件で成果を上げ、行政、利用者からも高い評価を受けている。ただ、英国などと比較して、わが国のPFIは、近年、件数が伸び悩んでいる。この背景には、要求水準の曖昧さ、選定基準の不透明性、業務要求水準に見合わない価格設定、民間への不適切なリスク移転、官民間の契約をめぐる解釈の相違、支援体制の不備など数多くの問題が指摘されているが、抜本的な対策が講じられることはなかった。そのため、民間事業者のPFIへの参加意欲は薄れつつあり、現状のままでは、PFIの拡大どころか先細りが危惧される状況にある。

行財政改革と民主導の経済社会運営の大きな柱として、PFIの拡大を図るためには、民間事業者の意見を十分踏まえつつ、民間の能力や創意工夫を発揮させるための魅力あるスキームを構築していく必要がある。こうした観点から新政権の今後の政策運営において、政治の強いリーダーシップにより、抜本的な制度改革が実現することを強く期待する。

1.PFIの意義・目的

(1) 公共サービスの質の向上と社会資本の効率的な整備

公共サービスの提供にあたって、民間の資金、優れた経営能力、技術力等を活用することで、国民の多様なニーズに対応したきめの細かい、かつ質の高いサービスを低コストで提供できる。国・地方が抱える厳しい財政状況に加え、戦後、整備された社会インフラの老朽化が進むなか、PFIは社会資本の効率的な整備、維持・管理、運営のための有効な手段となる。

(2) 民間の事業領域の拡大と経済活性化

これまで官が実施してきた事業を民間が担うことにより、民間の事業領域が拡大するとともに、PFIをめぐる事業者間の競争を通じてイノベーションが起これば、新たな事業や産業の創出も期待され、わが国経済全体の活性化につながる。また、わが国が世界に先駆け、幅広い公共サービスに対してPFIを活用し、ノウハウを蓄積することができれば、海外の官製市場に対して、優位性を持った形で参入することができる。

(3) 小さな政府、民主導の経済社会運営の実現

PFIに加え、官民競争入札、民営化、民間委託等さまざまな手法の活用により、公共サービスの民間開放が進むことにより、公共部門の業務や組織の改革を促し、小さな政府の実現と民主導の経済社会運営が可能となる。官は必要性の高い分野へ資源を集中して投入できるようになり、公共活動の効率化と質的向上が図られる。

(4) 地域活性化の実現

PFIは、地方自治体の実施する公共サービスの質的な向上と効率化に資するばかりか、地域の特性や住民のニーズを反映した行政サービスの実現、さらには行政サービスの地域間格差の是正にも寄与する。また、PFI事業に、多くの事業実績を持った企業とともに、地場企業が参加することによって、地域経済への大きな波及効果が見込めるとともに、地場企業が高度な技術・ノウハウを習得することによって、地域産業の競争力強化にもつながる。

2.政治のリーダーシップによるPFI活用の推進

このように大きな意義をもつPFIの活用を新政権が国の政策として明確に位置づけ、政治のリーダーシップを遺憾なく発揮して、以下のような方法によりPFI事業の拡大を主導すべきである。

(1) 強力な推進体制の構築

政府においては、内閣府が中心となってPFIに関する企画、立案等を行っている。しかし、現状では、わが国のPFIの司令塔たる強力な権限を持った組織であるとは言い難い。英国においては、財務省がPFIの政策全般に責任を持ち、国・地方等の全てのPFI事業の承認を行うとともに、財務省の関連機関がPFI事業のサポートを、会計検査院がPFI事業の監査を行うなど、政府に強力な推進体制が構築されている。わが国においても同様に政府・与党としてPFIを強力に推進するための組織的な対応を急ぐべきである。

(2) 地方自治体に対する支援

PFI事業は複雑で多岐にわたる高度な専門性が求められているにも関わらず、PFI事業を実務面でサポートする仕組みや体制がないため、PFIに乗り出せない自治体が多い。既にPFIを手掛けていても、PFIの実施に必要な実務知識が十分でないため、期待した効果を得られていない自治体も多い。
英国では、PUK、4Psと呼ばれる公的なPFIの支援組織が中央・地方政府のPFI事業を手厚くサポートしており、PFIの拡大に大きく寄与している。
地方自治の原則を踏まえながら、地方自治体に対してPFIのノウハウの提供、案件の形成から運営に至る一連のプロセスの実務支援などを行う組織を設立するなど、PFIの案件創出や運営を支援する体制を構築すべきである。

(3) 箱モノから運営重視型、新たな分野への拡大

わが国のPFIは施設整備型の事業が中心であり、運営・管理を業務の主体とする運営重視型の事業の件数はわずかに留まっている。しかし、運営重視型の事業は事業者の創意工夫を活かす可能性が大きく、本来、PFIがもっと活用されてよいはずである。現在、行政が担う事業においても、運営重視型のPFIを活用しうる余地は大きい。運営重視型の事業を内容、件数ともに拡大することによって、これまでPFI事業に参加していない多くの事業者の参加を促し、斬新で質の高いサービスが提供される可能性も秘められている。わが国が持続的な発展を遂げる上での重要課題である、地球環境問題、少子高齢化への対応、安心・安全の確保、成長産業の育成、エコ・コンパクトシティの形成なども、現在、公共が担うさまざまな事業・サービスへのPFIの導入が解決の大きな突破口となりうる。運営重視型の事業におけるPFIのさらなる活用を進めるとともに、福祉、防災、環境・省エネ分野など新たな分野にPFIを導入すべきである。

