国際海上コンテナの安全輸送と物流円滑化に向けて

2010年2月16日
(社)日本経済団体連合会

国際海上コンテナの安全輸送と物流円滑化に向けて(概要) <PDF>

世界の物流は大きく変化し、わが国は国際物流拠点としての地位を失っている。かかる状況を放置すれば、国としての競争力そのものを失いかねない。この意味で、新政権が国際物流ネットワークにおけるわが国港湾・空港の競争力強化を優先政策課題に位置づけたことは時宜を得た対応である。

加えて政府は、国内におけるコンテナ輸送の安全確保に関する制度的枠組みの強化にも取り組みはじめている。この取り組みは、国民のライフラインともいうべきサプライチェーンの現場に新たな角度から光を当てるものである。安全運送は競争力の重要な要素であり、関係者が総力を挙げて事故ゼロを目指した活動に取り組まなければならない。

安全確保の新たな制度的枠組みの整備において留意すべきは、競争力強化との両立である。安全を軽視した競争力強化策が意味を持たないのと同様に、競争力を考慮しない安全確保策は持続可能性を欠き、結果としてわが国の成長戦略を阻害するものとなる。今後採るべきは、事故原因を徹底的に究明し、真に安全性の向上に寄与する効果的な対策を講じることである。

かかる観点から、今次の安全確保に関する制度的枠組みの検討にあたっては、下記により対応すべきであると考える。

1.経団連としての取り組み

国内物流の安全性に関して、経団連は物流・流通事業者から製造業者に至るサプライチェーンを網羅する総合経済団体の立場から、かねてよりトラック事業に関する適正事業評価や優良事業所制度の普及に尽力するなど、物流事業者と輸送を依頼する者とのパートナーシップ強化や安全輸送の確立に努めてきた。

こうした活動をさらに強化するため、経団連は政府の今次制度的枠組みの検討に協力しつつ、運輸・流通委員会を中心に、改めて国際物流の現場でコンテナ輸送を担うトラック事業者、海貨事業者、港運事業者、フォワーダー、船社、商社、小売業者、製造業者などによる情報交換と相互理解のため、以下の活動を行う。

  1. (1)関係企業とその従業員が業種横断的に一丸となってサプライチェーンを支えていることを再確認し、関係者の役割と現状について十分に話し合い相互理解を深める。これにより、関係者が他の事業者に責任転嫁することなく自らの責任と役割を最大限に果たし、真の意味で、コンテナ輸送の安全確保を協力して行えるような体制づくりをめざす。

  2. (2)その際、特にトラック事業者・運転者から繰り返し問題提起されているように、運転者が結果的に無理な運転をせざるをえなくなるという事例があることも勘案し、法令を遵守して安全に輸送業務が行える環境を整えることが急務である。民間事業者としては、輸送を依頼する事業者を含むすべての関係者の安全対策に対する意識改革を早急に進め、各々対応可能なものから取り組むことについて合意を形成する。
    その一環として、平成15年10月に会員の荷主企業を対象として策定した「安全運送に関する荷主としての行動指針」をさらに徹底していく。

2.当面の安全対策強化に向けた提案

  1. (1)コンテナ輸送の特性に鑑みれば、通常の法定速度に加え、コンテナの安全輸送を保証する速度制限を導入することは事故防止に向けたひとつの解決策となりうる。また、コンテナヤードを出る際に安全ロックの確認を行う手順を導入することも有効である。加えて、すべての運転者に対して、車両の特性や運転時の心構え等につき十分な教育を徹底することが求められる。なお、運転者の教育訓練については、すでに関係業界を中心に「選ばれるトラック事業者」をめざし積極的な啓蒙活動が展開されていることから、経団連としてもこれを支援していく。

  2. (2)コンテナの過積載や偏荷重を発見するための方策として、疑義のあるコンテナについて他のコンテナの円滑な輸送を阻害することなく重量を計測できるよう、しかるべき場所に計測器を設置することで安全を確保する体制を構築すべきである。このため、政府において必要な予算措置を構ずるべきである。

  3. (3)輸入コンテナにおいては、国内の事業者にのみ責任を負わせる制度では安全の確保につながらない。政府は諸外国に対し、国際的ルールの策定等に向けた働きかけを行うべきである。

  4. (4)上記を含め、最新の技術により安全を確保する方策について関係者間で研究と実証実験を重ねるべきである。

3.法案骨子に対する考え方

  1. (1)コンテナ情報の伝達義務化とそれにともなう罰則規定の導入といった措置と安全確保との間に合理的な因果関係が認められない。上記2.に示した措置を含め、物流全体を考慮した安全確保措置を講ずべきである。

  2. (2)積付け状況の伝達を義務化した場合、すべての輸入コンテナを日本到着後にコンテナヤードで開封して荷姿等を確認することにつながるため、国際物流の大混乱を招く。また、サプライチェーンが国際競争力の源泉そのものであることを考えると、日本だけがコンテナヤードでの開封確認を行うことになれば、わが国港湾の国際競争力強化を目指す政策の遂行に重大な阻害要因となる。加えて、安全に積み付けされているコンテナやコンプライアンスが優良な荷主のコンテナについても対応が求められるため、効果が不明な対策に膨大なコストをかけることとなり、国全体としての競争力を削ぐことにもつながりかねないことに十分留意すべきである。

  3. (3)情報提供と事故減少との間に合理的な因果関係が認められない状況で法案骨子に罰則規定を設けたことが、今、最も求められている関係事業者間での相互理解の増進や協力体制の強化を阻害することにつながっている。現状において安全確保という目的達成の阻害要因となっていることから、当面、罰則規定の導入は見送るべきである。

以上

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