(4) 規制改革・民間開放の推進

真に国民のためになり、無駄のない行政サービスを提供していくためには、現在、行政が担っている事業をゼロベースで見直し、国・地方自治体・民間の果たすべき役割について、再定義を行う必要がある。
行政刷新会議において、従来、公共部門が担ってきた全ての業務・サービスを洗い出し、民間が担った場合と、公共部門が担った場合とを比較し、前者が費用、効果、受益者の効用等において勝る場合には民間が実施することとすべきである。その上で、民間が実施すべきとされた事業については、事業の性質等に応じて、PFI、官民競争入札、民間委託など最適な手法を採用すべきである。
あわせて、PFI制度をさらに積極的に活用するためには、PFIの促進を阻害する法律・政省令・条例等の見直しを行う必要がある。

3.制度の再構築 〜従来型公共事業からの脱却

PFI法から入札方法、契約の形態に至るまで、わが国のPFI法制度は、上意下達的かつ硬直的な従来の公共事業の発想、枠組みが根底にある。これでは、「国や地方公共団体の民間事業者に対する関与を必要最小限のものとすることにより民間事業者の技術、経営資源、創意工夫等を十分に発揮する」というPFIの目指す理念を達成することは困難である。PFIのさらなる活用を図るためには、従来の公共事業的な考え方から脱却し、以下の点に留意して、PFI本来の趣旨に即した制度を再構築する必要がある。

(1) 官民の対等なパートナーシップ

PFIは官民の協働事業であり、十分な効果を上げるためには、官民が対等な立場で事業の実施にあたる必要がある。しかし、実際には、従来の公共工事・公共調達に由来する上意下達的な発想から抜け切れず、官民が対等な立場にあるとは言い難い面が多い。仮に、発注者と事業者間で対立が生じた場合、現状では公平で中立的な裁定を下す仕組みがないため、発注者側の一方的な措置が民間事業者の参加意欲を喪失させる要因となっている。
官民間で十分に意思疎通を図り、両者の合意の下に事業を進めることが重要であり、専ら一方が意思決定を行うようなことは避けなければならない。契約や事業運営において、真に双務的な関係を構築できるよう、PFI法をはじめ、関係諸制度の抜本的な見直しが必要である。
あわせて、発注者と事業者の間で、事業者選定から事業開始後に至るあらゆる場面で生じる意見の相違を迅速に調整し、双方が納得できる公平な結論を導き出すため、専門知識を備えた中立的な第三者が裁定を行う仕組みを構築すべきである。

(2) 民間の創意工夫が活かせる仕組み

現在のPFIは、従来の行政主導型の国家運営を前提に定められている法制度を基に制度設計がなされているため、PFIの根幹ともいえる民間の創意工夫の発揮を妨げる大きな壁がある。PFIの拡大には、こうした従来型の法制度を抜本的に見直すことが必要となる。
第1に、PFIの進展に伴い、事業内容が複雑になっているが、発注者側にノウハウの蓄積が十分でなく、民間の知見がなければ要求水準や契約内容に事業の運営内容を十分規定できない事業もでてきている。しかし、現行制度の下では官民間で十分かつ円滑な意思疎通を図り、要求水準をつくり上げていくことは難しい。そのため、民間側が必要な情報を得られず優れた提案をしようにもできず、発注者側も意図したサービスの提供を受けることができない。英国では、官民が業務仕様や契約条件を綿密に話し合い、明確化し、事業の円滑な遂行につなげている。
第2に、事業者の選定の過程で、欧州等では一般的な、複数段階にわたる入札参加事業者の絞り込みがなされない。そのため、入札に係る事業者のコスト負担が嵩むとともに、落札できなかった場合の損失も大きい。
第3に、政府が発注するPFIでは、予算決算及び会計令により、予定価格が原則として非公開となっている。また、会計法や地方自治法により、入札価格が予定価格を上回る場合は、提案内容が優れていても失格となる。そもそも現行制度では、発注者と受注者が十分な対話をできないため、事業者が発注者の設定する予定価格の範囲内に収めることは極めて難しい。
発注者と事業者が詳細な業務内容、契約条件について、対話、交渉しながら、事業者が提案を行い、それを基に段階的に優良な事業者が絞り込まれていくような多段階選抜・競争的対話方式の本格的な導入を、PFI関係法令の改正により可能にすべきである。また、PFIにおいて高度で優れた提案が正当に評価、採用されるためには、発注者と事業者の対話を通じて予定価格を弾力的に運用するようにすべきである。

(3) 発注者・事業者間の適正なリスク分担

現状のPFI事業では、事業者がコントロールできない不可抗力によるリスクや、裁量権がない業務の事業リスクなどを発注者が事業者に負担させる事例がみられる。事業者側に過度にリスクを負担させれば、リスク回避のためのコストが上乗せされ、事業全体のコスト上昇につながる。さらに民間のリスク負担能力を超えれば、事業として成立しないことにもなりかねない。
発注者と事業者間のリスク分担については、当該リスクを最も安い費用でコントロールできる主体が担うという原則に基づき、契約上適切かつ公平、公正な形で位置付けるべきである。

おわりに

今、まさにわが国のPFIは、今後の針路を左右する大きな過渡期にある。ここで適切な処方を講じなければ、早晩、わが国のPFIは失敗に終わるという危機感を持つ必要がある。新政権の下で、制度の抜本的な見直しが図られ、豊かな未来社会の構築にPFIが大きく貢献することを期待する。

以上

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